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【参考】 グローバルな知的社会の構築に向けて−情報通信基盤のための国際指針− 電気通信審議会答申(平成7年5月)より抜粋 「新たな基本的人権としての「情報発信権」及び「情報アクセス権」の保障 個人や組織の活動が情報通信に依存する度合いが高まるにつれ、情報面での格差 が、社会・経済面での格差に直結する。このため、全ての人々に対して、非差別的 に、かつ、適切な価格でネットワークを利用して情報を発信し、また、情報にアク セスすることが保障されなければならない。 21世紀に向けたグローバルな知的社会においては、これらの「情報発信権」及 び「情報アクセス権」を基本的人権とも位置づけて、その内容の充実を図ることが 必要である。 」 |
【参考】
郵政省が、平成8年11月8日から11月22日まで、インターネット等を通じて
実施したアンケート調査(以下「利用者調査」という。)によれば、926名の回答
者のうち773名(83.5%)が毎日インターネットを利用している。
また、郵政省が、平成8年11月16日から25日まで、全国の20歳以上の男女
を対象としたアンケート調査(以下「一般調査」という。)によれば、547名の回
答者のうち52名(9.5%)がインターネットを利用した経験がある。また、イン
ターネットを利用したことがない人のうち、293名(71.4%)が今後インター
ネットを利用してみたいと回答している。
利用者調査と一般調査の結果については、本報告書末尾に参考資料として掲載して
いる。
2 インターネット上の情報流通の問題点
(1) 1で指摘したように、インターネット上を流通する情報は、政治、経済、社会、文
化のあらゆる分野にわたっており、その大部分は合法的で有用なものである。しかし
ながら、インターネットにおいても、他のメディアにおけるのと同様に、犯罪の手段
として悪用されたり、違法な情報が流通したりする可能性があり、現に様々な問題事
例が発生している。我が国では、これまでインタ−ネット上にわいせつ画像を流通さ
せたことによって、刑法のわいせつ図画公然陳列罪で検挙された事例が発生している
(注1)。諸外国においても、幼児ポルノ、他人のアドレスの盗用、ハッキング、個
人の名誉や信用の毀損及び誹謗中傷等様々な問題が指摘されている(注2)。
(2) インタ−ネットについては、具体的には以下のような問題点が挙げられる。
個人の情報発信が容易である反面、出版、新聞、放送等と異なり、発信者にプロ
の職業倫理が働かない場合がある。
放送等と異なり、発信者に匿名性があるため、無責任な情報発信や違法行為が心
理的に容易にできる面がある。
違法な内容の情報があるサーバーから削除されても、別のサーバーに簡単かつ迅
速にコピーできるため、情報が流通し続ける可能性が大きい。
ある国が国内法によって違法な情報の流通を禁止しても、別の国で違法でなけれ
ば、その情報が世界中を流通する。ある国が違法な情報の世界的流通を制限した場
合には、特定の国の法が情報流通を阻害するという問題が発生する。
特定のプロバイダ−が違法な情報の発信又は違法な情報へのアクセスを制限して
も、他のプロバイダ−を利用することによって、当該情報を発信し、又はアクセス
することが可能である。
したがって、インタ−ネット上の情報流通についてル−ル化を検討する場合には、
ネットワ−クの発信側の入口と受信側の出口に着目する必要がある。また、国際連携
や国際協力を図ることが重要である。
(注1)平成8年2月1日、都内のプロバイダーの会員が、ネットニュースの中から入
手したわいせつ画像を自己のホームページに掲載し、インターネットの利用者が
容易に閲覧できるようにしたとして逮捕され、4月22日、東京地方裁判所にお
いて、わいせつ図画公然陳列罪(刑法175条)により、懲役1年6月、執行猶
予3年の有罪判決を受けた(その後確定)。
平成8年9月30日、広島県内のプロバイダーが、自社のホームページの中に、
会員が作成したホームページへのアクセス回数のランキングを掲載し、ランキン
グ部分をクリックすることによって、当該ホームページに接続できるようにリン
クを張ったという事案について、プロバイダーの幹部がわいせつ図画公然陳列罪
の容疑で書類送検された(処分未了)。
(注2)EU委員会報告は、違法又は有害なコンテントについて、保護法益によって区
分し、以下のように例示している。
保護法益 | 違法又は有害な情報内容の例 |
国家安全保障 | 爆弾製造、違法な薬物製造、テロ活動 |
未成年者の保護 | 不正販売行為、暴力、ポルノ |
個人の尊厳の確保 | 人種差別 |
経済の安全・信頼性 | 詐欺、クレジットカードの盗用 |
情報の安全・信頼性 | 悪意のハッキング |
プライバシーの保護 | 非合法な個人情報の流通、電子的迷惑通信 |
名誉、信用の保護 | 中傷、不法な比較広告 |
知的所有権 | ソフトウェア、音楽等の著作物の無断頒布 |
【参考】
具体的に選択肢を挙げて、インターネットにおいて何らかの対応策が必要と思われる
問題について尋ねた結果、利用者調査では以下のような順であった(複数回答)。
ネットワーク上の詐欺(63.5%)
取引に関する誇大広告、虚偽広告(48.1%)
他人を中傷する情報の流通(44.5%)
無断転用等の著作権の侵害(42.4%)
また、一般調査では以下のような順であった(複数回答)。
他人を中傷する情報の流通(73.3%)
ネットワーク上の詐欺(66.5%)
わいせつ情報(66.5%)
取引に関する誇大広告、虚偽広告(60.3%)
3 インターネット上の情報流通に関する論点
インタ−ネット上の情報流通に関しては、表現の自由や通信の秘密の保護の観点から
規制すべきではないという意見、他方、違法又は有害な情報の流通の禁止やプライバシ
−保護の観点から規制を求める意見があるが、当研究会では以下のようにインターネッ
ト利用に関する論点を整理した。
(1) インタ−ネットに対する現実社会のル−ルの適用
インターネット上で展開される仮想社会は、現実社会から切り離された特別の空間
であり、現実社会のルールが及ばないとする意見もある。しかしながら、仮想社会と
いっても現実社会とのリンケージなく捉えることは不可能であり、インターネット上
の情報の流通に対しても、現実社会のル−ルは当然適用されると考えられる。具体的
には、現実社会で違法なものは、インターネット上の仮想社会でも違法であるという
べきである。
諸外国においても現実社会のルールがそのまま適用された例が見られる。アメリカ
では、パソコン通信上で州を越えてわいせつ画像を流通させた者に対し、わいせつ物
頒布罪等を適用して有罪とした連邦控訴裁判所の判例、イギリスではインターネット
上に男児のわいせつ画像を掲載した神父が懲役6年の実刑判決を受けた例がある。
なお、具体的な現行法の適用に当たっては、例えば、刑法175条の「わいせつの
文書、図画その他の物」に、有体物ではない「わいせつ情報」そのものが該当するか
等様々な問題点が指摘されている。このような現行法の適用上の問題や現行法制度の
再検討を行うことも今後の課題である。
【参考】
EU委員会報告の序論においても、「インタ−ネットでの『違法なコンテントの流
布』については、『既存の法律を確実に適用するのは、加盟国の責任』であることが
明確である。『オフラインで違法なものは、オンラインでも違法であり』(What is
illegal offline remains illegal online) 、既存の法律を執行するのは、加盟国の
責任である。」と述べられている。
また、利用者調査においても、ほとんどの意見が刑法、民法をはじめとする現行法
の規制がインターネットに及ぶことを前提としており、インターネットに現行法の規
制が及ばない旨を明確に述べた意見はなかった。
(2) インタ−ネットの法的位置づけ
情報を伝達するメディアは、歴史の一定の段階で発明され、それぞれ独自の歴史を
歩んできた。それとともに、それぞれの時代においてそれらに対応する法的枠組みが
形成されてきた。今日、主要なメディアとなっているものは、歴史的には、印刷・出
版、通信、放送の順に登場し、それらに関する法が発達してきた。近年の情報通信技
術の発達により、これらのメディアは、競合・融合化の方向にあるが、そのような中
で新たにインタ−ネットが登場してきた。
インタ−ネットは、公衆網や専用線を用いた通信形態の一種であり、プロバイダ−
も、第一種電気通信事業者又は第二種電気通信事業者であるので、電気通信事業法を
はじめとする通信法体系によって規律されている。
他方、インタ−ネットにおける情報を見ると、電子メールのような特定人の間の通
信のみならず、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)のホームページのように不特定
多数の利用者に対する情報発信、ネットニュースのような不特定多数の利用者間の反
復的な情報の受発信等、発信者が情報内容を一般に公開することを意図している場合
がある。そこで、インタ−ネットの有する情報提供形態に着目すると、現行の通信・
放送の法体系とは別に、「公然性を有する通信」といった第三のカテゴリ−を設ける
必要があるという意見がある。
【参考】
「電子情報とネットワ−ク利用に関する調査研究会」報告書(平成6年6月)に
おいては、パソコン通信に関して、「電子掲示板及びフォ−ラム・SIGのように、
個人が自由に情報の送受信を行えると同時に、1対1の情報の送受信を行う電話と
は異なり、公然性を有するサ−ビスにおいて発生している課題について検討を行う」
とし、「公然性を有する通信」という概念が用いられている。
また、「21世紀に向けた通信・放送の融合に関する懇談会」報告書(平成8年
6月)においても、「公然性を有する通信」の概念が用いられており、「従前、公
然性を有する電気通信は、公衆に対する情報発信として、主として放送と位置づけ
られてきたが、近年、それ以外にも新たに公然性を有する電気通信が出現している。
すなわち、情報発信力の向上、情報蓄積の高度化等により、パソコン通信の電子掲
示板、インタ−ネットのホ−ムペ−ジ等通信としての基本的特性は有しながら実質
的に通信内容の秘匿性がない、いわば、『公然性を有する通信』が登場している。」
としている。
(3) インタ−ネットにおける通信の秘密の保護
通信内容の秘密
従来、インターネット上の情報については、電気通信事業法が保障する通信の秘
密(4条)として保護されてきた。電子メールのような特定人に宛てた通信につい
ては、電話による通信と同様に、通信内容の秘密が保護される必要がある。しかし
ながら、インタ−ネットのホ−ムペ−ジのような「公然性を有する通信」について
は、発信者が不特定多数の者に対して通信内容を公開することを前提としているの
で、発信者には通信内容を秘密にする意思がない場合が多いと考えられる。
そこで、インターネットの利用形態に着目して、通信内容にどこまで秘密性を認
めるべきか検討する必要がある。
発信者の匿名性
電気通信事業法の通信の秘密については、通信内容ばかりでなく発信者の氏名等
一定の範囲の外延情報についても保護の範囲に含まれると解されている。インター
ネットにおいても、発信者の氏名、発信地等は通信の秘密に属する事項であると考
えられる。また、今後「公然性を有する通信」という概念を導入し、通信内容につ
いては公開されたものと考えるとしても、発信者の住所・氏名等の通信の構成要素
は秘密であるとする考え方もある。
インタ−ネットの利用者は、通常、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)のホー
ムページの発信者名、ページのアドレス(URL)、電子メールやニュース・グル
ープのアドレスによって特定される。しかし、これらを匿名で利用することも可能
であると指摘されている。
一般に匿名による発信を許容することは、個人の情報発信の自由を確保すること
に役立つと考えられる。例えば、社会的弱者や少数者が、多数者による圧迫や制裁
を回避して、意見表明の機会を保障するためには、匿名による表現は有用である。
しかし、匿名による表現が濫用されると、無責任な情報発信が助長され、個人の情
報アクセス権や自由で的確な世論の形成を阻害する要因となる可能性がある。特に
ホームページ等によって、不特定多数の者に対して情報を発信する場合、情報自体
は公開されていることやその影響力の大きさにかんがみると、匿名による表現の自
由は制約されてもやむを得ないという意見もある。
今後、発信者の匿名性について、インターネットの利用形態に着目した保護の在
り方を検討していく必要がある。また、例えば、匿名による表現によって、名誉を
毀損された者が発信者を特定することを可能とする手段を設けること等、具体的な
利益衡量によって、発信者の匿名性を制限することの是非についても検討する必要
がある。
【参考】
利用者調査及び一般調査においても、発信者の匿名性に関する意見があった。
(注)同条項は、規制の対象となる情報として、「下品な(indecent)」、「明らかに 不快な(patently offensive)」のほかに、「わいせつな(obscene )」、「淫らな (lewd)」等を挙げているが、「indecent」、「patently offensive」以外の部分 については、そもそも訴訟の対象となっておらず、憲法違反の問題は指摘されてい ない。(5) インターネット上の情報流通に関する具体的ル−ル化の問題点
(注1)アメリカでは、わいせつ物の頒布罪(合衆国法典18編1465条)に加えて、 児童の性的搾取罪(合衆国法典18編2252条)の中で、インターネット上の 情報流通を含む幼児ポルノの頒布、販売、陳列について、10万ドル以下の罰金 若しくは10年以下の懲役又はその併科に処している。イギリスでは、わいせつ 物の頒布等を規制する法律(Obscene Publications Act)に加え、児童の保護に 関する法律(Protection of Children Act )の中で、幼児ポルノの頒布、販売、 陳列を3年以下の懲役に処している。 (注2)我が国では、刑法にわいせつ物頒布罪(175条)が規定されているが、幼児 ポルノの頒布等を独立して処罰する規定はない。平成8年(1996年)9月、 在日イギリス大使館に勤務していた外交官が、日本で収集した多数の幼児ポルノ ビデオを本国に密輸入したとして、イギリスで禁固3年の実刑判決を受けた事例 がある。(6) インタ−ネット上の情報流通に関する責任と対応
【参考】
EU委員会報告においても、「違法・有害なコンテントといっても、違法(illegal) なコンテントとそれ以外の有害(harmful) なコンテントは、区別すべきである。この ように、カテゴリ−の異なるコンテントは、根本的に原則の異なる問題を提起するも のであり、法律的・技術的に極めて異なる対応を必要とするものである。・・・中略 ・・・明確に優先順位を定めて、最重要問題、すなわち、幼児ポルノグラフィ−や、 犯罪のための新技術としてのインタ−ネットの利用を取り締まる等犯罪的なコンテン トと闘うことに取り組むことに資源を結集すべきである」としている。