この1年、政府は「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(平成13年6月26日閣議決定)」(以下、「基本方針」という)を起点として広範な構造改革を推進するとともに、景気・雇用情勢に適切に対応してきた。こうした取組みにより悪化傾向を続ける経済と財政のトレンドに、一定の歯止めをかけることに成功した。
この1年の成果の上に立ち、経済と財政の改善傾向をさらに確実なものとするとともに、国民が将来を安心できる確固とした経済社会を構築するために、新たな段階に歩を進める。
先ず第1に、税制改革や地方行財政改革、社会保障制度改革などを着実に推し進め、「経済社会の活力」を高めるとともに、「全ての人が参画し負担し合う公正な社会」を構築していく。
第2に、「負担に値する質の高い小さな政府」を実現するために、歳出改革を加速する。
第3に、この一両年の経済運営における最重要課題である「デフレの克服」を目指し、政府・日本銀行が一体となって強力かつ総合的な取組みを行うとともに、構造改革特区の創設などからなる「経済活性化戦略」を推進する。こうした取組みにより、日本経済を強い産業競争力に裏打ちされた「民間需要主導の本格的な回復軌道」に乗せる。
改革第2段階においては、これまでの1年を上回るさらに困難な諸課題に、官民挙げて取り組んでいくことが求められている。本方針は改革第2段階における「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」を明らかにするもの(いわば「基本方針第2弾」)である。
政府は、昨年6月、構造改革の基本戦略である「基本方針」を決定した。その内容は、経済社会の活性化を目指した「7つの改革プログラム」、社会資本整備・社会保障制度・地方行財政の構造改革など広範かつ抜本的なものである。「基本方針」は「改革なくして成長なし」、「民間でできることは民間に、地方でできることは地方に」の考え方の下、長期にわたり低迷を続ける経済、金融機関の不良債権問題、大幅な財政赤字と膨張する政府債務など、経済財政全般の諸問題を構造改革を推進することによって克服することを目指す方針を示した。
その後、財政面では、同8月に、14年度概算要求基準において改革断行予算の枠組みを示すとともに、同12月には、我が国経済の現状及び見通し等を踏まえた14年度予算の基本方針と主要分野毎の方針等を内容とする「予算編成の基本方針」を策定した。そして、こうした改革への取組みを具体的に反映した14年度予算が編成された。
また、「基本方針」で示した諸改革を早急に推進するため、改革工程表(同9月)によって、500以上の事項について、具体的なスケジュールを示した。
さらに、本年1月には、「構造改革と経済財政の中期展望」(以下、「改革と展望」という)を決定し、構造改革を推進することにより中期的に実現を目指す経済社会の姿(2004年度以降、実質11/2%程度以上、名目21/2%程度以上の成長が可能等)と、財政健全化の道筋(「政府の大きさは現在の水準を上回らない」、「2010年代初頭にはプライマリーバランスが黒字化」等)を示した。
政府は、構造改革を推進する中で、昨年9月の米国同時多発テロ事件等による景気の悪化、我が国経済のデフレの進行、失業率上昇などを受けて、同10月には、雇用・中小企業等に係るセーフティネットの充実を中心とした「改革先行プログラム」を、また、同12月には構造改革を更に加速するとともに、デフレスパイラルを回避するため「緊急対応プログラム」をそれぞれ決定し、着実に実施している。また、本年2月には、デフレ状況が続く中で、不良債権処理の促進、金融システムの安定など金融面での対応を内容とする「早急に取り組むべきデフレ対応策」をとりまとめた。
現在、我が国の景気は、依然厳しい状況にあるが、在庫調整の進展や海外経済の回復傾向のなか、上記両プログラムに伴う2回の補正予算編成を含め各般の措置を講じてきたこともあって、ようやく底入れを迎えた。しかし、雇用・所得環境は依然厳しく、不良債権問題の正常化やデフレの解消に向けた取組みが引き続き重要な課題である。また、大幅な財政赤字の存在は、内外から我が国経済に対する不安を惹起している。
今後、この1年の成果の上に立ち、改革第2段階では、経済と財政の改善傾向を確実なものとするため、これらの諸課題に取り組んで行かなければならない。
経済財政諮問会議は、本年初より、「改革と展望」が示す持続可能で活力ある経済社会の構築を目指して、(1)経済・産業の再生に向けた「経済活性化戦略」、(2)転機を迎えている経済社会の活力を引き出す「税制改革の基本方針」、(3)歳出を厳しく抑制し「負担に値する小さな政府」を目指す「歳出構造の改革」及び(4)15年度財政運営について審議してきた。
第1に、経済の活性化戦略について、特に、産業競争力再生の観点から6つの戦略(技術力、人間力、経営力、産業発掘、地域力、グローバルの6戦略)と計30の具体的行動計画を提示した(第2部)。これは、これまで示された「基本方針」、「改革と展望」などと併せて、構造改革の一部となるものである。この活性化戦略のポイントは、(1)高い技術力や知識力を活かし、経営資源と技術資源の「選択と集中」を行うことが、産業競争力を強化し、(2)規制改革を通じた「民業拡大」が新たな市場を創造し、消費者の潜在需要を実現することである。この「選択と集中」、「民業拡大」が戦略の基本思想である。
第2に、税制改革である(第3部)。今回の税制改革では、21世紀にふさわしい包括的かつ抜本的な改革を行い、広く、薄く、簡素な税制を構築することなどを目指す。この改革は、(1)日本経済の活力の回復を最重視する、(2)多様なライフスタイルの下で、国民の一人一人が個性と能力を十分に発揮する、(3)歳出改革と一体として進める、(4)社会保障制度改革と整合性をとって進める、(5)地方行財政制度の改革と一体として進める、(6)すべての人・企業が公正に負担すると同時に、真に必要な場合には、低所得層等に配慮する、という6つの視点に立って、検討を行うものである。
第3に、歳出構造の改革である(第4部)。歳出構造の改革は、経済の活性化や大幅な財政赤字への対応において必要不可欠である。具体的には、(1)公共投資の配分の重点化・効率化等の観点からの社会資本整備の見直し、(2)「生涯現役社会」や「男女共同参画社会」など社会の変化に対応した社会保障制度への変革、世代間・世代内の公平、給付と負担のバランス等の課題を踏まえた持続可能な制度の構築、(3)国の関与の縮減と地方の権限と責任の拡大等の観点から地方行財政改革を強力かつ一体的に実施すること、さらに、(4)食料産業の全体を視野に入れた改革、民間委託・PFI等を通じた公的部門の生産性向上・効率化、「官から民へ」の促進、等である。
第4に、本年1月の「改革と展望」を踏まえ、上記第1から第3の改革を前提に中期的な経済財政運営の方針を示すとともに、経済状況とそれへの対応及び当面の経済財政運営の考え方を示す(第5部)。「改革と展望」で示した中期的な歳出改革(質の改善と歳出抑制)を加速するとともに、「経済活性化戦略」、経済社会の活力を引き出す包括的かつ抜本的な「税制改革」を三位一体で推進することなどにより、中期的に民間需要主導の着実な経済成長を実現する。
また、底入れしている景気の下で構造改革を進め、デフレを克服しながら民間需要主導の持続的な経済成長につなげていくことにより、経済の活力を再生する。
15年度予算は、活力ある経済社会と持続的で安心できる財政構造の実現に向けての試金石となる。総額は厳しく抑制しつつも、経済の活性化戦略に沿った「選択と集中」による大胆な資源配分を行うため、歳出を「根元」から変革する必要がある。