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第2章 新世紀型の社会資本整備 − 効果と効率の追求

 我が国の諸制度は、戦後、非常によく機能し、高度成長を支えてきた。しかし、現在ではそれがややもすれば非効率な(すなわち費用に見合う効果を生まない)事業等を生む仕組みになってしまっている。近年、経済の力強さが失われてきた大きな要因は、こうした非効率な部分が拡大してきたことだと考える。社会資本整備、社会保障、国と地方の関係を扱っている第2〜4章は、こうした問題意識を踏まえ、具体的に改革の方向を検討している。

1.新世紀型の社会資本整備に向けて

(1) 公共投資の問題点 − 硬直性、依存体質を生む仕組み、投資規模等

 社会資本1は国民生活や経済活動に不可欠のものである。戦後の活発な公共投資により、国民の安全や利便性は飛躍的に向上し、また、経済発展を支える基盤もつくられた。しかし、昨今、我が国の公共投資には、「ムダがある」、「高コストである」、「止める仕組みがない」といった批判が多く寄せられている。

 現在も、国民生活にとって必要不可欠な公共投資は多数ある。しかし、分野別の配分の硬直性や、事業によっては国主導で「全国画一的な施設」などを生む仕組み、受益者による費用の負担が極めて少ない制度の下で、ややもすると、必要性の低い公共投資までが行われがちであるなど今後改善すべき点は多い。

 さらに、現下の厳しい財政状況や、国民経済に占める割合でみて我が国の公共投資の規模が欧米諸国などに比べ非常に高いこと等を考えれば、投資規模についても見直しが必要となっている。


1 社会資本は、市場メカニズムが円滑に機能するように「市場の失敗」を是正し、社会の安定を実現するために必要な「資本」である。具体的には、大気、水、緑、土壌など自然環境、道路、交通、水道など社会的インフラストラクチャー、司法、教育など制度資本から成る。このように、社会資本は、単に公共投資などハードだけではなくソフトも含めた広い概念である。


(2) 明確なビジョンに基づく抜本的な構造改革

 我が国は、明確なビジョンに基づき、公共投資の硬直性を打破し、豊かな国民生活や力強い経済活動の基盤となる、効果の大きい社会資本を最も効率的に整備する仕組みを確立しなければならない。そのために抜本的な構造改革に着手すべきである。また、公共投資の水準を経済や財政と整合性のとれたものとすることが必要である。

 公共事業を厳選することは、実は全ての日本人にとってプラスになる。真に必要な公共投資へ集中することにより、国民の充足感は高まり、日本経済の生産性も向上する。同時に、そうした公共投資は、生活様式の選択肢を多様化するとともに、新たなビジネス・チャンスを創造することを通じ、従来以上に多くの民間の消費や投資を生みだすことが期待される(クラウディング・イン)。

2.硬直性の打破

(1) 分野別の配分などに硬直性をもたらしている特定財源等の仕組の見直し

(i) 道路等の「特定財源」について、税収を、対応する特定の公共サービスに要する費用の財源に充てることが、一定の合理性を持ちうるとしても、他方、そのような税収の使途を特定することは、資源の適正な配分を歪め、財政の硬直化を招く傾向があることから、そのあり方を見直す。

(ii) 「公共事業」、「非公共事業」という区分にとらわれた予算配分を改め、総合的な見地から政策目標に合致した予算編成を行う。

(iii) 地域間の予算配分が合理的なものとなるよう弾力的な配分を行う。

(2) 公共投資基本計画や分野毎に作成される長期計画など公共事業関係の「計画」は、事業の着実な推進を支えている面もあるが、他方、資源配分を硬直的なものとし、経済動向や財政事情を迅速に事業へ反映することを困難にしている面がある。こうした点を踏まえ、「計画」について以下の諸点や必要性そのものを含め見直しを行う。

(i) 各計画の目標については、アウトカム目標を重視するとともに、これまでの整備状況や経済社会の変化、費用対効果の観点等を踏まえて見直す。

(ii) 整備が相当程度に進んだことなどに鑑み、例えば、実質的な着手に至っていない大規模公共事業については、改めて費用対効果や実施可能性を厳しく検証した上で、実施の当否などを判断する。また、代替手段のあるものについては、費用対効果の観点から最も適切なものを選択する。

(iii) 巨額の赤字を生んでいるプロジェクトの存在に鑑み、特殊法人等が借入金等で実施する公共事業については、経済社会の変化等を踏まえ、採算性を厳しく検証するとともに、情報開示を進め、将来の国民負担につながらないようにする。

(iv) 地方が主体的に決定すべき地方単独事業は、国の各種公共事業関係計画の目標とは位置付けない。

(v) 異なる分野の計画間の整合性を確保する。

(3) ハードからソフトへの政策手段の転換

 政策目的に照らし、公共事業(ハード)以外のより適切な政策対応(ソフト=例えば、民間主導で生産性を向上させるための制度の整備など)がないか事前に十分審査する必要がある。例えば、農業については、食料の安定供給、自然環境の保全等を目指した構造改革が喫緊の課題となっている。こうした農業政策の目的に照らし、費用対効果の観点を踏まえ、公共事業から公共事業以外の政策手段へシフトしていくことが必要である。

 また、雇用確保等のためには、重点を公共事業からより適切かつ効果的な政策(雇用促進策等)へ移していくべきである。

3.事業主体としての国と地方

(1) 「国土の均衡ある発展」は、本来、地域の個性を活かした考え方であるが、現実には、これまでややもすれば、全国どこに行っても同じような特色のない地域が形成されがちであった。個性と活力のある「地方」の構築を目指して、国の関与する事業は限定し、地方の主体性を生かした社会資本整備に転換していく。

(2) 受益者の負担が少ない構造が公共事業への依存体質を生む一因となり、必要性の低い事業を生んでいる。

(i) 特定の事業について、地方債の発行を許可してその償還費を後年度に交付税措置する仕組み等は、地方が自分で効果的な事業を選択し、効率的に行っていこうという意欲を損なっている面がある。地方主導に改めるため、こうした資源配分の仕組みを縮小し、自らの選択と財源で効果的に推進する方向で見直していくべきである。

(ii) また、公共事業について受益と負担のバランスを見直し、適正な受益者負担等を求める。

4.重点的に推進すべき分野

 社会資本整備(冒頭で述べた広義の社会資本)の見直しを進め、真に必要とされる社会資本を重点的に整備していくことが重要である。その際、民間の潜在的な消費や投資を顕在化させる環境づくり(クラウディング・イン)、ハードとソフトの適切な組合せといった視点等が重要である。具体的には以下の分野を重点的に推進すべきである。その際、これらの分野に共通する重要課題として、「e−Japan重点計画」に基づき、重点的かつ戦略的にIT施策を推進する。

(1) 循環型経済社会の構築など環境問題への対応

(2) バリアフリーなど高齢化への対応

(3) 地方の個性ある活性化、まちづくり

(4) 都市の再生−都市の魅力と国際競争力

(5) 科学技術の振興

(6) 人材育成、教育

5.効率性/透明性の追求

 これまで費用対効果分析が不十分であったことなどが、非効率な公共事業を生む一因となってきた。今後は事前事後の事業評価を反映した厳格な事業の選択、PFIの活用、執行段階における競争促進やコスト縮減、電子入札の拡大などを強力に進める。

(1) 事業評価

・経済社会状況の変化等により費用対効果の低下した事業を改めて見直すルールづくり、第三者による評価内容のチェックと資料・データの公開、事前評価に当たっては同種事業の事後評価の結果を踏まえて行うなどの改善が必要である。

・ライフサイクル全体の費用対効果を評価する。

(2) 官民の役割分担

・建設、維持、管理、運営それぞれについて、可能なものは民間に任せることを基本にする。国及び地方公共団体等の事業にPFI事業の活用を進める。

(3) 関連事業間の総合的調整・実施

・目的が類似する社会資本については、計画の段階できちんと調整を行い、重複的な投資を防ぐ仕組みを作る。

(4) 事業の発注・実施手続

・公共事業のコストを縮減する。

・競争政策を強化する。

・電子入札を拡大する。

・住民が求める社会資本を可能な限り早期に整備するため、住民参加型の手法を活用し、事業が認定された後は関連する手続きの迅速化を図る。

(5) 時間管理

・工事に長期間を要することによる金利コストを十分認識し、多数の事業を長期間にわたり並行的に進めるのではなく、事業を絞り、短期間で迅速に実施する。

・費用対効果も考え、工期短縮効果の高い技術を活用する。

(6) 既存ストックの有効活用

・既存ストックの有効活用を図るため、他の用途への転用、IT等を活用したストックの適正な管理等を推進する必要がある。

6.経済・財政との整合性

 我が国の公共投資が経済に占める比率は国土条件や整備水準が低かったことなどから、主要先進国に比べ極めて高い水準にある。既に述べた計画の整備目標の見直し、公共事業への依存体質を生み易い制度の是正、さらにはコストの削減等を通じて、主要先進国の水準も参考としつつ公共投資の対GDP比を中期的に引き下げていく必要がある。


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