主体団体:株式会社エンベックスエデュケーション
連携団体:株式会社アスリートプランニング
運動と組み合わせて視覚的・体感的にプログラミングを学ぶ。
【本実証の目的】
本事業は、知的障害のある中学部2年生の生徒を対象に、プログラミング的思考を身につけさせることを目的とした。
プログラミングには、「ボールの色に意味を持たせ、順番に窪みに入れる」というシンプルな入力方法を用い、アルゴリズムが理解しやすいように工夫した。また、ボールを入力装置に入れるまでの過程でプログラムに関連した運動や集団ゲーム(アンプラグドプログラミング)を用いることにより、プログラムのイメージを持たせ易くすると共に記憶力・基礎運動能力・自己肯定感の向上や心身の健全な発達効果も期待した。
【本実証の背景】
現在、様々なプログラミング言語や装置など子供たちがプログラミングに親しめる環境が多く出てきているが、プログラミングそのものを考えさせることができる教材や、障害のある子供たちに基礎から考えさせることができる教材はまだまだ少ないのが現状である。
そこで、今回は知的障害のある児童・生徒でも簡単にプログラミングを行える環境の提供とともに、それを使ったプログラミング的思考を習得するカリキュラムを提案することとした。
【本実証の構成】
(1)実証回数を5回10コマとし、各回ごとにプログラミングテーマを設ける。
(2)運動(動作)によるプログラミングのイメージづくりとコンピュータを使ったプログラミングの両方を毎回行う。
(3)最初は運動(動作)がメインで、後半に進むにしたがってプログラミングがメインになる
【特徴】
(1)キーボード、マウス、タブレットを使わない自社開発ツール『カメレオン』を使用し、コンピュータの動きを理解させる。
(2)動作と組み合わせることにより、プログラミングの内容をイメージしやすくする
【本実証に使うコンピュータキット『カメレオン』について】
※『カメレオン』(※1)とは、本事業用に当社が開発したカラーボールの色を読み取る「入力キット」と「RaspberryPi」を組み合わせたプログラミングツールである。構成は下記のとおり。
<<ハードウエア>>
(1)RaspberryPi3(※2)
(2)モニタもしくはテレビ(HDMI対応)
(3)入力キット(※3)
(4)マウス&キーボード(メンター操作用)
<<ソフトウエア>>
(1)scratch(※4)
※1 カメレオンの命名由来:7色のカラーボールを使い、教科を超えて自在にプログラミングのアイディアを広げられることが、周囲の色や感情の変化によって体の色を変える「カメレオン」に似ていることからこの名前となった。
※2 RaspberryPi(ラズベリー パイ)は、学校で基本的なコンピュータ科学の教育を促進することを意図してイギリスのラズベリーパイ財団によって開発されたARMプロセッサを搭載したシングルボードコンピュータである。
※3 「入力キット」は7色のカラーボールを窪みに入れると底部にあるカラーセンサが色を読み取り、RaspberryPiに色情報を送ることができるRaspberryPi専用入力キットである。
※4 Scratch (スクラッチ) とはMITメディアラボが開発した初心者が最初に正しい構文の書き方を覚えること無く結果を得られるプログラミング言語学習環境である。
簡単なブロックの組み合わせでプログラミングできるので、子供向けのプログラミング教材として注目されている。
本事業の実施体制は、次の通り。
主体団体:株式会社エンベックスエデュケーション
連携団体:株式会社アスリートプランニング
実 証 校:東京都立石神井特別支援学校
【メンターの属性】
石神井特別支援学校の担任の先生方
【選択理由】
【育成人数】
中学部2年生の担任の先生 15名
【障害特性に応じた工夫点】
メンターの方々はすでに障害特性について経験・認識があるので今回は特別な配慮は行わなかった。
実証校である東京都立 石神井特別支援学校の中田教諭・海老沢教諭にご協力いただき、中学部2年生の担任の先生にお声掛けいただき、募集を行った。
【実施日程】実施日程:2017年11月1日
【場所】石神井特別支援学校 会議室
【対象】石神井特別支援学校中学2年生の担当教員 15名
【内容】座学と実技に分け、次の内容について講習を実施。
【特徴】
障害を持つ生徒への接し方に関しては、メンターが専門家であるため割愛した。
ツールの使い方、授業計画、運動(動作)によるプログラミング導入を中心に講習を実施した。
講習の中ではできるだけメンター自身に体験してもらうことに重点を置き、普段生徒に対応している観点からのご指摘や改善点などを多く出してもらうことにした。結果として、より実践に効果があるコンテンツに修正・改善ができた。
日程 | 内容 | ねらい | |
---|---|---|---|
第1回 | 11/7(火) | 『カメレオン』を使ってみよう! | キットになれる |
第2回 | 11/20(月) | 処理をつなげてプログラムを作ろう! | 順次処理を理解する |
第3回 | 11/27(月) | 順次処理を理解しよう! | 選択・順次処理を理解する |
第4回 | 12/12(火) | 繰り返しを覚えよう! | 繰り返し処理を理解する |
第5回 | 12/19(火) | 体験したことをプログラミングしてみよう! | まとめ |
【会場】
東京都立石神井特別支援学校 会議室
【参加者】
学年:中学2年
人数:27名
障害種別:知的障害(重度学級3名を含む)
【講座進行担当者】 担任の先生2名
【サポートメンター】3名
ねらい | 内容 | |
---|---|---|
導入 | あいさつ、スライドによる授業内容の確認 | |
展開(1) | 『カメレオン』の操作になれる | ・『カメレオン』に一人ずつボールを入れ、画面の色が変化する体験を 行う。 |
展開(2) | ゲーム感覚でカメレオンにボールを入れ、キットに慣れ親しむ。 | 1ボールを手に持って、コーンを回って戻って来て次の走者に渡す リレー方式。アンカーがカメレオンにボールを入れる。 |
展開(3) | 「ボールの色」と「動作」が対応していることを認識する | ・一つずつボールを入れて、ボールの色に対応した動き(ダンス)を 一緒にやってみる ・ボールの色と対応した動作を覚える。 |
まとめ | 今日の授業内容の確認、挨拶 |
ねらい | 内容 | |
---|---|---|
導入 |
|
あいさつ、スライドによる授業内容の確認 |
展開(1) | 自分で動き(ダンス)を選択して順番に並べることができる |
・4つのボールでダンスのプログラムを作り動作を模倣する |
展開(2) | 動作(ダンス)の選択肢と入力要素数を増やし、ちょっと長めのプログラムになれる |
・8つのボールでダンスのプログラムを作り動作を模倣する |
展開(3) | オリジナルケーキをイメージし、その通りのケーキをプログラミングで作る |
・ワークシートでどのようなケーキを作るか考える(〇つけ) ・『カメレオン』でプログラミングして、ケーキを作る |
まとめ |
|
今日の授業内容の確認、挨拶 |
ねらい | 内容 | |
---|---|---|
導入 | あいさつ、スライドによる授業内容の確認 | |
展開(1) | 電車の動作とボールの色の 関係を認識して、順次処理のプログラムを作れるようになる |
・好きな色(赤・青・黄のいずれか)の電車を選択し、「車庫」→「まちえき」→「やまえき」→「車庫」へ自分が電車になって動いてみる ・電車の動作とボールの色の関係を認識して、『カメレオン』でプログラミングして電車を走らせる |
展開(2) | オリジナルアイスをイメージし、その通りのアイスをプログラミングで作る | ・ワークシートでどのようなアイスを作るか考える(〇つけ) ・『カメレオン』でプログラミングして、アイスを作る |
まとめ | 今日の授業内容の確認、挨拶 |
ねらい | 内容 | |
---|---|---|
導入 | あいさつ、スライドによる授業内容の確認 | |
展開(1) | ハンバーガーを題材に、仕様決定→設計→実装の手順を体験する | ・ハンバーガーの箱積みを行い、ハンバーガーづくりを体験する。 (アンプラグドプログラミング) ※一番上と一番下はバンズにする。具材は2つまで ・ワークシートを使い、自分が作りたいハンバーガーを設計する。 ・ワークシートを参考に『カメレオン』でプログラミングを行う (プラグドプログラミング) |
展開(2) | 繰り返しのプログラミングを体験する。 | ・オレンジのピンポン玉を繰り返し用のボールとして使用し、複数個のケーキを作成するプログラミングを行う |
まとめ | 今日の授業内容の確認、挨拶 |
ねらい | 内容 | |
---|---|---|
導入 | あいさつ、スライドによる授業内容の確認 | |
展開(1) | ハンバーガーを題材に、仕様 決定→設計→実装の手順を体験する |
・ハンバーガーの箱積みを行い、ハンバーガーづくりを体験する。 (アンプラグドプログラミング) ※今回は箱を8個まで重ねてOK ・ワークシートを使い、自分が作りたいハンバーガーを設計する。 ・ワークシートを参考に『カメレオン』でプログラミングを行う (プラグドプログラミング) |
展開(2) | 体験を基にプログラミングする | ・以前に体験した「移動教室」の出来事を順番に並べてプログラミングで物語を作る |
まとめ | 今日の授業内容の確認、挨拶 |
プログラミング講座を受講した生徒たちに、アンケートを行った。
●調査日:平成29年12月20日〜平成29年12月25日
●調査対象:プログラミング授業を受けた生徒27名
●調査方法:【児童生徒】プログラミング講座終了時アンケートを、生徒の実態に合わせ、海老沢教諭が聞き取り
で行った。
●回収状況:13名(回収率48.1%)
●アンケート結果について
今回のアンケートでは、プログラミング授業を受けた生徒27名のうち、生徒の実態に合わせて、海老沢教諭による聞き取り調査し、13名より回答をいただいた。
『カメレオン』を開発・製作するにあたり、難易度を懸念していたが、12名の生徒が「わかりやすかった」と回答。
コンテンツ制作にあたり、中田教諭・海老沢教諭から、ご意見をいただき生徒たちの興味・関心を引きやすく盛り上がる題材にすることで、13名全員が「とても楽しかった」と回答。
ハンバーガー、アイスクリーム、ケーキに関心を示した生徒が多かった。
障害がある生徒たちにとって、簡単に入力ができる『カメレオン』と、中田教諭・海老沢教諭と協力してコンテンツ制作したことで、生徒たちが自ら積極的に取り組むことができる環境をつくることができた。
13名全員が今後も「プログラミング」を続けたいと回答している。
メンターとしてプログラミング講座に参加した教員の方々にアンケートを行った。
●調査日:平成29年12月19日
●調査対象:メンターとしてプログラミング講座に参加した教員9名
●調査方法:メンター対象:実証講座終了時アンケートを講座最終日に配布、その場で回収した。
●回収状況:9名(回収率100%)
●アンケート結果について
日々授業で生徒たちと接している教員の方々より、次のような回答をいただいた。
Q:講座全体を通して感じた、児童生徒の変化について(回答内容を抜粋)
Q:講座全体を通じて、印象的だった児童生徒の反応やエピソードについて(回答内容を抜粋)
公開講座に参加した方々にアンケートを行った。
●調査日:平成29年12月12日
●調査対象:公開講座にご参加いただいた方々(13名)
●調査方法:保護者・教職員他対象:講座終了時アンケートを公開講座当日に配布、その場で回収した。
●回収状況:13名(内教職員:3名)
●アンケート結果について
Q:児童生徒の様子で気づいたこと、発見したことがあれば自由にお書き下さい。(回答内容抜粋)
実証校の山本校長に講座最終日にアンケートを行った。
●調査日:平成29年12月19日
●調査方法:実証校 校長先生対象:講座終了時アンケートを講座最終日に配布、郵送で回収した。
●回収状況:1名(回収率100%)
●アンケート結果について
講座を通じて生徒たちの次のような変化を感じていただけた。
プログラミング授業を受けた生徒27名に対して、「プログラミング」「運動(動作)」それぞれについて達成項目を設け、実証開始前と実証終了後の2回に分けて、メンターに評価をしていただいた。
●実証開始前:平成29年11月07日
●実証終了後:平成29年12月19日
●調査対象:プログラミング授業を受けた生徒27名
●調査方法:達成項目シートの各達成項目について、それぞれの評価欄に(○)できた、(×)できていないを、メンターが評価をした。
●回収状況:27名(回収率100%)
●集計結果について
今回の実証は、石神井特別支援学校のみの実証だったため、今後東京都全体に広げるために都の教育委員会と連携して他の特別支援校、一般校にも活動を広げていくことを検討する。
知的障害のある生徒への対応には経験が必要なため、メンターはできるだけ特別支援学校の教員であることが理想である。そのため、今後は、プログラミングに対して不安がある特別支援学校の教員向けの「プログラミング導入講座」の検討と、アドバイザーとして特別支援学校の教員とペアでプログラミング教育を行えるITの専任者の教育・認定も検討する。
今回は、メンターが生徒の実態や特性に合わせて、講座内容に変更を加えていったことが大きな成果につながった。
講座内容は、柔軟にカスタマイズできるような内容にしているが、さらに応用パターン例を増やすなどの対応を検討する。
今回の実証で、石神井特別支援学校では対象学年の教員にメンターとして育成講座を受講いただいたので、他学年の教員の方への展開を検討する。
講座の構成は、導入としてはほぼ完成されたので、今後のステップアップ教材の作成・普及に向けて、高専・大学などの連携も含めて検討していく。
今回のメンター育成を受けていただいた先生方からの横展開を中心に、まずは他の特別支援学校での実施を検討いただき、その学校の情報担当教員を中心にメンター育成の実施をしていきたい。
まずは都内の高専・大学などに、機材の量産やプログラム開発の協力依頼をし、教材の種類を増やすとともに、精度を上げることを検討している。また、教育専攻の大学生の卒論テーマとして検討していただくなど、講座内容についてもブラッシュアップしていく方法も併せて検討していく。
(1)東京都教育委員会との連携
・都内の他の特別支援学校と都内の一般校(中学・高校・高専・大学)との橋渡しを依頼する。
(2)高専・大学への 機材・プログラムの作成依頼
・情報工学を専門とする学生を中心に、『カメレオン』の量産・プログラムの開発を検討してもらう。
(3)イベントでの情報展開
・彩特ICT/AT.labo第6回冬季研究大会『プレミアムワークショップ』への参加など、特別支援学校の教員の方々に『カメレオン』を知ってもらう機会を作る
(4)ラルゴKIDSでの講座実施、および普及活動
・弊社の連携団体「ラルゴKIDS」で講座を開講し、実際に『カメレオン』に触れてもらえる機会を作る
品名 | 数量 | 単位 | 単価(税込) |
---|---|---|---|
『カメレオン』 | 1 | 台 | 90,202 |
RaspbweeyPi | 1 | 台 | 5,980 |
RaspbweeyPi用電源 | 1 | 本 | 2,401 |
キーボード・マウス | 1 | 式 | 2,364 |
SDカード | 1 | 枚 | 1,680 |
HDMIケーブル | 1 | 本 | 1,080 |
小計 | 103,707 |
768円(税込)/生徒1人あたり
※のべ生徒数:135名