[] []

第3部 経済財政運営と平成17年度予算の在り方

1.経済財政運営の考え方

(1) 今後の経済動向と当面の経済財政運営の考え方

(平成16・17年度の日本経済)

・景気の現状は、企業部門の改善に広がりがみられ、個人消費も持ち直すなど、着実な回復を続けている。但し、景気回復の状況にはばらつきがみられる。

・今後の経済動向については、世界経済の回復が続く中で、景気の自律的な動きが強まっていくことから、景気回復が続き、「平成16年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」(平成16年1月19日閣議決定)及び「構造改革と経済財政の中期展望−2003年度改定」(同日閣議決定。以下「改革と展望−2003年度改定」という。)で示した経済の姿に概ね沿ったものとなると見込まれる。

・平成16年度については、世界経済の回復が続く中で、生産や設備投資の増加が続き、こうした企業部門の動きにより、雇用・所得環境も厳しいながらも持ち直しに向かい、家計部門にも徐々に明るさが及んでいくことが期待される。こうしたことから、我が国経済は民間需要中心の回復過程を辿るものと見込まれる。また、デフレ傾向は継続するおそれがあるものの、需要の回復等に加え、政府・日本銀行一体となった取組を進めることにより、デフレ圧力は徐々に低下していくと見込まれる。

・平成17年度については、改革の成果が各部門に浸透していき、企業部門の改善の広がりに加え、家計部門も回復していくことが期待されることから、民間需要を中心とした景気の緩やかな拡大期間が続くものと考えられる。また、デフレからの確実な脱却に向けた進展が見込まれる。

・但し、世界経済の動向等に伴うリスクの存在には十分留意する必要がある。

(当面の経済財政運営の考え方)

・集中調整期間の仕上げの年となる平成16年度においては、景気の回復には地域間にばらつきがあり、また、大企業に比べ、中小企業を巡る環境は厳しいことに鑑み、改革の成果を地域や中小企業にも浸透させるとともに、デフレ克服を目指しながら、「基本方針2003」に盛り込まれた施策を着実に実施するなど、構造改革の取組を加速・拡大する。重点強化期間と位置づける平成17年度及び18年度においては、デフレからの脱却を確実なものとしつつ、新たな成長に向けた基盤の重点強化を図る。

 なお、今後とも、経済情勢によっては、大胆かつ柔軟な政策運営を行う。

・デフレについては、景気の着実な回復により需給ギャップが縮小する一方で、銀行貸出の低迷等からマネーサプライの伸びが低い中で、素材価格の上昇により国内企業物価はわずかな上昇を示しているが、物価動向を総合的に勘案すれば、デフレ克服は「道半ば」の状況にあり、その取組は依然重要な政策課題である。こうした中、政府として「改革と展望−2003年度改定」で名目成長率は徐々に上昇し平成18年度(2006年度)以降は概ね2 %程度あるいはそれ以上と見込んだことにも鑑み、集中調整期間終了後におけるデフレからの脱却を確実なものとするため、政府は、日本銀行と一体となって政策努力を更に強化する。

・政府は、需給ギャップの更なる縮小を進めるためにも、以下の4分野の構造改革を引き続き推進する。

・金融分野においては、平成16年度末までに、「金融再生プログラム」の着実な推進により、不良債権問題を終結させるとともに、中小企業の再生と地域経済の活性化を推進するため、リレーションシップ・バンキング(間柄重視の地域密着型金融)の機能強化を図る。また、産業・金融の一体的再生を図るため、産業再生機構等の積極的活用を促し、整理回収機構(RCC)についても中小企業等の集中的再生に向けた一層の活用を図る。さらに、投資商品の多様化・投資家保護の拡充や市場を通じた企業のガバナンス向上など、金融・証券市場の構造改革と活性化に取り組むとともに、平成16年末を目途に「金融重点強化プログラム」(仮称)を策定し、国際的にも最高水準の金融機能が利用者のニーズに応じて提供されるようになることを目指す。

・規制分野においては、平成16年5月発足の規制改革・民間開放推進本部と規制改革・民間開放推進会議等が密接な連携を図りつつ、3か年計画を着実に実施するなど、国民生活に直結した分野やビジネスニーズの高い分野等での規制改革・民間開放を進める。また、今後とも構造改革特区を拡充するとともに、これまでの特区での規制の特例措置について、評価委員会の評価を踏まえつつ、速やかな全国展開を行う。

・歳出分野においては、引き続き、民間需要創出に力点を置いた重点化・効率化を行うとともに、社会保障制度改革、三位一体の改革、予算制度改革の本格化等と併せ、持続可能な財政構造を構築する。また、公的債務管理の充実に努める。

 財政投融資については、構造改革に資する分野に対象事業の重点化を図りつつ、真に政策的に必要と考えられる資金需要には的確かつ弾力的に対応する。

・税制分野においては、持続的な経済社会の活性化のための税制改革、租税負担と社会保障負担の総合的な検討、三位一体の改革を中心として、引き続き、包括的かつ抜本的な税制改革に取り組む。その際、経済や財政の状況等を十分に見極めつつ、歳出の徹底した見直しと併せ、幅広く検討を行う。

・また、これらの取組に加え、経済活性化に向けた重点施策として、地域再生、雇用政策・人材育成施策の新たな展開、「新産業創造戦略」の推進、市場環境の整備及び発展基盤の強化に取り組む。

・日本銀行には、効果的な資金供給につながるような措置を含め、更に実効性ある金融政策運営に努めるよう期待する。また、「改革と展望−2003年度改定」及び「基本方針2004」において政府が示した、「重点強化期間」を含む経済の見通し、デフレからの脱却を確実なものとするための取組等の基本方針と整合的なものとなるよう、金融・資本市場の期待の安定化にも配慮しつつ、デフレ克服までの道筋を含め、金融政策運営に関する透明性の一段の向上に努めることを期待する。

(2) 中期的な経済財政運営の在り方

・本基本方針の施策を着実に実行し、重点強化期間において、デフレからの脱却を確実なものとしつつ、人口減少や国際環境の変化など新たな条件の下での成長基盤の重点強化を図る。

・歳出改革路線を堅持し、「改革と展望」に沿って、平成18年度(2006年度)までの政府の大きさ(一般政府の支出規模のGDP比)が平成14年度(2002年度)の水準を上回らない程度とすることを目指す。また、平成18年度(2006年度)までに、国と地方双方が歳出削減努力を積み重ねつつ、必要な行政サービス、歳出水準を見極め、また経済活性化の進展状況および財政事情を踏まえ、必要な税制上の措置を判断する。

・さらに、平成19年度(2007年度)以降も、それ以前と同程度の財政収支改善努力を行うと同時に民間需要主導の持続的成長を実現することにより、2010年代初頭における国と地方合わせた基礎的財政収支の黒字化を目指す。

2.平成17年度予算における基本的な考え方

(1) 平成17年度予算のねらい

・平成17年度予算は、集中調整期間後の「構造改革の仕上げ」と「新たな成長」に向けた重要な予算である。義務的経費を含めて歳出を厳しく見直し、重点課題に対してメリハリのある配分を行うなど、持続可能な財政の構築と予算の質の向上を目指す。平成17年度予算の概算要求基準についても、これらの考え方を踏まえ、策定する。その際、これまでの概算要求基準の下での予算のメリハリを検証する。

・同時に、成果目標の明示や事後の政策評価等の徹底など、予算制度に踏み込んだ改革を行い、国民にとって分かりやすい予算を目指す。

(2) 歳出改革路線の堅持

・「改革と展望」に示された「政府の大きさ(一般政府の支出規模のGDP比)は2002年度の水準を上回らない程度とすることを目指す」との方針を踏まえ、平成16年度予算は、一般会計歳出及び一般歳出ともに実質的に前年度の水準を下回るものとなった。平成17年度予算においても、引き続き歳出改革路線を堅持する。国債発行額についても極力抑制する。また、引き続き、特別会計や地方を含め、政府の大きさ(一般政府の支出規模のGDP比)を極力抑制することを目指す。特別会計については、平成17年度予算では、各特別会計の性格に応じ、制度改革等を行い、一般会計からの繰入を抑制する。

(3) 予算配分の重点化・効率化

(重点化の考え方)

・「活力ある社会・経済の実現に向けた重点4分野」(「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(平成14年6月25日閣議決定))の考え方に沿い施策を集中し、「第1部 「重点強化期間」の主な改革」及び「第2部 経済活性化に向けた重点施策」を推進する。その際、「(4)主要予算の改革」も踏まえ、施策の絞込み(重点化・効率化)を行う。また、各府省は、重点課題における全ての事業予算について、成果目標を提示し、事後評価を十分行い得る基盤を整える。

・また、新規施策の計上に当たり、既存施策の廃止・縮減を行う(予算見合いの原則)。各省庁は要求に当たって徹底した自助努力を行う。あわせて、民間需要を誘発する政策、より少ない財政負担で民間主体の投資を喚起する政策等、民間の潜在力を最大限引き出す政策や費用対効果の高い施策に絞り込む。また、継続する既存施策については、事後評価を要求・査定に反映する。

・「政策群」については、府省間の連携をより強化し、対象を拡充する。

(抑制の考え方)

・納税者の立場に立って、公共調達の効率化、公用車の効率化をはじめとする行政効率化関係省庁連絡会議の取りまとめ内容について、概算要求、機構・定員及び予算執行に反映する。

・また、予算全体について、民間委託・PFIなど民間活力の活用による効率化に努めるとともに、物価動向に加えて、行政サービスの簡素化・効率化を織り込み、予算執行調査等も活用しつつ、単価の見直しとコストの縮減を図る。義務的な経費であっても、制度改革の取組と併せ、事務事業の合理化や単価の見直しを進めることにより、経費の大胆な節減に取り組む。

・さらに、総人件費の抑制に努める。また、人事院においては、地域における給与の官民格差を踏まえて、地域における国家公務員給与の在り方についての検討を行い早急に具体的措置を取りまとめるよう、要請する。地方公共団体においても、地方公務員給与の在り方の見直しを行うよう、要請する。

(4) 主要予算の改革

(1) 社会保障については、一般歳出の約4割、地方向け国庫補助負担金の約6割を占めている。少子高齢化が進展する中、年々増加する社会保障関係費の伸びの抑制に取り組むことが、我が国の財政運営上の最大の課題である。このため、概算要求段階及びその後の予算編成過程において、社会保障関係の自然増を放置することなく、「第1部 5.「持続的な安全・安心」の確立」を踏まえ、介護、生活保護、医療その他の制度改革等に取り組み、公的給付の見直し等を行うことにより、その抑制を図る。

(2) 雇用については、政策効果や実績を検証し、雇用維持支援・雇入れ助成から労働移動支援・ミスマッチ解消等に重点化するなど、メリハリのある見直しを行う。

(3) 公共投資については、「改革と展望」に基づき、景気対策のための大幅な追加が行われていた以前の水準を目安に、選択と集中の観点から、更なる重点化・効率化を推進するとともにコストの縮減等を図る。その中で、国の役割は国家的な政策課題への対応の観点から戦略的・広域的かつ質の高い社会資本の整備に重点化するとともに、地方の自主性・裁量性を拡大する方向で取り組む。「平成16年度予算編成の基本方針」(平成15年12月5日閣議決定)において厳しく見直すこととした分野については、引き続き厳しく抑制する。機能類似の事業については、府省間の一層の連携・調整を図る。

(4) 教育については、義務教育に関する地方の自由度を拡大し、地方公共団体や地域住民の知恵・工夫が一層活かされるような仕組みとするため、これまでの改革に加え、現行法の見直しを含めた検討を進めるなど、義務教育費国庫負担制度の改革を推進する。また、高等教育の質的向上を図るため、機関に対する既存の支援策の在り方を見直し、国立大学法人間、国公私立を通じた競争原理に基づく支援へのシフトを促進するとともに、奨学金制度による意欲・能力のある個人に対する支援を一層推進する。文化については、施策の有効性や費用対効果の検証等を通じ、説明責任を果たしつつ、その振興及び支援の重点化を図る。

(5) 科学技術については、総合科学技術会議による施策の優先順位付けの予算への反映を徹底するとともに、同会議が一層の主導性を発揮し、重点4分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料)への更なる重点化と、その他分野(エネルギー、製造技術、社会基盤、フロンティア)における一層の効率化・合理化を図る。また、プロジェクトの中間評価・事後評価の結果を将来の資源配分に反映する具体的制度作りを進めるとともに、評価結果に基づくプロジェクトの見直しや中止を積極的に行う。

(6) 農林水産については、農業者全体を対象とした一律的な施策について見直しを行い、施策を意欲と能力ある経営体に集中させることにより、競争力の強化を図る方向での改革を更に推進する。

(7) 地方財政については、三位一体の改革を推進し、国の方針と歩調を合わせつつ、地方歳出の徹底した見直しを行い、地方財政計画の規模の抑制に努めるとともに、引き続き交付税の算定方法の簡素化等に取り組む。

(8) 治安については、現下の犯罪情勢等を踏まえ、既存施策の精査の徹底、民間活力の活用等を通じ、効率的かつ機動的な体制の整備を図ることにより、国民の安全・安心を確保する。

(9) 防衛については、「弾道ミサイル防衛システムの整備等について」(平成15年12月19日閣議決定)に沿って、新たな脅威等に実効的に対応し得る体制を整備するとともに、自衛隊の既存の組織・装備等の抜本的な見直し・効率化を図る。

(10) ODAについては、我が国にふさわしい姿を目指し、諸外国の動向や外交を戦略的に展開するための適切な水準を見極めつつ、その内容を精査し、効率化を進める。


[] []