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第2部 構造改革への具体的な取組

 第1部の3つの宣言を実現するため、以下の7つの分野で構造改革に取り組む。

1.規制改革・構造改革特区

 ───医療や子育てなどの国民生活に直結した分野や、ビジネスニーズの高い分野等で規制改革・構造改革特区を推進し、消費者の選択肢とビジネスチャンス・雇用の拡大を図る。また、事前規制の緩和、撤廃に併せて、事後チェック体制の充実を図る。

【改革のポイント】

(1) 医療・福祉・教育・農業など、官の関与の強いサービス分野の民間開放を促進することにより、消費者・利用者の選択肢の拡大を通じた多様なサービス提供を可能とするとともに、新規需要と雇用の創出を加速化する。

(2) 地方や民間から定期的に全国規模の要望及び構造改革特区の提案を受け付け、これらの項目については、「全国」あるいは「構造改革特区」で規制改革を強力に推進するとともに、構造改革特区においては、規制の特例措置の効果等を評価し、特段の問題のないものは速やかに全国規模の規制改革につなげる。

【具体的手段】

(1) 「規制改革推進のためのアクションプラン」(平成15年2月17日総合規制改革会議。以下、「アクションプラン」)の12の重点検討事項については、次のとおり改革を進める。

(1) 株式会社等による医療機関経営の解禁

 構造改革特区における株式会社による医療機関経営の状況等を見ながら、全国における取扱いなどについて更に検討を進める。(構造改革特区における株式会社の医療への参入については後述)

(2) 保険診療と保険外診療の併用の拡大

 特定医療費制度における高度先進医療について、一定の基準を満たした場合には、医療技術及び病院ごとの個別の承認を必要とせず、迅速に認める仕組みについて検討し、結論を得て、平成15年度中に措置する。また、医療技術の向上の観点から、高度先進医療への新技術の導入の迅速化を図ることにより、対象技術の範囲の拡大を促進する。

(3) 医薬品販売体制の拡充

 医薬品の一般小売店における販売については、利用者の利便と安全の確保について平成15年中に十分な検討を行い、安全上特に問題がないとの結論に至った医薬品すべてについて、薬局・薬店に限らず販売できるようにする。

(4) 新しい児童育成のための体制整備

 近年の社会構造・就業構造の著しい変化等を踏まえ、地域において児童を総合的に育み、児童の視点に立って新しい児童育成のための体制を整備する観点から、地域のニーズに応じ、就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設の設置を可能とする(平成18年度までに検討)。

 あわせて、幼稚園と保育所に関し、職員資格の併有や施設設備の共用を更に進める。

(5) 公立学校の管理・運営の民間委託等

 公立学校の民間への包括的な管理・運営委託について、早急に中央教育審議会で検討を開始する。特に高等学校中退者を含めた社会人の再教育、実務・教育連結型人材育成などの特別なニーズに応える等の観点から、通信制、定時制等の高等学校の公設民営方式について平成15年度中に結論を得る。

 株式会社等による学校経営については、構造改革特区における実施状況についてできるだけ速やかに評価を行い、検討を進める。

(6) 株式会社等による農地取得の拡充

 株式会社等の農地取得に関しては、改正農業経営基盤強化促進法に基づき、農業生産法人に対する株式会社の出資制限を緩和する措置を平成15年度中に実施する。

(7) 労働者派遣の医療分野への適用拡大

 医療機関における労働者派遣については、紹介予定派遣の方式により行うことを可能とし、平成15年度中に実施する。

(8) 大学・学部・学科の設置等の弾力化

 大学の校地面積基準については、構造改革特区における特例措置の状況等を踏まえ全国拡大を図ることについて検討を進め、遅くとも1年以内に結論を得る。また、大学を設置する学校法人の校地・校舎の自己所有要件の緩和については、平成15年度中に検討し、結論を得る。

 学部・学科の設置認可の弾力化について、本年度から施行された制度改正の実施状況等を踏まえ、今後更に検討する。

(9) 高層住宅に関する容積率の緩和

 都心居住の一層の推進を図るため、平成15年中に、都市計画制度の運用実態について総点検を行い、その結果を踏まえ、関連都市計画制度が積極的かつ円滑に活用されるよう、包括的な運用指針を策定するとともに、用途別容積型地区計画における住宅の容積率割増し算定方法の多様化を含め、容積率割増しに関する弾力的な運用を図る。

(10) 職業紹介事業における地方公共団体・民間事業者の役割の大幅拡大

 有料職業紹介事業に関する求職者からの手数料規制については、年収要件の大幅引下げ(年収1200万円超を例えば700〜800万円超へ)等を平成15年度中に可及的速やかに行う。

 ハローワークの職業紹介関係業務については、平成16年度から、例えば長期失業者就職支援などを示して、民間委託を拡大する。その際、成果に対する評価に基づく委託費の支給を行う。

 無料職業紹介事業については、地方公共団体、民間事業者、学校等とハローワークとの総合的連携の下に、地域の新たな取組として、若年者に対して職業に関する情報提供・コンサルティングから職業紹介までの幅広いサービスをワンストップで行うセンターを、平成16年度から設置する。

(11) 株式会社による特別養護老人ホーム経営の全国展開

 構造改革特区における公設民営方式またはPFI(民間資金等活用事業)方式による株式会社の特別養護老人ホーム経営の状況や、施設体系のあり方の見直しの状況を見ながら、全国における取り扱いなどについて更に検討を進める。

(12) 株式会社による農業経営(農地のリース方式)全国展開

 構造改革特区で認められた「農地のリース方式」の全国展開については、その実施状況及び地域農業への効果、影響等の検証を行い、その評価を踏まえて全国展開について検討し、平成16年末までの間で可能な限り速やかに結論を得る。

(2) 上記の12の重点検討事項については、今回の「アクションプラン」での取組を改革の一里塚として、引き続き規制改革に取り組み、その成果を本年末にまとめる総合規制改革会議の答申に盛り込む。

(3) 最終年度となった総合規制改革会議は、経済財政諮問会議との連携を強化しつつ、規制改革を更に加速させる。なお、来年4月以降の規制改革の推進のあり方について、今後、引き続き検討する。

(4) 6月以降も引き続き「規制改革集中受付月間」を設け、地方や民間から定期的に全国規模の要望及び構造改革特区の提案を受付け、「実現するためにはどうすればよいか」という観点から検討を行い、可能な限り多くの規制改革を全国又は構造改革特区において実現する。

(5) 構造改革特区を通じた規制改革の加速化

・構造改革特区における株式会社の医療への参入について、地方公共団体などのニーズに即し、自由診療の分野において、高度な医療を提供する病院又は診療所の開設を可能とするよう、速やかに関連法令の改正を行う。

・地方公共団体の構造改革特区計画の申請を四半期ごとに受付け、地方公共団体に適切な助言等をしながら、認定基準を満たす構造改革特別区域計画については、すべて速やかに認定を行う。

・構造改革特区で講じられた規制の特例措置の効果等を評価するための民間人からなる委員会を7月中に設立し、年内に評価方法や基準等を検討する。認定された構造改革特区において実施されている規制の特例措置について、評価のための委員会で特段の問題の生じていないと判断されたものについては、速やかに全国規模の規制改革につなげる。

(6) これまで実施した規制改革が、どれだけの新規参入や新規雇用を創出したか等を明確にし、その上で、十分な成果が生まれるよう改革を進める(成果主義の規制改革)。

2.資金の流れと金融・産業再生

 ───資金の面でも「官から民へ」流れが戻り、家計の豊富な金融資産が民間の成長分野に円滑に投資されるよう改革する。

【改革のポイント】

(1) 不良債権問題を解決し、間接金融を再生させ、金融システムを強化する。

(2) 証券市場の構造改革と活性化を推進し、直接金融の拡大・充実を図る。

(3) 郵便貯金・簡易保険、年金の資金の調達・運用やリスク管理のあり方等について、引き続き検討する。

(4) 財政の状況を総合的に明らかにしつつ、公的な支出の規律を高める。

(5) 政策金融のあり方について更に検討を進める。

(6) 公的債務のリスクを適切に管理する。

(7) 産業を再生させ、地域経済を活性化し、過剰債務問題を解決する。

【具体的手段】

(1) 金融改革

(1) 金融システムの強化

・金融システムの信頼を高め、金融機関が本来の仲介機能を回復するため、必要な検査監督体制の下、「金融再生プログラム」等の着実な実施を通じて、平成16年度に不良債権問題を終結させることを目指す。

・民間金融機関に対し、リスクを見極めそれに見合った金利を設定することを含め、収益力のあるビジネスモデルの構築を促す。

・事業会社をはじめ様々な担い手の金融分野への参入に関する環境整備を図る。

・公的資金を迅速に投入することを可能にする新たな制度の創設の必要性などについて検討し、必要な場合には法的措置を講ずる。

・金融機関の自己資本強化のための繰延税金資産の扱い方や関連する税制について引き続き検討を行う。

(2) 証券市場の構造改革と活性化

・郵便貯金や銀行預金など、元本保証の資産で運用する傾向を強めている家計貯蓄の証券市場への流入を促進し、リスクマネーの流れを拡大するため、「証券市場の構造改革と活性化に関する対応について」(平成15年5月14日証券市場活性化関係閣僚等による会合)の諸施策を着実に実施・検討する。

・国債の保有が民間金融機関に偏っていることは、国債価格の潜在的な不安定性や、それに伴うリスクをもたらしていると考えられる。そこで国債・地方債の商品性を向上させ、販売網を整備し、個人による長期的保有の増加など保有者層の多様化を図る。

(3) 公的部門における取組

・郵便貯金・簡易保険について、郵政公社による経営改革の状況を踏まえ、民間金融との役割分担、将来の金利上昇によるリスクへの対応、証券市場の活性化などの観点から、資金の調達・運用のあり方やALM(資産・負債総合管理)の充実について引き続き検討する。

・年金資金についても、その規模、リスク管理、及び資金運用のあり方について、社会保障制度改革の動きを踏まえつつ引き続き検討する。

・公的資金の用途の中には、市場のチェックを受けないこともあって、更なる効率化の余地があるものもあると考えられる。このため、特別会計、特殊法人、独立行政法人及び政府保証などの状況も含め、国の財政状況を国民に分かりやすい形で総合的に明らかにし、特殊法人の経営の見直しも含め、公的な支出の規律を高めることに役立てていく。

・中小企業のセーフティネットの充実など金融円滑化・多様化(不動産担保に依存しない手法の推進等)や産業再生のために政策金融を有効活用していく一方で、民間金融の再生を妨げることのないように、長期的に望ましい役割分担の姿に向けて、更に検討を進める。

・国債残高が膨大になる中で、公債市場の安定性を高めるとともに、資金調達コストを最小化していくために、公的債務の各種リスクを適切・専門的に管理するとともに、説明責任の充実を図る。

(2) 産業再生

(1) 産業面の構造改革

・不良債権問題を企業・産業の過剰債務問題と一体的に解決する観点から、過剰債務企業が抱える優良な経営資源を再生するために、産業再生機構、中小企業再生支援協議会、改正産業活力再生特別措置法等を活用し、企業の事業再構築、産業再編等による産業面の構造改革を促進する。

(2) 地域経済

・地域金融の側面では、中小・地域金融機関のリレーションシップバンキング(注)機能を強化し、中小企業の再生と地域経済の活性化を図る。

3.税制改革

 ───持続的な経済社会の活性化を目指し、将来にわたる国民の安心を確保する税制への改革を進める。

【改革のポイント】

(1) 「包括的かつ抜本的な税制改革」に引き続き取り組む。

(2) 社会保障制度改革と整合性をとって税制改革を行う。

(3) 「国と地方」の「三位一体の改革」と整合性をとって税制改革を行う。

(注) 金融審議会金融分科会第二部会「リレーションシップバンキングの機能強化に向けて」(平成15年3月)においては、「必ずしも統一的な定義は存在しないが、金融機関が顧客との間で親密な関係を長く維持することにより顧客に関する情報を蓄積し、この情報を基に貸出等の金融サービスの提供を行うことで展開するビジネスモデルを指すのが一般的である」とされている。

(4) 負担に対する国民の納得が得られるよう、納税と徴税の環境を整える。

【具体的手段】

(1) 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(平成14年6月25日閣議決定。以下、「基本方針2002」)の考え方を踏まえ、「改革と展望―2002年度改定」で掲げた次の事項を中心に、引き続き税制改革に取り組む。

・持続的な経済社会の活性化のための税制改革

・租税負担と社会保障負担の総合的な検討

・国庫補助負担金、地方交付税、税源移譲を含む税源配分のあり方

(2) 家計の金融資産を証券市場に振り向け、将来の成長に結びつけるために、金融資産からの収益を一体化して課税する方式に向けて検討を行う。

(3) IT化に対応した納税申告と税の徴収を進める。サラリーマンの申告納税の拡大・納税者ID制度等の検討によって、より信頼できる徴税と納税の環境を整える。

(4) 平成18年度までに、国と地方双方が歳出削減努力を積み重ねつつ、必要な行政サービス、歳出水準を見極め、また経済活性化の進展状況及び財政事情を踏まえ、必要な税制上の措置を判断する。

4.雇用・人間力の強化

 ───雇用については、何歳であっても、能力を開発し、拡大するサービス産業などで仕事の機会が得られる労働市場をつくる。特に、若年者の働く意欲を喚起しつつ、すべてのやる気のある若者の職業的自立を促進する。また、女性の能力発揮のための取組の推進を図る。さらに、高齢者の活力の活用を図る。教育については、義務教育から大学までの教育の質を高める。

【改革のポイント】

(1) 観光などサービス産業を中心として、雇用機会の拡大を図る必要がある。

(2) 雇用政策については、関係機関の連携、地域の自主性、利用者選択の拡大を図るとともに、民間事業者への委託など、民間の最大限の活用が重要である。特に、若年者に関しては、地域の主体的取組による民間活用に留意した新たな仕組みが必要である。

(3) 国民の求める安心の実現に向けて、雇用の維持努力とともに雇用機会の拡大、失業等に関連する適切な情報やサービスの提供が必要である。

(4) 義務教育の質向上を図るため、学校評価や学校選択の自由の拡大及び教員の意欲と能力に応じた処遇等が必要である。

(5) 大学教育の質向上を図るため、大学改革の着実な推進と、第三者機関による厳格な成果評価等による競争環境の整備が必要である。

【具体的手段】

(1) 雇用制度改革

・今後の時代を担う若年者の人間力強化のため、「若者自立・挑戦プラン」を推進する。その際、地域、企業、若年者の状況に十分配慮する。

・若年者について、現下のフリーター、無業者の増大に対処し、職業人としての自覚の涵養・職業意欲の喚起を前提として地方自治体、学校、民間団体、民間事業者との密接な連携・協力の下に、複数紹介、トライアル雇用や就職支援相談員(ジョブ・サポーター)を活用した一対一の個別総合的な職業相談・紹介体制を整備する。

・企業ニーズ等労働市場の状況に応じ企業実習と教育・職業訓練を組み合わせた若年者への「実務・教育連結型人材育成システム(日本版デュアル・システム)」を導入する。

・全国一律的な制度から、地域の個性や自主性を活かした雇用促進策へ転換する。地域の新たな取組として、自治体と地域の企業、学校、ハローワーク、民間事業者等の連携の下、その実情に応じ若年者のためのワンストップ・センターを整備する。

・長期失業者に民間事業者を活用して集中的な就職相談、効果的な職業訓練・職業紹介等を行う。その成果に対する評価に基づく報酬等の誘因を付与する。また、労働市場の状況を反映しつつ個人の選択を機能させた職業訓練等を行う。

・労働市場の環境整備のため、キャリア・コンサルティングを担う人材の育成・活用や産業のニーズに応じた職業スキル標準・カリキュラムの策定、職業能力評価制度の整備等を進める。

・社会貢献活動やワークシェアリング等、多様な雇用・就業機会の提供等を推進するとともに、育児休業の取得推進や保育サービスの強化・充実など、子育てをしながら働ける環境整備を推進する。

・「男女共同参画社会」の実現を目指して、指導的地位に女性が占める割合が2020年までに少なくとも30%程度になるよう期待し、平成15年度においては、関連情報のワンストップ・サービス化、ネットワーク化など女性のチャレンジ支援策に取り組む。

・障害者の雇用・就業を促進するため、トライアル雇用、能力開発、在宅就業の支援等を進める。

・国民の求める安心の実現に向け、一元的に雇用や失業関連の情報を提供する。

・旧国立研究所など公務員型独立行政法人について、その業務の内容により非公務員型独立行政法人化を進める。

(2) 雇用機会の創造

・サービス分野における規制改革や公的部門の外部委託の推進、情報提供、人材の育成支援、観光立国の実現及び休暇の取得促進・分散化等により、「530万人雇用創出プログラム」を着実に推進する。特に、サービスの生産を担う人材の質的強化は、サービスの品質や生産性を高め、競争力や付加価値の高いサービス産業の発展・創業を促進する上で重要である(具体的な対策例は別紙1参照)。

・公的サービスの外部委託を計画的に進め、NPO等を活用するほか、総合的な健康サービス産業、文化産業の創出などにより地域事業を創出する。

・「起業」による就業機会の拡大を図るため、ベンチャー企業向けの実践型就業実習の実施や創業・技術経営(MOT)の知識習得のための実効的カリキュラム・講座・ビジネス支援図書館の整備等により、総合的な事業化・市場化支援を推進する。また、創業塾を充実し若手経営者等による「第二創業」の支援を図る。

・大学における知的財産創出、大学発ベンチャー1000社計画や企業発(スピンオフ)ベンチャー支援等による研究開発型ベンチャーの創出、知的財産推進計画の推進、知的技術革新・産業集積の充実を一体的に推進する。このため、最低資本金制度の撤廃の恒久措置化、有限責任会社(LLC)・有限責任組合(LPS)の早期創設、全国レベルでの見本市の開催、起業化支援機能の強化、特許審査の迅速化、投資ファンドに対する支援策の改善等を行う。

(3) 義務教育改革等

(1) 義務教育改革

・義務教育面では、時代や社会の要請に応え、基礎・基本の十分な定着を図るとともに、コミュニティ・スクール導入に向けた制度整備や習熟度別少人数指導等、地域の実情や子供の個性に応じた多様な教育・指導方法の工夫を進め、子供の学習意欲の向上も含め「確かな学力」の向上を目指す。この一環として、教員の一律処遇からやる気と能力に応じて処遇するシステムへの転換を進める。

(2) 教育と雇用の連携等

・小中学校、高校等で、地域や企業等の協力を得て、就業体験、子供参観日(親の職場を子供が参観)などのキャリア教育を推進し、就業意欲を高める。また、体験・参加型の起業家教育を強化する。

・専門職大学院の設置等、専門職業人養成を目的とする高度で多様な教育機会を拡大するとともに、就学休業(キャリアブレイク)制度を推進する。

・人間力を養う柱となるとともに、食の安全・安心確保の基礎となる「食育」を関係行政機関等の連携の下、全国的に展開する。

(4) 大学改革

・国立大学の法人化に当たっては、中期目標の作成及び中期計画の認可に際し、大学の自主性・自律性を最重視する。また、監査・評価については、情報公開を推進しつつ、簡素化・効率化する。

・学部・学科設置及び定員配分等について、各大学の主体的・機動的な組織編成を可能とし、運営に関する大学の創意工夫を生かすなど、自由で競争的な環境をつくる。また、人事面で政府は極力介入しない。

・国立大学の法人化に当たっては、大学の特性に配慮しつつ独立行政法人に準じた予算化が行われることとなっており、事業運営と予算について、「宣言―実行―評価」のプロセスを確実なものとする。

・運営費交付金については、明確な基準に基づいて算定することとし、その際法人化される各大学の自助努力を阻害しない仕組みとする。施設費補助金についても、中期計画に基づき弾力的・効率的に執行する。

・教育については、大学への補助を一層重点的・競争的なものにするとともに、奨学金を充実する。

5.社会保障制度改革

 ───世代間・世代内の公平を図り、持続可能で信頼できる社会保障制度に改革する。

【改革のポイント】

(1) 経済と調和し、かつ、国民生活の安心を確保できる、持続可能な社会保障制度を確立することが、経済社会の活力の源である。このため、活力ある高齢社会を構築する中で、国民の安心を確保しながら、社会保障給付費の伸びを抑制し、国民負担率の上昇を極力抑制する。

(2) 年金制度は、現行制度のままでは、若年世代の負担が過重なものとなり、世代間のバランスを失することになってしまうことから、給付と負担の改革を行う。また、「生涯現役社会」や「男女共同参画社会」の理念に合致した制度に向けた改革を行う。

(3) 保険者の再編・統合、高齢者医療制度、診療報酬体系についての基本方針の早期具体化、増大する高齢者医療費の伸びの適正化方策や公的保険給付の内容及び範囲の見直し等の課題の早期検討・実施、「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(平成13年6月26日閣議決定。以下、「基本方針2001」)に盛り込まれた「医療サービス効率化プログラム(仮称)」の早期の完全実施など、医療制度改革を加速する。

(4) 年金・医療・介護・生活保護などの社会保障サービスを一体的にとらえ、制度の設計を相互に関連づけて行う。

【具体的手段】

(1) 社会保障給付費の伸びの抑制

 今後の一層の少子高齢化の進行の下で、政府の規模を抑制するとの方針を踏まえ、医療制度改革を加速するとともに、年金制度や介護制度について新たな改革を行い、持続可能な制度を確立し国民の安心を確保しながら社会保障給付費の伸びを抑制する。その際、自助努力や民間部門の活用を図ることが重要である。

(2) 年金制度の改革

 平成16年に予定される次期年金制度改正においては、後述の課題を念頭におきつつ、次の(1)〜(8)の基本的方針に沿った改革を行う。これにより、頻繁に制度改正を繰り返す必要のない恒久的な改革とする。

(1) 現行の給付と負担の水準では制度は維持できない。持続可能な制度を構築するためには、将来の現役世代の負担を過重にしないため、早期の給付調整を図ることを基本とする。その際、年金受給者や年金受給の近い者に対して、急激な変化をもたらさないよう配慮する。

(2) 保険料は引き上げざるを得ないが、将来の最終的な保険料については、国民負担率の上昇抑制と、将来の現役世代の過重な負担の回避という視点を重視し、決定する。保険料の引上げは早期に行う。

(3) 基礎年金の国庫負担については、平成12年年金改正法附則の規定を踏まえ対応する。

(4) 将来における負担を一定水準に固定し、既に年金を受給している者も含めて、人口や経済の状況変化に応じて給付を自動的に調整する仕組みの導入を念頭に置き、長期的な給付と負担の均衡を図る。

(5) 年金給付については、(4)にあわせて、片働き世帯を前提とした給付水準の見直しを行うとともに、高齢者の経済格差に配慮した給付抑制や負担のあり方についての検討を行う。

(6) 積立金については、その水準は将来に向けて、年金の支払に支障のない程度まで抑制する。積立金の運用は、独立した第三者機関で効率的に行い、受託者責任を厳正に適用する。

(7) 第3号被保険者制度の見直し、短時間労働者の年金適用、在職高齢者についての給付のあり方の見直しなど、女性や高齢者の就労を阻害せず、働くことに中立的な制度とする。

(8) 年金制度の未納・未加入者に対する徴収の強化を徹底する。

 また、以下の課題についても検討を行う。

(i) 基礎年金の負担の仕方は、現在、職業等によって異なっているが、基礎年金の役割・位置付けを明確にし、職業を問わず共通の負担の仕組みとなるよう給付の仕組みと併せて検討を進めること。

(ii) 将来の生涯現役社会を展望した支給開始年齢のあり方について、雇用と年金の連携を考慮しつつ、検討を行うこと。

(3) 医療制度の改革

 国民皆保険体制の下で、医療サービスの多様化・質の向上と患者による選択の拡大を図るとともに、公的医療費の伸びの抑制を図り、経済・財政とも均衡のとれたものとなるよう、持続可能性のある医療制度への改革を引き続き推進する。

(1) 本年3月に閣議決定した保険者の再編・統合、高齢者医療制度、診療報酬体系についての「基本方針」の具体化について実施可能なものから極力早期に実施していく。

(2) 増大する高齢者医療費の伸びの適正化方策や、公的保険給付の内容及び範囲の見直し等の「基本方針」以外の課題について、早期に検討を行い、実施する。

(3) 「基本方針2001」に盛り込まれた「医療サービス効率化プログラム(仮称)」について、工程表を改めて作成し、早期の完全実施を行う。

(4) 介護保険制度の改革

 介護保険制度については、給付費が増大する中、制度全般の検証を行い、介護保険が適用される給付の内容及び水準、施設・在宅の枠組みを越えた新しいタイプのサービスのあり方、施設サービスにおけるいわゆる「ホテルコスト」等給付と負担のあり方について検討を行い、必要な措置を講ずる。

(5) 社会保障サービスの一体的な設計

(1) 「社会保障個人会計(仮称)」の導入に向けて検討を進める。この場合、現役世代にとっても年金の給付と負担が分かりやすい仕組みを工夫し、基礎年金、報酬比例年金それぞれの給付と負担について、加入者個々人に情報提供を行う。

(2) 少子化の流れを変え、子どもを生み、育てやすい環境づくりに総合的に取り組むなど、次世代育成の支援を進める。

(3) 生活保護においても、物価、賃金動向、社会経済情勢の変化、年金制度改革などとの関係を踏まえ、老齢加算等の扶助基準など制度、運営の両面にわたる見直しが必要である。

(4) 医療保険や介護保険の保険料、医療や介護サービスを受けた場合の自己負担の所得基準などについて、世代間・世代内の公平の観点から、制度相互の関係を含め、一体的に見直す必要がある。

6.「国と地方」の改革

 ───「三位一体の改革」を推進し、地方が決定すべきことは地方が自ら決定するという地方自治の本来の姿の実現に向け改革。

【改革のポイント】

 「官から民へ」、「国から地方へ」の考え方の下、地方の権限と責任を大幅に拡大し、国と地方の明確な役割分担に基づいた自主・自立の地域社会からなる地方分権型の新しい行政システムを構築していく必要がある。このため、事務事業及び国庫補助負担事業のあり方の抜本的な見直しに取り組むとともに、地方分権の理念に沿って、国の関与を縮小し、税源移譲等により地方税の充実を図ることで、歳入・歳出両面での地方の自由度を高める。

 これにより、受益と負担の関係を明確化し、地方が自らの支出を自らの権限、責任、財源で賄う割合を増やし、真に住民に必要な行政サービスを地方自らの責任で自主的、効率的に選択する幅を拡大する。

 同時に、行政の効率化、歳出の縮減・合理化をはじめとする国・地方を通じた行財政改革を強力かつ一体的に進め、行財政システムを持続可能なものへと変革していくなど、「効率的で小さな政府」を実現する。

(1) 三位一体の改革によって達成されるべき「望ましい姿」

(1) 地方の一般財源の割合の引上げ

 地方税の充実確保を図るとともに、社会保障関係費の抑制に努めるなど、地方財政における国庫補助負担金への依存を抑制することにより、地方の一般財源(地方税、地方譲与税、地方特例交付金及び地方交付税)の割合を着実に引き上げる。

 なお、その際、国・地方の財政事情を踏まえるとともに、歳出の徹底した縮減・合理化に努める。

(2) 地方税の充実、交付税への依存の引下げ

 税源移譲等による地方税の充実確保、地方歳出の徹底した見直しによる交付税総額の抑制等により、地方の一般財源に占める地方税の割合を過去の動向も踏まえつつ着実に引き上げ、地方交付税への依存を低下させる。この結果、不交付団体(市町村)の人口の割合を大幅に高めることを目指す。

 また、課税自主権の拡大を図ることにより、地方団体や住民の自立意識の更なる向上を目指していく。

(3) 効率的で小さな政府の実現

 「改革と展望」の方針に沿って歳出構造改革を行うことに加え、「三位一体の改革」により、真に地方にとって効果・効率の高い選択を行うことを可能にすることを通じて、「効率的で小さな政府」を実現する。

 地方財政においては、現在、約17兆円を上回る財源不足が生じている。国・地方を通じた歳出の徹底的な見直しを行うなど財政健全化を図ることにより、プライマリーバランスを黒字化し、更に地方財源不足を解消することを目指す。

(2) 三位一体の改革の具体的な改革工程

(1) 国庫補助負担金の改革

 地方の権限と責任を大幅に拡大するとともに、国・地方を通じた行政のスリム化を図る観点から、「自助と自律」にふさわしい国と地方の役割分担に応じた事務事業及び国庫補助負担金のあり方の抜本的な見直しを行う。

 このため、「改革と展望」の期間(当初策定時の期間で平成18年度までをいう。以下、「6.『国と地方』の改革」において同じ。)において、別紙2の「国庫補助負担金等整理合理化方針」に掲げる措置及びスケジュールに基づき、事務事業の徹底的な見直しを行いつつ、国庫補助負担金については、広範な検討を更に進め、概ね4兆円程度を目途に廃止、縮減等の改革を行う。その際、国・地方を通じた行財政の効率化・合理化を強力に進めることにより、公共事業関係の国庫補助負担金等についても改革する。

(2) 地方交付税の改革

 地方交付税の財源保障機能については、その全般を見直し、「改革と展望」の期間中に縮小していく。他方、必要な行政水準について国民的合意を図りつつ地域間の財政力格差を調整することはなお必要である。

 また、国・地方を通じた歳出の縮減、必要な公共サービスを支える安定的な歳入構造の構築等を通じて、早期に地方財源不足を解消し、その後は、交付税への依存体質から脱却し、真の地方財政の自立を目指す。

 このような観点から、次のとおり取り組む。

(i) 国の歳出の徹底的な見直しと歩調を合わせつつ、「改革と展望」の期間中に、以下のような措置等により、地方財政計画の歳出を徹底的に見直す。これにより、地方交付税総額を抑制し、財源保障機能を縮小していく。この場合、歳入・歳出の両面における地方団体の自助努力を促していくことを進める。

・国庫補助負担金の廃止、縮減による補助事業の抑制

・地方財政計画計上人員を4万人以上純減

・投資的経費(単独)を平成2 〜 3年度の水準を目安に抑制

・一般行政経費等(単独)を現在の水準以下に抑制

(ii) 国の関与の廃止・縮小に対応した算定方法の簡素化及び段階補正の見直しを更に進めていく。また、基準財政需要額に対する地方債元利償還金の後年度算入措置を各事業の性格に応じて見直す。同時に、地方債に対する市場の評価がより機能するように取り組んでいく。

(iii) 現在、9割以上の地方団体が地方交付税の交付団体となっているが、三位一体の改革を進めることを通じ、不交付団体(市町村)の人口の割合を大幅に高めていく。

(iv) 税源移譲を含む税源配分の見直し等の地方税の充実に対応して、財政力格差の調整の必要性が高まるので、実態を踏まえつつ、それへの適切な対応を図る。

(3) 税源移譲を含む税源配分の見直し

 「改革と展望」の期間中に、廃止する国庫補助負担金の対象事業の中で引き続き地方が主体となって実施する必要のあるものについては、税源移譲する。その際、税源移譲は基幹税の充実を基本に行う。税源移譲に当たっては、個別事業の見直し・精査を行い、補助金の性格等を勘案しつつ8割程度を目安として移譲し、義務的な事業については徹底的な効率化を図った上でその所要の全額を移譲する。あわせて、「18年度までに必要な税制上の措置を判断」して、その一環として地方税の充実を図る。なお、必要な場合、地方の財政運営に支障を生じることのないよう暫定的に財源措置を講ずるものとする。

 15年度の義務教育費国庫負担金等の削減分についても併せて対応する。

 また、地方が納税者の理解を得ながら、課税自主権を活用して地方税の充実確保を図ることは重要な課題であり、課税自主権の拡大を図る。

 こうした三位一体の取組により、地方歳出の見直しと併せ、地方における歳出規模と地方税収入との乖離をできるだけ縮小するという観点に立って、地方への税源配分の割合を高める。その際、応益性や負担分任性という地方税の性格を踏まえ、自主的な課税が行いやすいという点にも配意し、基幹税の充実を基本に、税源の偏在性が少なく税収の安定性を備えた地方税体系を構築する。

 上記の諸施策について、フォローアップ(追跡調査)を行いつつ、三位一体の改革を強力に推進する。また、改革を円滑に実現するため、15年度予算における取組の上に立って、来年度予算の中で改革を着実に進める。

(3) 市町村合併の推進

 改革の受け皿となる自治体の行財政基盤の強化が不可欠であり、「市町村の合併の特例に関する法律」の期限である平成17年3月に向けて、市町村合併を引き続き強力に推進する。

7.予算編成プロセス改革

 ───財政構造改革を進めるに当たっては、予算の質の改善・透明性の向上が重要である。このため、事前の目標設定と事後の厳格な評価の実施により、税金がどのような成果を上げたかについて、国民に説明責任を果たす予算編成プロセスを構築する。

【改革のポイント】

(1) トップダウンの予算編成を更に強化し、歳出の思い切った重点化を図る。

(2) 政策目標を国民に分かる形で明確に示し(「宣言」)、目標達成のために弾力的執行などにより予算を効率的に活用し(「実行」)、目標達成の状況を厳しく評価する(「評価」)という予算編成プロセスの確立を目指す。

(3) 平成16年度予算において、新しい予算編成プロセスを「モデル事業」として試行的に導入する。

【具体的手段】

(1) トップダウンの予算編成の強化

・「改革と展望」において、主要な歳出分野についての複数年度にわたる指針をより明確に示す。

・「基本方針」等で内閣の経済財政に関する大方針を具体的に提示するとともに、予算の優先配分等の基本的な方針を明示する。

・予算編成は、そのスタート段階から歳出水準についての考え方など、全体像を明らかにしつつ行う。

(2) 新しい予算編成プロセスの確立に向けた基本的考え方

・各府省は、「基本方針」で示された大方針の下で、達成すべき政策目標(予算制約と両立するもの)を具体的に作成する。また政策目標は、事業の性格に応じ、可能な限り定量的なものとする。各府省は、政策目標との関連を明らかにしつつ予算要求を行う。

・各府省は、政策目標を達成するために、効率的な予算執行に努める。また、事業の性格に応じ、弾力的な予算執行を行う。

・目標の達成や執行の効率性について、執行段階及び事後の政策評価等を厳しく行い、その後の予算編成に結びつける。

・事前評価・事後評価のための科学的手法を開発する。また、各府省は、ABC(活動基準原価計算)等のコスト管理手法への取組を一層強化する。

・透明性を高めるために、発生主義会計等の民間企業会計手法の導入など、公会計制度の改革を進める。

(3) 平成16年度予算における「モデル事業」の試み

・各府省は、上記の基本的考え方に沿った第一歩として、モデル事業を検討する。その際、下記の要件に合致した政策目標を設定し、内閣府と意見交換の上、ふさわしいものについては、モデル事業として概算要求を行う。経済財政諮問会議で、当該事業について報告する。

(i) 定量的な達成目標であり、達成期限・達成手段が明示されていること。

(ii) 何をもって「達成」とするか、評価方法が提示されていること。

(iii) 目標期間は1 〜 3年程度とし、各年度ごとの達成目標が明らかにされていること。

・政策目標を効率的に達成するため、事業の性格に応じ、予算執行の弾力化を行う。各府省は、弾力化に伴う効率化に応じ、これを予算に反映する。

・複数年度にわたるモデル事業については、国庫債務負担行為等の活用により、複数年度にわたる予算執行に支障のないようにする。

(4) 「モデル事業」の事後評価

・計画期間終了後及び各年度ごとに、目標の達成状況等について政策評価や予算執行調査等の評価を行い、国民への説明責任を果たす。そして、今後の予算編成プロセスの改革に向けた検討材料とする。


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