昭和61年版 通信白書

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1 高度情報社会への移行と人材

 情報化の進展に伴い,我が国の社会経済においては,情報通信に関連する産業部門の拡大等の構造変化が生じている。このような変化は,我が国の今後の国民経済,国民生活に大きな影響を及ぼすことになる。
 また,多種多様な通信事業者の出現と通信サービス・端末機器市場の拡大,通信システムの構築に対するニーズの高度化・多様化等,企業を取り巻く環境にも変化が生じている。
 さらに,通信の高度化を実現するため,通信関連技術の研究開発が推進されている。
 高度情報社会への移行に当たっては,情報化の進展や電気通信の自由化がもたらす社会経済構造や企業環境の変化と通信関連技術の進展に即応し得る高度な能力をもつ人材の育成がますます重要になる。

 (1)通信関連事業体における人材育成の促進

 通信に関連する事業体においては,経営・管理,技術,営業等の分野に従事する者が必要であり,これを網羅的に図示すると第3-3-1図のとおりとなる。
 経営・管理に従事する者については,情報化の進展がもたらす企業環境の様々な変化に対応し,通信市場の動向等を見極めた上で,効率的な経営や活動領域の拡大・縮小,事業の撤退等の意思決定を適切に行うことが最も強く求められる。
 研究開発に従事する者については,シーズの開拓のみならず,利用者ニーズに合致した高度で多様な通信サービスや機器を提供するための技術開発を積極的に推進していくことが必要である。
 建設・製造に従事する者については,製品のライフ・サイクルが短くなっていることに伴い,急速な変化に耐え得る良質な通信設備や機器の建設・製造を推進し,利用者二-ズに適切にこたえていくことが必要である。
 運用・保守に従事する者については,高度化・多様化する通信設備や機器に対応して,組織内訓練等を通じ,その質的能力を高めていくことが必要である。
 営業に従事する者については,通信関連技術の急速な進展に伴い,営業と技術の両分野の知識を総合的に有するセールス・エンジニア的な能力を養っていくことが必要である。

 (2)通信関連技術者の育成

 通信の高度化のためには,通信関連技術の研究開発を強化するとともに,研究開発に従事し,その成果を十分に利活用し得る人材を育成していくことが重要である。
 ここで,現在,我が国の研究機関が研究開発を進めている電気通信関連技術の研究開発水準を取りまとめると第3-3-2図のとおりである。これによれば,交換技術,光伝送技術等に関しては,我が国が最先進国としての評価が高いが,ソフトウェア言語,ソフトウェア工学,セキュリティー技術等に関してはその評価が低くなっている。これは,我が国のソフトウェア系の技術が,先進諸国と比べて遅れていることを示している。
 最近の急速なディジタル化の進展やデータ通信サービスの普及は,従来と比べ,ハードウェアを実際に機能させるプログラミング等のソフトウェアに対する需要を格段に増大させている。このため,今後はソフトウェア関連分野の技術開発を強化するとともに,その研究開発を支える人材を育成していくことが必要である。
 また,今日の高度な通信ネットワークにおいては,ハードウェアとソフトウェアとが密接不可分となっている。これは,企業等が通信ネットワークを構築する場合,ハードウェア部分を企画・設計する段階において,ソフトウェアに対しても十分考慮することが必要であることを示している。このため,今後は,ハードウェアとソフトウェアの両分野にわたる知識・ノウハウを有した人材の育成が必要である。
 さらに,電気通信技術とコンピュータ技術の急速な進展に伴い,コンピュータを通信回線に接続したデータ通信サービスが急速に発展してきている。このため,今後は,電気通信技術やコンピュータ技術を個々に理解し得るだけでなく、VAN等の高度な通信ネットワークを実現する通信処理技術に関する知識をも有する人材がますます必要となってこよう。
 他方,通信の高度化に当たっては,技術偏重のあまり人間性が疎外されぬよう,通信と人間との調和が確保されることが重要である。このため,今後も,人間性重視の観点から,端末技術等のマンマシンインタフェース技術の研究開発を強化するとともに,人間工学等の分野の知識を有する人材の育成が必要である。
 61年9月に設立が許可された(財)情報通信技術研修センターは,今後,情報通信関連技術の分野における人材の育成とその資質の向上に大きく貢献することが期待される。

 (3)情報化の進展と社会科学的研究の推進

 通信は,情報化の進展に多大な貢献を行っており,情報化の進展がもたらす社会・経済構造上の変化に適切に対応するためには,情報化の実態とともに,通信の動向等を正確に把握することが必要である。
 しかしながら,従来,マス・コミュニケーションに関する研究については,ある程度の研究が行われてきたが,パーソナル・コミュニケーションを含めた通信に関する社会科学的な観点に立った研究活動は極めて少ない現状にある。
 このため,今後はパーソナル・コミュニケーションを含めた通信に関して,社会科学的な研究を幅広く行っていく必要がある。

第3-3-1図 通信関連事業体に必要とされる人材

 

第3-3-2図 電気通信関連技術の研究開発水準

 

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