株式会社ナチュラルスタイル
「もの作りを通して伝える地域人材を活かしたプログラミング」を目標としてこのモデルを実施した。もの作りは日本社会を支える重要な要素であり、IoTなどこれからの社会には必要不可欠なものとなっている。全国各地には若く優秀な学生がたくさんおり、地域それぞれのユニークな特徴をその地域の人材で継承、育成することは今教育の観点からもたいへん有意義であると考え工業高等専門学校の学生や社会人が教員をサポートするモデルを実施した。選んだ題材は、実施地域の伝統産業をテーマにした「メガネ拭きロボットの製作」。「プログラミング」という単語の持つイメージを「野球」や「サッカー」のイメージのように持っていくために地元のおしゃれなメディアも取り込んだモデルに仕上げた。
鯖江市教育委員会に協力いただき実証校2校を選考していただいた。実証にあたりどのように進めるかなど、細かな打ち合わせは鯖江市教育委員会の会議室をお借りし、複数回に渡ってミーティングを実施。実証校となる2校からは校長、学生メンターの計画については福井高専 村田講師、広報活動に関して地元メディアである福井新聞社、そして全体進行についてPCN(プログラミングクラブネットワーク)福井のメンバーが参加した。
今回はメンターとして実施校教員を含む「社会人」と「高専生」を対象とした。当初、県内の教員を対象として募集をかけたが、その募集を知った一般の方からも参加したいとの声があり、急遽受け入れを行った。また、高専(高等専門学校)は全国に55キャンパスを有する一大学校組織であり、そこに通う学生はプログラミングに関するテクニカルな知識も持ち合わせており、福井で行うメンター育成はすぐに全国に展開できる可能性が高いと考えた。
社会人(教員含む) | 18 |
高専生 | 44 |
以下のようなチラシを、県内教員、実施校生徒に配布した。教員向けチラシは一般社会人の目にも止まったらしく、問い合わせを多く受けたため親御さんや地域の方々の参加も受け付けた。高専生の募集には福井工業高等専門学校 村田講師 に学生の起用を依頼、情報工学科の2年生全員がメンターに参加した。
(a)教員向けチラシ
研修にはIchigoJamと本講座用の電子工作キット、思考サポート用カードなどを用いた。
(a) こどもパソコン IchigoJam(左)とIchigoDake(右)
プログラミングを学ぶこども向けの専用パソコンとして福井県鯖江市で開発されたIchigoJamは安価(¥1, 500~、2017年現在)に提供されており、一人一台持つことが現実的である。またこれ単体ではインターネットに接続することができず、ネットリスクの議論とは切り離した所でプログラミング教育を行うことができる。ゲームなどの画面の中だけのプログラミングのほか、様々なセンサーや駆動系を制御した物理的な世界のプログラミングも体験することができ、半田付けして自作することも可能なことから中学校の技術家庭にも応用が可能である。また、リコーダーのように持ち歩くことができさらに安価(¥980~、2017年現在)に開発された IchigoDake も同性能で選択可能である。プログラミングに用いる言語環境も選択が可能で、キーボードでのタイピングによる BASIC言語,JavaScript言語、十字キーとA Bボタンだけでプログラミング可能な IchigonQuest 、タブレットによるタッチ入力が可能な カトラリーアップス がある。今回の講座では BASIC言語 を選択した。
(b) 周辺機器
IchigoJamの使用にあたってはキーボードとTVを必要とする。今回はこれらも市販品から調達し、キーボードは ¥800程度、TVモニタは ¥2,700 などである。機材の配布や接続準備にはそれなりの時間を要してしまうため、一体型のスクールセットなどを用いることも可能である。
(c) スクールセット
(d) カトラリーカード
BASIC言語をキーボードで入力する前に頭の中の思考をしっかりと整理するために カトラリーカード も利用した。安価な名刺用紙にプリンターで印刷したもので、学校でも準備することができる。カードの表には行いたい動作が絵で示されており、裏にはそれに応じたBASICコマンドが記述されている。プログラミングにまだ慣れていない児童らは物理的なこのカードを並べて思考を整理し、固まったところで裏返してIchigoJamに入力する。
(e) わくわく電子工作キット
(f) プログラミング入門プリント
講座の進行は入門プリントにそって進めることができる。このプリントはIchigoJam BASICを用いた数々の試行教室から生まれたものであり、小学校中~高学年向けである。BASICの基本からプログラミング的思考の入門までが盛り込まれている。
(a) 実施概要
(b) 児童募集チラシ
(a) 教員が授業を実施している様子(左)、高専生がサポートしている様子(右)
(b) カードを使って思考している様子(左)、出来上がったロボットを発表している様子(右)
当日、模造紙大のキーボード写真を準備するなど、教員は必要なツールを自ら作って授業にのぞまれた。高専の学生は年齢が近いこともあってか児童とフレンドリーに接し、技術的なサポートをしっかりできており、はたから見た雰囲気はとても微笑ましいものであった。
【テレビ関係】
・福井放送:
・丹南ケーブルTV:
【新聞・雑誌関係】
・日本経済新聞:
・福井新聞:
・日刊県民福井:
・電波新聞:
・(誌名不明):
(※画像割愛)
・プログラミングをしてみたらおもしろかった
・役に立つものをプログラミングしたい
・個人個人の発想が自由に表現できて楽しいからプログラミングを今後も続けたい
・プログラミングはつくるのが楽しいから今後も続けたい
・コンピューターを使ってちがうものも作りたい
・こどもでもゲームやアプリの作り方を考えれば変わるのだな~と思った
・プログラミングをつかってもっと便利にしたい
・児童の考えを引き出そうとした
・基本的にはあまり口出ししないようにしてつまずいているなと思ったら助言するようにした
・児童が何をしたいのか明確にしてアドバイスするよう努めた
・研修を通して子供達のつまずく点などを知れたので、教える際に注意したい
・自分が当たり前にやっていることも児童にとっては難しいので、丁寧に教えてあげられるよう努めた
・教えてあげるためには自分が理解しないといけない
・遅れている子がいないか確認しながらすすめるよう努めた
・小学生は「基本的なルールを先におさえる」「細かく進み具合を確認する」などが貴重であると知れてよかった
・説明の仕方が難しかった
・リアクションを大きくしたり、一人取り残された感を感じさせないようフォローした
・児童や生徒が、こうしたい!というとき即座にヒントを提示できるようになりたい
・メンターとしての経験を積める機会を増やして欲しい
・児童のわからないところをしっかりフォローできた
・児童の方からたくさん声をかけてくれて嬉しかった
特になし
・単純なゲームであっても、自分で打ち込み、画面が動くことに、ものすごく驚き、喜んでいた。
・製作段階では「数字を変えることで動く速さや角度が変わること」「ライトが付いたり消えたりすること」などの試行錯誤の部分や考えを巡らす部分に、児童はのめり込んでいた。自分で発見することに喜びを感じているようで、日頃の授業ではなかなか確保できない時間、経験だったと思う。
・事前に児童がつまずくだろうと予想された「キーボードの打ち方」「工作材料の数や与え方」については、掲示物を使った丁寧な指導や材料の精選と置き場所の確保などにより、スムーズに活動できていた。
・児童同士の教え合いや、メンターの支援により、試行錯誤を楽しんでいる様子が見られた。
・「くそおもしろい、これ。」「家で続きをしてもいいですか。」「夏休みの自由研究にしてもいいですか。」など、意欲的な声が聴かれた。
・タイトな時間設定だったので、プログラミングを活用したロボット制作には、難しさを感じている児童がいた。メンターが1対1でつくことで、完成に近づけることができていた。
・拡張の配線は、何番目の穴に差し込むのかが分かりづらそうだった。
Q1-8 あなたはこれまで「プログラミング」という言葉を知っていましたか。または体験したことがありますか
Q2-1 「プログラミング」講座は楽しかったですか
Q2-4 「プログラミング」の講座で利用した教材は簡単でしたか
Q3-1 1 プログラミングを通してアプリやゲームがどうやって動くのか理解できるようになった
Q3-1 2 自分なりのアイデアを取り入れたり工夫するようになった
Q3-1 3 自分なりの作品を作ることができるようになった
Q3-1 4 うまくプログラムが動かない時は理由を考えて、解決策を試すようになった
Q3-1 5 自分から積極的に取り組むようになった
Q3-1 6 友達と協力して作業を進められるようになった
Q3-1 7 人前で作品や意見を発表できるようになった
Q3-1 8 難しいところで諦めずに取り組めるようになった
Q3-1 9 自分でもの(ゲーム等のプログラムを含む)を作りたいと思うようになった
Q3-2 プログラムが思うように動かなかった時、どうすることが一番多かったですか
Q3-4 あなたは今後も「プログラミング」を続けたいと思いますか
Q3-3 メンター育成研修を受けて、全体的に内容を理解できましたか
Q3-6 実際にメンターを行うにあたって不安はありますか
Q3-7 具体的にどういったことに不安がありますか
Q5-1 講座は当初予定していた通りに実施できましたか
Q5-2 実施前のイメージと比較してメンターを実施することは難しかったですか
Q5-3 実施前のイメージと比較して、どういった点でメンターをうまく実施できたと思いますか
Q5-5 実施前のイメージと比較して、どういった点でメンターをうまく実施できなかったと思いますか
Q8-3 今後のあなた自身のメンターとしての関わり方について、最も近いものをひとつ教えてください
講座を実施した教員の感想から、高専生・社会人メンターによる授業サポートは効果的に働いたことがわかった。教員は、教えたことがないプログラミング教育を行うにあたり、個々の生徒が遭遇する技術的な課題の発生により、全体の進行が妨げられる可能性を不安視していた。しかし、本モデルにおいては、複数の高専生・社会人メンターが授業サポートに入っているため、大きく進行が滞ることなく授業を行うことが出来た。
教員が、現在の教科に含まれないプログラミングを教えることのハードルを下げるために、プログラミング教育のメンター講座を受講したメンターの支援は、有効であるといえる。
提案段階では全体での打ち合わせなくスタートした実施体制ではあったが、キックオフなどの全体会議を複数回経ることで、よい連携体制が築けたと思う。
鯖江市教育委員会には、会議室の提供、市内校長先生への周知など連携のための支援を多くいただいた。また実証校の校長からは、適切な教員の紹介をいただき実施にあたっての全面的なサポートをいただけている。
(高校生)
授業でプログラミングの授業がある情報工学科の学生に対して、メンター育成を実施したが、実施前のプログラミングに対するイメージは良いものではなかった。しかし、メンター育成・講座サポート後のアンケートでは、47%の生徒がプログラミングへの意識が良いものになったと回答している。これらより、プログラミング教育に学生が参加することは、児童や教員のためのみならず、自身の学習へもプラスに働くといえる。(福井高専 村田講師による「高専生をメンターとした小学生プログラミング教育の実践」は別紙参照)
(a)学生メンターへの意識調査
夏休み中の特別授業で、昼ごはんを挟んだ長時間の講座であったが児童の集中力は切れることなく進めることができた。興味を持って参加申し込みをくれた児童だけとはいえ、関係者一同驚いた点である。興味をもった児童たちは、夏休み中に自宅でも継続的に学習を進めて、新しい工作やロボットを作ってきてくれたことは嬉しい成果だった。
(b)児童の継続性についてのアンケート(1:◎、2:○、3:△、4:×)
(c)ロボット開発の続きをお家で仕上げて来た児童達
今回の講座実証においては、各実証校と教育委員会、そして事業主体とがうまく連携し、大きな問題なく準備から実践までを行うことができた。他地方においても取り組まれる場合には、各学校長含め教員の理解、そして自治体および教育委員会の協力が重要であると考える。
講座当日の進め方についての打ち合わせが足りず、担当教員への負担が大きかったとの意見が聞かれた。メンター育成講習を受けたとしても初めての授業に対しては不安も多くあり、実証講座当日の流れをもっと詳しく打ち合わせしておくと良かったと思われる。
課題としては、コンピューターに慣れ、初めてのプログラミングを行い、発展的な工作との連携までを実施するためには、5時限の設定では短すぎるとの意見が多く聞かれた。もっと習ったプログラムを試したい、もっと作った工作の完成度を上げたい、ロボットの動きを工夫したいというニーズには、答えられなかった。
復習をいれる、児童が学んだことを試行錯誤する時間をとる、オリジナルのモノづくりをじっくりやるなどを考慮すると、2倍〜3倍程度の時間を設定しても良かったかもしれない。
今回協力を依頼した高専は全国に55キャンパスあり、各地方において有効に活用できるものと思われる。高専の学生はプログラミングに対する技術的なサポートが可能であり、年齢も小学生に近いことで児童のあこがれのお兄さんお姉さんとしてメンター活躍することができる。
メンターにはプログラミングスキルは必須であると考える。答えは1つでないことがほとんどで、課題に対しての複数のアプローチを提示できる経験が必要である。ただ、こどもに接するスキルも同じく重要で、プログラミング経験者はこどもに接するスキルを、教員はプログラミングスキルを携えた上でメンターとして活動すると良いだろう。
今回の実証モデルは図工や理科の要素を取り入れ、「総合の学習」を意識して設計した。理科で習った電気の特性を利用してモーターを回し、それぞれにアイデアを出し図工の要領でメガネ拭きの機構に取り組む。プログラミングはそれらを結びつける接着剤の役割となる。
また、プログラミング教育とICT環境整備は別で考え、WiFiなどのネットワーク環境がなくともプログラミング教育はなされるべきである。既存設備を利用する際の「アプリのインストール権限や利用者権限管理」の問題も大きく、プログラミングを学ぶためにはリコーダーのような専用コンピュータがあることが望ましい。本事例でのプログラミングでは学校の既存設備を利用せず、安価なスタンドアロンコンピュータ「IchigoJam」を用いた。IchigoJamは安価(¥980~)であり、リコーダーのように一人一台持つことが現実的で起動や終了も速く、こどもにも扱いがたいへん容易である。不要な操作で授業を逸脱する心配もなく、本来の「プログラミング教育」に専念することが可能である。インターネット環境も必要なく「教育のICT化」の準備に左右されずにプログラミング教育をスタートできる。画面の中だけのプログラミングから安価なロボットを使ったプログラミングまで幅広く対応することができ、教員の得意分野、地域の人材/特徴に合わせた授業内容を構築することも容易である。
(a)半田付け可能なキットも選択可能(左)、プログラム制御可能なタミヤ製ロボット(右)
なお、本モデル授業で利用されたプリントなどの教材はこちら( http://pcn.club/spro/ )よりダウンロード可能である。
プログラミングの認知度やイメージアップについて、地元メディアである福井新聞社とうまく連携して「野球」や「サッカー」のような文化を築くべく「福井県小中学生プログラミングフェス」などの活動を毎年行なっている。また、プログラミング啓蒙活動団体である「PCN」を運営し、現在、日本だけでなく世界に存在する各地のPCNは 32拠点(2017年12月現在)となっている。各地のPCNは地元に根付いたプログラミングクラブの運営をそれぞれに行なっており、各地の特徴、人材を活かした取り組みを多く実践している。今後は学校活動から放課後の活動まで、メンター提供や機材提供など広くプログラミング教育をサポートすることができるものと考えている。株式会社ナチュラルスタイルは児童が家でも学校でも一人一台のパソコンを利用できるよう、ハードウェア面とソフトウェア面から教材の開発を行なっている。
(b)福井県小中学生プログラミング・フェス
(c)各地のPCN(一部)