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成長懇イレブン リレーコラム
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野原 佐和子

ICT利活用2.0への進化を目指して

野原 佐和子
株式会社イプシ・マーケティング研究所
代表取締役社長







 徳田先生、ご紹介ありがとうございます。イプシ・マーケティング研究所の野原です。 私は、「ICT利活用2.0への進化を目指して」と題して、組織横断的に情報を共有すること等により、 ICT利活用の幅や深さ、その意味を根本的に本質的に進化させることの必要性について述べようと思います。

 ICT成長力懇談会の議論では、我が国のICT利活用は進んでいないので、利活用を促進するために産官学が総力を挙げ、 強い意志を持って利活用推進策に取り組まなくてはいけないといった意見が数多く発言されています。私もその意見に賛成で、何度もその観点から発言をしています。
けれども一方で、一人の生活者として日々の生活を振り返ってみると、以前に比べICTの利活用は格段に進んだとも思っています。 私自身の生活を例にとって考えてみると、以下のような状況です。

 まず、自宅にいる間はいつでもPCを使える状態にしています。 消費行動を考えると、本・PC・家電・サプリメントなどスペックと価格を比較して購入するような商品は、ほぼ100%ネットショッピングで購入します。 出張時の新幹線・航空券の予約購入や宿泊予約も、ネット経由で行います。 訪問先の地図を調べるのも、行き先までの所要時間や経路を調べるのも、天気予報のチェックも、食事に出かける際のレストラン探しも、 初めてお会いする人についての情報収集も、すべてネットで行います。スケジューラーも、日記も、ブックマークによる情報クリップもネット上にあります。 また、仕事関係のメールもプライベートなメールも常時ケータイに転送しているので、急ぎの要件があれば、会議中にも移動中にもメールチェックをできます。 仕事関係のやり取りはもちろん、家族や友人とのコミュニケーションもメールのほうが多いくらいです。 そして、電子マネーやケータイクレジットも積極的に利用しています。通勤・移動や出張の時に電車に乗る際はケータイスイカやパスモで改札を通過。 タクシー乗車時にも、コンビニやスーパーでの買い物の時も、使えれば電子マネーやケータイクレジットで支払います。 そうすれば、小銭やお札に直接触らなくてもよいので、便利で快適です。私の生活からICT利活用サービスを無くしたら、不便極まりなく、とても我慢できそうにありません。

 しかし、こうした現在実現されているICTの利活用は、いわば「ICT利活用1.0」にすぎません。つなぐことができるものだけをつないだシステム。 デジタル化した情報を各組織でバラバラに管理・活用する段階に留まっており、 組織横断的に活用できるようになっていないシステム。一旦デジタル化した情報をプリントアウトして紙媒体で管理しているため、デジタル化したデータが活用されていない手続き。 というように、部分的なICT利活用の段階に過ぎません。そうではなくて、これからは、「ICT利活用2.0」へと進化していくことが必要でしょう。 組織横断的で全てをデジタル化・ネット化することによって実現するサービス。現在に比べ、より本格的な、より本質的なICT利活用の段階へと、進化していくことが望まれます。

 「ICT利活用2.0」時代のサービス例をいくつか述べようと思います。

 例えば、医療分野でいえば、個々人が生涯に渡って様々な機関・組織で取得する医療関連情報を、組織やエリアを超えて共有し一元管理することができるサービスが考えられます。 子供のころからの病歴・医療機関での各種検査結果・投薬記録・治療記録・健康診断結果などが一元管理され利用できれば、 転院しても検査の重複を避けることができるでしょうし、本人の自覚症状や現在の状態からだけでは診断できない病変に気づくことができるかもしれません。 事故等で意識不明になり問診できない状態でも必要な医療情報を得ることができるでしょう。その結果、医療現場の生産性が著しく向上し、医療費の削減にもつながるに違いありません。 カナダ、イギリスをはじめ海外では、既に、エレクトロニックヘルスレコード(EHR)と呼ばれる、 個々人の生涯に渡って得られる医療関連情報を施設・組織を超えて共有するための医療情報ネットワーク化が進められていると聞きます。我が国でも、 まもなくHERに関する実証実験が始まると聞いていますが、EHRへの取り組みを積極的に推進し、ICTの本格的かつ本質的な利活用サービスを提供できる環境整備が必要です。

 また、行政サービスや公共サービス関連では、自治体に転出届あるいは転入届のいずれかを届け出れば、 転居時に必要な各種手続きが連動して行われるようなサービスを実現できればよいと思います。 印鑑証明カードは自治体ごとに管理するのでなく全国一元管理にして自治体を超えて転居しても再発行は不要にし、 税務署や郵便局、光熱費支払い、通信会社、銀行、クレジットカード会社、社会保険庁など住所変更手続きをワンストップでオンライン手続きできるようにしてはどうでしょうか。 各種行政手続きのワンストップオンライン手続きを実現しようという動きはありますが、 それだけでなく、他の組織と連携を図り幅広いサービスのワンストップ化によって、生活者が利便性を実感できるサービスを実現できるのではないでしょうか。
 さらに、各企業で作成する源泉徴収票はデジタル化したデータを紙にプリントアウトして、就業者各自に渡し、 各自が確定申告のために再入力するという情報の流れになっていますが、各企業で入力した源泉徴収票データを税務署と共有することができれば、 各自が改めて入力しなおさなくても確認だけすれば確定申告ができるというシステムができるはずです。

 ICT利活用1.0レベルでは、手続き方法や業務の流れ、ビジネススキーム、法制度は従来のままで、できるところだけをICT化してきましたが、 ICT利活用2.0では、組織横断的に情報を共有する仕組みを構築し情報を一元管理し共有することによって、利活用の幅や深さを著しく拡大することができます。 いうまでもなく、長く続いてきた手続きや業務の流れを組織や業界横断的に変革していくのは、並大抵ではありません。 目指すべき姿を関係者が共通理解することは難しく、新しい仕組みを創造するのに困難を極めるだけでなく、 従来の仕組みと新しい仕組みが併存する期間を通過しなくてはならないため、その間の負荷がとても大きくなります。 そんな夢のようなシステム作れるわけがない、実態を知らないから言えるのだ、と思っている方が多いのではないかと思います。 それでも、これまでの延長線上での利活用促進ではなく、より本質的な利活用へと進化していくことにより、 新たな産業が産まれ、今までにない利便性やメリットを享受することができる社会が創造されるのだと思います。 そのためには、明確なゴールのイメージを持ち、そのイメージを全体で共有しながら強いリーダーシップを発揮する推進者が必要です。政府の役割が重要になると思います。

 人は変化を拒むもの。未知の世界に対して否定的になりがちです。 なくてもいいとか、普及するわけがないと言って、否定してしまうほうが楽なのです。 そういう人間の習わしを吹き飛ばすような、明確なゴールイメージを打ち出し、ICT利活用2.0の社会を切り開いていきたいものです。

 いかがでしたか。ICT利活用2.0のイメージと方向性がしっかり伝わったでしょうか? さて、再びバトンを東京から九州へ渡します。佐賀県知事の古川さん、「日本をノーサプライズ社会へ」 と題して、いつもの歯切れのよい口調で強いメッセージを、よろしくお願いします。






略歴
三重県生まれ。
1980年 名古屋大学理学部を卒業し、三菱油化(現 三菱化学)に入社。その後、お茶の水女子大学大学院修士課程を経て、(株)生活科学研究所に入社し、生活者の視点でマーケティング、ライフスタイル等を研究
1995年 情報通信総合研究所に移り、ECビジネス開発室長としてインターネット・ビジネスに関する調査及びコンサルティングを実施
2000年 (株)イプシ・マーケティング研究所を設立。代表取締役社長。ICT利活用ビジネスに関する調査及び戦略コンサルティング事業を展開している。
2006年 日本電気株式会社社外取締役就任
専攻
ICT利活用ビジネスに関する調査及び戦略コンサルティング
その他
○NTTドコモ モバイル社会研究所 理事(2006/7-)
○IT戦略本部 「情報セキュリティ政策会議」構成員(2005/5-)
○総務省 「通信プラットフォーム研究会」構成員(2008/1-)
○総務省 「モバイルビジネス活性化プラン評価会議」構成員(2008/1-)
○総務省 「競争評価アドバイザリーボード」委員 (2006/11-)
○総務省 「有線放送による再送信に関する研究会」構成員 (2007/10-)
○経済産業省 「産業構造審議会総会」委員(2005/8-)
○経済産業省 「産業構造審議会情報経済分科会」委員(2004/12-)
○経済産業省 「産業構造審議会情報セキュリティ基本問題委員会」委員(2006/11-)
○文化庁 「文化審議会著作権分科会」委員(2007/1-)
○文化庁 「文化審議会著作権分科会過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」委員(2007/3-)
○文化庁 「文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会」委員(2007/3-)

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