第V章 上限価格方式の運用の在り方

第4節 基準料金指数の算定方法

  1. 概要

    (1) 法の趣旨
     行政は、特定電気通信役務の種別ごとに、対象サービス全体の適正な料金水準を表す基準料金指数を、対象事業者の原価情報や物価の動向等に基づいて算定することとしている。

    ※ 電気通信事業法第31条第3項
     郵政大臣は、…能率的な経営の下における適正な原価及び物価その他の経済事情を考慮して、通常実現することができると認められる水準の料金を料金指数(…)により定め、その料金指数(以下「基準料金指数」という。)を…通知しなければならない。
    (2)基本的な考え方
     電気通信サービスは一般の財・サービスに比べ、生産性向上率が高いと見込まれることから、電気通信料金は一般の財・サービスの生産性向上分を織り込んだ物価の変動率から電気通信分野特有の生産性向上分を差し引いた水準で推移すべきものと考えられる。
     したがって、毎年の基準料金指数は、物価上昇率から生産性向上見込率(X)を差し引いた改定率を前回の基準料金指数に乗じることにより算定することとする。
     X値は、需要及び合理的な将来原価の予測に基づき、電気通信分野に特有の生産性向上見込率を算定することとする。
    基準料金指数
    = 前期の基準料金指数×(1+物価上昇率−生産性向上見込率(X))
  2. 物価指数の具体的指標

     基準料金指数の算定の際に用いる物価指数としては、消費者物価指数、卸売物価指数、GDPデフレータが考えられる。
     まず、卸売物価指数については、それが主要な企業間取引商品(サービスを除く)の物価水準を表したものであり、電気通信事業者が調達する財・サービスの物価水準の変動は電気通信分野特有の生産性向上見込率(X)の算定において考慮することから、基準料金指数の算定に用いることは適当ではないと考えられる。
     また、GDPデフレータは、確定値の公表が遅くなるとともに、毎年加重平均のウェイトを変えて求められるパーシェ型指数であることから、基準料金指数算定の際の物価指数のように複数年にわたる物価水準の連続的な推移を表すものとして用いるには適当でないと考えられる。
     消費者物価指数は、電気通信サービスを含む最終消費財・サービスの価格水準を総合的に表した数値であって、電気通信サービスの主たる消費者である家計の支出における物価の水準を表したものであることから、電気通信分野特有の生産性向上見込率の差分の対象である物価上昇率を示す指数としては適切であると考えられる。

     英国においては、BTに対するプライスキャップにおいて、我が国における消費者物価指数に相当する小売物価指数(RPI)を用いている。
    消費者物価指数: 消費者が消費目的のために購入する商品、サービスに関する物価指数(毎月発表)
    卸売物価指数 : 企業相互間で取り引きされる商品(サービスを除く。)に関する物価指数(毎月発表)
    GDPデフレータ: GDP(国内総生産)の名目値を実質値で割ったデフレータ(年一回(年末)発表)
     消費者物価指数や卸売物価指数はラスパイレス型指数と呼ばれ、基準時と測定時の価格を基準時点における数量ウエイトを用いて比較しているのに対し、GDPデフレータなどパーシェ型指数の場合には基準時と測定時の価格を測定時点における数量ウエイトを用いて比較している。
  3. 生産性向上見込率(X)の算定・設定

     上限価格方式においては、事業者の過大な超過利潤の発生を防止するとともに、事業者に自主的な経営効率化インセンティブを賦与する観点から、需要予測や適正な原価予測に基づき、電気通信分野に特有の生産性向上見込率を表す数値としてX値を算定し、一定期間固定することとする。

    (1) 生産性向上見込率の算定
     生産性向上見込率の算定に当たっては、その設定期間における需要を予測し、現在の生産性に基づく将来原価(例えば、現行料金水準での収入水準が現在の生産性の下での費用水準を表していると仮定した場合は、現行料金水準での収入予測が予測原価となる。)と将来的な生産性向上分を織り込んだ将来原価との関係において、生産性向上見込率を算定することとする。
     生産性向上見込率の算定においては、需要予測が大きな影響を与えることから、適正かつ妥当な予測を行うことが求められる。その場合、サービスの需要予測だけでなく対象事業者のシェアの予測が必要となる。需要の予測に際しては、より客観的な方法を用いることが望ましいことから、時系列モデルや説明変数モデル等の統計的予測方法を使用することが適当であると考えられるが、他事業者の参入や事業動向など個別の事情についても考慮していく必要がある。
     一方、生産性向上を含めた将来原価の推計にあたっては、X値が電気通信分野特有の生産性向上率を表すものであることから、事業者の過去の会計データに基づき、全要素生産性向上率(TFP:Total Factor Productivity)を用いる方法、他事業者の生産性向上と比較するヤードスティック方式を用いる方法、個別原価項目ごとに適切に審査する方法が考えられるが、具体的には、事業者の費用構造も踏まえ、引き続き検討する必要がある。

    (2) X値の設定期間
     X値の設定期間は短すぎると経営効率化努力により得られる利潤が少ないため、経営効率化インセンティブが阻害されるおそれがある反面、長すぎると事業者に過大な超過利潤が発生するおそれがある。
     電気通信分野においては、技術革新等により費用構造の変化が著しいこと、現在の認可制における料金改定においては、料金算定期間が3年間とされていることから、X値の設定期間は3年とすることが適当である。
     なお、対象事業者の報酬が過大である場合、3年の設定期間内であってもX値を変更すべきとの意見もあるが、安易にX値を変更すれば、事業者の経営効率化のインセンティブを削ぐこととなることから、できるだけX値の設定期間における変更は行わないとすることが望ましい。

      米国においては、AT&Tに対するプライスキャップは4年間で見直すこととされていた。
     英国においては、OFTELはプライスキャップの導入時には設定期間を5年間としたが、BTの超過利潤に社会的批判が高まったことから、次回以降2年間、2年間、4年間として見直している。
  4. 基準料金指数の初期値の設定

     基準料金指数の適用開始時の料金水準については、現行料金水準を再評価して、初期値を設定すべきとの考えもあるが、現行料金は、認可を受けたものであることから、導入時の料金水準を初期値(料金指数=100)とし、黒字サービスや赤字サービスについては、X値の算定において考慮することが適当であると考えられる。

     米国においては、料金指数の初期値は、適用の日(1989年7月1日)の半年前(1988年12月31日)の料金水準を100として設定している。
  5. 基準料金指数の設定期間内の補正

     税制改正など事業者の経営努力等と関係のない客観的かつ外生的な環境の変化であって料金水準に影響を与えるもののうち、物価指数に適切に反映されないものについては、基準料金指数を補正することが必要である。

  6. 基準料金指数の算定方法に関する具体案

     以上の検討を踏まえると、基準料金指数の算定方法に関する具体案は次のとおりとすることが適当であると考えられる。

    (1) 基準料金指数の算定
     基準料金指数= 前期の基準料金指数×(1+前年度消費者物価指数変動率−生産性向上見込率(X)±外生的要因)
    初回の基準料金指数は、導入時の料金水準を100として表す。

    (2) 生産性向上見込率(X)の算定
     設定期間における需要予測(市場全体の需要及び対象事業者のシェアの予測)を踏まえた、現在の生産性に基づく将来原価と、今後の生産性向上分を見込んだ将来原価から算定。
     3年ごとに見直す。

    (3) 外生的要因は、X値の算定の際には考慮されない要因のうち消費者物価指数の変動には反映されないものとする。


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