株式会社リチャージ
プログラミング教育を通じて、離島でのメンター育成を継続的に育成できる仕組みの構築とサテライトオフィス企業職員の活用方法やICT利活用による離島・へき地教育の格差解消の方法、児童生徒へは、21世紀型グローバルスキルの向上を目指す。
実証モデルとしては、地域人材の活用も視野に入れており教育課程外を意識している。
現在、国内の沖縄本島以外の島部では、実験・研究施設のみの場合を除くと、大学生が恒常的にいる地域はほとんどなく、プログラミング教育のメンター候補者を見つけるのが困難な状況にある。
宮古島市では、国内のみならずアジア等からの観光客が増大する中で、地域活性化に向けた地元資源の有効活用と情報発信が必要となっているが、ICT有スキル者は少ないうえ、高校や中学校の卒業時には地元を離れる若者も多く、6次産業化や地元の魅力発信の担い手が十分いる状況とは言えない。
近い将来、プログラミング教育を島全体の児童・生徒を対象に展開していくためには、島の中で実践可能なエコシステムが必要である。
本取組では情報や機械等の工業系教育を行っている高等学校と連携し、大学生向けに実績のあるメンター開発カリキュラムを高校生にチューニングして適用し、育成した高校生メンターを中心に小・中学生向けのプログラミング教育を実施するものである。
<メンター育成>
1 情報や機械等の工業系教育を行っている高等学校と連携し、プログラミングスキル、メンターに必要なコミュニケーション能力、ファシリテーション能力を高校生が習得する
2 高校生は身につけたスキルを活かし、小学生・中学生に指導する
初年度ということもあり、ライフイズテックに所属する指導経験のある約700名の大学生メンターの中から選抜してサポート役として配置することで、プログラミング教育だけではなく、小中学生との接し方や指導方法などについても高校生メンターをサポートすることで手厚い指導を実施する。また、普段接する機会の少ない大学生の姿を見て高校生にも成長してもらうことが期待できる。
<プログラミング講座>
「創造力」および「課題解決力」の醸成のために、「学校以外のコミュニティからの刺激(1、3)」および「技術力の習得(2)」を小学生・中学生に届ける。
1 ICT、プログラミングを好きになり、興味関心を持つ
2 プログラミングができた!という自信を持ち、作る技術を身につける
3 地元高校生への憧れを持ってもらい、継続的にプログラミングを学びたいと思えるきっかけとする
<メンター育成>
1 本事業終了後も、プログラミング教育企業のクラウド教材で自習、振り返りを実施する
2 本実証の結果を踏まえ、地元IT企業(リチャージやサテライトオフィス進出企業等)による
高校生メンター研修および小・中学生向けプログラミング講座の実施について、ポイントの可視化を行い、さらに教材使用/実施時の支援に関する調整を行う
<プログラミング講座>
1 本事業終了後も、クラウド教材(webブラウザ上での学びのツール)を使用し、継続的に学べる場を提供する
2 自らICTを学び続ける自走型の人材を育成する
本実証では、進めていくなかで当初提出した計画のうちメンター育成プログラムとそれに伴う教材について変更を行ったため、当初計画と実証内容および変更した背景について説明する。
1)計画(当初)
1 高校生
2 小・中学生
2)実際の実証内容
1 高校生
2 小・中学生
3)当初計画時から実際の実証を変更した背景
(高校生メンター育成プログラム)
当初は地域課題解決とプログラミングスキル獲得を目指したプログラムとしていた。宮古島市で継続的にメンターを育成することを展望し、メンターが次のメンターを育成できる仕組み作りを行う上で欠かせないスキル(コミュニケーション能力およびファシリテーション能力)も習得できるプログラムへ変更した。
(使用教材)
使用を予定していたオンライン教材は、メンターがいなくても学習者が自分自身でプログラミングを学ぶことが可能であることが2017年7月に検証された。
本事業では、メンターを育成し、プログラミング教育を継続的に宮古島市の小・中学生に提供できる仕組みの構築を目指していることから、メンター育成に重点を置き、メンターが指導することでしか提供できないプログラム(iPhoneアプリ開発)を宮古島市の小・中学生へ届けることとした。
本実証事業は、以下の図1に示す体制で実施した。
本事業を実施するにあたり、宮古島市教育委員会とともに実証校の選定を実施した。選定した各実証校に対して事前に教育委員会から本事業の主旨説明や参加依頼を行っていただき、その後、各学校長、担当教諭等に対して直接、株式会社リチャージからスケジュールやカリキュラムの内容、募集要項などの詳細を説明した。受講生の募集には、各学校から対象学年の全生徒に応募用紙を配布していただき、また担当教諭からも生徒たちに直接説明をしていただくなどで締切までに募集人数に達することができた。
<実証校>
1 下地中学校
総務省フューチャースクール実証校として全国に先駆けて生徒1人一台タブレットPC環境を整備。学校外を含むさまざまな学習活動におけるICT活用を実践し、先導的教育システム実証事業の検証協力校、文部科学省自治体応援事業実証校としてもICT活用に関する知見を深めている。生徒のICTスキル、関心が高く、宮古工業高校に進学して情報を学ぶ生徒も少なくない。プログラミング学習に関する今後の拠点ともなり得ると考えられるため実証校として選定した。
2 下地小学校
下地中学校と校地が隣接しており、ほぼ全ての児童が下地中学校に進学する。児童は下地中学校におけるICT活用の状況も知っており、ICTへの関心は高い。学校管理職は総務省フューチャースクール実証時に教育委員会に在籍し推進役を担った経験を有し、Google社の協力を得て学校内でのChromebookの活用検証を行っているところでもある。プログラミング学習の重要性も十分に理解しているため、児童への参加働きかけ等協力を得られることから実証校として選定した。
3 久松小学校
学区が下地小学校と隣接しており、島内でICT活用が進む久松中学校にほぼ全ての児童が進学することから、児童のICTへの関心は高まっているものと考えられる。また、移住により島内でも人口が増えている地区であり、ICT技術者等、今後のプログラミング学習を支える人材が確保しやすい条件を備えているため、実証校として選定した。
<教育委員会>
宮古島市教育委員会
本実証事業における実証校の選定や主旨説明などの事前調整を実施。
<他外部団体>
沖縄県立宮古工業高等学校
本実証における高校生メンターが在籍。
<参画企業>
1 株式会社リチャージ
当実証の全体統括担当企業。
宮古島市においてICTを活用した地域活性化のために、地元企業や人材と島外企業・人材との交流機会の創出による新しい地域のあり方とライフスタイルに関する取り組みを企画・サポートしている。先端のIT技術者やクリエイターを集めたイベントセミナーの開催や、スポーツイベントでのIT活用の提案と実施などにより島内人材の活性化に貢献しており、宮古島市の事業として、サテライトオフィス誘致活動やエコアイランドのブランディングなどの多数の受託実績がある。
2 ライフイズテック株式会社
中・高生向けプログラミングIT教育キャンプ・スクール運営会社。
これまで7年間Life is Tech ! プログラミングITキャンプを実施。延べ約27,000人の中・高生が受講。指導者である大学生(メンター)を延べ700名を全国で育成。
これまでも20自治体以上と連携し、地元での大学生育成や中・高生向けプログラミング講座を実施。
最近では、地理的・経済的による教育的格差をなくすためプログラミングをオンラインでも学べるシステムを開発し、オンラインシステム事業を実施。当実証では、豊富なメンター育成実績、島しょ地域での学習の可能性を考慮し、メンター育成・実証講座実施企業として選定することとした。
3 NTTラーニングシステムズ株式会社
企業を対象とした教育・研修事業にて培った教育・研修ノウハウと、NTTグループの地域学校現場・官公庁とのリレーションを活かし、文部科学省・総務省等、数々の実証事業に参画。総務省フューチャースクール実証事業・総務省先導教育システム実証事業においては、取りまとめ企業のひとつとして下地中学校および宮古島市教育委員会と協力した実績がある。また、リチャージとは総務省ドリームスクール実証事業にて連携した経験があり、今回の実証実施にあたっては豊富に有した知見をもとに、現場を考慮した適切な助言・協力を得るため、選定した。
高校生の学校スケジュールのため、授業への支障がない11月の祝日に育成・講座の実施を計画。
実施日から逆算してプロジェクト計画をたてることとしたが、現地の状況ヒアリング内容を踏まえ、9月から10月にわたり計画の見直し、募集方法の検討、教材の制作を実施した。
地元の宮古工業高校の生徒9名がメンター研修を受講した後、ライフイズテック社の講師、メンターと一緒に実際に小・中学生のプログラミングを指導。
具体的な日程は以下の通り。
1)11月4日(1日目)
2)11月5日(2日目)
メンター募集にあたっては以下の基準とし、担当教諭により一人ずつ確認したうえで選定いただいた。
研修プログラムは、(1)プログラミング研修と(2)コミュニケーション研修を実施した。
(1)プログラミング研修では実証講座で使用する教材を体験してもらい、(2)コミュニケーション研修にて、チームビルディングやメンターに求められるコミュニケーションスキルなどをレクチャーした。
1 1日目午前:(1)プログラミング研修:3時間
実際に小学生・中学生が受ける実証講座を高校生対象に実施。その中で、高校生のチームビルディングやアプリ開発の体験講座を実施。
2 1日目午後:(2)コミュニケーション研修:4時間
午前中の体験を踏まえて、チームに分かれて2日目に小学生・中学生を指導するにあたってのポイントの整理や振り返り、更なる技術習得の講座を実施。
a. 午前中の感想を一人一人発表(不安だったこと、大学生にやってもらって嬉しかったこと、安心したこと)
b. モチベーショングラフを描くことで、体験会での心の動きなどを可視化。
c. メンターに求められるスキル(下記)をレクチャー。
d. 高校生が体験会を通じて感じたモチベーションの変化を可視化し、実際にモチベーションが下がりそうなタイミングを自分たちで洗い出し、解決策を策定。
e. 翌日の小・中学生向け体験会に向けて、小・中学生向けの自己紹介を作り、練習。また、技術面で不安な部分を補講。
f. 最後には、ライフイズテック社のスタッフ、大学生と共に、翌日の会場設営を行い、より良い学びの空間づくりについてもレクチャー(スクリーンと机の位置関係、参加者の動線がスムーズか、など参加者の学びの体験が最高のものになるような会場設営を行った)。
3 2日目午後:(2)コミュニケーション研修:4時間
午前中の実証講座内で自分たちが想定して、準備していたことが実際できたか、体験した感想(難しかったこと、改善できそうな点など)を話してもらった。その中で、あがってきた課題に対して、今後自分たちでどういった改善ができるのかをディスカッションし、チームの2日間のまとめとして発表。
発表された事例と課題や解決策のいくつかを以下に記載する。
事例1
課題:オープニング前に緊張している小・中学生にどう声をかけて緊張をほぐすかわからない
解決策:オープニング前の「声がけ」は、「学校の話」「共通点」の順で話して徐々に心の距離を縮めていくのがいい
事例2
課題:プログラミング中に自分のチームで多く質問の手が上がってしまって、追いつかない。
解決策:「次行くからね」「ちょっと待っててね」などの声がけをすることで、「気づいているよ」という心遣いをして安心感を与え、のちに質問に順番に答えていく
事例3
課題:プログラミングの進捗に対しての質問をしても返事がない
解決策:自分で受講者のコードを理解して、次にやることをアドバイスする。
質問してもらえるくらい事前に「学校の話」「共通点」の会話を使って仲良くなる
研修に使用した教材については以下のとおり。
(1) プログラミング研修
a. 研修教材:iPhoneアプリプログラミング教材「Count アプリ」(ライフイズテック社製作)
b. 開発環境:Xcode
c. 使用言語:Swift
d. 研修環境について:メンター人数分のMacbook、WiFiでネットワークを構築
(2)コミュニケーション研修
基本的には教材は使用せず、ワークショップ形式で実施
参加児童等については以下のとおり。
学年(人数) | 下地中学校1〜2年(16名)、下地小学校6年(9名)、久松小学校5〜6年(11名) 計36名 |
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募集方法 | 各校から対象となる学年の各家庭に向けて募集要項を配布 |
講座進行担当者の属性 | ライフイズテック社の社員2名 ファシリテーションやチームビルディング、プレゼンテーション等の専門的なスキルを保有 |
参加メンター数 | ライフイズテック社登録の大学生メンター2名、宮古工業高校1〜3年生9名 |
講座の概要は以下のとおり。
実施日時 | 2017年11月5日(日)9:00~12:00 |
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実施場所 | 下地中学校2階多目的教室 |
実施環境 | 学校の一般的な教室、プロジェクター、マイク、スクリーン等設置あり。 モバイルルータおよびパソコン(Macbook Air)40台を事業者にて用意 |
実証講座のねらい | 1、小・中学生:プログラミングの楽しさ、可能性を感じてもらうきっかけとする。 2、高校生:自分が学んだ内容を小・中学生に指導する体験を通じて、自分の技術力向上の必要性、人に教えることの難しさや喜びを実感するきっかけとする。 |
使用教材 | a. 研修教材:iPhoneアプリプログラミング教材「Count アプリ」(ライフイズテック社製作) b.開発環境:Xcode c.使用言語:Swift |
カリキュラム |
・ITプログラミングの未来について 映像を交えて、最先端のITツールのデモ映像や未来予測映像を見てもらう ・チームビルディングアクティビティ 海外のビジネススクールで実施されているマシュマロチャレンジを実施 ・プログラミング体験 Apple社のパソコンで実際にプロも使っている開発環境「Xcode」を使用し、プログラミング言語「Swift」を使って、自分たちの作品を制作。 四則演算をプログラムすることを基礎として学び、カウントアプリを作成。自分の好きなキャラクターや風景などをデザインで使用し自分のオリジナルの作品を作ってもらった。 ・プログラミングを学んだ先について 制作物を各テーブル内一人1分程度でパソコンの画面を見せながら、作品を「苦労したこと、楽しかったこと、工夫したこと、体験の感想」などを交えて共有。その後今回の学びの先にどういった未来があるのかを動画を交えて話をする |
1.新聞
当実証事業を広く周知するため、また今後の展開のためにも、地元のメディアへの掲載を実施した。
地元メディアにはリチャージから以下の内容を伝えた。
1)宮古新報11月7日付
「高校生メンターが指導」〜チーム作り主眼に実施
上松恵理子准教授は「全国を見てもチームビルディングをしっかりやることが将来の教育の成功につながることがわかっている。社会に出る時に必要となるのはプログラミングの技術よりもコミュニケーション力」と語った。
(※画像割愛)
2)宮古毎日新聞11月8日付
「ITの魅力伝える」〜高校生が小中生に指導
小中学生たちは、指導する高校生たちに積極的に質問し、分からないことについても細かく説明を聞くなどして、プログラミングの魅力を体感した。
(※画像割愛)
2.ネット上での掲載
宮古島のITによる地域活性化に興味のある層へ届けるため、リチャージ株式会社Facebookページにて実証日前後に7件の記事を掲載した。
実証校の小中学校教諭
(良かった点)
(不安な点)
メンターの高校教諭
実証校校長先生
教育委員会
4割以上の参加者がプログラミングの意味を知っており、その中の半数以上がプログラミング経験があった。
参加者全員が、講座が楽しく、ほとんどがプログラミングも楽しかったと回答。
参加者の3分の2が利用した教材が難しかったと回答。
使用した開発環境や言語は若年層向けではなく一般的に使われるものであり、今回の講座では言語の理解ではなくアプリを完成させプログラミングに対する理解と興味の促進、達成感に注力していたためと考えられる。
参加者のほとんどがアプリやゲームがどうやって動くのかを理解できるようになったと回答。
参加者の7割以上が自分なりのアイディアを取入れたり、工夫ができたと回答。
参加者のほとんどが自分なりの作品を作ることができたと回答。
参加者の7.5割が解決策を試すようになったと回答。
参加者のほとんどが自分から積極的に取り組むようになったと回答。
参加者の8割以上が友達と協力して作業が進められるようになったと回答。
参加者の半数は人前で作品や意見を発表できるようになったが、残り半分はどちらともいえない〜できなかったと回答。
作品の発表については今回の講座では注力していないためと考えられる。
参加者の8割以上が難しいところであきらめずに取り組めるようになったと回答。
参加者の9割以上が自分でも作りたいと思うようになったと回答。
参加者の4割以上が自ら対策を考え繰り返しながら解決を試みたと回答。
教材が一般的なものであるにも関わらず、子どもたちが想定以上に楽しんでいたことが理解できる。
参加者の6割以上が今後もプログラミングを続けたいと回答。
以上の結果より、次のとおりまとめた。
メンターのほとんどが育成研修の内容を理解できたと回答。
メンターのほとんどが実際にメンターを行うにあたって不安と回答。
不安と回答したメンターは、あらゆる観点で不安があったと言える。
メンター全員が講座を予定していた通りに実施できた、だいたい実施できたと回答。
メンターのほとんどがイメージしていたよりもメンターの実施が難しかったと回答。
メンターがうまく実施できたと感じたことの多くは必要な指導・助言ができたこと、用意された教材を効果的に使用できたことと回答。また、気づきやつまずきのファシリテート、能力に合わせた適切な指導・助言もできたと回答。
メンターとうまく実施できなかった理由の多くは時間内に予定の講座内容を終了させることと回答。
メンターのほとんどが今後もメンターとしての指導経験を積みたいと回答。
以上の結果より、次のとおりまとめた。
メンター育成に対する本年度のゴールと成果は以下のとおり。
<ゴール>
<発見・成果>
プログラミング講座に対する本年度のゴールと成果は以下のとおり。
<ゴール>
「創造力」および「課題解決力」の醸成のために、「学校以外のコミュニティからの刺激(1、3)」および「技術力の習得(2)」を小中学生に届ける。
1.ICT、プログラミングを好きになり、興味関心を持つ
2.プログラミングができた!という自信を持ち、作る技術を身につける
3.地元高校生への憧れを持ってもらい、継続的にプログラミングを学びたいと思えるきっかけとする
<発見・成果>
今回の実証において、実証校や教育委員会他との連携体制については課題となるような内容はなかった。
メンター育成については、育成対象となるメンターと、メンターを育成する指導者に分けて課題をあげる。
<課題>
1)メンターの対象
今回の実証にて高校生のメンターとしての基本的なスキルについて問題ないことを確認することができた。ただし、メインメンターとして育成するにはプログラミング技術に限らずコミュニケーション技術の習得やシミュレーションなどに十分な時間がとれず、ライフイズテック社ノウハウや人材の果たす役割も大きかったこともあり、今回のメンター育成研修カリキュラムだけでは、中長期的に継続して宮古島市内で活躍できるメインメンターを輩出し続けることが難しいことが理解できた。
(ポイント)
2)メンター指導者
エコシステムの構築を目指すためには、メンター育成の仕組みを宮古島市の中で構築していく必要があり、以下の3つが大きな課題となる。
1.指導者となる人材の確保
2.メンター育成カリキュラムの構築
3.宮古島市内で継続的に育成し維持していくメンターコミュニティの構築
(ポイント)
<改善>
<課題>
(ポイント)
<改善>
本実証で得られた成果と課題を踏まえて、持続可能なプログラミング教育のエコシステムを構築するに必要な要素は次の4つである。
1.メンター人材の確保
2.講座と教材の開発
3.メンター育成カリキュラムの構築
4.運営組織
本実証モデルの普及においては課題も多いが、今後の取り組みとしてそれぞれの要素について短期的に実施できるものについて提案する。
1.メンター人材の確保
地元企業やIT関係者、教員、フリーランスエンジニアなどの社会人をメインメンターとして育成する。
高校生には主にサブメンターとして経験してもらう機会を増やす。また、地元の高校生については、小中学生との交流や指導を経験することで自らの気づきも増え、また地域への貢献を感じるなど教育的観点からもよい経験となることから、今回育成対象とした宮古工業高校が中心となり、他の高校からもメンターを募集することで、より多くの高校生に体験してもらえるようにする。
2.講座と教材の開発
講座で使う教材や内容については、プログラミング教育の本質である、「創造力」および「課題解決力」を醸成することおよびPCやITに対する拒否感を持たせないような工夫が重要となる。そのため、初心者向けの1日体験会ではすぐにPCを開いて作業を進めるのではなく、参加していて楽しく、わからなくなってもすぐに聞くことができる雰囲気づくりとしてチームビルディングを最初に行うなどの工夫が必要である。
教材としては、成果がより実感しやすく、メンターや参加者同士のコミュニケーションを通して「創造力」と「課題解決力」を醸成できるよう、エラーなどの想定が少なくなるような工夫をしつつ所与のICT環境を活用したものを独自に開発していく必要がある。
また、教員にも理解を得られやすいScratchなどを使うことで、受講後は自宅でも継続的に学習を進めることも可能であるため、まずは使い方などを教えるような導入講座も当初の取り組みとしては始めやすいと考える。
その他、ICT環境を必要としないアンプラグド教材については、教員がメンターとなるうえでハードルも低く、生徒にとっても体感的に理解ができ、費用も抑えられるという点で取り組むべきと考える。
3.メンター育成カリキュラムの構築
当初は、講座を開く機会を増やすことでメンターの経験を積みながら、都度振り返りを実施することでノウハウを蓄積していくことで形作っていく。また、メンター同士のコミュニティを作り教え合う場を持つことも必要と考える。
4.運営組織
公教育の観点での関心が高いという点で教育委員会が主体となり、宮古島市のリソース(地元企業の社会人、IT関係者、フリーランスエンジニア、教員など)にメンターや運営スタッフを協力いただき組織化し、定期的に体験会を実施できるようにする。当面は、所与のICT環境の活用や場所の確保をしつつ、なるべく費用がかからないように小規模で始める。
上記で提案した短期的な取り組みを蓄積することでより大きな取り組みに発展させることができると考える。本項では、宮古島でのプログラミング教育普及に対する中期的な取り組みとして提案する。
1.メンター人材の確保
メインメンターとして引き続き地元の社会人を募集しながら、現在推進中のサテライトオフィス進出企業のスタッフにも地域貢献という観点で協力を依頼することで、幅広い人材と講座構成を期待できる。また、サブメンターの高校生の中からもスキルや経験の高い生徒にはメインメンターとして自立した活動を促していく。
2.講座と教材の開発
プログラミン教育の普及に伴い地元企業や県外企業を運営組織に加えながら、規模が大きくなることで安定してくれば、費用面でも講座構成や教材の選択肢が増えると想定する。
例えば、市販の教材としてはライフイズテック社の「MOZER」のようにオンライン上で楽しくプログラミングを学ぶことができ、メンターも不要であるため多くの子どもたちに質の高い教材を提供することが可能と考える。
オンライン教材については、市民にオープンな常設のICTコーナーを設置し、気軽に体験してもらうことができれば、様々なオンライン教材を展示し購入するきっかけとできるため、様々な企業との提携の可能性もあると考える。
3.メンター育成カリキュラムの構築
メンター育成には、実際に小中学生にプログラミングを教える現場経験が重要となるため、1日体験会や複数回にわたる講座などを定期的に開催できるように計画する必要がある。また、メインメンターが開発したノウハウを蓄積し改善し、メンターコミュニティの中で他のメンターも利用してもらい教え合う中で、同時にメンター育成カリキュラムを構築していくといった、メンター候補者の募集・育成を通じたコミュニティの形成、そして継続的にコミュニティを維持するといった、地元自治体・事業者が協力して推進する仕組みづくりが必要である。
4.運営組織
なるべく多くの子どもたちにプログラミング教育の機会を提供するためにも、講座の開催数を増やし、カリキュラムを充実させる必要がある。また、公教育での提供以外にも、より専門的なIT技術の習得の機会を提供することも重要となる。そのためには教育委員会とともに地元や県外のIT企業を含めた協議会のような組織を設立し、人材や資金面でもスポンサーとなって協力いただける関係を作っていく必要がある。
地元企業という観点では、宮古島市が推進しているサテライトオフィス誘致事業とも連携し、協力いただけるように働きかけていく必要がある。
定期的な講座以外にも、例えば整備中の未来創造センターなどに、いつでも気軽にIT技術を体験できるような常設コーナーを設置し、オープンに市民に利用してもらう機会を作ることは市民への認知度を高めるうえで重要と考える。
以上のように、プログラミング教育普及のための持続的なエコシステムを構築するには、組織だった運営が必須であり、地元の関係者にもプログラミング教育の必要性や子どもたちの将来への可能性について少しずつ認知、理解してもらいながら、まずはこれまでも協力いただいてきた人材と教材を使って定期的に講座を実施するなど地道な活動を続けることが重要である。
株式会社リチャージとしては、島の内外に企業や人材ネットワークを持っている強みを活かして島外のPG教育人材の呼び込みや、島外への生徒の研修旅行のコーディネート、職場体験などのセットアップ等といった役割で、今後、宮古島のプログラミング教育の推進に関わっていく。
以上