2 地方債協議制度への移行

(1) 地方債協議制への移行

 地方債許可制度については、平成9年の地方分権推進委員会の第2次勧告において、「地方債許可制度については、地方公共団体の自主性をより高める観点に立って廃止し、地方債の円滑な発行の確保、地方財源の保障、地方財政の健全性の確保等を図る観点から、地方公共団体は国又は都道府県と事前協議を行うこととする。」とされたことを踏まえ、平成10年の地方分権推進計画において、許可制度の廃止と協議制度の主な内容が閣議決定され、平成11年に成立した地方分権一括法(「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成11年法律第87号))において、地方財政法や地方自治法等の関係法律の改正が行われた。施行時期については、財政構造改革との関係等から平成18年から施行することとされた。

 また協議の相手先、スケジュール等の協議手続等の枠組み、許可団体への移行基準やその算定方法を定める地方財政法施行令の一部を改正する政令は、平成18年2月3日に公布された。

 協議制度のポイントは、財政状況が健全な地方公共団体は、総務大臣又は都道府県知事に協議を行えば、仮にその同意がなくとも、あらかじめ議会に報告して地方債を発行できる、という点である。

 地方公共団体は、協議において総務大臣等が同意をした地方債については、当該同意に係る公的資金を借り入れることができる。また、同意のある地方債についてのみ元利償還金が地方財政計画へ算入されることとなっている。

 その一方で、実質収支の赤字が一定以上大きい団体、公債費等の比率が一定以上の団体、赤字公営企業等は、地方債を発行するときは総務大臣等の許可を受けなければならないこととして、早期の財政健全化への取組を促すための早期是正措置を導入することとしている。

 普通会計の実質収支の赤字比率に係る許可団体移行の水準は、標準財政規模に応じ、その2.5%から10%の間で段階的、連続的に率を設定されている(都道府県、大都市、標準財政規模が500億円以上の市で2.5%、200億円規模で5%、50億円未満で10%)。

 また、公債費等の負担を測る指標として、従来の起債制限比率について一定の見直し(満期一括償還方式の地方債に係る減債基金積立額の比率への反映ルールの統一、公営企業の元利償還金への一般会計からの繰入金の算入等)を行った新たな指標として、「実質公債費比率」を導入し、実質公債費比率が18%以上の団体は許可団体となることとされた。

 また、赤字公営企業の赤字比率(対営業収益)が10%以上の公営企業については、その事業に係る地方債の発行について許可を要することとされた。

 なお、地方債協議制度への移行に伴い、地方債の手続についても、市町村分に係る財務事務所等の市町村ヒアリングを原則として都道府県ヒアリングに移行する等の簡素化を行うこととしている。

 また、地方債計画についても見直しを行い、退職手当債制度の改正や財政健全化債の行政改革推進債への移行に加え、国の予算等に基づく貸付金を財源とする従来の特定資金枠外債等についても地方債計画に記載し、いわゆる枠外債の原則解消を図っている。

(2) 財政投融資改革、郵政民営化と地方債の市場化の推進

 財政投融資改革や郵政民営化に対応し、地方債の資金について、市場での調達の拡大を図る地方債の市場化の推進の必要性が高まっている。

 財政投融資改革においては、財政融資資金については、郵便貯金・年金積立金の全額が資金運用部に預託される制度から、特殊法人等の施策に真に必要な資金だけを市場から調達する仕組みへと抜本的な転換を図ることとされ、平成16年度予算編成の基本方針において、「財投改革の趣旨を踏まえ、(中略)地方分権を推進する観点からも、地方公共団体ごとの資金調達能力に配慮しつつ、地方債計画における政府資金等の公的資金の見直し・縮減を図る」とされるなど、公的資金の重点化が図られることとなった。また、財政投融資改革において、郵便貯金、簡保積立金は、平成13年4月以降は自主運用を行うこととされたが、財政力の弱い地方公共団体の資金確保のため、自主運用開始後の郵便貯金、簡保積立金は、地方債計画及び財政投融資計画の枠内で、地方公共団体に対しては例外的に、直接融資を行うこととされ、平成13年度から地方債計画上、郵貯資金及び簡保資金が、平成15年度からは、郵政公社資金の区分が設けられていたが、郵政民営化において、現行の政府資金としての郵政公社資金は平成19年度分までで廃止されることとされている(なお、平成18年度地方債計画においては、郵政公社資金の平成18年度までの原則廃止を前提として、大幅な縮減が図られている。また、既往の郵貯資金及び簡保資金については、日本郵政公社資産の承継法人として設立される独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構が保有し、管理することとされている。)。

 このような財政投融資改革や郵政民営化、地方分権の推進等を踏まえ、公的資金の縮減・重点化に対応し、市場での調達を拡大する必要性が高まっている。特に、市場公募債については、近年その発行量及び発行団体の拡大が図られるとともに、商品性の向上と多様化が進められているところである。具体的には、平成14年において、地域住民の行政参加意識の高揚とともに、地方債の個人消化及び資金調達手法の多様化を図る趣旨から「住民参加型市場公募債」の発行が、また、平成15年には、発行単位の大型化による安定的かつ有利な資金調達を図るため、地方財政法第5条の7の規定に基づく全国型の「共同発行市場公募債」の発行が開始されたほか、個別団体において20年債、30年債等の「超長期債」が発行されている。

 地方債計画における市場公募資金は、財政投融資改革前の平成12年度において、16,100億円であったものが、平成18年度には35,000億円と18,900億円の増加となっている。全国型市場公募地方債の発行団体については、28団体から38団体に10団体増加している。また、住民参加型市場公募債については、平成13年度1団体、10億円から、平成18年度110団体、3,600億円に増加する予定である。

 なお、こうした地方債の市場化を推進し、より有利かつ安定的な資金調達を図るためには、地方公共団体による一層の情報提供やIR活動の推進が極めて重要になってきていると考えられる。

 平成17年度においては、引き続き、全国型市場公募地方債発行団体、財団法人地方債協会及び総務省が合同して全国型市場公募地方債についてのIR説明会を開催しているほか、個別の団体においてもIR説明会の開催数が前年度よりも増加しており、平成17年12月末時点において12団体で15回開催されている。

 また、地方債の市場化を推進するに当たって、地方債の一般債振替制度(電子決済制度)への移行が、重要な課題の一つである。

 一般債振替制度は、地方債を含む一般債の権利移転を、従前の登録債制度から、振替機関や口座管理機関が備える振替口座簿における残高の増減額記録により行う「振替債」として取扱う新しい電子決済制度である。投資家のニーズに応え、各種有価証券の決済の迅速化と経費削減に資するものとして、政府として国際競争力のある金融市場を再構築していく観点から推進しているものである。国債については平成15年度から既に実施されているが、一般債については株式会社証券保管振替機構を振替機関として、平成18年1月から制度の運用が開始された。

 地方債は発行体としては数が多く、地方債の一般債振替制度への円滑な移行は重要な問題であるが、47都道府県、14大都市のほか、一般市町村でも証券方式の地方債を発行する団体のほとんどが振替債への移行に同意しており、平成18年1月以降、すべての全国型市場公募地方債は振替債で発行される予定となっている。