総務省トップ > 若年層に対するプログラミング教育の普及推進事業 > 発達障害者プログラマーの育成と就労に繋げる支援とメンターの育成

発達障害者プログラマーの育成と就労に繋げる
支援とメンターの育成

国立大学法人福井大学
ミテネインターネット株式会社
独立行政法人国立高等専門学校機構福井工業高等専門学校
福井大学 小越康宏

H29年度当初予算にて実証実施

1. モデルの概要

1.1 モデルの全体概要

■メンター育成講座を通じプログラマーを育成できる発達障害児者の支援者を育成する。論理的思考能力を養うために視覚デザインによるクラウド型プログラミング教材を開発する。発達障害児者の特性を考慮し、興味を持ち根気強く取り組める課題を提供する。プログラムの動作確認はプロジェクションマッピングによりコミュニケーションを促す場を提供する。

■発達障害児者の適切な支援を行うためには、個々人の特性の把握が重要である。我々は従前より医・工・教連携で、発達障害児者の日々の行動や状態像を把握し支援を行うことを目的とした「家庭・学校・専門家を繋ぐICT個別支援システム」を開発し運用してきた。発達障害児者は社会性の問題を抱え、コミュニケーションに苦手意識がある。これを克服するための社会スキルトレーニング、就労に必要な状況理解や判断を支援するシステムを開発してきた。躓き挫け易い、パニックに陥り易い、時間や工程の管理が苦手等の個々人の特性を把握し、自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的としている。

■発達障害

1.2 実施体制

<実証の実施体制>

実施体制図

2. 実証内容

2.1 メンターの効果的な育成方法の実証

2.1.1 育成メンターの概要

■メンターの属性、なぜその属性なのか、母集団がいればなぜその母集団を選択したのか:
メンターの属性として、下記に示す(1)と(2) のような人材を対象とした。その理由についても述べる。
(1)発達障害支援のスキルがある人:
放課後等デイサービス、日中一時支援の活動において実績のある事業者の専門スタッフ、および、発達障害児に対する教室を開催している教育系の卒研生・大学院生など。
プログラミング指導のスキルも身につければ、支援の幅が広がり持続的な活動も期待できるからである。

(2)プログラミングスキルがある人:
福祉工学研究に従事している工学系の卒研生・大学院生、高専の卒研生や研究科生など。
今後、我が国では障害者雇用が促進されると期待する。共生社会を実現するためには、将来のITリーダーとなるような人材に対して、発達障害の特性や支援方法について理解を深めることは重要であると考えたからである。

■育成人数:各団体につき3〜5名程度、合計21名
内訳は、社会人9名、学生12名である。

■スケジュール

10月から3月の実施スケジュール

■募集方法:上記の事業所代表者、教室運営者、大学や高専の研究室教員へ案内。

各実証校で配布した「未来のプログラマーを目指して!プログラミング教室のご案内」のちらし

各実証校にて上記のような案内チラシを配布していただいた。

2.1.2 メンター育成研修

研修カリキュラムは、下記に示す(1)と(2)の二つからなる。
(1)プログラミング教室における授業方法の研修:1回
(2)発達障害・プログラミング・就労支援に関する研修:専門講義の受講15回

■(1)のプログラミング教室の研修方法:
 実施主体(福井大学、ミテネインターネット(株)、福井工業高等専門学校)がメイン講師となり、各実証校にて1回目のプログラミング教室を実施する。メンターもサブ講師として参加し授業方法を学んだ。
その後、各実証校においてメンターがメイン講師となり、継続的に2回目以降のプログラミング教室を展開した。

■講座の形態・回数時間:e-Learningの受講、1回30分×15回

■障害特性に応じた工夫点:メンター育成では発達障害に関する専門家5名、プログラミングや技術教育に関する専門家5名、就労支援に関する専門家5名から、幼児期から就労に至るまでの様々な支援方法や教育方法を学ぶことができる。

2.1.3 メンター育成教材

■使用教材
 15名のメンター育成講座の講師陣(発達障害の専門家5名、理科・プログラミング教育の専門家5名、放課後等デイサービス・日中一時支援事業者・地域連携活動・就労支援の専門家)による講義を撮影し、e-Learning教材として収録が完了した。

■研修の方法
 Web上でメンター育成講座を(受講登録者へ)配信した。場所や時間の制約もなくメンター育成研修を可能とした。今後も横展開や継続的なメンター育成が可能となる。
 発達障害については、世の中で正しく認知されていないことが多い。特に、合理的な配慮や支援方法について、普及活動をしていく必要がある。提案者らの所属している学会や支援団体を通じ、全国的に紹介し、展開していくことを考えた。来年度以降も活動を継続する。

※本実証事業では、年間を通じ様々な教室を開いて発達障害児者支援の専門性の高い事業者に実証校として協力いただいた。プログラミング教室においては、以降で説明する我々が開発した発達障害者向け教材ツールを導入していただいた。利用方法について、我々が作成した教材のマニュアルを配布し、1回目のプログラミング教室で解説した。

 来年度以降の継続について、平成30年1月27日(土)ハピリンホール福井にて、シンポジウム「共生社会をめざして」の午前の部の特別講演にて、本事業の紹介を行ったところ、徳山工業高等専門学校や熊本工業高等専門学校から、プログラミング教材の利用やメンター育成講座受講希望に関する問い合わせがあり、対応予定である。

メンター育成講座のコンテンツ一覧
講義内容 講演者 テーマ 所属
全体の説明 小越 康宏 ・総務省の若年層プログラミング教育の普及推進事業〜障害のある児童生徒を対象としたプログラミング教育実証事業〜について
・本事業:発達障害者プログラマーの育成と就労に繋げる支援とメンターの育成について
・本事業でのメンター育成講座について
・プログラミング教室について
福井大学 学術研究院
工学系部門 准教授
発達障害
について
三橋 美典 「発達障害児者の理解と支援、発達障害の心理特性と教育支援−LDとADHDを中心に」 福井大学 名誉教授、
教育地域科学部 特命教授
平谷美智夫 「自閉症スペクトラム障害(ASD)
注意欠如多動性障害(ADHD)
学習障害(LD ) :読字障害=Dyslexia など)
とその併存症の臨床・治療・療育
-多彩な臨床症状と療育ネットワークにおける医療の役割:薬物治療を含めて-」
平谷こども発達クリニック 院長、
小児科医
清水 聡 「ASDを中心とした発達障害児への支援の視点と学校外での支援の実際」 福井県立大学学術教養センター 教授、
NPO法人はるもにあ 理事長
高橋 哲也 「発達障害における二次障害の理解」 福井大学保健管理センター 
准教授、MD, PhD
後藤 綾文 「発達障害児への 学校における支援の視点 〜他者との関わりを中心に〜」 福井大学保健管理センター 
特命講師
理科・
ものづくり
プログラミング教育
淺原 雅浩 「平成29年3月公示新学習指導要領と小学校段階におけるプログラミング教育」 福井大学学術研究院
教育・人文社会系部門
教員養成領域 教授
石上 晋三 「プログラミング教育支援システムを使って」 ミテネインターネット株式会社
営業部兼総務部課長
小越 咲子 「発達障害児者への個人特性にあわせたプログラミング演習」 福井工業高等専門学校
電子情報工学科 准教授
斉藤 徹 「プログラマーの仕事」 福井工業高等専門学校
電子情報工学科 教授
西 仁司 「組込みシステム開発型 演習事例紹介」 福井工業高等専門学校
電子情報工学科 准教授
発達障害者支援
就労支援
地域ネットワーク
武澤 友広 「発達障害者の自己理解の支援について」 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 研究員
津田 貴 「重度障害者の在宅雇用と特別支援学校との連携」 株式会社沖ワークウェル
代表取締役社長
永井 弘明 「発達障害支援ネットワークの必要性−教育と労働のギャップ−」 日本発達障害者ネットワーク福井 事務局長、全国LD親の会 福井たんぽぽの会
瀧澤 治美 「支援機関でみられる発達障害児者の特性とその対応〜事例の紹介と実践的な対応について〜」 NPO法人AOZORA福井
理事長
三浦靖一郎 「共生社会と科学技術の関わり」 独立行政法人国立高等専門学校機構 徳山工業高等専門学校 特別支援教育コーディネータ

以降に各講義概要を示す。

【全体説明】
「発達障害者プログラマーの育成と就労に繋げる支援とメンターの育成」

講演者:小越 康宏(福井大学 学術研究院 工学系部門 准教授)
〈概要〉 
1.メンター育成講座(e-Learning教材)の作成
対象とするメンターの属性や育成目的:

  • 発達障害の支援者のプログラミング指導スキルを高める。
  • 工学系の学生に発達障害の特性や支援方法を理解させる。多様な人材に発達障害者のプログラミング教育や支援に関わってもらい、障害者雇用拡大と真の共生社会の実現を目指す。各分野の専門家15名の講義をe-Learning教材を受講し、理解を深める。

2.SPELLの法則(英国自閉症協会提唱)に基づいた新しいクラウド型教材の作成

  • 視覚デザインで論理的思考能力を養うプログラミング方法。
  • いつでもどこでも学習可能なクラウド型教材。
  • 発達障害児者の特性を考慮した教材・カリキュラムを開発し、興味を持ち根気強く取り組める課題を提供する。
  • 「発達障害者プログラマーの育成と就労に繋げる支援とメンターの育成」の講義用スライドの一部1
  • 「発達障害者プログラマーの育成と就労に繋げる支援とメンターの育成」の講義用スライドの一部2

【発達障害について】
「発達障害児者の理解と支援、発達障害の心理特性と教育支援−LDとADHDを中心に」

講演者:三橋 美典(福井大学 名誉教授、教育地域科学部 特命教授)
〈概要〉
まず最初に、発達障害の定義と診断類型および共通した原因・特性について説明した。続いて、AD/HDとLDを中心に、各障害の定義と診断基準、認知心理学や脳科学からみた原因機序、下位分類・タイプと心理・行動特性、学校や家庭等における具体的な支援方法について講話した。最後に、発達障害者の社会的自立に向けて重要となる支援の観点や方針を提言した。

  • 「発達障害児者の理解と支援、発達障害の心理特性と教育支援−LDとADHDを中心に」の講義用スライドの一部1
  • 「発達障害児者の理解と支援、発達障害の心理特性と教育支援−LDとADHDを中心に」の講義用スライドの一部2

 「自閉症スペクトラム障害(ASD)・注意欠如多動性障害(ADHD)・学習障害(LD):読字障害=Dyslexia などの臨床・治療・療育-多彩な臨床症状と療育ネットワークにおける医療の役割:薬物治療を含めて-」
講演者:平谷 美智夫(平谷こども発達クリニック 院長、小児科医)
〈概要〉
自閉症スペクトラム症・注意欠如多動症・学習症(特にディスレクシア)・発達性協調運動症は、同一人あるいは家族内で併存する頻度が高く、疾患としての独立性には疑問があるが、4疾患それぞれで療育技術は異なるので鑑別診断は重要である。医療は、発達障害児の持つ障害特性のみでなく、様々な中枢神経機能障害や併存疾患に対して教育・福祉・労働などと連携して治療・療育に貢献する必要がある。薬物治療は最も重要である。

  • 「自閉症スペクトラム障害(ASD)・注意欠如多動性障害(ADHD)・学習障害(LD):読字障害=Dyslexia などの臨床・治療・療育」の講義用スライドの一部1
  • 「自閉症スペクトラム障害(ASD)・注意欠如多動性障害(ADHD)・学習障害(LD):読字障害=Dyslexia などの臨床・治療・療育」の講義用スライドの一部2

「ASDを中心とした発達障害児への支援の視点と学校外での支援の実際」
講演者:清水 聡(福井県立大学学術教養センター 教授、NPO法人はるもにあ 理事長)
〈概要〉
発達障害児の支援は、正しい見立ての下個別の特性毎に細かい配慮をし、かつ就労を見据え長期的視点に立って関わり続けることが必要である。本講座では発達障害児者への長期的支援を目的に設立されたNPO法人の活動について概説した。個別的な相談に引き続き、年齢段階毎に用意された小集団活動において彼らを受け入れる居場所を提供しながら、学校や職場だけでは低下しがちな彼らの自尊心を維持し、同時に自己理解を図る活動を展開している。

  • 「ASDを中心とした発達障害児への支援の視点と学校外での支援の実際」の講義用スライドの一部1
  • 「ASDを中心とした発達障害児への支援の視点と学校外での支援の実際」の講義用スライドの一部2

「発達障害における二次障害の理解」
講演者:高橋 哲也(福井大学保健管理センター 准教授、MD, PhD)
〈概要〉
発達障害における特性は、「人間関係」や「学習」、「行動上の問題」などの様々な問題を引き起こす。これらの発達障害の特性が直接もたらす問題は「一次障害」と呼ばれる。一方、一次障害から生じる自尊感情の低下や発達障害が有する精神障害への脆弱性から生じる精神的問題は二次障害と呼ばれる。二次障害に対する適切な理解は効果的な支援を講じる上での重要な要素である。本講義では、発達障害における二次障害について、具体的精神疾患を挙げて概説した。

  • 「発達障害における二次障害の理解」の講義用スライドの一部1
  • 「発達障害における二次障害の理解」の講義用スライドの一部2

「発達障害児への学校における支援の視点〜他者との関わりを中心に〜」
講演者:後藤 綾文(福井大学保健管理センター 特命講師)
〈概要〉
発達障害児への学校における支援の視点として、他者との関わりを中心に報告した。特に思春期には、身体の発達(第2次性徴期)、自意識の芽生え、仲間集団への同調傾向などが生じ、人間関係が複雑になる時期であり不適応に陥りやすい。各学校段階における支援の視点として、自分の特徴を自分である程度わかること、自分をコントロールする方法を知っていること、援助を求める・相談することができることを身に着けていく必要性を挙げた。

  • 「発達障害児への学校における支援の視点」の講義用スライドの一部1
  • 「発達障害児への学校における支援の視点」の講義用スライドの一部2

【理科・ものづくり プログラミング教育】
「平成29年3月公示新学習指導要領と小学校段階におけるプログラミング教育」

講演者:淺原 雅浩(福井大学学術研究院 教育・人文社会系部門 教員養成領域 教授)
〈概要〉
平成29年3月に次期小学校学習指導要領が公開された。この中では、子どもたちが、未来社会を切り開くための資質・能力((1)知識・技能、(2)思考力・判断力・表現力、(3)学びに向かう力・人間性の3点)に関して全体を貫いた取りまとめがなされている。別途、プログラミング学習の在り方に関しても検討がなされ、実施に向けて、指導体制の充実や社会との連携・協働が期待されている。本講座では、プログラミング教育に関連する学校教育の現状と今後の方向性について概説する。

  • 「平成29年3月公示新学習指導要領と小学校段階におけるプログラミング教育」の講義用スライドの一部1
  • 「平成29年3月公示新学習指導要領と小学校段階におけるプログラミング教育」の講義用スライドの一部2

「プログラミング教育支援システムを使って」
講演者:石上 晋三(ミテネインターネット株式会社営業部兼総務部課長)
〈概要〉
プログラミングの意味を教えることと今回開発したクラウド型プログラミング教育支援システムの狙いとを関連付けて説明する。プログラムには必ず目的があることをゲーミフィケーション型で進める。次にプログラムには間違いが必ず含まれることをデバッカー風の画面で学ぶ。最後にプログラムの完成(答え)は1つではないことをコマンドツールの使い分けで理解する。プログラムではなくプログラムの意味を教えていただきたい。

  • 「プログラミング教育支援システムを使って」の講義用スライドの一部1
  • 「プログラミング教育支援システムを使って」の講義用スライドの一部2

「発達障害児者への個人特性にあわせたプログラミング演習」
講演者:小越 咲子(福井工業高等専門学校電子情報工学科 准教授)
〈概要〉
本プログラミング教材を用いた授業の進め方の例をSPELLの法則を用いて解説した。発達障害は100人100様の状態像をもつため、教え方、学び方についても個人毎に適した方法は異なるが、できるだけ視覚的な手がかりを活用してプログラミングの基本処理構造を理解できるような説明例を紹介した。前半はアルゴリズムとプログラミングについて重点的に、後半は発達障害支援のヒントを多く取り入れた。

  • 「発達障害児者への個人特性にあわせたプログラミング演習」の講義用スライドの一部1
  • 「発達障害児者への個人特性にあわせたプログラミング演習」の講義用スライドの一部2

「プログラマーの仕事」
講演者:斉藤 徹(福井工業高等専門学校電子情報工学科 教授)
〈概要〉
プログラミングに興味を持ち始めた学生に、プログラミングとは何か、プログラマーになったとして実際の仕事はどういったことをするのかを理解してもらうことを目標に講演を行った。特に、プログラマーの仕事を、ゲーム開発の仕事を例に説明したり、プログラムを作るとはどういうことなのかを鶴亀算を例にしながら、アルゴリズムを考えること、コーディングすることの違いを説明した。

  • 「プログラマーの仕事」の講義用スライドの一部1
  • 「プログラマーの仕事」の講義用スライドの一部2

「組込みシステム開発型演習事例紹介」
講演者:西 仁司(福井工業高等専門学校電子情報工学科 准教授)
〈概要〉
家電や車など身近なところで活躍している組込みシステムは、IoTの実現によって今後ますます重要となる技術の一つである。その開発には、プログラミングなどのソフトウェアの知識だけでなく、ハードウェアとソフトウェアをうまく連携させる技術が必要である。本講座では、組込みシステム開発型の演習事例を取り上げ、授業の進め方の一例を紹介する。また、このような演習がプログラミング教育を目的とする場合にも有効であることを示す。

  • 「組込みシステム開発型演習事例紹介」の講義用スライドの一部1
  • 「組込みシステム開発型演習事例紹介」の講義用スライドの一部2

【発達障害者支援 就労支援 地域ネットワーク】
「発達障害者の自己理解の支援について」

講演者:武澤 友広(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 研究員)
〈概要〉
近年、就労支援機関では発達障害者の利用者が増えており、その支援ニーズの高さが窺える。障害者職業総合センターでは2015年に障害者就業・生活支援センターを対象に、利用者の職業上の課題やその支援に関する調査を実施した。本講座では、発達障害のある利用者についての調査結果の概要を紹介するとともに、自己理解を促す支援技法として障害者職業総合センター職業センターで開発された「ナビゲーションブック」を紹介する。

  • 「発達障害者の自己理解の支援について」の講義用スライドの一部1
  • 「発達障害者の自己理解の支援について」の講義用スライドの一部2

「重度障害者の在宅雇用と特別支援学校との連携」
講演者:津田 貴(株式会社沖ワークウェル 代表取締役社長)
〈概要〉
障害などのため通勤ができない人は、就労に結びつきにくい現実がある。OKIワークウェルでは、通勤の困難な重度障害者49名が、体調管理のしやすい自宅でパソコンとネットワークを活用して、ソフトウェア関連の業務を行っている。OKIワークウェルの在宅勤務者は重度の肢体障害者であるが、発達障害の子供たちの中にも、在宅就労あるいはサテライトオフィスという働き方がフィットする場合があるかもしれない。

  • 「重度障害者の在宅雇用と特別支援学校との連携」の講義用スライドの一部1
  • 「重度障害者の在宅雇用と特別支援学校との連携」の講義用スライドの一部2

「発達障害支援ネットワークの必要性-教育と労働のギャップ-」
講演者:永井 弘明(日本発達障害者ネットワーク福井 事務局長、全国LD親の会 福井たんぽぽの会)
〈概要〉
発達障害は年齢や障害の度合いにより困難さが異なる。また同じ当事者でも就学中は健常者、就労中は障害者と見なされる。また大半が診断を受けていないグレーゾーンであり、特に自閉症スペクトラムは周囲が困難さを感じても本人は気づかないことが多い。保護者の多くは、健常者に近づける無駄な努力を重ね、高学歴になるほど就労が困難になっている。たとえ能力が高くても障害者と呼ばれることへの嫌悪感が最大の社会的障壁となっている。

  • 「発達障害支援ネットワークの必要性」の講義用スライドの一部1
  • 「発達障害支援ネットワークの必要性」の講義用スライドの一部2

「支援機関でみられる発達障害児者の特性とその対応〜事例の紹介と実践的な対応について〜」
講演者:瀧澤 治美(NPO法人AOZORA福井 理事長)
〈概要〉
AOZORA福井では、知的障害のない発達障害及び周辺児者を対象に、学校や職場で主体的に生活できるための支援事業(日中一時支援・放課後等デイサービス)を行っている。実践的に支援をしている中で、よくある事例とその対応について事例を交えて紹介する。

  • 「支援機関でみられる発達障害児者の特性とその対応」の講義用スライドの一部1
  • 「支援機関でみられる発達障害児者の特性とその対応」の講義用スライドの一部2

「共生社会と科学技術の関わり」
講演者:三浦 靖一郎(独立行政法人国立高等専門学校機構 徳山工業高等専門学校 特別支援教育コーディネータ)
〈概要〉
共生社会とは、「これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会のこと」であり、「誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会のこと」で、国連も内閣府も推進している。科学技術の「新しい知識・工夫・技術の探求と普及」という役割を通して、誰もが社会参加できる環境整備に挑戦することで、共生社会へ近づくと考えている。

  • 「共生社会と科学技術の関わり」の講義用スライドの一部1
  • 「共生社会と科学技術の関わり」の講義用スライドの一部2

2.2 児童生徒に対するプログラミング講座の効果的な運営方法の実証

2.2.1 講座の概要
実施日程 会場 講座の流れ・ねらい 参加児童生徒数 講座進行担当者の位置づけ 担当メンター数
2017/11/27 月 17:30-18:30 福井大学
たんぽぽ教室
教材プロトタイプ検証と
指導方法検証
実施主体
2017/12/16 土 13:00-14:00 福井大学
たんぽぽ教室
教材と指導方法実証
メンター育成と実践
実施主体
2018/2/19 月 18:00-19:00 たんぽぽ教室&発達クリニックはぐくみ 教材と指導方法実証
メンター育成と実践
実施主体
2018/1/10 水 16:20-17:30 はるもにあ
ハーツ志比口2F
教材と指導方法実証
メンター育成と実践
実施主体
2018/1/11 木 17:30-18:30 NPO法人
AOZORA福井
教材と指導方法実証
メンター育成と実践
実施主体
2018/1/15 月 10:45-11:35 福井県立
東特別支援学校
教材と指導方法実証
メンター育成と実践
実施主体
2.2.2 プログラミング講座の内容

■本教材開発の目的
これまで、若年層に対して、発達障害児者に対して、様々なプログラミング教室を開催してきた。使用言語はBasicやビジュアルデザインに基づき、汎用性や拡張性も高く世界中のプログラミング教育で利用されているScratchを利用してきた。
プログラミングを得意としている児童生徒においては、発展的なプログラムに取り組むこともできたが、学習障害等を伴う児童生徒においては、最終的なゴールのイメージが掴みにくく、あまり興味を持ってもらうことができなかった。
そこで、明快なゴールを設定し、ゴールに至るまでの筋道についても、分かりやすいコマンドの中から用いる手順や組み合わせを考えることでプログラミング可能な、オリジナルな教材を作成することが必要と考えた。

■本教材開発の目的
プログラミング教材で与える課題は 「迷路脱出」 である。主人公のキャラクターが迷路内でスタートからゴールに至る道筋を計画するといった単純なものである。
キャラクターの進む方向、歩数を考え、また、その中に繰り返し動作などの 「気づき」 を与える工夫をした。
ステージが進むにつれ、「迷路の複雑化」、「制御構造:繰り返しの頻度が高くなる」(迷路のデザインは繰り返し性や対称性があり、プログラムの再利用できるような「気づき」の仕掛けがある)」、「制御構造:条件分岐」(敵が出現したらたたかう、また、アイテムを拾う)などの解決手段を発見できるように工夫した。

■発達障害を考慮した教材設計
SPELL(英国自閉症協会提唱)の法則に基づいた教材・カリキュラム開発・指導方針
Structure:簡単で明瞭な枠組みの設定⇒ 視覚化・構造化された教材開発
Positive:ポジティブに関わる(ほめる)⇒ 成功したら褒め、
Emphasis:共感(理解)⇒ 失敗しても励ます
Low arousal:刺激が多過ぎると混乱するため低刺激のもの
⇒ 見やすく落ち着いて作業のできる画面レイアウトを用意
Links:きずな(地域、メンターや学生、仲間とのつながり、協力)
⇒ プログラム動作確認はプロジェクションマッピングにより
コミュニケーションを促す場を提供

 上記の設計方針に基づいて開発したプログラミン教材を用い、プログラミング教室を実施した。
プログラミングの専門家ではないメンターにおいても、プログラミングの指導がうまくできるかどうか実証を進めてきた。
なお、教材の概要については以降に示す。

視覚デザインにより逐次実行、低刺激な画面、ユニバーサルデザインにも対応し、考慮した教材設計による画面の例

明確で分り易く、プログラミングの目的、即ちゴールを提示しているステージクリア条件の表示例(全30ステージ)

プロジェクションマッピングも取り入れた部分の写真など

■教材の概要・特徴:

  • 入門者にも分かりやすい独自に開発したオリジナルなクラウド型教材を利用する。
  • 視覚デザインプログラミングにより論理的思考力を養わせる。
  • 「バーチャルロボットの迷路脱出」課題に取り組む。

■使用言語、端末、それらの採用理由:

  • 論理的思考能力の涵養を目指した入門者に優しい視覚デザインプログラミング。
  • 単純なコマンドはJava風なソースコードを生成可能であり、コーディング学習への移行も可能。
  • クラウド型プログラミング教材を採用することで、利用者は特別な設定が不要。

■障害の状態や児童生徒の特性に合わせて配慮工夫:

  • 発達障害者の特性を考慮しアシスト機能で楽しく取り組める工夫。プログラムが上手く動いたときに「褒める」、動かないときに「なだめる」・「ヒントを与える」ユーザインタフェース。
  • バーチャルロボットの迷路脱出動作は個々の端末でも確認できるが、受講差が囲むテーブル上に3DCGによりプロジェクションマッピングし、対話をし易い場を与える。

■障害の状態や児童生徒の特性に合わせて配慮工夫:

  • 受講者の進捗はサーバーで把握でき、専門家とメンターが個別指導に役立てる。

以降に、プログラミング教材の操作マニュアルを抜粋したものを示す。

■開発したクラウド型プログラミング教材
「プログラミング教育支援システムRPG」の説明

このゲームはクラウド型プログラミング教材であり、ブラウザ画面の上に以下のURLを入力する。
http://progss.mitene.jp/game/ 別ウィンドウで開きます

事前に登録された「ユーザー名」、「パスワード」を入力してシステムにログインする。

<ログイン画面>

「プログラミング教育支援システムRPG」のログイン画面。以降はログイン後の画面

<ステージ選択画面>

ステージ選択画面

利用者の好みに応じて、3種類の各種ワールド(世界観)に切り替えることができる。

  • ワールド1の「勇者とモンスターのRPG」の画面
    ワールド1:勇者とモンスターのRPG
  • ワールド2の「冒険ネコの不思議な世界」の画面
    ワールド2:冒険ネコの不思議な世界
  • ワールド3の「シンプルなゲームの世界」画面
    ワールド3:シンプルなゲームの世界 (低刺激かつユニバーサルデザインにも対応)

<ステージクリア条件表示画面>

ステージクリア条件表示画面

ステージごとに、プログラミングの目的が提示される。
ステージごとに徐々に難易度が上がり、全部で30種類のステージ(2018.2.1現在)に挑戦することができる。

<ステージ画面・プログラミング画面>

ステージ画面(左側に表示)とプログラミング画面(右側に表示)

各ステージのステージクリア条件に応じて、プログラムに必要な以下のコマンドを選択し使用する。

  • 方角コマンド → キャラクターが向く方角を変える。
  • 回転コマンド → キャラクターの向きを変える。
  • あるくコマンド → キャラクターが1歩あるく。
  • ひろうコマンド → キャラクターがクリア条件に必要なアイテムをひろう。
  • たたかうコマンド → 敵が出現したとき、キャラクターが敵とたたかう。
  • くりかえしコマンド →上記のコマンドを連続して実行する。

<プログラミング画面の例>

ステージ4画面(冒険ネコの不思議な世界)でのプログラミング画面

“方角”コマンドブロック(または回転コマンドブロック)、“くりかえし”コマンドブロック、“あるく”コマンドの3つコマンドの紹介

(1)“方向コマンドブロック” 使用画面

方向コマンドブロックを使用した画面の説明

(2)“くりかえしコマンドブロック” 使用画面

くりかえしコマンドブロックを使用した画面の説明

(3)“あるくコマンドブロック” 使用画面

あるくコマンドブロックを使用した画面の説明

クエストクリア画面とクエスト失敗画面

2.2.3 実証の様子
  • 実証の様子(写真1)
  • 実証の様子(写真2)
  • 実証の様子(写真3)
  • 実証の様子(写真4)
  • 実施主体(福井大、ミテネインターネット、福井高専)によりプログラミング教室を実施。
    各実実証校のメンターも見学し、授業方法を身につけた。
  • 逐次実行、繰り返しや条件分岐などの制御構造を自然に理解し、論理的に考えながらプログラミングを学ぶことができた。
  • プログラミングが初めての生徒もステージ5くらいまで、何らかの経験のある生徒はステージ10くらいまで進むことが出来た。
2.2.4 講座参加者の声
(1)児童生徒の声

今後、プログラミングを続けていきたいと答えた児童生徒が多かった(25名中17名)。
*プログラミングを続けていきたいと答えた理由

  • 操作の仕方を工夫すると、おもしろい動き方ができて楽しいから
  • 楽しいし、やり方もわかるようになったから
  • 最初はゲームなどに取り組んで楽しかったので、もっとプログラミングをやってみたいと思ったから
  • 将来役に立つと思ったから
  • 生活に役に立っているから
(2)メンターの声

*指導するうえで工夫した点やうまく指導できた点
興味関心度が個々に異なっているため、個別対応を重要視した。

  • 手が止まっている児童生徒がいれば一旦様子を見守り、いきなり解決方法を指導するのではなく、ひとつずつステップを踏みながらアシストするように気をつけた。
  • 指導する児童がどの部分で特につまずきやすいかを常に考えながら指導をした。

*うまく指導できなかった点や今後改善すべきと思う点

  • あきてきた時は少し休んで、また興味をもちはじめた時に再開するとよい。
  • 教材の難易度が、易しいものから難しいものまで幅広くあるとよい。

*その他

  • 熱中して楽しんでいる様子が伺えた。
  • プログラミングのゴールが明確で、そのために必要となる命令を自ら組み立てられるようになっていた。
  • プログラミングを組み立てるために必要となるツールの操作も容易に理解していたように思える。
  • 用意されたステージは10個もあり、初心者ゆえ時間内に1ステージでもこなせれば十分と思っていたが、時間内にすべてクリアすることができた。
  • 必要な命令をすんなりと理解することができ、課題に応じて論理的に命令を組み合わせていた。
  • この教材を用いれば、プログラミングの専門家でなくても指導ができそうである。
(3)保護者・見学教員の声

*児童生徒の様子で気づいたこと

  • スタートからスムーズに取り組んでいた
  • 熱心に取り組んでいた
  • やり方がわかると自分から進めるのだと思った 
  • 好きな子とそうでない子に差があり、そうでない子のフォローが必要と感じた

*講座の内容、進め方、指導方法等について

  • 子供が熱心に取り組めたので、教材としてとてもよい。
  • 遊びに近いものを使った指導なので、わかりやすく参加しやすかった
  • 初めての子供が楽しく参加できるよい講座だった
  • 1対1での個別指導が必要だと感じた
  • 時間の配分や準備等、スムーズさに欠けていた

*2020年小学校教育におけるプログラミング教育必修化について

  • スタート時点からスキルの幅が大きいので、40人程のクラスで行うのは大変だと思う
  • パソコン操作を教えることに時間がとられ、はじめは慣れるまでに時間がかかると思う
  • 個人差があり、レベルの差が出てくる可能性がある。
(4)実証校校長の声(1校)
  • ゲストティーチャーによる、日頃経験できない授業が実施できると考え、講座の開催を引き受けた。
  • 生徒は、一度やり方がわかるとどんどん先に進めていた。講座が生徒の興味関心に合致していたからだと思う。
  • 1対1でメンターがついていてくれたことで、生徒がつまずくことなくスムーズに学べた。メンターの存在が大きい。

3. 実証の成果と課題

3.1 発見・成果

 前出2.2.2「プログラミング講座の内容」に示したSPELLの法則(英国自閉症協会提唱)に基づく教材・カリキュラム開発・指導方針を立て、実証を進めてきた。

 Structure:簡単で明瞭な枠組みを設定することにより、これまで、汎用性や拡張性の高いScratch等を用いてもプログラミングの理解が難しかった児童生徒においても、明確なゴール設定を行うことにより、解決に必要とされるアルゴリズム(必要な操作や手順や組み合わせ)を自力で探求することができた。本人も大いなる自信につながり、保護者も「やればできると」感激していた様子が印象的である。
また、プログラミングの専門家ではないメンターにおいても、自信をもって児童生徒に指導することができたようである。
 Positive:ポジティブに関わる(ほめる)、成功したら褒めるインタフェースは達成感につながり有効であった。
 Emphasis:共感(理解)、失敗しても励ますことにより、失敗すると断念する傾向にある児童生徒も根気強く取り組むことができたのではないかと思われる。
 Low arousal:刺激が多過ぎると混乱するため低刺激なもの(見やすく落ち着いて作業のできる画面レイアウト、ユニバーサルデザインにも対応したワールドを用意)したが、6~7割の児童生徒がこのワールドを利用したこともあり、これは予想を上回り、低刺激な画面の必要性を再認識した。
 Links:きずな(地域、メンターや学生、仲間とのつながり、協力)

  • プログラム動作確認をプロジェクションマッピングにより行い、コミュニケーションを促す場の提供については、特に、低年齢の児童においては、集まってきて楽しそうに会話も弾み効果的であった。中高生においても議論しやすい雰囲気ができた
  • 特に、プログラミング教室において、日頃から支援スタッフや友人同士でも会話を交わすことのない児童においても、プログラミングを達成することにより、そのことを友人に自慢するなどといった行動がみられた。つまり「自信を持つことで、それをきっかけに友人に話しかけることができた」のではないかと推測される。また、教える・教わるなどのロールを理解し、友人と教え合うという行動も見られた。
  • アルゴリズムを発見(繰り返しの法則性を発見)したときは、とりわけモチベーションが高まった様である。

また、発達障害者はプログラミングの才能があり、将来の就労に向けて、さらにその才能を伸ばすべく発達障害者プログラマーの継続的な育成は重要である。このような観点から、本事業は大いなるきっかけになったと思われる。

さらに、IT職はライフスタイルに合わせて、場所や時間の制約をあまり受けずに、柔軟な働き方を生み出すことができるため、障害者に向いている。
ただし、プログラマーの仕事といっても、設計、コーディング、デバッキングなどの様々な役割があり、IT職全体で考えると、文書作成、イラスト作成、データ入力、計算など、様々な役割を考えることができる。
つまり、個々人の得意とする分野の見極めや、働く人に特化した仕事の切り出しが重要になってくると考えられる。

3.1.1 実証校・教育委員会・地域の団体等との連携体制の構築

 実施団体である【福井大学・ミテネインターネット(株)・福井工業高等専門学校】と、実証校である【福井県立東特別支援学校高等部・平谷こども発達クリニックはぐくみ・NPO法人AOZORA・はるもにあ】との間で、本事業を通じ強固な連携体制を築くことができ、今後も継続可能な体制づくりができた。
 本事業である【総務省若年層プログラミング教育の普及推進事業】と合わせ、【総務省SCOPE「発達障害児者の個人特性に応じた教育支援システムの開発研究」を同時進行で研究している。上記二つの事業において支援対象となっている児童生徒もおり、双方から支援することにより、より学びや成長の機会を得ることが可能になったと考えている。SCOPEの方で多くの福井県内小中学校や各教育委員会との連携しており、今後も連携を図りたいと考えている。

3.1.2 メンター育成

*メンター21名に実施したアンケート結果より

  • 本事業に参加したメンターの構成として、プログラミング経験者の割合が高いのが特徴であった。

メンター21名のプログラミングスキルのアンケート結果のグラフ。高度なプログラミングスキルをもつ 38%,経験はあるが日常的に使っていない 24%,学習用のプログラミング言語の経験がある 19%,経験はほとんどない 19%,IT全般に詳しくない 0%

  • メンターの約9割(21名中19名)が、プログラミング講座が予定通りに実施できたと答えた。

メンター21名への「講座は予定通りに実施できたか」のアンケート結果のグラフ。実施できた 43%,だいたい実施できた 48%,どちらともいえない 9%,あまり実施できなかった 0%,全く実施できなかった 0%

  • 実施前のイメージと比較して、どういった点でメンターをうまく実施できたか、また、できなかったかの質問に対する回答を以下に示す。

 プログラミング経験者が多かったためか、教材を効果的に使用することについては問題なく実施できていた。
 講座を時間内に終わらせることや、児童生徒の能力や障害に合った助言・指導を行うことがうまくできなかったと答えたメンターが多かった。

メンター21名への「うまく実施できたところ」のアンケート結果のグラフ。児童生徒の気づきやつまずきをうまく拾って、ファシリテートする 15名,集中を切らさずに講座に参加してもらう 14名など

メンター21名への「うまく実施できなかったところ」のアンケート結果のグラフ。時間内に予定の講座内容を終了させる 7名,能力や障害の程度に合わせた適切な助言・指導を行う 6名など

3.1.3プログラミング講座

*実施者フリーアンサーより

  • 開発したプログラミング教材は、課題やその目的を非常に明確にすることができたと思われる。
  • プログラミングに欠かせない要素である、逐次実行、繰り返しや条件分岐などの制御構造も比較的容易に理解して貰えた。予想以上の成功である。
  • プログラミングを組み立てていくために(コマンドを与えていくために)必要となる、ボタン等の操作を容易に理解して貰うことができた。
  • 与えられた課題を解くためには、各種命令を用いる順序や組み合わせを考える、すなわち論理的な思考が必要となるが、入門者であるにも関わらず容易にクリアできた。予想以上の成功である。
  • 児童の適正を理解した上で、指導範囲を明確に対応していた。
  • 利用PC環境の準備など非常にスムーズであった。
  • 児童がプログラミングへの興味を素直に示してくれた点が良かった。

*児童生徒25名に実施したアンケート結果より

  • 参加した全員(25名)が、今回受けたプログラミング講座を楽しかったと答えた。また、講座で利用した教材の内容や使い方について、8割(25名中20名)がわかりやすかったと回答したことから、大部分の児童生徒にとって教材は使いやすいものであり、講座も楽しめるものだったことがわかった。
  • 先生(メンター)が説明した内容や実際やってみたことについて、25名中14名の児童生徒が簡単だったと回答したが、4名は少し難しかったと答え、プログラミング講座の難易度には個人差があったことがわかった。

児童生徒25名への「先生が説明した内容や実際やってみたことは簡単だったか?」のアンケート結果のグラフ。とても簡単だった 28%,簡単だった 28%,ちょうどよかった 24%,少し難しかった 16%,とても難しかった 0%,無回答 4%

3.2 課題・改善点

3.2.1 実証校・教育委員会他との連携体制の構築

本講座は全国的にも非常に興味を持っていただき、連携を取りたいとの申し出をいただいている。しかし、規模拡大にともない、サーバーの運営管理費などの費用が必要となるため、どのように経費を獲得するのかが課題となる。

3.2.2 メンター育成

プログラミング教室を実施するためのメンター育成については、1回目は我々実施主体が模範授業を行い、2回目以降は実証校のメンターに任せている。プログラムの専門家でなくても教えることが可能な教材ではあるが、定期的に様子を確認し、検証していく必要があると考えられる。

3.2.3 講座内容

今回の教材を用いて与えられた課題を解くことはできた。今後は、さらに新学習指導要領が目指しているように、知識・技能、思考力・判断力・表現力を高めるために、他の教科との連携、応用についても広い視野に立ちプログラミング教室を行う必要があると思われる。また、学びに向かう力・人間性を高めるために、今回の講座でも身近な人との関わり方に大きな成長は見られたが、今後、自立可能とするために、より広い視点から社会・世界との関わりを想像できるように、暮らしを豊かにするためのプログラムの役割について想像できるように教育していきたい。
「実施者フリーアンサー」で指摘された下記の課題に対して対応していきたい。

  • プログラミングの実習結果を数値的に判断する点はこれから検証しなくてはならない。
  • うまくできた時に褒めることや、児童自身にある程度任せて進み具合を観察する必要がある。
  • 座席の席順を縦に並ばせるなどの考慮、児童同士が干渉しないような配慮が必要である。
  • 対象児童の特性を普段からの記録を理解した上で接してもらうこと。

4. 実証モデルの普及に向けて

4.1 実証地域での継続実施の可能性

4.1.1 メンター育成
  • 各事業者に対してメンター育成講座の案内をする。
  • 次年度以降も受講登録者に対してログインアカウントを発行し、15回の講座のe-LearningのコンテンツをWeb上で配信予定である。
  • 各事業者に対してクラウド型プログラミング教材を紹介する。
  • 利用にあたっては同意書を取ったうえで、ログインアカウントを発行し、教材マニュアルも配布する。
  • 上記の各事業者やメンターを対象に、情報交換会を実施する。
4.1.2 講座の構成、教材
  • 教育工学系の学会、LD学会等で、今回開発したクラウド型プログラミング教材を紹介する。

4.2 横展開の可能性、普及のための活動

 平成30年1月27日(土)ハピリンホール福井にて、シンポジウム「共生社会をめざして」の午前の部特別講演にて、本事業の紹介を行ったところ、プログラムのスペシャリストを養成している教育機関である徳山工業高等専門学校や熊本工業高等専門学校から、プログラミング教材の利用やメンター育成講座受講希望に関する問い合わせがあった。
また、大学の文科系学部の教養の授業でも利用したいとのご意見もいただき、本事業で作成したプログラミング教材は、障害者のみならず、プログラミング入門者に幅広く利用可能であるとの意見を多数いただいた。

 工業高専のような高度なプログラミングの養成など専門家を育成している学校においても、プログラミングの導入部で、ビジュアルデザインによりプログラミングをしながら、本教材で表示されるJava風ソースコードと対応させることにより、専門言語を用いたコーディングへの移行に利用したい。

 メンター育成講座については、発達障害の理解や支援、プログラミング教育、就労支援などのジャンルがバランスよく取り入れられており、発達障害学生指導にも役立てたいので、ぜひとも受講したいとの要望をいただいた。
将来、障害者雇用の拡大と共生社会を実現するためには、IT技術者に障害者の理解が必要であり、このような観点からも普及活動を行いたい。

4.2.1 メンター育成
  • LD学会やLD親の会などの専門的な集会の場で、メンター育成講座のe-Learningを紹介し、受講登録を促す。
  • 教育工学系や技術系の学会、障害者雇用を考えている企業に対して、同様にメンター育成講座を紹介する。
4.2.2 講座の構成、教材
  • 今後も実施主体が定期的にプログラミング教室を実施する。特に、教材はクラウド型のため、遠方からの利用者も期待できる。
4.2.3 普及のための活動
  • 今年度参加していただいたメンターに各所で出前授業など活用していただく。
  • 教育委員会や教員に対し、以下の点を強調して普及活動を行う。
  • 発達障害児者の正しい理解を一緒に学び、適切な支援を目指しましょう。
    • ・プログラミングは難しい言語を覚えなくても、論理的な思考能力を身につければ簡単にできます。
    • ・この力を身につけ、応用する力、いろんな場面で役に立てようとする創造力を養うことが重要です。
    • ・プログラミング能力を高めながら、人間力を養うことも重要です。

5. モデル実施のコスト

5.1 実施コストの内訳

プログラミング教材開発費用 2,533,916
メンター育成〜実施費用 916,388
講座設計〜実施費用 249,409
成果発表会準備〜実施費用 178,605
報告書作成 149,083
諸手当 60,000
機器・教材等(購入、レンタル等) 820,139
通信費 208,840
出張費・交通費 102,760
消耗品費 131,109
その他費用 49,744
合計 5,399,993

(単位:円)

5.2 児童生徒ひとりあたりのコスト

5,399,993(円)/250(人) ≒ 21,600(円)

児童生徒ひとりあたりのコスト  約21,600円

5.3 本研究開発システムの費用対効果についての検討

 近年,発達障害児者の日中一時支援を行う施設が多くなり、発達障害者の居場所が保障され、福祉の充実として環境はよくなってはいる。
 しかし、発達障害者が就労できず、日中一時支援受給者証を取得し(受給者証は障害手帳がなくても取得できる)、日中一時支援施設を利用すると、

1年間の概算で(行政負担額1日7000円×月20日×12ヶ月)1,680,000円
の公的資金が必要となる(利用者負担は1日200円程度)。

 就労できているケースでは、支援を受ける立場ではなく税金を払う立場になるため、公的なコストとしては日中一時支援にかかるコストが減るだけでなく、全体としてはプラスとなる。
 現在、発達障害者の就労困難な状況、就労継続が困難な状況であるが、教育時期の段階にコストがかかったとしても、一人でも多く就労できれば費用対効果としては大きなメリットとなる。

6. その他

6.1 報道(テレビ放送、新聞掲載、ネットワークニュースなど)

  • 福井ケーブルテレビ、けぶニュ〜091 1月17号、「『発達障がい』のためプログラミング教育」、2018年01月17日
  • 福井新聞、2面 福井ワイド、「障害者就労支援技術学ぶ」、2018年01月28日
  • YAI NETWORK NEWS、“From Japan to YAI Long Island!”、February 28, 2018

7. 参考添付資料

メンター育成で使用した資料・プリント

実証講座で使用した教材・プリント

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