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発表日  : 2000年 3月31日(金)

タイトル : 上限価格方式の運用に関する基本的考え方







       (「上限価格方式の運用に関する研究会」報告書)

 「上限価格方式の運用に関する研究会」において、上限価格を設定するために
必要な生産性向上見込率(X値)を算定する際に留意すべき基本的な考え方につ
いての報告書が取りまとめられました。

 郵政省では、平成11年(1999年)10月から「上限価格方式の運用に関す
る研究会」(座長:岡野行秀 東京大学名誉教授)を開催し、上限価格を設定する
ために必要な生産性向上見込率(X値)を算定する際に留意すべき基本的な考え方
について検討を進めてきましたが、今般、その報告書がとりまとめられました。
 報告書のポイントは別添1、概要は別添2のとおりです。




                  事務局:電気通信局電気通信事業部業務課
                     (担当:菱沼課長補佐、蒲生係長)
                  電話:03−3504−4830

 関係報道資料:「上限価格方式の運用に関する研究会」の開催
        (平成11年(1999年)10月5日発表)


 別添 1 

  「上限価格方式の運用に関する研究会」報告書のポイント

1 上限価格方式(プライスキャップ方式) 
 (1) 上限価格方式は、東・西NTTの利用者向け料金を対象に、「音声伝送役務」
  と「専用役務」の区分ごとに全体の料金水準の上限(キャップ:基準料金指数)
  を定める規制の方式である。
   この方式の下では、
  ア:区分全体として基準料金指数を超える料金引上げは原則として認めない。
  イ:基準料金指数以下の料金は届出のみで事業者が自由に設定できる。

 (2) 基準料金指数は、「消費者物価指数(CPI)変動率」と、東・西NTTに
  期待される「生産性向上見込率(X値)」を勘案して定められる。

2 生産性向上見込率(X値)算定の考え方 
 (1) X値の算定方法については、
  ア:基準年の取り方や仮定の設定方法により算出される数値が大きく変化する
    おそれが指摘されている「フル生産性準拠方式」でなく、
  イ:過大な超過利潤のおそれや、初期値の設定が不適切なため上限価格が実態
    から大きく乖離するといったおそれが少ない「ミックス生産性準拠方式」
    を用いることが適当であることを確認した。
   (参考)「フル生産性準拠方式」は、全要素生産性向上率に基づきX値を算
     定するものであり、「ミックス生産性準拠方式」は、事業者の費用情報
     等(収入予測、費用予測、報酬額等)に基づきX値を算定するもの。

 (2) 英国においても、プライスキャップ導入時の方式の下では、過大な超過利潤
  が発生したため、その後、収入予測、費用予測や報酬額等によりX値を算定す
  る方式へ移行した。

 (3) X値は算定期間の最終年度(3年目)で収支相償するレベルに設定すること
  とされており、具体的には、次の式により算定されることとなっている。

   ・

 (4) 今回のX値は、通信料金の引下げが強い社会的な要請となっている等の理由
  により、料金引下げを促進する形で設定できることが望ましい。

3 収入予測について 
  収入予測については、透明性・客観性のある方法とするよう、過去の実態的な
 市場動向を基礎に据えて将来の予測を行う方法をとることが適当である。

4 費用予測について 
 (1) 費用予測については、東・西NTTが平成11年11月17日に公表した「中期経
  営改善施策」等を踏まえる必要がある。

 (2) これによる費用効率化を、DEA(包絡分析法)により評価すれば、東・西
  NTTの経営効率化計画が明らかに不十分であって、さらに追加的な経営効率
  化計画の策定が必要とまで断定することは困難と考えられる。
 (参考)DEA(包絡分析法:Data Envelopment Analysis)とは、実績データ
   に基づいて最も効率的な企業の生産性を基準として、他の企業の効率性を計
   測するものである。今回は、NTT旧11事業部を別会社であると仮定して
   効率性を計測した。

5 報酬率について 
  報酬率の設定は、「利用者利益、事業者利益、経済動向等を総合的に勘案して、
 中間値を目安として、上限値から下限値の間」で機動的に運用することが適当と
 考えられる。

6 東・西NTTのX値について 
 (1) X値は経営の実態に応じたものとすることが原則であることから、本来異な
  ったものとなることが自然である。

 (2) しかしながら、再編成後3事業年度間において特定費用負担金制度が設けら
  れている趣旨に鑑み、急激に料金格差が生じないようにするため、東・西NT
  Tが同一の料金をとることが可能となるような観点から、今回のX値の算定に
  限り、東・西のX値をできる限り同一のものとすることが適当である。

7 加入者回線サブバスケットについて 
  1消費者物価指数変動率が小さい場合には、料金を小刻みに変動させなければ
 ならなくなる事業者のコスト増等を考慮して、基準料金指数を変えず、2消費者
 物価指数変動率が大きい場合には、事業者の費用負担や利用者利益を考慮して、
 通常考えられる変動幅を超える部分のみを基準料金指数に反映させることが適当
 である。

  基準料金指数の図


 参考 1 

     上限価格方式(プライスキャップ方式)の概要

1 上限価格方式(プライスキャップ方式)

 ○ 電気通信分野の料金は、原則届出制となっているが、東・西NTTの地域通
  信分野については、競争が十分進展していないことから、主要なサービス(音
  声伝送役務(電話、ISDN)、専用役務)のみについて、規制を行うもの。
 ○ 「音声伝送役務(電話・ISDN)」と「専用役務」に区分し、区分(バス
  ケット)ごとに全体の料金水準の上限(キャップ)を定め、値下げを推進。
 ○ この区分ごとの料金水準が上限を超えることは原則として認めず、上限の範
  囲内であれば、個々の料金は届出のみで事業者が自由に設定できる。
  (予定)
   平成10年 5月 電気通信事業法改正済み
   平成12年10月 適用開始予定
   (NTT再編成(平成11年7月)後の中間決算値の結果を待っていたもの)

          [全体の料金水準の上限を定める区分]

 全体の料金水準の上限を定める区分図
対象サービス収入は、東・西NTTの総収入(5兆4千億円)のうち、約
60%(3兆1千億円)を占める。
 ○ 区分全体の料金水準の上限が定められることから、
  ・ 利用者にとっては、全体の料金水準として、最低限一定の値下げが保証さ
   れるメリットがある。
  ・ 事業者にとっては、区分全体の料金水準の上限を遵守する限り、次のよう
   な経営上のメリットがある。
  ア 認可を要さずに個別料金の変更を実施できる。
  イ 経営の効率化によって結果的に利益が生じても、一定の期間内は追加的値
   下げを強制されることがない。

2 上限(キャップ)の定め方

 ○ 区分全体の料金水準の上限(キャップ)は、法律上は、「基準料金指数」と
  して定められる。
 ○ 基準料金指数は、「消費者物価指数(CPI)変動率」と、東・西NTTに
  期待される「生産性向上見込率(X値)」を勘案して定められる。
 ○ 行政としては、このX値を適切に定める(3年ごと)ことによって、値下げ
  を推進できる。
 (例)仮に、「X値−CPI」を1%とすると、東・西NTTは3年間で各々約
   450億円(約150億円×3か年)の値下げを最低限実施することが求め
   られる。

(参考)

 ○ 基準料金指数
   基準料金指数は、区分全体の料金の上限水準を定めるものであり、仮に基準
  金料指数が99とされた場合には、(ある時点の収入額に対して)年間1%の
  値下げが求められる。

                             
 基準料金指数=前期の基準料金指数×           
       (1+前期の消費者物価指数変動率       
        −生産性向上見込率(X値)±外生的要因) 
                             
 ※ 初期値は100(本年4月1日の料金)        
                             

 ○ 生産性向上見込率(X値)
   X値は、対象事業者の今後の生産性向上分を見込んで設定するものであって、
  算定期間の3年目の対象サービスの収入と費用(適正報酬額・利益対応税額を
  含む)が相償するレベルに設定することとなっている。

 
  ・    
 


 参考 2 

               通信料金の推移

通信料金の推移図

(注) ○ 通話料金(国際通話、長距離通話、市内通話、公衆電話)は、平日昼
     間3分間のもの。
    ○ 国際通話料金は、KDDが提供する日本発米国着のもの。
    ○ 長距離通話料金は、都道府県内通話のみが東・西NTTの提供する地
     域通信料金に該当(遠距離のものは、基本的にはNTT長距離会社が中
     心であり、東・西NTTの提供割合は少ない。)。
    ○ 番号案内は、月1回までのオペレータ扱のもの。
    ○ 基本料(加入電話)は、住宅用で40万加入以上の区分のもの。


 別添 2 

       「上限価格方式の運用に関する研究会」報告書の概要

1 上限価格方式(プライスキャップ方式) 
 (1) 上限価格方式は、東・西NTTの利用者向け料金を対象に、「音声伝送役務」
  と「専用役務」の区分ごとに全体の料金水準の上限(キャップ:基準料金指数)
  を定める規制の方式である。
   この方式の下では、
  ア:区分全体として基準料金指数を超える料金引上げは原則として認めない。
  イ:基準料金指数以下の料金は届出のみで事業者が自由に設定できる。
 (2) 基準料金指数は、「消費者物価指数(CPI)変動率」と、東・西NTTに
  期待される「生産性向上見込率(X値)」を勘案して定められる。

2 基本的な考え方 
  本研究会の目的は、基準料金指数を設定するために必要な生産性向上見込率(
 X値)の具体的な数値自体を決定しようとするものではなく、X値を算定する際
 に留意すべき基本的考え方を検討して、取りまとめようとするものである。

3 生産性向上見込率(X値)の考え方 
 (1) 生産性向上見込率(X値)の算定方法
  ア 過去の研究会報告書でも指摘されているように、X値の算定方法には、「
   フル生産性準拠方式」と「ミックス生産性準拠方式」の2つの方法がある。
   (ア):「フル生産性準拠方式」の場合は、基準年の取り方や仮定の設定方法
     により算出される数値が大きく変化するおそれが指摘されている。
   (イ):「ミックス生産性準拠方式」の場合は、過大な超過利潤のおそれや、
     初期値の設定が不適切なため上限価格が実態から大きく乖離するといっ
     たおそれが少ない。
    両者を比較した結果、過去の研究会報告書と同様、今回のX値の算定につ
   いては、事業者の費用情報等に基づくミックス生産性準拠方式を用いること
   が適当であることを確認した。
    (参考)「フル生産性準拠方式」は、全要素生産性向上率に基づきX値を
     算定するものであり、「ミックス生産性準拠方式」は、事業者の費用情
     報等(収入予測、費用予測、報酬額等)に基づきX値を算定するもの。
  イ 英国においても、プライスキャップ導入時のフル生産性準拠方式の下では、
   過大な超過利潤が発生したため、その後、収入予測、費用予測や報酬額等に
   よりX値を算定するミックス生産性準拠方式へ移行した。
  ウ X値は算定期間の最終年度(3年目)で収支相償するレベルに設定するこ
   ととされており、具体的には、次の式により算定されることとなっている。

   ・

 (2) 料金引下げの促進への期待
   今回のX値は、次の理由により、料金引下げを促進する形で設定できること
  が望ましい。
  ア 総括原価方式から上限価格方式への制度変更後、初めての適用である。
  イ 東・西NTTが比較競争の中で地域通信料金を引き下げていくことが平成
   11年7月に実施されたNTT再編成の趣旨である。
  ウ 通信料金の引下げが強い社会的な要請となっている。

4 特定電気通信役務の需要・収入予測について 
  特定電気通信役務の需要・収入予測に当たっては、対象サービスが国民生活・
 経済に大きな影響を及ぼす地域通信サービスであることから、東・西NTTの経
 営戦略的な判断や予測手法上の恣意性を可能な限り排除し、透明性・客観性のあ
 る方法をとることとする。
  従って、予測の基本的な手法としては、過去の実態的な市場動向を基礎に据え
 て将来の予測を行う方法をとることが適当である。

5 X値を算定するために必要な消費者物価指数変動率について 
 (1) 消費者物価指数変動率の推計
   今回のX値算定の場合、平成12年度から平成14年度の3年間に使用する
  X値を算定するため、平成11年(度)から平成13年(度)の消費者物価指
  数変動率の平均値を推計する必要がある。具体的な推計の方法としては、X値
  の算定期間が3年間であるため、安定した推計値を得ることができるよう、直
  近3年間の平均値により推計することが適当である。
 (2) 暦年と会計年度の比較
   消費者物価指数変動率の平均値の推計には実績値を用いることが望ましいと
  考えられる。その際に、暦年と会計年度のいずれを使用するかについては、手
  続を慎重なものとすることを念頭に置くと、直近年(度)の数値は1月下旬に
  発表される「暦年」の変動率を使用せざるを得ないと考えられる。従って、X
  値を算定する際に使用する消費者物価指数変動率については、直近年を含めた
  3年間の「暦年」の変動率を用いることが適当である。

6 特定電気通信役務の費用予測について 
 (1) 特定電気通信役務の費用予測
   特定電気通信役務の費用については、「新たな料金制度の運用等の在り方に
  関する研究会」報告書において東・西NTTに経営効率化計画の策定を求めて
  おり、これに応える意味もあって、東・西NTTは平成11年11月17日に
  「中期経営改善施策」を発表している。

 (2) 特定電気通信役務の費用予測の妥当性
  ア 東・西NTTの提供するサービスは独占的なものであることから、他に比
   較可能な存在がなく、それに係る費用が妥当であるかどうかを客観的に判断
   することが難しいことを踏まえると、一定の手法によって計測された効率化
   指標などを活用することは意義があると考えられる。
  イ 効率化指標による計測結果は、一般的に言えば、当該事業者の非効率性を
   意味し、当該事業者によるその解消の必要性を意味するものである。東・西
   NTTによって行われる効率化努力は、従来から実施されてきた効率化も、
   追加的に作成された計画による効率化も、非効率性の解消に寄与するものと
   考えられる。従って、これら全体を、効率化を全く実施しなかった場合と比
   較して評価することが合理的である。

 (3) 参考とすべき効率化指標
   参考とすべき効率化指標としては、予め生産関数や技術非効率に関する情報
  を必要とせずに効率性を計測できるDEA(包絡分析法)を採用することが適
  当である。
   (参考) DEA(包絡分析法:Data Envelopment Analysis)とは、実績デ
    ータに基づいて最も効率的な企業の生産性を基準として、他の企業の効率
    性を計測するものである。今回は、NTT旧11事業部を別会社であると
    仮定して効率性を計測した。

 (4) 東・西NTTの費用効率化の検証
  ア 「中期経営改善施策」における東・西NTTの費用効率化について見ると、
   今回のX値算定期間における効率化額の割合は、平成14年度でNTT東日
   本が8.7%、NTT西日本が10.1%となる。
  イ DEAによる東・西NTTの効率性の計測結果は次のとおり。
   (ア) 平成6年度から平成9年度の複数年度を通じた計測では、平均値で、
     NTT東日本が13%、NTT西日本が12%強の効率性の不足が生じ
     ている。
   (イ) 複数年度で計測した上で、効率性が向上している直近年度の平成9年
     度で見れば、NTT東日本が6%強、NTT西日本が8%強の効率性の
     不足が生じている。
   (ウ) 平成6年度から平成9年度の単年度で計測すると、平均値で、東・西
     NTTとも7%強の効率性の不足が生じている。
  ウ この結果に関して、DEAの特徴も踏まえると、東・西NTTの特定電気
   通信役務の費用効率化を総合的に見れば、東・西NTTの経営効率化計画が
   明らかに不十分であって、さらに追加的な経営効率化計画の策定が必要とま
   で断定することは困難と考えられる。

7 特定電気通信役務の報酬率について 
 (1) 特定電気通信役務の報酬率については、上限値(自己資本利益率が主要企業
  の平均自己資本利益率)、下限値(自己資本利益率がゼロ)、中間値(上限値
  と下限値の平均値)などが考えられる。
 (2) これについては、「利用者利益、事業者利益、経済動向等を総合的に勘案し
  て、中間値を目安として、上限値から下限値の間」で機動的に運用することが
  適当と考えられる。

8 東・西NTTのX値を同一とするか否かについて 
 (1) X値は経営の実態に応じたものとすることが原則であることから、本来異な
  ったものとなることが自然である。
 (2) しかしながら、再編成後3事業年度間において特定費用負担金制度が設けら
  れている趣旨に鑑み、急激に料金格差が生じないようにするため、東・西NT
  Tが同一の料金をとることが可能となるような観点から、今回のX値の算定に
  限り、東・西のX値をできる限り同一のものとすることが適当である。

9 加入者回線サブバスケットについて 
  加入者回線サブバスケットについては、1消費者物価指数変動率が小さい場合
 には、料金を小刻みに変動させなければならなくなる事業者のコスト増等を考慮
 して、基準料金指数を変えず、2消費者物価指数変動率が大きい場合には、事業
 者の費用負担や利用者利益を考慮して、通常考えられる変動幅を超える部分のみ
 を基準料金指数に反映することが適当である。

基準料金指数の図


         上限価格方式の運用に関する基本的考え方                    報告書            平成12年(2000年)3月           上限価格方式の運用に関する研究会
                目  次 はじめに 1 基本的な考え方  (1)本研究会の目的  (2)生産性向上見込率(X値)の算定対象  (3)制度の趣旨を踏まえた運用 2 生産性向上見込率(X値)の考え方  (1)生産性向上見込率(X値)の算定方法  (2)料金引下げの促進への期待 3 特定電気通信役務の需要・収入予測について  (1)特定電気通信役務の需要・収入予測の基本的考え方  (2)特定電気通信役務の需要・収入予測の具体的手法 4 X値を算定するために必要な消費者物価指数変動率について  (1)消費者物価指数変動率の推計の必要性  (2)推計の方法  (3)暦年と会計年度の比較 5 特定電気通信役務の費用予測について  (1)特定電気通信役務の費用予測  (2)特定電気通信役務の費用予測の妥当性  (3)参考とすべき効率化指標  (4)東・西NTTの費用効率化の検証 6 特定電気通信役務の報酬率について  (1)特定電気通信役務の報酬率の設定方法  (2)特定電気通信役務の報酬率の運用  【参考】特定電気通信役務の報酬率を上限値、下限値、中間値とする考え方 7 東・西NTTのX値を同一とするか否かについて  【参考】東・西NTTのX値を異なるものとする考え方及び同一のものとする考   え方 8 加入者回線サブバスケットについて  (1)加入者回線サブバスケットの対象サービスの収支  (2)加入者回線サブバスケットのX値の設定方法 9 その他  (1)長期増分費用方式との整合性について  (2)特定電気通信役務のレートベース予測について  (3)他人資本利子率の算定について  (4)引当金等を対象とする報酬率の扱いについて  (5)利益対応税額について  (6)退職給付に係る会計制度の変更の扱いについて    (年金会計の導入) おわりに
はじめに  上限価格方式(プライスキャップ方式)については、平成10年5月に公布され た電気通信事業法改正法により導入が決定し、その後、「新たな料金制度の運用等 の在り方に関する研究会」1(以下「前研究会」という。)から、関連省令や「生 産性向上見込率(X値)」算定の枠組み、適切な料金水準を表す「基準料金指数」 の算定方法、現実の料金水準である「料金指数」の算出方法等について提言が行わ れた。  今回、本研究会においては、既に法令上定められている制度的枠組みや前研究会 における提言を前提として、X値算定の際に留意すべき基本的考え方について検討 を行ったものである。
1 「新たな料金制度の運用等の在り方に関する研究会」(平成10年4月から平 成11年6月、座長:堀部政男 中央大学法学部教授)
1 基本的な考え方 

(1)本研究会の目的

  1 本研究会の目的は、基準料金指数を設定するために必要な生産性向上見込
   率(X値)の具体的な数値自体を決定しようとするものではなく、X値を算
   定する際に留意すべき基本的考え方を検討して、とりまとめようとするもの
   である。

  2 本研究会では、既に法令上定められている制度的枠組みや前研究会におけ
   る提言を前提として、X値算定に際して留意すべき基本的考え方を整理する
   ものであるが、とりわけ、本制度導入に当たっての初めての設定であるとと
   もに、NTT再編成の直後の設定になる今回のX値算定に際して留意すべき
   点についても合わせて検討した。

(2)生産性向上見込率(X値)の算定対象

   電気通信事業法及び電気通信事業法施行規則上、上限価格方式の対象は、指
  定電気通信設備を設置する事業者(現状では東日本電信電話株式会社及び西日
  本電信電話株式会社が該当する。以下「東・西NTT」という。)が都道府県
  内通信として提供する特定電気通信役務、すなわち、音声伝送役務(電話及び
  総合デジタル通信サービスに限る。)及び専用役務の利用者向け料金とされて
  いる。

(3)制度の趣旨を踏まえた運用

   上限価格方式は、料金の上限(キャップ)が定められることから、利用者の
  利益の保護が可能であるとともに、事業者に自主的な経営効率化へのインセン
  ティブを賦与し、料金の低廉化を促すものと考えられており、この趣旨を踏ま
  えて運用されることが望ましい。


2 生産性向上見込率(X値)の考え方 

(1)生産性向上見込率(X値)の算定方法

  1 「マルチメディア時代に向けた料金・サービス政策に関する研究会」報告
   書2でも指摘されているとおり、X値の算定方法については、「フル生産性
   準拠方式」3と「ミックス生産性準拠方式」4の2つの方法がある。
   ア 「フル生産性準拠方式」の場合は、算出方法が統計的にまだ確立されて
    おらず、基準年の取り方や仮定の設定方法により算出される数値が大きく
    変化するおそれが指摘されている。
     また、特定電気通信役務のバスケット毎に算定することは困難である。
   イ この点、「ミックス生産性準拠方式」の場合は、過大な超過利潤のおそ
    れや、初期値の設定が不適切なため上限価格が実態から大きく乖離すると
    いったおそれが少ない。
     また、特定電気通信役務のバスケット毎に算定することが可能である。
     両者を比較した結果、過去の研究会報告書と同様、今回のX値の算定に
    ついては、事業者の費用情報等に基づくミックス生産性準拠方式を用いる
    ことが適当であることを確認した。

  2 なお、英国においても、X値の算定方法は次のとおりとなっている。
   ア プライスキャップ方式導入時(1984年)には、フル生産性準拠方式
    である全要素生産性向上率によりX値を算定していたが、過大な超過利潤
    が発生した。


2 「マルチメディア時代に向けた料金・サービス政策に関する研究会」(座長: 岡野行秀東京大学名誉教授)報告書『新たな料金制度の在り方について』(平成 9年12月) 3 全要素生産性向上率に基づきX値を算定するもの。 4 事業者の費用情報等(収入予測、費用予測、報酬額等)に基づきX値を算定す るもの。    イ このため、その後(1989年)、収入予測、費用予測や報酬額等によ     りX値を算定するミックス生産性準拠方式へ移行した。   3 前研究会報告書により、X値は算定期間の最終年度(3年目)で収支相償    するレベルに設定することとされており、具体的には、次の式により算定さ    れることとなっている。    ・    これを、左辺をX値として展開すれば、次のとおりとなる。    ・ (2)料金引下げの促進への期待   1 基準料金指数は「能率的な経営の下における適正な原価及び物価その他の    経済事情を考慮して、通常実現することができると認められる水準の料金」    (電気通信事業法第31条第3項)を前提に算定することとされていること    から、これを設定するために必要なX値の算定に当たっては、通常の実現可    能性に配慮することが前提となる。   2 このような前提の下ではあるが、今回のX値は、次の理由により、料金引    下げを促進する形で設定できることが望ましい。    ア 総括原価方式から上限価格方式への制度変更後、初めての適用である。    イ 東・西NTTが比較競争の中で地域通信料金を引き下げていくことが平     成11年7月に実施されたNTT再編成の趣旨である。    ウ 現下の経済情勢の中で、通信料金の引下げが強い社会的な要請となって     いる。
3 特定電気通信役務の需要・収入予測について 

(1)特定電気通信役務の需要・収入予測の基本的考え方

   特定電気通信役務の需要・収入予測に当たっては、対象サービスが国民生活・
  経済に大きな影響を及ぼす地域通信サービスであることから、東・西NTTの
  経営戦略的な判断や予測手法上の恣意性を可能な限り排除し、透明性・客観性
  のある方法をとることが適当である。

(2)特定電気通信役務の需要・収入予測の具体的手法

   上記の考え方に照らせば、例えば、優先接続など将来導入が予定される新し
  い制度に伴うシェアの変化や、移動体へのシェアの大幅な移行見通しなど、現
  時点でその見通しが不確定な要素については、客観性の観点から織り込まない
  ことが望ましい。従って、予測の基本的な手法としては、過去の実態的な市場
  動向を基礎に据えて将来の予測を行う方法をとることが適当である。


4 X値を算定するために必要な消費者物価指数変動率について 

(1)消費者物価指数変動率の推計の必要性

   上限価格方式においては、X値は3年ごとに定めることとなっており、当該
  3年間に使用するX値は、「各々前の暦年又は国の会計年度(以下単に「会計
  年度」という。)の消費者物価指数変動率の平均値」を用いて算定することが
  必要である。
   従って、今回のX値算定の場合、具体的には、平成12年度から平成14年
  度の3年間に使用するX値を算定するため、平成11年(度)から平成13年
  (度)の消費者物価指数変動率の平均値を推計する必要がある。

(2)推計の方法

   消費者物価指数変動率の推計の方法は、X値の算定期間が3年間であるため、
  安定した推計値を得ることができるよう、直近3年間の平均値により推計する
  ことが適当である。
   従って、今回のX値算定の場合、具体的には、直近3年間である平成9年(
  度)から平成11年(度)の消費者物価指数変動率の平均値を、平成11年(
  度)から平成13年(度)の消費者物価指数変動率の平均値を推計値とするこ
  とが適当である。

(3)暦年と会計年度の比較

   消費者物価指数変動率の平均値の推計には実績値を用いることが望ましいと
  考えられる。その際に、暦年と会計年度のいずれを使用するかについては、手
  続を慎重なものとすることを念頭に置くと、直近年(度)の数値は1月下旬に
  発表される「暦年」の変動率を使用せざるを得ないと考えられる。従って、X
  値を算定する際に使用する消費者物価指数変動率については、東・西NTTへ
  の通知期限(6月末)に間に合わせるためには、直近年度を含めた3年間の「
  会計年度」の変動率(4月下旬公表)でなく、直近年を含めた3年間の「暦年」
  の変動率(1月下旬公表)を用いることが適当である。
   今回のX値の算定の場合、具体的には、平成9年(度)から平成11年(度)
  の変動率を使用することとなるが、手続を慎重なものとすることを念頭におく
  と、平成11年を含めた3年間の「暦年」の変動率を用いることが適当と考え
  られる。


5 特定電気通信役務の費用予測について 

(1)特定電気通信役務の費用予測

  1 上限価格方式の対象事業者である東・西NTTは、国民生活・経済に不可
   欠な地域通信サービスを提供する事業者として、経営効率化を行うことによ
   り、上限価格方式の下での料金の低廉化に努めることが期待されているとこ
   ろである。
  2 そこで、特定電気通信役務の費用については、上限価格方式が適用される
   当初の3年間(平成12年度から平成14年度)に実施されるべき経営効率
   化計画の策定を東・西NTTに求め、それに応えて作成された費用効率化を
   織り込んで費用予測を行うことが適当である。
  3 このため、前研究会報告書においては東・西NTTに経営効率化計画の策
   定を求めており、これに応える意味もあって、東・西NTTは平成11年1
   1月17日に「中期経営改善施策」を発表している。
  4 「中期経営改善施策」は、平成12年度から平成14年度までの3年間を
   対象に、人件費効率化、設備投資額削減、物件費・業務委託費削減等を追加
   的に行うことを内容とし、費用削減額として、平成14年度において、NT
   T東日本が約1,600億円、NTT西日本が約1,900億円、合計約3,
   500億円を見込んでいる。

(2)特定電気通信役務の費用予測の妥当性

  1 東・西NTTの提供するサービスは独占的なものであることから、他に比
   較可能な存在がなく、それに係る費用が妥当であるかどうかを客観的に判断
   することが難しいことを踏まえると、一定の手法によって計測された効率化
   指標などを活用することは意義があると考えられる。
    ただし、X値自体は、特定電気通信役務について算定期間の最終年度の収
   入・消費者物価指数変動率・費用・適正報酬額・利益対応税額から算定する
   こととなっており、効率性指標から直接X値を算定するものではない。そこ
   で、効率化指標は、東・西NTTの特定電気通信役務の費用予測の妥当性を
   判断するための参考として用いることが適当である。
  2 効率化指標による計測結果は、一般的に言えば、当該事業者の非効率性を
   意味し、当該事業者によるその解消の必要性を意味するものである。東・西
   NTTによって行われる効率化努力は、従来から実施されてきた効率化(退
   職後不補充による人件費効率化、従来から実施されてきた一般物件費・委託
   費削減等)も、追加的に作成された計画による効率化(「中期経営改善施策」
   による追加的な人件費効率化、設備投資額削減、一般物件費・委託費削減等)
   も、非効率性の解消に寄与するものと考えられる。従って、これら全体を、
   効率化を全く実施しなかった場合と比較して評価することが合理的である。
  3 このような観点で、東・西NTTの「中期経営改善施策」に、従来から実
   施されてきた効率化を加えると、費用削減額として、平成14年度において、
   NTT東日本が約2,500億円、NTT西日本が約3,000億円、合計
   約5,500億円を見込んでいる。
   (注)本金額(5,500億円)は、効率化指標による計測のために、「中
     期経営改善施策」による費用削減額(平成14年度において、東・西N
     TTで合計約3,500億円)に、従来から実施されてきた効率化によ
     る費用削減額(平成14年度において、東・西NTTで合計約2,00
     0億円)を含めて算出したものであり、効率化を全く実施しなかった場
     合の費用と比較した際の数値である。

(3)参考とすべき効率化指標
   参考とすべき効率化指標として用いられる代表的なものには、1DEA(包
  絡分析法)、2TFP(全要素生産性)向上率、3SFA(確率論的フロンテ
  ィア分析)等の方法がある。

  1 DEA(包絡分析法:Data Envelopment Analysis)は、実績データに基
   づいて最も効率的な企業の生産性を基準として、他の企業の効率性を計測す
   るものである。今回の計測では、NTTの旧11事業部制のデータに基づい
   て実績において最も効率的な事業部の生産性を基準として、他事業部の非効
   率性を計測するものである(計測結果は東・西NTT別に集計可能)。
    DEAは、予め生産関数や技術非効率に関する情報を必要とせずに効率性
   を計測できることから、これを参考とすべき効率化指標とすることが適当で
   ある。
  2 TFP(全要素生産性:Total Factor Productivity)向上率は、産出物
   の増加から資本や労働などの生産要素の投入の増加を差し引き、その差を生
   産性の増加とするものである。
    上限価格方式の目的は、個別の事業者の経営の効率性に依存せずに、でき
   るだけ客観的なデータに基づき適正な料金の上限を決定することにより、事
   業者に経営効率化のインセンティブを賦与しようとすることと考えられる。
   このことを踏まえれば、本来的には、全要素生産性向上率のようなフル生産
   性準拠方式を用い、事業者の費用情報から独立したデータに基づきX値を設
   定する方式が望ましいとも考えられる。
    しかしながら、前研究会報告書などでも指摘されているように、TFPは、
   算出方法が統計的に確立されておらず、基準年の取り方や仮定の設定方法に
   より算出される数値が大きく変化するおそれがある。従って、現時点におい
   ては、料金規制に用いるには信頼性に欠けるところがあるため、これを参考
   とすべき効率化指標とすることは適当でないと考えられる。
  3 SFA(確率論的フロンティア分析:Stochastic Frontier Analysis)
   は、生産関数を仮定し、その生産関数が確率的に不確定であると仮定して、
   生産関数からの乖離を誤差と非効率に分離して非効率性を計測するものであ
   る。
    しかしながら、SFAは、様々な型が考えられ得る生産関数の関数型の仮
   定や、誤差と非効率との分離方法の仮定が困難であるとともに、旧11事業
   部制のデータ数では統計的に有為な数値を得ることができないため、これを
   参考とすべき効率化指標とすることは適当でないと考えられる。

(4)東・西NTTの費用効率化の検証

  1 DEAの計測結果は、実績データに基づいて最も効率的な企業の実際の生
   産活動と、他の事業部の実際の生産活動との乖離であり、他の事業部の非効
   率性を表している。
    例えば、旧東京事業部が実績データに基づいて最も効率的な事業部であっ
   たとするとDEAの計測では100%の効率性を有する事業部と表されるこ
   とになる。この時、旧北海道事業部のDEAによる効率性が90%とすると、
   旧北海道事業部の効率性の不足が10%ということになる。
  2 DEAによる費用効率化の検証は、東・西NTTの経営効率化計画に基づ
   く効率性向上と、DEAの計測結果による非効率性との比較によって行う。
    経営効率化計画に基づく費用効率性の向上がDEAの計測結果による非効
   率性を上回る場合、十分な費用効率化を図っていると評価される。一方、経
   営効率化計画に基づく費用効率性の向上がDEAの計測結果による非効率性
   を下回る場合、費用効率化は十分とは言えず、更なる費用効率化が求められ
   ると評価される。
  3 対象事業者である東・西NTTの費用効率化について見ると、今回のX値
   算定期間の費用効率性の向上割合は、平成14年度でNTT東日本が8.7
   %、NTT西日本が10.1%となる。
  4 DEAにより東・西NTTの効率性を計測すると、例えば、
   ア 平成6年度から平成9年度の複数年度を通じた計測では、平均値で、N
    TT東日本が13%、NTT西日本が12%強の効率性の不足が生じてい
    る。
   イ また、複数年度で計測した上で、効率性が向上している直近年度の平成
    9年度で見れば、NTT東日本が6%強、NTT西日本が8%強の効率性
    の不足が生じている。
   ウ さらに、平成6年度から平成9年度の単年度で計測すると、平均値で、
    東・西NTTとも7%強の効率性の不足が生じている。
  5 すなわち、DEAの結果と比較すると、東・西NTTの費用効率化が十分
   であるとするものと、不十分であるとするものの両方がある。
  6 これについては、まず、DEAの計測結果では効率性が良いとされること
   が多い東京・関東事業部についても、絶対的な意味でそれ以上の効率性向上
   が必要ないというわけでなく、DEAの計測結果を適用することは全体的に
   緩い評価となるという指摘が可能である。
  7 一方、DEAには次のような特徴がある。
   ア DEAの計測結果は、上限価格方式の対象である特定電気通信役務のみ
    ならず、全社ベースの費用効率化を対象としている。
   イ DEAの計測結果は、各投入要素(労働、資本、原材料)が相互に代替
    可能であることが前提となっており、東・西NTTの現実の生産活動との
    乖離が見られる。
   ウ DEAは相対評価であるため、効率性の良い東京・関東事業部などの数
    値が、計測結果全体に影響を及ぼして、他の事業部が低いものとなり、一
    定の偏向が生じているおそれがある。
  8 DEAのこれらの特徴も踏まえて東・西NTTの特定電気通信役務の費用
   効率化を総合的に見れば、東・西NTTの経営効率化計画が明らかに不十分
   であって、さらに追加的な経営効率化計画の策定が必要とまで断定すること
   は困難と考えられる。
  9 結論としては上記8のとおりであるが、一般論として言えば、東・西NT
   Tには、国民生活・経済に不可欠な地域通信サービスを提供する事業者とし
   て不断の効率化が求められることは言うまでもないところである。


6 特定電気通信役務の報酬率について 

(1)特定電気通信役務の報酬率の設定方法
  1 報酬率とは、サービス提供のための真実かつ有効な資産の価値(レートベ
   ース)に対するものであり、その算定方法は次式のとおりとなる。

   特定電気通信役務の報酬率の設定方法の図

    ・ 自己資本コストの上限値:主要企業の平均自己資本利益率
           又は資本資産評価モデル(CAPM:Capital Asset
           Pricing Model)的な手法のうちいずれか低い方
      (前研究会報告書の提言に基づき、現行接続料算定に用いる自己資本
      利益率と同様の考え方としている。)
    ・ 自己資本コストの下限値:ゼロ

  2 現行の認可制度(総括原価方式)の下では、報酬率は、上限値と下限値の
   間において、事業者が自由に選択できるものとなっているが、上限価格方式
   の下においては、基準料金指数及びX値を行政が定めることから、この算定
   のために必要な特定電気通信役務の報酬率についても行政が設定することと
   なる。

(2)特定電気通信役務の報酬率の運用

  1 特定電気通信役務の報酬率については、上限値、下限値、中間値(上限値
   と下限値の平均値)などが考えられる。それぞれについての考え方は後述の
   とおりであるが、結論的に言えば、報酬率は、「利用者利益、事業者利益、
   経済動向等を総合的に勘案し、中間値を目安として、上限値から下限値の間」
   で機動的に運用することが適当と考えられる。
  2 例えば、経済動向によっては、上限値又は下限値に近い報酬率を設定する
   ことが望ましい局面もあるであろうし、また、X値が料金値上げをもたらす
   ようなものとなり得る場合には、下限値に近い報酬率が特に望まれる局面も
   あると考えられる。
    さらに、後述するように、当面料金の急激な格差発生を防止する観点から、
   東・西NTTのX値を可能な限り同一のものとするため、報酬率をあえて異
   ならせることが求められる局面もあると考えられる。

【参考】特定電気通信役務の報酬率を上限値、下限値、中間値とする考え方

(1)上限値とする考え方
   特定電気通信役務の報酬率を上限値とすることにより、他産業の主要企業の
  平均自己資本利益率又は当該事業者の期待収益率(CAPM的手法の場合)程
  度の報酬率とする考え方
  1 上限価格方式は料金の上限(キャップ)を規制するものであることから、
   現行制度で認められている上限値を報酬率としたとしても、受容できるとの
   考え方もある。
  2 しかしながら、上限価格方式の下では、結果として上限値を超えた場合、
   当該適用期間中は事業者がその超過分を自己の報酬とすることが可能である
   ことから、事業者に過剰な利益を招くおそれがある。
  3 2が現実となれば、料金の低廉化による利用者利益の保護を十分に図るこ
   とができないおそれがある。

(2)下限値とする考え方
   報酬率を下限値とすることにより、他人資本(社債及び借入金)利子の支払
  いは可能であるが、自己資本利益をゼロとする考え方。

  1 最も利用者利益の保護を図ることができると考えられる。
  2 しかしながら、行政が民間企業に対する規制において自己資本利益をゼロ
   の水準とすることを強制することには問題があるとも考えられる。

(3)中間値とする考え方
   報酬率を上限値と下限値との中間値とする考え方。
  1 報酬率を中間値とすることにより、利用者利益と事業者利益との両者をバ
   ランス良く勘案することができる。
  2 従来の総括原価方式の下では、報酬率は、上限値から下限値の間において
   事業者が自由に選択できたが、NTTは実際には、平均すると、おおむね上
   限値と下限値との中程の値を採用してきている。
  3 利用者利益と事業者利益とのいずれかをより重視すべき局面が生じている
   場合に、柔軟な対応が困難と考えられる。


7 東・西NTTのX値を同一とするか否かについて 

(1)東・西NTTのX値については、異なるものとする考え方と、同一のものと
  する考え方があり得る。

(2)X値は経営の実態に応じたものとすることが原則であることから、本来異な
  ったものとなることが自然である。しかしながら、再編成後3事業年度間にお
  いて特定費用負担金制度が設けられている趣旨に鑑み、急激に料金格差が生じ
  ないようにするため、東・西NTTが同一の料金をとることが可能となるよう
  な観点から、今回のX値の算定に限り、東・西NTTのX値をできる限り同一
  のものとすることが適当である。

(3)なお、これを実現する方法としては、東・西NTTに異なる報酬率を設定す
  ることが考えられる。

【参考】東・西NTTのX値を異なるものとする考え方及び同一のものとする考え
   方

(1)東・西NTTのX値を異なるものとする考え方

  1 基準料金指数は、「能率的な経営の下における適正な原価...を考慮し
   て...定め」(電気通信事業法第31条第3項)ることとされており、経
   営主体の経営実態が異なれば、原則として基準料金指数が異なるのが原則的
   な考え方となっている。
  2 NTT法改正時の考え方によれば、値上げを行わない形であれば、各社の
   経営努力に応じて、一方の地域会社が他の地域会社に比べて、料金がより安
   いといったことはあり得る、とされている。
    また、NTT法における「あまねく日本全国における適切、公平かつ安定
   的な提供の確保に寄与」にいう「公平」とは、「全国均一料金制度」までを
   含意したものではない、とされている。
  3 このような考え方をとれば、東・西NTTのX値は異なるものとすること
   となるが、結果として、東・西NTTの料金値下げ幅を異ならせ、料金格差
   を生じさせやすいものとなる。
  4 ただし、X値を異ならせたとしても、NTT西日本が経営効率化努力を行
   えば料金格差が生じるとは限らないが、これは、事業者の努力に期待する考
   え方に過ぎず、行政がX値を異なるものとする考え方をとる場合に、このよ
   うな期待に過度に頼ることは、適当とは言えないと考えられる。

(2)東・西NTTのX値を同一のものとする考え方

  1 仮に、東・西NTTのX値を同一のものとすることにより、NTT西日本
   が財務状況の良いNTT東日本にあわせた料金値下げを行うこととなれば、
   財務状況の悪いNTT西日本にとっては厳しいものとなる。しかしながら、
   経営効率化の必要性の高いNTT西日本に対して、X値の設定によって厳し
   い経営効率化を求めることは、考え方として必ずしも不合理なものとは言え
   ない。
  2 また、NTT法改正法では、再編成後3事業年度(平成11年度から平成
   13年度)間に限っては、NTT西日本の経営の安定化を図るため、特定費
   用負担金制度が設けられているが、これは、NTT西日本が経営改善のため
   に料金値上げをする等により、東西間で急激な料金格差が生じるのは望まし
   くないということも趣旨の一つとされている。
  3 事業者は一般的に利潤の最大化を求めるため、実際の料金はキャップ(我
   が国における基準料金指数に相当)に近いものになると想定される(英米に
   おいては、実際の料金は、ほぼキャップに近い設定となっている)ことから、
   仮に、東・西NTTの基準料金指数及びX値が大きく異なるものとなれば、
   実際の料金も大きく異なるものとなることが予想される。このことは、東・
   西NTT間で急激な料金格差を生じさせることとなり、必ずしも適切とは言
   えない。
  4 仮に、東・西NTTのX値を同一とすれば、財務状況の相対的に良いNT
   T東日本に緩いのではないかという批判も生じ得るが、
   ア NTT東日本については、関東地域を中心に競争が生じており、NTT
    西日本に比べ、より競争的な環境の中に置かれていることから、市場の圧
    力を通じてX値の水準より大きい料金値下げも期待できること、
   イ NTT東日本はNTT西日本に特定費用負担金の支払いを行う制度とな
    っていること、
   から、そのような批判は必ずしも当たらないと考えられる。

8 加入者回線サブバスケットについて 

(1)加入者回線サブバスケットの対象サービスの収支
   音声伝送役務のうち加入者回線設備を用いて提供されるサービス(基本料、
  施設設置負担金等が対象となる。)については、次の理由から、X値を計算し
  て求めて使用することは適当でないと考えられる。

  1 加入者回線サブバスケットの対象サービスは、NTT民営化当時から一貫
   して不採算と認識されてきたが、平成6年度の基本料値上げを経て翌7年度
   にようやく(営業損益ベースでみて)採算化した。しかし、その後収支状況
   が再度悪化する傾向となり、収支ギリギリとなっている。このような現在の
   収支動向を基に平成14年度の収支を予測するとすれば、料金値上げを容認
   するようなX値となるおそれが強い。
  2 加入者回線サブバスケットにおいて基本料に次いで大きな割合を占める施
   設設置負担金については、会計上、圧縮記帳を行い、施設設置負担金収入と
   同額の資産を控除し、減価償却費等を減額することとなっている。すなわち、
   施設設置負担金相当額は、収入・費用等から除かれている。X値を算定する
   ために、圧縮記帳がなかったものとみなして、収支を算定しようとしても、
   会計上の実際の収支が施設設置負担金圧縮後であることから、収支予測を算
   定すること自体が技術的に困難である。

(2)加入者回線サブバスケットのX値の設定方法

  1 (1)を踏まえると、加入者回線サブバスケットのX値については、消費
   者物価指数変動率が小さい場合には、基準料金指数を変えず、消費者物価指
   数変動率が大きい場合には、通常考えられる変動幅を超える部分のみを基準
   料金指数に反映させることが適当と考えられる。
    具体的には、
   ア 消費者物価指数変動率がA%を上回る場合にはX値をA%とし、
   イ 消費者物価指数変動率がマイナスA%以上A%以下の場合にはX値を前
    期の消費者物価指数変動率として、基準料金指数を変えず、
   ウ 消費者物価指数変動率がマイナスA%を下回る場合にはX値をマイナス
    A%とする。
    A%については、例えば、過去一定年間における消費者物価指数変動率の
   最大値の絶対値と同様の値とする。

基準料金指数の図

  2 上記についての詳細な考え方は次のとおりである。

   ア 消費者物価指数変動率が小さい場合
     次の理由から、基準料金指数を変えないことが適当である。
    (ア) 音声伝送全体のX値を料金値下げ方向とすることができれば、それ
      による料金低下も期待できる。
    (イ) 競争政策の観点から見た場合、加入者回線サブバスケットの対象サ
      ービスは、独占的に提供されていることから、基準料金指数を変えな
      いことにより、競争が出てきている分野である音声伝送役務の通話料・
      通信料等との内部相互補助を防止することができる。
    (ウ) 仮に、料金を小刻みに変動させることとすれば、むしろ、事業者に
      とってはシステム変更のためのコスト増となり、また、料金値上げの
      場合は利用者の理解を得ることが困難なことが予想される。

   イ 消費者物価指数変動率が大きい場合
     次の理由から、消費者物価指数変動率について通常考えられる変動幅を
    超える部分のみを基準料金指数に反映させることによって、物価変動の基
    準料金指数への影響を抑制することが適当である。
    (ア) 事業者の費用は消費者物価指数変動率に全面的に連動しているもの
      でなく、また、物価変動のうち一部分は事業者が効率化努力を行うこ
      とにより吸収に努めるべきと考えられることから、消費者物価指数変
      動率を基準料金指数に全面的に反映させることは、言わば物価スライ
      ド制の料金規制となりかねず、必ずしも適当とは言い難い。
       この点、物価変動の一部分しか基準料金指数に反映させないことと
      すれば、物価変動時、とりわけ物価上昇時に、物価変動率から差し引
      く生産性向上見込分としてX値を設定することにより基準料金指数を
      抑えようとするプライスキャップ方式の趣旨にかなうものと考えられ
      る。
    (イ) 物価変動が大きい状況を想定した場合、物価上昇時には事業者に費
      用増加が生じ得るため、これを全て事業者の負担とさせることはあま
      りに事業者に厳しいものとなり、また、物価下降時には事業者に費用
      減少が生じ得るため、これを利用者に全く還元しないことは利用者に
      あまりに不利益なものとなる。
    (ウ) 競争政策の観点から見た場合、加入者回線サブバスケットの対象サ
      ービスは、独占的に提供されていることから、消費者物価指数変動率
      について通常考えられる変動幅を超えない部分は基準料金指数に反映
      させないことにより、競争が出てきている分野である音声伝送役務の
      通話料・通信料等との内部相互補助を抑制することができる。


9 その他 

(1)長期増分費用方式との整合性について

   指定電気通信設備を設置する事業者の当該設備との接続料については、長期
  増分費用方式の導入が予定されている。長期増分費用方式は事業者間の接続料
  の算定に用いるものであるから、これにより特定電気通信役務の費用が直接的
  に低下するものではないが、接続料収入の低下に合わせて、東・西NTTは収
  支を相償わせるため経営効率化努力を行い、費用の低減化に努めるものと考え
  られる。この費用低減化額については、東・西NTTの経営判断の下で、利用
  者料金の引下げや、利用者サービス向上のための設備投資などへの活用が期待
  されるところである。
   長期増分費用方式の導入のためには、電気通信事業法の改正を要すると考え
  られるが、同法改正が成立・施行しておらず、かつ、具体的な実現方策が確定
  していない現段階において、特定電気通信役務の費用予測に当たり、長期増分
  費用方式の導入により求められる効率化を参酌することは適当でないと考えら
  れる。このため、参酌方法については、同法改正の成立・施行後の状況を踏ま
  えて、具体的に検討していくことが適当であると考えられる。

(2)特定電気通信役務のレートベース予測について

   特定電気通信役務のレートベースについては、特定電気通信役務の費用と同
  様に、上限価格方式が適用される当初の3年間(平成12年度から平成14年
  度)に実施されるべき経営効率化計画の策定を東・西NTTに求め、それに応
  えて作成された効率化を織り込んでレートベース予測を行うことが適当である。

(3)他人資本利子率の算定について

   他人資本利子率については、従来の料金算定と同様に、社債及び借入金の過
  去数年間における平均利子率を用いることが適当である。

(4)引当金等を対象とする報酬率の扱いについて

   引当金等を対象とする報酬率については、従来の料金算定と同様に、機会費
  用の観点からリスクフリーレートである国債利回り等の平均値を用いることが
  適当である。

(5)利益対応税額について

   利益対応税額については、従来の料金算定と同様に、税法の規定により実際
  支払われるはずの税額を推計することが適当である。

(6)退職給付に係る会計制度の変更の扱いについて(退職給付会計の導入)

   企業会計審議会「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書(平成10
  年6月)」によって、平成12年度決算から、退職給付に係る会計基準の変更
  が決定されている。
   しかしながら、本制度変更により発生する費用については、具体的な計算方
  法等を検討中であり、現時点ではX値の算定に用いる平成14年度の具体的な
  金額を算定できていない状況にある。
   そこで、本制度変更により発生する費用の基準料金指数の算定における扱い
  については、具体的金額が明確となる次回の基準料金指数の設定時までに、検
  討を行うことが適当である。


おわりに

 行政は、本研究会の検討結果を受け、具体的なX値を算定し、これに基づいた基
準料金指数を、電気通信事業法に則って速やかに電気通信審議会に諮問すべきであ
る。


               参 考 資 料 1 上限価格方式の概要 2 米国の地域通信分野におけるプライスキャップ方式 3 米英独仏におけるプライスキャップ方式 4 DEAによる経営効率性の計測結果
参考資料1

              上限価格方式の概要

第1 法制度の概要

   平成10年5月、電気通信事業法の改正が行われ、特定電気通信役務の料金
  規制を総括原価方式から上限価格方式へ移行させることを決めた(平成10年
  11月施行)。

 1 上限価格方式の趣旨
   上限価格方式は、競争が十分進展していないサービスについて、市場メカニ
  ズムを補完し、消費者の利益の保護を図るとともに、事業者の自主的な経営効
  率化のインセンティブを賦与することにより料金の低廉化を促すためのもので
  ある。

 2 改正法制度(上限価格方式関連)の概要
  1 特定電気通信役務(競争が十分進展していないサービスであって、利用者
   の利益に及ぼす影響が大きい役務)を設定
  2 特定電気通信役務について、一定の対象区分ごとに、行政が適正な原価や
   物価その他の経済的事情を考慮して、通常実現可能と認められる水準の料金
   を基準料金指数として設定
  3 基準料金指数以下の料金であれば実施前に届け出ることによる料金設定が
   可能
  4 また、基準料金指数を超える料金については、基準料金指数により難い特
   別の事情がある場合に限り、認可を受けて料金設定が可能

 3 対象役務(施行規則第19条の3)
   上限価格方式の対象である特定電気通信役務の範囲は次のとおりとする。
 指定電気通信設備を設置する第一種電気通信事業者が、指定電気通信設
備を用いて提供する都道府県内の通信サービスのうち、
1 電話サービス
2 ISDNサービス
3 専用役務
  注1)指定電気通信設備には、現在、東・西NTTの加入者回線等の都道府県
     内通信用電気通信設備が指定されている。
   2)電話サービスには、付加機能のうちプッシュホン接続機能を含む。
   3)電話サービス、ISDNサービスには、番号案内サービスを含む。
   4)専用役務は、利用者に及ぼす影響が比較的少ないサービス(映像伝送、
     放送専用等)は除く。

 4 バスケット(施行規則第19条の4)
   基準料金指数の設定対象区分である特定電気通信役務の種別(バスケット及
  びサブバスケット)は次のとおりとする。

   バスケット(施行規則第19条の4)の図

 5 基準料金指数の算定方法(施行規則第19条の5)
   基準料金指数の算定方法は次のとおりとする。
1 基準料金指数の算定                       
                                  
基準料金指数=前期の基準料金指数×(1+前期の消費者物価指数変動率
  −生産性向上見込率(X値)±外生的要因)           
  基準料金指数は、上限価格方式開始の半年前の料金水準を100として
 表す。                              
                                  
2 生産性向上見込率(X値)の算定                 
 ア 設定期間における需要予測(市場全体の需要及び対象事業者のシェア
  の予測)を踏まえた、現在の生産性に基づく将来原価と、今後の生産性
  向上分を見込んだ将来原価から算定。               
 イ 3年ごとに見直す。                      
                                  
3 外生的要因は、X値の算定の際には考慮されない要因のうち消費者物価
 指数の変動には反映されないものとする。              

 6 基準料金指数の適用期間(施行規則第19条の5)
   基準料金指数の適用期間は、毎年10月1日から1年間とする。

 7 料金指数の算出方法(施行規則第19条の6)
   料金指数の算出方法は次のとおりとする。
 料金指数は、特定電気通信役務の種別ごとに、次に掲げる式により算出
するものとする。
 
 ・
 
(Ptは料金額、P0は基準時における料金額、Sは前年度の供給実績)
上限価格方式開始の半年前を基準時とする。

 8 基準料金指数の通知期間(施行規則第19条の7)
   基準料金指数の通知期間は、適用の日の90日前までとする。


第2 前研究会におけるこれまでの検討結果 I 基準料金指数の算定方法  1 生産性向上見込率(X値)の算定  (1)X値算定の基本的考え方     ミックス生産性準拠方式(事業者の費用情報に基づきX値を算定するプラ    イスキャップ方式)におけるX値算定式の基本的イメージ
 ・
凡例
 Ft:t年の需要量(Xの関数となる。)
 Mt:現行料金の場合の1需要当たりの収入額
 CPIt:t年の前年度における消費者物価指数変動率
 Ct:t年の費用(人件費、物件費、減価償却費等)
 Nt:t年の報酬(自己資本コスト+他人資本コスト)+利益対応税  
 s:算定期間の初年度
 e:算定期間の最終年度

 (2)X値の算定期間
    X値の算定方式における算定期間の取扱方法としては、X値を算定期間の
   最終年度で収支相償するレベルに設定する方式とする。

〔最終年度方式〕
 (X値算定式のイメージ)
3×M3×(1+CPI3−X)3=C3+N3             

   費用水準・料金水準推移のイメージ図

  (参考)その他のX値算定の例

  1 算定期間全体で収支相償するレベルに設定する方式
    最終年度収支相償する方式の他、算定期間全体で収支相償するレベルに設
   定する方式も検討したが、次の理由により最終年度で収支相償するレベルに
   設定する方式を採用することとした。
   【前研究会報告書】1P16から
    上限価格方式において、事業者の達成すべき生産性向上とはX値算定期間
   の最終年度で望ましい費用水準が達成されることであり、料金水準がそれと
   一致することが目的であると考えれば、(最終年度で収支相償する)最終年
   度案の方が、上限価格方式の趣旨により合致したものであると考えられる。


1 「電気通信分野における上限価格方式の運用の在り方」(1999年6月)。 以下同じ。    〔算定期間全体案〕     (X値算定式のイメージ)    ・ 費用水準・料金水準推移のイメージ図   2 フル生産性準拠方式    【前研究会報告書】P14から     上限価格方式の目的が、個別の事業者の経営の効率性に依存せずに、でき    るだけ客観的なデータに基づき適正な料金の上限を決定することにより、事    業者に経営効率化のインセンティブを賦与しようとするものであることを踏    まえれば、本来的にはフル生産性準拠方式(全要素生産性向上率に基づきX    値を算定するプライスキャップ方式)のような事業者の費用情報から独立し    たデータに基づきX値を設定する方式が望ましいとも考えられる。     しかしながら、フル生産性準拠方式については、全要素生産性の算出方法    が統計的に確立されておらず、仮定の設定方法等により算出される数値が大    きく変化する等、料金規制に用いるためには現時点においては信頼性に欠け    るところがあると考えられる。  (3)X値算定のベースとなるコストの範囲     特定電気通信役務対象範囲をベースにX値を算定する(収入は利用者料金。    費用は指定設備利用部門の費用及び指定設備管理部門の費用のうち特定電気    通信役務に分計される部分の合計)。         X値算定と接続料算定(接続会計)との関係 X値算定と接続料算定(接続会計)との関係図  (4)X値算定に向けてのその他の課題    ア 東NTTから西NTTへの特定費用負担金の取扱い      NTT再編成後3事業年度間は、特定費用負担金を支払う会社について     は費用と考え、特定費用負担金を受ける会社については収入として考慮す     ることが適当である。    イ 特定電気通信役務の収支・レートベースの報告      特定電気通信役務は、独占的に提供され利用者に及ぼす影響が大きいも     のであることから、NTTにおいては、毎年度、特定電気通信損益明細表     及びレートベース明細表を作成し、バスケット・サブバスケットごとの収     支及びレートベースの額を、郵政省に報告し、公表することが求められる。  2 外生的要因  (1)外生的要因として考慮すべき事項     外生的要因として考慮すべき事項としては、消費税率の変更のほかには、    法人税率の変更、規制制度の変更等事業者の管理を超えたところで発生する    コストの変化であって、事業者の経営に大きな影響を与える事象が挙げられ    る。  (2)外生的要因の設定時期     外生的要因の設定時期については、基準料金指数の適用期間ごと(毎年度)    に行うこととし、具体的な設定の手続きとしては、外生的要因に該当する事    実が発生したこと又は発生することが明らかな場合に、郵政省が自ら、ある    いは、NTTによる申出に基づき、外生的要因を計算して修正を加えた基準    料金指数を通知することになる。 II 料金指数の算出方法  1 具体的算出方法   1 バスケットの内部において、サービスの独立性や代替性の観点から、料金    指数算出単位を設定し、料金指数算出単位ごとに料金変化率を計算する。   2 料金指数算出単位ごとに各収入ウェイトで1の変化率を加重平均したもの    を、料金改定前の料金指数に乗じることによりバスケット単位の料金指数を    算出する。    料金指数算出単位のイメージ(電話・ISDNバスケットの場合)    料金指数算出単位のイメージ(電話・ISDNバスケットの場合)図  2 料金指数算出に当たり留意すべき点   (1)割引料金の扱い      割引料金は、事業者にとっても減収要因となるものであることから、割     引料金の影響を料金指数に反映させる必要がある。具体的には、通常料金     と割引料金を一つの料金指数算出単位とし、それぞれの供給実績を加重平     均することにより利用動向を反映させることとする。   (2)新サービスの扱い      既存サービスと類似性があり、代替性がある新サービスについては、技     術革新による生産性向上を実現化したものであることから料金指数に反映     させることとし、代替性のあるサービスと同一の料金指数算出単位として     算出することとする。また、全くの新サービスについては、上限価格方式     の適用対象とすべきか否かについて、利用者利益への影響を考慮し、個別     に判断することとする。   (3)料金体系の変更を伴う料金改定時の扱い      料金体系の変更については、単純な料金値下げと異なり、料金指数に与     える影響を単純に算出することができないため、個々について、料金の変     更前後でユーザ負担にどのような影響を与えるかを明らかにした上で、料     金指数の算出に反映させる方法を考える必要がある。   (4)サービス・料金廃止時の扱い      サービス・料金が廃止されるのは、通常はサービスが陳腐化し提供数が     少なくなった時点であるため、料金指数に与える影響はほとんどないこと     から、料金指数の算出の際には特段考慮に入れる必要がないと考えられる。   (5)消費税の扱い      料金指数算出の際の消費税の扱いについては、消費税を含めて料金指数     を算出するとした場合、消費税率を変更した際に事業者の自主的な経営効     率化によらず料金指数に影響を与えてしまうことから、消費税を除いて算     出することが適当である。
III X値算定のために必要な個別要素についての検討 
  (本研究会の検討対象となったもの)
 
   1 生産性向上見込率(X値)の考え方
   2 特定電気通信役務の需要・収入予測
   3 X値を算定するために必要な消費者物価指数変動率
   4 特定電気通信役務の費用予測
   5 特定電気通信役務の報酬率
   6 東・西NTTのX値を同一とするか否か
   7 加入者回線サブバスケット
   8 その他

(参考)
    電気通信事業法及び同法施行規則(上限価格方式関連部分抜粋)
 電気通信事業法(昭和59年法律第86号)
第31条
 郵政大臣は、毎年少なくとも一回、郵政省令で定めるところにより、第38条の
 2第2項に規定する指定電気通信設備を設置する第一種電気通信事業者が当該指定
 電気通信設備を用いて提供する電気通信役務であつて、その内容、利用者の範囲等
 からみて利用者の利益に及ぼす影響が大きいものとして郵政省令で定めるもの(以
 下「特定電気通信役務」という。)に関する料金について、郵政省令で定める特定
 電気通信役務の種別(第9条第2項第2号に規定する郵政省令で定める区分を更に
 細分した区分による電気通信役務の種類及び態様の別をいう。以下この項において
 同じ。)ごとに、能率的な経営の下における適正な原価及び物価その他の経済事情
 を考慮して、通常実現することができると認められる水準の料金を料金指数(電気
 通信役務の種別ごとに、料金の水準を表す数値として、通信の距離及び速度その他
 の区分ごとの料金額並びにそれらが適用される通信量、回線数等を基に郵政省令で
 定める方法により算出される数値をいう。以下同じ。)により定め、その料金指数
 (以下「基準料金指数」という。)を、その適用の日の郵政省令で定める日数前ま
 でに、当該第一種電気通信事業者に通知しなければならない。
 
※ 指定電気通信設備(電気通信事業法第38条の2第1項)
  全国の区域を分けて電気通信役務の利用状況及び都道府県の区域を勘案して郵政省令で
 定める区域ごとに、その一端が利用者の電気通信設備と接続される伝送路設備のうち同一
 の第一種電気通信事業者が設置するものであつて、その伝送路設備の電気通信回線の数の
 、当該区域内に設置されるすべての同種の伝送路設備の電気通信回線の数のうちに占める
 割合が郵政省令で定める割合を超えるもの及び当該区域において当該第一種電気通信事業
 者がこれと一体として設置する電気通信役務であつて郵政省令で定めるものの総体
 (都道府県において5割を超えるシェアを有する加入者回線及びそれと一体となって設置
 される概ね県域をカバーする電気通信設備であり、加入者回線、加入者交換機、県内伝送
 路設備のほか、番号案内台などが含まれる。)
 
 第38条の2第2項に規定する指定電気通信設備を設置する第一種電気通信事業
 者は、特定電気通信役務に関する料金を変更しようとする場合において、当該変更
 後の料金の料金指数が当該特定電気通信役務に係る基準料金指数を超えるものであ
 るときは、第1項の規定にかかわらず、郵政大臣の認可を受けなければならない。
 (通信量等の記録)
第31条の2
  第38条の2第2項に規定する指定電気通信設備を設置する第一種電気通信事業
 者は、郵政省令で定める方法により、その提供する特定電気通信役務の通信量、回
 線数を記録しておかなければならない。
 
  電気通信事業法施行規則(昭和60年郵政省令第25号)
 
 (特定電気通信役務の範囲)
第19条の3 法第31条第3項の郵政省令で定める電気通信役務は、次の各号に掲
 げるもの(利用者の利益に及ぼす影響が少ない付加的な機能の提供に係る電気通信
 役務、特定の業務の用に供する通信に用途が限定されている電気通信役務、他の電
 気通信役務に代替され利用者の利益に及ぼす影響が低下した電気通信役務及び端末
 設備の提供に係る電気通信役務を除く。)とする。
  指定電気通信設備のみを用いて提供される音声伝送役務(電話及び総合デジタ
  ル通信サービスに限る。)
  指定電気通信設備のみを用いて提供される専用役務
(特定電気通信役務の種別)
第19条の4 法第31条第3項の郵政省令で定める電気通信役務の種別は、次のと
 おりとする。
  音声伝送役務
  音声伝送役務であつて第23条の2第4項第1号イに規定する指定端末系伝送
  路設備のみを用いて提供されるもの
  専用役務
(基準料金指数の算定方法等)
第19条の5 法第31条第3項の基準料金指数は、適用期間ごとに、次の式により
 算定するものとする。
 基準料金指数=前適用期間の基準料金指数×(1+消費者物価指数変動率
        −生産性向上見込率+外生的要因)
 基準料金指数の適用期間は、10月1日から1年とする。
 第1項の消費者物価指数変動率は、基準料金指数の適用期間の始まる日の直近に
 終わる国の会計年度(次条において「基準年度」という。)又は暦年における消費
 者物価指数(総務庁が小売物価統計(指定統計第35号)のための調査の結果に基
 づき作成する消費者物価指数のうち全国総合指数をいう。)の変動率とする。
 第1項の生産性向上見込率は、3年ごとに、現在の生産性に基づく将来原価及び
 今後の生産性向上を見込んだ将来原価から算定するものとする。
 
 第1項の外生的要因は、生産性向上見込率算定の際には考慮されない要因のうち
 消費者物価指数変動率に反映されないものとし、基準料金指数の適用期間ごとに算
 定するものとする。
 法第38条の2第1項の規定により新たに指定された電気通信設備を用いて提供
 される特定電気通信役務に適用される最初の基準料金指数の算定の際には、第1項
 の前適用期間の基準料金指数は100とする。
 (料金指数の算出方法)
第19条の6 法第31条第3項の料金指数は、特定電気通信役務の種別ごとに、次
 の式により算出するものとする。
 
 ・
 
 tiは、通信の距離及び速度その他の料金区分ごとの料金額
 0iは、法第38条の2第1項の規定により新たに指定された電気通信設備を用
 いて提供される特定電気通信役務に適用される最初の基準料金指数の適用の日の6
 月前における料金額でPtiに対応するもの
 は、Ptiが適用される電気通信役務の基準年度における供給量
 
 前項に定めるもののほか、郵政大臣は、料金指数の連続性を保つために必要な料
 金指数の修正の方法を別に定めるものとする。
 (基準料金指数の通知期間)
第19条の7 法第31条第3項の郵政省令で定める日数は、90日とする。
 (基準料金指数を超える料金指数の料金の認可の申請)
第19条の8 法第31条第4項の認可を受けようとする者は、様式第16の2の申
 請書に、料金の新旧対照及び次の事項を記載して提出しなければならない。
  実施期日
  料金の適用区域若しくは適用区間又は適用期間(限定する場合に限る。)
  料金の変更後の料金指数及びその算出の根拠に関する説明
  基準料金指数以下の料金指数の料金により難い特別な事情に関する説明
  料金の算出の根拠に関する説明
  料金の実施の日以降3年内の日を含む毎事業年度における申請に係る電気通信
  役務の収支見積り
 (通信量等の記録方法)
第20条の2 法第31条の2の方法は、通信の距離及び速度その他の料金区分ごと
 に、料金の課金単位により電気通信役務の通信量、回線数その他の供給量を記録す
 る方法により行うものとする。


参考資料2

       米国の地域通信分野におけるプライスキャップ方式

州名・
対象事業者
バスケット
区分方法
対象サービス
使用する
物価上昇率
バスケット毎のX値
 アラバマ州
 
 ・GTE
 ・サウスセン
  トラルベル
 
 
(1995年導入)
 
 
○基本的
 サービス
○基本料、
 市内通話料等
国内総生産
物価指数
(GDP・
 PI)
GTE        1%
サウスセントラルベル 3%
 
但し、2000年まで1995年の料
金を上限          
 
○非基本的
 サービス
 
○市外通話料等
使用せず
全体で年間10%まで値上げ可
 ウィスコ
  ンシン州
 
 ・GTE
 ・アメリテック
 
 
(1994年導入)
 
 
○基本的
 市内交換 
 サービス
○我が国の基本料、
 市内通話料等
 に相当
国内総生産
物価指数
(GDP・
 PI)
GTE    2%
アメリテック 3%
  カンザス州  
 
 ・サウスウ  
 エスタンベル 
・ユナイテッド 
        
(1998年導入) 
 
 
 
 
 
 
 
○事務用電話
 1回線目、
 住宅用電話
○基本料、    
 市内通話料   
国内総生産
物価指数
(GDP・
 PI)
2.3%
             
但し、2000年まで現行料金に
据え置き         
○事務用電話
 複数回線部
 分、事務用
 ・住宅用付
 加サービス
○基本料、    
 市内通話料、  
 市外通話料等  
国内総生産
物価指数
(GDP・
 PI)
2.3%
ノース     
カロライナ州  
        
        
 ・ベルサウス 
 ・GTE   
 ・セントラル 
     等  
        
(1996年導入) 
        
      
○基本的  
 サービス 
      
         
○基本料、    
 市内通話料等  
         
国内総生産
物価指数
(GDP・
 PI)
2%
 
 但し、ベルサウスの非基本
サービスについては    
    3%       
 
○非基本的 
 サービス 
 
 
○市外通話料等  
 
ルイジアナ州  
・ ベルサウス 
 (1996年導入)
        
        
        
○ 基本的 
  サービス
○ 基本料、   
  市内通話料等 
国内総生産
物価指数
(GDP・
PI)
 但し、5
%を上限
2.5%
但し、2001年まで1996年の料
金を上限         


参考資料3

          米英独仏におけるプライスキャップ方式

国名・
対象事業者
バスケット
区分方法
対象サービス
使用する
物価上昇率
バスケット
毎のX値
        
米国(連邦)
 
AT&T
(1989年導入)
【1995〜1996に、
非支配的事業者と
して、プライスキ
ャップ方式の対象
外とされた】  
○住宅用電話
○800番サー
 ビス(我が国
 のフリーダイ
 ヤルに相当)
 の番号案内
○事務用専用線
 
 
 
○住宅用電話
 ・国内市外通話(昼間)
 ・  同   (夕刻)
 ・  同(夜間・週末)
 ・国際電話
 ・交換手サービス及びク
  レジットカード
  サービス
 ・小口向け選択料金
国民総生産
物価指数
(GNP・PI)
3%
○800番サービスの番号
 案内 
○事務用アナログ専用線
 
米国(州)
 
既存の地域
電話会社
(1990年導入)
州により異なる
が、概ね次のと
おり。    
○住宅用電話
○事務用電話
○その他独占的
 な分野  
○基本的サービス 
 ・基本料、市内通話料
 (現行料金を上限とする
  州もある。)
○非基本サービス 
 ・市外通話料、付加機能
  使用料等
国内総生産
物価指数
(GDP・PI)
とする州が多い。
2%〜
○非競争分野
 ⇒プライスキャップ対象
  。
○住宅用電話
 ・基本料、市内通話料、
  市外通話料等
○事務用電話
 ・基本料、市内通話料、
  市外通話料等
        
英国
 
BT
(1984年導入)
○住宅用電話
○専用線
○住宅用電話
 ・基本料
 ・国内ダイヤル通話料
 ・国内交換手扱い通話料
 ・国際通話料
 ・加入及び移転料
小売
物価指数
(RPI)
住宅用電話
4.5%
○専用線
 ・国内アナログ専用線
 ・国内デジタル専用線
  (64kbps以下)
 ・国際アナログ
 ・デジタル専用線
専用線
0%
 
独国
 
ドイツ
テレコム
(1998年導入)
○住宅用電話・
 ISDN
○事務用電話・
 ISDN
○ 住宅用電話・ISDN
 ・電話基本料、工事料
 ・ISDN基本料、工事
  料
 ・通話料
  (市内、市外、国際、
  選択割引)
生計費
価格指数
(全個人世帯の
家計費に対する
価格指数)
        
3%
○事務用電話・ISDN
 ・電話基本料、工事料
 ・ISDN基本料、工事
  料
 ・通話料
  (市内、市外、国際、
  選択割引)
 
仏国
 
フランス
テレコム
(1997年導入)
        
○全サービス 
○主にユニバーサルサービ
 スの対象サービス
 ・工事料
 ・事務、住宅用電話基
  本料
 ・事務、住宅用電話通話
  料
  (市内、市外、国際)
 ・ 公衆電話
消費者
物価指数
(たばこを除く)
        
4.5%
(注)英国、独国、仏国、米国(連邦)は、高収益部門である国際通話や市外通話を
  含んでいる点に留意する必要がある。


参考資料4

          DEAによる経営効率の計測について

1 DEA(包絡分析法)モデルの概要
 DEA(包絡分析法:Data Envelopment Analysis)は、実績デー
タに基づいて最も効率的な企業の生産性を基準として、他の企業の効
率性を計測するものである
 (1) 基本的概念

  1 技術効率性、配分効率性及び総効率性の概念
 技術効率性:所与の投入要素の下で産出を最大にする効率性をいう。
       いわゆる「無駄・効率の悪さ」のこと。       
 配分効率性:投入要素の価格を所与としてその最適な組合せを達成す
       る効率性をいう。                 
 総効率性 :技術効率性と配分効率性の積で表される効率性をいう。

      技術効率性、配分効率性及び総効率性の概念図

    例えば、上図のように、投入が2要素(x1、x2)で、生産が1要素(
    y)の場合を考える。
    上図で、実際に観察される生産活動A点があったとすると、同じ投入要
   素の組み合わせ比率で投入要素x1、x2での双方の削減を実現したB点が、
   等量曲線y上の点であるとすると、投入要素x1、x2の双方を削減したB
   点でも、同量の生産を行うことが技術的に可能であるといえる。
    この場合、線分ABは投入要素の浪費の部分であって「技術非効率」と
   いい、OB/OAを「技術効率性」という。
    また、等費用直線が、EDCFと平行であるとすると、最も少ない費用
   で、yの生産ができるのは、C点であり、これは投入要素x1を増やし、
   x2を減らすという投入要素間の配分の変更で実現できる。このとき、
   D/OBを「配分効率性」という。
    ここで、技術効率性と配分効率性をかけ合わせた
   OD/OA=(OB/OA)×(OD/OB)を「総効率性」という。

  2 等量曲線(多面体)の推計
    生産可能集合Pが閉凸多面体であると仮定する。
    ただし、P={(x,y)|x≧Xλ, y≦Yλ, λ≧0}
   xは観察される投入量ベクトルをxj、j=1,2,…、Nを各列とする行列
   yは観察される生産量ベクトルをyj、j=1,2,…、Nを各列とする行列
   λは非負のウエイトベクトル
   とする。
    これを3のとおり線形計画問題として解くことで、技術効率性、配分効率
   性及び総効率性を求めることができる。

  3 効率性の計測
   ア 技術効率性の計測
   Minθ    
   {θ,λ}   
制約式 Xλ≦θx 
    Yλ≧y  
    λ ≧0  
    とする。このときθが技術効率性となる。

   イ 総効率性の計測
 MinC, C=pXi*          
   {θ,λ}              
制約式 Xλ≦x*            
    Yλ≧yI            
    λ ≧0             
pXiは事業部iの投入要素xの価格ベクトル  
x*は費用最小化を実現する投入量ベクトル 
    とする。
    このとき総効率性をE0とすると、
    E0=pXi*/pXix
    となる。

   ウ 配分効率性の計測
    配分効率性は、総効率性/技術効率性となる。

 (2) 基本モデル(CCRモデル及びBCCモデル)
  1 例えば、下の図のような1投入、1産出の場合を考える(a〜kはそれぞ
   れ企業を表す点である)。
    CCRモデルの場合では、b点が実績データに基づく最も効率的な企業で
   あり、規模に関して収穫一定を仮定するので、原点0とbを結んだ直線より
   下の領域はすべて生産可能な領域であり、b以外のすべての企業には非効率
   性があり、効率性を改善する余地があることになる。
    一方、BCCモデルの場合では、規模に関して収穫変動を仮定する。具体
   的には、CCRモデルのλの存在範囲が狭くなり、実績データに基づく最も
   効率的な企業は、a、b、d及びeの企業となる。

   基本モデル(CCRモデル及びBCCモデル)の図

  2 CCRモデルの一般式は次のとおり。
    生産可能集合P={(x,y)|x≧Xλ,y≦Yλ,λ≧0}
         minθ
    制約式 Xλ≦θx
        Yλ≧y
        λ ≧0

    また、BCCモデルの一般式は次のとおり。
    生産可能集合P={(x,y)|x≧Xλ,y≦Yλ,λ≧0}
         minθ
    制約式 Xλ≦θx
        Yλ≦y
        eλ=1
        λ≧0
    ここで、eは、要素が全て1の単位ベクトル

  3 今回の経営効率分析の計測のためには、総効率性の計測が必要であるが、
   CCRモデル及びBCCモデルによって計測されるのは、技術効率性のみで
   ある。CCRモデル(規模に関して収穫一定を仮定)に対応する総効率性計
   測モデルは、COST−Cモデルであり、BCCモデル(規模に関して収穫
   変動を仮定)に対応する総効率性計測モデルは、COST−Vモデルである。

 (3) スケール効率性の概要
   規模に関する効率性を、

 (スケール効率性)                  
=(CCRモデル技術効率性)/(BCCモデル技術効率性)

   のように定義すると、COST−Cモデルによる総効率性は、次のとおり変
   形が可能となる。

 (COST−Cモデル総効率性)                 
=(CCRモデル技術効率性)×(COST−Cモデル配分効率性)  
=(CCRモデル技術効率性)/(BCCモデル技術効率性)     
  ×(BCCモデル技術効率性)×(COST−Cモデル配分効率性)
=(スケール効率性)×(純粋な技術効率性)            
  ×(COST−Cモデル配分効率性)              
   規模による効率性の差異を除去するため、上式を次のように変形する。

   (総効率性)/(スケール効率性)=(純粋な技術効率性)×(配分効率性)
    すなわち、総効率性そのものでなく、(総効率性/スケール効率性)を効
   率性の数値とすることで、地域的差異を補正する。

   スケール効率性の概要の図

   【企業gにおけるスケール効率】

   企業gにおけるスケール効率の図

   【企業cにおけるスケール効率】

   企業cにおけるスケール効率の図
   企業cにおけるスケール効率の図

2 計測結果

 (1) 総括表

   計測結果をまとめると次のとおり。

   規模に関して収穫一定を仮定したCOST−Cモデルによる総効率性からス
  ケール効率性を除すことで非効率性を計測したもの。

   総括表

   ア 平成6年度から平成9年度の複数年度を通じた計測結果の平均値
   イ 平成6年度から平成9年度の複数年度を通じた計測した上で、直近年度
    の平成9年度の結果
   ウ 平成6年度から平成9年度の単年度で計測した計測結果の平均値

 (2) モデルの選択

  1 前述1−(2)のとおり、DEAのモデルには、基本モデルとして、規模に
   関して収穫一定を仮定するCCRモデルと、規模に関して収穫変動を仮定す
   るBCCモデルの2つのモデルが存在する。

  2 過去のDEAによる経営効率性分析として、例えば、英国におけるOFT
   ELによるBTの経営効率性分析があるが、そこでは規模に関して収穫一定
   を仮定するモデルを用いている。さらに、NTTの地域についてのDEA分
   析を行った郵政研究所の論文『地域通信事業の効率性の計測』(1998年
   発表)1では、規模に関して収穫一定を仮定するモデルを用いた上で、事業
   規模の違いによる効率性の違いを除去するために、地域的補正が必要と結論
   付けている。


1 浅井澄子・根本二郎(1998)『地域通信事業の効率性の計測』   3 旧NTT11事業部制においては、旧関東事業部、旧東京事業部等の規模    の大きい事業部から、旧北陸事業部、旧信越事業部等の小さい事業部まで存    在している。一般に電気通信事業には規模の経済性があると言われているこ    とから、旧NTT11事業部が必ずしも規模に関して収穫一定と断定するの    は困難であり、規模に関して収穫一定を仮定するモデルを用いる場合には地    域的差異を補正する必要がある。   4 ただし、DEAによって計測された効率性の値は、旧11事業部間での比    較による相対値であって、外生的な変数(実数値)による補正は理論的に不    可能と考えられる。そこで、前述1−(3)の「スケール効率」を用いて、    DEAモデルの中で地域的差異を補正する。   5 なお、4の規模に関して収穫一定を仮定し、スケール効率性を用いて地域    的補正を行うモデルによる計測と比べると、規模に関して収穫変動を仮定す    るモデルによる計測の場合、効率性の数値の中に事業規模を原因としない純    粋な無駄な部分が混じってしまい、その部分を分離することが不可能なため、    今回の計測では用いていない。  (3) 産出・投入要素の選択    計測に用いた産出・投入要素については、前述の郵政研究所の論文『地域通   信事業の効率性の計測』において用いられている要素を参考とした。    理由は、1同計測が公表されている数値を使用しており、また、2地域NT   TについてDEAを用いた計測例であるためである。    ただし、1同論文では、産出について加入電話の加入数が用いられており、   音声伝送役務のうちISDNが含まれないことから、本計測では ISDNを   含めることとし、2同論文では、投入には他事業者との接続分が含まれている   にも関わらず、産出には他事業者との接続が含まれていないことから、本計測   では他事業者との接続分を含めることとし、次のように修正した。
 要    素 
具  体  的  内  容
投    入
(労 働)
 各年度末の従業員数
 
投    入
(資  本)
 土地・建設仮勘定を除く実質化した電気通信事業 
固定資産
投    入
(原材料)
 加入電話及びISDNの加入数
 
産    出
(音声伝送)
 加入電話及びISDNの通信時間(他事業者との
接続分を含む)
産    出
(専  用)
 専用回線数(電話級換算、他事業者の接続専用線
分を含む)
投入要素価格
(労 働)
 実質人件費年額÷年度末従業員数
 
投入要素価格
(資本)
 投資財価格指数×(政府保証債利子率+
電気通信事業固定資産に対する減価償却額÷
期首の電気通信事業固定資産額)
÷卸売物価指数
投入要素価格
(原材料)
 実質物件費÷年度末加入数
 

 (4) 計測年度及び東西各社への集計方法

   今回のDEAによる計測は、平成6年度から平成9年度の計測を行っている。
  また、費用の効率性を計測するものであるため、各事業部の費用の比率により、
  計測結果の東西各社への集計を行っている。

 (5) 計測結果

   規模に関して収穫一定を仮定したCOST−Cモデルによる総効率性からス
  ケール効率性を除すことで非効率性を計測したもの。

   ア 平成6年度から平成9年度の複数年度を通じた計測結果(平均値)

    平成6年度から平成9年度の複数年度を通じた計測結果(平均値)の図

   イ 平成6年度から平成9年度の複数年度を通じた計測結果(平成9年度)

    平成6年度から平成9年度の複数年度を通じた計測結果(平成9年度)の図


   ウ 平成6年度から平成9年度の単年度で計測した計測結果(平均値)

    平成6年度から平成9年度の単年度で計測した計測結果(平均値)の図



                構成員名簿                                 (敬称略)   【構成員】    座長   岡野 行秀(東京大学名誉教授)    座長代理 醍醐  聰(東京大学経済学部教授)         関口 博正(神奈川大学経営学部助教授)         辻  正次(大阪大学大学院国際公共政策研究科教授)         刀根  薫(政策研究大学院大学教授)         山内 弘隆(一橋大学商学部教授)         山谷 修作(東洋大学経済学部教授)  【オブザーバー】         篠田  智(東日本電信電話(株)企画部担当部長)         尾崎 秀彦(西日本電信電話(株)企画部担当部長)
    上限価格方式の運用に関する研究会 開催状況  第1回会合 平成11年10月13日(水)   ・開催要綱について   ・X値を算定する際に留意すべき考え方についての検討課題について  第2回会合 平成11年10月20日(水)   ・消費者物価指数変動率の検討等について   ・需要・収入予測について  第3回会合 平成11年11月17日(水)   ・電話・ISDNの需要・収入予測について   ・専用サービスの需要・収入予測について  第4回会合 平成11年11月24日(水)   ・効率性の計測について  第5回会合 平成11年12月10日(金)   ・中期経営改善施策について   ・特定電気通信役務の費用予測について   ・DEAによる経営効率化の計画の検証方法  第6回会合 平成12年1月26日(水)   ・需要・収入予測の見直しについて   ・DEAによる経営効率化の計画の検証方法   ・上限価格方式の運用に関する基本的考え方(討議資料)について  第7回会合 平成12年2月4日(金)   ・上限価格方式の運用に関する基本的考え方(主要論点)について  第8回会合 平成12年2月14日(月)   ・上限価格方式の運用に関する基本的考え方(報告書骨子案)について  第9回会合 平成12年2月24日(木)   ・上限価格方式の運用に関する基本的考え方(報告書案)について


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