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経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004

はじめに 日本経済の現状と構造改革が目指すところ

1.日本経済の現状と課題

(民間需要主導で景気回復しつつある日本)

 我が国は今、長期停滞を脱し、新たな飛躍の段階を迎えつつある。集中調整期間は、マイナス成長と巨額な不良債権の存在という厳しい経済環境から出発したが、構造改革を進める中で、財政に依存することなく民間需要主導により、景気回復の裾野をこれまで着実に広げてきた。

 不良債権処理の着実な進展、規制改革や企業再生・活性化への幅広い取組、歳出改革・税制改革の推進等これまでの構造改革が、バブル崩壊後日本経済を下押ししてきた重しの除去に総合的な成果をあげている。不良債権処理については、主要行の不良債権残高はこの2年で13兆円以上減少し、銀行や不動産業等の株価が着実に上昇している。また、企業の設備投資・研究開発減税が回復を下支えしたほか、最低資本金特例による過去1年での起業社数が1万社を超える急増ぶりを示すなど、企業の再生・再編が活発である。

 一方、失業率は平成14年1月に5.5%まで上昇したものの、その後徐々に低下し、平成15年を通してみれば13年ぶりに低下に転じた。失業率が上昇もしくは高止まりを続けたバブル崩壊後の過去2回の景気回復とは顕著な違いであり、今回の回復が構造改革の成果を伴うものであることを示している。

 このように企業部門の好調が雇用の回復を通じて家計に波及する兆しも現れ、金融システムの安定化や株価上昇とあいまって、消費マインドが改善している。この結果、平成14年初からの景気回復局面における平均成長率は年率3.0%、うち民間需要の寄与度が2.2%を占め、民間需要主導の成長が実現しつつある。しかしながら、地域の回復動向にはばらつきがあり、大企業に比べ中小企業の状況は厳しいことを認識することが重要である。また、平成16年前半においても緩やかなデフレ状況が続いており、デフレ克服への取組は依然重要な政策課題である。

(改革成果の拡大と集中調整期間の仕上げ)

 平成16年度は、集中調整期間の仕上げの年であり、バブル崩壊後の負の遺産からの脱却に目途をつける。「金融再生プログラム」を着実に推進し、不良債権問題を終結させること等により、金融システムを強化するとともに、中小・地域金融機関の機能強化を図る。同時に、早期のデフレ克服を目指し、政府・日本銀行が一体となって政策努力を行う。また、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(平成15年6月27日閣議決定。以下「基本方針2003」という。)など、これまでに策定されてきた施策を引き続き着実に実行し、これに加えて地域再生や雇用政策に一段の努力を行うことにより、改革成果を日本の隅々にまで浸透させる。

2.「集中調整期間」から「重点強化期間」へ

 平成17年度以降の課題は、「官から民へ」、「国から地方へ」といったこれまでの改革についてより本格的な取組を行うとともに、人口減少や国際環境の変化など新たな条件の下での成長基盤を確立することである。平成17年度及び平成18年度の2年間を「重点強化期間」と位置づけ、日本銀行と一体となった政策努力によりデフレからの脱却を確実なものとしつつ、新たな成長に向けた基盤の重点強化を図る。このような取組の結果、平成18年度以降は名目成長率で概ね2%程度あるいはそれ以上の成長経路を辿ると見込まれる。

 「重点強化期間」における主な課題は次のとおりである。

 第一に、「官から民へ」、「国から地方へ」を徹底させ、民間や地域の知恵が主導する経済社会システムをつくりあげる。そのために、行政の事後チェック機能を強化しつつ、官でなければできない業務を明確化する作業に取り組むとともに、国による地方公共団体への規制の見直しなど地方の裁量権拡大に取り組む。また、郵政民営化の準備を完了させる。

 第二に、政府部門の本格的な改革(「官の改革」)を行い、国民に説明責任を果たす効率的でスリムな政府をつくる。そのために、予算ごとの成果目標の明示・厳格な事後評価等の予算制度改革や、一段の行政改革に取り組む。

 第三に、民間の成長力を強化するための改革(「民の改革」)を行う。人口減少という我が国経済社会の大変化に向けて、経済社会の更なる発展のための戦略をとりまとまる。また、「金融重点強化プログラム」(仮称)を策定し、不良債権問題への対応から脱却して、金融・証券市場の構造改革と活性化により、我が国金融セクターを更に強化・充実させ、経済社会の新たな成長に向け、国際的にも最高水準の金融機能が利用者のニーズに応じて提供されることを目指す。

 第四に、「人間力」の抜本的強化に取り組む。その際、雇用のミスマッチ縮小に力点を置く。このため、約10%の高い失業率を示す若年層に対する能力開発施策等の拡充、地域の実情に応じた雇用政策の展開、利用者の立場に立った雇用関連事業の再編・ワンストップ化に取り組む。

 第五に、「持続的な安全・安心」の確立に取り組む。具体的には、社会保障制度について、年金・医療・介護・生活保護等を一体としてとらえた総合的な改革を進める。また、少子化対策、健康・介護予防の推進、治安・安全の確保、循環型社会の構築・地球環境の保全にも注力する。

 このように、集中調整期間後の我が国経済社会は、新たな課題に挑戦しつつ、持続的な成長軌道の確立を目指すことになる。しかし、これまで取り組んできた構造改革そのものの目標が変わるわけではない。構造改革とは、我が国が持てる資源(人材、資金、技術力等)を最大限に活かすための改革にほかならないからである。集中調整期間から重点強化期間へと移行する時期にあたって、構造改革の意義を確認することは重要なことであり、次項において目指すべき経済社会の姿を改めて示すこととする。

3.構造改革とその目指すところ

 21世紀の我が国経済社会は、単なる過去の延長戦上にはない。

 グローバリゼーションが加速度に進み、IT化が産業、生活、そして労働の在り方を革命的に変えている。かつて発展途上国と呼ばれた国々が次々と目覚しい成長を遂げる中で、日本が今後も競争力を保持し、より豊かで住み良い社会を構築するためには、高齢化や環境問題等の課題を新たな社会的ニーズに転換しつつ個々の企業、地域、個人レベルでそれぞれイノベーション(革新)を生み出し、日本経済を新たな成長軌道に乗せていくことが必要である。

 例えば、人口減少社会が到来するなかで、質の高い生活を維持すべく、医療や介護、子育て等の分野で新商品・新サービスの開発が進めば、高齢化は逆に経済活力に結びつく。省資源・省エネルギー・新エネルギーのための技術開発も、企業にとっては、新たな成長の糸口になり得る。

 このような企業、個人の挑戦を支えるためにも、政府は、簡素で効率的であらねばならない。また、基礎的財政収支を黒字化するなど財政を健全化していくため、民間需要主導の持続的な経済成長を実現すると同時に、政府全体の歳出を国・地方が歩調を合わせつつ抑制することにより、例えば潜在的国民負担率で見て、その目途を50%程度としつつ、政府の規模の上昇を抑制する。

 他方、政府は、時代の変化が生み出す新たな要請にも応えていかねばならない。例えば、国際環境の厳しさが増すなかで、安全と安心がこれまで以上に重要な課題となっている。治安・安全の確保、大規模災害等への対策のみならず、情報セキュリティや衛生上の安全確保等への政府の取組が急務である。また、国民の価値観の多様化、高度化は、画一的な行政サービスに飽き足らず、公の分野においても選択の自由を求める傾向を強めている。政府は、企業や個人が時代の変化に柔軟に対応し得る環境整備を行うにとどまらず、自らもまた、新たな時代のニーズに即応し、機動的に変化していかねばならないのである。

 構造改革とは、このように新たな経済社会の環境に、企業、地域、個人が柔軟に対応し、その持てる能力が最大限に発揮されるよう、制度や政策、更に政府の在り方そのものを変革する不断の取組である。


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