スタートを告げる増田大臣の号砲一発、麻倉さんからスタートしたICT成長力懇談会構成員による成長懇イレブンリレーコラムは、
伊丹さんまでの10人が次々とあざやかに「ひとつの襷(たすき)」を手渡していき、ついに最終走者である私にまでまわってきました。
これまでのランナーのぶっちぎりの快走のおかげで、最終走者の私は、イレブンの間を受け渡された「ひとつの襷」を高々と掲げてゴールのテープを切ることができます。
そして、私が高々と掲げる「襷」は、日本語の「襷」をグローバルに通用するように英語の「x」に表現しなおした、“xICT”ビジョンという懇談会報告書です。
2005年度からスタートしたu-Japan政策は、ネットワークインフラの整備という面では着実に進展しつつあり、
日本は、2010年代に、あらゆるPCがつながるだけでなく、人と人がいつでも、どこでも、誰でもつながり、
さらに、人と事物、事物と事物も縦横につながる世界最先端のユビキタスネットワーク環境を手にしようとしています。
他方、日本には、今、国際的な存在感の低下というグローバルな閉塞感と、地域間格差の拡大というローカルな閉塞感にさいなまれている、という現実があります。
この閉塞感を突破する鍵は、日本が世界に先駆けて実現しようとしているユビキタスネットワークのICT環境を、産業と地域がフルに活用して成長につなげることにあります。
ICT成長力懇談会が、全力を傾注してやろうとしたことは、このICTの利活用が成長とつながっていく骨太の道筋を「見える化」することでした。
これこそが、インフラの整備に対して、利活用が遅れがちの日本のICTを、政策が強化すべき道筋を示し、それが力強い成長をもたらす近道でもあるからです。
その道筋の「見える化」は、産業、地域、生活者という三つの側面から行われました。
産業については、大きく「効率性を高める」ことと「新たな事業領域を生み出す」という二つの方向がありますが、
効率性を高めるには、「企業内の効率性向上」、「国内の企業との間の効率性向上」、そして「海外の企業との間の効率性向上」という三つの方向での取り組みが必要です。
“xICT”ビジョンでは、個々の方向性について電子タグの活用、
統一的な場所コードの構築やオフショアの画像情報共有というようなユビキタス技術による具体的な展開の姿を示していますが、
勝間さんは、勝間流のリアリズムで、ICT利用が進まないのは、簡単に省力化できないため導入のインセンティブが弱く、
ちょっとした知識やスキルの不足で、PCより携帯やファックスのほうが手っ取り早いという現実があるからと喝破し、
このような状況を打開するために、身近で気軽な小さな革新の積み上げがいかに重要かということを指摘してくれました。
もうひとつの「新たな事業領域を生み出す」という面では、第一に「既存業態を進化させてNEXTx産業を生み出す」、
第二に「異業種間の連携=○○産業x△△産業」、第三にまったくの「NEWx産業である新規産業を生み出す」、という三つのパスがありますが、
麻倉さんは、ディスプレイの壁化・フレキシブル化という形でNEXTx産業の姿を垣間見させてくれましたし、
篠崎さんは、つながり力や環境力だけでなく、コンテンツの産業化、エネルギーの見える化、情報の価値化等、
重要な切り口を多数提示してくれました。また、森川さんの、定量的な「性能品質」を追及するだけでなく、
魅力的か否か、うならせることができるか、というような定性的な評価軸を持って「魅力品質」を追及することが重要、という指摘も我々をうならせます。
地域という面では、医療・教育・行政等の生活に不可欠なサービスや雇用を遠隔で提供することによって、
すでに各地域にある「コミュニティを(失われないように)確保する」という方向と、散在する複数の地域経済をICTで強固につないで行き、
メリハリの利いたまとまりとすることによって「集積効果を高める」というふたつの方向が重要です。
「コミュニティの確保」は、24時間オンライン利用を可能にする「行政サービスのユビキタス化」、
遠隔医療や遠隔教育のような「生活直結サービスのユビキタス化」、テレワーク、SOHOのような「雇用のユビキタス化」という3つの経路で行われるべき、
というのが“xICT”ビジョンの主張ですが、その重要性を真正面から議論してくれたのは、岸さんです。
地域のつながりをICTで強化して、それを地域のソーシャル・サービスのプラットフォームとすべきという主張を熱く語ってくれました。
「集積効果を高める」ために“xICT”ビジョンは、第一に農業や医療もICTによる可視化で生まれ変わる「地域産業・サービスの情報武装」、
第二にICTを触媒とする「中小企業の協働・連携」、第三に信頼や規範といったソーシャルキャピタルが蓄積される
「紐帯の進化による地域活性化」という3つの道筋を用意しています。
これらの実現のための条件として古川さんが地域の行政の当事者として強調したのは、
情報技術がお年寄り等の情報弱者にもっと寄り添って誰でも使えるようにすることと、どこかで実現していることは必ず日本で実現していて、
世界中どこにいっても驚くことのないノーサプライズ社会を実現するという厳しい条件です。
生活という面では、u-Japan政策において強調されたように「いつでもどこでも便利に」という方向性と、「誰でも簡単に安心して」という方向性が鍵となります。
「いつでもどこでも便利に」という方向性については、「いつでも協働して価値を創発」と「便利なサービスで快適な生活」がキーワードとなり、
u-Japan政策でもすでに多くの議論や提案があったのですが、徳田さんと、野原さんから非常に説得力のあるメッセージが出てきました。
徳田さんからは、福澤諭吉の「一身の独立なくして一国の独立なし」という言葉を擬して、
「一身の(ICTによる)パワーアップなくして、一国のパワーアップなし」という、“xICT”ビジョンの本質を射抜く言葉をいただきました。
野原さんはICT利活用が進んでないといいつつ、我々がICTをフルに利活用しもはやそれが不可欠な生活や仕事の一部となっている現状を活写しつつも、
それは「ICT利活用1.0」でしかなく、本当に必要なのは、手続きや業務の流れ、ビジネススキーム、法制度等を抜本的に変革し、
情報を組織横断的に、一元管理しながら共有する「ICT利活用2.0」である、ということを印象深い語り口で語ってくれました。
生活サイドのもうひとつ重要な側面は「誰でも簡単に安心して」という側面ですが、この安全・安心の確保が、
周り道のようで最も重要なICT利活用活性化の道であることは、岡村さんが道路交通とのアナロジーで早い段階から整理してみせてくれました。
以上が“xICT”ビジョンの三つの側面ですが、伊丹さんは、いつも皆がドキッとする表現をつかいながら、
我々が赴くべき道の右端と左端が奈辺にあるかを示して追い込んでいってくれます。今回も例外ではありません。
生活の糧を議論しないで生活の質を議論するウソと、供給者の仲間内の狭い視野だけで行われる“専門家”の議論のウソ!、気を付けなければいけませんね。
“xICT”ビジョンはおかげさまで、伊丹さんのナビゲート宜しきを得て、供給サイドと利用サイド、
ICTと成長を効果的につなぐ道筋を見つけること自体にターゲットをおいて走ってきました。
その結果が以上に述べた三つの側面の“xICT”ビジョンです。おかげでどちらのウソもつかなくて良かったですね。
さて、どうやら座長としての責任をはたしたところでもう紙幅がつきてしまったようですが、ひとつだけ最後に私にも発言させてください。
それは“xICT”ビジョンが開くフロンティアにとっての「xICTマインド」(この言葉にはあえて、xICTに“”を付けません)の重要性ということです。
“xICT”ビジョンは、徹底してICTはツールであり環境であるという事実に徹しており、
“xICT”の前につく自動車とか、医療とか、行政とか、エンタテイメントとか、が2010年代のICTシーンの主役であり、牽引者であると考えるものです。
これらの牽引者は、各々の分野で次々に起こる環境変化のもたらす諸課題に対応しなければなりません。
各々の分野にはそれぞれの固有の経営や行政のツールがあります。
そのような中で、年度の経営計画や予算、複数年度に渉る事業戦略や事業計画を策定する際や日常の意思決定の際に、
業種やジャンルに関わらず普遍的な生産性向上と新分野開拓のツールを与えてくれるユビキタスネットワークのICTの利活用を、
常に選択肢の一つとして考えてみる経営マインドや行政マインドが、「xICTマインド」です。
2010年代のユビキタスネットワークのICT環境がいくら先進的なネットワーク環境を整えても、
強い「xICTマインド」がなければ、相変わらず、インフラは良いが利活用が遅れているという状況にとどまることになります。
2010年代は、1990年代とは180度違う世界です。1990年代中頃にインターネットの爆発的普及が始まり、
電子商取引のブームがやってきた時には、あたかもICTが天から降ってきたように、日本のICT産業も含めて産業がやるべきことを、
ICT、特に、米国西海岸からやってきたICTが指し示してくれました。そして、その際の利活用者としての産業や行政側に与えられた選択肢は、
ICTが準備する、ある程度パターンが決まったもので、比較的、数も限られたものでした。
2010年代のいつでも、どこでも、なんでも、だれでもネットワークにつながるユビキタスネット社会においては、
これまでと比較にならない種類と数の革新のツールの選択肢がもたらされます。
ネット空間の中だけで起こった革新は、電子タグやセンサーやネットワークロボットの利用という形で、
産業や行政の身の回りの現実世界とつながる革新となっていきます。また、これからさらに進んで行く無線のブロードバンド化は、サービスの提供の仕方を抜本的に変えていきます。
1990年代に起こったインターネットの普及や電子商取引ブームで、経営や行政とICTは一気に近づき、
ICTの活用は主要な経営課題に躍り出ましたが、その衝撃があまりに大きかったせいか、
その後は、ICT活用はどちらかというと専門部門や専門家の仕事となってしまった感があります。
私が、この段階で経営者や地域のリーダーに「xICTマインド」を求めたいのは、これから2010年代にかけて、
ユビキタスネットワークのICTを活用することによって、目の覚めるようなビジネスモデルで競争相手を出し抜いたり、
何十年と変わらない生産性水準を抜本的に向上させるチャンスが生まれてきていると考えるからです。
それらの多様な選択肢の大半は、グローバルな普遍性を持つでしょうが、まだ日本でしか享受できないものも含まれます。
使いようによって様々な魅力的な戦略や政策の構築が可能になります。ICTサイドは、常にネットワーク利用環境を革新するとともに、
魅力的なアプリケーションを提案し続けて「xICTマインド」を刺激しつづけなければなりません。
このICTと「xICTマインド」が最適な形、最適なタイミングで出会い、
多様な創発が起こるような制度面・技術面等の環境整備を進める羅針盤となるものが“xICT”ビジョンであってほしいと切に思っています。
1945年生まれ | |
1968年3月 | 京都大学経済学部卒業 |
1968年4月 | 野村総合研究所入社 同社社会システム研究部長、技術戦略研究部長、研究理事を歴任 |
1996年 | 同所 取締役 新社会システム事業本部長 |
1997年 | 同所 常務取締役 新社会システム事業本部長 |
2000年 | 同所 専務取締役 リサーチコンサルティング部門・研究開発担当 |
2001年 | 同所 代表取締役専務・リサーチコンサルティング部門・国際本部・研究開発担当 |
2002年 | 同所 理事長 |
2008年 | 同所 シニアフェロー(現職) |
「ユビキタス・ネットワーク」 |
「産業創発」 |
「仕組み革新」 |
「未来萌芽」 |
「創造の戦略(日、英、西、韓語)」 |
「日本企業の競争様式の転換」 |
「Global Insecurity」 |
「Japan's National IT Strategy and The Ubiquitous Network」 等 |
○情報通信審議会(情報通信政策部会長) |
○産業構造審議会(情報経済分科会長) |
○IT新改革戦略評価専門調査会委員 |
○日本経団連・情報化部会長代理 |
○経済同友会幹事 |
○サービス産業生産性協議会 副代表幹事 |
○NHK約束評価委員会委員 |
○株式会社 ベネッセコーポレーション 取締役(社外) |
○慶応義塾大学総合政策学部教授(特別招聘) |
○日本学術会議連携会員(情報学) |
○京都大学情報学博士、経済学士 |
○ピッツバーグ大学公共国際問題修士 |
総務省情報通信国際戦略局
情報通信政策課