第1部 情報通信の多面的な展開



第1節 情報通信分野における環境変化

 近年におけるデジタル技術を中心とした技術革新の進展により、情報通信は飛躍的に進歩しており、インターネットの爆発的な普及、放送のデジタル化等によって情報環境の変化が生じつつある。


(1) 技術革新

 情報通信は、デジタル技術を中心とした技術革新の進展により、グーテンベルク活版印刷の発明やベルの電話発明に匹敵する革命的進歩を遂げている。
 デジタル化により、映像、音声、文字情報等がすべてOと1の組合せとして把握され、統合的な扱いが可能となり、各種情報が映像、音声、文字情報等の多彩な組み合わせとして伝送されるマルチメディア化が進みつつある。そして、有線系・無線系の各種伝送路上の情報がデジタル化されてくるに従って、例えば、電話回線で音声のみならず、映像、データ伝送もなされるというように、従来は明瞭であった伝送路と情報内容の対応関係は次第に相対的になりつつある。
 また、アナログ技術では各種情報通信分野毎に固有の技術が発展してきた傾向があったが、デジタル技術は、処理(圧縮・加工・編集・複製等)、蓄積・記録、伝送、交換等の各分野において、広い波及効果をもった技術として急速に進展している。
 このようなデジタル技術は、現在爆発的に普及しつつあるインターネットを生み出し、またデジタル化により放送の飛躍的進化をもたらそうとしており、教育、経済、医療、行政等、社会生活全般にわたる幅広い人間の活動と関わり合いを深めてきている。
 このほか、衛星通信技術等の無線通信技術や光ファイバ技術によって、伝送路の広帯域・大容量化が進展している。このような広帯域・大容量化によって、多チャンネル動画像伝送、高画質動画像伝送等を含め、多量の情報の柔軟かつ自在な利用が可能となり、より臨場感のある動画像の伝送や高度な利用方法を生み出すことが期待される。
 光ファイバの整備については、1997(平成9年度)末で約19%の地域をカバーする見込みとなっている。また、これを一部補完するものとして、加入者系無線通信網も実現に向けて技術的条件が定められたところである。


(2) インターネットの爆発的な普及

  インターネットの近年の普及速度は驚異的であり、1998年1月現在世界各地で、約1億人、我が国で約800万人の利用者がいるといわれている(Computer Industry Almanacによる)。また、インターネットに接続されるホストコンピュータの数は、Network Wizards社によると1998年1月現在2967万台(5年前の約23倍)であり、我が国は約117万台となっている(5年前の約51倍;資料1)。
 このようなインターネットの普及の要因は、
   WWW(ワールド・ワイド・ウェッブ;(注))及びその上の様々な情報を簡単に見られるようにしたブラウザ(閲覧ソフト)の出現によって、誰でも世界各地に散在する情報の利用が可能になったこと
   インターネットは、中央集中的に一元管理されたネットワークではなく、全体を構成する個々の自律的なネットワークが、あたかも細胞が分裂・増殖するように拡大する方式をとっていること
   TCP/IPというプロトコル(通信手順)によって、一般公衆網、ISDN、LAN、専用線等ネットワークの差異を意識することなく利用可能なこと
等にあるといわれている。

 (注) WWW(ワールド・ワイド・ウェッブ)は、ネットワーク上にクモの巣を張るように散在する様々な情報に継ぎ目を意識させることなく次々とアクセスするためのシステム。インターネットで簡単に文字、画像、音声といった情報を提供する。

 電子メールやホームページ等インターネットの利用方法は、世界中の膨大な情報の入手手段や世界各地との通信手段として、距離と時間の拘束を容易に超える利便性を提供するとともに、個人が世界に向けて情報を容易かつ安価に発信するための手段を提供している。今後、動画を扱う技術の普及・発展によって、個人においてもより高度な情報を作成・発信することが可能となることが期待される。また、インターネットは、ネットワーク上に電脳空間(サイバースペース)という仮想的な空間を生みだし、そこにおいて人々の様々な社会経済活動が行われることにより、情報環境を大きく変化させつつある。
 電脳空間における活動の一環として、インターネット等のネットワークを取引に活用する動きが出てきている。平成9年12月現在、国内のみで6500近い仮想店舗(バーチャルショップ)が存在し、この数は、日々増加している。我が国における電子商取引の市場規模は約285億円(1996年度)であり、米国と大きな差があるが、伸び率では4000%の急成長を遂げており、今後の発展が期待されている。また、企業間取引においても、ネットワーク上でデータ交換を行うことにより、注文・決済の効率化を図る動きが加速している。
 これらネットワーク上での電子商取引が普及することにより、生産者・販売者と消費者が、より直接的に結びついた効率的な経済活動が可能となる。


(3) 放送のデジタル化

 放送をめぐる最近の状況として、多チャンネル化の傾向が顕著である。まず、ケーブルテレビが着実に普及しつつあり、多チャンネル化の先駆となっているが、現在の普及状況は1996(平成8)年度末で500万世帯を突破している。また、1996(平成8)年6月からデジタル技術を導入した衛星デジタル多チャンネル放送が開始され、その後委託放送事業者が新規参入し、本格的な多チャンネル時代へ突入している。
 放送のデジタル化については、諸外国においても活発な動きを示しており、欧米においては比較的早期に実施されたデジタル衛星放送に引き続き、地上テレビジョン放送においても英米等において1998年からデジタル放送が開始される予定である(注)
 このようなデジタル化のメリットは表1.1に掲げられ、放送の飛躍的進化を可能にするものである。

 (注) 地上デジタル放送(DTV)サービスに関するFCC規則の改定に際しての報告書・抜粋(1997年4月21日発表)
「・・(略)・・早急に建設することで、DTVの競争力を国内的のみならず国際的にも強化することとなるだろう。・・(略)・・電気通信情報庁(NTIA:the National telecommunications and Information Administration)と科学技術政策局(OSTP :the Office of Science and Technology Policy)は、米国が素早い対応を欠くと国際的な競争相手に技術的なリードを許してしまうだろうが、素早い反応をすれば、製造、貿易、技術発展、国際投資、そして雇用拡大を通じて米国経済を刺激するだろうと論じている。米国におけるDTVの早急な導入は海外における採用を容易にするだろう。」

表1.1 放送のデジタル化のメリット

 高画質・高音質化
 広画面による臨場感あふれる番組を高精細映像と高音質で楽しめる。
 チャンネルの多様化
  • 既存のアナログ1チャンネル分で同様の画質の3チャンネル分のデジタル放送が可能(地上デジタル放送の場合)
  • 時間帯別に高精細映像と多チャンネルサービス(標準TV+データ放送)が楽しめる。
 高機能化
 蓄積された映像等を自分の好きなときに好きなだけ楽しめる(オンデマンド(個別要求対応)機能、インタラクティブ(双方向)機能
 その他
  • 移動体で乱れのない鮮明なTVを楽しめる
  • 高齢者・身障者にやさしいサービスの実現
    (字幕放送の容易化・端末の簡単操作)


(4) 情報環境の変化

 以上のような情報通信の展開は、人々の生活の様々な面に浸透し情報依存度を高めるとともに、より高度・自由・円滑な情報流通を可能にする環境を生みだしつつあり、従来の情報環境を大きく変化させてきている。
  社会環境のバーチャル化(仮想化)
 インターネットに代表される情報通信の高度利用によって、ネットワーク上に電脳空間という仮想的な空間が観念され、その空間に仮想商店街(サイバーモール)や電子会議室等、実社会の社会経済活動を代替する場が形成されること(バーチャル化[仮想化])により、利用者は机上での簡単な操作で商品の購入、情報の入手・交換等が可能になっている。

  情報の生産・発信力の向上
 情報の生産や発信が質的に高度化するとともに量的にも増大する。特に、インターネットの個人利用によって、より多数の者に向けて、いつでも自由かつ容易に自ら作成した情報を発信することが可能となる。

  行動制約の克服
 情報が瞬時に国境を越えて伝搬・拡散することから、国境を超えた情報交流圏が形成される。特に、個人においても、全世界に対して瞬時に情報を受・発信することができ、情報通信の距離的・時間的制約を克服する機能が高められる。
 また、ネットワーク利用によるテレワーク(遠隔勤務)のような新たな労働形態や、事業所を持たない企業形態が生まれつつあり、このような現象はSOHO(注)と呼ばれることがある。

  (注) SOHO(Small-Office Home-0ffice)
 ネットワークや各種情報機器を駆使し、小規模な事務所や自宅を仕事の場とする勤務形態あるいは企業形態。SOHOには、既存の大企業の衛星事務所(サテライトオフィス)・在宅勤務や事業所をネットワークで代替しているような事業家のようないくつかの異なったケースがある。

  情報の選択範囲の飛躍的拡大
 デジタル技術の活用による情報の検索能力の向上により、世界中に散在する情報から必要なものを選択することが可能となる。また、放送のデジタル化により提供される番組数が飛躍的に増大し、番組内容の多様化が進んでいる。

  高度な情報共有
 インターネット上の各種情報、電子図書館等、世界的規模で画像・音声・データ等の高度な共有が可能になっている。また、インターネットで利用されている技術を企業内の情報システムに取り入れ、社内の情報共有・情報交換、各種業務システムを実現するイントラネットが利用されている。さらに、異なる企業がそれぞれ持つイントラネットをインターネットで結び、顧客情報等を共有するエクストラネットのような形態もあり、多様で高度な情報共有がなされている。







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