マルチメディア時代のユニバーサルサービス・料金に関する研究会 報告書
第一部 マルチメディア時代の料金について
第2章 ネットワーク及びコストの動向
1 ネットワークインフラの展望
2 コストの動向
第2章 ネットワーク及びコストの動向
1 ネットワークインフラの展望
(1) ネットワークサービスへのニーズ
我が国では、多数の電気通信事業者(第一種電気通信事業者や同事業者が設置
した回線設備を利用した第二種電気通信事業者)によって多彩なネットワークサ
ービスが提供されているが、こうしたマルチキャリア下でのネットワークサービ
スは、今後も、競争のダイナミズムを通じてより一層の多様化、多層化が進展し、
その中で、映像伝送や高速のデータ伝送等の多彩なネットワークサービスが基盤
として定着していくことが見込まれる。
? 家庭
マルチメディアが普及しても、当面は電話しか利用しないユーザも一方にお
いて相当数存在すると考えられるが、パソコン通信やインターネットへのニー
ズの高まりとパソコンの高度化・低価格化等の技術革新とがあいまって、今後、
家庭においてもデータ伝送のネットワークを通じたマルチメディアの利用が急
速に進展するものと考えられる。
すなわち、家庭においては、超高速データ伝送サービスを利用するユーザから
電話しか利用しないユーザまで、ネットワークサービスへのニーズが極めて多
様化し、その中で、従来は企業向けのサービスであったデータ伝送サービスへ
のニーズが高まっていくものと考えられる。
? 企業
ビジネス活動では、各産業分野において従来から情報通信ネットワークの高
度な利用がなされており、PBXを中心とした音声伝送系システム、LANを
中心としたデータ伝送系システム、また、TV会議等の映像系システムが個別
に構築されている。
こうした中で、近年、企業活動の高度化や消費者ニーズへの的確な対応等を
図るため、グループウェアの導入・高度化やイントラネットの構築等、LANの
高速化や広域化・高度化等を図る動きが顕著となっており、企業内ネットワー
クのツールとして高速のデータ伝送サービスに対するニーズが、今後、一層高
まっていくものと考えられる。
(2) ネットワークの発展プロセス
通信ネットワークは、一般に、「アクセス回線(加入者回線)」と「ノード
(交換機等)」、「バックボーン(中継回線)」から構成される。このうち、ア
クセス回線とバックボーンは、これらを収容する管路・とう道も含め、基本的に、
複数のサービス間で共用可能であり、サービスの多様化は、これまで主として
ノードの多様化により実現されてきた。
マルチメディア時代のネットワークについても、基本的にはこうしたネット
ワーク構成に変化はなく、例えば、電話で使用している光ファイバケーブル、管
路、とう道等を利用し、ノードの高度化・多様化を図ることによって、速度や品
質の異なる多彩なニーズへの対応がなされるものと考えられる。
(図3 ネットワークの構成イメージ)
? アクセス回線
アクセス回線とは利用者宅から最寄りの通信事業者の事業所間の通信回線で
あり、利用者は有線や無線のアクセス回線を利用して、通信事業者の各種ネッ
トワークサービスを利用する。超高速のネットワークサービスを利用する上で
は、アクセス回線として光ファイバケーブルの利用は不可欠であり、また、今
後、個人についても超高速のアクセス回線を利用するニーズが顕在化すると考
えられることから、アクセス回線は、今後、光ファイバケーブルを基盤として
構築されていくものと考えられる。
なお、画像圧縮技術が進展し数Mbps程度で映像通信が利用できるように
なるほか、衛星デジタル放送等の放送メディアを通じて多数の配信映像が家庭
に提供される環境が整ってくる。このため、家庭においてマルチメディア通信
を利用する場合、例えば、2005年頃におけるサービスの伝送速度は、10
Mbps〜20Mbps程度が多く利用されると想定される。
? バックボーン
既に、有線系のバックボーンは光ファイバケーブルにより構築されており、
今後も基本的には光ファイバケーブルの伝送路を用いたバックボーンが構築さ
れていくと考えられる。この場合、ネットワーク機能としては、映像や高速の
データ伝送等、多様な機能がバックボーンにおいて提供されていくと考えられ
る。
他方、こうした新たなバックボーンの構築が早急に行われる一方において、
電話のような低速のリアルタイム型通信に関しては、電話網が、当分の間、技
術的に最も効率的なシステムと考えられることから、マルチメディアの導入、
発展段階においては、相当期間、新しいバックボーンと電話網とが併存するも
のと考えられる。
図4 電話網とマルチメディア網)
2 コストの動向
(1) ネットワークコストの基本的な方向性
現在、電話等の交換型のネットワークの料金は、通信量の多寡にかかわらず発
生するコスト(Non Traffic Sensitive Cost(NTSコスト):例えばアクセス回
線)を定額料金(基本料)で回収し、他方、通信量の多寡に応じて増減するコス
ト(Traffic Sensitive Cost(TSコスト):例えばノード、中継回線)を従量料
金(通話料)で回収するのが一般的である。
(図5 電話料金の仕組み)
こうした中で、技術革新に伴い、通信ネットワーク全体として、コスト構造の
変化が生じてきており、
? 光ファイバ化の進展、多重化技術の進歩により中継回線コストが低下し、
これにより、従量対応コスト、距離対応コストのウェイトが低下する。
? ネットワークのインテリジェント化の進展等により、ノード(交換機等)
のコストのうちソフトウェアの占める比重が上昇し、従量対応コストとされて
きたものの中で、通信量の多寡に関係しないコストが増大する。
? 加入者系光ファイバ網の整備とあいまって、伝送・交換能力の飛躍的な増
大が実現され、情報単位当りのコストが大幅に低下する。
といった傾向が見られる。
(2) データ伝送ネットワークのコスト構造
上述のとおり、将来的に多様なネットワークが定着すると考えられるが、そ
のうちデータ伝送のネットワークでは、上記(1)に加えて、全てのユーザ情報を
データパケットに分割して多重化するため、伝送路の使用効率が一層高まり、
また、ノードの機能やネットワークアプリケーションによって、通信が最も集
中するピークトラフィックのオフピーク時への移行が可能になるなど、回線設
備を極めて効率的に使用できるようになることから、従来のネットワークに比
べて通信量の増加に伴うコストの増大が抑制される。
なお、当研究会において、ATMをノードに用いた高速データ伝送ネットワ
ークのコストを試算したところ、TSコスト(注)である中継回線及びノードコ
ストの全体のコストに占める割合は約3割に過ぎず、また、加入者回線を収用
するノードの端子(ポート)単価の大幅な低下が見込まれるため、下表のとおり、
仮にトラフィック(通信時間)を4倍にしても全コストの増加が20%以下に
止まるなど、トラフィック増に伴うTSコストの増加が極めて小さなコスト構
造になる結果となった。
【トラフィック増(通信時間の増)に伴うコスト変化】
最繁時トラフィック | 上記モデル値 | モデルの2倍 | モデルの4倍 |
コスト | 1 | 1.07 | 1.19 |
(注) TSコストとN-TSコストの前提
・ TSコスト ・・・・ 中継回線、中継ノード及びアクセスノード(中
継回線側のポートに限る。)
・ NTSコスト ・・ アクセス回線、アクセスノード(アクセス回線側の
ポートに限る。)、その他設備費用(伝送設備、
局舎設備等)、その他費用(人件費、経費等)
(3) その他のコスト動向
一般に、電気通信産業は設備産業としての性格を有しており、料金を検討する
上で設備コストの動向が重要である。しかし、例えば、NTTの総費用に占める
設備対応の費用(減価償却費等)は全体の32%であるのに対し、人件費的経費
(人件費、作業委託費)は48%を占めており、しかもその比率は年々上昇傾向
にあることから、料金を考える上では人件費、経費等、その他のコストも考慮す
る必要がある。
この場合、NTTの総費用に対する人件費の割合は、他の産業に比べ高い水準
にあるが、他の電気通信事業者では必ずしも高くないことから、NTTにおいて
人件費の割合が高いのは、電気通信事業固有の事情では必ずしもなく、基本的に
事業者の経営努力に依存する面があると考えられる。
したがって、今後、マルチメディア社会に対応し我が国の通信コストの低廉化
を図る観点から、こうしたその他のコストについても、競争の一層の促進等を通
じて低廉化を促すことが重要な課題である。
(図6 NTTにおける設備関係コストと人件費的コストの動向)
(図7 総費用人件費率の状況(NTT,NCC,他産業))
