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  統計委員会

府 統 委 第 8 号
平成22年1月25日


総 務 大 臣
   原 口  一 博 殿

統 計 委 員 会 委 員 長   
樋 口  美 雄


諮問第21号の答申 国民生活基礎調査の変更について


 本委員会は、国民生活基礎調査(以下「本調査」という。)の変更について審議した結果、下記の結論を得たので答申する。



  1.  承認の適否
     統計法(平成19年法律第53号)第10条各号の要件に適合しているため、変更を承認して差し支えない。
     ただし、以下の「2 理由等」で指摘した事項については、修正が必要である。
     
  2.  理由等
    (1)  調査事項
     調査事項の追加
    (ア)  学歴の追加(世帯票)
     厚生労働省は、世帯票において、世帯員ごとに最終学歴又は在学中の学校を新たに把握する計画である。
     これについては、学歴が世帯員に関する基本的な情報であり、健康状態、所得、貯蓄等に関する調査事項とクロス集計することにより、従来とらえられなかった有用な情報が得られると考えられること、また、調査事項は簡素であり、報告者負担の観点での問題もなく、平成20年7月に実施された国民生活基礎調査試験調査(以下「試験調査」という。)の結果を見ても特段の支障は認められないことから、適当である。
     
    (イ)  同居していない者の人数の追加(世帯票)
     厚生労働省は、世帯票において、単身赴任等の特定の事由で同居していない者に関し、従来、その有無のみを事由別に把握してきたが、新たに、同居していない者の人数を把握する計画である。
     これについては、家計支出額等とクロス集計することにより、同居していない者の人数に応じた家計負担の相違などの従来とらえられなかった有用な情報が得られると考えられること、また、人数の記入が、報告者負担の過度な増加につながるとは考えられないことから、適当である。
     ただし、単身赴任や社会福祉施設への入所等で世帯を離れている者について、結婚等で新たに世帯を構えた者との区別を用語上明らかにするため、調査票の「同居していない」という用語を適切な表現に改めるほか、単身赴任や社会福祉施設への入所等で世帯を離れている者として、計上されるべき者がより明確になるよう、調査票の説明を変更する必要がある。
     
    (ウ)  健診後の特定保健指導等の状況の追加(健康票)
     厚生労働省は、健康票において、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)に基づく特定保健指導等(注)の実施状況を新たに把握する計画である。
     これについては、特定保健指導を受けた者及び勧められたにもかかわらず受けなかった者の属性を分析することなどにより、特定保健指導の円滑な普及のために有用な情報が得られると考えられること、また、調査事項は簡素であり、報告者負担の観点での問題もないことから、適当である。
    (注) 特定保健指導は、40歳以上74歳以下の者を対象としているが、健康票では、その他の者(ただし20歳以上)に対する任意の保健指導の状況も把握することとしているため、当該調査事項において、「特定保健指導」という表現は用いていない。
     
    (エ)  子宮がん及び乳がん検診の過去2年間の受診実績の追加(健康票)
     厚生労働省は、健康票において、従来、過去1年間の受診実績のみを把握してきた各種がん検診のうち、子宮がん及び乳がんについて、新たに、過去2年間の受診実績を把握する計画である。
     国民のがん検診の受診率に関しては、がん対策推進基本計画(平成19年6月15日閣議決定)において、50%以上とすることが目標として定められている。当該受診率の測定には、本調査の結果が利用されているが、他のがん検診と異なり、子宮がん及び乳がん検診の頻度は、厚生労働省の指針により、2年に1回とされており、過去1年間の受診実績のみでは、正確な受診率の測定に支障があるため、子宮がん及び乳がん検診の過去2年間の受診実績を把握する必要は認められる。また、調査事項は簡素であり、報告者負担の観点での問題もないことから、子宮がん及び乳がん検診の過去2年間の受診実績の追加は、適当である。
     ただし、調査票の設計上、過去1年間の受診実績の有無にかかわらず、20歳以上のすべての女性が回答対象であることが分かりにくいため、回答が必要な者について明記し、記入漏れが生じないようにする必要がある。
     
    (オ)  児童手当等の追加(所得票)
     厚生労働省は、所得票において、従来、年間所得の内訳の「その他の社会保障給付金」として、まとめてとらえられてきた児童手当等(児童手当、児童扶養手当、特別児童扶養手当などの児童に関する社会保障給付金をいう。以下同じ。)を、「その他の社会保障給付金」から分離し、回答項目として独立させる計画である。
     これについては、児童手当等の額を把握することにより、少子化対策に有用な基礎的情報が得られると考えられること、また、従来合算されていた児童手当等を分離し記載することが、報告者負担の過度な増加につながるとは考えられず、試験調査の結果を見ても特段の支障は認められないことから、適当である。
     
     調査事項の削除
    (ア)  1日の平均の片道通勤時間の削除(世帯票)
     厚生労働省は、世帯票において、1週間の就業日数等に関する調査事項の中で世帯員ごとに把握してきた1日の平均の片道通勤時間を削除する計画である。
     これについては、平成16年及び平成19年に実施された本調査により、おおよその状況が把握できたこと、また、上記アの(ア)及び(イ)のとおり、世帯票に調査事項が追加され、報告者負担を考慮する必要があることから、適当である。
     
    (イ)  世帯を別にしている子の人数の削除(世帯票)
     厚生労働省は、世帯票において、世帯を別にしている子に関する調査事項の中で世帯員ごとに把握してきた世帯を別にしている子の人数を削除する計画である。
     世帯を別にしている子の人数は、一般的に、親と世帯を別にしている子供との間で交わされると考えられる経済的支援や介護支援等を量的に把握するため、平成16年に実施された本調査で取り入れられた調査事項である。
     しかしながら、様々な親子関係がある中、経済的支援や介護支援等の量を子供の数で測るのは結果的に困難であったこと、また、上記アの(ア)及び(イ)のとおり、世帯票に調査事項が追加され、報告者負担を考慮する必要があることから、世帯を別にしている子の人数の削除は、適当である。
     
    (2)  調査方法
     厚生労働省は、所得票について、所得や課税などの内容を統計調査員に対して口頭で答えたくないと考える報告者の抵抗感を和らげ、調査票の円滑な回収を可能にするため、他計方式から自計方式に変更する計画である。
     これについては、自計方式化に当たり、記入方法の説明や調査事項のレイアウト等の工夫で報告者負担の抑制を図るとともに、世帯内での個人情報保護意識に配慮し、世帯員ごとに別調査票とするなどの措置が講じられ、さらに、試験調査の結果を見ても特段の支障は認められないことから、適当である。
     
    (3)  集計・公表
     集計事項
     厚生労働省は、研究者等の一般利用者や行政施策上の需要を踏まえ、各調査票間のクロス集計等を充実させる一方、需要の乏しい集計事項を削除する計画である。
     集計事項の充実については、研究者等の一般利用者及び行政側、双方にとって利用し得る情報の増加となることから、おおむね適当である。
     ただし、有業者の所得金額と就業形態や教育等とをクロスする集計事項については、厚生労働省の計画にある平均所得金額とクロスする集計事項に加えて、所得金額の分布を見ることも重要であることから、所得金額階級とクロスする集計事項を作成する必要がある。
     また、集計事項の削除については、特に、研究者等の一般利用者にとって、利用し得る情報の減少となるものの、調査票情報の二次利用により、ある程度代替が可能と考えられることを踏まえた場合、需要に応じた統計作成の効率化の観点から適当である。
     
     心の状態に関する調査事項の集計方法
     心の状態に関する調査事項(以下「K6」という。)(注)については、平成19年に実施された本調査に係る統計審議会(当時)の答申(以下「審議会答申」という。)において、「調査結果を精査の上、例えば、K6の点数を合計した結果表の作成に向けて、その方法などについて検討する必要がある」と指摘されたところである。
     厚生労働省は、この指摘を受け検討を行ったが、K6の適切な表章方法についてなお研究中であることを踏まえ、平成19年に実施された本調査に引き続き、K6の点数を合計した結果表の作成を見送る計画である。
     しかしながら、合計されたK6の点数は、心の健康状態を反映した尺度数値であり、一定の社会的配慮を要するものの、自殺対策等の基礎資料として有用な情報になると考えられるため、平成22年に実施される本調査から、K6の点数を合計した結果表を作成することが必要である。
    (注) ハーバード大学医学部Kessler教授らによって開発された心の健康状態を把握する方法であり、平成19年に実施された本調査で、健康票の調査事項として導入された。
     
    (4)  母集団推定の方法
     本調査で用いる母集団推定の方法については、審議会答申において、より適当な推定を行う観点から研究を行うよう指摘されたところである。
     本調査の結果から推定された母集団値に関しては、国勢調査の結果と比較した場合、単身世帯数が国勢調査の結果を下回るといった事例が見られている。
     国勢調査の結果との差は、世帯構造や年齢層等に応じた調査票回収率の偏りによる非標本誤差が原因であると考えられる。そのため、厚生労働省は、住民基本台帳の利用や近隣世帯からの聞き取りによる調査地区の世帯名簿の精緻化を通じて、調査票回収率の偏りをとらえ、当該情報を基に母集団推定の方法を工夫することで非標本誤差を縮小できないか検討を行ったが、推定結果の改善にはつながらなかったことから、現行の母集団推定の方法を継続する計画である。
     これについては、調査票回収率の偏りに関する正確な情報を得るために直ちに採用できる効果的な手段がない現状では、母集団推定の方法の工夫によって非標本誤差を縮小することは、当面は困難であると認められることから、やむを得ない。
     なお、厚生労働省では、非標本誤差の縮小には、現時点では、まず調査票回収率の向上に努めるべきと考えられることから、調査票回収率の向上策として、平成22 年に実施される本調査から、所得票の自計方式化や集合住宅の管理人等に対する自治体職員による協力依頼の実施などの措置を採ることとしており、これらの措置については、適当と考えられる。
     
  3.  今後の課題
     本調査における非標本誤差の縮小に向け、平成22年に実施される国勢調査の結果と本調査の結果との間で生じた差異も含め、上記2(4)で述べた調査票回収率の向上策の効果を検証する必要があるほか、近年、非標本誤差を解析し、集計値を補正する理論の研究が進んできていることから、それらの利用可能性に関する検討も併せて行う必要がある。
     また、これらの対策が思わしい成果を上げない場合は、平成25年に実施する本調査の企画に当たり、他の基幹統計調査の状況も踏まえ、調査方法等について、見直しを検討する必要がある。


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