生活保護に関する行政監察結果(要旨)
勧告日:平成8年12月17日
勧告先:厚生省
【実施時期等】
〇
実地調査時期:平成7年12月〜8年3月
〇
対象機関 :厚生省、都道府県(15)、政令指定都市(7)、市区(30)及び福祉事務所(52)
〇
担当部局 :行政監察局、管区行政監察局(7)、行政監察事務所(8)
【監察の背景事情】
〇
生活保護の被保護者数は、平成5年度までは減少傾向。6年度は横ばい(被保護者数88万5千人、生活保護費1兆4千億円)。資産調査等を適切に行うことや福祉事務所における保護事務の組織的な実施を図ることが課題。
〇
生活扶助額等を定めた保護の基準は、地域の生活水準の変化や高齢化の進行を十分に踏まえて設定することが必要
【主な勧告事項】
1 福祉事務所における保護事務の適切化
(今回、52福祉事務所における被保護世帯 1,960世帯を抽出調査した結果、不正受給3件を含め福祉事務所の事務が不適切な例が 102件)
(1) 要保護者に対する事務の適切な実施
〇
厚生省は、保護決定時における要保護者の手持金・保険の保有容認限度額の判断基準を未策定。福祉事務所におけるこれらの取扱いは区々
保護決定時の手持金の保有容認限度額は、最低生活費の3割又は5割と区々
保険の保有を認めないもの、認めるがその限度額は区々
〇
厚生省は、預貯金及び保険の調査区域・時期に係る基準を未策定。福祉事務所におけるこれらの取扱いは区々
保護決定時の預貯金・保険調査の区域は、所管区域全域、一部区域、全く定めていないものと区々。また、すべての福祉事務所が保護開始後の預貯金・保険調査の区域・時期を定めていない。
(保護決定時に保有を認めた生命保険から遺族給付金(433万円)が支払われていたが、保護開始後に調査を行っておらず、未把握の例)
〇
不動産・自動車、扶養能力、収入の調査及び他法他施策の活用が不適切
ローン付き住宅の処分を指導した後長期間未確認で、未処分の例
自動車の処分を指導した後約4年間処分状況を未確認の例
就労収入(15万 4,000円)がありながら、収入がないとする申告に基づき処理している例
〈勧告要旨〉
1)
保護決定時における手持金及び保険の保有を容認する限度額の判断基準を策定し、保護の実施機関に示すこと。
2)
以下の事項について定期的に調査を実施するシステムを盛り込んだマニュアルを作成し、その上で、保護の実施機関に対し、これらの調査及び検討を的確に行うよう指導すること。
i)預貯金及び保険、ii)不動産及び自動車の保有、iii)扶養能力、iv)他法他施策、v)収入
(2) 福祉事務所の業務運営の見直し
〇
厚生省は、都道府県及び政令指定都市(以下「都道府県等」という。)に対し、保護事務の基本的事項を網羅した運営方針を福祉事務所に毎年度作成させるよう指示
22都道府県等のうち、12は独自に福祉事務所運営方針作成のための指針(以下「指針」という。)を作成しているが、10は未作成
〇
運営方針に明記していないこともあって、保護に係る事務に適切を欠く福祉事務所あり
監査の指摘事項の具体的な改善方策を明記していないことから、繰り返し監査で指摘を受けている事項が未改善の例
レセプトの審査・点検の実施を明記していないことから、実施していない例
不正受給防止対策に係る要保護者への届出事項や罰則規定の周知方策等を明記していないことから、周知が不十分な例
〇
要保護者が生活保護制度の内容を十分に承知していなかったことなどから、保護に至らなかった例等あり
運営方針に、生活保護制度の周知、生活状況の把握、保護申請手続の教示、必要に応じた職権保護(生活保護法第25条)などの事務処理に係る各事項を盛り込んでいる福祉事務所は皆無
〈勧告要旨〉
1)
都道府県等に対し、次のことを指導すること。
i)
管内福祉事務所において具体的に講ずるべき対策を包含した指針を毎年度作成し、これを福祉事務所に示すこと。
ii)
運営方針に具体的に講ずるべき対策等を盛り込むよう福祉事務所を指導すること。
また、指導監査を行うに当たっては、福祉事務所における業務運営が運営方針に基づき的確に行われているかどうかを評価すること。
2)
生活保護制度の周知、生活状況の把握、保護申請の手続の教示や職権保護に関する手続等を網羅したマニュアルを作成し都道府県等に示した上で、都道府県等の指針及び福祉事務所の運営方針に、生活保護制度の周知から職権保護に至る事務処理に係る各事項を盛り込むよう指導すること。
2 保護基準の見直し等
≪制度の概要≫
〇
生活扶助の基準額は、市町村を単位とした級地(6区分)ごとに設定。現行の級地の指定は、昭和59年全国消費実態調査結果や各種指標等を踏まえて、昭和62年4月に実施
≪調査結果≫
〇
平成元年及び6年の全国消費実態調査結果によると、現行の級地区分と消費支出額の実態との格差が拡大しているとみられる。
昭和59年以降格差が生じ、平成6年の同調査結果でみると、同一都道府県内で、基準額の低い市の1人当たり消費支出額が、基準額の4区分高い市のそれよりも高くなっている例
〇
紙おむつの基準額は、月2万1,000円以内とされているが、入院中の高齢者の紙おむつの使用額が月平均3万円で、毎月不足が生じている例
〇
遠近両用眼鏡の給付の可否について厚生省の指導が不明確なため、遠近両用眼鏡を給付している例がある一方、これを給付せず遠用及び近用の2つの眼鏡を給付している例
〈勧告要旨〉
1)
前回指定後の社会状況の変化、「全国消費実態調査」の結果等を踏まえ、一定期間(例えば5年)ごとに級地の指定を見直す仕組みを導入する等生活扶助の在り方について検討すること。
2)
高齢化の進行を踏まえ、被保護者の福祉に資するため、例えば、おむつ費の限度額や遠近両用眼鏡の給付など各扶助の基準額及び品目を見直すこと。
<その他の勧告事項>
〇
最低生活費認定事務等の適切な実施
〇
自立助長対策の推進
【資料編】
1 保護費支払額の推移
2 被保護人員及び保護率の推移
3 世帯類型別被保護世帯数の構成比の推移
参考1 生活保護費(扶助費支給額)の算定方法
参考2 最低生活費の体系
行政監察局
トップページ
行政監察結果
総務庁
トップページ