第I章 電気通信料金制度改正の概要

  1. 料金制度改正の趣旨

     本年5月8日、電気通信料金制度について、従来の原則認可制から、原則届出制へ変更するとともに、競争が必ずしも十分でない地域通信市場における電話サービス等の基本的な役務については、上限価格方式により規制することを主な内容とする電気通信事業法改正法(「電気通信分野における規制の合理化のための関係法律の整備等に関する法律」)が公布された。
     この制度改正の趣旨は、次のとおりである。

     電気通信市場においては、新規参入が着実に進むとともに、そのシェアも増大するなど競争が進展しつつあり、このような市場の変化に対応して、料金制度についてもより市場の実態、競争状況に適合させる必要がある。
     特に、長距離・国際通信市場やインターネット接続サービス等データ通信分野においては、競争的な市場となってきており、事業者の積極的な経営展開の促進、利用者ニーズの多様化への対応やマルチメディア化の推進等の観点から、市場メカニズムを活用し、事業者のより迅速かつ機動的な料金設定を可能とする必要がある。
     一方、地域通信市場においては、部分的な新規参入はあるものの、実質的にNTTによる独占的な役務提供が行われており、料金も横ばい又は値上げされているものもある。このような競争が不十分な分野においては、市場メカニズムを補完するため行政による一定の規制が必要であるが、その場合にも、事業者に経営効率化を進める誘因を賦与することにより料金低廉化を促していく必要がある。
     料金を、公正かつ合理的で、利用者の利益に適合するものとするためには、明確なルールに基づき透明性の高い手続により料金設定が行われることが必要であり、料金準則の明確化や料金等についての利用者、競争事業者の苦情・意見が料金設定に十分反映され得る手続の整備が必要である。
     「マルチメディア時代に向けた料金・サービス政策に関する研究会」報告書『新たな料金制度の在り方について』(平成9年12月24日。以下「報告書」という。)より作成

  2. 料金制度改正の内容

    (1) 原則届出制への移行(改正電気通信事業法(以下「法」とする。)第31条第1項)
     第一種電気通信事業者は、電気通信役務に関する料金を定め又は変更する場合には、その実施前に届け出るものとする。
     料金の届出制の下では、電気通信事業者は、自己の経営戦略、競争戦略に基づき料金を設定することとなり、競争がより一層進展するので、市場メカニズムを通じた料金の低廉化、サービスの向上が期待できる。

    (2) 料金変更命令の発動要件の明確化(法第31条第2項)
     料金の適正性を確保するため、料金変更命令の発動要件を明確化する。具体的には、次の3項目を規定している。
    料金の額の算出方法が適正かつ明確に定められていないとき
    特定の者に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき
    他の電気通信事業者との間に不当な競争を引き起こすものであり、その他社会的経済的事情に照らして著しく不適当であるため、利用者の利益を阻害するものであるとき

    (3) 意見申出制度の導入(法第96条の2)
     電気通信分野においては、競争が進展し、サービスの高度化・多様化が進んだことによって、電気通信事業者の役務に関する料金その他の提供条件や業務の方法に関するトラブルが多発しつつあり、利用者利益の保護及び公共の利益の確保を図る観点から、利用者等からの苦情その他の意見を幅広く受け付けて、行政に反映させる仕組みを設ける必要性が高まっている。今回、料金が原則届出制に移行することもあり、変更命令等の行政措置を的確に行使していくことが電気通信役務の適正化のためますます重要となってくるが、こうした措置を実効性のあるものとするため、利用者や競争事業者からの苦情その他の意見の申出を受け付ける制度を設けることとする。
     意見申出を受けた郵政大臣は、これを誠実に処理した上、その結果を申出者に通知するものとする。

    (4) 上限価格方式の導入(法第31条第3項〜第7項、第31条の2)
     競争が不十分な分野である地域通信市場においては、指定電気通信設備(※)を設置する第一種電気通信事業者が当該設備を用いて提供する役務のうち利用者の利益に及ぼす影響が著しく大きいものに関する料金について、行政が適正な原価や物価その他の経済事情を考慮して、通常実現可能と認められる水準の料金を基準料金指数(料金の水準を表す数値)として定めるものとする。
     当該事業者は、基準料金指数以下の料金であれば、その実施前に届け出ることにより料金設定を可能とする。
     また、基準料金指数を超える料金についても、基準料金指数以下により難い特別の事情がある場合は、郵政大臣の認可を受けて設定できることとする。
     電気通信事業法第38条の2第1項に基づき指定された電気通信設備

(参考)第一種電気通信事業に係る料金制度(法改正の概要)

改正電気通信事業法(料金関係部分抜粋)
 (第一種電気通信事業者の料金)
第31条  第一種電気通信事業者は、電気通信役務に関する料金(郵政省令で定める料金を除く。以下この条において同じ。)を定め、郵政省令で定めるところにより、その実施前に、郵政大臣に届け出なければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。

  2   郵政大臣は、前項の規定により届け出た料金が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、第一種電気通信事業者に対し、相当の期限を定め、当該料金を変更すべきことを命ずることができる。
 料金の額の算出方法が適正かつ明確に定められていないとき。
 特定の者に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき。
 他の電気通信事業者との間に不当な競争を引き起こすものであり、その他社会的経済的事情に照らして著しく不適当であるため、利用者の利益を阻害するものであるとき。

  3   郵政大臣は、毎年少なくとも一回、郵政省令で定めるところにより、第38条の2第2項に規定する指定電気通信設備を設置する第一種電気通信事業者が当該指定電気通信設備を用いて提供する電気通信役務であつて、その内容、利用者の範囲等からみて利用者の利益に及ぼす影響が大きいものとして郵政省令で定めるもの(以下「特定電気通信役務」という。)に関する料金について、郵政省令で定める特定電気通信役務の種別(第9条第2項第2号に規定する郵政省令で定める区分を更に細分した区分による電気通信役務の種類及び態様の別をいう。以下この項において同じ。)ごとに、能率的な経営の下における適正な原価及び物価その他の経済事情を考慮して、通常実現することができると認められる水準の料金を料金指数(電気通信役務の種別ごとに、料金の水準を表す数値として、通信の距離及び速度その他の区分ごとの料金額並びにそれらが適用される通信量、回線数等を基に郵政省令で定める方法により算出される数値をいう。以下同じ。)により定め、その料金指数(以下「基準料金指数」という。)を、その適用の日の郵政省令で定める日数前までに、当該第一種電気通信事業者に通知しなければならない。

  4   第38条の2第2項に規定する指定電気通信設備を設置する第一種電気通信事業者は、特定電気通信役務に関する料金を変更しようとする場合において、当該変更後の料金の料金指数が当該特定電気通信役務に係る基準料金指数を超えるものであるときは、第1項の規定にかかわらず、郵政大臣の認可を受けなければならない。

  5   郵政大臣は、前項の認可の申請があつた場合において、基準料金指数以下の料金指数の料金により難い特別な事情があり、かつ、当該申請に係る変更後の料金が第2項各号のいずれにも該当しないと認めるときは、前項の認可をしなければならない。

  6   郵政大臣は、基準料金指数の適用後において、当該基準料金指数が適用される特定電気通信役務に関する料金の料金指数が当該基準料金指数を超えている場合は、当該基準料金指数以下の料金指数の料金により難い特別な事情があると認めるときを除き、当該指定電気通信役務を提供する第一種電気通信事業者に対し、相当の期限を定め、当該特定電気通信役務に関する料金を変更すべきことを命ずるものとする。

  7   前3項の規定は、第38条の2第1項の規定により新たに指定をされた電気通信設備を用いて提供される電気通信役務に関する料金については、当該指定電気通信設備の指定の日から六月間は、適用しない。

  8   第38条の2第2項に規定する指定電気通信設備であつた電気通信設備を設置している第一種電気通信事業者が当該電気通信設備を用いて提供する電気通信役務に関する料金であつて同条第1項の規定による指定の解除の際現に第4項の規定により認可を受けているものは、第1項の規定により届け出た料金とみなす。

  9・10 (略)

 (通信量等の記録)
第31条の2  第38条の2第2項に規定する指定電気通信設備を設置する第一種電気通信事業者は、郵政省令で定める方法により、その提供する特定電気通信役務の通信量、回線数等を記録しておかなければならない。

 (意見の申出)
第96条の2  電気通信事業者の電気通信役務に関する料金その他の提供条件又は電気通信事業者の業務の方法に関し苦情その他の意見のある者は、郵政大臣に対し、理由を記載した文書を提出して意見の申出をすることができる。

  2   郵政大臣は、前項の申出があつたときは、これを誠実に処理し、処理の結果を申出者に通知しなければならない。




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