学研エデュケーショナル
「ものづくり企業、ナブテスコ(株)が、様ざまな教育コンテンツを持つ学研のノウハウを取り入れ、CSRの一環として企業が自社事業(製品・サービス)をテーマとしたプログラミング教育を行うモデルを構築する。
なお本講座は自動ドアの製造工場で行う。「社会科見学」と「プログラミング講座」をミックスさせ、教育課程(5年生社会科「我が国の工業生産」)を強く意識して設計した。
■学校側のメリット
1.プログラミングを通じて深く学べる、小学校5年生社会科「我が国の工業生産」
・企業の優れたモノ(自動ドア各種など)が使える、見せられる
・業界1の開発者からしくみが聞ける
・ものづくり現場の生の声が届く(くふうや苦労)
2.教員の負担軽減
・社会科の授業に役立てられる
・「社会科見学」+「プログラミング」という今回のモデルであれば、教員は評価する立場で参加できる。
また、児童といっしょに授業を受けることで、プログラミングのスキルが身に着けられる
3.費用負担の軽減
・プログラミング教育の環境整備ができていなくても講座が受けられる
・本来高額となるロボットプログラミングが体験できる
■CSR活動を行う企業側のメリット
・積極的なCSR(地域貢献、次世代育成)
・自社イメージ、自社ブランドの向上
・社員教育の一環
CSR活動を行う企業と学校・教育委員会の間に、学研エデュケーショナルが入り、お互いが動きやすい体制をつくる。
「学研 もののしくみ研究室」とは
学研エデュケーショナルが、カリキュラムやテキストを作り、学習塾、パソコン教室、学研教室などに販売するロボットプログラミング講座の名称。対象は小学校3年生以上。2016年4月にスタートし、2017年11月現在、全国500教室以上で展開。もののしくみを学び、組み立てたロボットをプログラミングして制御する。
学研グループ内企業「学研教育みらい」の顧問を通じて、学校や教育委員会と連携を行う。また、ナブテスコ総務部とミーティングやメールでやり取りし、講座を具体化。開発者と講座内容の詳細を決定した。
※メンターの母集団である「ナブテスコ株式会社」は、弊社のロボットプログラミング講座「もののしくみ研究室」の1テーマの取材先である。
ナブテスコ株式会社
自動ドアの国内シェアbPの「ナブコ自動ドア」をはじめ、電車のブレーキやドア飛行機のフライトコントロールシステムなどを開発・製造している。「うごかす。とめる。」技術を活かしたものづくりメーカーである。
小学校5年生が「我が国の工業生産」を学ぶ直前であり、自由研究を行う夏休みに講座を行った。
工場内にポスターを掲載(ほか社内メールなどを活用)
兵庫県神戸市内 甲南工場ほか2工場と本社(東京都)にて募集
■実施形態:4ステップに分けて実施
■研修にかけた時間
・実演研修は2017年7月5日13:00~17:00と7月20日13:00~17:00の2回実施した。
・直前リハーサルは2017年8月1日13:00~17:00に実施した。
・クラウドを活用し、各自のタイミングで研修を可能とした。
■習熟具合をはかる仕組み・工夫
eラーニングで全問正解しないと終了できないこととした
実演研修終了後には、参加者にアンケートを実施し、習熟度を確認。
STEP1映像研修は、普段「もののしくみ研究室」で使用しているものを一部変更したものである。
学習塾で講座を行う場合、この映像通りにやれば講座はできるものとなっている。
ナブテスコ社は、教育に慣れていないため、eラーニングで補足した。
また、STEP2でチーフメンターによる実演実習を行った。一部学習塾でもこの方法を取り入れている。
しかしながら、この段階でメンターの不安が大きかったため、STEP3と同時に「学研教室メソッド」であるリーダー育成法を展開した。リーダー的役割をになう人物にチーフメンター同様の講座を行っていただき、何度も失敗を重ね、やる気を高め問題点を明確化する方法である。
※学研教室は全国15000教室ある、算数、国語を中心としたフランチャイズ教室。
この方法が成功し、メンター一同の自主勉強会が開かれ、「よいものをつくる」というゴールにめざして進めるようになった。以下、4つのSTEPである。
↑映像研修 もくじ
↑eラーニングのようす
本物の自動ドアに施されている工夫をプログラミングで再現しながら学べるテキストを制作
(例)自動ドアには、どんな種類があるか → センサー式、タッチスイッチ式など
開ききってから閉まり始めるまでの時間は → およそ2秒
それはなぜか → 安全性と省エネ(空調)を考えて
自動ドアが開くスピードと閉まるスピードに違いはあるか → 閉まるときのほうが遅い
開くときのほうが速いはなぜか → ストレスを感じさせないため
閉まるときのほうが遅いのはなぜか → 安全性を重視するため
発表を行いやすくなるよう、最終ページにフリースペースを設けた
事故がないように、また、急病人が出たときの対処法などにも備えた
運営マニュアルで、注意すべきところを全員で確認した
■講座の実施日程:2017年8月2日(水)、8月4日(金)
■参加児童の学年、選出または募集方法、人数、講座進行担当者の属性、各回の参加メンター数
1コマ目 ショールーム・工場見学
↑動くしくみがわかる、カバーをはずした自動ドアの前で説明
2〜3コマ目 プログラミング講座初級編
4〜5コマ目 プログラミング講座応用編
その他ナブテスコ、学研の株主向け情報誌など
(※画像割愛)
・これからもプログラミングを広める活動を続けてください。
・プログラミング講座で機械のしくみがよくわかりました。
・ショールームや工場見学ができて楽しかったです。
※その他、「楽しかった」「また参加したい」というポジティブな反応多数
・初めてのプログラミング。最初は不安でした
・悩んだ分、児童のみなさんと同じ目線で取り組めました。
・子どもの趣味や得意なことを聞き出し、信頼関係を築いた。
・個人で行う研修(映像、eラーニング)は、こういったイベントでは効率が悪い。
・子どもの顔色が読めるよう努力した。
※サブメンターには外国人がおり(日本語検定1級程度の力を持っていて大人との通常会話には問題はない)、子どもとの会話(速くて、文法が乱れていて、配慮がない会話)についていくのは難しいのではないかという恐れがあった。しかし、作品の完成という共通した目的があったこと、子どもの表情をしっかり見たうえで自分がなすべきことを判断する能力が高かったため、十分なコミュニケーションがとれていた。
・企業と連携した企画という点でプログラミング体験以上に得るものの多い講座であった。
・少人数のグループに対して指導者がいてくださることで子供たちの活動が停止することなくやりたいことが実現できているようで、どの子も笑顔で楽しそうでした
・工場見学やショールームなどプログラミングの授業以外もとても勉強になったと思います。
・ナブテスコの方々など、とても丁寧に教えていただけて嬉しかったです。
学校の教員(特に小学校)に指導させるのは無理。英語教育のように、教員が中〜大まで学習してきたならともかく、まったく新しい内容なので、専門スタッフ・機材が多数必要です。(高羽小学校稲垣校長先生)
本事業のような具体的なカリキュラムの提示が必要だと思います。そのためにも、このような実践研究は大きな価値があると思います。(井吹西小学校姫野校長先生)
・弊社の講座では、難しめの内容のほうが満足度が高いという結果が出ているため、実証事業でも「やや難しめ」になるように設定した。結果、95%がプログラミングも講座も楽しかったという回答を得た。
・講座後半に「自分が作りたいものを作る」と明確に示し、昼休憩のときにアイディアを出すよう声をかけた。児童全員が自分のアイディアを取り入れた作品が作れたのは、ショールームや工場などに工夫された自動ドアが多数あったことも影響していると考えられる。
・児童4人につき、サブメンターが1人ついたため、児童にはストレスが少ない講座になった。その一方メンターに頼りすぎてしまったと考えられる。
・交通渋滞によるスタートの遅れや、児童の貧血などのトラブルがあり、時間の管理がうまくいかなかった。
・ナブテスコ社との打ち合わせの結果、内容が濃くなっていったこと、サブメンターの役割を増やしたことなどはメンターの不安を高めた可能性が高い。
・小学校とは良好な関係を築けた。神戸市立高羽小学校では、今回使用した教材を、だれもが自由に
触れられる環境を作った。目的は次の3点である。
1 参加した児童が、もっとプログラミングをしたいと考えたときにすぐできる
2 参加しなかった・できなかった児童に、プログラミングについての興味を少しでも持ってもらう
3 学校の先生に対して、プログラミングについて勉強の機会にしていただく
この結果がどうでるかも含めて、引き続き連絡をとっていく。
さらに、今後、別の形で講座ができないか提案をしている。
・井吹西小学校でも、今回のような講座がある場合は知らせてほしいとの連絡を受けている。
高羽小学校に置かれたキット。 作品は「木をつつくキツツキ」 自動ドア以外も作れる。
・教育とほとんど関わりがない企業だったため、「アクティブ・ラーニング」、「試行錯誤」といったあたりまえのことが講座直前まで、まったく受け入れていただけなかった。
・「応募」で集めたメンターだったが、業務命令でメンターをやらされた人もいた。しかし、企業ブランドが関わっているため普段教育に携わっている塾・教室よりも熱が入っているように感じた。手抜きをせず、ひとつひとつ確認作業を行うところなど、教育関係者でないことが逆に良い方向に向かったかもしれない。
・メンター同志が自発的に集まり、勉強会を開いたという報告も受けている。
講座内容は企業イメージに関わることなので、企業側も深く関わることになり、一般の講座とは異なる強いこだわりが出てくる。しかし、そのこだわりこそが企業や児童の満足度を高めたのではないかと考えている。
また、ナブテスコ社から翌年も続けたいとの意思が確認できたので、本講座は成功だったといえるだろう。
神戸市教育委員会とはこれまで学研グループで何度もご協力をいただいていたが、今回は教科書の採択時期であったこともあり、一定の距離をおかなければならず、連絡と報告の関係となってしまった(グループ会社で教科書を作っているため)。
今後、今回のような試みを行うときには、しっかりとした関係をつくりたい。
・教育と関わりがほとんどない企業だったため、講座についてのイメージが働かないようだった。その結果、講座前に不安を抱えているメンターが多かった。今回、講座全体を通して映像に収めたため、今後はイメージを伝えるのは容易になると思われる。
・企業単位として動くプロジェクトなので、メンターをできる限り効率よく育成しなければならない。こちらから何度も足を運んで不安を解消しなければならないだろう。
・研修(概要説明) → 映像&eラーニング → 研修 という順番で行ったほうがに不安をあおらず効果的だと考えられる。
・結果として、弊社が想定しているものよりも良い講座となった。これは、メンターひとりひとりの資質や能力が高かったこともあるが、自主的な勉強会を行いチームとしてまとまっていたことも大きい。
今回の講座に関して実施校の校長先生から、満足していると回答を得た。しかし、もし学校の授業でやるには5年生全員が参加できるものでないと難しいとのご意見をいただいた(今回は応募・抽選)。
これは、サブメンターを増やせば可能であるが、メンター1人に対し、何人の児童が適切なのか引き続き調査していきたい。
また、今回交通渋滞で工場への到着が遅れた。今回のメンターは教育事業に携わった経験がないので、時間についての応用がききにくい。講座の内容で省けるところをつくっておき、応用がきかせられる内容にすることを検討している。
講座を実施した時期は、夏休みである。実際に企業のCSR活動費(次世代教育)は夏休みに向けた予算どりをしていることが多く、育成機関や講座の日程が重なってしまうことが考えられる。
その集中に応えるため、学研内で現在チーフメンター(メンターのためのメンター)を育成している。
なお、メンターに適した資質は、弊社では次のように考えている