第2章 平成19年度決算に基づく健全化判断比率等の状況

1 地方公共団体の財政の健全化に関する法律等の概要

ア 法律の制定背景

 地方公共団体の財政再建制度については、地方財政再建促進特別措置法(昭和30年法律第195号。以下「再建法」という。)による赤字の地方公共団体に対する財政再建制度と地方公営企業法(昭和27年法律第292号)による赤字企業に対する財政再建制度が設けられていたところである。地方分権を進める中で、この再建制度のあり方を検討するため、平成18年8月、「新しい地方財政再生制度研究会」が設置され、平成18年12月、その検討結果が「新しい地方財政再生制度研究会報告書」としてまとめられた。この中でこれまでの制度については、分かりやすい財政情報の開示や早期是正機能がない等の課題が指摘され、財政指標を整備してその公表の仕組みを設けるとともに、財政の早期健全化及び再生のための新たな制度を整備することが提言された。

 これを踏まえ、政府は第166回国会に「地方公共団体の財政の健全化に関する法律案」を提出し、同法案は国会審議を経て平成19年6月22日に公布された(平成19年法律第94号。以下「健全化法」という。)。また、法律で政省令事項とされた財政指標の算定方法の細目や財政の早期健全化・再生の基準等については、「地方公共団体の財政の健全化に関する法律施行令」(平成19年政令第397号)及び「地方公共団体の財政の健全化に関する法律施行規則」(平成20年総務省令第8号)により定められた。

イ 健全化判断比率の公表等

(ア) 健全化判断比率の内容

 健全化法においては、地方公共団体(都道府県、市町村及び特別区)の財政状況を客観的に表し、財政の早期健全化や再生の必要性を判断するためのものとして、以下の4つの財政指標を健全化判断比率として規定している。地方公共団体は、毎年度、前年度の決算に基づく健全化判断比率をその算定資料とともに監査委員の審査に付した上で議会に報告し、公表しなければならない。

(1) 実質赤字比率 (当該地方公共団体の一般会計等を対象とした実質赤字額の標準財政規模に対する比率)

(2) 連結実質赤字比率(当該地方公共団体の全会計を対象とした実質赤字額又は資金の不足額の標準財政規模に対する比率)

(3) 実質公債費比率(当該地方公共団体の一般会計等が負担する元利償還金及び準元利償還金の標準財政規模を基本とした額(※)に対する比率)

(4) 将来負担比率(地方公社や損失補償を行っている出資法人等に係るものも含め、当該地方公共団体の一般会計等が将来負担すべき実質的な負債の標準財政規模を基本とした額(※)に対する比率)

  ※ 標準財政規模から元利償還金等に係る基準財政需要額算入額を控除した額

(健全化判断比率の概要)

実質赤字比率

・一般会計等の実質赤字額:

一般会計及び特別会計のうち普通会計に相当する会計における実質赤字の額

・実質赤字の額=繰上充用額+(支払繰延額+事業繰越額)

連結実質赤字比率

・連結実質赤字額:イとロの合計額がハとニの合計額を超える場合の当該超える額

イ 一般会計及び公営企業(地方公営企業法適用企業・非適用企業)以外の特別会計のうち、実質赤字を生じた会計の実質赤字の合計額

ロ 公営企業の特別会計のうち、資金の不足額を生じた会計の資金の不足額の合計額

ハ 一般会計及び公営企業以外の特別会計のうち、実質黒字を生じた会計の実質黒字の合計額

ニ 公営企業の特別会計のうち、資金の剰余額を生じた会計の資金の剰余額の合計額

実質公債費比率

・準元利償還金:イからホまでの合計額

イ 満期一括償還地方債について、償還期間を30年とする元金均等年賦償還とした場合における1年当たりの元金償還金相当額

ロ 一般会計等から一般会計等以外の特別会計への繰出金のうち、公営企業債の償還の財源に充てたと認められるもの

ハ 組合・地方開発事業団(組合等)への負担金・補助金のうち、組合等が起こした地方債の償還の財源に充てたと認められるもの

ニ 債務負担行為に基づく支出のうち公債費に準ずるもの

ホ 一時借入金の利子

将来負担比率

・将来負担額 :イからチまでの合計額

イ 一般会計等の当該年度の前年度末における地方債現在高

ロ 債務負担行為に基づく支出予定額(地方財政法第5条各号の経費に係るもの)

ハ 一般会計等以外の会計の地方債の元金償還に充てる一般会計等からの繰入見込額

ニ 当該団体が加入する組合等の地方債の元金償還に充てる当該団体からの負担等見込額

ホ 退職手当支給予定額(全職員に対する期末要支給額)のうち、一般会計等の負担見込額

ヘ 地方公共団体が設立した一定の法人の負債の額、その者のために債務を負担している場合の当該債務の額のうち、当該法人等の財務・経営状況を勘案した一般会計等の負担見込額

ト 連結実質赤字額

チ 組合等の連結実質赤字額相当額のうち一般会計等の負担見込額

・充当可能基金額 :イからヘまでの償還額等に充てることができる地方自治法第241条の基金

(イ) 健全化判断比率等の対象となる会計

 健全化判断比率等の対象となる会計の範囲を図示すると、以下のとおりである。

健全化判断比率等の対象となる会計の範囲

(ウ) 財政の早期健全化と財政の再生

 地方公共団体は、健全化判断比率のいずれかが早期健全化基準以上である場合には、当該健全化判断比率を公表した年度の末日までに、財政健全化計画を定めなければならない。

 また、再生判断比率(健全化判断比率のうちの将来負担比率を除いた3つの比率)のいずれかが財政再生基準以上である場合には、当該再生判断比率を公表した年度の末日までに、財政再生計画を定めなければならない。

 財政の早期健全化、財政の再生における計画目標を図示すると、以下のとおりである。

財政の早期健全化、財政の再生における計画目標

ウ 資金不足比率の公表等

 公営企業を経営する地方公共団体(組合及び地方開発事業団を含む。)は、毎年度、公営企業会計ごとに資金不足比率(資金の不足額の事業の規模に対する比率)を監査委員の審査に付した上で議会に報告し、公表しなければならない。資金不足比率が経営健全化基準以上となった場合には、経営健全化計画を定めなければならない。

(資金不足比率の概要)

資金不足比率

・資金の不足額:

資金の不足額(法適用企業)= (流動負債+建設改良費等以外の経費の財源に充てるために起こした地方債の現在高−流動資産)−解消可能資金不足額
資金の不足額(法非適用企業)= (繰上充用額+支払繰延額・事業繰越額+建設改良費等以外の経費の財源に充てるために起こした地方債現在高)−解消可能資金不足額

※解消可能資金不足額:事業の性質上、事業開始後一定期間に構造的に資金の不足額が生じる等の事情がある場合において、資金の不足額から控除する一定の額。

※宅地造成事業を行う公営企業については、土地の評価に係る流動資産の算定等に関する特例がある。

・事業の規模:

事業の規模(法適用企業) =営業収益の額−受託工事収益の額

事業の規模(法非適用企業)=営業収益に相当する収入の額−受託工事収益に相当する収入の額

※指定管理者制度(利用料金制)を導入している公営企業については、営業収益の額に関する特例がある。

※宅地造成事業のみを行う公営企業の事業の規模については、「事業経営のための財源規模」(調達した資金規模)を示す資本及び負債の合計額とする。

エ 早期健全化基準と財政再生基準

早期健全化基準と財政再生基準

オ 施行

 健全化判断比率及び資金不足比率の公表に関する規定は、平成20年4月1日から施行し、平成19年度の決算に基づく健全化判断比率等から適用された。

 また、財政健全化計画等の策定義務などその他の規定は、平成21年4月1日に施行され、平成20年度以降の決算に基づく健全化判断比率等に適用される。