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篠﨑 彰彦

『仕組み』の見直しで
成長のエンジン起動

篠﨑 彰彦
九州大学大学院
経済学研究院教授






 岸先生、ご紹介ありがとうございます。 九州大学の篠﨑です。今回は「『仕組み』の見直しで成長のエンジン起動」と題して、コラムをお届けします。

 「富はまずこれを創造してからでなければ分配できない」―― 戦後日本の経済再建に貢献したドッジの有名なコメントです。 富の創造には生産性の向上による成長が必要で、人口減少下の日本ではICTがその有力なエンジンと期待されています。
ただし、エンジンの起動が容易ではないことも事実です。ICTの利用産業について調査してみると、 情報システムそのものの技術問題というより、業務の手順や段取りなど「企業経営の仕組み」、業界固有の取引慣行など「産業の仕組み」、 法律や規制など「公的制度の仕組み」がICT導入の効果を生みにくいものにしているようです。

 新しい技術が威力を発揮するには新しい仕組みが必要ですが、ICTの速い進歩に仕組みの見直しが追いついていないとみられます。 ICTの提供産業についてみると、過去15年の携帯電話にみられるような成長が一巡して、国内市場の飽和感や国際的なプレゼンスの低さという課題が生まれています。 それを打破する動きとしてメディア融合が注目されていますが、ここでも様々な仕組みの見直しが不可欠なようです。中核となる放送や通信の世界は、 ラジオからテレビへと主役が交代した半世紀前の古い枠組みや、音声電話が主役だった四半世紀前の電々公社民営化で議論された枠組みが骨格となっているからです。
著作権の問題など関連する法制度も含めて包括的な見直しが避けて通れません。 重要性を増しているコンテンツ制作では、規模が小さく市場が未発達な時期に形成された業界固有の仕組みが 「コンテンツの産業化」による発展の芽を摘んでいるようにもみえます。 仕組みを見直す上で障害となっている具体的問題は細部に潜んでいると考えられますので、ひとつひとつの施策を仔細に詰めることが大切です。 ただし、それらを結集する力が働かないと、成長力加速の実現に向けた推進力が散逸しかねません。
 
 成長戦略で重要なことは、関係する施策を総花的に列挙することではなく、骨太の政策へと結集することでしょう。 電波行政、放送・通信関連法、著作権法の見直しなど細部の施策は、その中で着実に進めるという「骨太と細部」の結合による突破力です。 成長に向けて「フロンティア領域」と「底上げ領域」の二面で、細部の施策を結集し、 官民が総力を挙げて集中的に取り組むような政策の支柱が必要だと考えられます。

 1月に公表された『進路と戦略』では「つながり力」と「環境力」が成長戦略のキーワードになっています。 メディア融合の技術革新をうまく取り込めば、教育関連を含めて日本のコンテンツが世界中に「つながり」をもつことができます。 これは単に、コンテンツ輸出が増えて成長に寄与するという効果だけではなく、 途上国などへの技術支援や教育・人材育成の貢献を通じて、長期的には次世代の知日派の裾野を広げるという骨太の効果が期待できます。 日本国内は少子化しても、世界を視野に入れると、意欲ある若い人材はこれからも豊富なのです。植林のような息の長い事業ですが、 ICTを活用して、これまでできなかったような次の世代との国際的な「つながり」を深めれば、将来の富の創造基盤が豊かに構築できるでしょう。
環境力でも日本の強みを活かせそうです。様々な産業のオフィスや工場でICTを利用した「エネルギーの見える化」に取り組めば、 省エネ対策で大きな効果が生まれると期待されます。その技術とノウハウはグローバルに展開できるかもしれません。 ICT産業では、エネルギー消費量が増しているデータ・センターに自然エネルギー導入を進めるといった環境対策が求められています。
貴重な情報が集積するデータ・センターの立地選定では、人件費が安いだけでは優位性がなく、 政情の安定や法治の完備など質の高いソフト・インフラが鍵になります。日本が得意とする環境技術や省エネ技術を活かして、 スーパー特区などで政策の結集を図れば、新たな成長分野の開拓につながると考えられます。
医療や電子政府・自治体などICTの取り組みに遅れた領域の底上げも大切です。特に医療は、高齢化が進む日本にとって重要な領域で、公的医療制度(政府)、 病院等の医療機関(企業)、患者(家計)という経済の基本的な三主体が密接に関わっています。 「産業のコンテンツ化」や「情報の価値化」という観点でとらえると、医療行為そのものが価値のあるコンテンツといえます。 どのような治療がなされたかを可視化できる医療情報は貴重で、総医療費の抑制と質の高い医療サービスを実現する上でICTの果たす役割は大きいといえます。
電子政府・自治体についても、道州制などの地方分権政策を視野に入れるならば、各自治体や国の地方機関が個別に対応するのではなく、 垣根を越えた取り組みを推進していけるように政策の結集力を高めるべきでしょう。

 フロンティア領域と底上げ領域の二面で突破力のあるビジョンが示され、 「企業経営の仕組み」「産業の仕組み」「公的制度の仕組み」の見直しが一気に動きだせば、 成長のエンジンが起動して、重く覆いかかった閉塞状況を打破していくに違いありません。

 いかがでしたか。九州から成長のエンジンを起動させる声は皆さんにしっかりと届きましたでしょうか。
 さて、東京から届いたバトンは次回、再び東京へと戻ります。 「一身のパワーアップなくして一国のパワーアップなし」慶応大学教授・徳田先生の力強いコラムに皆さんご期待ください。それでは、徳田先生、宜しくお願いします。






略歴
1984年 日本開発銀行入行 
1988年 経済企画庁調査局委嘱調査員(1990年まで)
1993年 日本開発銀行ニューヨーク駐在員
1995年 日本開発銀行調査役(調査部、国際部)
1999年 九州大学経済学部助教授
2000年 九州大学大学院経済学研究院助教授
2001年 ハーバード大学イェンチン研究所客員研究員(2003年まで)
2004年 九州大学大学院経済学研究院教授(現職)
研究分野
情報経済分析、企業投資分析、現代アメリカ経済
著書・論文等
単著 『情報技術革新の経済効果』日本評論社, 2003年 
単著 『IT経済入門』日経文庫ベーシック, 日本経済新聞社, 200年
単著 『情報革命の構図』東洋経済新報社, 1999年(テレコム社会科学賞受賞、
毎日新聞社/フジタ未来経営賞受賞)
共著 Accelerating Japan’s Economic Growth, Routledge, U.K., October 2007.
共著 『社会基盤としてのインターネット』岩波講座インターネット6, 2001年 
共著 『日本経済のグローバル化』東洋経済新報社, 1998年(貿易奨励会優秀賞)
その他
○内閣府 経済財政諮問会議「成長力加速プログラム・タスクフォース」委員
○経済産業省「産業構造審議会 情報経済分科会」委員
○経済産業省中小企業庁「中小企業政策審議会」委員
○財団法人日本情報処理開発協会「情報化白書編集委員会」委員
○国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)フェロー

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