インタ−ネット上の情報流通−電気通信における利用環境整備に関する研究会−報告書





               平成8年12月
              郵政省電気通信局


               は じ め に

 インタ−ネットは、新たなライフスタイルの実現や企業活動の高度化等21世
紀に向けた政治、経済、社会、文化のあらゆる領域におけるフロンティアを開拓
する可能性を有しているメディアであるが、その一方で、インタ−ネットにおけ
るわいせつ情報、他人を誹謗中傷する情報等違法又は有害な情報の流通が社会問
題となっている。このようなインタ−ネット利用におけるいわば影の部分に適切
に対応しながら、インターネットをマルチメディア時代を担う中核的メディアと
して発展させていくことが大きな政策課題となっている。
 この研究会では、インタ−ネット上の情報の流通に関して、できるかぎり多く
の意見を聞くため、有識者、インタ−ネット・プロバイダ−、インターネット利
用者から意見を聞くヒアリング、インタ−ネット等を通じたアンケ−ト調査、イ
ンタ−ネットを利用したことのない人を含む一般利用者に対するアンケ−ト調査
を実施した。
 研究会に寄せられた様々な意見を参考に、この報告書を取りまとめたが、我が
国においては、インタ−ネットの利用に関して、本格的な議論が開始されたばか
りであることから、諸外国における議論や対応策等を踏まえ、論点を整理するこ
とに力点を置いた。また、研究会としては当面の対応策をまとめたが、今後、引
き続き検討すべき課題が多い。インタ−ネット上の情報流通の在り方については、
国民的議論が必要であり、本研究会の報告書が契機となって、いっそう議論が深
まり、国民的コンセンサスが形成されることを期待する。本報告書に対して、各
方面から幅広く意見が寄せられることを望みたい。


                目 次
はじめに

1 インターネットの機能と可能性

2 インターネット上の情報流通の問題点

3 インターネット上の情報流通に関する論点
 (1)インターネットに対する現実社会のルールの適用
 (2)インターネットの法的位置づけ
 (3)インターネットにおける通信の秘密の保護
 (4)インターネット上の情報流通に関するルール化と表現の自由の保障
 (5)インターネット上の情報流通に関する具体的ルール化の問題点
 (6)インターネット上の情報流通に関する責任と対応

4 諸外国の動向
 (1)アメリカ
 (2)イギリス
 (3)フランス
 (4)ドイツ
 (5)オーストラリア
 (6)シンガポール
 (7)国際機関における議論

5 対応策の在り方
 (1)技術的対応
 (2)制度的対応

6 当面の対応策
 (1)国際連携の強化
 (2)各国における自主的な取組みの促進
 (3)技術的対応策の連携強化
 (4)苦情処理体制の整備、情報提供の充実
 (5)情報社会教育の充実

参考資料
インターネット利用に関する意見募集、インターネット利用に関するアンケート
調査結果



1 インタ−ネットの機能と可能性

(1)我が国のインタ−ネットの利用者は、平成7年7月に約160万人、12
  月に約270万人、平成8年7月には約500万人と推定されており、特に
  この1年間で爆発的に利用が拡大している。国内のインターネット接続サー
  ビス提供事業者(以下「プロバイダー」という。)は、平成8年10月現在
  1357社であり、前年同期の8倍に達している。平成8年(1996年)
  10月16日に出された「インターネット上の違法・有害なコンテント」に
  関する欧州委員会の報告(以下「EU委員会報告」という。)によれば、現
  在世界の約160か国で約6000万人の利用者がいるものと推定されてお
  り、世界規模で急速に利用が進んでいるということができる。
   インターネットの急速な普及に伴い、家庭生活や学校教育においても、電
  子メ−ルやホームページの利用が始まっている。また、企業においても、ホ
  −ムペ−ジの開設やイントラネットの構築の動きが急速に進んでいるほか、
  サイバ−シティの建設、各種電子商取引の実験等も開始されている。これに
  伴い、ネットワーク上の情報の安全性を確保するための暗号技術の活用や、
  ネットワーク上で通信の相手方や通信内容の真正性を確認するいわゆる認証
  に関する制度の検討等が行われている。

(2)インタ−ネットは、個人の情報発信と情報アクセスの機会を全世界規模で
  飛躍的に拡大させる点で、出版、通信、放送といった従来のメディアと大き
  く異なる特徴を有しており、政治、経済、社会、文化のあらゆる領域におい
  て、情報伝達や世論形成の仕組みを根本的に変革する可能性を秘めている。

  1.個人の情報発信、情報アクセスの機会の拡大
    15世紀にグーテンベルグが印刷機を発明して以来、雑誌、新聞、書籍
   等の印刷物による情報発信は飛躍的に発展してきた。また、19世紀に発
   明された電信、電話等の通信技術は、特定人の間で時間と場所を超越した
   リアルタイムの情報伝達を可能とした。さらに、20世紀に入って発展し
   たラジオ、テレビのような放送メディアは、優れた同時性と伝達力を駆使
   して、不特定多数の人に対する大量の情報伝達を可能とした。その一方で、
   特に放送メディアにおいては、電波の有限希少性等のため、少数の者が情
   報発信の機会を得ることができるにすぎない。一般に個々人がこれらのメ
   ディアを通じて自由に情報発信を行うことは極めて困難である。また、情
   報発信の機会や主体が限定されることの反面として、個人がアクセスする
   ことができる情報は、多くの場合、マス・メディアによって編集された情
   報に限られる結果となる。
    インターネットは、従来の出版、通信、放送といったあらゆる形態の情
   報発信機能を同時に併せ持つという特質を有している。個人は、いつでも
   自由に自ら作成した情報を発信し、又は第三者が作成した情報を再発信す
   ることによってコンテントの提供者となることができる。また、個人は、
   いながらにして世界中から発信された情報にアクセスすることが可能であ
   り、このような発信、受信、再発信の繰り返しによって、個人がアクセス
   することができる情報は飛躍的に増大する。こうして、インターネットは、
   高度情報通信社会における個人の基本的人権というべき「情報発信権」、
   「情報アクセス権」を実現する核となるメディアと位置づけることができ
   る。

+−【参考】−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
| グローバルな知的社会の構築に向けて−情報通信基盤のための国際指針−  |
| 電気通信審議会答申(平成7年5月)より抜粋              |
|「 新たな基本的人権としての「情報発信権」及び「情報アクセス権」の保障 |
|  個人や組織の活動が情報通信に依存する度合いが高まるにつれ、情報面での|
| 格差が、社会・経済面での格差に直結する。このため、全ての人々に対して、|
| 非差別的に、かつ、適切な価格でネットワークを利用して情報を発信し、また|
| 、情報にアクセスすることが保障されなければならない。         |
| 21世紀に向けたグローバルな知的社会においては、これらの「情報発信権」|
| 及び「情報アクセス権」を基本的人権とも位置づけて、その内容の充実を図る|
| ことが必要である。 」                        |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

  2.ネットワークのグローバル化
    インタ−ネットは、政府機関や研究機関ばかりでなく、様々な企業や個
   人によって幅広く利用されており、その利用者の多様性、膨大な情報量の
   点で他に類を見ないネットワークとなっている。インターネット上の情報
   は、ネットワークを通じて、瞬時に国境を越えて伝搬・拡散する。インタ
   ーネットは、個々人が発信した情報を全世界の人々が瞬時に受信又はアク
   セスすることができる初のメディアである。

 
 【参考】
   郵政省が、平成8年11月8日から11月22日まで、インターネット等
  を通じて実施したアンケート調査(以下「利用者調査」という。)によれば、
  926名の回答者のうち773名(83.5%)が毎日インターネットを利
  用している。
   また、郵政省が、平成8年11月16日から25日まで、全国の20歳以
  上の男女を対象としたアンケート調査(以下「一般調査」という。)によれ
  ば、547名の回答者のうち52名(9.5%)がインターネットを利用し
  た経験がある。また、インターネットを利用したことがない人のうち、29
  3名(71.4%)が今後インターネットを利用してみたいと回答している。
   利用者調査と一般調査の結果については、本報告書末尾に参考資料として
  掲載している。


2 インターネット上の情報流通の問題点

(1)1で指摘したように、インターネット上を流通する情報は、政治、経済、
  社会、文化のあらゆる分野にわたっており、その大部分は合法的で有用なも
  のである。しかしながら、インターネットにおいても、他のメディアにおけ
  るのと同様に、犯罪の手段として悪用されたり、違法な情報が流通したりす
  る可能性があり、現に様々な問題事例が発生している。我が国では、これま
  でインタ−ネット上にわいせつ画像を流通させたことによって、刑法のわい
  せつ図画公然陳列罪で検挙された事例が発生している(注1)。諸外国にお
  いても、幼児ポルノ、他人のアドレスの盗用、ハッキング、個人の名誉や信
  用の毀損及び誹謗中傷等様々な問題が指摘されている(注2)。

(2)インタ−ネットについては、具体的には以下のような問題点が挙げられる。

  1.個人の情報発信が容易である反面、出版、新聞、放送等と異なり、発信
   者にプロの職業倫理が働かない場合がある。

  2.放送等と異なり、発信者に匿名性があるため、無責任な情報発信や違法
   行為が心理的に容易にできる面がある。

  3.違法な内容の情報があるサーバーから削除されても、別のサーバーに簡
   単かつ迅速にコピーできるため、情報が流通し続ける可能性が大きい。

  4.ある国が国内法によって違法な情報の流通を禁止しても、別の国で違法
   でなければ、その情報が世界中を流通する。ある国が違法な情報の世界的
   流通を制限した場合には、特定の国の法が情報流通を阻害するという問題
   が発生する。

  5.特定のプロバイダ−が違法な情報の発信又は違法な情報へのアクセスを
   制限しても、他のプロバイダ−を利用することによって、当該情報を発信
   し、又はアクセスすることが可能である。
    したがって、インタ−ネット上の情報流通についてル−ル化を検討する
   場合には、ネットワ−クの発信側の入口と受信側の出口に着目する必要が
   ある。
    また、国際連携や国際協力を図ることが重要である。


               インタ−ネット
          ↓  +−−−−−−−−−+ ↓
  +−−−−−+    |         |    +−−−−−+
  | 発信者 +−−−−+         +−−−−+ 受信者 |
  +−−−−−+    |         |    +−−−−−+
             +−−−−−−−−−+

 (注1)平成8年2月1日、都内のプロバイダーの会員が、ネットニュースの
    中から入手したわいせつ画像を自己のホームページに掲載し、インター
    ネットの利用者が容易に閲覧できるようにしたとして逮捕され、4月2
    2日、東京地方裁判所において、わいせつ図画公然陳列罪(刑法175
    条)により、懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を受けた(その後
    確定)。
     平成8年9月30日、広島県内のプロバイダーが、自社のホームペー
    ジの中に、会員が作成したホームページへのアクセス回数のランキング
    を掲載し、ランキング部分をクリックすることによって、当該ホームペ
    ージに接続できるようにリンクを張ったという事案について、プロバイ
    ダーの幹部がわいせつ図画公然陳列罪の容疑で書類送検された(処分未
    了)。

 (注2)EU委員会報告は、違法又は有害なコンテントについて、保護法益に
    よって区分し、以下のように例示している。
保護法益 違法又は有害な情報内容の例
国家安全保障 爆弾製造、違法な薬物製造、テロ活動
未成年者の保護 不正販売行為、暴力、ポルノ
個人の尊厳の確保 人種差別
経済の安全・信頼性 詐欺、クレジットカードの盗用
情報の安全・信頼性 悪意のハッキング
プライバシーの保護 非合法な個人情報の流通、電子的迷惑通信
名誉、信用の保護 中傷、不法な比較広告
知的所有権 ソフトウェア、音楽等の著作物の無断頒布
  【参考】
   具体的に選択肢を挙げて、インターネットにおいて何らかの対応策が必要
  と思われる問題について尋ねた結果、利用者調査では以下のような順であっ
  た(複数回答)。
   1.ネットワーク上の詐欺(63.5%)
   2.取引に関する誇大広告、虚偽広告(48.1%)
   3.他人を中傷する情報の流通(44.5%)
   4.無断転用等の著作権の侵害(42.4%)
   また、一般調査では以下のような順であった(複数回答)。
   1.他人を中傷する情報の流通(73.3%)
   2.ネットワーク上の詐欺(66.5%)
   3.わいせつ情報(66.5%)
   4.取引に関する誇大広告、虚偽広告(60.3%)


3 インターネット上の情報流通に関する論点
  インタ−ネット上の情報流通に関しては、表現の自由や通信の秘密の保護の
 観点から規制すべきではないという意見、他方、違法又は有害な情報の流通の
 禁止やプライバシ−保護の観点から規制を求める意見があるが、当研究会では
 以下のようにインターネット利用に関する論点を整理した。

(1)インタ−ネットに対する現実社会のル−ルの適用
   インターネット上で展開される仮想社会は、現実社会から切り離された特
  別の空間であり、現実社会のルールが及ばないとする意見もある。しかしな
  がら、仮想社会といっても現実社会とのリンケージなく捉えることは不可能
  であり、インターネット上の情報の流通に対しても、現実社会のル−ルは当
  然適用されると考えられる。具体的には、現実社会で違法なものは、インタ
  ーネット上の仮想社会でも違法であるというべきである。
   諸外国においても現実社会のルールがそのまま適用された例が見られる。
  アメリカでは、パソコン通信上で州を越えてわいせつ画像を流通させた者に
  対し、わいせつ物頒布罪等を適用して有罪とした連邦控訴裁判所の判例、イ
  ギリスではインターネット上に男児のわいせつ画像を掲載した神父が懲役6
  年の実刑判決を受けた例がある。
   なお、具体的な現行法の適用に当たっては、例えば、刑法175条の「わ
  いせつの文書、図画その他の物」に、有体物ではない「わいせつ情報」その
  ものが該当するか等様々な問題点が指摘されている。このような現行法の適
  用上の問題や現行法制度の再検討を行うことも今後の課題である。

 【参考】
   EU委員会報告の序論においても、「インタ−ネットでの『違法なコンテ
  ントの流布』については、『既存の法律を確実に適用するのは、加盟国の責
  任』であることが明確である。『オフラインで違法なものは、オンラインで
  も違法であり』(What is illegal offline 
  remains illegal online) 、既存の法律を執行す
  るのは、加盟国の責任である。」と述べられている。
   また、利用者調査においても、ほとんどの意見が刑法、民法をはじめとす
  る現行法の規制がインターネットに及ぶことを前提としており、インターネ
  ットに現行法の規制が及ばない旨を明確に述べた意見はなかった。

(2)インタ−ネットの法的位置づけ
   情報を伝達するメディアは、歴史の一定の段階で発明され、それぞれ独自
  の歴史を歩んできた。それとともに、それぞれの時代においてそれらに対応
  する法的枠組みが形成されてきた。今日、主要なメディアとなっているもの
  は、歴史的には、印刷・出版、通信、放送の順に登場し、それらに関する法
  が発達してきた。近年の情報通信技術の発達により、これらのメディアは、
  競合・融合化の方向にあるが、そのような中で新たにインタ−ネットが登場
  してきた。
   インタ−ネットは、公衆網や専用線を用いた通信形態の一種であり、プロ
  バイダ−も、第一種電気通信事業者又は第二種電気通信事業者であるので、
  電気通信事業法をはじめとする通信法体系によって規律されている。
   他方、インタ−ネットにおける情報を見ると、電子メールのような特定人
  の間の通信のみならず、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)のホームペー
  ジのように不特定多数の利用者に対する情報発信、ネットニュースのような
  不特定多数の利用者間の反復的な情報の受発信等、発信者が情報内容を一般
  に公開することを意図している場合がある。そこで、インタ−ネットの有す
  る情報提供形態に着目すると、現行の通信・放送の法体系とは別に、「公然
  性を有する通信」といった第三のカテゴリ−を設ける必要があるという意見
  がある。

  【参考】
   「電子情報とネットワ−ク利用に関する調査研究会」報告書(平成6年6
  月)においては、パソコン通信に関して、「電子掲示板及びフォ−ラム・S
  IGのように、個人が自由に情報の送受信を行えると同時に、1対1の情報
  の送受信を行う電話とは異なり、公然性を有するサ−ビスにおいて発生して
  いる課題について検討を行う」とし、「公然性を有する通信」という概念が
  用いられている。
   また、「21世紀に向けた通信・放送の融合に関する懇談会」報告書(平
  成8年6月)においても、「公然性を有する通信」の概念が用いられており、
  「従前、公然性を有する電気通信は、公衆に対する情報発信として、主とし
  て放送と位置づけられてきたが、近年、それ以外にも新たに公然性を有する
  電気通信が出現している。
   すなわち、情報発信力の向上、情報蓄積の高度化等により、パソコン通信
  の電子掲示板、インタ−ネットのホ−ムペ−ジ等通信としての基本的特性は
  有しながら実質的に通信内容の秘匿性がない、いわば、『公然性を有する通
  信』が登場している。」としている。

(3)インタ−ネットにおける通信の秘密の保護
  1.通信内容の秘密
    従来、インターネット上の情報については、電気通信事業法が保障する
   通信の秘密(4条)として保護されてきた。電子メールのような特定人に
   宛てた通信については、電話による通信と同様に、通信内容の秘密が保護
   される必要がある。しかしながら、インタ−ネットのホ−ムペ−ジのよう
   な「公然性を有する通信」については、発信者が不特定多数の者に対して
   通信内容を公開することを前提としているので、発信者には通信内容を秘
   密にする意思がない場合が多いと考えられる。
    そこで、インターネットの利用形態に着目して、通信内容にどこまで秘
   密性を認めるべきか検討する必要がある。

  2.発信者の匿名性
    電気通信事業法の通信の秘密については、通信内容ばかりでなく発信者
   の氏名等一定の範囲の外延情報についても保護の範囲に含まれると解され
   ている。インターネットにおいても、発信者の氏名、発信地等は通信の秘
   密に属する事項であると考えられる。また、今後「公然性を有する通信」
   という概念を導入し、通信内容については公開されたものと考えるとして
   も、発信者の住所・氏名等の通信の構成要素は秘密であるとする考え方も
   ある。
    インタ−ネットの利用者は、通常、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)
   のホームページの発信者名、ページのアドレス(URL)、電子メールや
   ニュース・グループのアドレスによって特定される。しかし、これらを匿
   名で利用することも可能であると指摘されている。
    一般に匿名による発信を許容することは、個人の情報発信の自由を確保
   することに役立つと考えられる。例えば、社会的弱者や少数者が、多数者
   による圧迫や制裁を回避して、意見表明の機会を保障するためには、匿名
   による表現は有用である。しかし、匿名による表現が濫用されると、無責
   任な情報発信が助長され、個人の情報アクセス権や自由で的確な世論の形
   成を阻害する要因となる可能性がある。特にホームページ等によって、不
   特定多数の者に対して情報を発信する場合、情報自体は公開されているこ
   とやその影響力の大きさにかんがみると、匿名による表現の自由は制約さ
   れてもやむを得ないという意見もある。
    今後、発信者の匿名性について、インターネットの利用形態に着目した
   保護の在り方を検討していく必要がある。また、例えば、匿名による表現
   によって、名誉を毀損された者が発信者を特定することを可能とする手段
   を設けること等、具体的な利益衡量によって、発信者の匿名性を制限する
   ことの是非についても検討する必要がある。

  【参考】
   利用者調査及び一般調査においても、発信者の匿名性に関する意見があっ
  た。
   ・メールアドレスやホームページアドレスから、発信者が容易に特定でき
    るようにすべきである。
   ・電話帳のように、利用者の住所、氏名、アドレス等を公開する仕組みを
    構築した上で、発信者が原則として氏名等を公開して、インターネット
    を利用するようモラル啓発を行ってはどうか。

(4)インターネット上の情報流通に関するルール化と表現の自由の保障
   インタ−ネット上の情報流通のル−ル化を検討する際、特に注意しなけれ
  ばならないのは表現の自由の保障との関係である。
   一般に、インタ−ネット上の情報流通についても表現の自由が保障される。
  これを前提として、自由な情報の流通と名誉・プライバシ−の保護、青少年
  保護等他の利益の保護とのバランスをどのように図るかが重要である。すな
  わち、インターネット上の情報流通における表現の自由は、無制限に認めら
  れるものではなく、他の人権の保障と同様に、他の利益との関係で必要最小
  限の制約を受ける。表現の自由が保障される場合と制約される場合との間に、
  一般的基準を設けることは容易ではない。したがって、具体的なル−ル作り
  に当たっては、個々の課題に即して、どのような保護法益に基づき、どのよ
  うに対応するかについて、社会的なコンセンサスを得ながら進めることが重
  要である。
   また、インタ−ネットの場合、情報が国境を越えて流通することから、国
  内的なコンセンサスのみならず国際的なコンセンサス作りが不可欠となり、
  問題がさらに複雑化している。
   インタ−ネット上の情報流通に対する法規制については、諸外国において、
  憲法上の問題が発生している。アメリカでは、平成8年(1996年)2月、
  1996年電気通信法502条によって改正された1934年通信法223
  条(以下「改正通信法223条」という。)に、インタ−ネット等における
  特定の情報の流通を規制する規定を設けた。これに対し、アメリカ市民自由
  連合(ACLU)を中心とした市民団体や大手パソコン通信事業者等は、改
  正通信法223条のうち、「下品な(indecent)」及び「明らかに
  不快な(patently offensive)」情報を規制する条項が
  憲法修正1条(表現の自由)に違反するとして提訴した。ペンシルベニア州
  東部地区連邦地裁は、6月11日、「下品な(indecent)」及び
  「明らかに不快な」(patently offensive)というう文
  言は、明確性に欠け違憲であるとして、執行を一時的に差し止める決定を下
  した(注)。司法省は、7月2日、この連邦地裁決定を不服として、連邦最
  高裁に上告した。また、ニュ−ヨ−ク州南部地区連邦地裁も、7月29日、
  同条項の執行を差し止める決定を下した。連邦最高裁は、平成9年(199
  7年)初めから審理を開始し、判決は夏頃になる見込みである。
   我が国では、インタ−ネット上の情報流通の在り方について、まだ本格的
  議論が開始されたばかりであり、新たな法律による規制に関しては、今後、
  諸外国の動向を引き続き注視し、慎重に対処すべきであると考えられる。

 (注)同条項は、規制の対象となる情報として、「下品な(indecent)」、
   「明らかに不快な(patently offensive)」のほかに、
   「わいせつな(obscene)」、「淫らな(lewd)」等を挙げて
   いるが、「indecent」、「patently offensive」
   以外の部分については、そもそも訴訟の対象となっておらず、憲法違反の
   問題は指摘されていない。

(5)インターネット上の情報流通に関する具体的ル−ル化の問題点
   インターネット上の情報流通について具体的ル−ル化を検討する場合、前
  述したように表現の自由の確保との関係があり、制約が許容される具体的基
  準を定めることは容易ではない。また、インタ−ネットは全世界規模のネッ
  トワークであることから、国際的な基準を作成する必要があるが、わいせつ
  の定義一つをとっても、各国の文化・歴史によって異なることを考慮すると、
  基準を作成することには困難がある。
   したがって、具体的にル−ル化を検討する場合、どのような情報を対象と
  すべきかを明確にする必要がある。その際、「刑事処罰の対象となるか又は
  民事上不法行為を構成する等の違法な情報」と「違法の程度に至らない有害
  なコンテント」に区別して議論する必要があると思われる。
   何が違法なコンテントに該当するかは各国の法制度によって異なる。した
  がって、ある情報について、国内でも諸外国でも違法、国内では違法である
  が一部の国では合法、あるいは国内では合法であるが一部の国では違法とい
  った法制度の比較検討、実際の裁判例の比較検討を行うこと等を通じて、各
  国共通の最低基準を構築する等、国際的な連携や協力を確保することが最大
  の課題である。
   例えば、幼児ポルノについて、欧米諸国では、児童虐待の一類型であり子
  供の人権に対する重大な侵害と考えられている。英米では、従前から一般の
  わいせつ物頒布罪に加えて、幼児ポルノの頒布等を独立した犯罪として処罰
  している(注1)。また、他のヨーロッパ諸国でも、スウェーデン、ベルギ
  ー、ドイツ等で既に幼児ポルノの頒布を処罰する規定を設けているほか、最
  近発生したベルギーの幼女誘拐殺害事件を契機として幼児ポルノの取締りに
  ついてコンセンサスが形成されている。平成8年(1996年)8月には、
  ストックホルムで「子供の商業的性的搾取に反対する世界会議」が開催され、
  「宣言」及び「行動計画」が採択された。
   これに対し、我が国では、現状では、幼児ポルノを単なる性風俗と考えて
  おり、幼児虐待、子供の人権侵害という認識が乏しいと言わざるをえない
  (注2)。このような点も含めて国際的に意見交換する必要があると考え
  られる。
   一方、違法の程度に至らない有害なコンテントに関しては、表現の自由の
  確保と密接に関係するとともに、違法なコンテントと比較しても、文化・歴
  史の違いにより、各国の受容程度がいっそう異なる分野であることから、さ
  らに慎重に検討する必要がある。

 (注1)アメリカでは、わいせつ物の頒布罪(合衆国法典18編1465条)
    に加えて、児童の性的搾取罪(合衆国法典18編2252条)の中で、
    インターネット上の情報流通を含む幼児ポルノの頒布、販売、陳列につ
    いて、10万ドル以下の罰金若しくは10年以下の懲役又はその併科に
    処している。イギリスでは、わいせつ物の頒布等を規制する法律
    (Obscene Publications Act)に加え、児童
    の保護に関する法律(Protection of Children
    Act)の中で、幼児ポルノの頒布、販売、陳列を3年以下の懲役に処
    している。

 (注2)我が国では、刑法にわいせつ物頒布罪(175条)が規定されている
    が、幼児ポルノの頒布等を独立して処罰する規定はない。平成8年(1
    996年)9月、在日イギリス大使館に勤務していた外交官が、日本で
    収集した多数の幼児ポルノビデオを本国に密輸入したとして、イギリス
    で禁固3年の実刑判決を受けた事例がある。

  【参考】
   EU委員会報告においても、「違法・有害なコンテントといっても、違法
  (illegal)なコンテントとそれ以外の有害(harmful)なコ
   ンテントは、区別すべきである。このように、カテゴリ−の異なるコンテ
   ントは、根本的に原則の異なる問題を提起するものであり、法律的・技術
   的に極めて異なる対応を必要とするものである。・・・中略
  ・・・明確に優先順位を定めて、最重要問題、すなわち、幼児ポルノグラフ
  ィ−や、犯罪のための新技術としてのインタ−ネットの利用を取り締まる等
  犯罪的なコンテントと闘うことに取り組むことに資源を結集すべきである」
  としている。

(6)インタ−ネット上の情報流通に関する責任と対応
   インタ−ネット上の情報流通について誰が責任を負うべきかを検討する場
  合、1.情報発信者、2.プロバイダ−、3.情報受信者が考えられる。

  1.情報発信者の責任
    インタ−ネットは、前述したように、個々人が不特定多数の人に向けて
   自由かつ容易に情報発信ができるという従来の新聞、放送等のメディアと
   大いに異なる特性を有している。情報発信者としては、原則として、発信
   した情報に関する法的責任を負うことを十分認識する必要がある。また、
   従来のメディア以上にインタ−ネットを利用する際の利用者のモラルの向
   上が不可欠であり、社会的にコンセンサスが得られた基本的ル−ルを遵守
   する意識を一人一人の利用者が持つことが重要であると考えられる。

  2.プロバイダ−の責任
    多くのプロバイダーは、利用者との契約約款等において、公序良俗に反
   する行為、他人を誹謗中傷する行為等に対し、プロバイダーによる警告、
   情報の削除又は利用の停止がありうる旨を規定している。特定者間の通信
   では、通信の秘密の保護の観点から、電気通信事業者が通信内容に関与す
   ることは許されないが、「公然性を有する通信」では、通信内容は公開さ
   れたものとの考え方をとれば、こうした約款に基づくプロバイダーの対応
   も違法な情報の流通に対する一つの有効な対策として評価することができ
   る。プロバイダ−の責任に関しては、「違法な情報の存在を知りながら一
   定期間放置した場合、情報発信者の犯罪の幇助罪に問われる可能性がある」
   (刑事責任)、「一定期間放置した場合、故意又は過失が認められれば、
   被害者に対して損害賠償責任を負うことになる」(民事責任)との見解が
   ある。
    いずれにしても、違法な情報の流通に対して自主的に対応したプロバイ
   ダーが、情報内容を放置したプロバイダーに比べて、かえって重い責任を
   負うことにならないよう留意する必要がある。アメリカにおいては、プロ
   バイダーの責任について、改正通信法223条において、違法な情報であ
   ることを知りながら許容した場合の刑事責任を規定する反面、未成年者に
   よるアクセスを防止するための適切な措置を誠実に執った場合等は刑事責
   任は免れるとの規定、さらに、わいせつ性、暴力性等があり、好ましくな
   いと判断した情報へのアクセスを、誠意をもって自主的に制限しても、そ
   の情報が憲法上保護すべきものか否かにかかわらず、責任を問われること
   はない等の民事責任の制限の規定を設けている。我が国においても、この
   ような立法例を参考としながら、検討していく必要があると考えられる。

  3.情報受信者の対応
    発信者の表現の自由を尊重しつつ、受信者の適切な情報選択の機会を確
   保することが重要である。他方、自己が嫌悪する情報を遮断する自由も尊
   重されなければならない。今後、家庭のみならず、全国の小中学校がイン
   タ−ネットで接続される場合、児童・生徒が、インターネット上のわいせ
   つ情報等特定の情報にアクセスすることを防止するために、受信者側で選
   択的に特定の情報をブロックするフィルタリング・ソフトウェアを活用す
   ること等が考えられる。


4 諸外国の動向
  欧米、東南アジア諸国においても、インタ−ネット上のわいせつ画像等の違
 法又は有害な情報の流通が問題化しており、インタ−ネット利用のル−ル化に
 関する検討がなされている。

(1)アメリカ
   既に述べたとおり、アメリカでは、改正通信法223条について、憲法修
  正1条に反するとして違憲訴訟が提起され、現在連邦最高裁判所で審理中で
  ある。
   また、受信者側で特定の情報を選択的にブロックする技術の開発も推進さ
  れている。
   例えば、受信者のパソコンに組み込むことにより、性や暴力にかかわる情
  報を遮断する選択ソフトが民間で開発されている。インタ−ネット上の特定
  のサイトへのアクセスを制限できるフィルタリング・ソフトウェアとしては、
  サーフウォッチ(Surf−Watch)、サイバーパトロール(Cyber
  Patrol)等があるが、それらは競合他社製品の持つラベル情報は認識
  できない等汎用性のないソフトウェアであった。しかし、ワールドワイドウ
  ェブ・コンソ−シアム(W3C)が平成8年(1996年)5月に発表した
  PICS(the Platform for Internet 
  Content Selection)は、インタ−ネット上の特定の情報
  を遮断するためのグロ−バルな技術規格を目指したものであり、既存のフィ
  ルタリング・ソフトウェアに比べて柔軟性・汎用性を持つシステムとなって
  いる。すなわち、まず、発信者が情報に格付けし、受信者側がインターネッ
  トの利用目的に従い、どのラベル集を使用するかを選択ソフトに指定するこ
  とによって、ブロッキングができるシステムである。
   PICS規格に準拠したコンテントの格付け基準としては、非営利団体で
  あるRSAC(娯楽ソフト諮問会議、(The Recreational
  Software Advisory Council))によるRSAC
  i(Recreational Software Advisory 
  Council on the Internet)がある。このレイティ
  ングシステムは、それぞれの情報を暴力、裸体、性、言語の4つの観点から
  評価し、あらかじめ定められた基準に従って、0から4までの5段階の点数
  を付すというものである。

(2)イギリス
   イギリスでは、平成8年(1996年)9月23日、英国のプロバイダ−
  の団体であるインタ−ネット・サ−ビス・プロバイダ−協会(ISPA、
  Internet Service Provider Association)、
  ロンドン・インタ−ネット・エクスチェンジ(LINX London 
  Internet Exchange)及びセイフティネット財団(Safety
  −Net Foundation)の三者が、インタ−ネットの情報を業界
  で自主的に規律するR3セイフティネット(R3 Safety−Net)
  を発表し、政府、警察、業界から歓迎されている。
   自主ガイドラインは、セイフティネット財団がインタ−ネット上での幼児
  ポルノやその他の違法な情報に関する苦情の受付けや処理において、独立的
  な役割を果たし、評価システム(rating system)の開発支援
  を提供することを主な内容としている。
  財団は、主に以下の3つの業務を行うこととなっている。

  1.各ニュ−スグル−プの内容に関して合法性の指針を示すことや評価
   (rating)を行う。この評価では、当該グル−プが通常、違法素材
   (デ−タ)を擁しているか、またどんな形で違法となっているのか(幼児
   虐待、著作権侵害等)等を指摘する。

  2.電話、郵便、電子メ−ル又はファクシミリを経由して、だれでもアクセ
   スが可能となる素材に対する苦情を受けるホットラインを開設する。これ
   らの苦情は、標準様式に統一され、即座に参加プロバイダ−や他の適当な
   団体へと転送される。ホットラインによって、個別ニュ−スグル−プの情
   報又はホームペ−ジの合法性の評価を行う。

  3.英国内で作成された違法素材の場合、供給源の追跡を試み、作成者に対
   し排除するよう要請する。作成者の協力が得られない場合、プロバイダ−
   に対し、必要な措置を講じることを要請するとともに警察に連絡する。
   また、技術的対応であるPICSへの支援を表明している。

(3)フランス
   フランスでは、平成8年(1996年)6月、電気通信規制法が国民議会
  で採択された(注)が、憲法院は、7月24日、アクセスプロバイダ−の刑
  事責任の免除に関する2つの規定について、明確性に欠けるとして憲法に違
  反すると決定した。また、平成8年(1996年)10月にソウルで開催さ
  れたOECDのワ−キンググル−プ会合において、インタ−ネットに関する
  国際協力協定(Agreement on international 
  cooperation with regard to the 
  INTERNET)の案がフランスから提出された。この提案は3部から構
  成され、第1に、関係者の分類、適用する規則、情報提供者とホストサ−ビ
  ス提供者の責任に関する原則等署名当事国により承認される一連の原則を定
  めている。第2に、特に基本的な倫理規則の尊重及び消費者保護の改善を保
  障することを目的とするガイドラインを定めている。第3に、署名当事国間
  の法的及び警察に関する協力の原則を定めている。

 (注)法律の規定の主な内容は以下の通りである。2.と3.が無効とされた。

    1.視聴覚コミュニケ−ション・サ−ビスを業とする者は、加入者に対
     し、特定のサ−ビスに対するアクセスを制限又は選別できる技術的手
     段を提供する義務を負う(43条の1)。

    2.サ−ビスへのアクセス提供者、編集者、利用者、学者等からなるテ
     レマティック高等委員会(CST、Comite superieur
     de la telematique)が、サ−ビス業界が倫理規定
     を遵守するための勧告作成、苦情受付と刑事訴追相当の事実の検事正
     への通知、サ−ビス業者に関する調査研究、共通倫理綱領策定のため
     の国際協力等を行う(43条の2)。

    3.倫理規定を遵守しているサ−ビス業者は、故意に自ら犯罪を犯し若
     しくは加担した旨の証明が行われない限り、視聴覚コミュニケ−ショ
     ン・サ−ビスにより発信された情報の内容に起因する犯罪についての
     刑事責任を問われない(43条の3)。

(4)ドイツ
   ドイツでは、平成8年(1996年)11月に新聞・出版と放送のコンテ
  ントに関する現在の自主規制システムを拡大することにより、インタ−ネッ
  ト・コンテントの自主規制を改善する提案が提出された。これによって、有
  害なコンテントを提供するプロバイダ−は、苦情や問い合わせの窓口として
  も利用者へのアドバイザ−としても機能する青少年保護委員を任命すること
  が要求されることになる。
   また、主要なプロバイダ−が属するインタ−ネット・コンテント・タスク
  フォースも、ホットライン及び違法コンテントへのアクセスを遮断する技術
  的手段等を含む新しいシステムを発表している。
   さらに、「情報通信サ−ビスの枠組みの規制に関する法律案」(通称「マ
  ルチメディア法案」)が平成8年(1996年)12月11日に政府決定さ
  れ、平成9年(1997年)初めから国会で審議される予定である。同法律
  案は、インターネットを含む「遠隔サ−ビス」を提供する者の責任について、
  1.自ら提供する情報内容については、一般法の規定に従って責任を負う、
  2.他人が提供する情報内容については、その内容を知り、かつその利用を
  防止することが技術的に可能で、期待可能な場合に限り責任を負うと規定さ
  れている。

 (注)遠隔サ−ビスとは、記号、画像又は音声を組み合わせたデ−タを個々に
   利用するためのあらゆる電気的な情報通信サ−ビスであり、インタ−ネッ
   ト等を含む概念である。

(5)オ−ストラリア
   オ−ストラリア放送庁(ABA、Australian Broadcasting Authority)
  は、平成8年(1996年)6月に「オンラインサ−ビスのコンテントに
  関する調査検討」の報告書を通信芸術相に提出した。報告書では、自主規
  律に関するサ−ビスプロバイダ−の実施規範(Code of Practice)の整
  備とオンラインコンテントに対する格付け方式の推進を提言している。

(6)シンガポ−ル
   シンガポ−ル放送庁(SBA、Syngapore Broadcasting Authority)は、
  平成8年(1996年)7月にプロバイダ−等に対するクラス・ライセン
  ス制度、コンテント・ガイドラインを発表した。プロバイダ−は登録が必
  要であり、放送庁が接続の禁止を求めたサイトについて、プロバイダ−は
  接続を停止しなければならないとされている。また、コンテント提供者が
  シンガポールで登録された政党である場合又はシンガポールに関する政治
  的若しくは宗教的議論に携わるグループである場合には登録が義務づけら
  れている。

(7)国際機関における議論
   インタ−ネット上の情報流通に関するル−ル作りについて、国際機関にお
  いても議論が開始されている。
   平成8年(1996年)6月に開催されたリヨン・サミットにおいて、
  「我々は、世界規模の通信ネットワ−クによって生じた倫理面及び犯罪面の
  問題を検討する用意がある。」との議長声明が出されている。
   OECD(経済協力開発機構)の場では、平成8年(1996年)2月に
  キャンベラで開催されたICCP(情報・コンピューター・通信政策委員会)
  の会合において、インタ−ネットのル−ル化に関する国際的ガイドライン作
  成の必要性について議論された。その後、6月にダブリンで開催されたワ−
  クショップにおいても国際的な協力の枠組みの必要性について議論され、1
  0月のソウルで開催されたワ−クショップにおいては、フランスからインタ
  −ネットに関する国際協力協定の提案があった。
   ITU(国際電気通信連合)の場では、平成8年(1996年)10月の
  第2回世界電気通信標準化会議(WTSC96,World Tele−
  communication Standadization Confe−
  rence 96)において、国際的に提供されるコンテントについて議論
  され、今後この問題を継続的に研究することが合意された。
   国際機関のみならず、欧州、アジア等地域レベルでも議論が行われている。
  特に、EUにおいて積極的な取組みが見られる。
   EU委員会報告においては、「政策の選択肢/結論」として、違法なコン
  テントに関して、加盟国間の協力、アクセスプロバイダ−とホストサ−ビス
  プロバイダ−の責任、自己規制の奨励が述べられており、有害なコンテント
  に関して、フィルタリング・ソフトウェアと評価システムの利用を支援する
  ための共同体の措置等が述べられている。また、平成8年(1996年)1
  0月16日には、「オ−ディオビジュアル・サ−ビス及び情報サ−ビスにお
  ける未成年と人間の尊厳の保護に関するグリ−ンペ−パ−」も出されている。
   平成8年(1996年)11月28日には、EUの電気通信相理事会が開
  催され、「インタ−ネット上での違法・有害なコンテントに関する特別作業
  班報告書」(注)に基づいて、同理事会のインタ−ネットに関する決議が採
  択された。決議の内容は、1.インタ−ネットサ−ビスプロバイダ−とユ−
  ザ−の代表団体を含む自主規制システム、実効性のある行動規範(effective
  codes of conduct)及び国民が利用することができるホットラインによる
  報告の仕組みを奨励、促進すること、2.ユ−ザ−へのフィルタリング・メ
  カニズムの提供及びEUの支援を受けて国際的なワ−ルドワイドウェブ・コ
  ンソ−シアム(W3C)が開始したPICSの標準に従った評価システム
  (rating systems)の設定の奨励、3.ドイツが主催国とな
  る国際的な閣僚会議に積極的に参加し、関連する当事者の代表の参加を促す
  ことを加盟諸国に要請する等となっている。また、欧州委員会及び加盟国に
  対し、国際的な閣僚会議及びその他の国際的な話合いの場での議論の結果に
  基づく国際的な協力を通して、本決議に述べられた各種の措置の有効性を強
  化するために必要なすべての措置を講ずるよう勧告する等国際協力の必要性
  を強調している。
   アジア地域では、平成8年(1996年)9月にASEAN諸国の専門家
  レベルの会合が開催されている。

 (注)「インタ−ネット上での違法・有害なコンテントに関する特別作業班報
   告書」の概要
     今後の措置の提案
     1. 自主規制
       ・すべての加盟諸国において、インタ−ネット・サ−ビス・プロ
        バイダ−とユ−ザ−が代表団体を設立すべきである。
       ・自主規制は、一定の最低要件を満たさなければならない。
       ・加盟諸国は、自主規制システムを設立し、そのシステムに参加
        し、その規則を尊重するよう業界を奨励しなければならない。
       ・自主規制団体の役割
       ・ヨ−ロッパ各国の業界代表及び自主規制団体の間で調整が必要
        である。
     2. 責任
       ・インタ−ネット・サ−ビス・プロバイダ−は、自分自身がコン
        テント・プロバイダ−であるとき、又は違法なコンテントの存
        在を知らされながら、自分が提供するサ−ビスからそれを取り
        除く妥当な手段を取らなかった場合にのみ責任がある。
       ・インタ−ネットの匿名利用
     3. 技術的な手段
       ・コンテント・プロバイダ−は、自分が提供する文書の評価
        (rate)が奨励されるべきである。
       ・欧州委員会は、多様なニ−ズを満たし、ヨ−ロッパの文化、言
        語的な多様性を考慮に入れるために、第三者による評価システ
        ムの設立等を目指した応用研究を促進すべきである。
     4. その他


5 対応策の在り方
  インタ−ネット上の違法又は有害な情報の流通を防止するための方策として
 は、1.通信内容に関するルールの策定、2.通信方法に関するルールの策定
 (ソフトウェアによるブロックのようなアクセスの制限等)、3.通信主体に
 関するルールの策定(情報発信者の責任、プロバイダーの責任)等がありうる。
 これらは、(1)技術的対応と(2)制度的対応に分けることができる。

(1)技術的対応
   各国の法制度の相違を前提とした上で、発信者の表現の自由と通信の秘密
  の保護を確保しつつ、受信者の適切な選択の機会を最大限尊重する方法とし
  ては、受信者側で特定の内容の情報を選択的にブロックするフィルタリング
  ・ソフトウェアを採用することが有効であると考えられる。その場合、どの
  ようなソフトウェアを選択するかという問題とそのソフトウェアとリンクし
  た形で各サイトの分類や格付けをどのように行うかという問題がある。まず、
  ソフトウェアに関する標準規格としては、前述したPICSがあるが、どの
  ような技術標準を用いるべきか検討する必要がある。
   サイトの分類、格付けについては、例えば、PICSに準拠した形でRS
  ACiがある。具体的にどのような格付け基準を設定するかについては、表
  現の自由の保障との関係上慎重に検討すべき問題である。

(2)制度的対応
   制度的対応には民間による自主的対応と法的対応がある。

  1.自主的対応
    インタ−ネットのホ−ムペ−ジは、アクセスするという意思を有してい
   る者のみが情報を入手できるという点に着目すると放送と異なる面がある
   が、誰でもがアクセスできるという情報の公開性に着目すると放送に近い
   概念を有している。
    したがって、平成7年(1995年)3月10日に策定された、「アジ
   ア・太平洋地域における衛星映像国際放送の番組内容に関するガイドライ
   ン」や社団法人全日本テレホンサービス協会のダイヤルQ2倫理規程等の
   自主的な取組みの例を参考として、具体的なル−ルを作成することが考え
   られる。具体的なル−ル作りに当たっては、表現の自由の保障との関係か
   ら、民間団体による自主規律が望ましいと考えられる。

  2.法的対応
    既に述べたとおり、アメリカでは、インターネット上の情報流通を規制
   する改正通信法223条について、2つの連邦地裁で一部の条項が違憲で
   あるという判決があり、平成9年(1997年)初めから連邦最高裁の審
   理が開始される。我が国では、インターネット上の情報流通については、
   本格的議論が始まったばかりであり、今後、諸外国の動向を踏まえ、国民
   的な議論を深めながら慎重に検討すべきであると考える。


6 当面の対応策
  インタ−ネット上の情報流通に関するル−ル作りは、表現の自由の保障と関
 連するため、慎重に検討する必要があり、当面、法律による新たな規制は行う
 べきではないと考えられる。当面の措置としては、以下の方策が考えられる。

(1)国際連携の強化
   インタ−ネット上の情報は、国境を越えて流通するため、インタ−ネット
  の利用の在り方について、国際的な連携や協力を行うことが重要である。
   しかし、コンテントの基準に関しては、各国とも異なる文化・歴史及び法
  制度を持っており、国際的な統一ル−ルを作ることは難しい面がある。例え
  ば、わいせつ情報についても判断基準や社会通念が国ごとに異なるため、そ
  れらを統一することは難しい。
   したがって、国際的な統一ル−ルは、各国が合意できる必要最小限のもの
  とし、具体的運用は、各国の法制度を最大限尊重することを基本原則とすべ
  きである。
   また、具体的なル−ルの検討に当たっては、明らかに違法であるものに関
  して必要最低限の基準を設けるという考え方を基本とすることが望ましい。
  特に、すべての国が遵守しなければならないことは、各国の自主性を最大限
  尊重し、ある国の特定の法制度や固有の倫理観を他の国に押しつけてはなら
  ないということである。
   そのための第一段階として、違法とされている情報内容について、各国の
  法制度を比較検討するとともに最低限の基準の設定が可能かどうかについて
  の検討を開始することが望ましい。このような比較検討を通じて各国の相互
  理解も深まるものと考えられる。具体的な方法としては、例えば、各国の法
  学者等が共通のホームページを開設する等して、関係法令に関する意見交換
  を行うことが考えられる。
   このような国際連携・協力は、各国の法制度の比較検討のみならず、後述
  する自主ガイドラインの策定、技術的対応策及び苦情処理体制の整備等にお
  いても不可欠である。どの機関で検討を行うかについては、例えば、OEC
  Dで検討を行うべきであるとの意見やより参加国の多いITU等の場で検討
  を行うべきであるとの意見もある。最終的には、世界のすべての国がかかわ
  る問題であるので、できる限り多くの国が参加する機関で検討することが望
  ましい。しかしながら、世界各国が合意できるル−ル作りには時間を要する
  ことが予想されるため、当面は、比較的参加メンバ−の少ないOECDの場
  でモデルを検討することが考えられる。また、文化や歴史的背景が似ている
  EU、アジア地域等のブロックレベルでも検討を開始することが望ましい。
   なお、放送の分野では、既に映像国際放送について、EUにおいて、平成
  元年(1989年)10月3日、「国境を越えるテレビに関するEU指令」が
  採択されており、アジア・太平洋地域でも、前記「アジア・太平洋地域にお
  ける衛星映像国際放送の番組内容に関するガイドライン」が策定されている。
  このような放送分野における経験は、インタ−ネット上の情報流通に関する
  ル−ル作りにおいても役立つものと思われる。

(2)各国における自主的な取組みの促進
   表現の自由の問題と関連しているため、現時点では、政府が自ら情報のル
  −ル作りに取り組むことは適当ではないと考えられる。したがって、当面の
  対応としては、プロバイダ−の団体による自主的なガイドラインの策定を促
  進することが望ましい。
   我が国においても、既に一部の団体でこのような取組みが見られるが、プ
  ロバイダ−によって、より広範囲かつ積極的な取組みがなされることを期待
  する。なお、プロバイダ−の団体による自主ガイドラインを作成するに当た
  っては、有識者、利用者代表の参加を得る等して議論の透明性を確保しつつ、
  ガイドラインを作成することが望ましい。
   また、イギリスでは既に「R3セイフティネット」という自主ガイドライ
  ンが策定されていることやEU特別作業班報告書において「加盟諸国は、自
  主規制システムを設立し、そのシステムに参加し、その規則を尊重するよう
  業界を奨励しなければならない。」と指摘されていることから、今後、各国
  において、自主ガイドラインの策定が進むものと予想される。
   インタ−ネットの場合、情報が国際的に流通することから、各国の自主ガ
  イドラインを策定している事業者団体間で、自主ガイドラインの比較、自主
  ガイトラインの当該国における効果、当該国の自主ガイドラインでは対応で
  きないケ−ス等について情報交換するとともに、各国の自主ガイドラインの
  実効性を高めるための国際連携を図ることが重要である。

(3)技術的対応策の連携強化
   各国の法制度の相違を前提とした上で、発信者の表現の自由と通信の秘密
  の保護と受信者の適切な選択の機会の確保、さらには、自己が嫌悪する情報
  を受けない自由との均衡を図る方法としては、犯罪に係る情報等特定の内容
  の情報を、受信者が選択的にブロックできる仕組みを構築することが有効で
  ある。例えば、児童・生徒を違法又は有害な情報から保護するためには、ア
  クセスを遮断できるフィルタリング・ソフトウェアを使用することが最善の
  方策であると考えられる。フィルタリング・ソフトウェアとしては、EUも
  支持を表明しているPICSをベ−スとした国際的連携が強化されることが
  望ましい。
   フィルタリング・ソフトウェアは、柔軟性のあるシステムではあるが、格
  付け基準(レイティング)をどのような組織で誰が策定するかについては、
  実施主体によりバイアスがかかる可能性があることや実質的に情報内容を分
  類するのと同じ効果をもつ可能性があることから慎重に検討する必要がある。
  当面の措置としては、各国において、民間の有識者による倫理委員会等を設
  けて格付け基準を策定することが考えられる。アメリカでは、既にRSAC
  iという評価システムがあるが、これを我が国にそのまま適用することは、
  歴史や文化的背景の相違から必ずしも適切ではない場合があると考えられる。
  したがって、早急に、民間レベルの有識者による倫理委員会を設けて、我が
  国の格付け基準について検討することが望まれる。具体的には、モデル地域
  を選定して、児童・生徒の保護監督者である親・教師等と有識者とで格付け
  基準を策定し、フィルタリング・ソフトウェアを開発するための実証実験を
  行い、このモデルソフトを各地域の歴史的、文化的事情に合わせ、取捨選択
  して利用していくこと等が有効であると考えられる。
   また、今後、各国においてもこのような取組みがなされるものと予想され
  ることから、各国の評価システムの比較や各国の倫理委員会との情報交換、
  さらには、グロ−バルな評価システムの可能性等についても検討する必要が
  ある。このような制度的整備と相まって、フィルタリング・ソフトウェアが
  有効に機能することとなると考えられる。

(4)苦情処理体制の整備、情報提供の充実
   表現の自由との関係から、不適切な情報流通に関しては、事後的措置とし
  て苦情処理体制を整備することが重要である。EU電気通信相理事会決議で
  「国民に利用できるホットラインによる報告の仕組みを奨励及び促進」と述
  べられているが、被害の救済や拡大防止のためには、利用者からの苦情申出
  に対して適切かつ迅速に対応することが重要であり、そのための苦情処理体
  制を整備する必要がある。
   また、苦情処理体制を整備することにより、苦情事例の蓄積、苦情事例の
  分析等を通じて適切な情報流通のル−ル作りに寄与することができる。プロ
  バイダ−も苦情の件数等を一つのメルクマ−ルとして、違法・有害なコンテ
  ントに対応することが可能となる面がある。
   当面の措置としては、各国が民間事業者団体レベルで苦情処理体制を整備
  することが望ましい。また、各国の苦情処理機関のネットワ−ク化を図るこ
  とも検討する必要がある。

(5)情報社会教育の充実
   これまで述べてきたように、インターネットは、個人の情報発信、受信、
  アクセスの機会を飛躍的に増大させ、自由な情報流通を通じた豊かな情報通
  信社会の実現を可能とする新たなメディアである。その一方、インターネッ
  トの自由な利用によって、個人の情報社会に対する影響力や依存度がますま
  す増大することになるため、情報の流通に関する個々の利用者の責任が増す
  ことになる。この点については、まず、一人一人の利用者のモラルの向上を
  図ることによって対処すべきであり、そのために家庭、学校、企業等あらゆ
  る場を通じて、情報社会教育を充実させる必要がある。

  【参考】
   利用者調査においても、「インターネット上の情報流通に関する対応策と
  して、具体的に何が必要か」という質問に対して、「利用者の自覚を促す啓
  発活動を行うべきである」という選択肢を選んだ回答者が全体の45.9%
  で最も多かった。

 (注)EU委員会報告によれば、フィルタリング・ソフトウェアには、ブラッ
   クリスト方式(リストに挙げられてたサイトへのアクセスがブロックされ
   る)、ホワイトリスト方式(リストに挙げられたサイトへのアクセスが可
   能である)、中立的分類方式(サイトの分類や格付けが行われるが、その
   分類や格付けをどのように利用するかはユ−ザ−が決定する)の3方式が
   ある。
    ブラックリスト方式の例としては、平成7年(1995年)8月に発売
   された Cyber Patorol がある。その<サイバ−NOT>
   リストには、12種類(暴力/不敬、裸体、性行為、麻薬等)に分類され
   る約7000のサイトが記載され、受信者は、この分類の一部又は全部を
   選択して、それらに対するアクセスをブロックすることができるものであ
   る。
    中立的分類方式には前述したPICSがある。これは、業界全体にわた
   る新しい標準規格である。PICSは、中立的分類とインタ−ネットのア
   ドレス(URL)を用いてあらゆる種類のサイト(ホームペ−ジ、ftp、
   ニュ−スグル−プ)をフィルタリングすることにより機能する。


   インターネット利用に関する意見募集・アンケート調査結果

1 概要

○ インターネット利用に関する意見募集(利用者調査)
 ・調 査 期 間 平成8年11月8日〜同年11月22日
 ・受 付 件 数 926件
 ・内    訳 電子メール 919件 郵送 2件 ファクス 5件
 ・性    別 男性850件(91.8%) 女性60件(6.5%)
         不明 16件(1.7%)

○ インターネット利用に関するアンケート(一般調査)
 ・調 査 期 間 平成8年11月16日〜同年11月25日
 ・調 査 対 象 全国 20歳以上男女 1,200人
 ・調 査 方 法 郵送法
 ・回 答 数  547件(回収率45.6%)
 ・性    別 男性 266件(48.6%) 女性281件(51.4%)

2 調査結果
問1 あなたはインターネットをご存じですか。(一般調査のみ)
  一般調査
知っている 463件(84.6%)
知らない  83件(15.2%)
 無回答    1件( 0.2%)

問2 あなたはインターネットをどのくらい利用していますか。
  利用者調査 一般調査
毎日 773件(83.5%)  12件( 2.8%)
週2〜3回 122件(13.2%)   9件( 1.9%)
週1回程度  21件( 2.3%)   7件( 1.5%)
月1回以下   1件( 0.1%)  24件( 5.2%)
使ったことがない   5件( 0.5%) 410件(88.6%)
その他   4件( 0.4%)   2件( 0.2%)
 利用者調査では、インターネットを毎日利用している人が83.5%である
が、一般調査では、インターネットを使ったことがない人が88.6%である。
問3 (インターネットを利用されたことがない方に)今後インターネットを利
  用してみたいとおもいますか(一般調査のみ)
  一般調査
1年以内に利用したい   51件(12.4%)
将来利用したい     242件(59.0%)
利用したいと思わない   64件(15.6%)
わからない・無回答    53件(13.0%)
 インターネットを利用したことがない回答者のうち71.4%が、今後インタ
ーネットを利用したいと考えている。
問4 どのような用途でインターネットを利用していますか。
  利用者調査 一般調査
業務に利用  63件( 6.8%) 24件(46.1%)
個人的に利用     310件(33.7%) 27件(51.9%)
業務でも個人でも利用 545件(59.2%) 選択肢なし     
無回答   3件( 0.3%)   7件(13.5%)

問5 どのようにインターネットを利用していますか。(一般調査のみ複数回答)
  利用者調査 一般調査
ホームページにアクセスしている 358件(38.9%) 31件(59.6%)
電子メールを利用している 376件(40.8%) 27件(51.9%)
ホームページを開設している 143件(15.5%)  4件( 7.7%)
その他・無回答  44件( 4.8%)  4件( 7.7%)
 利用者調査では、15.5%の人がホームページを開設している。
問6 インターネットにおけるわいせつ情報や他人を中傷する情報の流通が問題
  となっていますが、何らかの対応策が必要と思われるのはどのような問題で
  すか。(複数回答)
  利用者調査 一般調査
ネットワーク上の詐欺 588件(63.5%) 369件(67.5%)
誇大広告、虚偽広告 445件(48.1%) 329件(60.3%)
他人を中傷する情報の流通 412件(44.5%) 400件(73.3%)
無断転用等の著作権の侵害 393件(42.4%) 238件(43.5%)
わいせつ情報の流通 162件(17.5%) 363件(66.5%)
過度な暴力を描写した情報 159件(17.2%) 247件(45.2%)
特にない 153件(16.5%)  31件( 5.7%)
その他・無回答 237件(25.6%)  20件( 3.8%)
 「わいせつ情報」について対応策が必要とした人の割合は、利用者調査では1
7.5%、一般調査では66.5%、「過度な暴力を描写した情報」については
対応策が必要とした人の割合は、利用者調査では17.2%、一般調査では45
.2%と大きな開きがある。
 「(対応策が必要な問題は)特にない」とした人の割合は、利用者調査では1
6.5%、一般調査では5.7%となっている。また、利用者調査で「その他
(25.6%)」を選択した人の多くが、「行政機関が対応策を講じるべきでは
ない。」という意見を述べている。
問7 具体的にどのような対応策が必要だとお考えですか。(複数回答)
  利用者調査 一般調査
啓発活動の推進 425件(45.9%) 158件(28.9%)
苦情相談窓口の設置 378件(40.8%) 298件(54.5%)
プロバイダーがガイドラインを作成 204件(22.0%) 246件(45.0%)
ソフトウェア・技術の開発・普及 196件(21.5%) 226件(41.3%)
措置を講ずる必要はない 191件(20.6%)   7件( 1.3%)
法律による規制を行なう 147件(15.9%) 305件(55.9%)
レイティングを行なうべき 135件(14.6%) 155件(28.3%)
その他・無回答 297件(32.1%)  43件( 7.9%)
 利用者調査では、「利用者の啓発活動の推進」が45.9%と第1位を占めて
いる(一般調査では28.9%)が、一般調査では「法律による規制」が55.
9%で第1位を占めている(利用者調査では15.9%)。
 「苦情相談窓口の設置」については、利用者調査で40.8%、一般調査で5
4.5%とともに必要性が認識されている。
問8 インターネットを利用して商品の売買をしたことがありますか。
  利用者調査 一般調査
ある 393件(42.5%)   3件( 0.5%)
ない 517件(55.8%) 522件(95.4%)
無回答  16件( 1.7%)  22件( 4.1%)
 利用者調査では、42.5%の人が実際に商品を購入した経験を有している。
問9 インターネットを利用して商品を購入しなかった理由は何ですか。
  (一般調査のみ 複数回答)
  一般調査
画面で見ただけで商品を買うのは不安だ 149件(28.5%)
決済方法の安全性が確保されていない  97件(18.6%)
購入するまでの手続きが面倒だ  95件(18.2%)
代金を払っても商品が届くか不安だ  71件(13.6%)
個人情報の流用が怖い  71件(13.6%)
欲しいと思う商品がなかった  38件( 7.3%)
インターネットで商品を買えることを知らなかった  60件(11.5%)
その他・無回答 211件(40.5%)

問10 インターネットの利用に期待することは何ですか。
  (一般調査のみ 複数回答)
  一般調査
世界各国の情報収集 309件(56.5%)
オンライン ショッピング  231件(42.2%)
ホームページによる情報発信 216件(39.5%)
電子メールによる通信 208件(38.0%)
オンラインによる銀行取引  119件(21.8%)
特にない  81件(14.8%)
その他・無回答  25件( 4.6%)
 世界各国の情報収集に期待する人が、56.5%と最も多い。


2 「インターネット利用に関する意見募集」(利用者調査)における主な意見

 (1)対応策についての意見

  1.発信者の特定
  ・メールアドレスやホームページアドレスから発信者個人が容易に特定でき
   るようにする。
  ・電話帳のようにアドレス、氏名、住所といったプロバイダーの顧客情報を
   公開する仕組みを構築した上で、発信者に名前、住所等を公開してインタ
   ーネットを利用するようモラル啓発を行う。
  ・相手のEメールアドレスのみで民事訴訟の提起を可能とする法整備。

  2.情報内容の格付け
  ・発信者が、映画の成人指定のような情報内容についての指定を行い、アク
   セスする際、指定を判別できるソフトを開発する。指定しない情報を発信
   した場合に限り、何らの措置を講ずる。

 (2)自主規制や法的規制を行うべきではない又は行っても無意味であるとす
   る意見
  ・インターネットとは、あくまでサイバースペースであって、そこに存在す
   るのは、単なる情報に過ぎない。それをどのように受け取り、どのように
   生活に取り入れるかは個人の責任においてなされるべき。もし現行法を適
   用するとすれば、それは現実の社会にまで影響が及ぶ事柄(例 詐欺等)
   に限るべきである。
  ・憲法が保障する表現の自由、検閲の禁止に抵触する。
  ・テレビ等と異なり、アクセスする人間の意思があって初めて情報が流通す
   るのであるから、個人のモラル、自覚に委ねておけばよい。インターネッ
   トに書く自由と読む自由がある限り、虚偽情報や悪質な情報は必ず大勢の
   前で明らかにされて淘汰される。ネットワークにおける表現の自由と批評
   の自由を確保することが唯一の対策である。
  ・詐欺、誹謗中傷、わいせつ等の問題は、いずれも既存の法規制やそれに基
   づく取締りによって対応すれば十分。発信者の匿名性に留意すれば、日常
   生活において、「詐欺にあわないようにする」ことと同じである。
  ・わいせつ情報は、初めはおもしろがってアクセスしてもすぐに飽きる。価
   値の低い情報は、通信コストなどを考えると無駄であり、自然と廃れるは
   ずである。
  ・世界的ネットワークなので、国内法で取締りを行っても無意味である。海
   外からの情報を全部コントロールすることは不可能である。
  ・日々新たな技術が進展し、新たなサイトが出現しており、すべての情報を
   管理することは不可能である。新たな法規制を行っても、必ず裏の世界が
   出現する。

 (3)その他
  ・市民を自由なコミュニケーション・討論によってまとめあげ、政治的な力
   ・声にするシステムが民主主義である以上、インターネットのような個人
   の主権者情報発信力を高める道具は可能な限り自由な利用が尊重されるべ
   きである。


3 「インターネット利用に関するアンケート」(一般調査)における主な意見

 (1)対応策についての意見
  ・発信元の調査を可能にして、匿名による無責任な発信を防止する。
  ・わいせつ情報等の特定の情報については、申込みや特別な手続きを踏まな
   ければアクセスできないようにする。
  ・映倫のように情報の自主的な格付け(レイティング)によるアクセスの制
   限が望ましい。
  ・児童、生徒に対しては、親や教師がインターネットの使い方を教育すべき
   である。
  ・技術的対応や利用者のモラルによる歯止めには限界があると思われるので、
   法的規制が必要である。

 (2)自主規制や法的規制を行うべきではない又は行っても無意味であるとす
   る意見
  ・誰もが多くの情報を取捨選択して容易に利用することができるのがインタ
   ーネットの長所であるから、当面規制を行うべきではない。
  ・世界規模で情報が流通するのであるから、国内で規制すしても意味はない。

 (3)その他
  ・インターネットを使いやすくするために利用料金を引き下げてほしい。
  ・インターネットについてのわかりやすい周知啓発を望む。
  ・インターネットのわいせつ情報よりも、未成年者が、印刷物、テレビ、ビ
   デオにおいて、簡単にわいせつ情報に接触することの方が問題である。
  ・表現の自由は、内容についての責任を伴うことを十分認識すべきである。


    「電気通信における利用環境整備に関する研究会」委員名簿
             (敬称略、五十音順)

       ほりベ  まさお 
 座  長  堀 部  政 男 (一橋大学法学部教授)

       にいみ  いくふみ
 座長代理  新 美  育 文 (明治大学法学部教授)

       いちりき け ん
       一 力   健  (社団法人 テレコムサ−ビス協会会長)

       かとう  まさよ 
       加 藤  真 代 (主婦連合会常任委員)

       さえき  ひとし 
       佐 伯  仁 志 (東京大学法学部教授)

       さかた  こういち
       坂 田  浩 一 (社団法人 電気通信事業者協会会長)

       たがや  かずてる
       多賀谷  一 照 (千葉大学法経学部教授)

       ひぐち  かつみ 
       樋 口  勝 美 (東京都消費者センタ−所長)

       やまだ  よしたか
       山 田  吉 孝 (NHK解説委員)







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