情報通信21世紀ビジョン 中間報告

第2章 総合的な政策対応

   1 情報通信行政の役割

   2 第2次情報通信改革の推進

   3 ネットワークインフラの整備

   4 アプリケーションの開発・普及

   5 創造的研究開発の推進

   6 グローバル化の推進

   7 情報通信高度化への環境整備





第2章 総合的な政策対応

1 情報通信行政の役割

 今日の我が国において、行政の役割が改めて問い直されており、従来の行政の在り方に見直しが求められている。
 特に、情報通信分野においては技術革新が急激であり、また、情報化が国境を越えた潮流として世界規模で同時進行していること、情報通信産業がこれからのリーディング産業として大きく発展していく見通しであること、経済活動のみならず社会生活全般への浸透性・波及性が極めて大きいことなどを考慮し、情報通信行政の役割を明確にする必要がある。

(1) 明確なビジョンの提示
 情報通信行政の役割として、国民・企業に対し明確な将来ビジョンを示すことが求められる。
 明確なビジョンの提示により、国民への施策内容の提示と、実施した措置のフォローアップが可能となり、透明な行政実現に資することとなる。
 また、民間に対し、政府の施策に対する予測可能性を与え、情報通信分野への積極的な参入・投資を促すとともに、建設的な政策論議の契機ともなる。

(2) 情報通信基盤の整備
 今後の我が国にとって、情報通信基盤の整備は産業経済・国民生活の充実にとって不可欠であり、国家的課題とも言うことができる。
 基盤整備の主体については、市場原理に極力委ね、公正有効な競争の下に基本的には民間主導で進められるべきである。しかし、基盤整備には多大の経費と時間を要することが多く、したがって、需要が顕在化するのを待ってから整備を始めたのでは遅すぎるおそれも生ずる。むしろ、将来における技術動向やサービス需要をある程度予見し、民間における先行的・積極的な基盤整備を支援することが重要となっている。
 また、我が国の情報通信基盤構築や知的資産蓄積のための基礎的・先導的研究開発や、高度情報通信社会に対応した制度整備等については、行政が引き続きその責任を果たしていくことが必要である。

(3) ダイナミックな競争の促進
 1985年の電気通信市場の全分野への競争原理の導入と電電公社の民営化(第1次情報通信改革の始まり)は、その後の我が国における情報通信分野の目覚ましい発展の契機となり、活発な新規参入の実現による事業者間の競争を通じて、通信料金の低廉化、サービスの多様化等、我が国経済社会に多大なメリットをもたらした。
 今後も、一層の競争の促進と市場メカニズムの活用により、市場の活性化、消費者利益の拡大を図っていくべきである。ここにおける行政の役割は、公正有効な競争が確保されるような環境を整備することであり、保護育成型行政ではなく、市場重視型ないしはルール型行政を目指すべきである。

(4) 社会的公平の確保
 以上で触れたように、情報通信基盤の構築は基本的には市場原理に基づき民間主導で行われるべきであるが、他方、これのみによっては解決されない問題も生じつつある。すなわち、市場原理にのみ委ねた場合、情報化における地域間、あるいは個人間の格差が生ずるおそれがある。また、情報化に伴う雇用問題や反社会的情報の流通、プライバシー侵害の危険等も心配されている。
 これらの、いわば情報化の「影の部分」への対応について、行政は国民の付託に応えていく責任がある。

(5) グローバルな政策展開
 経済社会全般がグローバル化し世界の一体化が進む中で、特に情報通信はその傾向が強く、インターネットのように、国境や距離を意識させない通信形態も急拡大しつつある。
 このような中、国内だけを視野に入れた政策ではなく、技術的標準化や法律等の制度面においても、グローバル・スタンダードの確立が必要となってきている。
 一方、情報通信分野において、国境を越える投資も今後急激に活発化するものと考えられ、世界的に開かれた市場を確立していくとともに、世界規模での情報通信基盤の構築のため、発展途上国への支援も重要となっている。
 さらに、急激なグローバル化や各国における自由化の進展に伴い、制度面における国際的な整合性の確保の必要性も増してくるものと予想される。




2 第2次情報通信改革の推進

 1985年に始まった第1次情報通信改革では、電気通信事業の自由化や電電公社の民営化により、独占体制であった電気通信市場が競争体制へ転換し、放送制度においては、放送局の免許主体と放送番組の編集主体を分離したいわゆるハード・ソフト分離制度が導入され、放送事業への参入機会が増加した。その結果、多数の事業者の参入、競争的分野における料金の低廉化、移動体通信分野の発展など大きな成果があげられた。
 現在、我が国は、長期的な低成長、高齢社会の到来を迎えており、経済社会構造の更なる変革が求められている。第1次情報通信改革以降、飛躍的な進歩を続ける情報通信は、産業構造の変化や個人のライフスタイルの変化など経済社会構造を変革させるものとして期待は大きい。
 一方、現在の情報通信分野は、技術革新を背景としたマルチメディア化、国際競争の進展による通信・放送の枠を超えたメディアの再編成など新たな局面を迎えている。
 21世紀初頭に向けて、情報通信により経済社会構造を変革していくために、第1次情報通信改革に次ぎ、公正有効競争条件の整備や新規参入の一層の促進により競争の促進を図るなどの第2次情報通信改革を推進し、情報通信分野におけるダイナミズムを創出していくことが不可欠である(資料11)。

(1) 電気通信市場の改革(NTT再編成及びその後の電気通信市場の競争の在り方)
 電気通信市場の在り方については、利用者に対して低廉かつ多様なサービスを提供できる環境を実現するために、一層の競争の促進により、情報通信分野におけるダイナミズムを創出していくべきである。

 ア 三位一体の施策の実施
 電気通信市場の改革のため、1996年2月に「日本電信電話株式会社の在り方について」において答申したように「NTT(日本電信電話株式会社)の再編成の実施」、「規制緩和の推進」、「接続に関する政策の推進」を三位一体で実施していくべきである。
 こうした方針に基づき、1997年3月に、日本電信電話株式会社法、国際電信電話株式会社法、電気通信事業法の改正案が国会に提出されている。
 法改正の内容を含め当面の具体的施策は以下のとおりである。

  (1) NTTの在り方
  (ア) NTTの再編成
(a) NTTを持株会社の下に、東・西地域会社と長距離会社に再編成する(1999年度予定)。
(b) 持株会社は、地域会社の株式の総数を保有し、株主権を行使することにより、地域会社の提供する電気通信役務の安定的な提供の確保を図るとともに、基盤的な研究を推進する特殊会社とする。
(c) 地域会社は、地域電気通信事業を経営し、あまねく日本全国における電話の確保に寄与する特殊会社とする。
(d) また、地域会社間の地域電気通信業務の相互参入も可能とする。
(e) 長距離会社は、民間会社とし、新たに国際通信にも進出し得るものとする。

  (イ) NTTの国際通信業務への進出の実現
 NTTの再編成前においても、子会社方式により国際通信業務への進出を可能とする。

  (ウ) 基本方針の策定及び実施計画の作成
 郵政大臣は、事業の引き継ぎ、権利・義務の承継に関する基本方針を定め、NTTは、その方針に従い、実施計画を作成し、郵政大臣の認可を受ける。

  (2) KDDの在り方
 KDDについては、早期に新たに国内通信業務を行えるようにする。

  (3) 規制緩和
 NTTの再編成とともに、一層の競争体制を確立するため、規制緩和による電気通信市場の更なる活性化を図る。
 このため、1997年中に参入規制の見直し(過剰設備防止条項等の撤廃)による新規参入の一層の円滑化を図る。

 さらに、同年中にNTT・KDD以外の第一種電気通信事業者の外資規制の撤廃、国際公専公接続の自由化などを行う。

  (4) 接続の円滑化
 NTT地域網への接続は、他事業者の事業展開上不可欠であり、また、利用者の利便性の確保という観点からも当該ネットワークのより低廉かつ多様な形態による利用が確保されることが不可欠であることから、その接続条件は競争の促進及び利用者利便の増進の観点から極めて重要なものとなっている。
 そこで、相当な規模の加入者回線を有する電気通信設備を指定し、当該指定電気通信設備を有する電気通信事業者との接続が透明、公平かつ迅速に行われることを確保するため、1997年中に、次のような接続ルールを整備する。
(ア) 接続条件(接続料、技術的条件等)に関して接続約款を定めなければならないこととする。
(イ) 指定電気通信設備との接続に関する会計を整理し、当該接続に関する収支の状況等を公表しなければならないこととする。
(ウ) 指定電気通信設備の機能の変更又は追加の計画を公表しなければならない。

 イ 「次の段階」の競争体制の在り方
 NTT再編成後においても、地域通信分野においては、NCC(新第一種電気通信事業者)による加入者網構築が早急に進むことは考え難く、また、同一資本下にあるNTT各社間では直接的な競争には一定の限界があり得るとも考えられる。このため、21世紀に向けた「次の段階」の競争政策を推進していく必要があり、電気通信市場における一層の競争を創出するため、以下のような施策を推進すべきである。

  (1) 料金規制
 料金規制については、公正有効な競争の進展状況を踏まえ、現行の認可制を見直し、インセンティブ規制の導入について検討を進める。

  (2) 番号ポータビリティ
 CATV電話サービス等が進展することに伴い、事業者変更を行っても電話番号が変わらない、いわゆる番号ポータビリティの早急な導入がもとめられていることから、2000年度を目途に番号ポータビリティの導入を行う。

  (3) 接続ルールの見直し
 NTT再編成後の競争進展状況を踏まえ、接続ルールは柔軟に見直していく。

  (4) 加入者系無線アクセスの整備促進
 地域通信分野の競争促進のためには、NCCの更なる参入が不可欠であるが、すでにNTTにより加入者回線が敷設されている地域において、NCCが新たにNTTと同様の加入者回線敷設を行うことは、その費用面等から相当の困難を伴う。
 現在、無線を利用し、比較的安価に加入者回線を敷設することを可能とする加入者系無線アクセスの開発が進められており、地域通信分野の競争促進のために、加入者系無線アクセスの早期導入を図る。

  (5) KDD法の廃止の検討
 KDD法については、KDD以外の事業者による対地拡大の状況を踏まえ、KDDに遜色のない対地が安定的に確保された段階で、廃止する方向で検討を行う。なお、KDD法の廃止を検討する際には、我が国及び国民の安全の確保等についての十分な配慮が必要である。

  (6) グローバルな情報通信市場の確立
 1997年2月、WTO基本電気通信交渉が終結し、グローバルな情報通信市場の確立に向けて各国が取り組んでいくことで合意した。今回のWTO合意を踏まえ、今後、我が国の通信事業者等による積極的な事業展開が図られるよう、諸外国に対して公正で競争促進的な市場環境の整備について積極的に働きかけていく必要がある。

(2) デジタル化による放送革命
 ア 放送のデジタル化
  (1) 放送のデジタル化の動向
 1996年6月、我が国における初のデジタル放送がCS(通信衛星)放送により開始された。
 諸外国においても、我が国とほぼ同時期に欧米各国でデジタル衛星放送が実現しており、また、英国及び米国では1998年には地上デジタル放送を開始する見込みであり、放送のデジタル化はまさに世界の趨勢であるといえる(資料12)。

  (2) デジタル化の意義
 放送のデジタル化は、(ア)チャンネル数の増大、(イ)高画質化(高精細度放送など)、(ウ)高機能化・マルチメディア化(双方向機能、通信との融合)、(エ)移動時における放送の安定した受信、(オ)地上放送における単一周波数中継実現による周波数資源の有効利用等をもたらし、国民にとっても多様な情報ニーズを充足するなどその意義は非常に大きい。このため、早期のデジタル化を図るべきである。

  (3) デジタル化の計画
 他メディアのデジタル化の進展を踏まえ、各放送メディアのインターフェイスの確保を図り、全体としての整合性のとれたシームレス(継ぎ目のない)なネットワークを構築するため、一部のサイマル放送を除き各メディアが普及しているほとんどすべての世帯において、2010年までにデジタル化されていることを目標とする。具体的な計画は以下のとおりである。

  (ア) 地上放送
 地上放送のデジタル化については、2000年以前にデジタル放送が開始できるよう、制度整備等を進めることを目標とする。
 具体的には、1997年には、野外実験の拡充、電波伝搬特性の調査分析などの実験調査、1998年には、暫定方式を策定し、実用規模による地上デジタル放送実験を開始し、全国チャンネルプラン案を策定することを目標として進める。

  (イ) CATV
 1996年12月、デジタル方式の技術基準を策定しており、1997年度中には、デジタルCATV放送の開始を目指し、その後もデジタル化の普及促進を図る。

  (ウ) 衛星放送
 CS放送においては、既にデジタル放送が開始されており、今後もチャンネル数の拡大を図る。
 BS(放送衛星)放送については、2000年頃放送開始予定のBS−4後発機によりデジタル放送の開始を目指す。

  (4) デジタル化に向けての課題
 現行放送インフラは、国民の日常生活に基本的な社会情報・文化情報を提供するという重要な役割を担っており、放送のデジタル化は、国民、事業者に多大な影響を及ぼすものであることから、デジタル化が国民全体の利益となって普及が進展するよう、円滑な移行プロセスが重要である。
 したがって、視聴者保護の観点から、同一の番組をデジタル方式とアナログ方式で同時に放送するサイマル放送の実施や廉価なデジタル放送用のアダプターの開発及びCS、BS、地上デジタル放送を共通に受けられる受信機の開発に取り組むべきである。
 また、デジタル放送の円滑な導入を促進する観点から、デジタル化関連投資に対する低利融資や税制上の優遇措置等の支援措置の実施が期待される。

 イ デジタル時代の放送産業政策の展開
  (1) 放送市場のダイナミズムの創出
 地上放送を中心とした従来の放送は電波資源の有限性から、事業者数もおのずと限界があり、比較的安定した市場競争下に置かれていた。
 しかし、デジタル化・多チャンネル化の進展は、多くの事業者が放送事業に参入することを可能にしており、これまでの放送の枠組みも大きく変革しつつある。今後は、デジタル化に対応した放送政策の推進により、放送市場に新たなダイナミズムを創出していくべきである。

  (ア) マスメディア集中排除の原則の在り方の検討
 放送においては、有限希少な周波数をできるだけ多数の者に開放するため、「マスメディア集中排除原則」を設け、一事業者がメディアを複数所有することには制限が課せられている。
 しかし、多チャンネル化の進展により、多くの事業者が放送事業に参入することが可能になる中、一定のチャンネルの所有支配を認めることがむしろ放送産業の発展を加速するということも考えられる。このため、メディアの複数所有・支配の在り方についても検討を進めていく必要がある。

  (イ) 柔軟な免許制度の検討
 デジタル化により、アナログ放送1チャンネルと同一の周波数帯域で、現在の標準テレビの品質だと3〜6倍のチャンネル数、チャンネル数が同じなら高精細度放送が利用可能になるほか、データ放送など多様な放送サービスが可能になる。
 このようなデジタル化の意義を最大限に活用するため、現在の放送の種別ごとの免許制度の在り方についても、検討を進めていく必要がある。

  (ウ) ハード・ソフト分離の検討
 CS放送においては、受託・委託放送制度によりハード・ソフトが分離され、多様な事業者による多チャンネル放送が実現している。
 他の放送メディアにおいても、多種多様な事業者の参入を促進し、多種多様なサービスを実現するために、メディア特性によるハード・ソフトの分離について検討が必要である。

  (2) 放送関連産業の拡大
 将来的には数百チャンネルと想定されるチャンネル数の増大や多様な放送サービスの出現により、放送ソフトの需要が拡大するとともに、放送端末機器の需要も拡大することが考えられる。さらに超薄型・大型・高精細テレビ等の出現により、家庭における新たな映像空間を生み出していくと想定される。
 多チャンネル化に対応し、良質かつ多彩な放送ソフトを十分に供給するためには、放送ソフトの制作・利用に係る権利処理の円滑化等により、放送ソフトの多元的な利用を可能とするマルチユース市場を確立する必要がある。
 また、放送のマルチメディア化・高機能化に対応した放送端末の開発・標準化などにより、国民が高度な放送サービスを享受できる環境整備が必要である。

(3) 通信・放送の融合
 通信と放送は、今後とも技術革新の成果をとり入れつつ、それぞれの特色を生かしながら発展していくと考えられるが、情報通信の高度化の進展により、通信・放送の垣根は次第に低くなりつつあり、通信・放送のネットワークの共用化や通信・放送の中間領域的サービスの出現などいわゆる通信・放送の融合が進展しており、今後の放送のデジタル化はこの流れを加速させると考えられる。
 通信・放送の融合は利用者がメディアの違いを感じずに通信網・放送網を自由に利用できる高機能なマルチメディアサービスを実現させ、国民の利便性を向上させるとともに、ネットワークの共用化を背景とした通信・放送事業者の相互参入により情報通信市場を活性化させるものであり、今後も一層促進させていく必要がある。また、今後、ネットワークの共用化の進展状況、中間領域的サービスの動向等を踏まえ、通信・放送の融合に関する法制度的な対応の可能性について検討する必要がある。

 ア 中間領域的サービスへの対応
 近年の情報流通形態の多様化により、通信・放送分野において、それぞれインターネットのホームページ等の「公然性を有する通信」、VICS(Information Communication System:道路交通情報通信システム)におけるFM多重放送等の「限定性を有する放送」といった中間領域的なサービスが出現している。
 従来、電気通信の中で、テレビに代表されるように、「公衆(不特定多数)向けの一方向型情報発信」を行うものを「放送」と位置づけ、その情報内容に一定の規律を課し、それ以外の電気通信を「通信」とし「通信の秘密」を確保するなど、通信・放送サービスは、別個の法体系によるそれぞれ異なる規律のもとで発展してきた。
 しかし、中間領域的サービスにおいては、「通信の秘密」保護と第三者の権利の関わりや、公共性に基づく規律について、典型的な「通信」、「放送」とは異なる考慮が必要であり、従来のルールだけでは適切な対応ができない状況が生じている。
 現実に、インターネットにおける反社会的情報の流通等の社会問題も生じており、一層の深刻化が懸念され早急な対応が求められているところである。
 当面の具体的対応としては、
(1) 「公然性を有する通信」については、事業者団体による自主的なガイドラインを中心とするルールの策定、技術的対応策、国際的連携による対応策の確立
(2) 「限定性を有する放送」については、従来の番組基準等の規定を一律に課すのではなく、メディア特性に応じた規制緩和とこれに応じた適切な視聴者保護対策の実施
などを行うべきである。

 イ ネットワークの共用化
 技術の進展やネットワークの広帯域化により、CATV網を利用した通信サービス、CSを利用した放送等、通信・放送のネットワークの共用化が進んでいる。ネットワークの共用化は、多様なサービスの提供を可能にするとともに、通信・放送事業の相互参入を促進し、市場の活性化をもらすものであり、今後も推進していくべきである。

  (1) 通信ネットワークを利用したCATV
 近年、伝送路の光化による広帯域化等に伴い、公衆網を利用した電気通信事業者によるCATV事業者へのサービス提供が技術的に可能になるなど、通信ネットワークの放送事業への利用可能性が広がっていることから、これらに関する諸課題について検討し、必要な環境整備を行うべきである。
 このため、メディア特性に応じた放送におけるハード・ソフト分離や、公正有効競争条件について検討が必要である。

  (2) CATV網を利用した通信
 現在、CATVを利用したインターネット、電話等の通信サービスが実用化されつつある。しかしながら、CATVは家庭に大量のテレビ映像を提供するために開発されたもので、家庭から発信される情報をセンターに伝送する上り回線の容量はそれほど大きくない。
 今後、広帯域の双方向通信サービスを可能とするため、高速の双方向デジタルCATVシステムの技術開発、低コストでの全光化の実現のための研究開発等を行う必要がある。

  (3) 周波数の共用化
 現在、周波数は業務別・用途別に分配されている。しかし、近年の技術の進展により通信・放送の周波数の共用化等が可能となりサービスが一部実現している状況にある。
 今後、周波数の有効利用の観点からも、サービスの実態に応じた柔軟な周波数の分配を可能とするための周波数共用化の技術開発を進めていくことが必要である。

 ウ 端末の共用化
 現在、マルチメディアパソコンや通信機能をもつテレビ受信機の出現など、端末においても、通信・放送の融合が進んでいる。
 今後も、利用者が、メディアを意識せず、多種多様な通信・放送ネットワークを通じて提供される膨大なマルチメディアサービスの中から、自分の好みに応じたマルチメディアサービスを利用できるよう、インターフェイスの向上を図るとともに、伝送メディアをまたがるすべてのマルチメディアサービスに共通的にアクセスできるシステムや通信・放送融合型のマルチメディア端末等の開発・標準化を進めていく必要がある。

(4) ニュービジネスの振興
第2次情報通信改革における規制緩和は、急激な技術革新ともあいまって、情報通信分野における多様なニュービジネス展開への期待を高めている。
 しかし、他方、我が国の経済社会では、米国に見られるようにベンチャー企業の成長に必要な人材面、資金面、技術面、情報面の経営資源を効率的に分配する環境が未整備であることから、ベンチャー企業によるニュービジネスの創出、発展が必ずしも十分ではない。
 そこで、情報通信ニュービジネス振興のため、以下のような環境整備を今後推進していく必要がある。

 ア 人材確保の環境整備
 我が国においては、従来、起業家に対する社会的評価が米国におけるほど高くなく、また、長期雇用や年功序列という雇用慣行が特に大企業や官公庁で多く見られるため、多くの人材は大企業や官公庁への就職を志向する風潮が存在した。
 このような中、人材の確保がベンチャー等によるニュービジネスにとって重要な課題となっており、以下の支援策が必要である。

  (1) 成功払い報酬制度の導入
 創業・発展期にある情報通信ベンチャー企業において必要な人材を確保する観点から、役員・従業員の勤労意欲を向上させるためのストックオプション(将来の一定期間に、予め定められた一定の価額で自社株式を購入できる権利)のような成功払い報酬制度の促進を図るべきである。
 こうした方針に基づき、1997年2月に、ストックオプション制度を情報通信分野の新規事業を実施するベンチャー企業に導入するための法案が国会に提出された。今後本制度の活用によりベンチャー企業の人材確保を円滑化するよう制度の啓発・普及等を図るべきである。

  (2) 参入しやすく転出しやすい労働市場の整備
 大企業等において技術的・経営的技能を身につけた人材がベンチャー企業等に転身しようとする際、年金等の制度において転職が不利とならないように制度整備を進め、以前勤めていた企業等で支払った年金保険料が無駄にならないような年金ポータビリティを確保する等、参入しやすく転出しやすい労働市場を整備するための措置を講ずる必要がある。
 また、ニュービジネスに必要とされる知識・技能を持つ人材のベンチャー企業への紹介をきめ細かく行えるようにするため、民間における有料職業紹介事業の規制緩和や、多様な事業ニーズに即応できる人材の迅速な確保を可能とするため、労働者派遣事業における規制緩和を進めるべきである。

 イ 資金調達の円滑化
  (1) 投資事業組合方式の活用
 リスクの高い創業・スタートアップ段階の情報通信ベンチャー企業にリスクマネーの供給が円滑に行われるよう、投資事業組合方式を積極的に活用することが必要である。このため、投資事業組合を通じて年金基金等の資金がベンチャー企業へ供給されるよう、投資事業組合の有限責任性確保のための法的措置や登記等の活用による情報開示の充実等による機能強化を図ることが必要である。

  (2) 個人の金融資産の活用
 米国においてはベンチャー企業を支援する個人投資家(エンジェル)の活躍が盛んであるが、我が国においてはこのような個人投資家は極めて少ない。この違いは両国の社会風土に起因するところもあるが、米国では一定の要件を満たすベンチャー企業の株式を投資後5年間保有した後の売却により生じた利益の50%を非課税、売却損は通常の所得と損益通算を可能とするなど、個人投資家によるベンチャー企業への投資を促進するための税制優遇措置を講じている。
 我が国においても、今後、1,200兆円に達する個人の金融資産がベンチャー企業に円滑に供給されるような環境を整備することが有効である。そのため、1997年度税制改正で創設されたエンジェル税制の拡充や、個人投資家がベンチャー企業の情報を容易に入手できるような環境整備を図る必要がある。

 ウ 研究開発の促進
 我が国の産業空洞化が指摘される折、ニュービジネスのシーズ(種)を生み出すような研究開発を促進することが重要となっている。米国においては、SBIR(Small Business Innovation Research)プログラムにより、ハイテク中小企業が行う企業化のための研究開発に対し連邦政府の資金助成が講じられており、1996年度の予算規模は12.5億ドルとなっている。我が国においても、先進的・独創的な技術の研究開発に対する助成制度の拡充、自由な参加が可能なオープンな環境下での共同実験を行うためのオープン・テストベッドの構築を推進する等、ベンチャー企業を含む民間の研究開発環境の整備を一層推進すべきである。

 エ 情報提供・交流の促進
 米国では大学自身が研究室で生まれた新技術を積極的に事業化しようとして、大学の持つ新技術と起業家との間を仲介したり、学内に企業育成機能を有するサイエンスパークを設置している例も見られる。スタンフォード大学は、シリコンバレーのハイテク・ベンチャーの多くを技術面・情報面で支援するなどベンチャー企業との強い結びつきを有している。また、研究室で開発された技術・特許の管理とベンチャー企業へのライセンス付与、ベンチャー企業への資金・経営面のサポートを行う組織を有している大学も多い。また、起業家と人投資家、ベンチャーキャピタルを結ぶ情報通信ネットワークが大学等が中心となって運営されており、これら投資家がベンチャー企業の情報をネットワークを通じて容易に入手することが可能である。
 我が国においても、大学の有する新技術を事業化につなげるための企業育成機能の育成や、投資家と起業家とをつなぐ情報通信ネットワークの構築等、大学等の研究機関と起業家、投資家間の情報提供・交流を促進する必要がある。




3 ネットワークインフラの整備

(1) 総合的ネットワークインフラの構築

 
 有線系と無線系、移動系と固定系のデジタル化された各種ネットワークインフラをシームレスに接続し、放送のデジタル化と併せて「トータルデジタルネットワーク」を構築する。

 21世紀初頭における高度情報通信社会の実現に向けて、デジタル化された各種ネットワークインフラをシームレスに接続し、情報通信の利用者が個々のネットワークインフラの特性を意識することがない「トータルデジタルネットワーク」を構築する。これにより、情報通信の利用者はいつでも、どこでも、誰とでも、世界中共通の端末で、画像、超高速データ伝送等の大容量マルチメディアサービスを受けることが可能になる。
 「トータルデジタルネットワーク」は、明治以来、百数十年かけて構築し続けている情報通信ネットワークのいわば集大成であり、21世紀における高度情報通信社会を支える最も重要かつ身近な社会資本となるものである。
 「トータルデジタルネットワーク」を構築するためには、アナログ伝送、またはアナログとデジタル伝送を併用しているネットワークインフラについては、ネットワークを効率的に利用するため、あるいはマルチメディア化によるユーザサイドのニーズに応えるため、デジタル化に移行する必要がある。また、高度かつ多様なマルチメディアサービスを実現するために、ネットワークの超高速化・広帯域化を併せて実現する必要がある。
 そこで以下に、既述の放送のデジタル化と併せて「トータルデジタルネットワーク」構築に資する各種ネットワークインフラの高度化を論じていく。(資料13、資料14)

(2) 「トータルデジタルネットワーク」構築に資する各種ネットワークインフラの高度化

 
 ア 固定系ネットワークインフラ

 (1) 加入者系光ファイバ網(有線系):全国整備の完了(2010年)

 (2) 加入者系無線アクセスシステム等の加入者系光ファイバ網の補完的ネットワークインフラ
   :以下のサービス
    ・企業向け   最大150Mbps程度(2000年)
            最大600Mbps程度(2010年)
    ・一般加入者向け最大 6Mbps程度(2000年)
            最大150Mbps程度(2010年)

 (3) マルチメディア対応衛星通信システム(無線系)
   :全世界をカバーする最大1.2Gbps程度のサービス(2010年までに)

 イ 移動系ネットワークインフラ(無線系)

 (1) 世界共通の次世代携帯電話システム(IMT-2000/FPLMTS)
   :世界をカバーする2Mbpsの本格的サービス(2000年)

 (2) ・ LEOシステム
   :全世界をカバーする共通の小型携帯端末での通話サービス(2000年頃)
  ・ 次世代LEOシステム
   :広帯域なマルチメディア通信サービス(2010年頃)

 (3) パーソナル移動体衛星通信システム
   :日本全国をカバーする小型携帯電話サービス(2005年頃)

 (4) マルチメディア移動アクセスシステム(MMAC)
   :以下の本格的サービス
       25〜30Mbps(屋外)(2002年)
       156Mbps  (〃) (2010年)
       156Mbps  (屋内)(2002年)

 ウ 次世代インターネットの開発

 ア 固定系ネットワークインフラ
  (1) 加入者系光ファイバ網
 2010年の光ファイバ網の全国整備完了に向け、加入者系光ファイバ網は、1996年度末で人口カバレッジ16%と当面順調に推移しているものの、中継系に比してなお整備が遅れている状況にある。このため、投資に対する収入を確保することが期待できない2000年までの先行整備期間における整備を促進し、2000年までに人口カバレッジ20%以上を達成する。また、公共アプリケーションの開発・導入に併せて、2000年までに全国の学校、図書館、病院、福祉施設等の公共機関への光ファイバ網整備を推進する。これらの施策を講ずることにより、2010年の全国整備の目標については、できる限り早期の完了を期する。

  (2) 加入者系無線アクセスシステム等の加入者系光ファイバ網の補完的ネットワークインフラ
 21世紀初頭の有線系の基幹網は、基本的には光ファイバ網である。一方、加入者系ネットワークインフラの整備に当たっては、加入者系光ファイバ網を基本としつつ、有線系ネットワークインフラの整備が困難な地域におけるサービス提供の実現、地域網の整備の促進、光ファイバ網の全国整備までの過渡的な手段としての活用を図る観点から、高速なアクセス回線の導入を併せて可能としていくことが望ましい。
 このため、企業向けを中心とした超高速分野においては、2000年までに最大150Mbps程度、2010年までに最大600Mbps程度の伝送速度に、また一般加入者向けを中心とした高速分野においては2000年までに最大6Mbps程度、2010年までに最大150Mbps程度の伝送速度に対応できるよう、将来のアプリケーションのニーズを踏まえつつ、基幹網系の光ファイバ網等の有線系とシームレスな超高速な加入者系無線アクセスシステムを実用化する。
 また、近年、従来の電話回線を活用して高速伝送を可能する技術であるxDSL方式が注目されており、この技術成果をネットワークインフラの整備において活用することも検討すべき課題である(資料15)。

  (3) マルチメディア対応衛星通信システム
 アクセス系のマルチメディア対応衛星通信システムの実用化を目的として、2000年までに156Mbpsの伝送速度を、2010年頃までには、全世界をカバーする最大1.2Gbps程度の伝送速度を持つギガビット級の超高速衛星通信システムの研究開発を推進する。

 イ 移動系ネットワークインフラ
  (1) 世界共通の次世代携帯電話システム(IMT-2000/FPLMTS)(注)
 全世界でどこでも利用できる、高速で、固定網なみの高品質な移動体通信システムを構築する。2000年までには、2Mbpsの伝送速度を実用化する。
(注)IMT-2000: International Mobile Telecommunications 2000
  FPLMTS : Future Public Land Mobile Telecommunication Systems

  (2) LEO(低軌道周回衛星)システム
 2000年頃までに、世界中のどこからでも共通の小型携帯端末での通話サービスが可能となるLEO(Low Earth Orbit Satellite)システムを、2010年頃までに、小型携帯端末による映像伝送等のマルチメディア通信サービス等が可能となる次世代LEOシステムを実用化する。

  (3) パーソナル移動体衛星通信システム
 2005年頃までには、300g程度の携帯端末で日本全国どこからでも通話やデータ伝送できるサービスを実用化する。このシステムは静止衛星により日本全国すべてをカバーするため、周回衛星を用いたシステムに比べ、周波数利用効率やコストの観点から、トラフィックが集中する地域に適している。

  (4) マルチメディア移動アクセスシステム(MMAC)(注)
 2002年頃までに、いつでも、どこでもマルチメディア情報を利用可能とするため、携帯性を有しながら、光ファイバ網とシームレスに接続できる超高速で超高品質なマルチメディア移動体通信システムによるサービス開始を実現する。オフィスビル内等の屋内では、超高速無線LAN(Local Area Network)を構築し、156Mbps程度の、屋外では、25〜30Mbps程度の伝送速度を実用化する。
 さらに、2010年頃には、自動車などでの高速移動中でも156Mbps程度の伝送速度を実用化する。
 (注)Multimedia Mobile Access Communication System

 ウ 次世代インターネット
 2000年までに、インターネット上でのビジネスアプリケーションなどを普及・発展させるため、安全・信頼性が高く、超高速・大容量化にも対応し得る次世代のインターネットに関する技術を開発する。

(3) 「トータルデジタルネットワーク」構築に向けての推進方策
 ア ネットワークインフラに関する研究開発・実証実験の推進
 ネットワークインフラに関する技術は、開発されることによる経済社会活動への波及性や、公共性の高さ等の理由により、国による開発が必要である。
 そのため、各種ネットワークインフラの実用化のため、高速・大容量対応技術、安全性・信頼性向上技術等の開発を進め、併せてそれらの研究成果を活用して、実用化に向けた各種実証実験を行う。また、ネットワークの実用化を個々に行うだけでなく、それらのシステムが総合的に機能するために、個々がシームレスに接続するための技術開発を行う。

 イ 周波数資源の開発等
 「携帯・自動車電話用周波数の一層の有効利用促進-CDMA方式の技術的条件に関する答申-」(1997年2月 電気通信技術審議会答申)によると、2010年の携帯・自動車電話の加入者予測は5,990〜6,620万となっており、1997年2月末現在の約1,890万加入者に比して急成長の見込みである。このように電波利用分野の拡大とニーズの多様化は目覚ましく、周波数の需要は増加の一途をたどっているが、周波数は有限希少な資源であり、無線系のネットワークインフラを整備する上で、今後も増大すると予想される電波への需要や電波を利用する機会の拡大に対応していく必要がある。このため、(1)ミリ波などの未利用周波数の開発、及びその周波数の特性を生かした成層圏無線中継等新たな通信技術の研究開発、(2)デジタル化・ナロー化などの伝送効率の向上技術の検討、(3)周波数共用技術などの混信妨害の軽減技術の検討等、周波数資源の開発を引き続き行う。

 ウ 諸規制の緩和等
 ネットワークインフラ整備を円滑に進めていく上で、線路設備を収容するのに適した道路・河川空間等の各種の公共空間・設備の活用が不可欠である。そのため、これらのスペースや施設を有効に利用できる環境の整備等を行う。

 エ 財政・金融支援
 ネットワークインフラ整備は原則として民間主導で行われるが、光ファイバ網等の整備は膨大なコストがかかるため、電気通信事業者やCATV事業者等に対して財政・金融支援等を行い、インフラ整備へのインセンティブを与えることが重要である。




4 アプリケーションの開発・普及

(1) アプリケーションの開発・普及に向けた基本的考え方
 情報通信の具体的な利活用形態である各種アプリケーションの開発・普及は、21世紀初頭の高度情報通信社会での国民生活や企業活動の諸分野において、多大な利便をもたらし、また旧来の経済社会活動の諸概念をも大幅に変える可能性を秘めている。そのため、21世紀初頭に向けてアプリケーションを一層開発・推進し、そして実現を図ることは国民生活や産業経済活動の質の向上を図り、豊かな社会を構築する上で極めて重要である。

 ア 官民の役割の明確化
 アプリケーションの開発・普及の主体には、国、地方自治体等の公共機関や民間企業があり、それぞれの果たす役割を明確にすべきである。
 自らの行政活動分野に関しては、プロセス全体を簡素化・効率化し、行政サービスの向上を図るため、行政自らが情報化の先導的役割を果たし、行政の情報化を総合的に推進することが必要である。
 あわせて、国民生活に関する公共アプリケーション等の開発・普及についても、公共機関が主体となって先導的に整備を図るべきである。
 一方、産業経済に関するアプリケーションの開発・普及は、基本的には民間企業が主体であり、民間部門の創意工夫に依るところが大きい。しかし、リスクの高さ、公共性の高さ等のため、民間企業による開発インセンティブのないアプリケーションの実現に資するハード・ソフト両面にわたる技術の研究開発・標準化、あるいはアプリケーション実現・普及のための制度等の環境整備(規制緩和等)、開発・普及のための資金調達に係る金融支援等については、公共機関の主導的な役割が必要である。
 また、各地域における公共アプリケーションの開発・普及は、地域の特性等を反映して、基本的には地方自治体が主導的に行うべきである。一方、情報通信基盤の均衡ある整備、広域化に対応したネットワーク化及びシステム相互間の標準化、全国に波及性のある先進的なアプリケーションの先行整備等の必要性から国による関与も重要である。

 イ 横断的な省庁連携
 アプリケーションは国民生活、産業経済活動分野に広範・多岐にわたるため、各省庁が単独で施策を講じるより、むしろ個々の分野に精通している各関係省庁が相互に連携を図りながら横断的に施策を講ずることが効果的である。このような観点から、アプリケーションの開発・普及に係る施策について、関係省庁間の連携を一層推進し、政府が一体となって情報通信の高度化に向けた取組を行うことが重要である。

(2) 各種アプリケーションの開発・普及
 ア 国民生活分野
  (1) 行政分野(ワンストップサービス)
 諸外国では、複数の行政機関への申請等の手続きを1箇所の身近な端末で行うことで、国民生活の利便性の向上等を図るため、ワンストップサービスへの取組を始めている。例えば米国ではWINGS(Web Interactive Network of Government Services)というネットワークを構築して、1996年から行政手続きなどを1箇所で24時間行えるワンストップ実験を開始し、また東南アジア諸国のシンガポールやマレイシアでは既にサービスを開始している。
 我が国では、2005年までには、複数の行政事務手続き等を1箇所の端末で24時間行える本格的ワンストップサービスの実現を目指す。
   (具体的なサービス例)
   ・申請・届出等の行政処理サービス
   ・公共施設、民間施設予約サービス
   ・自治体・公共機関の発行物送付申込サービス
 このために2000年までには、ワンストップサービスの前提となる申請手続等の電子化を進めるとともに、発信者が本人であるかどうかの本人確認、認証機関の在り方、手数料の支払い等に関する課金処理の方法、複数の機関にまたがる手続き等の標準化等、各種実証実験を進めるとともに、制度的課題の解決を行う。

  (2) 労働分野(テレワーク)
 テレワークは、各個人の職場環境に応じた多様なワークスタイル・ライフスタイルの実現を可能とし、高齢者・障害者の社会参加の機会の創出、あるいは働いている男女双方にとって仕事と家庭とを両立できる環境の創出に寄与するなど広範囲に渡って有効な手段であると認識され、例えば米国におけるテレワーク人口は、1995年時点で既に1,123万人(米国Link Resources社調べ)にも達している。
 そこで、勤労者の自己管理能力や生産性・創造性の向上を実現し、また通勤負担軽減による雇用機会を拡大するため、公務員、民間企業などあらゆる職種でのテレワークの浸透・普及を図る。
 このために2000年までに、公務員への積極的な導入の推進、テレワークモデル施設の整備の支援、テレワークに関する国際的な連携の推進など公的分野・民間分野を問わず広くテレワークを推進する施策を講ずる。

  (3) 医療・福祉分野
 高齢社会の到来を背景に高齢者等への医療サービスの質の向上等が期待されている。そのため、専門医等の人的資源を広範囲かつ効率的に配分し、優れた診断やコンサルテーション(医療相談)を行う等のため、大学病院等国内外の医療機関間、及び国内の医療機関と各家庭間との情報通信ネットワークを構築し、自宅に居ながら高度な医療サービスを実現する。
 また、福祉関連機関相互間で介護者の必要な情報を共有化し、介護者等が要介護者のニーズに応じて迅速に対応できるようなネットワークを構築する。
 このために2000年までには、超高精細な画像処理技術、画像情報等処理技術、電子化された医療情報のやりとりに必要な認証技術等の確立を行う。
 さらに、情報共有化のための医療・福祉機関間の情報ネットワークや介護者宅と医療・福祉機関のネットワーク化による在宅医療・福祉サービスのモデル実験を行い、ネットワーク構築を普及・促進していく。

  (4) 教育分野
 生活環境や時間的制約などから集合型の学習・教育を受けることが難しい環境にいる遠隔地居住者や高齢者・障害者等の生涯学習を推進するため、2005年までには、自宅に居ながら学習機会の提供を受けることができるシステム(ホームエデュケーションシステム)を実現する。
 具体的には、オンデマンドによる質問・回答や教材の配信等を生涯学習に取り入れることや、あたかも教室で学習するように自宅に居ながら同じ学習テーマを学ぶことができるシステムの実現により、資格取得を目的とした学習機会や能力開発を目的とした教育機会等を創出する。
 このため2000年までには、講義・教材の配信のオンデマンド化技術の開発等の在宅による遠隔教育の実現に向けた実証実験を行う。

  (5) 防災・危機管理分野
 阪神・淡路大震災等の大災害時において、広域災害時における緊急通信手段の確保等の不備が指摘され、防災時や危機管理時への通信手段の強化が必要とされている。
 このため、2000年までに、広域かつ多ルートな情報の伝達が可能となるシステムの開発を行い、2005年までには、通信の輻輳がなく、一つのシステムで音声、データ、映像を伝達することができる等非常災害に強い防災通信網を構築する。
 また、災害時の即時対応、早期復旧などのため、全国の自治体と郵便局などの公共機関をネットワークで結び、災害時における諸情報の収集・提供を行える災害時対応情報通信システムを構築する。
 さらに、自然災害・事故・火災・テロ対策等様々な危機管理の局面において、国内及び海外関係機関相互で迅速かつ円滑な情報収集、状況監視、連絡調整を可能とする国際的な災害・危機管理対応情報通信網システムを構築し、地球規模でのセキュリティを確保する。
 このために2000年までには、異なったネットワークを統合して広域な災害ネットワークを構築するため、異種通信共存技術や多層・多元通信制御技術等の開発を行い、また災害・危機管理対応情報通信システムを構築するにため、内外の関係諸機関とのパイロット実験等を行う。

 イ 産業経済分野
  (1) 製造・流通・販売分野
 企業活動でのEDI(電子データ交換)、CALS(生産・調達・運用支援統合情報システム)、電子決済、国民生活上でのホームショッピング等は、企業活動の効率化や国民生活の利便の向上等を可能とすると認識されており、これらの本格的実用化を図る。
 このため2000年までには、電子商取引や電子決済等に不可欠な安全・確実な信頼性向上技術、ネットワーク上での暗号・認証技術等の開発を行い、併せて基盤となる認証制度の確立などの制度的課題を解決する。

  (2) 金融分野
 経済社会活動における支払い手段等の金融活動の多様化・効率化等への一層の取組が期待されており、それに資する国民生活・企業活動等での電子マネーの本格的な実用化を図る。
 このため2000年までには、電子マネー発行主体と現金通貨発行主体との秩序ある関係の構築、電子マネーの国民生活・産業経済活動での普及のため、安全・確実な伝送技術などの技術的課題及び認証制度の確立などの制度的課題を解決する。

  (3) 道路・交通・車両分野(ITS)
 最先端の情報通信技術等を用いて、ナビゲーションの高度化、料金収受のノンストップ化、安全運転の支援、交通管理の最適化、道路管理の効率化などに資するITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)は交通事故や渋滞等の交通諸問題への解決策として認識されており、無線ネットワークをはじめとする通信インフラの開発及び整備とともにアプリケーションの実用化を、官民の連携の下、積極的に推進する必要がある。
 このため2000年には、交通関連情報を提供するVICS等を利用して、渋滞情報や最適経路等を示すナビゲーションシステムを実用化し、さらにその全国的な展開を図る。また料金所での渋滞解消に貢献するノンストップ自動料金収受システムを実用化するとともに普及の促進を図る。
 2005年には、利用者サービスが高度化され、ITSにより利用者に提供される情報内容の充実が図られる。例えば、旅行を計画する際に、利用者のリクエストに応じた魅力的な目的地を検索し、所要時間等を勘案した到着までの最適な経路、交通機関等が容易に選択可能となる。
 2010年には、自動運転サービスが本格化する。
 これらのサービスの実用化・普及のため、2000年までに、ナビゲーションの高度化、安全運転の支援、自動運転システム等を実現するための路車間通信技術、車車間通信技術、車載レーダー技術等の技術試験や必要な事前調査(フィージビリティスタディ)を実施する。また、システムの実用化に際しては、ITSの実現に伴う様々な制度的課題を解決する必要がある。

  (4) 建設分野
 雲仙普賢岳の火砕流現場、北海道・豊浜トンネルの崩落現場等の災害現場においては、二次災害等の危険性が改めて認識された。
 このため、二次災害のおそれがある地域や建設上極めて危険な場所等で作業する際に、遠隔地から有人作業と同等の作業を行えるような無人化施工システムを構築する。また大規模な建設プロジェクト等において、複数箇所の現場の情報を把握しリアルタイムで効率的に作業できるよう、集中施工管理システムを構築する。これにより復旧工事・都市再開発プロジェクトの迅速化や作業員の安全確保を図ることができる。
 このため2000年までには、画像伝送等のマルチメディアに対応できる移動通信システムの研究開発や低速度で動く建設重機を遠隔で操作するシステムの開発を行う。

(3) アプリケーションの開発・普及に向けての関連施策
 ア アプリケーションの広域化
 現在、各自治体において順次先進的なアプリケーションが導入され、情報通信基盤が整備されつつある。一方、これらのアプリケーションの利便を国民生活等に波及させるためには、市町村の枠を超えたネットワーク化を推進することが併せて重要である。このため、県域でのネットワーク化の支援、さらには全国的なネットワーク化を推進する。

 イ 地理情報システム(GIS)、高精度測位システム(RTK−GPS)の実用化
 電子的地図データをベースとし、その上で統計、台帳、画像等を組み合わせた地理情報システム(GIS:Geographical Information Systems)は、福祉、教育、防災、救急医療、環境保全、各種行政計画の策定等、社会経済の広範な分野において大きな役割を果たす。
 このため、2000年までにデータ検索システムの構築、各種データ標準の策定、モデル実験の推進、国や地方公共団体の公共機関と民間企業の役割分担の明確化を図る。
 また、2000年までに衛星を用いた高精度測位システム(RTK-GPS:Real Time Kinematics-Global Positioning Systems)を測量・建築分野やレジャーサービス等へ応用するための「デジタルMCA(Multi Channel Access)」無線等を用いた位置情報提供システムの開発等を行う。

 ウ コンテントの振興
 アプリケーションを国民生活にとって魅力あるものにするために、放送ソフトを含むコンテントの高度化を併せて推進することが重要である。現在アニメーション、ゲームソフト等の分野においては、我が国のコンテントは国際的にも評価が高いが、その他の分野においても国際的に通用する魅力あるコンテントが豊富に制作されかつ円滑に流通するため、必要な環境整備等を行う。

  (1) コンテント制作環境の整備
 多様で魅力あるコンテントの制作を推進するための環境整備を図る。また、コンテント制作自体の基盤となる技術の開発や、コンテントを制作する豊富な人材の育成を支援する。
 さらに、映像資産の有効かつ高度な利用を可能とするため、放送ライブラリー事業について、全国ネットワーク化も含め事業内容の更なる充実を図るとともに、各種映像素材を収集・制作・保管して、ソフト制作者の用に供する映像アーカイブ事業の一層の充実を図る。

  (2) コンテントビジネス環境の整備
 資金調達の困難な中小零細企業の多いコンテント産業の支援のため、コンテントに係る無体財産権を担保とする融資制度の確立に向けた検討の支援、コンテント制作事業者に対する金融支援等、多様な資金調達手段の実用化に向けた環境整備を行う。

  (3) コンテント流通環境の整備
 コンテントに係る著作権者等の権利の適切な保護を図りつつ、マルチユースを前提とした権利処理ルールの確立、権利の集中管理体制の整備、コンテント管理情報(権利者名・利用条件等)を一元的に蓄積・管理する情報データベースの構築等を推進することにより、コンテントの円滑な利用・流通を可能にするための環境を整備する必要がある。
 これらの取組により、良質なコンテントの大量な供給が確保されるほか、マルチユース市場の創設を通じ、コンテント制作者が制作資金を多角的に回収しうるシステムの実現が図られる。

  (4) 公的コンテントの整備
 研究、教育活動などに資する電子美術館、電子図書館、電子博物館などの公的なコンテントの制作を推進する。




5 創造的研究開発の推進

 今日、情報通信分野においては技術革新が急激であり、かつ、特に標準化については、従来のような公的標準に加えデファクト標準が台頭し、標準化の行方が国の国際競争力とも大きく関わってくるという現実が生じている。
 このような中、情報通信分野を今後のリーディング産業として育成し、また世界の情報通信技術開発に積極的に貢献していくためにも、諸外国の動向を視野に入れた創造的研究開発の推進は重要な政策課題となっている。
 また、今後、現在予想されていない新たなネットワーク技術が用いられるようになる可能性も考えられ、そのような多様な可能性を排除しない開放的な研究開発・標準化推進体制を確保することも重要となっている。
 このような認識に基づき、今後の創造的研究開発の推進のため、以下の施策を推進する必要がある。

(1) 研究内容の充実
 ア 情報通信分野において特に重点的・計画的に取り組むべきプロジェクト
 情報通信分野において効率的に研究開発を行うためには、単に事業者や試験研究機関等が単独で研究開発を行うだけではなく、多様な知見を集め重要研究テーマに集中的に取り組むため、産学官協力の下で重点的かつ計画的な研究開発を行うことが重要となっている。
 また、限られた予算を最大限有効に使用する観点から、国の行う研究開発テーマについては重点化を図る必要がある。情報通信に関する今後の研究のうち特に重点的・計画的に取り組むべきプロジェクトは以下のとおりであり、今後これらのプロジェクトを積極的に推進していくべきである。

重点的・計画的に取り組むべきプロジェクト意 義 目 標
全光通信技術プロジェクト光信号を電気信号に変換することなく中継する全光処理により、光の広帯域特性を活かした超大容量で柔軟な通信の実現
  •  2000年頃を目途に100Gbps1万Km無中継伝送を達成
  •  2010年までに1Tbps1万Km無中継伝送を達成
     (各家庭でも数十Mbpsの通信容量(現在の1000倍程度)の通信需要にも対応可能)
広帯域マルチメディア移動通信技術プロジェクト いつでもどこでも誰とでもマルチメディア通信が可能となるよう、光ファイバ網とシームレスな接続が可能な超高速・高品質な移動体通信システムの実現
  •  2000年頃までにワイヤレスATM(非同期転送モード)技術や伝送方式等の基盤技術を確立
  •  2002年頃には携帯テレビ電話等のサービス開始(屋内においては156Mbpsの大容量無線LANを構築し、HDTV(高精細画像テレビ)でのテレビ会議を実現可能とする。屋外においては25-30Mbpsの伝送が可能な移動体通信システムを構築。)
  •  2010年頃には高モビリティ性を有し光ファイバ網とシームレスに接続できる広帯域マルチメディア移動通信技術(156Mbps)を実用化
次世代LEO技術プロジェクト マルチメディア通信サービスも可能な低軌道周回衛星による移動体通信システムの実現
  •  2002年頃までに要素技術を確立
  •  2005年頃には宇宙における実証実験
  •  2010年までに実用化
高効率通信ソフトウェア技術プロジェクト
(次世代インターネット技術の開発)
高機能で信頼性の高い、かつ、セキュリティ技術にも優れたネットワーク技術の確立と高度利用を実現するため、高効率通信ソフトウェア技術を確立、現在のインターネット技術を代替
  •  2010年頃までにはギガビット級のインターネット・バックボーンを構築、数百メガビット級のアクセスを普及
次世代高機能映像技術プロジェクト ネットワークを問わず立体・超高精細映像等の多彩な映像の処理・情報検索・加工・流通等が容易に行える技術の実現
  •  2005年までに高機能映像の符号化・処理・変換・伝送及び端末に係る技術を確立
  •  2010年までに実用化
ヒューマン・コミュニケーション技術プロジェクト 人に優しく使いやすい、かつ、自然なコミュニケーションを可能とする情報通信システムを実現するため、人間の進化・学習機能を応用したコミュニケーション技術を確立
  •  2005年頃までに進化型情報処理技術等の要素技術を確立
  •  2005年〜2010年頃までの間にヒューマン・インターフェイス技術等と組み合わせたシステム技術を確立
  •  2010年頃実用化

 イ 基礎・学際領域の研究開発
 基礎研究分野に関しては従来から研究活動を行っているところであるが、さらに、世界をリードする情報通信技術シーズの探索・発掘や革新的デバイス(素子)の実現、自己修復を可能とするような生命型の情報通信技術の実現、情報弱者も容易に利用可能なバリアフリー通信技術の実現により、情報通信の新たなブレークスルーを追求すべきである。
 このため、従来の基礎的な情報通信技術研究に加え、さらに新たな視点から研究開発のフロンティアを開拓するため、例えば医学・生物学的側面や人文社会的側面等を含む学際的アプローチに基づく研究開発を行い、我が国の知的資産の蓄積に努めることが必要である。

(2) 研究体制の整備
 ア 国際共同プロジェクトの推進
 世界規模で急激な技術革新が進んでいる情報通信の分野においては、世界的な技術動向の行方が持つ意味が大きく、欧米をはじめとする海外の先進技術開発との融合・交流を促進することが重要となっている。
 また、世界規模での情報通信基盤整備を促進するためには、先進国のみならず発展途上国との交流を一層緊密にする必要が高まっている。
 このため、国際共同プロジェクト推進の重要性が大きくなっており、さらに、国際共同プロジェクトは、標準化の観点からも重要であり、我が国の積極的な参加・貢献が必要となっている。
 現在、G7パイロット・プロジェクトなどの国際共同プロジェクトが推進されているが、上記の観点から積極的に推進すべきである。

 イ 柔軟な研究体制の整備
 国が研究開発を推進するに当たっては、研究者の独創性が十分に発揮されるような、柔軟かつ競争的で、開かれた研究開発環境を実現する必要がある。そのため、世界的なトップレベルの研究者の活用や、産学官・異分野の研究者が連携可能な柔軟な研究体制を実現するため、研究者の人的交流を容易にする研究員制度の導入を図る必要がある。

 ウ 高度な研究開発環境の開発整備
 特定の研究テーマに関し問題意識を共有する研究者が、マルチメディア・ネットワークを介して、場所に依存せずに共同研究や研究交流を行い、あたかも一つの研究所において研究を実施するものと同様の効果を生み出す分散型の仮想的研究センター(マルチメディア・バーチャル・ラボ)の早期実現が必要である。
 マルチメディア・バーチャル・ラボは、研究人材・施設の有効活用、国内外の研究交流の促進、異分野の研究能力の活用(学際的研究の促進)、地域における研究活動の活性化などのメリットを生み出し、研究効率向上の実現を可能とする新たな研究推進手段として期待される。

 エ 外部評価の実施
 国の限られた予算を重点的かつ効率的に配分するため、研究開発の内容を厳正かつ客観的に評価し、その透明性を高める必要性が高まっている。そのため、国の試験研究に対し外部の専門家や有識者による外部評価制度を確立し、研究実績や研究環境に対する適正な評価を図るとともに、国の研究開発投資に対し広く国民の理解を得るため、評価結果についてはこれを積極的に公表していくべきである。

 オ 国際グラントの拡充
 国家プロジェクト以外のレベルにおいても、国際的な共同研究を促進するため、国際グラントが導入されたところであるが、これを今後本格的に推進し、国際共同研究の推進策を積極的に拡充すべきである。

 カ 地域提案型研究開発
 情報通信の新技術については、国や大企業のみならず、ユニークな技術を有する地域企業による研究開発も重要である。しかし、資金面の制約等から、収益に直結しない研究開発への投資は十分に行われないおそれも強い。
 そこで、このような地域における研究開発を促進することにより、地域の技術的ポテンシャルを顕在化させるため、地域提案型研究開発制度を導入し、地域の大学、民間企業、公設試験研究所等からなる研究共同体に研究委託を行ったり、また、研究開発助成として、先進的・独創的な技術の研究開発に対する助成等を行うべきである。

 キ 研究開発型ベンチャー企業支援
 アプリケーションやコンテント分野については、大企業のみならず、柔軟な発想や迅速な機動性に富むベンチャー企業の一層の活躍が期待される。
 しかし、これらベンチャー企業が、斬新なアイデア等の潜在能力を有しながら、担保力の不足等の資金面等での制約により研究開発が行えないという事態が生じている。
 そこで、研究開発型ベンチャー企業を積極的に支援していくため、資金面・人材面等を含む多角的な支援策とフォローアップを今後一層充実させていくべきである。

(3) 標準化の推進
 ア 国内標準化体制の強化
 マルチメディア化の進展により、端末機器上で提供されるサービス・機能が多様化したのに伴い、相互運用性あるいは機器の互換性等ユーザの利便性を確保するために必要な標準化項目が大幅に増加している。また、各事業者のネットワークを相互接続し、シームレスな通信環境を実現するためには、異なる事業者間でも相互接続が円滑に行えるよう、詳細な技術仕様をオープンな環境下で作成する体制の整備が必要となっている。このため、国内における民間標準化団体の機能を強化する必要がある。

 イ 国際標準化体制の整備
 情報通信のグローバル化に伴い、国際的な相互接続性・相互運用性の確保のための標準化が一層重要になっている一方、国際標準化をいかにリードするかが、その国の国際競争力を左右するようになっている。
 例えば、米国では、その技術力を背景として、市場主導により事実上の標準化を進める、いわゆる「デファクト標準」を主体とした活動を推進しており、インターネット関連技術等、世界市場を席捲している事例も多い。
 一方、欧州では、欧州電気通信標準化機構(ETSI: European Telecommunications Standards Institute)の設立、欧州委員会による支援を背景に、官民一体となって、研究開発から標準化までを一体的かつ強力に推進しており、その結果作成された欧州標準をもって、世界各国へ技術の普及を図っている。
 我が国としても、国際競争力や新産業創出の観点から標準化を捉え、これに積極的に取り組んでいくことが必要である。なお、その際、国内市場のみを対象とした標準化を目指すのではなく、国際市場を念頭に置いた標準化を基本とし、早い段階から国際的な相互協力を進めるべきである。さらに、国際共同研究においても標準化の観点を重視すべきである。
 また、アジア・太平洋地域における標準化推進のため、アジア・太平洋電気通信標準化機構(ATSI: Asia-Pacific Telecommunications Standards Institute)の早期設立を目指し、これを域内における標準化活動強化の拠点とすべきである。そのため、我が国が積極的にリーダーシップを発揮すべきである。

 ウ 標準創造型研究開発制度の創設
 今後の国際標準化活動をリードしていくためには、民間企業の能力を最大限に活用しつつ、研究開発から標準化まで、より一体的に取り組んでいく必要がある。このため、国際標準化への貢献を条件として研究開発プロジェクトを民間から公募する標準創造型研究開発制度を創設すべきである。

 エ 技術開発・標準化オープン・テストベッドの整備
 シームレスな通信環境を実現し、相互接続に必要な技術仕様をオープンな環境下で提供し公正競争を促進することが大きな課題となっている。そこで、オープンな環境下での共同実験を通じた標準化の推進や、超高速ネットワーク利用技術をはじめとした高度なネットワーク利用技術の開発を図るため、技術開発・標準化オープン・テストベッドの整備を行うことが必要である。




6 グローバル化の推進

 急激な情報通信高度化が世界規模で同時進行し、情報通信事業者間の国境を越えた連携・競争が活発化している中で、政策レベルにおいても、より一層のグローバル化の推進や制度の調和、国際協調の必要性が高まっている。
 また、情報通信基盤の整備については、先進国のみならず開発途上国を含めた全地球規模での整備の必要性が高まっており、この分野における我が国の積極的な貢献が求められている。

(1) 自由化の推進
 ア WTO・OECDでの自由化交渉
 1997年2月にWTO基本電気通信交渉が成功裡に終結した。本交渉は電話サービス等の基本電気通信サービスの世界的な自由化と競争の導入を進め、料金の低廉化、サービスの多様化等を図ることを目的とするものである。本交渉において、我が国は第一種電気通信事業者(NTT及びKDDを除く)に係る外資規制について、無線局免許を含め、これを撤廃するという大幅な自由化方針を表明し、最終的には、開発途上国多数を含む69か国の参加を得て合意妥結に至った。今後、各国においては本合意に基き自由化を進め、競争の一層の促進が図られることとなっている。
 今後とも、世界の情報通信市場の活性化のため、より一層の自由化が必要とされる。OECDにおいて行われている多数国間投資協定(MAI: Multilateral Agreement on Investment)交渉や、今後2000年までに開始されることとなっているWTOの次期ラウンド交渉においては、我が国はリーダーシップを発揮し、世界規模での市場の自由化を促進すべきである。

 イ アジア・太平洋地域の取組
 APEC(アジア・太平洋経済協力)においては、1996年より電気通信ワーキンググループにおいて域内の自由化に向けた検討を行っており、毎年、電気通信分野の共同行動計画を改訂することとしている。
 さらに、先進国は2010年、発展途上国は2020年までにAPECメンバーは貿易と投資の完全自由化を行うとしたボゴール宣言を、電気通信分野についてはこれを前倒しし早期に実現するよう、APECにおける自由化の活動に積極的に貢献すべきである。

(2) 国際的政策調整・協調
 ア 端末流通の自由化
 情報通信のグローバル化、特に世界規模のサービスであるLEOシステムの数年内の開始を控え、通信端末が世界中どこででも使用できるよう、世界規模での政策調整・協調の必要性が高まっている。
 ITU(国際電気通信連合)ではLEO等の通信サービスにおいて、使用端末の国境を越えた自由な利用に関する覚書(MoU: Memorandum of Understanding)の作成作業を行っているが、今後、参加国を増やしてゆくべく我が国としてもITUの取組に積極的に貢献していくべきである。
 また、APECおいては、端末機器の認証問題について、複数国から個別に認証を得る煩を避けるため、モデル相互承認取決め(MRA: Mutual Recognition Arrangement)作成に取り組んでおり、これを本年中に完成させることとなっているが、これに積極的に貢献し、国境を越える通信機器の流通の活性化を図る必要がある。

 イ 情報コンテントに関する規律の国際的調和
 インターネットや映像国際放送等、国境を越える情報通信利用が急拡大しているが、これに伴い、わいせつ・暴力情報等反社会的情報の流通等が問題となっている。このような情報の国境を越える流通については、各国の文化的・宗教的事情の違いにも配慮しつつ、国際的に調和のとれた国際ルールの導入が必要となっている。
 既にOECDではインターネット上の違法・有害な情報流通等に関する検討を開始しており、我が国としてもOECDをはじめとした国際的な作業に積極的に貢献していくべきである。

 ウ 放送のグローバル化
 グローバル化の急進展する時代において、放送メディアを活用した国際相互理解は効果的かつ重要である。今後とも、国際相互理解を促進するため、映像国際放送の一層の促進・普及に努めるとともに、放送番組の国際共同制作の拡充にも努めるべきである。

 エ 衛星の軌道位置及び割当て周波数の逼迫
 衛星通信・衛星放送の普及に伴い、衛星の軌道位置や割当て周波数の逼迫が顕在化してくるものと思われる。この逼迫は国家間の利害を反映し今後激化するものと思われ、これらの問題について迅速な対応が必要である。

(3) 国際的な情報通信基盤の整備
 ア 開発途上国における情報通信基盤整備の必要性
 今日、情報通信基盤の整備は今後の経済成長のための必須の条件との認識が広まっているが、これは、先進国のみならず開発途上国においても同様である。空間・時間の壁を越える情報通信の発達は、従来考えられていた産業立地の条件を根底から覆す可能性を秘めているため、特に人件費率の高いソフトウェア・コンテント産業を中心に、一部途上国では経済発展の起爆剤として注目されている。
 これらの国の経済的自立に向けた自助努力を積極的に支援するとともに、先進国・途上国一体の世界規模での情報通信基盤の整備を進めるため、我が国としては、資金面・技術面・人材面で我が国にふさわしい貢献を推進すべきである。
 また特に、アジア・太平洋諸国の一員として、我が国はアジア・太平洋情報通信基盤(APII: Asia-Pacific Information Infrastructure)の早期構築とその利用の推進に向け、先導的な役割を果たしていくべきである。

 イ 開発途上国の情報通信基盤整備への支援
 従来、情報通信に限らず、社会・経済インフラの整備は、国の主導の下、公的主体が中心となって整備するのが当然の前提と考えられてきた。
 しかし、近年、民間主導によるインフラ整備が活発となっていることから、我が国としても、日本輸出入銀行の融資制度の活用等を通じて、民間資金による情報通信基盤整備への支援を推進すべきである。
 また、その一方で、民間による投資だけでは情報通信基盤整備が期待できない国や地域も多い。このような国・地域に対しては、政府開発援助(ODA)の有償または無償の資金協力により、ネットワークの整備を支援することが必要である。
 この際、途上国の情報通信基盤の整備には、PHSの技術を利用して比較的安価に加入者回線を敷設することを可能とするPHS−WLL(Wireless Local Loop)が有効であることから、我が国としても、このような技術を活用した情報通信基盤の整備を積極的に支援すべきである。また、一部の途上国においては、電話網にとどまらず、ATM等のより高度な技術の導入を図ろうとしていることから、これに対する支援も推進していくべきである。
 以上により、無電話地帯の解消に貢献するとともに、全世界の途上国における電話普及率を2010年時点において現在の4倍にまで高めることを目安として、開発途上国の情報通信基盤整備を支援すべきである。

 ウ 情報通信技術者の育成 
 開発途上国においては、情報通信基盤整備のため、技術者の育成が一層重要な課題となっている。
 我が国は、昨年の第2回APEC電気通信・情報産業大臣会合において、5年間にAPECメンバーからの情報通信技術者を1万人育成することを目標として掲げ、この実現に努めているところである。
 今後は、研修員受入、専門家派遣、プロジェクト方式技術協力等のODA技術協力の一層の拡充に努めるとともに、インターネットや衛星通信等の情報通信技術を活用した遠隔研修システムのアジア地域への導入・普及、さらには地球規模への拡大を行うべきである。さらに、将来的には、国際放送大学(仮称)設立を通じて、アジア諸国に対し、英語及びアジア各国言語により、放送メディアを利用した教育・研修機会の提供を行い、これら諸国における人材育成に貢献すべきである。

(4) 情報通信ハブの構築
 シンガポールやマレイシアなどアジアの一部の国々においては、情報通信産業育成の一環として、情報通信ハブ化構想等の先進的事例が進められている。
 我が国においても、情報通信の受発信機能を高めることにより、アジア地域における情報受発信の一翼を担うべきである。このため、全国的な情報通信基盤の整備を進めるとともに、アジアとのつながりが深い沖縄県において、財政・金融上の支援措置を講ずることにより、世界からのニーズの高いコンテントの振興・集中、先進的アプリケーション・モデルの集中整備、通信料金の低廉化等を行うマルチメディア特区構想を推進すべきである。


7 情報通信高度化への環境整備

 情報通信の高度化は、我が国が直面する諸課題解決に大きく貢献するものである反面、反社会的な情報流通やネットワーク犯罪など新たな社会問題を発生させている。
 このため、情報通信高度化の進展に応じ、逐次こうした課題解決に取り組んでいく必要がある。

(1) 新たな社会問題の出現
 ア 新たな情報流通形態の出現に伴う社会問題の発生
  (1) 反社会的な情報流通
 インターネットのホームページ等「公然性を有する通信」等において、わいせつ情報や、他人の誹謗中傷等反社会的な情報が流通するといった問題が発生している。

  (2) 消費者問題
 情報サービスが多様化する一方、消費者がサービス内容や条件をよく理解せずに錯誤・誤認するなどの問題が発生している。
 また、ネットワークを利用した電子商取引が始まりつつあるが、不適切な表示、虚偽の広告などによる詐欺的商法、商品の瑕疵や決済・返品に関するトラブル、さらには、パスワードやID番号を盗み出し本人になりすまし、他人が商品などの売買契約をする「なりすまし契約」などの被害も今後増加するおそれがある。

  (3) プライバシーの侵害
 ネットワークを通じて個人情報が流通することにより、本人の同意を得ることなくその蓄積及び利用がなされ、またそれが悪用されるおそれがある。
 また、従来のいたずら電話等の「迷惑通信」に加え、ファクシミリや電子メールの普及・発達により、いわゆる「ジャンクファックス」や「ジャンクメール」等が出現しており、情報通信の円滑な利用を害し、利用者のプライバシーの侵害につながるなどの問題が深刻化しつつある。

  (4) 放送の多チャンネル化に伴う問題
 多チャンネル化の進展により、放送する機会が拡大し、様々な者が放送の送り手になること等から、番組の編集責任に対する認識が希薄化し、質の低い番組が増加する等のおそれがある。

  (5) コンテント、ソフトウェアの流通に係る著作権問題
 マルチメディア時代においては、良質かつ魅力あるコンテント、ソフトウェアに対するニーズが高まり、これらの円滑な流通を図ることが一層重要な課題となる。また、デジタル化、ネットワーク化により、コンテント等の複製が容易になるため著作権者等の権利が侵害される可能性が高まるおそれがある。

 以上のような社会問題への基本的な姿勢として、まず第一に事業者の自主自律による行動が重要であるが、ユーザの視点に基づき諸問題の解決に取り組む必要があり、以下のような対策を講じて行くべきである。

  (ア) 苦情処理・相談体制等の充実
 消費者の意向を踏まえ、消費者の意見・要望などを政策に反映できる体制を充実する必要がある。
 また、情報通信サービスに関する苦情処理・相談体制を充実するとともに、消費者が自己判断できる情報提供の充実を行うべきである。

  (イ) 事業者以外の者による評価制度の充実
 放送番組における番組審議機関などのように事業者以外の者の意見を参考として事業者がそのサービス内容の適正化を図るための制度の充実も有効である。

  (ウ) 利用者保護のための制度の整備
 反社会的情報流通、消費者問題、プライバシーの侵害などの対応策としては、ガイドラインの策定や必要な法制度の検討など利用者の保護のための制度整備を引き続き推進する必要がある。また情報通信サービスのグローバル化に対応し、国際的統一ルールの検討なども必要であり、国際連携の強化が不可欠である。

  (エ) 青少年に不適当な情報の遮絶
 わいせつ情報等青少年に不適当と思われる情報へのアクセスを制御するため、フィルタリングソフト(特定の内容の情報へのアクセスを選択的にブロックできるソフト)の開発やペアレンタルロック機能(特定の番組の視聴を暗証番号によって管理し、両親が子供に見せたくない番組の視聴管理ができる機能)の普及を図るべきである。

  (オ) 電子商取引のための環境整備
 電子商取引の円滑な導入を図るためには、関係省庁が連携して、暗号等のセキュリティ対策、認証制度の確立、消費者保護等の制度整備を図る必要がある。

  (カ) コンテント、ソフトウェアの円滑な流通環境の整備
 現行制度は、基本的に従来の印刷・出版、アナログ技術を前提としているため、デジタル化、ネットワーク化が進展したマルチメディア時代においてけるコンテント、ソフトウェアの円滑な流通を促進する観点から著作権者等の保護にも配意しつつ新たなルールについて検討する必要がある。

 イ セキュリティ問題
  (1) 災害等によるネットワーク寸断
 社会経済活動がネットワークに依存する割合を高めていることから、一旦災害等により、ネットワークが寸断すると多方面に大きな損害が発生する。
 このため、通信ケーブルの地中化、信頼性向上施設整備の促進やネットワークの多重化により、ネットワーク自体の安全性・信頼性を高めていく必要がある。

  (2) ネットワーク犯罪の発生
 ネットワークが社会に浸透していく一方で、ハッカーの出現やコンピュータウィルスの流布、ネットワークを利用した組織的な犯罪・テロ、マネーロンダリング、電子申請時のなりすましや情報改ざんといったネットワークを利用した犯罪等が増加するおそれがある。
 ネットワーク犯罪への対応として、不正アクセス防止技術や暗号技術などの技術開発や標準化、公的認証制度や暗号政策の確立を進めていく必要がある。

 ウ 不要な衛星等の宇宙デブリ(屑)の増加
 2000年頃にはLEOシステムが実用化されるなど衛星を利用した通信システムの発達は著しい。一方、衛星の増加に伴い、寿命後の衛星、制御不能となった衛星、打上げロケットの最終段や破片及び放出された部品等が宇宙空間の屑となり、いわゆる宇宙デブリが増加している。
 宇宙デブリは、現在有効に機能している衛星と衝突するなど、宇宙通信における安全性・信頼性を低下させるおそれがある。
 このため、不具合の発生した衛星の検査・修理を可能とし宇宙デブリの発生を抑制するとともに、不要な衛星を除去することが可能な通信衛星システム等を開発するべきである。

 エ 電磁環境問題
 無線局などから出る電磁波が人体や各種機器の動作に影響を及ぼすことが懸念されている。このため、電波利用設備からの電磁波が人体に及ぼす影響については「電波利用における人体の防護指針」(1990年6月 電気通信技術審議会答申)が策定されている。
 今後は、電磁波の及ぼす影響に関してより詳細な調査・解析を行うとともに、防護指針の周知、人体への影響の少ない無線機器の設計・素材等に関する技術の確立や、電子機器からの妨害波の強さや電磁波に対する各種機器の耐性測定法の確立などにより、国民が電波を安心して利用できる環境を整備すべきである。

 オ 雇用問題
 産業構造の変化による労働力需給のミスマッチの発生や情報化による業務効率化に伴うリストラクチャリングの増加など情報通信の高度化に伴い雇用問題が懸念される。
 こうした雇用問題に対しては、情報通信に関する能力開発及び自己啓発に対する支援や、年金のポータビリティなど参入しやすく転出しやすい労働市場を整備することにより、円滑な労働力移動を可能とするとともに、新規産業の創出などにより、新たな雇用を創出していくことで対応していくべきである。

 カ 情報格差の発生
 (1) 地域間格差
 本来的には、情報通信は地方の人々に対しても、都市と同様の情報アクセス環境を提供し得る可能性を有している。
 しかし、市場原理に基づく情報通信基盤整備は都市部を優先することから、地域間における情報格差が発生するおそれもある。
 我が国全体の均衡ある発展のためにも、電気通信格差是正事業の促進や光ファイバの全国整備等、全国的に均衡のとれた情報通信基盤の整備を進めていく必要がある。このため、国としてもこの分野に対し重点的な予算措置を講ずるべきである。
 また、現在、電話に限定されているユニバーサルサービス(国民生活に不可欠であり、誰もが利用可能な料金で、日本全国における安定的な供給が確保されたサービス)については、マルチメディア時代を迎えるにあたり、その範囲を見直し、新たなサービスについてもユニバーサルサービスを実現するため、新たな枠組みの整備などを検討していく必要がある。

 (2) 個人間の情報格差
 情報通信の高度化に対応できない人や高齢者・障害者などの「情報弱者」が情報通信の利便を享受できなかったり、大量の情報流通の中で必要な情報を選択、判断できないといった個人間の情報格差が発生している。
 情報化社会においては、こうした情報格差が社会的・経済的な格差につながるおそれもあり、すべての人々が情報を発信し、また、情報にアクセスすることが保障され情報通信の利便を享受できる「情報バリアフリー」な環境整備が必要である。
 具体的には、誰でも簡単に利用できるユニバーサル端末等の実現、視聴覚障害者向けサービス(字幕・解説放送等)の普及・充実、高齢者・障害者専門放送チャンネルの実現等がある。さらに、高齢者・障害者から見た情報通信を利用する際の問題点を抽出し、高齢者・障害者が情報通信を簡単に利用できる環境整備のためのガイドラインを策定したり、ボランティア等の協力を得て高齢者・障害者の社会参加を促すネットワークを構築するといったことも必要である。
 また、郵便局等の身近な公共機関を利用し、マルチメディア教室の開設や操作の簡単な情報端末の設置を行い、高齢者など誰でも日常的にマルチメディアに触れられる環境を整備していく必要がある。
 さらに、大量に情報が流通する中で、誰でも簡単に必要な情報を検索できるツールの開発なども必要である。

 キ 情報リテラシー
 急激な情報通信の高度化は、情報通信の高度化に対応できない人を増加させるおそれもある。このため、誰でも情報通信の高度化に対応し、氾濫する情報の中から必要な情報を理解し、選択し、整理し、創造し、発信できる能力(情報リテラシー)を個々人が身につけることが重要となる。
 特に、学校における情報教育の充実は情報リテラシーの涵養を図る上で有効である。このため、情報教育について十分な指導ができる資質・能力を備えた教員の確保及び民間の情報通信技術者の活用、教育機関のネットワーク化等の推進を通して、自分に必要な情報リテラシーを備えた自立した個人を育成していくべきである。
 なお、インターネット等のグローバルなネットワーク上においては英語が共通語であることにかんがみ、英語教育の充実なども必要である。

(2) 関連諸制度の見直し
 情報通信分野における技術革新が進展する一方、高度な情報通信の利活用を想定していない法制度や社会慣習が数多くある。
 「情報通信基盤整備プログラム」(1994年5月 電気通信審議会答申)においては、そうしたアプリケーション普及のために改善が期待される制度・慣習等について今後の期待を提言した。その後、高度情報通信社会推進本部制度見直し作業部会報告や規制緩和推進計画等に基づいた各省庁の取組により、個別分野における課題の解決が図られつつある(資料18)。こうした諸制度の見直しは、情報通信高度化を図る上で喫緊の課題であり、今後もさらに一層の取組強化を図る必要がある。

(3) サイバー法の検討
 最近、情報通信の高度化に伴い新たな社会問題が出現していること等にかんがみれば、すべての国民が等しく高度情報通信社会の恩恵を享受できる環境を早急に整備する観点から、工業社会を前提として構築されている現行法制度全般を見直すことが不可欠である。
 このため、前述した電子商取引の普及、認証制度の確立、セキュリティ対策、暗号政策の確立、プライバシー保護等を図るため、関係省庁が連携して「サイバー法」(高度情報通信社会を実現するための環境整備に関する法律)の可能性について検討する必要がある。
 なお、法制度の検討を行う場合には、規制緩和の観点を踏まえつつ、急激な変化に十分対応していける柔軟な制度とすることが求められる。