奈良女子大学附属中等教育学校
THE NARAJO PLAN
メンター育成プログラムで涵養・向上させる態度やスキル
1.受講者の悩みや問題に寄り添うことができるメンタリングの知識とスキル
2.受講者の思考や気づきを活性化させるコーチングスキル
3.各種センサーを利用したロボットをビジュアルプログラミングおよびpythonで動かすプログラミングを教えられるスキル
4.販売管理や顧客管理システムのためのデータ管理をpython で構築するプログラミングを教えられるスキル
育成するメンター
第4次産業革命やモノのインターネット(Internet of Things : IoT)がすすむ超スマート社会がもう目の前に迫っている。あらゆる製品にコンピュータが組み込まれ、あらゆる産業でプログラミングスキルを備えた人材が切望されている。そのため、プログラミングへの理解を小中学校段階ですすめ関心を高める必要があるが、プログラミング教育を各学校や地域で担える人材は不足している。
この状況の改善のために以下の2種類のメンターを育成した。
1小中学生にプログラミングをコーチするメンターの育成が必要不可欠
専門や教科に関わらずプログラミングの初歩を教えられる小中学校の教員をメンターとして育成
2地域社会で次世代のプログラミング教育を担う若い人材の育成が、プログラミング教育の持続的な実施のために必要不可欠
地域に貢献する意識が高く、意欲のある、大学生・高校生や地元の若者をメンターとして育成
メンター育成のためにメンタリングとコーチングを中核としたメンター育成プログラムを作成、実施し、その効果を検証した。
教育サービスの地域間格差解消のためのメンター育成
本事業THE NARAJO PLAN では、上記の3つの方法でメンター育成を実施した。総務省の教育クラウド・プラットフォームが、例えばMassive Open Online Courses (MOOCs)のように、全国でプログラミングを教え学びたい人たちのためのe ラーニングシステムとなると予想しているためだ。
e ラーニングについては、直接対面での学びとの比較によって、学習者がドロップアウトしやすいという課題が指摘されている。その課題を解決するために下記の工夫が効果的だとも指摘されている。
・ブレンド学習(blended learning)に学習をデザインする
・講師がメンタリングを行う
このようなe ラーニングの知見を参照しつつ、昨年度の総務省ICTドリーム事業でのschool Taktや教育用SNSのednityを利用した取り組みを活かし、本事業でのメンター育成方法について、前ページの図A、B、Cの3つの講座を実施し比較検証することによって、教育クラウド・プラットフォームを利活用したメンター育成の可能性を検証した。
本事業THE NARAJO PLAN のもう一つの特徴は、「教育サービスの地域間格差解消」である。第4次産業革命や IoT がすすむ超スマート社会で個人が自由闊達に活動し、社会を持続的に支え発展させていくためには、高度ICT 利活用社会を担うことになる若年層に対して、できるだけ多くの子どもたちにプログラミングを学習する機会を与える必要がある。
しかし、少子高齢化が他地域よりもさらに進む中山間地や離島、地方中小都市にあっては、メンターが確保できない、都市部へ行かないとプログラミング学習が受講できない、といった教育の格差が生じる可能性がある。
本事業では、とくに国土面積の約7 割を占める農山村漁村の中山間地域でのプログラミング教育の格差の解消に焦点化する。
具体的には、漁村の中山間地域で東日本大震災により甚大な被害を受けた宮城県女川町の被災地復興支援の放課後学校「女川向学館」で、地元を支える社会人の若者がメンターとなって在校する小中学生にプログラミングを教えられるようになるように下記の通り支援した。
1ICT 活用と直接対面のブレンド学習でのメンター育成の試み
漁村の中山間地域である女川のメンター候補は、まずは教育クラウド・プラットフォームに実装した「メンター育成講座動画コンテンツ」等を視聴してメンターとしての知識とスキルを学びつつ、すでに直接対面で育成された奈良のメンターからのschool Takt 等の共同学習ツールを用いた「作成したプログラムの共有によるフォローアップ」、およびグループチャット機能での質疑応答とメンタリングを受け、教育クラウド・プラットフォームを活用して遠隔地にいながらにしてメンター候補として育成される。さらに、奈良のメンターが女川へ出向いて直接対面でのフォローアップを行う。このようなブレンド学習によってドロップアウトを防ぐ(図C参照)。
2他の方法・地域との比較検討により、よりよい方法を明らかに
離島である香川県小豆郡土庄町立豊島小学校の教員メンター候補は、奈良で直接対面でのメンター育成講座を受講し、所属校等でプログラミング教室を開講する。その際、児童生徒が作成したプログラムについて、school Takt 等の共同学習ツールを用いた「作成したプログラムの共有によるフォローアップ」を奈良のメンターから受ける(図A参照)。
地方中都市である茨城県古河市の三和東中学校の教員メンター候補は、教育クラウド・プラットフォームに実装した「メンター育成講座動画コンテンツ」等を視聴してメンターとしての知識とスキルを学びつつ、すでに直接対面で育成された奈良のメンターからのschool Takt 等の共同学習ツールを用いた「作成したプログラムの共有によるフォローアップ」とメンタリングを受け、教育クラウド・プラットフォームを活用して遠隔地にいながらにしてメンター候補として育成される。その後、所属校等でプログラミング教室を開講する。その際、生徒が作成したプログラムについて、school Takt 等の共同学習ツールを用いた「作成したプログラムの共有によるフォローアップ」を奈良のメンターから受ける(図B参照)。
このように図A、B、Cの3つの講座を比較検証することによって、教育クラウド・プラットフォームを利活用した中山間地や離島、地方中小都市でのメンター育成の可能性を検証した。
プログラミングの学びが21 世紀型スキルを向上する教育プログラムの開発
プログラミング学習を通じて、協同して課題を発見し試行錯誤して課題を解決する力、推論を立てる思考力、推論を検証する論理力といった21 世紀型スキルを向上できる教育プログラムを開発した。
そのために、各種センサーとモーターを用いたロボットを制御するプログラムの作成や、販売管理や顧客管理システムの理解につながるpython でのデータ管理のプログラミングを行い、自己の企図した動作やプログラミングの実行ができるか仮説の立案と実施検証を繰り返させた。
このプログラミング学習を通じて、思考の力で推論を立て、論理の力で推論を検証しながら、その試行結果と論理的に組み立てたプログラミングを試行錯誤しつつ取り組ませるという、いわば、論理力と思考力のPDCAサイクルをグループワークで繰り返していく中で、協同して課題を発見し課題解決に導く態度や能力を育成するとともに、こども個人の課題発見力、課題解決力、論理力、思考力の獲得や、課題解決に向けた創造力やものづくり意欲の向上がどのようにできるのか定量的に実証した。
実証のために、ルーブリックを作成し、事前事後における小中学生の21 世紀型スキルや課題解決に向けた創造力やものづくり意欲の比較検証を行って検証した。
超スマート社会でしなやかに生き、かつ社会を支え発展させる人材を育成するために必要なプログラミングの知識やスキル、そしてプログラミングの社会での役割や可能性を知り、みずからがプログラミングを活用してみようとする態度や能力を涵養・育成できるプログラムを開発した。
このプログラムの他のプログラミング学習プログラムには無い特徴は、社会的課題の解決を受講生たちが協同してプログラミングによって行う点である。
そのために、受講生の発達段階やプログラミングの知識・スキルの状況にあわせて、下記の通りプログラミング学習を実施した。
1カラーセンサーや赤外線センサー、タッチセンサー等を利用しプログラムによる計測・制御を実行するロボットを製作たとえば、下記のようなロボットを製作した。
・実線をトレースして進むロボット
・物体をつかんだり放したりするロボット
・障害物の前で止まったり避けたりするロボット
2プログラミングを利活用して社会的な課題を解決するプログラミング学習
上記1から発展的に実施。受講生は、自分たちが作るロボットの動作イメージを発想しプログラミングをおこなった。たとえば、下記のようなロボットを製作した。
・工場での課題を解決するロボット
・地域の観光スポットを案内するロボット
3社会の安全・安心・便利の実現にICTを活用したビジネスがどう関係しているかをプログラミングを通じて理解する学習
受講生は、販売管理や顧客管理システムを取り上げ、データ管理活用システムや顧客データ管理システムの構築を行った。具体的には、python でのプログラミング学習を実施した。
2016 年8 月1日〜10 月30 日
希望者を募った
基本的には、2016 年8 月16 日〜18 日の3日間としたが、これ以降にメンターとして参加した場合は個別に対応した。女川向学館では、メンター育成講座の事前動画視聴を依頼し、2016 年12 月2日に直接対面でのメンター育成講座を開催した。
プログラミングやプログラミング教育、コーチングに基づいたメンター育成に実績のある、奈良女子大学生活環境学部情報衣環境学科生活情報通信科学コース教授の駒谷昇一氏がメンター育成のプログラムの作成と実施を担当した。なお、下記の講座の様子の動画をクラウドへ掲載し女川向学館や古河市立三和東中学校でメンター候補者が視聴して研修を行った。
講座1※開講時期は8 月16 日(火)〜18 日(木)
育成講座実施場所:奈良女子大学附属中等教育学校
・講座内容
1.レゴEV3 アプリの利用方法とプログラミング実習 8 時間
2.レゴEV3 を用いたプログラミング実習の総まとめ 8 時間
〜プロジェクトベースドラーニング(以下PBL)とコーチングに基づくプログラミング学習構築の実際〜
第1日
13:00〜16:30 プログラミング基礎講座・コーチング・メンタリング基礎講座
第2日
10:00〜15:00 小学生への実際のプログラミングレクチャーの様子の参観
15:00〜18:00 メンター同士のプログラミングレクチャーの振りかえりとディスカッション、翌日のプログラミング実習のレッスンプラン作成
第3日
10:00〜15:00 メンターによるプログラミング実習
15:00〜16:30 プログラミング実習の振り返り
※小学生の参加は第2日と第3日の10:00〜15:00
講座の形態:小学生は3〜5 人を1チームとしてプログラミングを行った。メンターもチームを組み共同して講座のプログラムに取り組んだ。
メンター育成講座では、コーチング理論に基づき「教えないで教える」態度やスキルの習得のための
実習を行った。
また、メンター育成講座は録画、編集をして「教育クラウド・プラットフォーム」に動画を掲載した。
動画掲載が技術的な問題で不可能な場合にはYoutube に限定公開することによって、いつでも視聴が可
能なようにしておいた。なお、総務省の教育クラウド・プラットフォームに実装されているschool Takt
等の共同学習ツールを用いた「作成したプログラムの共有によるフォローアップ」、およびグループチャ
ット機能での質疑応答とメンタリングを受け、教育クラウド・プラットフォームを活用して遠隔地にい
ながらにしてメンターを育成できるようにした。
1 コーチングの理論に裏打ちされた「教えないで教える」態度やスキル(下記ア、イ)の習得のための実地研修を実施することは、どの地域においても有効な手法と考える。
ア、受講者の悩みや問題に寄り添うことができるメンタリングの知識とスキル
イ、受講者の思考や気づきを活性化させるコーチングスキル
なぜなら、プログラミング「教育」であり、かつ将来にわたってプログラミングを「生きて働くリテラシー化」するためには、思考の力で推論を立て、論理の力で推論を検証しながら、その試行結果と論理的に組み立てたプログラミングを試行錯誤しつつ取り組ませるという、いわば、論理力と思考力のPDCAサイクルをグループワークで繰り返して回していく中で、協同して課題を発見し課題解決に導く態度や能力を育成するとともに、こども個人の課題発見力、課題解決力、論理力、思考力の獲得や、課題解決に向けた創造力やものづくり意欲の向上が必要不可欠だからである。
2 メンター育成講座の動画の「教育クラウド・プラットフォーム」への掲載や、総務省の教育クラウド・プラットフォームに実装されているschool Takt 等の共同学習ツールを用いたフォローアップは、プログラミング教育を水平展開するうえで有効だと考える。ただし、運営上の課題も大きい(後述)。
1奈良女子大学附属中等教育学校
第1回プログラミング講座:2016 年7 月15 日〜8 月5 日
第2回プログラミング講座:2016 年9 月14 日〜10 月31 日
第3回プログラミング講座:2016 年11 月1日〜12 月20 日
2女川向学館
2016 年11 月10 日〜12 月2日
3豊島小学校中学校
2016 年11 月1日〜11 月15 日
4三和東中学校
2016 年1月6 日〜1月16 日
第1回:奈良女子大学附属小学校で募集
第2回:奈良市教育委員会の後援のもと近隣公立小学校で募集
第3回:奈良女子大学附属中等教育学校で募集
※女川向学館、豊島小学校中学校、三和東中学校では自校の児童生徒から募集をした
児童は小学5・6年生、生徒は中学1年〜3年生
奈良女子大学附属中等教育学校でのプログラミング講座に関しては内容への適性によって、対象学年を分けた。具体的には、レゴEV3 はビジュアルプログラミングであるため小学生とし、データ管理活用システムや顧客データ管理システムの構築は、テキストプログラミング言語のpython でのプログラミング学習を実施するため中学生とした。
女川向学館、豊島小学校中学校、三和東中学校は、各校の事情にあった児童生徒を対象とした。
プログラミングの面白さを伝えるためのチラシを作成した。
講座期間以外は特になし。基本的に講座期間は2日間。
奈良女子大学附属中等教育学校では、第1回2回は、レゴEV3 を使いビジュアルプログラミングでプログラムを作成する方法を学習した。第3回は、データ管理活用システムや顧客データ管理システムの構築をテキストプログラミング言語のpython でプログラムを作成する方法を学習した。
女川向学館、豊島小学校中学校、三和東中学校ではレゴEV3 を使いビジュアルプログラミングでプログラムを作成する方法を学習した。
児童生徒の自主性を重視し、「教えない」ことを基本とした。そのために、児童生徒の主体的学びやグループでの協同的学びが生じ、円滑に進むようにコーチングスキルをもったメンターを育成した。このような工夫をしたのは下記の理由からである。
本事業THE NARAJO PLAN ではプログラミング教育の目標の1つの柱を、「超スマート社会でしなやかに生き、かつ社会を支え発展させる人材を育成すること」とした。この目標の実現のためには、プログラミングの知識やスキル、そしてプログラミングの社会での役割や可能性を知ることはもちろん、子どもたちみずからがプログラミングを活用してみようとする態度や能力を涵養・育成する必要がある。
それはすなわち「社会で生きる力」を育成することに他ならない。そのため本事業THE NARAJOPLAN では、社会課題の解決を、受講生たちが協同してプログラミングによって行うよう、学習活動をデザインした。
具体的には、レゴEV3 を用いたプログラミング講座では、下の4つのスライドにあるように、工場の課題解決をプログラムによっておこなうように課題設定した。
また、python でのプログラミング講座では、社会の安全・安心・便利の実現にICT を活用したビジネスがどう関係しているかをプログラミングを通じて理解する学習として、受講生は、販売管理や顧客管理システムを取り上げ、データ管理活用システムや顧客データ管理システムの構築を行うように課題を設定した(次ページの4つのスライドを参照のこと)。
python でのプログラミング講座での課題設定スライド
児童生徒の主体的学びやグループでの協同的学びが生じ、それが円滑に進むように、児童生徒の自主性を重視し「教えない」ことを基本とするコーチングスキルをもったメンターを育成することは、他地域にも再現可能である。コーチング講座の動画も編集して総務省の学習クラウド・プラットフォームに掲載済みでありいつでも活用可能である。
また、上掲したスライドにあるように、本事業THE NARAJO PLAN の社会的課題の解決を受講生たちが協同してプログラミングによって行う点は、今後のプログラミング教育の教育的観点として必須であると考えている。さらには、社会的課題の発見も受講生がおこない、その解決をプログラミングによって協同して行うようにデザインする方法へとバージョンアップする必要があると考えている。
本事業THE NARAJO PLAN のねらいと社会的教育的意義は、おおきく2つにわけられる。
メンターに頼るのではなく、自分たちで問題解決しようという意欲が生まれた。他者の意見に耳を傾けることの大切さを学んだ。目標に向かって話し合うことで目標が達成できることの充実感が更なる工夫への意欲を喚起した。
奈良女子大学附属中等教育学校でおこなわれたレゴEV3 を用いたプログラミング講座の事前事後アンケートの結果は下表のとおりである。
事前事後アンケートの結果から、本事業THE NARAJO PLAN のレゴEV3 を用いたプログラミング講座によって、参加児童の意識が、「私は目標(めあて)の実現のために、いろいろな方法を考えることができる」、「わたしはグループで協力して課題(問題)を解決するほうが、自分ひとりで取り組むより、よい結果になると思う」、「わたしは社会がよりよくなったり人の幸福に役立つ何かを作り出したと思う」の3 項目については有意に上昇したといえる。
すなわち、本事業THE NARAJO PLAN で育成を期した21 世紀型スキル、「思考の力で推論を立て、論理の力で推論を検証しながら、その試行結果と論理的に組み立てたプログラミングを試行錯誤しつつ取り組ませるという、いわば、論理力と思考力のPDCAサイクルをグループワークで繰り返していく中で、協同して課題を発見し課題解決に導く態度や能力を育成するとともに、こども個人の課題発見力、課題解決力、論理力、思考力の獲得や、課題解決に向けた創造力やものづくり意欲」の育成や向上ができたといえる。
また、下の表の通り、レゴEV3 の基本構造やプログラミングの基礎的な知識について理解できた小学生が大多数を占めた。
●レゴEV3 のプログラミング講座を受講した小学6年生の感想(抜粋、書かれたママ)
1.プログラミングを体験して、楽しかったことは何ですか?
2.プログラミングを体験して困ったことは何ですか?
3.困ったことが起きたとき、それをどのようにして解決していきましたか?
4.プログラミングを体験して自分の中で変化はありましたか?
本事業ではレゴEV3 を用いたプログラミング学習を通じて、次のような目的を達成しようと目論んだ。
思考の力で推論を立て、論理の力で推論を検証しながら、その試行結果と論理的に組み立てたプログラミングを試行錯誤しつつ取り組ませるという、いわば、論理力と思考力のPDCAサイクルをグループワークで繰り返していく中で、協同して課題を発見し課題解決に導く態度や能力を育成するとともに、こども個人の課題発見力、課題解決力、論理力、思考力の獲得や、課題解決に向けた創造力やものづくり意欲の向上がどのようにできるのか定量的に実証
上記の結果を見ると、その目的は十分に達成されたといってよい。
子どもたちの気づきを大切にしながらコーチングすることの重要性を理解した。メンターの役割とは何かを理解することができた。コーチングには、子どもとの目線を水平にすることや頷いて励ますことが大切であるなど、ノンバーバルコミュニケーションの重要性に気づいた。以下は、メンターに行った、事前事後アンケートの結果である。
このQ1 は、「1、自分の知識や経験から解決方法を教える」「2、ヒントを与えるが答えが出ない時には答えを教える」が、一見して「答えを教える」態度、すなわち本事業で育成するメンターとしてふさわしくない態度に見えるが、「解決方法を教える」のは答えを教えるわけではない。したがって、「1、自分の知識や経験から解決方法を教える」「3、解決方法を教えずにヒントしか与えない」「4、相手が自分で解決方法を導き出せるように手助けだけをする」の数値が事後で「そうする」方に偏ると育成すべきメンターにふさわしい態度が向上したこととなる。回答人数と平均値を見ると、「自分の知識や経験から解決方法を教える」は高い数値のまま変動がなく、2の「答えを教える」以外の項目で数値が「そうする」方に偏ったため、「教えないで教える態度」の向上が見られたといえる。
このQ2 の2つの項目、「1、自分の知識や経験から調べるポイント(地理や歴史や文化)を教える」「2、『どんなことを調べてみたい?』と聞き、その答えに応じて調べるポイントを教える」は、「子どもたちが自ら思考したり試行する」態度を失わせてしまう結果を招く行動であり、本事業で育成するメンターとしてふさわしくない態度だ。なお、「5、『だれに発表するのかな?』と聞き、発表する相手をはっきりさせて発表する内容を考えさせる」は、本事業で育成すべきメンターの態度とは無関係である。したがって、「3、『どんなことを調べてみたい?』と聞き、なぜそれを調べてみたいのかも尋ねる」「4、『何のために調べるのかな?』と聞き、調べる目的をはっきりさせて調べることを考えさせる」の数値が事後で「そうする」方に偏ると育成すべきメンターにふさわしい態度が向上したこととなる。回答人数と平均値を見ると、「そうする」方に偏ったため、「子どもたちが自ら思考したり試行することをうながす態度」の向上が見られたといえる。
●メンター育成講座を受講し実際にレゴEV3 のプログラミング講座でメンターを務めた高校生の感想(抜粋、書かれたママ)
これらの感想から、高校生メンターたちは、メンターとしての役割を理解し、小学生のグループを前に、どうにか役割を果たそうと悪戦苦闘しながら、受講者の悩みや問題に寄り添うことができるメンタリングの知識とスキルや、受講者の思考や気づきを活性化させるコーチングスキルの意義を体験的に理解していったことが見て取れる。本事業でのメンター育成はその目的を達成したといえる。
なお、後述の通り、総務省の教育クラウド・プラットフォームを利用した遠距離間でのメンター育成方法に課題が残ったが、他の方法での代替などによって、宮城県女川・香川県豊島・茨城県古河の3地域で、それぞれ十分なスキルを持ったメンターを育成することができた。
保護者の反応としては、「プログラミング教育の目指すゴールを実感できた。」「子どもが集中して学習できる内容がプログラミングにあることに気づけた。」「プログラミングを通して思考が可視化されていると気づいた。」といった感想があげられる。またアンケート結果は下記の通りである。
以下は、レゴEV3 のプログラミング講座で習得すべき知識や理解項目について保護者に行った、事後アンケートの結果である。
子どもの変化について「変わらない」と回答した保護者が1名いるものの、ほとんどの保護者がレゴEV3 のプログラミング講座で習得すべき知識や理解項目について、子どものスキルが高まり講座はスキルアップに効果的だと評価していることがわかる。
以下の表は、レゴEV3 のプログラミング講座で、子どものどのようなコンピテンシーが向上したのかを保護者にたずねたアンケートの結果である。黄色はポジティブ、青色はネガティブな評価である。
記述力は、本講座の学習活動とは無関係であるため向上の実感は少ない。課題発見力について「自分の身のまわりや社会にある課題」を発見するという条件がはいると向上実感が低いことが分かる。もっと児童の生活実態に近接した課題設定が必要だといえよう。
役割認識や、傾聴力、学習力に向上の実感が現れており、それらのコンピテンシーの向上に資するプログラムだったと、こどもの姿から保護者が実感していることが見て取れる。
本校の数学科、情報科教員からは、数学や情報が目指すプログラミングとの違いに驚いたとの感想が寄せられた。
また、奈良市内の小学校教員でメンターとして参加した方や見学に来られた方々からは、「協同的な学びで社会的課題を解決し、しかも目の前でロボットが実際に動く学習活動は、小学校のプログラミング教育として非常に魅力的」との評価を多くの方々からいただいた。一方で、「これだけの時間を年間指導計画の中に位置付けるのは実質的に難しい。夏休みや放課後の学習クラブならば可能かもしれない」との意見もいただいた。
教育委員会としては、新しい学習指導要領にどのようにプログラミング教育が位置付くのかに関心があるようであった。
本事業THE NARAJO PLAN では、高市早苗総務大臣が、2016年11月23日に奈良女子大学附属中等教育学校で開催された地域(奈良市)の小学校5年生向けのプログラミング講座を視察した。その際の会見の大臣のコメントおよび総務省情報流通行政局情報通信利用促進課御厩祐司課長、茨城県古河市教育委員会参事兼指導課長の平井聡一郎氏のコメントが本事業への評価そのものであるといえる。
●高市大臣コメント(抜粋)
●御厩課長、平井氏のコメント(抜粋)
なお、高市大臣の視察時に奈良市長仲川げん氏、奈良市教育長中室雄俊氏、奈良女子大学学長今岡春樹氏が臨席したとおり、奈良市および奈良女子大学の理解と支援のもとに本事業は展開された。
1事業開始にあたって
連携協力校に本実証事業の趣旨を正確に伝えることが難しかった。特に、女川向学館のスタッフの方々には、東北地区での採択ということが負担感を与えることになり、心理的な不安を取り除くために直接対面で話し合うことが不可欠となった。
2クラウド活用によるメンター育成について
本事業では、女川向学館と三和東中学校で活動するメンター候補者が、まずは教育クラウド・プラットフォームに実装した「メンター育成講座動画コンテンツ」等を視聴してメンターとしての知識とスキルを学びつつ、すでに直接対面で育成された奈良のメンターからのschool Takt 等の共同学習ツールを用いた「作成したプログラムの共有によるフォローアップ」、およびグループチャット機能での質疑応答とメンタリングを受け、教育クラウド・プラットフォームを活用して遠隔地にいながらにしてメンター候補として育成されることを目指したが、下記の2点で課題が残った。
ednityでのフォローアップ
1メンター育成にあたって
「教えないで教える」ということの意味をメンターが理解することは可能だが、小学生や中学生を主体的に協同的に活動させるためには、実際の講座運営や小中学生グループのサポートの経験を何度か積むことが重要であり、コーチング理論を学んだ上で実習の経験が不可欠である。しかし、奈良では3 回、三和東ではさらに多くの講座を開くことができたが、女川や豊島では2回しか講座を開くことができなかった。学校や地域の事情によって講座の開催回数が少なくなってしまったことが反省点である。
また、クラウド利用に関しての反省点は上記「4.1実施にあたって直面した困難」で述べたとおりである。そのため、当初予定したメンター育成の3 つの方法の比較検証ができなかった。
2プログラミング講座実施にあたって
レゴEV3 の講座でもpython 講座でも、知識理解のレクチャーと実習のレクチャーのバランスをとることが難しいと感じた。難しさの要因は「目の前の受講生たちの関心意欲の講座による違い」や「ふだんの学習態度の把握が事前にはできにくい」ことにある。そのため、A 講座とB 講座で知識理解のレクチャーのボリュームが同じでもB 講座の受講生たちが集中力を失ってしまうといったことが起きた。対象が小中学生であることから、事前に十分に配慮をして臨んでもそのようなことが生じるため、今後は事前の情報の収集と講座当日の柔軟な対応がより求められる。
1費用面について
本事業THE NARAJO PLAN では、プログラミングで動く「もの」が実物として目の前で動作すること、社会の仕組みが目に見えることを重視し、レゴEV3 を利用したが、たくさんの場所で講座を展開するためには、より安価で実施できるプログラミング講座にするための方策、とくにロボットなどの実物の調査検討が必要である。あるいは、予算獲得の方策を練ったり、国や自治体への予算措置の働きかけが必要である。
2メンター育成にあたって
「4.1実施にあたって直面した困難」で述べた通り、動画コンテンツの視聴に関し、教育クラウド・プラットフォームの利用に際して手順が多く、視聴が難しかった。また、クラウドにあげられるコンテンツのデータ容量が少ないために、鮮明な動画を視聴することができなかった。そのため、YouTube での視聴で代替した。school Takt の利用についても手順が多く利用が難しかった。そのため、教育用SNSのednity の利用でフォローアップを行った。
今後、教育クラウド・プラットフォームの改善を待ちたいが、事前にSkype などを通じて、教育クラウド・プラットフォームの利用のレクチャーをすることにより、改善が図れる可能性もある。実際に豊島小中学校のプログラミング講座開催時にSkype を用いたフォローアップをおこなっており、十分にフォローアップできる手ごたえを感じた。
本事業の反省点を踏まえ、より丁寧で効果的な遠距離間でのメンター育成の方策を講じていくことができると確信している。
Skype でのフォローアップ
1奈良県内および近畿圏内での展開
今後は、奈良市教育委員会だけでなく、奈良県教育委員会の協力を得て、小学生や中学生、高校生も含めてプログラミング教育の普及を目指す。すでに奈良県教育委員会では、夏期休業を利用して、県内国公私立の高校生を対象とする「THE NARAJO PLAN」を実施する方向で検討が進んでいる。さらに、三重県名張市や奈良県大和郡山市からも「THE NARAJO PLAN」実施の依頼があり、奈良県を中心として近隣県への展開を構想している。
2教育サービスの地域間格差解消に貢献するメンター育成
本事業THE NARAJO PLAN でのもう一つのねらいである、ICTの利活用による地域間格差解消への貢献をさらに進めていく予定である。
教育クラウド・プラットフォームの利用には課題が残ったものの「4.3 モデル普及に向けた改善案」で示した通り改善は可能であり、なによりも、宮城県女川で地元の社会人(若者)が、地元の社会的課題解決とリンクする形に本事業のプログラミング講座をデザインしてくれたことは大きな成果であり、今後の展開につながる観点を示してくれたといえる。
東北地区に関しては、奈良女子大学附属中等教育学校の有志生徒が、2011 年の東日本大震災発生時から取り組んできた復興支援活動ともリンクする取り組みの一つにプログラミング教育を位置づけ、女川だけでなく、気仙沼、石巻、福島への展開を検討する。特に気仙沼では、気仙沼の湾内に位置する大島の「島の学校」とのコラボレーションの可能性を探っている。
3奈良女子大学附属中等教育学校の特性を生かした展開
奈良女子大学附属中等教育学校が中等教育学校であることのメリットを活用して、全国の連携型中高一貫教育校(各都道府県の僻地に設立されている場合が多い)と連携し、総務省の教育クラウド・プラットフォームを活用することで、プログラミング教育の普及に資する実証事業を展開する。