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成長懇イレブン リレーコラム
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森川 博之

マインドを変える

森川 博之
東京大学
先端科学技術研究センター教授







 古川佐賀県知事に続いてコラムを担当させていただく,東京大学の森川です.
大学では,将来のICT社会はどうあるべきか,将来のネットワークを構築するにあたっての基盤技術は何か,といった点について指針を与えるべく,学生と一緒に議論をしています. ICT成長力懇談会では,ICTの利活用を進め,社会,経済,産業のあり方を一気に変える処方箋についての議論を進めてきましたが, 新しい世界の構築に向けてはマインドを変えることも一つの重要な点なのではないかと考えています.「うならせる」,「夢・想・感」,「変わる」といったキーワードから,お話しします.

 まずは「うならせる」です. 製品の品質を検討する枠組みの一つに狩野モデルがあります.顧客満足度を垂直軸に,性能特性を水平軸にとると, 顧客の反応は

「当たり前品質(壊れないテレビ)」
「性能品質(画質の良いテレビ)」
「魅力品質(テレビを常につけておきたい程に新しい使い方を顧客に提供しているテレビ)」

の3つに分類できるというものです.
長年の研究開発は「当たり前品質」や「性能品質」を満たすためのものであったと位置づけることができます.ネットワークで高品質映像を伝送したい、 より高速なCPUが欲しい,消費電力の少ない新たなデバイスが欲しい、大容量データを高速に処理したいなどという要求に基づいて研究開発がなされてきました。 しかしながら,諸先輩方の長年のたゆまぬ努力により、ある程度の性能は得られるようになりました。 1Gbpsを実現する携帯電話も視野に入りましたし、映像処理も手軽に個人PC上で行えるようになりました.20年前,10年前の状況に鑑みると,隔世の感があります。 このようなICT技術の進展は,研究開発の目的が「性能品質」の実現から「魅力品質」の実現に移行しつつあることを示唆しています。 もちろん性能を極限まで追求していくことも引き続き行っていかなければならないのですが,これに加えてうならせることができるか否かといった新たな視点が求められているように思います。 性能や効率などといった従来の定量的な評価軸のみならず,うならせることができるか,魅力的か否かなどといった定性的な軸への転換を図っていかなければなりません。

 続いて「夢・想・感」です. 未来を予測することは極めて難しい作業ですが、未来を「創る」ことはできます。技術は社会を変える力を有しているためです。 未来を「創る」にあたっては,こうしたい、こうなって欲しい、これが必ず必要となる,必ずやってみせる,実現してみせる、 などという強い「夢」や「想」が必要です。「夢」や「想」がなければ、一歩たりとも踏み出すことができません。とにかく飛び込んでみなければ、やってみなければ、何も始まりません。
そして、「夢」や「想」を育むものが「感」です。我々の周りに転がっている種々の事象を強い好奇心で観察し、 「感じる」ことです。世の中には気づいていない面白いことがたくさんあります。 技術が成熟したと言われる分野でも,必ず新たな息吹がありますし、表に出ないところでの胎動が必ず存在します。これらを感じて,夢や想につなげていくことが重要です。

「客にいくら尋ねても、自動車が欲しいという答えは返ってこない。なぜなら客は馬車しか知らないからだ」

とは、ヘンリー・フォードの言葉です。 未来を創ることができるのは、強い想いを持っている人です。世の中の流れが極めて速くなり、夢想する時間が激減していることは致し方ないことかもしれませんが、 10年、20年、50年、100年後を夢想するマインドが、明日のブレークスルーを生み出すきっかけになると思います。

 最後が「変わる」です. ICT成長力懇談会の報告書の中での重要なキーワードが、「変わる」という言葉でしょう。 ユビキタスも含めたネットワーク技術は、今まで以上にこれからの産業構造、経済構造,社会構造に影響を与えていくことになります。 世の中がどう変わるかを予測することは極めて難しい作業ですが、「変わる」ことは事実です。ドラッカーは,蒸気機関が鉄道の登場を促し、鉄道の登場がめぐりめぐって郵便、銀行、新聞などの 登場につながったと喝破していますが、ICT技術も長い年月をかけて新しい産業と社会制度の確立に寄与していくことになります。
高速ブロードバンドや高機能携帯電話は既に広く普及しつつありますが、変わっていくプロセスの中のまだまだ初期的な段階にいるにすぎません。 現在の世の中のあり方は過渡的なものであるというマインドが、次につながります。 特に、物心ついたときに既にインターネットや携帯電話が存在していた若い世代の人たちが現状に満足してしまうのは避けなければなりません。 変わりつつある時代の中で研究開発を進めている我々も、このようなマインドでもって,産業,経済,社会が「変わる」プロセスに寄与していきたいものです。

 残念ながら、このあたりで次の方にバトンを渡さなければならなくなってしまいました。 リレーコラムも最終章に入り、次はICT成長力懇談会座長代理で企業戦略論や企業経済論がご専門の伊丹先生です。それでは,伊丹先生,よろしくお願いいたします.






略歴
1987年3月 東京大学工学部電子工学科卒業
1992年3月 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了
1992年4月 東京大学工学部助手
1993年4月 東京大学工学部講師
1997年4月 東京大学大学院工学系研究科助教授
1997年4月 コロンビア大学客員助教授
1999年4月 東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授 
2006年11月 東京大学大学院工学系研究科教授
2007年4月 東京大学先端科学技術研究センター教授
その他
総務省情報通信技術審議会専門委員
国土交通省交通政策審議会専門委員
国土交通省社会資本整備審議会臨時委員
ユビキタスネットワークフォーラムセンサネットワーク部会長
次世代安心・安全ICTフォーラム通信部会長
(社)電波産業界高度無線通信研究委員会特別委員
情報通信研究機構無線通信部門モバイルネットワークグループリーダ
電子情報通信学会編集理事
電子情報通信学会通信ソサイエティ英文論文誌編集長
電子情報通信学会情報ネットワーク研究会委員長
電子情報通信学会ユビキタス・センサネットワーク研究会副委員長等

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情報通信政策課


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