構造改革の基本理念は、「改革なくして成長なし」、「民間でできることは民間に」、「地方でできることは地方に」という方針に集約される。この基本理念の下、これまでの2年間、政府は構造改革に着実に取り組んできた。日本経済再生のタネは、その結果、構造改革特区の導入、「金融再生プログラム」に基づく不良債権処理の促進等、徐々に蒔かれつつある。
しかし、本格的に取り組むべき課題が依然多く残っており、改革は途半ばである。タネが確実に花開く努力を重ねると同時に、日本の将来を生みだす新たなタネを蒔かなければならない。「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」は、構造改革を更に本格的に推進するため、これまでの進展を点検・評価した上で、構造改革の基本方針を「3つの宣言」と「7つの改革」という形で新たに打ち出す。その枠組みに沿って政府が今後特に推進する施策を明らかにする。
構造改革よりは、短期的な景気対策を優先させるべきとの主張がある。構造改革の目的は、国民に我慢を強いることではない。これまでの古い制度や政策手法が限界に近づいていることは明らかであり、我が国は先進国中最悪の危機的財政状況の中で「持続可能」な形での政策運営を迫られている。一時的ではなく持続する経済成長、長持ちする景気拡大を実現するには、構造改革を推進して、日本経済の体質を改善して「元気な日本経済」を実現するしかない。
「元気な日本経済」は個性と魅力ある「元気な地方」に支えられて実現する。そのためには、地方が持つ潜在的な力を十分に開花させていく必要がある。
日本経済は、輸出の増加を背景に持ち直し、平成14年度の実質経済成長率は1.5%のプラス成長となった。しかし、14年後半以降、輸出の増勢が弱まったことなどから、このところ景気は横這いで推移している。日本経済の体質を強化して、内需主導の自律的回復を実現するという依然大きな課題を残している。
また、平成14年度の名目経済成長率は0.7%のマイナスとなっており、依然としてデフレ(一般物価水準の継続的下落)が続いている。加えて、資産価格の下落も続いている。デフレは企業の実質債務負担を増加させ、地価の下落は担保価値を引き下げ、不良債権問題の解決を妨げている。想定以上に厳しい内外経済環境の下で、デフレ傾向は根強く、これを早期に克服することが依然大きな課題として残されている。
デフレ克服と同時に、構造改革によりプラスの実質経済成長率を達成することが重要であり、それに応じたプラスの名目経済成長率が実現される。
デフレ克服に向け、今後とも、政府は、日本銀行と一体となって強力かつ総合的に取り組む。日本銀行には、実効性ある金融政策運営の展開を期待する。また、デフレと不良債権問題との間には相互関係があり、より強固な金融システムの構築が必要である。政府は、「金融再生プログラム」に基づき、平成16年度に不良債権比率を半減させるという目標の実現に取り組んでいる。本年6月には、金融危機を未然に防ぐため、りそな銀行に対する資本増強を決定した。また、証券市場の構造改革、不動産市場の活性化、住宅・土地、金融・証券税制の軽減措置などを実施している。こうした取組を通じ、「改革と展望―2002年度改定」(平成15年1月24日閣議決定)で示したように、集中調整期間の後にはデフレは克服できると見られる。
構造改革が目指す目標は、「経済活性化」、「国民の『安心』の確保」、「将来世代に責任が持てる財政の確立」の3つを実現することである。大胆な規制改革などにより民間の持てる力を最大限引き出さなければ、元気な日本経済は実現しない。国民が老後や医療に不安を抱えていては、元気な日本経済は実現できない。財政が破綻するおそれがあっては、元気な日本経済は実現できない。
構造改革の勢いを維持するには、これまで以上に国民の生活に密着した分野での構造改革を行い、「日本が変わった」と国民が実感できるようにすることが必要である。このためには、「官から民へ」を明確に制度・規制改革として実現し、「国から地方へ」を、地域の視点・現場重視の発想により積極的に推進し、財政構造改革を進める中で予算配分を抜本的に見直しながら新しい予算編成プロセスの導入を実現しなければならない。
政府は、以下の「3つの宣言」・「7つの改革」に基づき、今まで以上に強力に構造改革を推進する。あわせて、経済情勢によっては、大胆かつ柔軟な政策対応を行うこととする。
宣言:民間の活力を阻む規制・制度や政府の関与を取り除き、民間需要を創造する。 |
日本経済の体質を強化して、内需主導の元気ある経済を創造するために、環境と経済の両立を図りつつ、未来への投資を通じて民間経済がもつ創意工夫を十分に発揮できる環境を整備する。具体的には以下の4つの改革に取り組む。
改革1:規制改革・構造改革特区
改革2:資金の流れと金融・産業再生
改革3:税制改革
改革4:雇用・人間力の強化
これらの施策のほか、起業支援を強化するとともに、戦略的な研究開発の実施、コンテンツ(情報内容)やIT産業等の持つ潜在力の顕在化等を通じて日本ブランドの確立を図る。「科学技術基本計画」に基づく施策を進め、生活支援技術を含む日本の明るい未来の創造に役立つ技術開発を推進するとともに、「e−Japan戦略II」に基づき第2期IT革命を推進する。また、WTO新ラウンドを推進しつつ、FTA(自由貿易協定)を推進する。さらに、日本の市場をグローバリゼーションに対応した構造とし、対日直接投資を促進することを通じて、消費者の利益と安全を重視しつつ我が国の国際競争力を強化する。環境産業の振興やエネルギー技術との連携を深め、循環型社会の進展を図る。
宣言:持続可能な社会保障制度を構築し、若者が将来を展望でき、高齢者も安心できる社会をつくる。 |
社会保障制度について、現状の制度を将来にわたって維持すれば、高齢化に伴い若年世代の負担が増加し、若年層の負担の重圧により経済の活力が阻害される懸念がある。また、少子高齢化の進行を背景として度重なる年金制度の改正が行われたことや世代間の不公平があることによって、国民の年金不信が強まっている。
21世紀型経済社会は、個人が健康に暮らし、自由な選択と自己責任の下で何度でも挑戦できる元気な社会でなければならない。老後の不安、病気の心配、倒産や失業へのおそれ、災害や治安への心配や食の安全への懸念が強いと、元気ある日本経済は実現できない。持続可能で効率的な制度を確立することなどにより国民の「安心」を構築することは、政府の責務である。
このため、世代間・世代内の公平を図り、持続可能で信頼できる「社会保障制度」に改革する。年金・医療・介護・生活保護を一体的にとらえ、制度設計を相互に関連づけて行う。
改革5:社会保障制度改革
また、雇用や中小企業のセーフティネットを確保する。様々な側面での生活の「安全」「安心」は国民生活の基礎であり、緊急事態対応体制の整備を含め、これを十分に確保する。
宣言:財政の信認を確保し、成果を重視する。 |
我が国は、大幅な財政赤字が続き、政府は巨額の債務残高を抱えている。近年の財政構造改革への取組を反映して、歳出規模は抑制されているものの、国・地方ともに財政赤字が拡大し、債務残高は高水準に達している。現在の制度・政策を続ければ、今後、債務が一層拡大し、財政破綻に至るおそれがある。
現行制度を維持する場合、公債残高の増加に伴う利払い費の増加、高齢化の進展による社会保障給付費の増加等により、今後、政府の規模は、趨勢的に増大していくこととなる。プライマリーバランスを黒字化する(過去の借金の元利払い以外の歳出は新たな借金に頼らない)など財政を健全化していくため、民間需要主導の持続的な経済成長を実現すると同時に、政府全体の歳出を国・地方が歩調を合わせつつ抑制することにより、例えば潜在的国民負担率で見て、その目途を50%程度としつつ、政府の規模の上昇を抑制する。
このため、歳出全体の改革を引き続き強力に推進するとともに、地方自治の本来の姿を実現する観点や国民への説明責任を果たす観点を踏まえつつ、以下の改革に取り組む。
改革6:「国と地方」の改革
改革7:予算編成プロセスの改革