4 諸外国の動向
 欧米、東南アジア諸国においても、インタ−ネット上のわいせつ画像等の違法又は有 害な情報の流通が問題化しており、インタ−ネット利用のル−ル化に関する検討がなさ れている。
(1) アメリカ
 既に述べたとおり、アメリカでは、改正通信法223条について、憲法修正1条に 反するとして違憲訴訟が提起され、現在連邦最高裁判所で審理中である。
 また、受信者側で特定の情報を選択的にブロックする技術の開発も推進されている。
 例えば、受信者のパソコンに組み込むことにより、性や暴力にかかわる情報を遮断 する選択ソフトが民間で開発されている。インタ−ネット上の特定のサイトへのアク セスを制限できるフィルタリング・ソフトウェアとしては、サーフウォッチ(Surf- Watch )、サイバーパトロール(Cyber Patrol)等があるが、それらは競合他社製品 の持つラベル情報は認識できない等汎用性のないソフトウェアであった。しかし、ワ ールドワイドウェブ・コンソ−シアム(W3C)が平成8年(1996年)5月に 発表したPICS(the Platform for Internet Content Selection)は、インタ−ネ ット上の特定の情報を遮断するためのグロ−バルな技術規格を目指したものであり、 既存のフィルタリング・ソフトウェアに比べて柔軟性・汎用性を持つシステムとなっ ている。すなわち、まず、発信者が情報に格付けし、受信者側がインターネットの利 用目的に従い、どのラベル集を使用するかを選択ソフトに指定することによって、ブ ロッキングができるシステムである。
 PICS規格に準拠したコンテントの格付け基準としては、非営利団体であるRS AC(娯楽ソフト諮問会議、(The Recreational Software Advisory Council))に よるRSACi(Recreational Software Advisory Council on the Internet)があ る。このレイティングシステムは、それぞれの情報を暴力、裸体、性、言語の4つの 観点から評価し、あらかじめ定められた基準に従って、0から4までの5段階の点数 を付すというものである。
(2) イギリス
 イギリスでは、平成8年(1996年)9月23日、英国のプロバイダ−の団体で あるインタ−ネット・サ−ビス・プロバイダ−協会(ISPA、Internet Service Provider Association)、ロンドン・インタ−ネット・エクスチェンジ(LINX London Internet Exchange)及びセイフティネット財団(Safety-Net Foundation ) の三者が、インタ−ネットの情報を業界で自主的に規律するR3セイフティネット (R3 Safety- Net )を発表し.政府、警察、業界から歓迎されている。
 自主ガイドラインは、セイフティネット財団がインタ−ネット上での幼児ポルノや その他の違法な情報に関する苦情の受付けや処理において、独立的な役割を果たし、 評価システム(rating system )の開発支援を提供することを主な内容としている。   財団は、主に以下の3つの業務を行うこととなっている。
 各ニュ−スグル−プの内容に関して合法性の指針を示すことや評価(rating)を 行う。この評価では、当該グル−プが通常、違法素材(デ−タ)を擁しているか、 またどんな形で違法となっているのか(幼児虐待、著作権侵害等)等を指摘する。
 電話、郵便、電子メ−ル又はファクシミリを経由して、だれでもアクセスが可能 となる素材に対する苦情を受けるホットラインを開設する。これらの苦情は、標準 様式に統一され、即座に参加プロバイダ−や他の適当な団体へと転送される。ホッ トラインによって、個別ニュ−スグル−プの情報又はホームペ−ジの合法性の評価 を行う。
 英国内で作成された違法素材の場合、供給源の追跡を試み、作成者に対し排除す るよう要請する。作成者の協力が得られない場合、プロバイダ−に対し、必要な措 置を講じることを要請するとともに警察に連絡する。
 また、技術的対応であるPICSへの支援を表明している。
(3) フランス
 フランスでは、平成8年(1996年)6月、電気通信規制法が国民議会で採択さ れた(注)が、憲法院は、7月24日、アクセスプロバイダ−の刑事責任の免除に関 する2つの規定について、明確性に欠けるとして憲法に違反すると決定した。また、 平成8年(1996年)10月にソウルで開催されたOECDのワ−キンググル−プ 会合において、インタ−ネットに関する国際協力協定(Agreement on international cooperation with regard to the INTERNET)の案がフランスから提出された。この提 案は3部から構成され、第1に、関係者の分類、適用する規則、情報提供者とホスト サ−ビス提供者の責任に関する原則等署名当事国により承認される一連の原則を定め ている。第2に、特に基本的な倫理規則の尊重及び消費者保護の改善を保障すること を目的とするガイドラインを定めている。第3に、署名当事国間の法的及び警察に関 する協力の原則を定めている。
(注)法律の規定の主な内容は以下の通りである。が無効とされた。
 視聴覚コミュニケ−ション・サ−ビスを業とする者は、加入者に対し、特定 のサ−ビスに対するアクセスを制限又は選別できる技術的手段を提供する義務 を負う(43条の1)。
 サ−ビスへのアクセス提供者、編集者、利用者、学者等からなるテレマティ ック高等委員会(CST、Comite superieur de la telematique)が、サ−ビ ス業界が倫理規定を遵守するための勧告作成、苦情受付と刑事訴追相当の事実 の検事正への通知、サ−ビス業者に関する調査研究、共通倫理綱領策定のため の国際協力等を行う(43条の2)。
 倫理規定を遵守しているサ−ビス業者は、故意に自ら犯罪を犯し若しくは加 担した旨の証明が行われない限り、視聴覚コミュニケ−ション・サ−ビスによ り発信された情報の内容に起因する犯罪についての刑事責任を問われない(4 3条の3)。

(4) ドイツ
 ドイツでは、平成8年(1996年)11月に新聞・出版と放送のコンテントに関 する現在の自主規制システムを拡大することにより、インタ−ネット・コンテントの 自主規制を改善する提案が提出された。これによって、有害なコンテントを提供する プロバイダ−は、苦情や問い合わせの窓口としても利用者へのアドバイザ−としても 機能する青少年保護委員を任命することが要求されることになる。
 また、主要なプロバイダ−が属するインタ−ネット・コンテント・タスクフォース も、ホットライン及び違法コンテントへのアクセスを遮断する技術的手段等を含む新 しいシステムを発表している。
 さらに、「情報通信サ−ビスの枠組みの規制に関する法律案」(通称「マルチメデ ィア法案」)が平成8年(1996年)12月11日に政府決定され、平成9年(1 997年)初めから国会で審議される予定である。同法律案は、インターネットを含 む「遠隔サ−ビス」を提供する者の責任について、自ら提供する情報内容について は、一般法の規定に従って責任を負う、他人が提供する情報内容については、その 内容を知り、かつその利用を防止することが技術的に可能で、期待可能な場合に限り 責任を負うと規定されている。
(注)遠隔サ−ビスとは、記号、画像又は音声を組み合わせたデ−タを個々に利用する ためのあらゆる電気的な情報通信サ−ビスであり、インタ−ネット等を含む概念で ある。

(5) オ−ストラリア
 オ−ストラリア放送庁(ABA、Australian Broadcasting Authority )は、平成 8年(1996年)6月に「オンラインサ−ビスのコンテントに関する調査検討」の 報告書を通信芸術相に提出した。報告書では、自主規律に関するサ−ビスプロバイダ −の実施規範(Code of Practice) の整備とオンラインコンテントに対する格付け方 式の推進を提言している。
(6) シンガポ−ル
 シンガポ−ル放送庁(SBA、Syngapore Broadcasting Authority)は、平成8年 (1996年)7月にプロバイダ−等に対するクラス・ライセンス制度、コンテント ・ガイドラインを発表した。プロバイダ−は登録が必要であり、放送庁が接続の禁止 を求めたサイトについて、プロバイダ−は接続を停止しなければならないとされてい る。また、コンテント提供者がシンガポールで登録された政党である場合又はシンガ ポールに関する政治的若しくは宗教的議論に携わるグループである場合には登録が義 務づけられている。
(7) 国際機関における議論
 インタ−ネット上の情報流通に関するル−ル作りについて、国際機関においても議 論が開始されている。
 平成8年(1996年)6月に開催されたリヨン・サミットにおいて、「我々は、 世界規模の通信ネットワ−クによって生じた倫理面及び犯罪面の問題を検討する用意 がある。」との議長声明が出されている。
 OECD(経済協力開発機構)の場では、平成8年(1996年)2月にキャンベ ラで開催されたICCP(情報・コンピューター・通信政策委員会)の会合において、 インタ−ネットのル−ル化に関する国際的ガイドライン作成の必要性について議論さ れた。その後、6月にダブリンで開催されたワ−クショップにおいても国際的な協力 の枠組みの必要性について議論され、10月のソウルで開催されたワ−クショップに おいては、フランスからインタ−ネットに関する国際協力協定の提案があった。
 ITU(国際電気通信連合)の場では、平成8年(1996年)10月の第2回世 界電気通信標準化会議(WTSC96,World Telecommunication Standadization Conference 96 )において、国際的に提供されるコンテントについて議論され、今後 この問題を継続的に研究することが合意された。
 国際機関のみならず、欧州、アジア等地域レベルでも議論が行われている。特に、 EUにおいて積極的な取組みが見られる。
 EU委員会報告においては、「政策の選択肢/結論」として、違法なコンテントに 関して、加盟国間の協力、アクセスプロバイダ−とホストサ−ビスプロバイダ−の責 任、自己規制の奨励が述べられており、有害なコンテントに関して、フィルタリング ・ソフトウェアと評価システムの利用を支援するための共同体の措置等が述べられて いる。また、平成8年(1996年)10月16日には、「オ−ディオビジュアル・ サ−ビス及び情報サ−ビスにおける未成年と人間の尊厳の保護に関するグリ−ンペ− パ−」も出されている。
 平成8年(1996年)11月28日には、EUの電気通信相理事会が開催され、 「インタ−ネット上での違法・有害なコンテントに関する特別作業班報告書」(注) に基づいて、同理事会のインタ−ネットに関する決議が採択された。決議の内容は、 インタ−ネットサ−ビスプロバイダ−とユ−ザ−の代表団体を含む自主規制システ ム、実効性のある行動規範(effective codes of conduct)及び国民が利用すること ができるホットラインによる報告の仕組みを奨励、促進すること、ユ−ザ−へのフ ィルタリング・メカニズムの提供及びEUの支援を受けて国際的なワ−ルドワイドウ ェブ・コンソ−シアム(W3C)が開始したPICSの標準に従った評価システム (rating systems)の設定の奨励、ドイツが主催国となる国際的な閣僚会議に積極 的に参加し、関連する当事者の代表の参加を促すことを加盟諸国に要請する等となっ ている。また、欧州委員会及び加盟国に対し、国際的な閣僚会議及びその他の国際的 な話合いの場での議論の結果に基づく国際的な協力を通して、本決議に述べられた各 種の措置の有効性を強化するために必要なすべての措置を講ずるよう勧告する等国際 協力の必要性を強調している。
 アジア地域では、平成8年(1996年)9月にASEAN諸国の専門家レベルの 会合が開催されている。
 
(注)「インタ−ネット上での違法・有害なコンテントに関する特別作業班報告書」 の概要
今後の措置の提案  自主規制
 責任  技術的な手段  その他

5 対応策の在り方
 インタ−ネット上の違法又は有害な情報の流通を防止するための方策としては、通 信内容に関するルールの策定、通信方法に関するルールの策定(ソフトウェアによる ブロックのようなアクセスの制限等)、通信主体に関するルールの策定(情報発信者 の責任、プロバイダーの責任)等がありうる。これらは、(1)技術的対応と(2)制度的対応 に分けることができる。
(1) 技術的対応
 各国の法制度の相違を前提とした上で、発信者の表現の自由と通信の秘密の保護を 確保しつつ、受信者の適切な選択の機会を最大限尊重する方法としては、受信者側で 特定の内容の情報を選択的にブロックするフィルタリング・ソフトウェアを採用する ことが有効であると考えられる。その場合、どのようなソフトウェアを選択するかと いう問題とそのソフトウェアとリンクした形で各サイトの分類や格付けをどのように 行うかという問題がある。まず、ソフトウェアに関する標準規格としては、前述した PICSがあるが、どのような技術標準を用いるべきか検討する必要がある。
 サイトの分類、格付けについては、例えば、PICSに準拠した形でRSACiが ある。具体的にどのような格付け基準を設定するかについては、表現の自由の保障と の関係上慎重に検討すべき問題である。
  (2) 制度的対応
 制度的対応には民間による自主的対応と法的対応がある。
 自主的対応
 インタ−ネットのホ−ムペ−ジは、アクセスするという意思を有している者のみ が情報を入手できるという点に着目すると放送と異なる面があるが、誰でもがアク セスできるという情報の公開性に着目すると放送に近い概念を有している。
 したがって、平成7年(1995年)3月10日に策定された、「アジア・太平洋 地域における衛星映像国際放送の番組内容に関するガイドライン」や社団法人全日 本テレホンサービス協会のダイヤルQ2倫理規程等の自主的な取組みの例を参考と して、具体的なル−ルを作成することが考えられる。具体的なル−ル作りに当たっ ては、表現の自由の保障との関係から、民間団体による自主規律が望ましいと考え られる。
 法的対応
 既に述べたとおり、アメリカでは、インターネット上の情報流通を規制する改正 通信法223条について、2つの連邦地裁で一部の条項が違憲であるという判決が あり、平成9年(1997年)初めから連邦最高裁の審理が開始される。我が国で は、インターネット上の情報流通については、本格的議論が始まったばかりであり、 今後、諸外国の動向を踏まえ、国民的な議論を深めながら慎重に検討すべきである と考える。

6 当面の対応策
 インタ−ネット上の情報流通に関するル−ル作りは、表現の自由の保障と関連するた め、慎重に検討する必要があり、当面、法律による新たな規制は行うべきではないと考 えられる。当面の措置としては、以下の方策が考えられる。
(1) 国際連携の強化
 インタ−ネット上の情報は、国境を越えて流通するため、インタ−ネットの利用の 在り方について、国際的な連携や協力を行うことが重要である。
 しかし、コンテントの基準に関しては、各国とも異なる文化・歴史及び法制度を持 っており、国際的な統一ル−ルを作ることは難しい面がある。例えば、わいせつ情報 についても判断基準や社会通念が国ごとに異なるため、それらを統一することは難し い。
 したがって、国際的な統一ル−ルは、各国が合意できる必要最小限のものとし、具 体的運用は、各国の法制度を最大限尊重することを基本原則とすべきである。
 また、具体的なル−ルの検討に当たっては、明らかに違法であるものに関して必要 最低限の基準を設けるという考え方を基本とすることが望ましい。特に、すべての国 が遵守しなければならないことは、各国の自主性を最大限尊重し、ある国の特定の法 制度や固有の倫理観を他の国に押しつけてはならないということである。
 そのための第一段階として、違法とされている情報内容について、各国の法制度を 比較検討するとともに最低限の基準の設定が可能かどうかについての検討を開始する ことが望ましい。このような比較検討を通じて各国の相互理解も深まるものと考えら れる。具体的な方法としては、例えば、各国の法学者等が共通のホームページを開設 する等して、関係法令に関する意見交換を行うことが考えられる。
 このような国際連携・協力は、各国の法制度の比較検討のみならず、後述する自主 ガイドラインの策定、技術的対応策及び苦情処理体制の整備等においても不可欠であ る。どの機関で検討を行うかについては、例えば、OECDで検討を行うべきである との意見やより参加国の多いITU等の場で検討を行うべきであるとの意見もある。 最終的には、世界のすべての国がかかわる問題であるので、できる限り多くの国が参 加する機関で検討することが望ましい。しかしながら、世界各国が合意できるル−ル 作りには時間を要することが予想されるため、当面は、比較的参加メンバ−の少ない OECDの場でモデルを検討することが考えられる。また、文化や歴史的背景が似て いるEU、アジア地域等のブロックレベルでも検討を開始することが望ましい。
 なお、放送の分野では、既に映像国際放送について、EUにおいて、平成元年(1 989年)10月3日、「国境を越えるテレビに関するEU指令」が採択されており、 アジア・太平洋地域でも、前記「アジア・太平洋地域における衛星映像国際放送の番 組内容に関するガイドライン」が策定されている。このような放送分野における経験 は、インタ−ネット上の情報流通に関するル−ル作りにおいても役立つものと思われ る。
(2) 各国における自主的な取組みの促進
 表現の自由の問題と関連しているため、現時点では、政府が自ら情報のル−ル作り に取り組むことは適当ではないと考えられる。したがって、当面の対応としては、プ ロバイダ−の団体による自主的なガイドラインの策定を促進することが望ましい。
 我が国においても、既に一部の団体でこのような取組みが見られるが、プロバイダ −によって、より広範囲かつ積極的な取組みがなされることを期待する。なお、プロ バイダ−の団体による自主ガイドラインを作成するに当たっては、有識者、利用者代 表の参加を得る等して議論の透明性を確保しつつ、ガイドラインを作成することが望 ましい。
 また、イギリスでは既に「R3セイフティネット」という自主ガイドラインが策定 されていることやEU特別作業班報告書において「加盟諸国は、自主規制システムを 設立し、そのシステムに参加し、その規則を尊重するよう業界を奨励しなければなら ない。」と指摘されていることから、今後、各国において、自主ガイドラインの策定 が進むものと予想される。
 インタ−ネットの場合、情報が国際的に流通することから、各国の自主ガイドライ ンを策定している事業者団体間で、自主ガイドラインの比較、自主ガイトラインの当 該国における効果、当該国の自主ガイドラインでは対応できないケ−ス等について情 報交換するとともに、各国の自主ガイドラインの実効性を高めるための国際連携を図 ることが重要である。
(3) 技術的対応策の連携強化
 各国の法制度の相違を前提とした上で、発信者の表現の自由と通信の秘密の保護と 受信者の適切な選択の機会の確保、さらには、自己が嫌悪する情報を受けない自由と の均衡を図る方法としては、犯罪に係る情報等特定の内容の情報を、受信者が選択的 にブロックできる仕組みを構築することが有効である。例えば、児童・生徒を違法又 は有害な情報から保護するためには、アクセスを遮断できるフィルタリング・ソフト ウェアを使用することが最善の方策であると考えられる。フィルタリング・ソフトウ ェアとしては、EUも支持を表明しているPICSをベ−スとした国際的連携が強化 されることが望ましい。
 フィルタリング・ソフトウェアは、柔軟性のあるシステムではあるが、格付け基準 (レイティング)をどのような組織で誰が策定するかについては、実施主体によりバ イアスがかかる可能性があることや実質的に情報内容を分類するのと同じ効果をもつ 可能性があることから慎重に検討する必要がある。当面の措置としては、各国におい て、民間の有識者による倫理委員会等を設けて格付け基準を策定することが考えられ る。アメリカでは、既にRSACiという評価システムがあるが、これを我が国にそ のまま適用することは、歴史や文化的背景の相違から必ずしも適切ではない場合があ ると考えられる。したがって、早急に、民間レベルの有識者による倫理委員会を設け て、我が国の格付け基準について検討することが望まれる。具体的には、モデル地域 を選定して、児童・生徒の保護監督者である親・教師等と有識者とで格付け基準を策 定し、フィルタリング・ソフトウェアを開発するための実証実験を行い、このモデル ソフトを各地域の歴史的、文化的事情に合わせ、取捨選択して利用していくこと等が 有効であると考えられる。
 また、今後、各国においてもこのような取組みがなされるものと予想されることか ら、各国の評価システムの比較や各国の倫理委員会との情報交換、さらには、グロ− バルな評価システムの可能性等についても検討する必要がある。このような制度的整 備と相まって、フィルタリング・ソフトウェアが有効に機能することとなると考えら れる。
(4) 苦情処理体制の整備、情報提供の充実
 表現の自由との関係から、不適切な情報流通に関しては、事後的措置として苦情処 理体制を整備することが重要である。EU電気通信相理事会決議で「国民に利用でき るホットラインによる報告の仕組みを奨励及び促進」と述べられているが、被害の救 済や拡大防止のためには、利用者からの苦情申出に対して適切かつ迅速に対応するこ とが重要であり、そのための苦情処理体制を整備する必要がある。
 また、苦情処理体制を整備することにより、苦情事例の蓄積、苦情事例の分析等を 通じて適切な情報流通のル−ル作りに寄与することができる。プロバイダ−も苦情の 件数等を一つのメルクマ−ルとして、違法・有害なコンテントに対応することが可能 となる面がある。
 当面の措置としては、各国が民間事業者団体レベルで苦情処理体制を整備すること が望ましい。また、各国の苦情処理機関のネットワ−ク化を図ることも検討する必要 がある。
(5) 情報社会教育の充実
 これまで述べてきたように、インターネットは、個人の情報発信、受信、アクセス の機会を飛躍的に増大させ、自由な情報流通を通じた豊かな情報通信社会の実現を可 能とする新たなメディアである。その一方、インターネットの自由な利用によって、 個人の情報社会に対する影響力や依存度がますます増大することになるため、情報の 流通に関する個々の利用者の責任が増すことになる。この点については、まず、一人 一人の利用者のモラルの向上を図ることによって対処すべきであり、そのために家庭、 学校、企業等あらゆる場を通じて、情報社会教育を充実させる必要がある。
【参考】
 利用者調査においても、「インターネット上の情報流通に関する対応策として、具 体的に何が必要か」という質問に対して、「利用者の自覚を促す啓発活動を行うべき である」という選択肢を選んだ回答者が全体の45.9%で最も多かった。



(注)EU委員会報告によれば、フィルタリング・ソフトウェアには、ブラックリスト 方式(リストに挙げられてたサイトへのアクセスがブロックされる)、ホワイトリ スト方式(リストに挙げられたサイトへのアクセスが可能である)、中立的分類方 式(サイトの分類や格付けが行われるが、その分類や格付けをどのように利用する かはユ−ザ−が決定する)の3方式がある。
 ブラックリスト方式の例としては、平成7年(1995年)8月に発売された Cyber Patorol がある。その<サイバ−NOT>リストには、12種類(暴力/不 敬、裸体、性行為、麻薬等)に分類される約7000のサイトが記載され、受信者 は、この分類の一部又は全部を選択して、それらに対するアクセスをブロックする ことができるものである。
 中立的分類方式には前述したPICSがある。これは、業界全体にわたる新しい 標準規格である。PICSは、中立的分類とインタ−ネットのアドレス(URL) を用いてあらゆる種類のサイト(ホームペ−ジ、ftp、ニュ−スグル−プ)をフ ィルタリングすることにより機能する。