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第4章 個性ある地方の競争 − 自立した国・地方関係の確立

1.地方の潜在力の発揮

(1) 国の過度の関与と地方の個性の喪失

 国・地方の間では、地方自治と言いつつ、ローカルな公共事業にまで国が実態的には関与している。また、教育や社会保障についても、国が仕組みや基準を決めて、地方自治体は苦労しながらその実施にあたっている。国は、こうした関与に応じて、補助金や地方交付税によりその財源を手当てし、全国的に一律の行政サービスが提供されてきた。

 しかし、こうした仕組みは、一方で、地方自治体が独自に地域の発展に取り組む意欲を弱め、地方は中央に陳情することが合理的な行動ということになりがちである。また、国の非効率が地方の非効率につながる仕組みである。その結果、全国で同じような街並みや公民館ができ、個性が失われ、効果の乏しい事業までが実施されるという弊害も見受けられる。

(2) 国・地方の財政規模の拡大と財政赤字の膨張

 さらに、こうした仕組みの下では、歳出の抑止力が働きにくく、結果として、国も地方も、政府の規模がふくらみ、財政赤字に苦しむという悩みをかかえている。

(3) 地方が潜在力を自由に発揮できる仕組みに

 自立した地方が、それぞれの多様な個性と創造性を十分に発揮し、互いに競争していく中で経済社会の活力を引き出す新たな国と地方の姿を描き、その実現に向けて、国と地方にかかる制度の抜本的な改革が必要である。

2.個性と自律

(1) 「個性ある地域の発展」「知恵と工夫の競争による活性化」へ

 これまで「均衡ある発展」が重視されてきた。今後は、「均衡ある発展」の本来の考え方を活かすためにも、「個性ある地域の発展」「知恵と工夫の競争による活性化」を重視する方向へと転換していくことが求められる。国が地方に対して、広範な関与をすると同時に、その財源も手当てし、画一的な行政サービスを確保する時代から、次の時代へと歩を進めていくべきである。

(2) 「自助と自律の精神」−自らの判断と財源による魅力ある地域づくり

 今後は、国と地方が互いに関与・依存しあう仕組みを改め、「自助と自律の精神」のもとで、各自治体が自らの判断と財源で、行政サービスや地域づくりに取り組める仕組みに是正する必要がある。

3.自立し得る自治体

 自助と自律に基づく新たな国・地方の関係の実現には、まず、受け皿となる自治体の行財政基盤の拡充と自立能力の向上を促し、国に依存しなくても「自立し得る自治体」を確立しなければならない。

(1) すみやかな市町村の再編を

 市町村合併や広域行政をより強力に促進し、目途を立てすみやかな市町村の再編を促す。

(2) 規模等に応じて市町村の責任を

 人口数千の団体と数十万の団体が同じように行政サービスを担うという仕組みを見直し、団体規模等に応じて仕事や責任を変える仕組みをさらに検討する。(例えば、人口30万以上の自治体には一層の仕事と責任を付与、小規模町村の場合は仕事と責任を小さくし、都道府県などが肩代わり等)

4.地方の自律的判断の確立

(1) 行政サービスの権限を住民に近い場に

(i) 国が地方に関与・要請するのは、国が国民に最低限保障すべき行政サービス水準に関するものや、便益が地域に限定されず全国的、広域的に及ぶもの、効率性等の観点から全国統一的に定めることが望ましい国民の諸活動等に関する準則に関するものに限定する。

(ii) (i)により設定する基準などについても、地方が独自性をより発揮できるようにするとの観点に立って、その水準の抜本的な見直しを行う。

(2) 受益と負担の関係の明確化

 地域に必要なサービスを住民が負担との見合いで自主的に選択し得る仕組みが、地方自治の前提であり、自助と自律の精神がこれから生まれる。こうした観点から、

(i) 国庫補助負担金を、全国的、広域的に便益が及ぶものや、国が国民に最低限保障すべき行政サービス水準の維持達成など国の負担が特に必要なものに限定する。

(ii) 国が地方に要請する仕事の洗い直し・縮小に応じて、補助金や地方交付税、あるいは地方財政計画により財源を手当てする歳出の範囲・水準を縮小する。このことは、地方が自由に独自の行政サービスを選択し提供する範囲が増えるということである。

5.地方財政にかかる制度の抜本改革

(1) 自らの選択と財源で効果的に施策を推進する方向に

 事業の採否を検討する場合、地方が自らの財源を充てるのであれば、その事業に要する費用と効果を比べて事業を採択することになる。しかし、現在は、特定の事業の地方負担を交付税で措置する仕組み(地方債の償還費を後年度に交付税措置する仕組み等)と補助金の組合せによって、事業費の大半が賄えることも多い。そのため、地方の実質的負担が少ない事業にインセンティブを与え、地方が自分で効果的な事業を選択し、効率的に行っていこうという意欲を損なっている面がある。こうした地方の負担意識を薄める仕組みを縮小し、自らの選択と財源で効果的に施策を推進する方向に見直していくべきである。

 また、段階補正(団体の規模に応じた交付税の配分の調整)が、合理化や効率化への意欲を弱めることにならないよう、その見直しを図るべきである。

(2) 地方交付税を客観的基準で調整する簡素な仕組みに

 地域間には、経済力・財政力に大きな差がある。したがって、上記のような見直しを行う一方、財政力の低い自治体が自主的な歳出が行えるように交付税を交付することが必要である。今後、国の関与の廃止・縮小に対応して、できるだけ客観的かつ単純な基準で交付額を決定するような簡素な仕組みにしていくべきである。

(3) 地方税の充実確保

 地方の自律性を高めるためには、地方行財政の効率化を前提に、自らの判断で使える財源を中心とした「自助と自律」にふさわしい歳入基盤を確立することが重要である。そうした観点から、地方税を充実確保することとし、国と地方の役割分担の見直しを踏まえつつ、国庫補助負担金の整理合理化や地方交付税のあり方の見直しとともに、税源移譲を含め国と地方の税源配分について根本から見直しそのあり方を検討する。その際、国・地方それぞれの財政事情や個々の自治体に与える影響等を踏まえる必要がある。

 また、地方税収の基盤となる経済力の発展や、サービス水準と負担を考えた税の水準について、各自治体の自主的な判断や努力が望まれる。

 また、法人事業税の外形標準課税については、中小法人の取扱い、雇用への影響の問題等これまでの検討経緯を踏まえつつ、各方面の意見を聴きながら課税の仕組み等についてさらに検討を深め、景気の状況等も勘案して導入を図る。

6.地方財政の健全化への取組み

 以上のような制度改革は、住民各人や各自治体の努力を促し、それが国全体の発展につながるという仕組みを作っていくうえで、避けて通ることの出来ない重要な問題である。地方財政計画の一般歳出は、90年代に、国と地方を通じた景気対策の要請もあって、GDPに対する比率で見ても増大している。今後、経済財政全体のバランスも考慮して、地方の自律性向上や、国や自治体が国民や住民に最低限保障すべき行政サービス水準の見直し、及び効率化の観点などの改革とあわせ、地方の歳出の水準・内容の見直しを、国の財政健全化と歩調を合わせつつ行うべきである。

 この場合、「14年度の国債発行を30兆円以下とすることを目標とし、歳出を徹底的に見直す」としている国の財政健全化への取組みと同様に、地方財政計画の歳出を徹底的に見直したうえで、所要の財源を確保して、地方財政の健全化を図る。

 また、その後も、プライマリーバランスを黒字にすることを次の目標とする国の財政再建への取組みと歩を一にして、地方財政の健全化を進める。


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