安心して電気通信サービスを利用できる環境の整備に向けて−「電気通信における利用環境整備に関する研究会」報告書−
近年、情報通信環境の変化に伴い、わいせつ情報の流通など、インターネット
上の情報流通の在り方が問題になっています。また、電気通信市場の競争の進展
やサービスの高度化・多様化に伴い、電気通信サービスの利用者が安心してサー
ビスを利用できるために、苦情処理・相談体制の整備などの環境整備が必要にな
っています。
こうした問題への対応を検討するため、郵政省では、平成8年(1996年)
9月から、「電気通信における利用環境整備に関する研究会」(座長:堀部 政
男一橋大学教授)を開催してきましたが、このたび、その報告書が取りまとめら
れました。
報告書は、(1)「インターネット上の情報流通について」
(2)「電気通信サービスにおける苦情処理・相談体制について」
の二つに分かれています。
それぞれの報告書の概要は別紙1、2のとおりです。
連絡先:電気通信局電気通信事業部
電気通信利用者相談室
(担当:斉藤補佐、吉田係長)
電 話:03−3504−4831
別 紙 1
「インターネット上の情報流通について」の概要
−電気通信における利用環境整備に関する研究会報告書−
1 インタ−ネットの機能と可能性
インタ−ネットは、個人の情報発信と情報アクセスの機会を世界規模で飛躍
的に拡大させ、社会の情報伝達の仕組みを根本的に変革する可能性を秘めてい
る。
2 インターネット上の情報流通の問題点
我が国では、インターネット上のわいせつ情報の流通について有罪判決が出
され、また、諸外国でも、幼児ポルノ、名誉毀損、著作権侵害等の問題事例が
発生している。
インタ−ネット上の情報流通に関しては、1.個人の情報発信が容易である
反面、発信者にプロの職業倫理が働かない場合がある、2.匿名で容易に発信
できるため、無責任な情報が流通する場合がある、3.悪質な情報が世界規模
で同時的に伝播・拡散する等の問題点がある。
3 論点
(1)インタ−ネットに対する現実社会のル−ルの適用
インタ−ネット上の情報流通についても現行法が適用される。
(2)インタ−ネットの法的位置づけ
インタ−ネットは、電気通信事業法をはじめとする通信法体系によって
規律されているが、不特定多数の利用者に公開された「公然性を有する通
信」については、現行の通信・放送の法体系とは別の第三のカテゴリ−を
設ける必要があるという意見がある。
(3)インタ−ネットにおける通信の秘密の保護
「公然性を有する通信」については、発信者には通信内容を秘密にする
意思がない場合が多いと考えられる。インタ−ネットの利用に着目して、
通信内容にどこまで秘密性を認めるべきか検討する必要がある。
(4)インタ−ネット上の情報流通のル−ル化と表現の自由の保障
インタ−ネット上の情報流通のル−ル化に当たっては、表現の自由の保
障に十分留意し、国際的な連携を図りつつ、コンセンサスを得ながら進め
ることが重要である。
(5)具体的なル−ル化の問題点
表現の自由の確保、国際的な基準の必要性を考慮すると、具体的基準を
定めることは容易ではない。その際、「刑事処罰の対象となるか又は民事
上不法行為を構成する等の違法な情報」と「違法の程度に至らない有害な
コンテント」に区別して議論する必要がある。
(6)インタ−ネットの利用に関する責任と対応
情報発信者としては、原則として、発信した情報に関する法的責任を負
うことを十分認識する必要がある。また、プロバイバ−が、約款に基づき
ホ−ムペ−ジ等における違法な情報の削除等を行うことは一つの有効な対
策として評価できる。
4 諸外国におけるインタ−ネット上の情報流通のル−ル化の動向
(1)アメリカ
通信法223条の「下品な(indecent)」条項について、2つ
の連邦地裁で憲法修正1条に反するとした違憲判決があり、現在連邦最高
裁判所で審理中である。
受信者側で特定の情報を選択的にブロックする技術開発を推進している。
(2)イギリス
プロバイダ−の団体等が自主ガイドラインを策定し、1.違法な情報に
関する苦情処理、2.評定システム(rating system)の開
発支援等を行う。
(3)フランス
OECDのワ−キンググル−プ会合において、インタ−ネットに関する
国際協力協定案を提出した。
(4)ドイツ
プロバイダーの法的責任を定める「マルチメディ法案」を政府決定した。
プロバイダーの団体が苦情処理手続きを定めた自主規制提案を公表してい
る。
(5)国際機関
リヨンサミット、OECD、ITU、EU等で議論が行われている。
5 対応策の在り方
インタ−ネット上の違法又は有害な情報の流通への対応策としては、1.通
信内容に関するルール、2.通信方法に関するルール(ソフトウェアによるブ
ロックのようなアクセスの制限等)、3.通信主体に関するルール(情報発信
者の責任、プロバイダーの責任)等が考えうるが、これらは、(1)技術的対
応と(2)制度」的対応とに分けて考えることができる。
6 当面の対応策
インタ−ネット上の情報流通のル−ル作りは、表現の自由の保障と関連する
ため慎重に検討する必要があり、法律による新たな規制は行うべきではないと
考えられる。
(1)国際連携の強化
インタ−ネット上の情報は国境を越えて流通するため、各国の文化、歴
史、法制度の相違を踏まえ、国際的な連携や協力を行うことが重要である。
国際的な統一ル−ルは、各国が合意できる必要最小限のものとし、具体
的運用は、各国の法制度を最大限尊重することを基本原則とすべきである。
また、明らかに違法であるものに関して基準を設けるという考え方を基本
とすることが望ましい。
当面は、OECDの場でモデルを検討することが考えられる。また、E
U、アジア地域等のブロックレベルでも検討を開始することが望ましい。
(2)各国における自主的な取組みの促進
既にイギリス等で取組みがなされているが、プロバイダ−の団体による
自主的なガイトラインの策定を促進することが望ましい。自主ガイドライ
ンを作成するに当たっては、有識者、利用者代表の参加を得る等して議論
の透明性を確保しつつ、ガイドラインを作成することが望ましい。
各国の自主ガイドラインを策定している業界団体間で、情報交換を行う
とともに、各国の自主ガイドラインの実効性を高めるための国際連携を図
ることが重要である。
(3)技術的対応策の連携強化
各国の法制度の相違を前提とした上で、発信者の表現の自由と通信の秘
密の保護を最大限尊重しつつ、受信者の適切な選択の機会を確保する方法
としては、特定の内容の情報を受信者が選択的にブロックできる仕組みを
構築することが有効である。フィルタリング・ソフトウェアとしては、E
Uも支持を表明しているPICS(the plat form for
Internet Content Selection)をベ−スとし
た国際的連携が強化されることが望ましい。
早急に、民間レベルの有識者による倫理委員会を設けて、我が国の格付
け基準について検討することが望ましい。具体的には、モデル地域を選定
して、格付け基準を策定し、実証実験を行うこと等が有効である。
各国の評価システムの比較や各国の倫理委員会との情報交換等を行う必
要がある。
(4)苦情処理体制の整備、情報提供の充実
表現の自由との関係から、不適切な情報流通に関しては、事後的措置と
して苦情処理体制を整備することが重要である。
当面の措置としては、各国が民間事業者団体レベルで苦情処理体制を整
備することが望ましい。また、各国の苦情処理機関のネットワ−ク化を図
ることも検討する必要がある。
(5)情報社会教育の充実
個人の情報社会に対する影響力や依存度がますます増大するため、利用
者のモラルの向上を図ることが重要であり、そのために情報社会教育を充
実させることが必要である。
別 紙 2
「電気通信サービスにおける苦情処理・相談体制の整備について」の概要
−電気通信における利用環境整備に関する研究会報告書−
1 電気通信サービスにおける苦情処理・相談の現状
(1)多様な苦情・相談の発生
電気通信サービスにおいては、多様な苦情・相談が寄せられている。こ
うした苦情・相談は内容とサービスの種類により分類することができる。
(2)苦情処理・相談の現状
1.電気通信事業者における苦情処理・相談
電気通信事業者における苦情処理・相談では、「事業者の利用者に対す
る情報力や交渉力の格差により生ずる苦情」や「電気通信市場の特質等に
起因する苦情」、「電気通信の利用の在り方に関する苦情」について、解
決しないものが多い。
2.郵政省における苦情処理・相談
郵政省では、電気通信利用者相談室等を設置して、電気通信サービス全
般に関して苦情、要望、相談等を受け付けているが、窓口の存在がまだ利
用者に浸透していないものと思われる。
3.消費生活センター等における苦情処理・相談
契約や料金の支払い等に関する苦情・相談等は消費生活センター等に寄
せられる場合もあるが、電気通信サービスに関して専門知識が十分でない
場合がある。
2 諸外国の電気通信サービスに関する苦情処理・相談体制
(1)アメリカ
1.FCC(連邦通信委員会)における苦情処理・相談体制
改正通信法208条では、FCCにおける苦情処理手続を規定している。
具体的には「非公式な苦情の申出」と「公式な苦情の申出」に分けて取り
扱われている。
FCCでは、利用者援助室が苦情・相談の窓口となっており、1995年
には約6万4千件の苦情・相談を受け付けている。さらに、1996年7
月には電話により利用者の苦情・相談を受け付けるナショナル・コール・
センターを開設している。
2.カリフォルニア州公益事業委員会における苦情処理・相談体制
苦情処理手続については、公益事業委員会規則で規定しており、FCC
における手続と同様に「非公式な苦情の申出」と「公式な苦情の申出」に
分けられている。公益事業委員会内では、消費者問題担当室が窓口となっ
ている。電気通信事業に関する苦情は、公益事業に関する苦情全体の中で
約6割を占めている。
(2)イギリス
1.OFTEL(電気通信庁)における苦情処理・相談体制
OFTEL長官は、1984年電気通信法49条に基づき、電気通信に
関する苦情や相談の内容について自ら審査することができ、消費者保護に
力を入れている。OFTELには、年間約3万〜4万件の苦情・相談が寄
せられている。
2.BTにおける苦情処理・相談体制
BTは、1992年競争・サービス(公益事業)法に基づき苦情処理手
続を策定し、公表している。また、BTは、顧客に対する規約の中で、顧
客サービスに関する保証等を明記している。さらに、迷惑電話対策として
マリシャスコールビューローを設けて、対応している。
3.その他の苦情処理・相談体制
この他、ACTs(電気通信に関する諮問委員会)、TACs(電気通
信諮問委員会)、ICSTIS(電話情報サービス基準監督独立委員会)
等が案件に応じて苦情・相談を受け付けている。
3 他のサービス分野における苦情処理手続について
我が国において、電気通信サービス以外の他のサービス分野では、法律によ
って苦情処理手続を整備している例がある。それらは、大きく分けて、事業者
団体等の公益法人が法律により指定され苦情処理を行っている例と、国が法律
により苦情の申出を受け付けて苦情処理を行っている例がある。
事業者団体等の公益法人が法律により指定され苦情処理を行っている例は金
融、運輸、特殊取引関係のもの等、多数ある。国が法律により苦情の申出を受
け付けて苦情処理を行っている例としては、電気事業法、ガス事業法や家庭用
品品質表示法等、消費者保護の目的等で特別の立法が行われている場合に規定
されている。
4 電気通信サービスにおける苦情処理・相談体制の整備の在り方について
(1)電気通信サービスの性質に対応した苦情処理・相談体制の整備の必要性
電気通信サービスにおける苦情処理・相談体制の整備にあたっては、電
気通信サービスの性質に対応して行う必要がある。
(2)事業者における苦情処理・相談体制の充実
1.苦情処理・相談手続を確立し、利用者にその周知徹底を図ること、
2.苦情の解決や防止に関して行政機関や他事業者等との連絡体制を強化
すること、3.研修の実施等により苦情処理・相談担当者の対応を向上す
ること、が必要である。
(3)苦情処理・相談の充実を図るための体制の整備
現状で処理できていない苦情の解決を図る体制の整備を進めるためには、
公平・中立な立場に立ち、電気通信サービスに関する苦情処理・相談等を
専門的に行うセンターを設け、センターが一定の調査を行い、苦情の処理
等に当たることが適当である。こうした体制の整備は、各事業者における
苦情処理・相談業務の向上・効率化につながり、消費生活センター等で解
決の困難な苦情の処理を行うことも可能となる。
上記のセンターを設置するに当たっては、苦情処理・相談に関する業務
の他、利用者や行政、事業者への情報のフィードバック、電気通信サービ
スの利用の改善のための啓発活動や広報活動、調査・研究等を行うことが
望ましい。
センターが業務を行う上では、1.苦情処理手続の透明化・明確化、2.
利用者等のプライバシー保護のための業務上の秘密の保持、3.センター
の調査等に対する、通信の秘密の保護に抵触しない範囲での関係事業者の
協力の確保、4.センターの業務の公平性・中立性の確保、が必要であり、
こうした条件を確保するためには、法律に関連の規定を置くことが適当で
ある。
(4)行政における課題
郵政省は、センターの業務の中立性の確保やセンターに対する必要な情
報の提供等を行うことが必要である。また、今後は、苦情・相談について
国際的な対応が必要となることが予想されるため、国際的な連携を深めて
いく必要がある。
苦情、要望、相談等を受け付ける郵政省の窓口機能は、引き続き充実さ
せていく必要があり、1.窓口の周知、2.必要な情報提供等による苦情
処理・相談手続の透明化、3.各地の消費生活センターや消費者団体等と
の連携の強化、4.事業者との連携の強化、等を図ることに留意する必要
がある。