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情報通信21世紀ビジョン 中間報告
第3章 21世紀初頭の未来像
第3章 21世紀初頭の未来像
21世紀に向けて、前章までに述べてきた総合的な政策を政府が実施するとともに、政府以外の経済社会主体が情報通信高度化への主体的な取組をすることにより、我が国の経済社会は、第1章で指摘した問題の解決に向かって以下のような前進を遂げていくものと期待できる。
1 産業経済
現在の我が国の産業経済は、従来型の基幹産業が成熟化し、事業環境として魅力に乏しいという二つの問題に直面している。
情報通信の高度化が進展すると、成熟化した従来型基幹産業に代わり、情報通信分野が新たなリーディング産業として成長を遂げていくとともに、他産業におけるニュービジネスのシーズをも創出し、我が国の経済フロンティアは拡大するものと考えられる。
また、ネットワークインフラの高度化と各種アプリケーションの普及により、労働生産性の向上、事業所立地上の制約条件の減少、輸送サービスの効率化が進み、企業の基礎的投入要素である労働力、不動産、輸送サービス等に要するコストの実質的削減を図ることができる。通信サービスについても、公正有効競争の促進によって料金の低廉化が進展する。これらは、我が国における事業環境のネックとなっている高コスト構造を是正するとともに、効率的な企業活動の実現に寄与するものである。
このように、21世紀初頭の我が国においては、情報通信の高度化によって、ダイナミズムに満ちた産業経済が実現する。
- (1) 経済フロンティアの拡大
- 情報通信分野は、21世紀の初頭に向けて、加入者系光ファイバ網整備の進展や新たな無線系ネットワークの開発・普及等による通信サービス市場の質的変化(電話サービス中心からマルチメディア通信サービス中心へとシフト)を契機として多様なサービスを創出し、我が国経済フロンティアの拡大に寄与するものと期待できる。
ここでは、21世紀初頭における情報通信分野の経済規模について定量的な把握を行うため、通信・放送産業の設備投資額、情報通信分野の市場規模及び情報通信分野による雇用効果について試算を行った(資料19)。
- ア 通信・放送産業の設備投資額
- 通信・放送産業の設備投資額は、近年、とりわけ顕著な伸びを示してきた移動通信事業を中心に拡大基調を続け、バブル崩壊以降の日本経済を支えてきた。1996年度の通信・放送産業の設備投資計画額は約4.5兆円であるが、これは自動車業の約3倍に相当し、全産業中、電力業に次ぎ実質第2位の規模である。
このように著しい拡大基調を示してきた情報通信分野の設備投資額も、1997年頃に従来型の携帯電話・PHS等の設備投資が一巡すると考えられることから、今後はほぼ横這いで推移するものと見込まれる。
しかしながら、新たな無線系サービスの実用化により、21世紀初頭においても通信・放送産業全体としての設備投資額は拡大基調で推移し、引き続き我が国経済の牽引役を果たしていくものと期待できる。
なお、立ち後れている生活基盤の整備や次世代の国家的プロジェクトの推進とともに、経済社会情勢の変化に応じ、我が国経済の牽引役を果たしていくことが期待される通信・放送産業の旺盛な資金需要に応えるために、この分野に重点的に長期・低コストの資金を供給する金融支援も必要と考えられる。
<通信・放送産業の設備投資額>
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(単位:億円) (注)1990年〜1996年は「通信産業設備投資等実態調査報告書」(郵政省)に基づく年度ベースでの実績額 (1996年は計画額)
事 項 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 通信・放送産業の設備投資額 24,915 36,538 50,276 62,329 72,141 うち新たな無線系サービスの実用化分 0 0 3,253 9,260 24,157
- イ 情報通信分野の市場規模
- 情報通信分野の市場規模は、1995年の約29兆円から2010年には約125兆円にまで拡大するものと見込まれる(資料20)。
これは、1995年現在の全産業の売上高約409兆円(東洋経済新報社調べ)の約3割に匹敵する規模であり、情報通信分野が21世紀の我が国を支えるリーディング産業として成長を遂げることが期待できる。
<情報通信分野の市場規模>
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(単位:億円)
事 項 1995年 2000年 2005年 2010年 情報通信分野の市場規模 286,187 477,371 795,090 1,245,328 うち新たな無線系サービスの実用化分 0 24,084 62,086 111,420 このうち、第2章において提示した政策による効果とも相まって、特に成長が期待できる分野は以下のとおりである。
事 項 2010年市場規模 電波ビジネス 493,019億円 マルチメディア移動アクセス 39,000億円 サイバービジネス 425,011億円 コンテント 685,726億円 デジタル放送受信機 19,102億円
- ウ 情報通信分野の市場構造
- 上記市場規模の構成要素を「コンテント」、「ディストリビューション」、「プラットフォーム」の3者に分類し、1995年と2010年の市場構造を比較すると、加入者系光ファイバ網整備に伴うマルチメディア通信サービスの利用者の増大や、放送デジタル化の進展に伴う放送の多チャンネル化によって、映像配信サービスやサイバービジネスを中心とする「コンテント」の比重が33.5%から55.1%へと増大することが見込まれる。
<情報通信分野の市場構造>
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- エ 情報通信分野による雇用効果
- 先に試算した情報通信分野の市場規模は、通信・放送産業をはじめとする様々な産業分野の雇用者の労働によって形成されるものである。
2010年における情報通信分野の市場規模の形成に関連して創出される雇用者数を試算すると、244万人程度になるものと見込まれる。
これは、1995年現在の自動車産業の雇用者数約77万人(平成7年工業統計表)の3倍強の水準であり、情報通信分野は、雇用面においても21世紀の我が国を支えていくものと期待できる。
ただし、このような情報通信分野による雇用効果が十分に発揮されるためには、参入しやすく転出しやすい労働市場の整備を通じた労働力需給のミスマッチを是正するとともに、情報化の進展に適応可能な人材を育成するための能力開発、情報リテラシーの涵養等を通じて、円滑な労働力移動を可能とすることが不可欠である。
一方、情報通信高度化の進展に伴い、企業内においては、情報化を通じたリストラクチャリングの一環として、単純労働に従事する雇用者やホワイトカラーを削減し、コスト節減を図る傾向が強まるものと考えられる。
今後の雇用構造を職種別の観点から展望すると、単純事務従事者や中間管理職のウェイトが相対的に低下し、知識集約的な労働や最終的に人手を要する労働に従事する者のウェイトが高まっていくことが予想される。
<OA系情報システム改革に伴う過去3年間での配置人員の変化>
(単位:%)
職 種 増員した 減員した 変化なし等 役員 1.4 5.5 93.1 中間管理職 1.6 16.8 81.7 事務職 3.2 47.0 49.8 研究・技術職 9.0 8.3 82.7 営業職 14.7 7.9 77.5
出所:「企業の情報化と労働」(1996年、労働省)により作成 (注)上表は全国3,485社を対象に、1996年3月〜4月に実施したアンケート調査の結果を集計したもの(有効回答社数716社)
- (2) 企業活動の効率化
- 情報通信は、それ自体が先述のような経済フロンティアの拡大に寄与する可能性を秘めたものとして期待されているのみならず、その利活用を通じて、企業活動全般に対して恩恵をもたらすものと考えられる。
情報通信高度化の効果が発揮された場合には、21世紀初頭において、企業活動は以下のように効率化されていくものと期待できる。
こうした企業活動の効率化は、一方において、労働生産性の向上を通じて、雇用者数の減少を招く等の社会的コストを伴うものでもある。
- ア 製造業
- <CALSの効果>
製造業における従来の製品製造工程は、設計・開発→調達→製造→保守といったように、複数の業務がリレー的に遂行され、各段階間の情報伝達は紙の図面等を通じて行われてきた。
情報通信を活用したCALSの導入によって電子化された情報が共有されるようになると、従来リレー的に遂行されてきた複数の業務が同時並行的に処理されるようになるとともに、製品情報の共有化による問題解決への即応やメンテナンス時の情報検索の効率化等が図られ、例えば、仕様変更に伴う対応時間や調達手続きに要する時間がそれぞれ30〜50%削減されるとの調査結果がある(資料21−1)。
このような、CALSの普及による事務処理時間短縮等の効果は、製造業の総コストの削減にも寄与するものと期待できる。
- イ 販売・流通業
- <POSシステムの効果>
販売・流通業者の間でPOS(販売時点情報管理)システムが普及し、「どこで何が売れているかを調査し、売れる店に適正な数量の商品を置く」といった商品管理・選別に係る情報収集、判断のための時間が短縮される。
これにより、商品の過剰な在庫が減少するとともに、マーケティングに係る顧客情報の収集・分析事務等も効率化することが期待できる。<サイバービジネスの効果>
ネットワークを介したサイバービジネスによる営業展開は、店舗スペースを縮小できるとともに、小売店舗の立地に際して従来重視されてきた顧客集客の観点を度外視できるため、物理的な位置に対する拘束条件がなくなる。
これにより、商圏が拡大する(インターネットを利用すれば理論上は世界中の人々を販売の対象とできる)とともに、「第6回商業実態基本調査」によると、現在、地代・家賃コスト等が小売業の総コストの約2%を占めているが、これらのコスト削減が図られるものと期待できる(資料21−2)。<ITSの効果>
ITSの開発・普及の一環として、全国の高速道路にノンストップ自動料金収受システムの普及が十分に進むと、現在、渋滞発生箇所の35%を占めている料金所における渋滞の解消が見込まれる(資料21−3)。また、交通管制システムの高度化により、最適な信号制御が実現するとともに、車載機等への情報提供によるドライバーの経路誘導が可能となるなど、最適な交通管理が行われることで交通渋滞の緩和が図られる。
こうした渋滞の緩和は、貨物車両等の平均旅行時間の短縮を通じて、販売・流通業界全体としての物流の効率化にも寄与するものと期待できる。
- ウ 建設産業
- <建設CALSの効果>
建設産業にCALSの概念を取り入れた統合情報システムが導入されると、設計・施工・維持管理の各段階間の情報連携が円滑化する。
これにより、全体工期の短縮、コストの縮減、品質の確保が図られ、企業体質の強化を通じた建設産業の発展に寄与するものと期待できる。
例えば、建設省土木研究所の行った試算では、建設CALSの導入により、設計業務の作業時間が約20%短縮可能とされている。<リモートコンストラクションシステムの効果>
現在、建設業における死亡災害の17.1%を建設機械等による災害が占めているが、無線を活用したリモートコンストラクションシステムが導入されると、危険な建設現場における作業の無人化が図られることから、建設機械等による労働災害が軽減されるものと期待できる(資料21−4)。
- (3) 高コスト構造の是正
- 第1章において既に述べたように、現在、我が国における産業基盤の利用コストは国際的にみて割高であるが、通信料金については、第2次情報通信改革の推進を通じた公正有効競争の促進等によって、内外価格差が解消され、提供されるサービス内容に相応しい料金水準が実現されるものと期待できる。
ここでは、2010年における通信料金水準の試算を行うとともに、通信料金の低廉化及び情報通信の利活用を通じた企業活動の効率化による産業全般におけるコスト削減について考察する。
- ア 2010年の通信料金水準
- 現在、大部分の世帯、事業所において利用されている加入電話(アナログ電話)の通信速度は、デジタル信号に換算するとわずか数十kbps程度にすぎず、大容量を要する動画像伝送等のマルチメディア通信には不向きである。
電話等の通信サービスの利用に対する現在の世帯平均支出額は月間約7,400円(移動通信料金は除く)となっているが、これと同程度の料金で利用可能なマルチメディア通信サービスの水準を、マルチメディア時代におけるネットワーク構成及びコストに関する一定の条件の下で想定すると、2010年には、20Mbpsの回線(現在の標準テレビ画像3チャンネル分余に相当)が、国内であれば通信距離とは無関係に定額月7,800円程度で利用可能になるものと試算される(資料22)。
このような通信料金水準が実現すると、産業分野はもとより、一般家庭においてもマルチメディア通信サービスの利用が一般化していくものと考えられ、こうしたサービスを利用することによって、一般家庭においても、音声通話やインターネットの利用のみならず、余暇番組や教育番組等の映像コンテントをオンデマンドによって同時並行的に受信することが可能となる。
- イ 産業全般におけるコスト削減
- 情報通信を活用したアプリケーションは、既に多くの企業において導入・利用されているところであるが、マルチメディア通信サービスの利用料金が低廉化すると、従来、電話サービスや数十〜数百kbps程度の回線によるデータ通信サービスを利用してきた企業においても、マルチメディア通信を活用した各種アプリケーションが導入・利用されるようになり、先述のような企業活動の効率化を通じてコスト削減が可能になるものと考えられる。
さらに、従来から大容量の専用線を利用してマルチメディア通信を行ってきた一部企業では、通信費自体の削減も図られることとなる。
このように、マルチメディア通信サービスの利用が一般化すると考えられる2010年においては、産業分野全般において発揮されるであろうコスト削減が、物価の抑制を通じて我が国産業経済の高コスト構造を是正していくものと考えられる。
- (4) 新たな産業秩序の形成に向けたダイナミズムの創出
- 以上のような産業経済へのインパクトに加えて、情報通信の高度化が進展すると、従来の産業秩序を根本的に覆すような新たなダイナミズムが創出される可能性がある。
例えば、金融の世界においては、ネットワーク上に流通する電子マネーを利用して、既存の金融機関の仲介なしに行う決済、金銭貸借、新たな金融商品の開発・販売等が一般化していくものと考えらる。
また、製造業では、ネットワークを介したサイバービジネスにより、流通業者を介することなく、直接最終消費者に対する製品販売が行われるようになることも考えられる。
こうした潮流に共通する、サービス提供に際しての「中抜き」現象は、情報通信の高度化によって、企業と最終消費者とをダイレクトに結合する高度なインターフェイスが確立されることにより、今後あらゆる産業分野において顕在化してくる可能性がある。
そこでは、従来のような同業種内のみでの競争はその意義を喪失していくものと考えられる。高度情報通信社会が到来する21世紀初頭においては、あらゆる産業(個人等も含む)が、ネットワークを介して顧客のニーズを感知し、様々なサービス事業に参入することによって、業種区分を越えた競争、提携を繰り広げ、新たな産業秩序の形成に向けたダイナミズムが創出されていくことであろう。
一方、国民生活においても、情報通信の高度化により、これまで社会生活を営む上で必要な通勤等の諸活動に伴う移動時間が削減され国民のゆとりが拡大するとともに、国民が多様な情報を享受できるようになることから、これまで各人の中に眠っていた創造性が発現し、真の自己実現が可能な社会が生まれる。情報通信高度化の効用は、情報バリアフリーな環境整備を積極的に行うことで、高齢者・障害者にも等しく及び、社会参加を含めた自己実現が可能となる。
さらに、情報通信は医療・福祉、防災、環境観測、環境負荷低減等の面で社会システムの高度化に貢献し、国民の健康で安全な生活を実現する一助となる。
このように、情報通信の高度化は国民生活全般においても、様々な側面でその効果が享受されるものと考えられる。
ただし、このような情報通信高度化の効用は同時にまた、いくつかの課題を提起させる。例えば、在宅での情報通信サービスを利用するには、各家庭に高度な端末機器を備える必要があるが、それは個人の経済的負担を高めることとなり、経済的弱者に対する情報格差を生み出す恐れがある。また、情報通信によるコミュニケーションの比重が高まるにつれ、児童の従来のコミュニケーション能力の低下、在宅勤務者の直接的な意志疎通の欠如による疎外感の発生なども考えられる。
我々が情報通信の高度化による恩恵を享受する際には、このような諸課題への留意もまた必要である。
- (1) ゆとりの拡大
- 情報通信の高度化に伴う生活面における効果としては、第一に日常の諸活動の代替化、効率化によるゆとりの拡大といった点が挙げられる。
人々は、生活に密着した利便性の高い情報通信システムを活用することで、従来、必要とされた様々な所要時間を節約・削減し、その結果として、新たに生じた時間でフェイス・ツー・フェイスでのコミュニケーションや旅行等の余暇活動などをより充実することが可能となる。<行政サービス>
引越に伴う公共的機関等への各種の行政手続き等が、自宅や企業の端末、郵便局その他公共施設等の共用端末を用いて24時間いつでも一元的に行うことができるようになり、例えば、電子キオスクを利用したワンストップ行政サービスが実現されることで、これまでの行政手続き等への所要時間は大幅に削減することができる(資料23−1)。これにより、複数の類似書類への記入、各窓口への往復などといったものがなくなり、行政サービスの利便性も大幅に向上する。<通勤負担の軽減>
テレワークの普及により、サラリーマンの多くが現在の業務を自宅やサテライトオフィスで行うことができるようになり、長時間通勤や通勤列車の混雑といった苦痛から解消されるとともに(資料23−2、23−3)、勤務地による住宅立地の制約が減少する。<消費スタイルの変化>
現在、実験的に利用されている電子マネーが本格的に普及することで、日常生活における購買活動では、従来型の現金と同様に電子マネーが一般的に利用されるようになる。
これにより、家庭ではディスプレイ上に展開するショッピングモールで買物ができるようになり、消費者は電子カタログの中から好きな商品をオンラインで注文し、電子マネーで代金を払う。支払い手続きはその場で終了し、商品は自動的に自宅まで届けられる。
また、街の各所にはカード型電子マネー対応機(集積回路を内蔵し多くの情報を記憶可能なICカードへ価値を移転する機械)が設置されるとともに、デパートやレストラン等での各種サービスの支払いも電子マネーで瞬時に行われ、レジに行列を作って精算を待つといった必要がなくなる。
なお、これらの支払い手続きに係る金融機関への現預金の預入れ・引出し・振替といった処理は、そのほとんどが自宅や街の各所に設置された端末からネットワーク上で行われるようになることで、消費者の購買活動はより利便性の高いものとなる。
- (2) 知的活動の広がり
- 高速・大容量のネットワークを介して流通される各種の情報は、教育や文化といった人間の知的活動、創造性を発展させる誘因ともなり、飛躍的な知的活動の広がりを可能とする。
<学校教育>
学校教育では、回線数の増加、教育用コンピュータの整備、ネットワークの拡大、教育用ソフトの充実などが図られ、子供達は教育(エデュケーション)に楽しみ(エンターテインメント)を加えたいわゆるエデュテインメントの要素を持つ新しいマルチメディア教材を利用して学習することができるようになる。
例えば、既存のデータベースの情報を用いてディスプレイ上に自然現象等を再現し、自ら変数を操作して諸現象の変化をシミュレーションすることで、様々な法則を発見し学習することが可能となる。これにより、単に既存の教材の知識がビジュアル化されるだけでなく、双方向でのやりとりが学習者の興味・関心を引き起こし、子供達の学習に対する自主性を高める効果が期待できる。
さらに他の学校とのネットワークを通じた共同学習として、日本各地または世界各国から持ち寄られた各種のデータをお互いに集計・分析することで一つの作品を完成させたり、あるいは一つの研究テーマに対して、遠隔地の生徒同士がモニタを介して自らの学習成果を発表したり、自由な討論を行うといったグループ学習が可能となる。<在宅学習>
NHK放送文化研究所の調べによると、これまでテレビやラジオの講座番組を利用していなかった者のうち利用する意向を有していた者は33.7%いるが、そのうちの29.6%は利用できない理由として「どんな番組がいつ放送されるのか分からない」、「適当な内容の番組がない」、「1回目から視聴できなかった」と回答している(資料24)。高速・大容量のネットワークが各家庭まで結ばれ、マルチメディアの特性を活かした多彩な講座が幅広い分野にわたって提供され、オンデマンドで利用可能になると、利用者は自らの興味や学習状況に応じた講座を自由に選択することができるようになり、家庭で生涯学習を行う者が増加することが期待される。<公共施設の利用>
図書館、美術館、博物館等についても、各施設が蔵書や所蔵物に関する情報を電子化することで、ネットワーク上に全施設のデータベースが構築され、自宅の端末から目的のものを検索し、利用することができるようになる。また、好きな芸術作品を必要に応じて解説を交えながら自宅の端末で鑑賞することが可能となる。
- (3) 健康で安心できる生活
- 病気等の際に高度で行き届いたケアが受けられるとともに、交通事故を防止する上で、情報通信高度化の果たす役割は大きい。
<遠隔医療等>
高速・大容量のネットワークで医療機関間を結ぶことによって医師同士での情報交換、業務連携が活発化し、患者側から見た場合、これまで専門病院でしか享受することのできなかった専門的な診断サービスが離島などの過疎地に所在する診療所でも可能となり、都市部等遠隔地に所在する専門病院への通院の必要はなくなる。
また、患者データを電子化することによって情報の共有化が図られるようになり、重複診療の削減など医療サービスの効率性が向上する。具体例として、ICカードシステムを導入した兵庫県五色町で、同カードシステム加入者の一件当たりの医療費が未加入者に比べ外来医療費で約32.2%、入院医療費で約23.8%低いという事例があり(資料25−1)、このようなシステムを全国展開することで、国民の年間診療医療費の負担も軽減できるものと考えられる。<在宅医療>
医療機関と各家庭をネットワークで結ぶことによって、対面診断によらなくても患者に関する十分な情報が得られる場合は、家庭のモニタ等を通じて医師の診断を受けることが可能となる。医師はモニタを通した患者の表情や会話内容から病状を確認し、患者に対して適切な指示を与えることが可能となる。
例えば、各種の疾患の中でも循環器系の慢性疾患は在宅医療での対応も可能であると考えられる。循環器系の慢性疾患患者で通院している者は現在人口の約7.6%を占めているが(資料25−2)、そのような患者の一部は通院の時間をかける必要がなくなる。<介護支援等>
一人暮らしの高齢者等に対しては、これまでの定期的な訪問介護に加え、担当のヘルパーが自宅に備え付けられたモニタの画像から様子の把握、意思疎通等を行うことによって、さらに効果の高い介護サービス体制を整えることができるようになる。加えて、異常管理システムによる緊急時の救急体制が確立されることで、突然の発作が発生した場合でも即座に感知・通報が行われ、医療機関のより迅速な処置が可能となる。<ITS>
ITSの普及により実用化される安全運転支援システム及び自動運転システムは、諸状況に応じてドライバーに情報や警報を与えたり、さらに速度制御やハンドル制御を自動的に行うことで、ドライバーの運転操作にかかる負担をより軽微なものとする。また、交通管制システムの高度化は、渋滞や環境悪化が著しい地域のみならず、道路ネットワーク全体としての最適な信号制御や、車載機や情報提供装置によるドライバーの経路誘導を実現することによって、交通の安全性及び快適性の向上と環境の改善を図るとともに、交通事故の発生の素早い検知と、それに係わる交通規制の実施やドライバーへの交通規制情報の提供を可能とすることにより、交通事故に伴う二次災害を防止する。このように、ITSはドライバーや歩行者に対する安全かつ円滑な交通社会の実現を可能とする。
- (4) 高齢者・障害者等の社会参加の促進
- 情報通信は、これまで意欲があっても社会参加の機会が実質的に制限されてきた高齢者・障害者等の生活に変革をもたらす。
<テレワーク>
高齢者・障害者及び育児や介護等の家族的責任を有する者の中には、働く意欲はあるものの、電車等による通勤が困難なため、就労の機会に恵まれない者が存在する。このような人々がパソコン通信等を使って自宅に居ながらにして業務を行えるようになることで、高齢者・障害者は社会参加の機会を拡大させ、働いている男女双方にとっても仕事と家庭を両立できる環境が創出されるようになる。これにより、これまで活用されていなかった能力が発揮され自己実現が図られるようになる。<コミュニティ活動>
情報通信の高度化に伴い、人々はそれぞれの趣味や興味に応じたネットワーク上のサークルに参加することで、例えば、自作の俳句や和歌の仲間とのやりとりや海外の人との囲碁の対局等、能動的で新たな文化活動の場が得られるようになる。
またPTAや町内会における地域コミュニティ活動もネットワーク上の会議室を活用し住民に広く公開することで、ボランティア活動の呼び掛けや各種の文化活動に関する情報交換などの告知効果を高めることが可能となる。
このようなサークルや会議室といったバーチャルコミュニティスペースでは、高齢者や障害者等で実際に集うことが困難な者でも交流範囲が広がり、社会に対する一体感が高まる。さらに、使いやすい情報通信端末の開発・普及は、これらの諸活動のツールとしてより多くの高齢者・障害者等の参加を促すことが期待される。
- (5) 生活環境の保全
- 我が国はその地理的条件から台風、豪雨、地震、火山噴火等の自然災害の危険性を有している。また、これまでの大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済活動は、その飛躍的な発展の反面、生活環境ひいては地球環境に対する過大な負荷をも同時に与えている。
高度情報通信社会においては、このような災害・環境問題への対策として、様々なアプリケーションシステムが普及・活用されていくようになる。<防災>
災害情報システムの普及により、災害が発生した場合に、被災状況・安否情報等の緊急性・必要性の高い情報を迅速確実に伝達することで、早期かつ正確な状況把握、対応措置が行われるようになり、被害規模を削減するとともに効率的な救援活動が可能となる。例えば、遠隔監視機能を備えた情報通信システムを活用することで、建物火災時における消火活動は迅速化され、焼損面積の減少が図られる(資料26−1)。<環境負荷低減>
ITSやテレワークによる交通量の抑制、リサイクル情報システムやEDI・CALS等による資源の消費抑制、環境保全・監視システムによる全世界レベルあるいは都市レベルでの環境モニタリング体制の確立、等により環境への負荷の増大を抑制することも可能となる(資料26−2)。