諮問第82号の答申 :国民生活基礎調査の変更について

府統委第19号
平成28年1月21日


総務大臣
山本 早苗 殿

統計委員会委員長
にしむら きよひこ


諮問第82号の答申
国民生活基礎調査の変更について

 本委員会は、諮問第82号による国民生活基礎調査の変更について審議した結果、下記のとおり結論を得たので、答申する。

1 本調査計画の変更
(1)承認の適否
平成27年9月25日付け厚生労働省発統0925第2号により厚生労働大臣から申請された「基幹統計調査の変更について(申請)」(以下「本申請」という。)について審査した結果、以下のとおり、統計法(平成19年法律第53号)第10条各号の各要件のいずれにも適合しているため、「国民生活基礎調査」(基幹統計調査。以下「本調査」という。)の変更を承認して差し支えない。
ただし、以下の「(2)理由等」で指摘した事項については、計画の修正が必要である。

(2)理由等
ア 報告を求める事項の変更
(ア)「世帯を離れている者の人数」の変更
本申請では、世帯票の世帯を離れている者の人数に係る調査事項について、以下のとおり(図1参照)、変更する計画である。
1(1は丸の中に数字) これまで社会福祉施設の入所者に包含して把握していた障害者支援施設の入所者を区分して把握するための選択肢を追加する。
2(2は丸の中に数字) 上記1(1は丸の中に数字)に伴い、「社会福祉施設に入所している者がいる」場合について、「3 老人福祉施設に入所している者がいる」「4 障害者支援施設に入所している者がいる」及び「5 3,4以外の社会福祉施設に入所している者がいる」の3区分から選択する形式に変更する。
これらについては、老人福祉施設(注1)を除く社会福祉施設の入所者のうち、障害者支援施設(注2)の入所者が6割(注3)を超えていることを踏まえ、同施設に障害者を入所させている世帯を区分して把握することにより、別途把握する当該世帯の状況(世帯主の状況、家計支出額及び入所者への仕送り額等)等との分析が可能となり、当該世帯に対する支援方策の検討に資するものと認められることから、適当である。
(注)
1 養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム及び有料老人ホームをいう。
2 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)等の改正法(平成24年4月施行)の改正前の旧身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)による身体障害者更生援護施設(肢体不自由者更生施設、視覚障害者更生施設、聴覚・言語障害者更生施設、内部障害者更生施設、身体障害者療護施設及び身体障害者授産施設)や旧知的障害者福祉法による知的障害者援護施設(知的障害者更生施設及び知的障害者授産施設)等をいう。
3 厚生労働省所管の一般統計調査である社会福祉施設等調査(平成25年調査)及び介護サービス施設・事業所調査(平成26年調査)の結果によると、老人福祉施設を除く社会福祉施設の入所者数は約20万3000人であり、このうち障害者支援施設の入所者数は約12万4500人となっている。

図1
変更案
世帯票の世帯を離れている者の人数に係る調査事項の変更案
現行
現行の世帯票の世帯を離れている者の人数に係る調査事項

(イ)「乳幼児(小学校入学前)の保育状況」の変更
本申請では、世帯票の乳幼児(小学校入学前)の保育状況に係る調査事項について、就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成18年法律第77号)の改正により、平成27年4月から就学前教育と保育を制度的に一体として提供する新たな幼保連携型認定こども園が創設され、認定こども園制度が拡充されたことに伴い、以下のとおり(図2参照)、「認定こども園」の選択肢を追加する計画である。
これについては、認定こども園制度の改正に伴い、認定こども園への通園者の増加が今後見込まれる中、小学校入学前の乳幼児の保育状況のより的確な把握に資するものと認められることから、適当である。

図2
変更案
世帯票の乳幼児(小学校入学前)の保育状況に係る調査事項の変更案
現行
現行の世帯票の乳幼児(小学校入学前)の保育状況に係る調査事項

(ウ)「教育」の変更
本申請では、世帯票の教育に係る調査事項について、以下のとおり(図3参照)、変更する計画である。
1(1は丸の中に数字) 「小学・中学」及び「高校・旧制中」に現在在学中又は最終卒業学校が当該学校である者のうち、「特別支援学校・特別支援学級」に在学中又は最終卒業学校が当該学校等である者を把握する選択肢を追加する。
2(2は丸の中に数字) 上記1(1は丸の中に数字)に伴い、報告者が回答するに当たって紛れが生じないよう設問文に注釈を追加する。
これらについては、世帯票の「勤めか自営かの別」及び「勤め先での呼称」により把握したデータとクロス集計することにより、最終学歴が特別支援学校・特別支援学級である障害者の就業状況のみならず、障害者本人及びその家族の状況等を把握することが可能となり、今後、障害者自身の自立支援や障害者のいる世帯への支援方策の検討に資するものと認められることから、適当である。

図3
変更案
世帯票の教育に係る調査事項の変更案
現行
現行の世帯票の教育に係る調査事項

(エ)「飲酒の状況」の変更
本申請では、健康票の飲酒の状況に係る調査事項について、1日当たりの飲酒量を清酒に換算して把握するに当たり、以下のとおり(図4参照)、目安となる清酒のアルコール度数を明示するとともに、清酒1合に相当する他のアルコール飲料の量・度数の記載内容を変更する計画である。
これについては、公益社団法人アルコール健康医学協会が示しているアルコール摂取量の例示に準じて明示・変更するものであり、報告者にとっての分かりやすさ・記入のしやすさに配慮したものと認められることから、適当である。

図4
変更案
健康票の飲酒の状況に係る調査事項の変更案
現行
現行の健康票の飲酒の状況に係る調査事項

(オ)「健診等の受診状況等」の変更
本申請では、健康票の健診等の受診状況等に係る調査事項について、過去1年間に健康診査等(健康診断、健康診査及び人間ドック。以下「健診等」という。)を受けた者について、以下のとおり(図5参照)、どのような機会に健診等を受診したかを把握する設問を追加する計画である。
今回追加することとしている設問については、前々回の大規模調査である平成22年調査までは同様の設問により受診機会を把握していたものであるが、前回の大規模調査の25年調査において報告者負担の軽減を図るため削除したものである。
しかしながら、これについては、「日本再興戦略」(平成25年6月14日閣議決定)の中短期工程表において、健診受診率に係る成果目標(2020年までに80%(特定健康診査(注)を含む。))が掲げられたことから、当該目標の達成に向け、受診機会の傾向を把握し、別途把握する「未受診の理由」のデータと合わせて分析を行う上で必要な情報であり、普及啓発を行うべき対象や手法等、受診率向上に向けたより実効性のある対策の検討に資するものと認められることから、やむを得ないものと考える。
(注)高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)第20条の規定に基づき、医療保険者は、当該年度の4月1日現在における加入者(被保険者及び被扶養者)であって、当該年度において40歳以上74歳以下の者に対し、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目した健診を行うこととされている。ただし、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)に基づき事業主が実施する健診には特定健康診査の項目が含まれていることから、医療保険者がその結果を事業主等から受領できる場合は、別途、特定健康診査を受ける必要はないとされている。
ただし、選択肢の「2 勤め先、又は健康保険組合等が実施した健診」については、家族の勤め先が実施した健診等を受診する場合があることから、以下のとおり(図6参照)、修正する必要があることを指摘する。

図5
変更案
健康票の飲酒の状況に係る調査事項の変更案
現行
現行の健康票の飲酒の状況に係る調査事項

図6
統計委員会修正案
補問15−1 どのような機会に健診等を受けましたか。あてはまるすべての番号に○をつけてください。
※ 1〜3の各機関が指示する医療機関で受けた場合は、それぞれの機関の番号に○をつけてください。
1 市区町村が実施した健診
2 勤め先又は健康保険組合等(家族の勤め先を含む)が実施した健診
3 学校が実施した健診
4 人間ドック(上記1〜3以外の健診で行うもの)
5 その他

(カ)「がん検診の状況」の変更
本申請では、健康票のがん検診の受診機会に係る調査事項について、これまで過去1年間のがん検診の状況を「勤め先(家族の勤め先を含む)からのお知らせ」によりがん検診を受診したかどうかのみを把握していたが、以下のとおり(図7参照)、新たに「市区町村からのお知らせ」及び「その他」によりがん検診を受診した場合の選択肢を追加する計画である。
これについては、以下の理由から、おおむね適当である。
1(1は丸の中に数字) がん対策基本法(平成18年法律第98号)第9条第1項の規定に基づき策定された「がん対策推進基本計画」(平成24年6月8日閣議決定)において、5年以内に達成すべき目標として掲げられているがん検診受診率50%(胃、肺及び大腸は当面40%)の達成に向け、当該目標の達成状況の把握とともに、がん検診の受診機会を包括的に把握することにより、がん検診の受診が低調な原因の分析が可能となり、受診勧奨を行うべき対象や手法等、受診率向上に向けてより実行性のある対策の検討に資するものと認められること。
2(2は丸の中に数字) がん対策推進基本計画において、がんの早期発見のために取り組むべき施策として、「市町村によるがん検診に加えて、職域のがん検診や、個人で受診するがん検診、さらに、がん種によっては医療や定期健診の中でがん検診の検査項目が実施されていることについて、その実態のより正確な分析を行う。」とされていることを踏まえた選択肢の設定となっていること。
ただし、がん対策上より重要かつ必要なデータを得るとともに、報告者に混乱を生じさせないようにするため、上記(オ)の健診等の受診状況等に係る調査事項との整合性を図り、以下のとおり、修正する必要があることを指摘する。
1(1は丸の中に数字) 上記(オ)の「健診等の受診状況等」と同様に、どこからのお知らせで受診したかではなく、どこが実施した検診を実際に受診したかを把握する設問とするとともに、選択肢の順番について、「市区町村が実施した検診」「勤め先又は健康保健組合等(家族の勤め先を含む)が実施した検診」及び「その他」の順とすること(図8参照)。
2(2は丸の中に数字) 補問である過去2年間における子宮がん(子宮頸がん)検診及び乳がん検診の受診状況に係る調査事項についても、子宮がん(子宮頸がん)検診、乳がん検診それぞれについて、上記1(1は丸の中に数字)と同様の修正を行うこと(図9参照)。
図7
変更案
健康票のがん検診の受診機会に係る調査事項の変更案
現行
現行の健康票のがん検診の受診機会に係る調査事項

図8
統計委員会修正案
健康票のがん検診の受診機会に係る調査事項の統計委員会修正案

図9
統計委員会修正案
補問である過去2年間における子宮がん(子宮頸がん)検診及び乳がん検診の受診状況に係る調査事項の統計委員会修正案
現行
補問である過去2年間における子宮がん(子宮頸がん)検診及び乳がん検診の受診状況に係る現行の調査事項

(キ)制度改正等に伴う調査票上の表記の変更等
1(1は丸の中に数字) 「公的年金・恩給の受給状況」の変更
本申請では、世帯票の公的年金・恩給の受給状況に係る調査事項について、被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成24年法律第63号)の施行により、平成27年10月から共済年金は厚生年金に統一されたことを踏まえ、以下のとおり(図10参照)、年金等の受給区分として、新たに「基礎年金と厚生年金と共済年金」の選択肢を追加する計画である。
これについては、被用者年金制度の一元化の施行日前に共済年金の受給権を有する者及び施行日前に共済年金への加入期間を有する者は、今後、老齢基礎年金と併せて3種類の年金を受給することとなることを踏まえて変更するものであり、適当である。

図10
変更案
世帯票の公的年金・恩給の受給状況に係る調査事項の変更案
現行
現行の世帯票の公的年金・恩給の受給状況に係る調査事項

2(2は丸の中に数字) 「手助けや見守りを要する者で自立の状況になってからの期間」の変更
本申請では、世帯票の手助けや見守りを要する者で自立の状況になってからの期間に係る調査事項について、これまで「1〜3月未満」等と「〜」で表記していた選択肢について、報告者に当該期間をより分かりやすく示すため、以下のとおり(図11参照)、「1月以上3月未満」等に表記を変更する計画であり、おおむね適当である。
ただし、これについては、「1月以上3月未満」等と表記を変更することにより、選択肢に漢字表記が並ぶこととなり、報告者に対して心理的負担感を与えることも懸念されることから、以下のとおり(図12参照)、従前どおりに「1〜3月未満」等の表記とする必要があることを指摘する。

図11
変更案
世帯票の手助けや見守りを要する者で自立の状況になってからの期間に係る調査事項の変更案
現行
現行の世帯票の手助けや見守りを要する者で自立の状況になってからの期間に係る調査事項

図12
統計委員会修正案
世帯票の手助けや見守りを要する者で自立の状況になってからの期間に係る調査事項の統計委員会修正案

3(3は丸の中に数字) 「公的年金の加入状況(15歳以上の者のみ)」の変更
本申請では、世帯票の公的年金の加入状況に係る調査事項について、選択肢の国民年金第2号被保険者及び第3号被保険者の説明部分を以下のとおり(図13参照)、それぞれ変更する計画である。
これについては、被用者年金制度の一元化により、平成27年10月から共済年金が厚生年金に統一されたことを踏まえ、選択肢の国民年金第2号被保険者及び第3号被保険者の説明部分を変更するものであり、適当である。

図13
変更案
世帯票の公的年金の加入状況に係る調査事項の変更案
現行
現行の世帯票の公的年金の加入状況に係る調査事項

4(4は丸の中に数字) 「介護サービスの利用状況」の変更
本申請では、介護票の介護サービスの利用状況に係る調査事項について、介護保険制度に基づく介護サービスのうち、「訪問系サービス」の介護予防訪問介護及び「通所系サービス」の介護予防通所介護が、介護保険法(平成9年法律第123号)の改正により、平成27年度から29年度末までの間に、介護予防・日常生活支援総合事業(以下「総合事業」という。)に移行(注)することに伴い、以下のとおり(図14参照)、これらの選択肢中に「(※介護予防・日常生活支援総合事業における訪問系サービス(又は通所系サービス)を含む)」との説明書きを追加する計画である。
(注)介護保険制度における予防給付は全国一律の基準で給付されているが、予防給付における介護サービスのうち、訪問介護及び通所介護については、市区町村において地域の実情に応じた取組が可能となるよう、地域支援事業(高齢者が要介護・要支援状態になることを予防するとともに、要介護状態となった場合でも、可能な限り自立した日常生活を営むことができるよう支援することを目的として、市区町村が実施する事業)として、予防給付から総合事業に移行することとなったものである。
これについては、これまで要支援者に対する介護予防サービス(予防給付)として給付されてきた介護予防訪問介護及び介護予防通所介護が、平成29年度末までに総合事業に移行されることになったことを踏まえ、選択肢の「訪問系サービス」の1つである介護予防訪問介護及び「通所系サービス」の1つである介護予防通所介護には、それぞれ総合事業におけるサービスも含まれることを明示することとしているものであり、適当である。

図14
変更案
介護票の介護サービスの利用状況に係る調査事項の変更案
現行
現行の介護票の介護サービスの利用状況に係る調査事項

5(5は丸の中に数字) 「65歳以上の介護を要する者(第1号被保険者)の介護保険料所得段階」の変更
本申請では、介護票の65歳以上の介護を要する者(第1号被保険者)の介護保険料所得段階に係る調査事項について、65歳以上の介護を要する者のうち、介護保険料所得段階が第1段階及び第2段階以外の者については、以下のとおり(図15参照)、選択肢の3から5のうち該当するもの1つのみ選択するよう明示する計画である。
これについては、従前から、報告者に対し、「介護保険料額決定通知書」に記載の所得段階区分を参考に、該当する選択肢を1つ選択して記載することとしていたが、報告者に紛れが生じないよう、設問において、該当する選択肢を1つのみ選択するよう明示することとしているものであり、適当である。

図15
変更案
介護票の65歳以上の介護を要する者(第1号被保険者)の介護保険料所得段階に係る調査事項の変更案
現行
現行の介護票の65歳以上の介護を要する者(第1号被保険者)の介護保険料所得段階に係る調査事項

6(6は丸の中に数字) 「所得の種類別金額(雇用者所得)」の変更
本申請では、所得票の所得の種類別金額(雇用者所得)に係る調査事項について、雇用者所得を記載するに当たっての参考書類として、従前から記載している源泉徴収票(原本又は写し)及び給与明細書に加えて、以下のとおり(図16参照)、「確定申告書〔控〕」を追加する計画である。
これについては、以下に該当する者等は、給与所得者であっても原則、確定申告を行う必要があり、確定申告書に記載の「給与」欄の金額が該当することから、参考書類に追加することとしているものであり、適当である。
i(iはローマ数字の1) 給与の年間収入金額が2,000万円を超える者
ii(iiはローマ数字の2) 1か所から給与の支払を受けている者で、給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超える者
iii(iiiはローマ数字の3) 2箇所以上から給与の支払を受けている者で、主たる給与以外の給与の収入金額と給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超える者 等

図16
変更案
所得票の所得の種類別金額(雇用者所得)に係る調査事項の変更案
現行
現行の所得票の所得の種類別金額(雇用者所得)に係る調査事項

イ 集計事項の変更
本申請では、世帯票の教育、健康票の健診等の受診状況等及び健康票のがん検診の状況に係る調査事項の追加・変更等に伴い、関連する集計事項を変更する計画である。
これらについては、最終卒業学校が特別支援学校・特別支援学級の者の就業状況等の把握並びに健診等及びがん検診の受診機会の的確な把握に資するものと認められることから、おおむね適当である。
ただし、所得票に係る集計事項について、妻の就業形態の相違による世帯所得への影響を経年的に明らかにする観点から、末子の年齢と「夫婦ともに正規の職員・従業員」「夫が正規の職員・従業員、妻がパート等非正規の職員・従業員」「夫が正規の職員・従業員、妻が無職」の世帯類型別にみた世帯の累積収入分布を表章する必要があることを指摘する。

ウ 東日本大震災の影響に伴う調査計画の規定の削除
本申請では、東日本大震災の影響により、平成23年調査(簡易調査)の実施時には岩手県、宮城県及び福島県内全てを調査対象地域から除外していたのを、平成24年調査(簡易調査)時には福島県については引き続き調査対象地域から除外する一方で、岩手県及び宮城県については、沿岸部市町村の調査区が抽出された場合は、調査実施の可否を確認し、調査不可能な場合は代替調査区を抽出することとしていた調査計画の規定を削除する計画である。
これについては、前回の大規模調査である平成25年調査から、上記3県においても東日本大震災の影響が解消され既に調査対象地域となっていることを踏まえ、上記の対応に係る調査計画の規定を削除するものであることから、適当である。

2 統計委員会諮問第45号の答申における「今後の課題」への対応状況について
本調査については、平成25年に実施された前回の大規模調査に係る本委員会の答申(諮問第45号の答申「国民生活基礎調査の変更について」(平成25年1月25日付け府統委第7号。以下「前回答申」という。))において、1(1は丸の中に数字)就業・雇用形態の区分に関する用語・概念の見直し、2(2は丸の中に数字)睡眠に関する調査事項の在り方の検討、3(3は丸の中に数字)非標本誤差(注)の縮小等に向けた取組の3事項に関する検証・検討の必要性が指摘されている、
(注)「非標本誤差」とは、調査票未回収、未回答等により生じる調査結果の誤差のことである。
これらの指摘事項に関する厚生労働省の対応状況(検証・検討結果)の概要は、別添(PDF形式:419KB)PDFのとおりである。

別添の厚生労働省の対応状況についての評価は、以下のとおりである。
(1)就業・雇用形態の区分に関する用語・概念の見直しについて
本課題については、「統計調査における労働者の区分等に関するガイドライン」(平成27年5月19日各府省統計主管課長等会議申合せ。以下「ガイドライン」という。)において世帯に関する調査は適用対象外となっていることや、特段の対応を図ることも求められていないことから、現状のままとするとの調査実施者の結論は現時点ではやむを得ないものと考えるが、今後のガイドラインの見直しに係る検討状況を踏まえ、所要の対応を行う必要がある。

(2)睡眠に関する調査事項の在り方の検討について
本課題については、厚生労働省の有識者による「健康づくりのための睡眠指針の改定に関する検討会」(座長:内山真日本大学医学部精神医学系主任教授)において学術的な議論も踏まえて策定した「健康づくりのための睡眠指針2014」(平成26年3月厚生労働省健康局)において、「眠たくなってから寝床に就く、就床時刻にこだわりすぎない」といったことが重要とされていること、また、社会生活基本調査(総務省所管の基幹統計調査)において、国民の1日の生活時間の配分を捉える中で、就寝時刻及び睡眠時間について把握していることから、就寝時刻の把握を見送るとの調査実施者の結論については報告者負担の観点からも妥当であると評価する。

(3)非標本誤差の縮小等に向けた取組について
本課題については、次のとおりである。なお、本課題中、所得票及び貯蓄票による調査の標本規模の拡大に係る部分については、後述3のとおりである。
ア 調査結果の推計等における課題・問題に対する取組について
厚生労働省では、有識者による「国民生活基礎調査の標本設計・推定手法等に関する研究会」(座長:岩崎学成蹊大学理工学部教授。以下「研究会」という。)を開催し研究結果を取りまとめており(平成23年3月)、改めて同研究会の結果についての報告がなされた。本調査は集落抽出法(注)により標本設計されており、当該研究結果では、世帯票に回答したが所得票に回答しなかった世帯について「傾向スコア」による方法で所得額を推計し、調査対象世帯全体の総所得の補正の可能性を検討した結果、一定の有効性は確認できたものの、各手法によって補正結果に差異が生ずることなどから、特定の補正方法を公的統計である本調査に採用することは困難であるとの結論であった。
また、平成22年の国勢調査の結果と本調査の結果(推計値)について、世帯主の年齢階級別世帯数の分布を比較すると、図17のとおり、特に若年層の単独世帯数において乖離が、また、表1のとおり、政令指定都市等大都市を抱える都府県における単独世帯の乖離が大きいことが認められる。
これらについては、世帯属性別の非回答が非標本誤差の要因であり、研究会では世帯票の推計方法について、国勢調査(総務省が所管する基幹統計調査)と同じ調査地区内では世帯の性質が似ていると仮定するなど3種類の方法により検証したが、どのような方法も一長一短があり、補正結果が補正しない場合より良くなったかどうかを含め、有効性が判断できなかったことから、厚生労働省としては直ちに乖離の縮小の改善を図ることは困難であるとしている。しかしながら、同省は、工程表を作成しこれに基づき、本調査及び国勢調査の世帯属性等の比較・検証や本調査の推計方法等の改善に向けた検討を行うこととしていること、情報提供の充実を図ろうとしていることは一定程度評価できる。
以上の状況にあり、工程表に基づき具体的に以下の取組を行っていく必要がある。
1(1は丸の中に数字) 本調査は、国勢調査の調査区から調査対象となる地区を抽出(約5,500地区)していることから、両調査の調査対象世帯について、地区や年次等、一定の条件の下での世帯属性や年齢構成についての比較・検証(後述4−(1)−ア参照)
2(2は丸の中に数字) 全世帯を対象として実施している国勢調査と本調査結果(推計値)との間の分布において乖離が認められるため、結果精度の更なる向上を図る観点からの推計方法等に係る所要の検討(後述4−(1)−イ参照)
3(3は丸の中に数字) 本調査結果の適切な利用を促す観点から、本調査に係る集落抽出法をはじめとする調査に係る基本的な事項や国勢調査と本調査結果の分布の乖離の状況等についての積極的な情報提供(後述4−(3)参照)
(注)集落抽出法とは、母集団がいくつかの個体からなる「集落」から構成されている場合に、その集落を抽出し、その集落内のすべての個体を調査する抽出法である。集落抽出法には、1(1は丸の中に数字)調査対象となる地区の全世帯が報告者であること、2(2は丸の中に数字)報告者が集中していることにより、調査員調査の稼働率が高く経費を安く抑えることができること、3(3は丸の中に数字)調査対象となる地区の全世帯が報告者であるため、調査協力の説明が効率的といったメリットがある一方、未回収世帯に係る代替標本の選定を行わない方法であり、集落間に回収率にばらつきが生じるといった側面もある。なお、本調査では、この集落抽出法により設定した調査地区や調査単位区内に所在するすべての世帯を対象に調査を実施している。

図17 平成22年国勢調査と平成22年国民生活基礎調査の比較

単独世帯 単独世帯以外の世帯

表1 平成22年国勢調査と平成22年国民生活基礎調査の比較

<世帯数、世帯構造・世帯主の年齢(10歳階級別)の比較>

(全国・東京都・神奈川県・愛知県・大阪府)

平成22年国勢調査と平成22年国民生活基礎調査の比較の表

イ 回収率の向上に向けた取組について
本調査における世帯票及び所得票の回収率及び面接不能率は、表2のとおりであり、厚生労働省は、非標本誤差の縮小を図るため、平成29年以降の本調査(簡易調査)実施に合わせて、調査員が調査した時点では未回収世帯である面接不能世帯(面接も連絡も取れないような世帯)を対象に「郵送回収」の導入に向けて試行的な検証を検討している。

表2 世帯票及び所得票の回収率及び面接不能率
区分世帯票所得票
回収率面接不能率回収率面接不能率
平成25年(大規模調査)79.6%12.0%74.4%6.1%
平成26年(簡易調査)78.7%14.2%80.1%6.7%

「郵送回収」の導入については、調査員が安易に「郵送回収」への調査の切替えを行うことにより、回収率や記入率が低下し、調査不能世帯の増加等の発生を招くおそれがあることなどが懸念される。
このため、厚生労働省は、現在の調査員による回収を基本としつつ、「郵送回収」の導入による更なる回収率の向上を図るため、今後、1(1は丸の中に数字)欠票情報(拒否、入院・出張等、面接不能、調査員の訪問回数等)の更なる把握、2(2は丸の中に数字)調査員の適正な訪問回数等の検証、3(3は丸の中に数字)郵送用封筒の配布枚数の制限の検証、4(4は丸の中に数字)動画等を活用した広報による若年層への広報充実等について検討していくこととしている。
このような取組は、回収率の向上を通じて非標本誤差の縮小を図ろうとするものであり、本課題への対応として一定程度評価できる。
一方で、「郵送回収」した調査票の記入内容の正確性が担保されないなどの懸念もあることから、実効性のある取組について十分に検討した上で実施するとともに、特に本調査において捕捉率が低いとされている都市部を中心とした若年単身世帯への対応を図るため、中長期的にはオンライン調査の導入についても併せて検討する必要がある(後述4−(1)−ウ参照)

3 「公的統計の整備に関する基本的な計画」における指摘事項への対応状況について
「公的統計の整備に関する基本的な計画」(平成26年3月25日閣議決定。以下「第2(2はローマ数字)期基本計画」という。)において、上記2の前回答申も踏まえ、所得票及び貯蓄票による調査の標本規模の拡大の検討について指摘されている。
この指摘事項に関する厚生労働省の対応状況(検証・検討結果)の概要は、別添(PDF形式:419KB)PDFのとおりである。

別添の厚生労働省の対応状況についての評価は、以下のとおりである。
○ 所得票及び貯蓄票による調査の標本規模の拡大について
単純に所得票及び貯蓄票を用いた調査結果において、都道府県別表章が可能となるよう標本規模を拡大することについて、厚生労働省は、報告者数を現行の約5万世帯から約27万7000世帯に、調査員数を現行の約2000人から約1万1000人にそれぞれ大幅に増加する必要があるとしている。これに伴い、一定の時期に調査員の量的かつ質的な面からの確保が必要となるが、熟練した調査員の高齢化が進展している中で調査員の量的かつ質的な確保は困難であるとともに、現在の予算事情を考慮すると難しい状況である。
このようなことから、厚生労働省は、調査時期の統一及び調査ルート(調査系統)の一元化による標本拡大分の予算の確保を図る一方で、現行の5種類の調査票による調査を同時に実施することを想定し、報告者負担の軽減等を図る観点から調査事項を大幅に縮減した新調査票案による調査実施可能性について検証するため、平成26年に試験調査を計画していたが、予算が確保できなかったため実施できなかった。これに代わる方法として、本調査の調査ルートである地方公共団体(保健・福祉部局及び保健所・福祉事務所)及び調査員を対象に、上記計画に沿って実施した場合の負担感や実施可能性を検討するため、アンケート調査等を実施した結果、地方公共団体等の負担は必ずしも軽減されないこと、また、有識者から調査事項の大幅な削減は失われる情報と得られる新たな情報との見合いで妥当とはいえないとの指摘があること等から、所得票及び貯蓄票による調査の標本規模の拡大は事実上困難であるとの結論とされた。
調査実施者の結論は、現時点では昨今の限られた統計リソースを踏まえるとやむを得ないものと考えられる。しかしながら、所得に係る情報の精度の確保・向上とともに、統計リソースを効果的かつ有効に活用していく観点からも、本調査の調査単位区の設定に係る準備調査(注)等の在り方等を通じた調査業務全体の効率化や調査方法の改善を図ることを優先して検討する必要がある(後述4−(2)参照)
(注)準備調査とは、本調査の実査に先だって、調査員による受持ち調査地区の世帯・世帯人数等の確認等を行う業務であり、当該結果を踏まえて所得票及び貯蓄票による調査の対象となる単位区の設定を行っている。

4 今後の課題
今後の課題については、以下のとおりである。
(1)本調査における非標本誤差の縮小に向けた更なる取組について
ア 本調査及び国勢調査の調査対象世帯に係る属性等の比較・検証
本調査は国勢調査の調査区から調査対象の地区を抽出(約5,500地区)の上、更に調査時点において改めて準備調査を行って世帯名簿を作成している。そこで、本調査の準備調査結果と国勢調査の乖離の程度や傾向について、世帯属性や年齢構成等の比較・検討を行い、本調査が実施する対象の実態を正確に把握する必要がある。
具体的には、本調査と国勢調査が同時期に実施された平成22年調査をもって、また、同一の調査地区・調査区に係る詳細な分析が可能な平成25年調査をもって、世帯属性や年齢構成等の比較・検証を一定の地域レベルで実施することで、本調査結果の代表性を明らかにし、精度の向上に向けた検討に当たっての基礎情報としていくことが必要である。なお、上記の国勢調査との比較・検証に当たっては、本調査の準備調査結果のみならず、世帯票及び所得票についても原データレベルの情報をもって、回収結果の世帯属性や年齢構成等の分布に係る検討を行う必要がある。

イ 本調査結果及び国勢調査結果の分布に係る乖離の縮小に向けた検討
国勢調査の分布である母分布と本調査結果(推計値)の分布を比較すると、上記2(3)アのとおり、若年層や単独世帯に係る世帯数の分布において乖離が認められる。このため、厚生労働省は、現行の推計方法の妥当性とともに、更なる精度向上等を図る観点から推計方法の見直しについて検討する必要がある(注)
(注)本調査では、現在は推計人口を用いた推計等を行っており、推計に当たっては世帯属性を考慮していないことから、単独世帯や若年世帯の回収率が比較的低いこと等により世帯属性分布に歪みが生じることが考えられる。このような歪みを補正する方法として、世帯属性別の事後層化による推計について検証を行い、推計方法の見直しを行うことが考えられる。

ウ 回収率の向上に向けた調査方法の検討
非標本誤差の縮小を図るため、平成29年以降の本調査(簡易調査)実施時に合わせて面接不能世帯を対象とした「郵送回収」の試行的な検証を検討しているが、「郵送回収」による調査票では記入内容の正確性が確保されないおそれもある中、実効性のある具体的な取組について検討する必要がある。その際、「郵送回収」の試行的な実施を通じて、現在回収率が低く非標本誤差の原因ともなっている若年齢層や単身世帯、都市部の世帯における回収状況について十分検証する必要がある。
なお、「郵送回収」の実効性を確保する上で重要と考えられる未回収世帯に係る「欠票情報」については、従来から一定の情報を把握しているが、今後の回収率向上に向けた方策を検討する上で有用な情報と考えられるため、当該情報をより適切かつ的確に把握する方策について積極的に検討する必要がある(注)
さらに、オンライン調査については、都市部を中心とした若年単身世帯の捕捉率の改善に資することが期待されることや、報告者の利便性の向上、実査機関及び調査員の事務負担の軽減、正確な統計作成など多くのメリットがあり、また、今後の情報通信技術の更なる進展に伴い、中長期的にはその導入に向けた具体的な取組の検討が求められることが想定される中、導入を図る上で必要な環境整備(政府統計共同利用システムの改善等)等を踏まえ、引き続き検討していく必要がある。
(注)「欠票情報」は、欠票理由として考えられる1(1は丸の中に数字)死亡、2(2は丸の中に数字)転居、3(3は丸の中に数字)住所不明、4(4は丸の中に数字)長期不在(入院・入所等)、5(5は丸の中に数字)長期不在(入院・入所等以外)、6(6は丸の中に数字)一時不在、7(7は丸の中に数字)拒否、8(8は丸の中に数字)面接不能等の事由をあらかじめ「単位区別世帯名簿」上に一覧的な形で記載し、調査員は該当する番号を「単位区別世帯名簿」中の所定の欄に記載する形とするなど、調査員にあまり負担をかけないで把握する方法が考えられる。世帯名簿等による未回収世帯に係る「欠票情報」のより的確な把握、集計・分析により、より効果的かつ効率的な回収率向上方策について検討する必要がある

(2)調査業務の効率化のための検討について
本調査の調査単位区の設定に係る準備調査等の在り方等について、調査業務全般の効率化や調査方法の改善を図る観点から検討する必要がある。また、この検討に当たっては、所得に係る情報の精度の確保・向上に十分留意する必要がある。

(3)本調査の調査設計等に関する情報提供の充実について
厚生労働省のウェブページ上に現在掲載されている情報は、調査の目的、沿革、調査対象、推計方法等であるが、統計利用者等の利便性の観点から改善を図る必要がある。
これらの情報は、統計の品質を示す重要な要素となるものであり、本調査結果に対する信頼性を確保する観点からも、本調査が集落抽出法という特徴的な標本設計により実施されていることを踏まえ、以下の事項について、1(1は丸の中に数字)、2(2は丸の中に数字)及び3(3は丸の中に数字)i(iはローマ数字の1)はすみやかに、また、3(3は丸の中に数字)ii(iiはローマ数字の2)及び4(4は丸の中に数字)は具体的な工程表に基づき、詳細かつ国民にとって分かり易く公表・提供を行う必要がある。
1(1は丸の中に数字) 抽出方法(抽出率、目標精度等抽出方法の具体的な考え方)
2(2は丸の中に数字) 調査方法等(調査の実施系統、調査手法、調査関係業務の実施スケジュール等)
3(3は丸の中に数字) 推計方法
i(iはローマ数字の1)推計方法の具体的な考え方及び方法
ii(iiはローマ数字の2)推計方法に関する検討状況
4(4は丸の中に数字) 結果精度に関する情報
i(iはローマ数字の1)地域区分別等の回収率、有効回答率等
ii(iiはローマ数字の2)本調査(準備調査結果)と国勢調査の調査対象世帯の属性等の比較状況
iii(iiiはローマ数字の3)本調査結果と国勢調査の分布の状況
5(5は丸の中に数字) その他本調査結果の利用に資する情報
なお、抽出方法に係る情報の公表・提供に当たっては、本調査が採用している集落抽出法による標本設計の考え方や調査対象の選定方法等も含め、詳細かつ国民にとって分かりやすい形で行う必要がある。