資料 2 経済財政改革の基本方針2008

第1章 日本経済の課題と改革の視点〜平成の開国、生活者・消費者重視の政策、未来への責任〜

(日本経済の課題)

 今、世界経済は極めて速いスピードで変化しつつある。日本経済は、バブル崩壊後の長い低迷から脱して新たなステージに入っているが、世界経済の変化に即応して成長する仕組みはいまだ出来上がっていない。また、都市と地方の格差拡大や非正規雇用の増大などの問題も生じている。さらに、原油価格や食料価格の高騰により、国民の生活への不安が広がっている。


 現在の課題は、第一に、包括的な成長戦略によって、世界の中で生き生きと活躍する日本経済の姿をつくることである。国内においては、既に人口減少が現実のものになっている。人口減少を克服して成長を続けるという大きな挑戦が始まったのである。

 第二は、地球環境と両立する経済の姿をつくることである。これは、経済の「質」を転換させることでもある。環境・エネルギー技術を発揮し、世界に先駆けて低炭素型の経済や生活を実現する、すなわち「環境力」を獲得することは、国際競争力を強化し、新しい需要・雇用・所得を生み出すものである。そして、これは、資源不足と戦ってきた我が国だからこそ成し遂げられることである。

 第三は、生活の根底を支えるセーフティネット(安全網)を全面的に点検し直し、透き間のない社会保障制度をつくることである。我が国は、人生90年という長寿を実現させた。少子高齢化が進む中で、少子化を克服する努力はもとより、こうした長寿を社会全体で尊び、現在の高齢者だけでなく将来の高齢者についても、安心して一生を託せる社会保障制度となるよう、国民全体で議論を行う必要がある。

 第四の課題は、政策全般にわたって、政策の受け手の立場に立って取り組むこと、すなわち、生活者・消費者が主役の政府をつくることである。消費者の立場が尊重される経済社会を構築することが、上記3つの課題を克服するためにも不可欠の要件である。


(世界に開かれた経済システムの構築)

 1990年代以降、世界経済のグローバル化が急速に進展し、商品、サービスはもちろん、資金、人材、情報が、国境を越えて大きく移動するようになった。このような構造変化への対応は、各国経済にとって大きな挑戦であった。しかし、先進国のみならず体制移行国や発展途上国も含め、各国は経済構造を変革し、世界経済のダイナミズムを積極的に取り込むことにより、新しい経済成長軌道への転換を果たしている。


 日本経済も、これまでグローバル化を進め、そのメリットをいかして成長を遂げてきた。世界への輸出を拡大するとともに、直接投資を通じて海外で生産・営業拠点を築き、海外駐在員・留学生も多数派遣してきた。しかし、これだけではグローバル化のメリットの半分しか享受したことにならない。

 これからは、「海外に出る国際化」だけでなく、「迎え入れる国際化」によるメリットを享受しなければならない。海外から新しい発想や最先端の技術、高度な人材を受け入れ、活力を海外から吸収することは、高齢化・人口減少が進む日本にとって大きなプラスである。成長するアジア、成長する世界のエネルギーを受け入れ、ともに成長する経済の仕組みをつくることで、国内の企業や人材、資金も活性化し、能力を最大限に発揮することになる。

 そのためには、日本経済がこれまで培ってきた「強み」を、グローバル経済の中でいかしていくことが大切である。教育水準の高さやチームプレーを得意とする人材力、家計金融資産を背景にした資金力、製造業や環境・エネルギーの技術力は、グローバル化によって日本経済が大きく飛躍するための跳躍台となろう。さらに、資源や食料価格の高騰はリスクでもあるが、その一方で攻めの対応によって価格競争力の復活の好機にもなる。


 また、日本経済は、世界に先んじて高齢化・人口減少を経験しつつある。これは、社会、経済、財政に広範な影響を及ぼす大きな構造変化である。この構造変化と向き合い、人口減少下でも新たな需要創出により成長を持続し、高い生活の質を実現する経済社会のモデルをつくることができれば、世界への大きな貢献である。そのためにも、グローバル経済とともに生き、新しい経済成長のメカニズムを起動させなければならない。


(政策の受け手の立場に立った制度改革)

 経済成長を持続する中で、国民が豊かさを実感し、安心して生活できるためには、国民生活にかかわる様々な制度を生活者・消費者の視点で総点検することが重要である。人は、労働者や消費者や納税者などいくつかの側面を持つが、それぞれの視点で見ると、取り組むべき課題が鮮明になってくる。


 第一に、働き手であり、稼ぎ手の立場からは、意欲あるすべての人に、働く場と職業能力を開発する機会が与えられること、また、公正に能力が評価され、所得が分配されることが重要である。

 第二に、生活者全体の立場としては、安心して子どもを産み育て、将来の生活を希望を持って展望できることが重要である。そのためには、いざというときにしっかりと支えるセーフティネットと、老後も安心できる社会保障制度が用意されていることが重要である。また、生活の場として活力と信頼感のある地域社会がつくられなくてはならない。

 第三に、消費者の立場からは、ニーズに合致した新たな商品やサービスが提供され、質についての信頼や安心が保障されていること、選択のための情報が十分に提供されていることが重要である。そのためには、規制や仕組みが改革されることも必要である。

 第四に、納税者の立場からは、税金が無駄なく効率的に、必要な分野に絞って利用されることが重要である。そのためには、民間にゆだねるべき分野は民間にゆだねられなくてはならない。また、公正に、効率的に徴税がなされ、税金の使われ方も透明であることが重要である。


 このように、それぞれの立場で異なる政策へのニーズがあり、取り組むべき課題も異なってくる。それぞれにどのように優先順位を置いて取り組むかはまさに政策の選択の問題だが、いずれにしても、今、様々な困難に直面している人の状況をしっかりと受け止め、適切に対応するためには、徹底して政策の受け手の立場に立って政策を立案・実行することが何より重要である。


(未来への責任)

 以上のような改革の取組を考えるとき、重要な点は、日本経済だけ、現在の世代だけを切り離して、孤立的に考えてはならないということである。現在の日本経済がグローバル経済の中にあり、それと密接不可分の関係にあるのと同様に、現在の世代が行う政策選択の内容は、未来の世代の置かれる環境に大きく影響を及ぼす。

 特に、社会保障や財政の分野では、このことが重要である。現在から収支の改善に取り組めば、その分だけ未来世代の負担が軽減されるが、その努力を回避すれば、我々は未来世代に過度に依存することになる。少子高齢化が進む我が国では特に、未来世代に責任を果たせる政策の選択が重要である。

 同様のことは、地球温暖化問題についても言える。今何もしなければ、地球温暖化の影響は時間とともに着実に蓄積され、未来の世代に劣悪な地球環境を残すことになる。親の世代が我々のことを心配したように、我々は子や孫の世代のことを心配する責任がある。


 以上を踏まえ、「基本方針2008」は、日本経済の成長力を強化するとともに、豊かで安心できる国民生活を実現するための、経済財政改革の道筋を示すことを役割とする。


第2章 成長力の強化

(なぜ成長力の強化が重要か)

 我が国の経済規模は過去十年来伸び悩み、一人当たり国民所得の国際的な順位も大きく低下している。さらに、少子高齢化と人口減少の同時進行、新興国のキャッチアップ、経済と環境の両立など、難しい課題にも直面している。

 人口減少社会は、持続的な成長なくして乗り切れない。現在の閉そく感を打ち破り、日本の活力を創造しなければならない。確固たる成長軌道に乗るため、いかしきれていない日本の強みを覚せいし、新たな発想で内需を拡大する。また、難しい課題にも「攻め」の姿勢で臨み、社会システムを変革し、技術を革新し続けることが必要である。

 具体的には、グローバル化をいかすことで新たな活力を海外から取り込んで成長する。また、我が国の人材力、技術力、資金力、文化力などの強みをいかして、環境、安全・安心等に対する潜在的ニーズを突破口とする新たな需要を創出するとともに、国際競争力を強化することにより、成長をけん引する。さらに、すべての人材の能力を最大限に引き出すとともに、地域の活性化によって地域の雇用と活力を増やすことで成長する。


(新たな発想−「つながり力」と「環境力」)

 日本が本来持っていた「つながり力」と「環境力」1を新たな発想として取り入れ、現在の厳しい状況を抜け出し、成長を持続していく。

1 「つながり力」とは、それぞれの主体が自立し、強みを発揮しながら連携することによって生ずる力のことをいう。「環境力」とは、環境に配慮するマインドの共有や、地球環境問題における先導的役割の遂行、低炭素社会構築等のための環境イノベーションの強化などを通じて発揮される力のことをいう。(「日本経済の進路と戦略−開かれた国、全員参加の成長、環境との共生−」(平成20年1月18日閣議決定))

 「つながり力」と「環境力」をいかして、海外との連携、特に内に迎え入れる国際化を強化し、すべての人が能力を発揮できる社会、我が国の強みを発揮していく経済を構築していく。


(成長力強化に向けた包括的な取組)

 このため、3つの戦略(全員参加経済戦略、グローバル戦略、革新的技術創造戦略)から成る経済成長戦略を実行する。また、地域の活性化のための総合的な施策を実行する。

 なお、これらの取組は、改定された「経済成長戦略大綱」の推進等、これまで行ってきた成長力強化のための政策2の推進・加速と一体となって実行される。

2 「第3期科学技術基本計画」(平成18年3月28日閣議決定)、「成長力加速プログラム」(平成19年4月25日)、「アジア・ゲートウェイ構想」(平成19年5月16日)、「21世紀環境立国戦略」(平成19年6月1日閣議決定)、「長期戦略指針『イノベーション25』」(平成19年6月1日閣議決定)、「経済成長戦略大綱」(平成20年6月27日改定)、「観光立国推進基本計画」(平成19年6月29日閣議決定)、「成長力強化への早期実施策」(平成20年4月4日経済対策閣僚会議決定)等

1.経済成長戦略

【改革のポイント】

1.経済成長戦略の目標

 (1)世界とともに発展するオープンな国(世界に誇れる魅力ある国)、(2)人生90年時代を安心して生活できる国(質の高い労働、質の高い暮らし)、(3)人口減少下でも経済成長を持続する国(人口減少の克服)、を実現する。 戦略の実行によって、今後10年間程度の間、人口減少下にあっても、実質2%以上の経済成長が視野に入ることが期待される。

2.今後3年間の「戦略実行重点期間」の設定

 これから4年後には、団塊世代が65歳の年金受給年齢に到達するほか、この間に新興国の成長は更に進むと考えられる。平成20年度から3年間を重点期間として、迅速かつ集中的に施策を実施する。

3.経済成長戦略の確実な実行

 取組の責任主体、取組による成果、取組や成果の達成時期を明らかにした「成長戦略実行プログラム」(別紙)を定める。これに従って、経済財政諮問会議が中心となり、おおむね半年ごとにフォローアップし、進ちょくを検証する。


【具体的手段】

I 全員参加経済戦略

 第一は、「つながり力」の発揮を中心とし、すべての人が成長を実感できるようにする「全員参加経済戦略」である。以下を主な柱とする。

(1) 新雇用戦略

 働く意欲のあるすべての人々が年齢、性別や世帯の構成、就業形態にかかわりなく能力を発揮する「全員参加の社会」を実現するため、個々のニーズに応じたきめ細やかな支援施策に政府を挙げて取り組み、2010年度までに、若者、女性、高齢者の220万人の雇用充実を目指す。

・今後3年間で、(1)若者について、ジョブ・カード制度の整備・充実、「フリーター等正規雇用化プラン」による100万人の正規雇用化、(2)女性(25〜44歳)について、「新待機児童ゼロ作戦」(平成20年2月27日)の展開等による最大20万人の就業増、(3)高齢者(60〜64歳)について、継続雇用の着実な推進等による100万人の就業増、を目指す。

・待機児童ゼロに向け、保育サービスの充実を目指し(2010年に保育サービス利用率を20.3%から26%へ)、その財源の在り方について、社会保障国民会議の議論も踏まえ、抜本的税制改革において検討する。保育サービスに係る規制改革については、子どもの福祉への配慮を前提に、利用者の立場に立って、平成20年内に結論を出す。

・「こども交付金」(仮称)の導入など、認定こども園に関する補助金の一本化による「二重行政」の解消策を検討し、平成20年夏を目途に取りまとめ、平成20年度中に制度改革についての結論を得る。

・国・地方・労使を始めとする社会全体の取組により、「憲章」3及び「行動指針」4に掲げられた数値目標の達成を目指し、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を推進する。

3 「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」(平成19年12月18日)

4 「仕事と生活の調和推進のための行動指針」(平成19年12月18日)

(2) サービス産業・中小企業の生産性向上

 米国の6割に満たない我が国の生産性水準は、成長力強化に当たっての基幹的な課題であり、特に多数の従業員が従事するサービス産業及び中小企業の生産性向上を阻害している要因を克服する施策を実施する。

・生産性向上の観点から重要な業種(注)について、関係省において、現場の事業者が将来展望を持って取り組めるように、きめ細やかな「業種別生産性向上プログラム」(平成20年5月23日)を実行する。

(注)IT(ソフトウェア・情報サービス)、通信・放送・コンテンツ、建設・住宅・不動産、宿泊・旅行、小売、食品製造、物流、人材ビジネス、研究開発サービス業等9業種のサービス産業

(3) 生活直結型産業の発展

 国民の潜在的ニーズが高い安全・安心、医療・健康や生活にかかわる産業は、今後の成長分野であるが、本格的な発展に至っていないことから、発展を阻害している要因を克服する取組を実施する。

・医療・健康支援、保育、介護・生活支援、教育、移動、コミュニティ・ビジネスなどの生活直結型産業について、(1)利用者の立場で規制を見直す、(2)IT等新技術の活用を徹底する、(3)団塊世代や女性の参画を進める、の3つの観点から市場の革新を進める。

・遠隔医療技術の活用を推進する。また、民間企業による「健康コールセンター」設置について検討し、平成20年度内に結論を得る。

・「200年住宅」を始めとする住宅取得の支援、良質な賃貸住宅の供給を促進し、住宅需要の喚起を図る。あわせて、社会的資産としての住宅ストックの流動化を促進する。

(4) 世界最先端のIT国家化

 世界最先端のIT国家になるための取組が進められる中、現状を見ると、利用者の使い勝手が悪く、また、内部業務の効率化につながっていないという問題を抱えている。国民の利便性向上、企業のコスト削減、内部業務の効率化の3つの観点から、国民の立場に立ったIT化を政府において徹底し、国全体のIT化につなげる。

・国民の立場に立った電子政府の実現等のため、IT戦略本部において決定した「IT政策ロードマップ」(平成20年6月11日)を着実に実施し、それを踏まえた「重点計画-2008」を早急に策定する。

・旅費等に係る業務のIT高度化・業務手続の簡素化について、「アクションプラン」5に沿って、早急に目に見える形で改善成果を出す。

5 「ITを活用した内部管理業務の抜本的効率化に向けたアクションプラン」(平成20年5月30日)

・「ICT成長力強化プラン」(平成20年5月23日)に基づき、官民連携の下、地上デジタル放送等の情報通信基盤の整備及びその徹底活用を進め、2011年までに経済社会・地域とICTの融合を目指す。

・2011年までにITによる製造業等各種産業の競争力強化、新産業創出、地域・中小企業のIT化、グリーンIT等つながり力の強化を実現する。

・情報セキュリティ向上に向け、平成20年度内に電子政府の企画・設計段階からの安全確保等「セキュア・ジャパン2008」(平成20年6月19日)の施策や次期基本計画策定を実施する。


II グローバル戦略

 第二は、世界のダイナミズムを積極的に取り入れることで飛躍してきた国民性を最大限に発揮し、世界とともに成長することを目指す「グローバル戦略」である。「開かれた国づくり」の道を進む以外に、今後の経済成長はあり得ない。以下を主な柱とする。

(1) 世界に開かれた経済の構築

 「開かれた国づくり」に向けた取組の中でも、特に、経済連携の加速、世界経済の成長の果実を国内の豊かさに結び付ける好循環の確立は重要であり、WTO交渉の年内妥結とともに、政府一体となって取組を進める。

・EPA締結国・地域を2009年初めまでに12以上とする目標に向けて取り組む。さらに、締結国との貿易額の全体に占める割合を2010年に25%以上とすることを目指し、別表の2010年に向けた工程表を推進する。

・二国間投資協定について、実際のニーズにこたえて迅速かつ柔軟に交渉を進めていくとともに、相手国・地域をより戦略的な優先順位で検討していく。

・租税条約ネットワークの充実に向け今後とも着実に取り組む。

・我が国企業が強みをいかして海外市場で獲得する利益が過度に海外に留保され、競争力の源泉である研究開発や雇用等が国外流出しないよう、当該利益の国内還流に資する環境整備に取り組む。

・国際都市として人材や情報が集まる魅力ある都市づくりを目指す。

・日本経済の“開国”度を判定する指標を策定し、それによって成果を検証しながらグローバル化に対応していく。

・資源エネルギーの安全保障を実現すべく、首脳や閣僚が先頭に立ち、我が国の強みや産業協力、出融資、政府開発援助等を活用した戦略的な資源外交を展開する。

(2) 開かれた経済のインフラ強化

i)「空」の自由化(便利な空港、開かれた空路)

 平成20年内に航空自由化工程表を改定し、内外の利用者が便利になったと実感できる、世界に遅れをとらない「空」の自由化(便利な空港、開かれた空路)を集中的に進める。首都圏は、羽田を世界に開き、成田と一体的に24時間運用して、国際航空機能を高める。羽田からアジアの主要都市への路線を早期に実現する。

・2010年の新滑走路等の供用開始当初に、羽田は昼間約3万回、深夜早朝約3万回(合計約6万回)、成田は約2万回の合計約8万回の国際定期便を実現する。2010年以降の方向性については、羽田は、国内線需要に適切に対応しつつ、国内・国際双方の需要の伸びを勘案し、昼間は、羽田のアクセス利便性をいかせる路線を中心に国際線の増加を推進し、深夜早朝は世界の主要都市への就航により、首都圏全体の国際航空機能の24時間化を実現する。

・首都圏全体で、2010年以降、約17万回の発着枠の増枠により年間発着枠約70万回を実現し、さらに、あらゆる角度から可能な限りの空港容量拡大施策を検討する。

・関西国際空港・中部国際空港について、アジア各国との間で航空自由化を推進し、国際競争力の強化を行い、あわせて、24時間化を促進する。

ii)対日投資の拡大

 対日投資を拡大し、日本を世界とともに成長する国としていく。このため、平成20年秋中に「対日直接投資加速プログラム」(平成18年6月20日)を改定し、フォローアップを行いながら、着実に進める。

・M&A(買収のルール)の在り方を平成20年夏までに整理・明確化する。

・内外無差別原則の例外である外資規制の在り方について平成20年度内に包括的に検討を進める。

・医療機器の審査迅速化アクションプログラムを平成20年秋中に策定する。

・抜本的税制改革に併せた法人実効税率の在り方の検討等によるビジネスコストの低減等に取り組む。

(3) 国際的な人材強化

i)高度人材の受入れ拡大

 経済成長のカギは人材であり、今、多くの国が高度人材を集めることにしのぎを削っている。我が国においても、能力に見合った高い処遇での人材誘致や、企業の幹部・基幹業務への登用を始め、より魅力的な雇用環境、生活環境の整備を早急に進め、高度人材の受入れを拡大する。

・世界から高度人材の受入れを拡大するため、産官学労で構成する「推進会議」を設置する。「推進会議」の場で、数値目標の設定や必要な施策について検討し、平成20年中に関係府省でアクションプログラムを策定する。

ii)教育の国際化

 開かれた国にする観点から、高度人材受入れとも連携させながら、留学生受入れを拡大させる。若いうちから多国籍の留学生と学び、国際感覚を身に付ける教育を充実する。

・教育の大胆な国際化を進めるため、平成20年度中に、グローバル30(国際化拠点大学30)(仮称)を始めとする、留学生30万人計画を策定し、具体化を進める。

・留学生の就職支援、海外での情報提供・支援の一体的取組等を進め、2020年を目途に留学生数を30万人とすることを目指す。

・英語教育を強化する。また、日本人高校生・大学生の海外留学を推進する。

(4) 「アジア経済・環境共同体」構想の実現

 アジア諸国や米国等との連携を進めつつ、我が国の強みをいかして環境と共生した経済発展に貢献するため、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)も活用し、「クリーンアジア・イニシアティブ」(平成20年6月6日)の推進等を通じて、「アジア経済・環境共同体」構想を実現する。

(5) 国際競争力ある成長分野の創出

 グローバル化の進展の中で世界との競争に打ち勝つため、資金面での好循環を形成するための環境整備や世界最先端の知財制度の整備を行う。食、ファッションなど内需型産業についても、メードインジャパン戦略として、国際競争力ある成長分野を創出し、世界に向けて挑戦していく。

・金融・資本市場を強化し、世界の中での中核的な金融センターを目指す。「金融・資本市場競争力強化プラン」(平成19年12月21日)を着実に実行するとともに、「株式市場の厚み」や「老後の資産形成」に資する取組を検討する。

・「株式市場の厚み」と「老後の資産形成」の両方に資することから、企業型確定拠出年金における個人拠出(マッチング拠出)の導入等について検討し、平成20年内に結論を得る。

・公的年金基金の運用について、国民の立場に立って、幅広く検討を行う。

・平成20年10月の観光庁創設を機に、平成22年までにアジア等各国からの訪日外国人旅行者数を1000万人とするための誘致体制の強化など、観光立国の実現に向けて取り組む。

・港湾の24時間化等貿易手続改革プログラム6の着実な実施とともに、スーパー中枢港湾政策の推進や臨海部物流拠点の形成等により、港湾の国際競争力強化と国内外をつなぐ強力なシームレス物流網を形成する。

6 「アジア・ゲートウェイ構想」(平成19年5月16日)

(6) 総合的な外交力強化

・経済連携の推進、戦略的な援助の充実、対外発信力の発揮、資源・エネルギーの確保などの政府の対外的機能について、在外公館、マンパワー等の外交実施体制を中核とし、総合的な外交力を強化する。

・「平和協力国家」として、人間の安全保障を含め、国際社会において責任ある役割を果たす。平和構築分野の人材を育成する。G8北海道洞爺湖サミットや第4回アフリカ開発会議の成果を着実に実施し、アフリカ向け政府開発援助(ODA)の倍増、クールアース・パートナーシップの構築を通じて、途上国支援を充実するとともに、地球規模の課題に対しリーダーシップを発揮する。なお、他の地域・分野への支援にも引き続き取り組む。

・科学技術外交を強化する。


III 革新的技術創造戦略

 第三は、日本経済の強みである、ものづくりに代表される技術力の維持・発展を図る「革新的技術創造戦略」である。第3期科学技術基本計画や研究開発力強化法7等を踏まえながら、以下を主な柱とする。

7 「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」(平成20年法律第63号)

(1) 革新的技術戦略

 優れた革新的な技術シーズを特定し、資源の重点的・集中的投資を図りつつ、それにふさわしい研究開発体制を整備して、スピード感を持って発展させ、イノベーション創出につなげる。

・他国の追随を許さない技術を持ち続けることを目指す、「革新的技術戦略」(平成20年5月19日)を実行し、産業の国際競争力強化、健康な社会構築、日本と世界の安全保障を目指す。バイオ技術、医療関連技術を強化し、健康・医療産業をリーディング・インダストリーに育成するとともに、ITをいかしたユビキタス技術やロボット技術を一層活用して、高齢者や障害者が暮らしやすい社会づくりを進める。

・研究開発初期段階からの戦略的な知的財産の創造・保護・活用を始め、出口を見据えた研究開発のマネジメントを実現するとともに、革新的技術を持続的に生み出す環境を整備する。

(2) 環境・エネルギー技術等のトップランナー構想

 我が国の環境・エネルギー技術は世界のトップ水準にあるが、革新的技術により世界をリードするとともに我が国の経済を支えるため、トップ水準を堅持する。

 基礎研究を始め研究水準の高度化を図り、世界最高水準の研究拠点を整備するとともに、イノベーションを加速する新たな仕組みを構築する。

・「環境エネルギー技術革新計画」(平成20年5月19日)を推進するために、支援措置を講ずる。また、太陽光パネルを始め自然エネルギーの利用を抜本的に拡充するための仕組みを導入するとともに、クリーンエネルギー産業の国際展開を図る。

・企業、業種、大学の壁を越えた新たなビジネスモデル創造を支援する「イノベーション創造機構」(仮称)を創設する。

・引き続きベンチャー企業の創造を推進する。特に、開業・廃業の阻害要因を取り除き、新たな事業への取組を円滑に進めるよう支援する。

(3) 革新的技術特区(スーパー特区)

 革新的技術の開発を阻害している要因を克服するため、研究資金の特例や規制を担当する部局との並行協議などの仕組みを創設する。

・従来の行政区域単位の特区でなく、テーマ重視の特区(複数拠点をネットワークで結んだ複合体)であることなどを特徴とする「スーパー特区」を創設する。

・平成20年度は、第一弾として先端医療開発特区を創設する。新たに、上記の仕組みに加え、研究開発費を確保し、最先端の再生医療、医薬品・医療機器の開発・実用化を促進する。

(4) 国家的プロジェクト緊急予算

 革新的な技術開発競争は、速いスピードで、かつ世界レベルで進んでおり、迅速かつ機動的に支援できる仕組みが不可欠である。しかし、現在、年度途中に府省の枠を超えて迅速に対応できる予算は極めて限られていることから、新たな仕組みを早急に構築する。

・世界レベルの革新的技術競争に即応するため、府省横断的、迅速かつ機動的な研究開発投資を行うための仕組みとして、「革新的技術推進費」を創設し、科学技術予算の一定枠をこれに充て、平成21年度から実行する。

(5) 検証に基づく重点的な予算配分

 研究開発予算の使われ方の評価・検証を徹底する。

・総合科学技術会議が中心となって、平成20年内に、研究開発マネジメントの在り方を点検し、PDCAサイクルを改善する。その成果については、平成21年度以降の評価に反映する。


 2.地域活性化

(1)地方再生

 地方の元気は日本の活力の源である。「地方再生戦略」8 等に基づき、地方分権改革の推進とあいまって地方の創意工夫をいかした自主的な取組を、政府一体となって強力に後押しするとともにPDCAを着実に実施する。

8 「地方再生戦略」(平成20年1月29日改定)


【改革のポイント】

1.「地方再生戦略」に基づき、地方が主体となって取り組む事業の立ち上がり段階を「地方の元気再生事業」等により国が全面的に応援する。地域経済の建て直し、地域の雇用の確保の観点から、地域力再生機構を創設する。

2.中心市と周辺市町村が協定により役割分担する「定住自立圏構想」9の実現に向けて、地方都市と周辺地域を含む圏域ごとに生活に必要な機能を確保し人口の流出を食い止める方策を、各府省連携して講ずる。

9 「定住自立圏構想」(平成20年5月23日)


【具体的手段】

(1)地域活性化の支援

・「地方再生戦略」に基づき、地方都市、農山漁村及び過疎・離島など基礎的条件の厳しい集落における地方の課題に応じた地方再生の取組を実施する。平成20年度においては「地方の元気再生事業」の対象を7月に選定し、人材育成・社会実験の実施等を中心に支援する。平成21年度に向けては、定住自立圏構想や広域地方計画などの地域間連携の仕組みの下で、地域成長力強化、地域生活基盤確保及び低炭素社会づくりを重点に地域活性化の戦略を展開する。

・地方団体の安定的な財政運営に必要となる地方税、地方交付税等の一般財源の総額を確保するとともに、地域間の財政力格差に対応するため、地方再生対策の考え方に従った交付税配分の重点化を引き続き進め、地方交付税を財政の厳しい地域に重点的に配分する。

・地域経済の建て直し、地域の雇用の確保の観点から、中規模企業や第三セクターの事業再生と面的再生に向けた取組を、第三セクター改革等と連携しながら、地域金融機関や地方公共団体等の理解・協力を得つつ行う地域力再生機構を創設する。

・「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」10の施行を踏まえ、第三セクターの改革に関するガイドライン等に基づき、経営が著しく悪化したことが明らかになった第三セクター等の経営改革を進める。

10 「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(平成19年法律第94号)

(2)都市機能の集約とネットワーク化

 定住自立圏構想をプラットフォームとして、今年度から地方公共団体と意見交換しながら具体的な圏域形成を進めるとともに、各府省連携して支援措置等を講ずる。まちの再設計を図るため、市街地の中心部に公共施設や居住施設を集中する取組を支援する。また、「地域公共交通活性化法」11に基づき、住民の足の確保に対し支援する。

11 「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」(平成19年法律第59号)

(3)観光の振興及び地域の資源をいかした活性化

・「観光圏整備法」12等に基づく滞在型観光の促進や、G8北海道洞爺湖サミットを契機とする各地域への国際会議の誘致等により、国内観光旅行消費額を平成22年度までに30兆円にすること等を目指す。

12 「観光圏の整備による観光旅客の来訪及び滞在の促進に関する法律」(平成20年法律第39号)

・「歴史まちづくり法」13、「頑張る地方応援プログラム」等に基づく取組及び民間の担い手によるまちづくり活動への支援を行う。

13 「地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律」(平成20年法律第40号)

・地域の強みをいかした企業立地を促進する。

(4)農山漁村の活性化

・「子ども農山漁村交流プロジェクト」を実施し、都市と農山漁村の共生・対流を通じた農山漁村の活性化を図る。

・「緑の雇用」により担い手を育成する等活力ある山村づくりを推進する。

(5)科学技術による地域活性化

 「科学技術による地域活性化戦略」14等を踏まえ、産学官連携による多様な地域科学技術拠点群及びグローバル科学技術拠点の形成支援等を行う。

14 「科学技術による地域活性化戦略」(平成20年5月19日)

(6)農商工連携等の推進

・5年間で500の新事業の創出を目標に、農林漁業者と中小商工業者等との連携(農商工連携)強化に必要な総合的支援を講じ、相乗効果を発揮させる。

・地域商業は地域経済の活性化に重要な役割を果たすものであることを踏まえ、地域商業活性化を「地方再生戦略」に位置付け、商業者の意識改革や自立化を促す地域商業モデルの創出・普及等を行う。


(2)農林水産業

 耕作放棄地の長期拡大、従事者の急速な高齢化、生産額の大幅減少といった危機を克服し、国際的な食料事情をめぐる潮目の変化を「強い農業構造」に転換するチャンスとして、高い付加価値を生み出す農林水産業、食料自給率の向上を始めとする食料供給力の強化を目指す。


【改革のポイント】

1.「21世紀新農政2008」15を着実に実施する。

15 「21世紀新農政2008」(平成20年5月7日)

2.「強い農業構造」への転換に向け、農地の確保と徹底した有効利用、農地の集積、法人経営や新規参入の促進、多様な生産者の創意工夫の発揮、規模拡大等により農業経営を発展させるとともに、農林水産物の輸出を促進する。

3.国産材の需要拡大をいかした林業・木材産業の再生、燃油高騰等に対応できる力強い水産業への構造転換を推進する。


【具体的手段】

(1)平成の農地改革に向けた農業改革プランの取りまとめ

 農林水産省は、下記の点について検討を進め、経済財政諮問会議の議論を経て、平成20年内に農業改革プランの成案を得て、制度改革を行う。

(1) 平成の農地改革:農地を確保しつつ、「所有」と「利用」を分離し、効率的な農地利用を徹底し、農地の集積を進める。平成23年度を目途に農業上重要な地域を中心に耕作放棄地を解消する。

(2) 企業型農業経営の拡大:農業経営の法人化を進めるなど、企業的感覚を有する農業経営を拡大する。農地リース事業の在り方(市町村による地域指定など)を含め農地の利用に関する規制を見直し、地域に応じた多様な新規参入を促進する。

(2)林業・木材産業、水産業の体質強化

 国産材の安定供給体制の確立に向け、林業生産システムを大胆に効率化し、加工・流通体制を改善する。未利用木質資源を含む国内森林資源の徹底した利用(間伐材チップの利用など)を促進する。また、省エネ型漁業操業形態への転換等による燃油高騰への対応、漁業共済機能の活用等による効率的かつ安定的な経営体の育成・確保を進める。


(3)中小企業

 成長力強化及び地域活性化のカギは、中小企業の成長にある。異業種間や大企業・中小企業間の連携による相乗効果の発揮等により、中小企業のダイナミズムを発揮させる。


【改革のポイント】

 ワンストップ支援拠点として全国316か所に整備する「地域力連携拠点」を中核として、中小企業の強みをいかした新事業展開を支援する。


【具体的手段】

・全国316か所の「地域力連携拠点」等を通じ、ITや企業OBの活用による経営支援、国内外の市場開拓など、中小企業の新事業展開支援を行う。

・独占禁止法16及び下請法17による取締り強化、業種別ガイドラインを通じた下請適正取引等の推進、売掛債権早期現金化等の資金調達手段の提供や事業承継・再生円滑化など中小企業の事業基盤を強化する。

16 「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(昭和22年法律第54号)

17 「下請代金支払遅延等防止法」(昭和31年法律第120号)

・原油価格高騰等の影響を受けている中小企業者に対し、政府系金融機関等による資金調達の円滑化を図るとともに、民間金融機関に対しても配慮を要請する。


第3章 低炭素社会の構築

 京都議定書約束期間が始まり、地球温暖化問題への対処が人類共通の重要課題となる中、環境・エネルギー分野の進んだ技術等、日本の「環境力」を発揮し、積極的な外交を通じて、地球環境と共生する低炭素社会づくりを国内外で加速する。

1.低炭素社会構築のための行動計画

【改革のポイント】

1.低炭素社会に向け、我が国の行動計画を平成20年7月中に策定する。

2.京都議定書削減目標の確実な達成のため、取組を加速する。

3.ポスト京都議定書の枠組み構築に向け、イニシアティブを発揮する。


【具体的手段】

(1)低炭素社会の構築に向けた行動計画の策定

 京都議定書目標の確実な達成はもとより、「2050年半減」という世界の目標の実現に向け、我が国の長期目標として2050年までに60〜80%の削減を掲げ、世界に先駆けて低炭素社会へ転換する。このため、「『低炭素社会・日本』をめざして」18に示された革新的な技術開発や、排出削減に対する経済的インセンティブを付与すること等について、我が国として共有すべき姿と、そこに至る道程を、平成20年7月中に行動計画として示す。

18 「『低炭素社会・日本』をめざして」(平成20年6月9日:総理大臣スピーチ、平成20年6月16日:地球温暖化問題に関する懇談会提言)

(2)京都議定書目標の確実な達成

・京都議定書約束期間(2008〜2012年)の毎年度、強化・追加が必要な施策の検討を行いつつ、「京都議定書目標達成計画」19に基づく取組を加速する。

19 「京都議定書目標達成計画」(平成20年3月28日閣議決定)

・CO2に取引価格を付け、市場メカニズムを活用し技術開発や削減努力を誘導していく手法の一つである国内排出量取引制度については、平成20年秋、多くの業種・企業の参加を得て国内統合市場の試行的実施を開始する。これも踏まえ、実需に基づく健全な市場をつくるため、国際動向も注視し、本格導入する場合に必要となる条件、制度設計上の課題等を明らかにする。

・新たな規制・施策や予算措置については、環境への負荷についても検討を加える等、低炭素社会に向けて政策横断的に取り組む。

・安全性を一層高め、主要利用国並の設備利用率を目指す等、原子力発電を推進するとともに、核燃料サイクルの確立に向けて取り組む。

・「美しい森林づくり推進国民運動」の展開等を通じた森林の整備・保全、木材利用等の森林吸収源対策を加速化する。

(3)ポスト京都議定書の枠組みづくりにおけるイニシアティブの発揮

・米・中・印等の主要排出国をはじめとする「全員参加」型の衡平で実効ある次期枠組み構築を世界に働きかけ、平成21年のCOP2015での合意を目指す。このため、「クールアース50」21、「クールアース推進構想」22を早急に推進し、G8北海道洞爺湖サミットはもとより、気候変動枠組条約の下での国際交渉等においてイニシアティブを発揮する。

20 気候変動枠組条約締約国会議

21 「クールアース50」(平成19年5月24日)

22 「クールアース推進構想」(平成20年1月26日)

・今後10〜20年での世界全体の温室効果ガスのピークアウトを実現するため、主要排出国とともに、国別総量目標を掲げて取り組む。このため、セクター別に削減可能量を積み上げる方式、世界全体の必要削減量との整合性の取り方について、各国の理解を促進し、平成20年のCOP14において削減可能量の分析作業の報告を行うよう働きかける。基準年に係る論点も含め、国別総量目標設定の共通の方法論を確立するとともに、平成21年のしかるべき時期に我が国の国別総量目標を発表する。

・セクターごとの技術移転等の協力を強化する「協力的セクター別アプローチ」について途上国を含め理解を形成するとともに、国際社会が協調し革新技術の開発を進める「環境エネルギー国際協力パートナーシップ」の実現を目指す。

・5年間で100億ドル規模の「クールアース・パートナーシップ」や最大12億ドルを拠出する新たな多国間基金により途上国の気候変動緩和・適応対策を支援する。また、原子力の安全で平和的な利用拡大のための国際的取組・支援を実施する。

・気候変動と社会・経済との相互関係等についての先進的研究や、低炭素社会研究にかかわる機関による国際ネットワーク設立、気候変動とその影響等把握のための全球の観測・監視体制の強化に取り組む。

・アジアにおける低炭素型・低公害型の経済活動の普及等を目指し、「クリーンアジア・イニシアティブ」23等を具体化する。

23 「クリーンアジア・イニシアティブ」(平成20年6月6日)

・国際海運からのCO2削減に係る枠組みづくりを先導すべく、船舶実燃費指標の開発・国際標準化、技術者の人材育成等を行う。

・途上国の森林減少・劣化を防ぐ違法伐採対策等に国際的に貢献する。

2.持続可能なライフスタイル

【改革のポイント】

 国民の抜本的な意識改革を図るとともに、地域の力をいかし、国全体・社会全体で総力を挙げて温室効果ガスを削減するよう、「環境モデル都市」、「200年住宅」など、生活や社会の在り方の変革を促す対策を強化する。


【具体的手段】

・平成20年7月に、低炭素社会の先行事例となる都市・地域を「環境モデル都市」として選定し、提案実現に向け新たな制度的対応も含む支援等を行うとともに、他地域へ波及させていく。都市機能の集約等を通じた環境負荷の小さいまちづくりを行う。安全に通行できる自転車通行環境づくりを行う。

・ストック型社会に向け、環境負荷の低減等に資する「200年住宅」の普及のため、履歴情報の充実など既存住宅流通市場の整備、税制優遇等により供給・流通等を支援する。

・PFIなど民間知見を活用し、「霞が関低炭素社会」構想を実現する。

・オフィスや家庭における新エネ導入や省エネ推進のため、経済的支援や規制的措置等を充実する(太陽光パネル、断熱壁や二重窓、省エネ機器、次世代自動車等)。また、税制のグリーン化を進める。太陽光発電については、世界一の座を再び獲得することを目指し、2020年までに10倍、2030年に40倍を導入量の目標とする。

・食料と競合しない稲わら、間伐材等の未利用資源などバイオマスの利用・供給等を進める。

・製品の製造・使用等に伴うCO2排出の「見える化」を進めるため、カーボン・フットプリント制度等の国際的なルールづくりに積極的に関与するとともに、平成21年度から試行的な導入実験を開始する。環境に配慮した事業活動や、SRI24ファンドの拡大など金融のグリーン化を推進する。

24 SRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)

・エコポイントやカーボンオフセット等による国民の環境行動を拡大する。

・低炭素社会や持続可能な社会について教え、学ぶ仕組みを取り入れる。

・地球温暖化対策及び豊かなライフスタイルの実現のため、サマータイム制度の導入を目指す。

・7月7日を「クールアース・デー」とし、低炭素社会へ向け国民運動として取り組む。

・上記に加え、低炭素社会構築のため、自然共生社会や「もったいない」の精神に基づく循環型社会に向けた取組を国内外で統合的に推進する。


第4章 国民本位の行財政改革

 国民本位の行財政改革のため、地方分権、生活者重視の行政、ムダ・ゼロを実現するとともに、それを支える財政を構築する。このため、以下の改革に取り組むとともに、「基本方針2006」25、「基本方針2007」26に沿って資産債務改革等を実行する。

25 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」(平成18年7月7日閣議決定)

26 「経済財政改革の基本方針2007〜「美しい国」へのシナリオ〜」(平成19年6月19日閣議決定)

1.国民本位の行財政への転換

(1)地方分権改革

【改革のポイント】

1.平成21年度中できるだけ速やかに「新分権一括法案」を国会に提出する。

2.国の出先機関を大胆に合理化する。

3.道州制の本格的な導入に向けた「道州制ビジョン」を策定する。


【具体的手段】

(1)地方分権改革の推進

 「地方分権改革推進委員会」(以下、「同委員会」という。)の「第1次勧告」27を受けた「地方分権改革推進要綱(第1次)」28に基づき取り組む。同委員会は、平成20年内に地方自治体に対する国の法令による義務付け・枠付けの見直しの検討を進めるとともに、国・地方の財政状況を踏まえつつ、国庫補助負担金、地方交付税、税源移譲を含めた税源配分の見直しの一体的な改革に向け地方債を含めた検討を行い、順次勧告する。

27 「第1次勧告〜生活者の視点に立つ「地方政府」の確立〜」(平成20年5月28日)

28 「地方分権改革推進要綱(第1次)」(平成20年6月20日)

 これら勧告を踏まえ、「地方分権改革推進計画」を策定し、「新分権一括法案」を平成21年度中できるだけ速やかに国会に提出する。

(2)国の出先機関の見直し

 同委員会は、経済財政諮問会議の提言を踏まえた「第1次勧告」で示した次のような仕分けの考え方及び見直しの進め方に沿って、仕事及びこれに伴う人員の移譲を含む国の出先機関の抜本的な改革について勧告を行う。政府として、これを実現するための計画を平成20年度内に策定する。

(1) 事務・権限が法令上一の主体に専属させられておらず、国と地方自治体がそれぞれ処理することが許容されているものは、地方への一元化が基本

(2) 法令上、事業規模の大きさや事務・権限の対象範囲等によって国と地方自治体がすでに一定の役割分担をしているものは、事務・権限の地方への移譲が基本

(3) 地方が実施する事務に関して、国が広域的な見地等から調整し、又は関与を行っているものは、廃止が基本

(4) 現在は主に国のみでその事務を行っているものは、地方自治体による総合行政の確立等に資する場合、事務・権限の地方への移譲・廃止等が基本

(3)道州制の導入に向けた検討

 道州制の前提となる地方分権改革を進め、「道州制ビジョン」の策定に向け、国民的な議論を更に深めるとともに「道州制ビジョン懇談会」において引き続き検討を行う。


(2)生活者重視の行政システム(消費者行政、規制改革)

【改革のポイント】

1.「消費者行政推進基本計画」29等に基づき、消費者庁(仮称。以下同じ。)を創設する。

29 「消費者行政推進基本計画」(平成20年6月27日閣議決定)

2.国民生活の安心・豊かさ・利便性の向上など消費者・生活者本位の規制改革を重点分野を定めて実行し、その結果を着実にフォローアップする。


【具体的手段】

(1)消費者庁の創設等

 食品表示偽装や悪徳商法の根絶等を目指すなど、消費者の視点で政策全般を監視し、「消費者を主役とする政府の舵取り役」となる消費者庁を平成21年度に創設するほか、消費生活センター等を一元的な相談窓口と位置付け全国ネットワークを構築するなど「消費者行政推進基本計画」に基づく取組を実施する。さらに、「生活者や消費者が主役となる社会」を目指しアクションプランを策定し、実施する。

(2)公文書管理体制の整備

 公文書管理の適正化のための法案を次期通常国会までに提出するとともに、国立公文書館制度の拡充を含め、公文書の保存に向けた体制を整備する。

(3)消費者・生活者のための規制改革

 診療報酬の審査・支払業務の抜本的効率化、質の確保された保育サービスの充実を含む幅広い分野について取り組み、平成20年末までに結論を得る。

(4)国家公務員制度改革の着実な推進

 「国家公務員制度改革基本法」30に則り、国家公務員制度改革を着実に推進する。

30 「国家公務員制度改革基本法」(平成20年法律第68号)


(3)政府機能見直しプログラム〜ムダ・ゼロの実現〜

【改革のポイント】

 中期的なプログラムに沿って、官から民へ、国から地方へ等の基本的視点に立って事業の仕分け・見直しを行いつつ、ムダのない政府をつくる。


【具体的手段】

(1)国と地方の仕分け(「地方分権改革」において記述)

(2)官と民の仕分け

(1) 独立行政法人改革

 「独立行政法人整理合理化計画」31を確実に実行するとともに、独立行政法人通則法32の改正により、内閣によるガバナンスの強化を図る。

31 「独立行政法人整理合理化計画」(平成19年12月24日閣議決定)

32 「独立行政法人通則法」(平成11年法律第103号)

(2) 市場化テスト

 内部管理業務等の重点分野について検討し、平成20年内に「公共サービス改革基本方針」を改定する。地方分権と並行して、地方出先機関へ導入する。

(3)「ムダ・ゼロ政府」を目指して

(1) 民間経営ベストプラクティスの導入

 予算の受取手の明示(平成20年度試行、21年度実施)、成果による職員評価(21年度実施)、残業削減(20年度試行)、目標による組織管理(21年度試行)、業務の分析・「見える化」(20年度試行)を実行する。

(2) 内部管理業務のITを活用した効率化

 旅費業務等の内部管理業務について、「アクションプラン」33を実行する。

33 「ITを活用した内部管理業務の抜本的効率化に向けたアクションプラン」(平成20年5月30日)

(3) 政策の棚卸し

 各大臣の下で概算要求時までに政策の徹底的な見直しを行って、確実に 平成21年度予算要求に反映させる。特別会計全般について、必要性・透明性の観点から総点検し、政策の棚卸しを行う。また、省庁の縦割りにとらわれない無駄の排除のため、PDCAを厳格に行う。

(4) 公益法人の見直し(行政と密接な関係にある公益法人への支出の見直し)

 支出の無駄や非効率根絶のため、約350法人を対象に、次により行った集中点検結果を6月末に公表する。その結果をその他の法人も含め平成21年度予算に反映する等により、公益法人への支出の無駄の根絶、競争的でない随意契約の実質的な全廃、役員報酬抑制、役員数削減等による人件費削減を実現する。これにより、行政と密接な関係にある公益法人の大幅な削減を実現する。

i)国からの支出の必要性の徹底的な検証

ii)随意契約の原則廃止

(5) 規制の新設の際の事前評価・チェック機能の強化

 規制改革担当大臣を中心に具体案の検討を行い、平成20年末までに結論を得る。

(6) 重要対象分野の政策評価

 「基本方針2007」のプロセスに則り、少子化社会対策関連の施策、若年者雇用対策、農地政策の評価を実施する。

2.道路特定財源の一般財源化

【改革のポイント】

 「道路特定財源等に関する基本方針」34に基づき、道路特定財源制度は平成20年の税制抜本改革時に廃止し平成21年度から一般財源化し、生活者の目線でその使い方を見直す。

34 「道路特定財源等に関する基本方針」(平成20年5月13日閣議決定)


【具体的手段】

・道路特定財源制度は、道路特定財源等に関する関係閣僚会議における具体化の検討を踏まえ、平成20年の税制抜本改革時に廃止し平成21年度から一般財源化する。その際、地方財政に影響を及ぼさないように措置するとともに、必要と判断される道路は着実に整備する。

・暫定税率分も含めた税率は、環境問題への国際的な取組、地方の道路整備の必要性、国・地方の厳しい財政状況等を踏まえて、平成20年の税制抜本改革時に検討する。

・道路の中期計画は5年とし、最新の需要推計などを基礎に新たな整備計画を策定し、平成20年度道路予算の執行にも厳格に反映する。

・道路事業は、経済社会状況の最新のデータに基づいたPDCAの厳格な実施、事業評価に関する第三者機関の機能の拡充、実績が事前の評価を下回る事例の十分な把握等を通じ、不断の見直しを行いつつ計画的に実施する。

3.歳出・歳入一体改革の推進

 財政健全化に向け、安定した成長を図るとともに、「基本方針2006」及び「基本方針2007」を堅持し、歳出・歳入一体改革を徹底して進めることにより、まずは2011年度には、国・地方の基礎的財政収支を確実に黒字化させ35、さらに、2010年代半ばにかけては、債務残高GDP比を安定的に引き下げるなど、「進路と戦略」36に定められた中期的な財政健全化の目標37を確実に達成する。

35 「基本方針2006」においては、2011年度に国・地方の基礎的財政収支を黒字化するために必要となる対応額を要対応額として、「歳出削減を行ってなお、要対応額を満たさない部分については、歳出・歳入一体改革を実現すべく、歳入改革による増収措置で対応することを基本とする。これにより、市場の信認を確保する。」こととしている。

36 「日本経済の進路と戦略」(平成19年1月25日閣議決定)及び「日本経済の進路と戦略−開かれた国、全員参加の成長、環境との共生−」(平成20年1月18日閣議決定)

37 「まずは2011年度(平成23年度)には、国・地方の基礎的財政収支の黒字化を確実に達成する。財政状況の厳しい国の基礎的財政収支についても、できる限り均衡を回復させることを目指し、国・地方間のバランスを確保しつつ、財政再建を進める。地方については、国と歩調を合わせた抑制ペースを基本として歳出削減を行いつつ、歳入面では一般財源の所要総額を確保することにより、黒字基調を維持する。」「2010年代半ばにかけては、基礎的財政収支の黒字化を達成した後も、国、地方を通じ収支改善努力を継続し、一定の黒字幅を確保する。その際、安定的な経済成長を維持しつつ、債務残高GDP比の発散を止め、安定的に引き下げることを確保する。国についても、債務残高GDP比の発散を止め、安定的に引き下げることを目指す。」


【改革のポイント】

1.真に必要なニーズにこたえるための財源の重点配分を行いつつ、歳出全般にわたって、これまで行ってきた歳出改革の努力を決して緩めることなく38、国、地方を通じ、引き続き「基本方針2006」、「基本方針2007」に則り、最大限の削減を行う。

38 「基本方針2007」で示された公共投資の新たなコスト縮減計画として、「公共事業コスト構造改善プログラム」(平成20年5月1日)が策定されている。

2.重要課題実現のために、必要不可欠となる政策経費については、まずは、これまで以上にムダ・ゼロ、政策の棚卸し等を徹底し、一般会計、特別会計の歳出経費の削減を通じて対応する。

3.以上の歳出改革の取組を行って、なお対応しきれない社会保障や少子化などに伴う負担増に対しては、安定的な財源を確保し、将来世代への負担の先送りは行わない。


【具体的手段】

・「進路と戦略」で示した予算編成の原則39に沿って、「新たに必要な歳出を行う際は、原則として他の経費の削減で対応する」など、規律ある財政運営を行う。

39
原則1:民間需要主導の経済成長を目指し、景気を支えるために、政府が需要を積み増す政策はとらない。
原則2:税の自然増収は安易な歳出等に振り向けず、将来の国民負担の軽減に向ける。
原則3:経済成長と財政健全化を両立させるため、中期的な視点を重視する。すなわち、税収の増える好況期に健全化のペースを速める一方、税収の落ち込む不況期にはペースを抑制するなど、柔軟に健全化に取り組む。
原則4:新たに必要な歳出を行う際は、原則として他の経費の削減で対応する。
原則5:国民への説明責任を徹底する。

・「進路と戦略」に沿って、各年度の予算が財政健全化の中期目標の確実な達成と整合的であるかどうかを、予算編成の要所において確認する。

・2010年代半ばに向けた目標の具体化について、今後、経済財政諮問会議において検討を行う。

 なお、「基本方針2006」に示されたとおり、平成23年度までの5年間に実施すべき歳出改革の内容は、機械的に5年間均等に歳出削減を行うことを想定したものではない。それぞれの分野が抱える特殊事情や既に決まっている制度改革時期とも連動させ、また、歳入改革もにらみながら、5年間の間に必要な対応を行うという性格のものである。

4.税体系の抜本的な改革に向けて(税制改革の重点事項)

 消費税を含む税体系の抜本的な改革について、早期に実現を図る。その際、平成16年年金改正法、「基本方針2006」及び「基本方針2007」や平成20年度与党税制改正大綱の「基本的考え方」等を踏まえる。また、社会保障と税について一体的に改革する必要があり、「進路と戦略」で示した「安心・持続のための5原則」40に沿って議論を進める。

40 原則1:経済活力の向上、原則2:受益と負担の世代間格差の是正、原則3:社会保障と税の一体的・整合的見直し、原則4:制度の信頼性・透明性、原則5:中長期的な財政健全化との両立


【改革のポイント】

1.生産性向上を促し、成長力を強化する。

2.税制が社会保障とともに再分配機能を適切に果たすようにし、世代間・世代内の公平を確保する。

3.少子高齢化の下で、社会保障を支える安定的な財源を確保する。

4.低炭素化促進の観点から税制全般を見直す。


【重点事項】

 税体系の抜本的な改革に当たっては、以下の課題を踏まえ検討する。

(1)成長力強化

・対日直接投資を含め企業の国際的立地選択を阻害しないよう、法人の税負担水準について、国際的状況を念頭におき、課税ベースの拡大を含めて対応する。その際、社会保険料を含む実質的な企業負担にも留意する。

・労働に対する中立性が確保されるよう、税制の在り方について社会保障制度等と合わせて見直す。

(2)世代間・世代内の公平の確保

・老後の資産形成に資するよう、企業型確定拠出年金における個人拠出(マッチング拠出)の導入等について検討する。

・税制と社会保障給付を一体的に切れ目なく設計し、必要な人に必要な支援をきめ細かく行うため、控除制度の在り方や既存施策との関連など、その課題の検討に着手する。

・格差の固定化の防止や老後扶養の社会化への対処といった今日的課題も踏まえ、資産課税(相続税)を総合的に見直す。

(3)社会保障を支える安定的な財源の確保

 人口減少・少子高齢化の下においても、あらゆる世代で広く負担を分かち合い、社会保障をしっかりと支える安定的な財源を確保する。

(4)低炭素化促進の観点からの税制全般の見直し

 道路特定財源の一般財源化の問題にとどまらず、環境税の取扱いを含め、低炭素化促進の観点から税制全般を横断的に見直す。

(5)納税者番号の導入に向けた検討

 納税者番号の導入に向けて、社会保障番号との関係の整理等を含め具体的な検討を進める。


第5章 安心できる社会保障制度、質の高い国民生活の構築

1.国民生活を支える社会保障制度の在り方等

 社会保障は、国民生活を支えるセーフティネットである。少子高齢化等の課題に対処するため、2000年代に入り次々に制度改革が行われてきた。その中で、十分対処できなかった問題や改革の過程で新たに生じた問題もある。すべての人が安心して暮らせるよう、社会保障国民会議における議論も踏まえ、制度の持続可能性を高めるとともに、社会保障の機能を強化し、国民に信頼される制度とする。


【改革のポイント】

 社会保障サービスや供給体制について、ムダや非効率がないか全般にわたる見直しを行いつつ、医師不足への対応、少子化対策、長寿医療制度の運用改善などの重要課題に対しては必要な取組を行い、国民の安心を確保する。


【具体的手段】

(1)現行制度の効率化と持続可能で信頼できる社会保障制度の再確立

・現行制度について、サービスの質の維持・向上を図りつつ、効率化に徹底して取り組む。具体的には、昨年策定された「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」41に沿って、供給コストを最大限低減する努力を行うこととし、後発医薬品の使用促進、検査等の適正化、不正・不適切な保険請求の是正、医療のIT化(レセプト・オンライン化等)の推進、社会保障カード(仮称)の導入42、公立病院改革等を行う。

41 「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」(平成19年5月15日)

42 「IT政策ロードマップ」(平成20年6月11日)において、「2011年度中を目途に社会保障カード(仮称)を実現するため、2008年度中を目途に、当該カードの発行等に係るシステムの基本計画等を検討する」とされている。

・社会保障全体にわたって制度を点検し、必要な改革を行う。

・上記の効率化の努力を行いつつ、将来にわたり持続可能で信頼できる社会保障制度の再確立に向け取り組んでいく。

(2)重要課題への対応

(1) 質の高い医療・介護サービスの確保

・ドクターヘリを含む救急医療体制の一層の整備を行う。また、産科・小児科を始めとする医師不足の解消や病院勤務医の就労環境の改善のため、女性医師の就労支援、関係職種間の役割分担の見直し、メディカルクラークの配置等を進めるほか、診療科間、地域間の配置の適正化について現行の仕組みにとらわれない効果的な方策を講ずる。その際、これまでの閣議決定に代わる新しい医師養成の在り方43を確立する。さらに、今後は、在宅医療等地域で支える医療の推進、医療者と患者・家族の協働の推進など、国民皆で支える医療を目指して、改革を進める。

43 「財政構造改革の推進について」(平成9年6月3日閣議決定)において、「大学医学部の整理・合理化も視野に入れつつ、引き続き、医学部定員の削減に取り組む。」とされているが、早急に過去最大程度まで増員するとともに、さらに今後の必要な医師養成について検討する。

・長寿医療制度について、その創設の趣旨を踏まえつつ、低所得者の負担軽減など政府・与党協議会の決定44に沿って、対策を講ずる。

44 「高齢者医療の円滑な運営のための負担の軽減等について」(平成20年6月12日)

・介護・福祉サービスを支える人材の確保のため、介護従事者等について、キャリアアップの仕組みの導入や資格・経験を踏まえた適切な評価などにより、処遇の改善に取り組む。

(2) 持続可能な年金制度の構築

・年金記録問題について、「ねんきん特別便」の送付などの取組を着実に進め、信頼を確立する。

・社会保険庁を廃止して「日本年金機構」を設立し、意欲と能力のある人材による国民に信頼される組織を構築する。

・被用者年金制度の一元化やパート労働者への社会保険適用拡大を実現する。

・基礎年金国庫負担割合については、「平成16年改正法」45に基づき、所要の安定的な財源を確保する税制の抜本的な改革を行った上で、平成21年度までに2分の1に引き上げる。

45 「国民年金法等の一部を改正する法律」(平成16年法律第104号)

(3) 総合的な少子化対策の推進

・「子どもと家族を応援する日本」重点戦略等46に基づき、保育サービスや放課後対策等の子育て支援の拡充及び仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)実現を車の両輪として、少子化対策を行う。

46 「子どもと家族を応援する日本」重点戦略(平成19年12月27日)、「新しい少子化対策について」(平成18年6月20日)等

・税制の抜本的な改革と併せ、保育サービスの提供の仕組みを含む包括的な次世代育成支援の枠組みを構築する。

(4) 福祉施策や健康対策等の推進

・障害者の生活支援や就労支援・雇用促進等を進めるとともに、障害者自立支援法について、障害児支援の在り方など制度全般にわたる抜本的な見直しを行う。また、発達障害児・者に対する支援や精神障害者の地域移行を推進する。

・「がん対策推進基本計画」47に基づき、がんの総合的な対策を講ずる。難病対策や肝炎対策を一層推進する。原爆被爆者対策を総合的に推進する。

47 「がん対策推進基本計画」(平成19年6月15日閣議決定)

・薬害再発防止のため、医薬品行政を見直す。

・「自殺総合対策大綱」48に基づき、10年間で自殺率を20%以上減少させる。また、最近の自殺の動向を踏まえ、同大綱を見直す。

48 「自殺総合対策大綱」(平成19年6月8日閣議決定)

(5) 「健康現役社会」への挑戦

・高齢者の雇用・社会参画の機会拡大のため、「新雇用戦略」を推進する。

・企業OBを始めとする高齢者の豊かな知恵と経験を、中小企業や地域社会、海外にいかすための取組を進める。

・安心できる長寿生活の実現に向けて、家族や地域社会における支え合いを強化するとともに、リバースモーゲージの普及など老後の資産活用を図る。

・革新的医薬品・医療機器、福祉機器及び高齢者等を支援するロボット技術の開発・普及を進める。


 上記の課題のうち、重要政策として平成21年度に取り組む必要のあるものについては、財政健全化と両立させる観点から、まずは、一般会計や特別会計を通じたムダ・ゼロと政策の棚卸しによって財源をねん出し、それに充てることとする。

2.未来を切り拓く教育

・教育基本法49の理念の実現に向け、新たに策定する「教育振興基本計画」に基づき、我が国の未来を切り拓く教育を推進する。その際、新学習指導要領の円滑な実施、特別支援教育・徳育の推進、体験活動の機会の提供、教員が一人一人の子どもに向き合う環境作り、学校のICT化や事務負担の軽減、教育的観点からの学校の適正配置、定数の適正化、学校支援地域本部、高等教育の教育研究の強化、競争的資金の拡充など、新たな時代に対応した教育上の諸施策に積極的に取り組む。

49 「教育基本法」(平成18年法律第120号)

・新たに策定する「青少年育成施策大綱」に基づき、青少年の健全育成を図る。

・オリンピック招致の取組や国際競技力の向上などスポーツを振興し、日本文化の海外への戦略的発信や文化財の保存・活用、子どもの文化芸術体験など文化芸術を振興するため、総合的な施策を推進する。

・「食育推進基本計画」50に基づき、国民運動として食育を推進する。

50 「食育推進基本計画」(平成18年3月31日)

・幼児教育の将来の無償化について、歳入改革にあわせて財源、制度等の問題を総合的に検討しつつ、当面、就学前教育についての保護者負担の軽減策を充実するなど、幼児教育の振興を図る。

3.良好な治安と災害に強い社会の実現等

・日本を「世界一安全な国」とするため、良好な治安を実現するとともに、我が国の平和と安全及び国際社会の平和と安定の確保に努める。

・「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」51等に基づき、地域の絆を再生しつつ非行や犯罪から子どもを守る取組、インターネット上の違法・有害情報やサイバー犯罪への対策、組織犯罪の資金監視・取締りの強化・違法収益のはく奪、銃器規制の厳格化を図るほか、振り込め詐欺・悪質商法等の身近な犯罪の撲滅、テロ等への対策、海上保安の確保・密輸阻止等の水際対策、迅速かつ厳格な出入国審査と不適正な在留活動の防止等を図るとともに、刃物規制の在り方を検討する。また、犯罪対策の新計画を平成20年末までに策定する。

51 「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」(平成15年12月18日)

・再犯防止の観点から、地域社会・民間企業の協力や社会福祉との連携等を図りつつ、矯正施設及び社会内における処遇の充実や出所者等の社会復帰支援を効率的に実施する。

・我が国をめぐる安全保障情勢を踏まえ、「防衛計画の大綱」52に基づき、弾道ミサイル等の新たな脅威や多様な事態への実効的な対応、任務の国際化への配慮等を図りつつ、防衛調達等の改革を実施し、効率的な防衛力の整備を推進するほか、国民保護施策を展開する。

52 「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」(平成16年12月10日閣議決定)

・「官邸における情報機能の強化の方針」53を踏まえ、内閣の情報機能を強化する。

53 「官邸における情報機能の強化の方針」(平成20年2月14日)

・ 地球温暖化により懸念される集中豪雨の増加等の自然環境の変化も考慮しつつ、「犠牲者ゼロ」を目指し、防災・減災対策を着実に実施する。

・大規模地震、大規模水害・土砂災害、津波・高潮、豪雪、火山噴火等への対策を推進する。その際、学校の耐震化等防災基盤の充実、災害時要援護者の避難支援等ハード・ソフトの連携を図る。消防等地域防災力の向上を図る。

・「第8次交通安全基本計画」54に基づく取組を引き続き着実に実施し、交通事故の一層の減少等を通じ交通安全の確保を図る。

54 「第8次交通安全基本計画」(平成18年3月14日)

・ワクチン等の研究開発・備蓄、医療体制の整備など、新型インフルエンザ対策の強化を行う。

・司法制度改革の一環として、平成21年5月に始まる裁判員制度の円滑な実施、民事法律扶助や、適切な弁護報酬の設定等を踏まえた国選弁護人の確保、弁護士「ゼロワン地域」等の司法過疎地域の解消に対応する日本司法支援センターの体制の充実、犯罪被害者国選弁護制度に基づく援助等を行う。

・全国的な相談窓口の整備、ヤミ金融の取締りの強化等「多重債務問題改善プログラム」55を着実に実施する。

55 「多重債務問題改善プログラム」(平成19年4月20日)

・「宇宙基本法」56及び「地理空間情報活用推進基本法」57を踏まえ、我が国の総合的な安全保障も視野に入れ、宇宙の開発利用、産業化を総合的かつ計画的に実施するとともに、衛星による測位・監視技術等の活用による災害・安全保障情報の迅速な提供及び共有、先端的な研究開発等を推進する。

56 「宇宙基本法」(平成20年法律第43号)

57 「地理空間情報活用推進基本法」(平成19年法律第63号)

・安全・安心でゆとりある住生活空間を目指し、「住生活基本計画」58に基づき、高齢者・子育て世帯等の居住の安定確保、住宅の耐震化、老朽マンションの再生等を図る。住宅・建築物等生活空間のバリアフリー化を推進する。

58 「住生活基本計画(全国計画)」(平成18年9月19日閣議決定)

・都市部における地籍整備を推進する。

4.資源・エネルギーの安定供給

・原油価格の高騰や需要の増大等内外情勢も踏まえ、資源・エネルギーの安定供給を図るため、戦略的な資源・エネルギー政策を実施する。

・「資源確保指針」59に基づき、石油・天然ガス・ウラン等の安定的な供給確保に加え、レアメタルの代替材料開発やリサイクル等の対策を行う。

59 「資源確保指針」(平成20年3月28日閣議了解)

・EEZ60等における海洋資源の開発・利用・保全、大陸棚の限界画定、海洋の安全の確保、海洋調査の推進、海洋研究開発の強化、沿岸域の総合的管理、海洋に関する人材の育成等「海洋基本計画」61に基づく取組を実施し、新たな海洋立国の実現を目指す。

60 EEZ(Exclusive Economic Zone:排他的経済水域)

61 「海洋基本計画」(平成20年3月18日閣議決定)

・我が国の水資源の確保を図るため、干ばつ・渇水対策等を着実に実施する。また、世界の水危機解決に貢献を行う観点から、官民連携も図りつつ、「水の防衛隊」62の派遣等を行う。

62 アフリカ等に派遣される地下水開発等水に関する専門家

(原油価格高騰への抜本的対策)

・国民生活の深刻な状況を踏まえ、平成19年12月の緊急対策に引き続き、中小企業及び漁業、農林業、運送業等への対策、離島など地方の生活への対策、省エネ・新エネ対策及び生活関連物資の価格監視等を実施する。また、需給問題や投機資金等国際的な動向にも配意しつつ、市場の安定化に向け、国際的な働きかけを行う。

5.食料の安定供給と食の安全の確保

・国際的な食料価格の高騰等を踏まえ、食料安全保障を確立するため、食料供給力を強化する。

・食料自給率の向上に向け、水田を最大限に活用するため、主食用米の需要拡大、「米粉」や飼料用米等の新たな米利用の本格化、麦、大豆等の需要に応じた生産体制の強化等に取り組むとともに、国産ニーズの高い野菜等の供給体制整備、農業用水の確保、食料需給情報の収集・分析の強化を行う。また、周辺水域の水産資源回復、漁場環境の保全等により、水産物の安定供給を確保する。

・世界の食料需給安定化に向け、「FAOハイレベル会合」宣言63等を踏まえ、緊急的な食料支援、中長期的な農業技術支援等を実施する。

63 「FAOハイレベル会合」宣言(平成20年6月5日「世界の食料安全保障に関するハイレベル会合宣言:気候変動とバイオエネルギーがもたらす課題」)

・適正な食品表示の徹底や輸入食品の監視強化、生産現場での工程管理手法の導入促進など、食品の安全と消費者の信頼の確保を図る。地域の暮らしを守る鳥獣害対策を展開する。


第6章 平成21年度予算の基本的考え方

1.今後の経済動向と当面の経済財政運営の考え方

・我が国経済は、原油価格が高騰し米国経済が減速する中で、回復が足踏み状態にあるが、このところ一部に弱い動きが見られる。地域の経済状況にはばらつきが見られる。平成20年度においては、住宅投資の回復に加え、年度後半には世界経済が減速から回復に向かうと見られることから、成長を緩やかに高めていくと見込まれる。平成21年度においては、こうした世界経済の回復の下、物価が緩やかに上昇する中で、企業部門に加え雇用・所得環境の改善から家計部門も緩やかに回復し、民間需要中心の経済成長になることが期待される。

・ただし、米国の景気後退懸念や原油・穀物価格の高騰などに見られるリスク要因には十分注視する必要がある。

・人口が減少する中で、働き手を増やし生産性を向上させるとともに、「開かれた国づくり」を進め、持続的な経済成長を確保する。このため、「経済成長戦略」を戦略的、重点的に実行するなど、本「基本方針2008」に基づき、改革への取組を加速・深化する。

・民間需要主導の持続的な成長と両立する安定的な物価上昇率を定着させるため、政府と日本銀行は、マクロ経済運営に関する次の基本的視点を共有する。

(1) 民需主導の持続的成長を実現する

(2) 物価の安定を実現する

(3) 中期的な課題と整合的な政策運営を行う

(4) 透明性と説明責任を徹底する

このことを前提に、日本銀行には、政府の政策取組や経済の展望と整合的なものとなるよう、適時適切な金融政策を行うことを期待する。

・経済状況やリスクの高まりに対して、必要なことについては、迅速に手を打っていくとともに、経済情勢によっては、大胆かつ柔軟な政策運営を行う。

2.平成21年度予算の方向

 平成21年度予算は、「基本方針2006」で示した5年間の歳出改革の3年目に当たる。歳出全般にわたって、これまで行ってきた歳出改革の努力を決して緩めることなく、国、地方を通じ、引き続き「基本方針2006」、「基本方針2007」に則り、最大限の削減を行う。予算編成の原則を引き続き遵守するとともに、ムダ・ゼロに向けた見直しを断行し、真に必要なニーズにこたえるための財源の重点配分を行う。


(1)メリハリの効いた予算編成

・上記の基本姿勢に沿って、改革努力を継続する厳しい概算要求基準を設定し、メリハリの効いた歳出の見直しを行う。

・重要課題実現のために、必要不可欠となる政策経費については、まずは、これまで以上にムダ・ゼロ、政策の棚卸し等を徹底し、一般会計、特別会計の歳出経費の削減を通じて対応する。

・「第2章 成長力の強化」(別紙を含む)、「第3章 低炭素社会の構築」、「第4章 国民本位の行財政改革」、「第5章 安心できる社会保障制度、質の高い国民生活の構築」に述べた取組を推進する。そのため、予算面において所要の対応を行うことを含め、予算配分の重点化・効率化を行う。


(2)予算におけるPDCAの強化

・各府省の予算要求に当たっては、成果目標を掲げ、事後評価を十分行い得る基盤を整備するとともに、その必要性、効率性、有効性等を吟味する。

・実績が事前の評価を下回った事例等を十分に把握し、予算の重点化に活用するなど、適切に対応する。

・平成21年度予算が財政健全化の中期目標の確実な達成と整合的であるかどうかについて点検を行う。


成長戦略実行プログラム(別紙)

1.全員参加経済戦略

(1)「新雇用戦略」の推進

 厚生労働省及び関係省庁は、2010年度までに220万人の雇用の充実を図るため、「新雇用戦略」を推進する。具体的には、今後3年間を「集中重点期間」として、「新雇用戦略について」(平成20年4月23日経済財政諮問会議舛添臨時議員提出資料)を基本とした取組を行う。

(ア)若者

 3年間で100万人の正規雇用化を目指し、年長フリーターの職業意欲の喚起及びトライアル雇用等を活用した中小企業等とのマッチングの促進など「フリーター等正規雇用化プラン」に取り組む。また、ジョブ・カード制度の整備・充実(参加協力企業への支援措置の拡充、職業訓練期間中の生活保障のための給付をすることができる制度の創設)、ニート等の自立支援の充実に取り組む

(イ)女性

(1) 3年間で最大20万人の就業増(25歳〜44歳女性)、2010年に保育サービス利用率26%(現行20.3%)を目指し、「新待機児童ゼロ作戦」(平成20年2月27日)の展開、育児・介護休業の取得促進策の充実など仕事と育児等を両立できる環境整備、マザーズハローワーク事業の充実及びポジティブアクションの促進等に取り組む。女性のライフサイクル全般にわたる能力開発や就業促進の在り方を検討する

(2) 利用者の多様な選択を可能とする保育サービス提供の仕組みづくりや、保育所の施設設備に関する基準の在り方、保育ママ制度の資格要件の緩和など、保育サービスに係る規制改革について平成20年内に結論を得る。特に、「こども交付金」(仮称)の導入など、認定こども園に関する補助金の一本化による「二重行政」の解消策を検討し、平成20年夏を目途に取りまとめ、平成20年度中に制度改革についての結論を得る

(3) 2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%にすることを目指し、平成22年度末までの「女性の参画加速プログラム」(平成20年4月8日)を着実に実行する

(ウ)高齢者

 3年間で100万人の就業増(60歳〜64歳)を目指し、65歳までの継続雇用の着実な推進、地域貢献活動・起業の支援、多様な就業による生きがい対策の推進等に取り組む。高齢者が意欲・能力・体力に応じて働き続けられるよう、短時間勤務制度や成果主義賃金の導入など処遇体系の多様化を支援する

(エ)障害者等について、「『福祉から雇用へ』推進5か年計画」(平成19年12月26日)に基づき、着実に就労による自立を図る

(オ)仕事と生活の調和の実現、テレワーク拡大のための環境整備、パート・派遣・契約社員等の正社員化支援の強化、正社員以外の待遇改善、地域雇用対策、中小企業事業主の雇用維持努力に対する支援強化など人材面からの中小企業支援、介護人材の確保・定着等を通じ、安定した雇用・生活を実現し、安心・納得して働くことのできる環境を整備する

(カ)働くことが不利にならない税制・社会保障制度の構築に取り組む

(キ)生産性向上と最低賃金引上げに向けた官民一体の取組を推進する

(2) サービス産業・中小企業の生産性向上

 関係省は、生産性が低いサービス産業・中小企業の生産性向上を図るため、下記の施策を平成20年度中に実行に移す。

(ア)業種別生産性向上プログラム

 IT(ソフトウェア・情報サービス)、通信・放送・コンテンツ、建設・住宅・不動産、宿泊・旅行、小売、食品製造、物流、人材ビジネス、研究開発サービス業など生産性向上の観点から重要な業種について、具体的取組、工程表を明示したプログラムを策定し、実行する。関係省は本プログラムのフォローアップを年2回程度定期的に実施し、経済財政諮問会議に報告する

(イ)「サービス産業生産性協議会」等と連携したサービス工学研究の実施、第三者認証制度や顧客満足度指数の導入、ベストプラクティスの表彰・普及等により、生産性向上を実現する

(3)「生活直結型産業」の発展

 内閣府、総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省及び関係省庁は、国民の潜在的ニーズが高い「生活直結型産業」の発展を図るため、平成20年度中に以下の施策に取り組む。

(ア)医療・健康支援サービス

 「遠隔医療の推進方策に関する懇談会」における検討を踏まえ、遠隔医療技術の活用を推進する。また、民間企業による「健康コールセンター」設置について検討し、結論を得る

(イ)保育サービス

 保育サービスに係る規制改革について、子どもの福祉への配慮を前提に、利用者の立場に立って検討を行い、平成20年内に結論を得る

(ウ)介護・生活支援サービス

 介護や生活支援分野での新技術の活用を促進する

(エ)教育サービス

 地域のニーズに応じた公立施設等の開放を促進する

(オ)移動サービス

(1) タクシー事業について、総括原価方式など運賃規制の在り方、サービスの質の確保等の諸問題を検討し、平成20年内に結論を得る

(2) 特定非営利活動法人等によるボランティア有償運送の適切な普及を図る

(カ)住宅

 「200年住宅」を始めとする住宅取得の支援、良質な賃貸住宅の供給を促進し、住宅需要の喚起を図る。あわせて、社会的資産としての住宅ストックの流動化を促進する

(キ)コミュニティ・ビジネス

 福祉、青少年教育、就業支援、地域環境、まちづくりなどの地域の課題について、住民が主体となったNPOや企業がビジネスとして取り組む「コミュニティ・ビジネス」を育成・支援する

(4)世界最先端のIT国家化

(ア)電子政府の早期実施等

 内閣官房(IT担当室)、総務省、経済産業省及び関係府省は、i)国民の利便性向上、ii)企業のコスト削減、 iii)内部業務の効率化の3つの観点から、国民の立場に立ったIT化を政府において徹底し、国全体のIT化につなげる。具体的には、平成20年度に以下の施策を実施する。

 これらの施策も含め、IT戦略本部で決定した「IT政策ロードマップ」(平成20年6月11日)を着実に実施し、それを踏まえた「重点計画−2008」を早急に策定する。

(1) 3つの先行プロジェクト

平成20年中に着手

i)国民の利便性向上(コンビニのキオスク端末による住民票交付の実現/携帯電話やデジタルテレビなどの活用による申請手段の多様化/手数料の電子納付の促進)、紙による添付書類の省略、ワンストップ化(添付書類を大幅に省略するため、行政機関相互で行政情報を共同利用できる仕組みの検討/引越や退職に関する先行的ワンストップ化の推進)、メリットの拡大(電子申請の手数料引下げ/住基カードの無料化)

ii)国民・企業の手続コスト削減(多量・定型的な人事・労務関連手続について、データベース送付による一括処理を可能にする/自治体システムの標準化/各企業に振られている番号の共通利用化)

iii)旅費業務等の内部管理業務の抜本的効率化(旅費業務に係る規程類等の全府省統一化・標準化/経路検索ソフト等の活用/民間へのアウトソーシング/決裁階層の簡素化/ペーパーレス化の徹底)

(2) 電子政府の全体設計図(改革工程表)に基づき、官民の実務家タスクフォース等を活用しつつ、政府を挙げて実施する。その際の重点事項は以下のとおり

・電子申請・電子処理を原則とする

・国民がよく利用する手続を重点的に改善する

・内部業務の効率化の観点から制度・運用を含めて見直す

・利用者ニーズを反映した電子政府の改善システムを組み込む

・外部専門家による進ちょく評価を行う

(イ) 「ICT成長力強化プラン」に基づき、情報通信基盤整備の総合的な戦略を平成20年夏までに策定するとともに、「サイバー特区」等によるクリエイティブ産業強化など重点的取組を平成20年度中に具体化する

(ウ) 2011年までにITの戦略的活用による産業競争力強化・新産業創出、ASP・SaaSによる中小企業の経営革新支援と公的申請推進、グリーンIT実現のためアクションプランを平成20年内に策定する

(エ) 電子政府の企画・設計段階からのセキュリティ確保、安全な暗号への移行、各専門分野間の連携強化、人材の確保等「セキュア・ジャパン2008」の施策実施のほか、次期基本計画を平成20年度内に策定する

2.グローバル戦略

(1)世界に開かれた経済の構築

 外務省、経済産業省、農林水産省及び財務省は、WTOの年内妥結に努めるとともに、(1)2009年初めまでにEPA締結国・地域を12以上、(2)2010年に貿易額の25%以上を目指し、質の高い経済連携の加速に取り組む。

(ア) 別表の2010年に向けたEPA工程表を実行に移す

(イ) 二国間投資協定については、実際のニーズにこたえることを主眼として、投資実績・見通し等を勘案し、より戦略的な優先順位をもって検討していく。当面は中東、アフリカ、中南米、中央アジア等の資源産出国や地域の拠点国等が重点的な検討対象となり得る

(ウ) 我が国企業が強みをいかして海外市場で獲得する利益が過度に海外に留保され、競争力の源泉である研究開発や雇用等が国外流出しないよう、当該利益の国内還流に資する環境整備に取り組む

(2)開かれた経済のインフラ強化

A 「空」の自由化

 国土交通省は、「空」の自由化を推進するため、平成20年中に航空自由化工程表を改定する。具体的には、以下の施策に取り組む。

(ア) 首都圏空港(成田・羽田)における国際航空機能の拡充

(1) 2010年の新滑走路等の供用開始当初に、羽田は昼間約3万回、深夜早朝約3万回(合計約6万回)、成田は約2万回の合計約8万回の国際定期便を実現する。昼間(6時〜23時)に、羽田にふさわしい近距離アジア・ビジネス路線として、ソウル、上海等の都市、さらに、北京、台北、香港まで就航していくこととする

(2) 成田では6時台の出発、22時台の到着がないこと等を踏まえ、羽田において、深夜早朝(23時〜翌6時)に加え、6時台・22時台についても、成田と羽田の国際航空機能をリレーするための時間帯(リレー時間帯)として国際線の就航を可能とすることにより、欧米を始めとした世界の主要都市への就航を実現する

(3) 2010年以降の将来の方向性については、羽田は、国内線需要に適切に対応しつつ、国内・国際双方の需要の伸びを勘案し、昼間は、羽田のアクセス利便性をいかせる路線を中心に国際線の増加を推進し、深夜早朝は世界の主要都市への就航により、首都圏全体の国際航空機能の24時間化を実現する

(4) 首都圏全体で、2010年以降、約17万回の発着枠の増枠により年間発着枠約70万回を実現し、さらに、あらゆる角度から可能な限りの空港容量拡大施策を検討する

(5) 時間帯別料金制度を始め貴重な発着枠を有効活用できる多様な仕組みについて十分検討する

(6) 成田新高速鉄道の整備や接続する鉄道を活用し、両空港間のアクセス改善を図る

(イ) 航空自由化の推進

 2007年8月以降、韓国、タイ、マカオ、香港及びベトナムとの間で合意したことに続き、他のアジア各国との間でも、同様の航空自由化に合意できるよう努める。また、欧米との間でも、様々な課題はあるが、欧米の動向を見極めつつ、自由化に向けて交渉を行う

(ウ) 地方の「空」の改革

 国が管理する空港については、平成20年度内を目途に共通的な経費の取扱い等技術的な課題を整理し、早期に空港別の収支の開示を検討する。地方公共団体が管理する空港についても、国における検討を踏まえ、空港別の収支の開示を検討するよう要請する

B 対日投資の拡大

 内閣府、経済産業省及び関係省庁等は、平成20年秋中に「対日直接投資加速プログラム」(平成18年6月20日)を改定し、着実に進め、対日投資の拡大を図る。

(ア) M&Aの在り方検討

 経済産業省、法務省及び金融庁が買収防衛策の導入・発動等の在り方について平成20年夏までに整理・明確化することなどにより、公正かつ透明性の高いM&Aの環境を整備する

(イ) 外資規制の包括的在り方検討

 関係府省等が連携し、外為法(昭和24年法律第228号)、個別業法等における安全保障の在り方、内外無差別原則の例外である外資規制の在り方について平成20年度内に包括的に検討を進める

(ウ) 医療機器の審査迅速化アクションプログラムの策定

 医療現場で最先端の機器を世界に先駆けて使える魅力的な国内市場とするよう、厚生労働省、経済産業省等関係府省及び産学官等が連携して、審査体制の拡充を始めとする、「デバイス・ラグ」の解消に向けたアクションプログラムを平成20年秋中に策定する

(エ) ビジネスコストの低減

 (1) 抜本的税制改革に併せ法人実効税率の在り方を検討する

 (2) ノーアクションレター制度の運用改善及び税の文書回答手続の抜本的強化等を行う

(オ) 対日投資推進体制の拡充

 内閣府を中心に、対日投資の推進に向けた体制を拡充する

(3)国際的な人材強化

A 高度人材(注)の受入れ拡大

 政府内に産官学労からなる「推進会議」を設置する。高度人材の受入れの数値目標設定や下記の事項等について、「推進会議」の場で検討を進め、平成20年中に関係府省が協力してアクションプログラムを策定する。

(注) 在留資格のうち、教授、芸術、宗教、報道、法律・会計、医療、研究、教育、人文知識・国際業務、技術、技能、投資・経営、企業内転勤の専門的・技術的分野。2006年現在15.8万人

(ア) 企業等における外国人活用の推進

(1) 企業における人事評価・給与評価の公平さと透明性の向上

(2) 国際化指標を策定・公表し、企業の人材の国際化を後押し

(3) 社会保障協定(国際的な年金通算など)の締結の加速

(4) 高度技能実習制度の導入について検討

(5) 企業の幹部や基幹業務への外国人高度人材の登用拡大

(6) 留学生向けの採用枠の設定・拡大など、企業における積極的な採用促進

(7) 中央官庁等における外国人活用(特に観光庁、JETRO等)

(8) 在留資格の明確化

(イ) 高度人材の範囲の検討

(ウ) 外国人が住みやすい生活環境づくり

(1) 先進的な英語教育を推進するインターナショナルスクールに係る税制面の支援等を引き続き推進。都道府県の各種学校への認可基準(土地建物の自己所有要件等)の見直しを促進

(2) 内外での日本語教育を強化

(3) 外国人の受診しやすい医療環境の整備の推進(医師等の相互受入れの拡大等)

(4) 有能な高度人材を受け入れるために、永住資格の付与を促進

B 教育の国際化

 文部科学省及び関係省庁は、高度人材受入れとも連携させながら、「留学生30万人計画」の実現、英語教育の強化に向けて、平成20年度から3か年の取組を加速する。

(ア) 「グローバル30(国際化拠点大学30)」(仮称)の構想の具体化

 留学生受入れの拠点となる質の高い国公私立大学をコンペ方式で全国・各分野をトータルで30校程度選定し、以下の措置を講ずる

(1) 英語で受講・卒業できるコースの創設。9月入学の拡大。内外の大学のネットワークを構築、交換留学・単位互換・ダブルディグリーの実施。また、大学院生の受入れを重視

(2) 国際公募による優秀な教員の採用。英語による教育コースは、世界でも一流の内容を確保

(3) 海外校や海外ワンストップ拠点を展開し、大学が直接留学生をリクルート・選抜

(4) 支援措置の重点化(拠点大学に対する重点的支援。留学生教育については国立大学法人の授業料設定を弾力化等)

(イ) 留学生の就職支援・受入れ環境づくり

(1) ジョブ・カードの活用等により、日本企業への就職を産業界・大学・政府を挙げて支援

(2) 在留資格の審査手続の見直し、在留期間の決定に係る運用の周知徹底、卒業後の継続在留期間の見直しの検討

(3) 産学官連携し企業の情報提供や就職相談窓口等拡充、企業のキャリアプログラムの開発促進

(4) アジア等の優秀な留学生の我が国産業界での活躍を促進する「アジア人財資金構想」を推進

(5) 日本への留学に関する海外での情報提供及び支援の一体的な実施を推進

(6) 渡日前入学決定や入国審査の迅速化等留学決定の円滑化、宿舎確保の取組等受入れ環境づくり

(ウ) 英語教育の強化

(1) 小学校低・中学年(例えば3年生)からの英語教育の早期必修化を目指し、モデル的な取組を含め具体策を検討。また各学校段階の到達目標を明確化(TOEIC・TOEFL・英検の活用等)し、英語教科書・教材の質、語い数、分量を向上

(2) JETプログラムを活用したALTや、英語能力の高い社会人等の指導者の確保を図る。またTOEIC、TOEFL、英検(例えば英検1級程度)を条件に課すなど、英語教員の採用の見直しを促す

(3) 日本人高校生・大学生の海外留学を推進

(エ) 海外で活躍する日本人研究者の招へい促進のための環境づくり

(4) 「アジア経済・環境共同体」構想の実現

 経済産業省、環境省及び関係府省等は、以下を始めとする施策を今年度中に実行に移す。

(ア) 環境と共生しつつ経済発展を図り持続可能な社会の構築を目指す「クリーンアジア・イニシアティブ」(平成20年6月6日)の他、省水型・環境調和型の水資源管理や3R技術の展開、クリーンな石炭火力の普及、石油備蓄強化への協力等を推進し、世界で最も環境に優しくエネルギー制約に強い市場の構築を目指す

(イ) ベトナム・タイ・インドにまたがる物流・産業インフラの一体的整備を行う「アジア・サンベルト(仮称)」構想や各国の法制度整備・運用の支援を始め、人・モノ・資本・情報のシームレスな移動の実現に取り組む

(ウ) アジアの中小企業等による国境を越える販売を容易にする「アジア電子流通圏」構想等を推進することにより、日本発・アジア発のトレンドセッティングを可能としつつ、消費市場を活性化する

(5)国際競争力ある成長分野の創出

(ア) 金融・資本市場の競争力強化

 金融庁及び関係府省は、金融・資本市場の競争力強化を図り、世界の中での中核的な金融センターを目指して「金融・資本市場競争力強化プラン」(平成19年12月21日)を着実に実行する

(1) 「金融・資本市場競争力強化プラン」の実行

・「金融・資本市場競争力強化プラン」を着実に実行するとともに、国際金融拠点機能の強化に向けた都市再生の取組を推進する

(2) 確定拠出年金

 以下の施策について検討する

・企業型確定拠出年金における個人拠出(マッチング拠出)を導入する

・個人型確定拠出年金の対象範囲を拡大するとともに、転職時における関係者間の連携等により、ポータビリティを一層確保する

(3) 公的年金基金の運用改善

・公的年金基金の運用について、国民の立場に立って、幅広い検討を行う。なお、その際、年金積立金管理運用独立行政法人の神奈川県への平成20年度末までの移転について、延期するための措置を早急に講ずる

(4) 個人が長期に株式を保有しやすい環境整備

・信頼される株式投資信託とする

(イ) 医薬品・医療機器産業の革新

 「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」(平成19年4月26日)に基づき、研究資金の集中投入、ベンチャー企業の育成、臨床研究・治験研究の整備、アジアとの連携、審査の迅速化・質の向上、イノベーションの適切な評価、官民の推進体制の整備などを行う

(ウ) 知的財産戦略(「知的財産推進計画2008」(平成20年6月18日))の推進

・デジタルコンテンツの流通に関する課題や国際的枠組みについて引き続き検討を行い、クリエーターへの正当な対価の還元を前提に、世界最先端のデジタルコンテンツ流通促進の法案を国会に提出するなどの制度整備等を1年以内に行う

・オープン・イノベーションを支えるネット検索サービス等の新ビジネスの展開を円滑化するための法案を平成20年度中に国会に提出する

・海外への技術流出リスクの増大に対応するため、技術情報等の適正な管理の諸方策について総合的に検討し、平成20年度中に結論を得る

(エ) 平成20年10月の観光庁創設を機に、平成22年までにアジア等各国からの訪日外国人旅行者数を1000万人とするための誘致体制の強化など、観光立国の実現に向けて取り組む。「観光立国推進基本計画」(平成19年6月29日)のPDCAを実施する

(オ) 港湾の24時間化等貿易手続改革プログラムの着実な実施とともに、スーパー中枢港湾政策の推進や臨海部物流拠点の形成等により、港湾の国際競争力強化と国内外をつなぐ強力なシームレス物流網を形成する

(6)総合的な外交力強化

(ア) 経済連携の推進、戦略的な援助の充実、対外発信力の発揮、資源・エネルギーの確保などの政府の対外的機能について、在外公館、マンパワー等の外交実施体制を中核とし、総合的な外交力を強化する

(イ) 「平和協力国家」として、人間の安全保障を含め、国際社会において責任ある役割を果たす。平和構築分野の人材を育成する。G8北海道洞爺湖サミットや第4回アフリカ開発会議の成果を着実に実施し、アフリカ向け政府開発援助(ODA)の倍増、クールアース・パートナーシップの構築を通じて、途上国支援を充実するとともに、地球規模の課題に対しリーダーシップを発揮する。なお、他の地域・分野への支援にも引き続き取り組む

(ウ) 「科学技術外交の強化に向けて」(平成20年5月19日)に基づき、地球規模課題の解決に向けたODAを活用した発展途上国との国際共同研究等を展開する

3.革新的技術創造戦略

 総合科学技術会議及び関係府省は、革新的技術によって、(1)産業の国際競争力強化、(2)健康な社会構築、(3)日本と世界の安全保障に取り組む。バイオ技術・医療関連技術を強化し、健康・医療産業をリーディング・インダストリーに育成するとともに、ITをいかしたユビキタス技術やロボット技術を一層活用して、高齢者や障害者が暮らしやすい社会づくりを進める。具体的には以下の施策に取り組む。

(1) 「革新的技術戦略」(平成20年5月19日)の実行

 平成20年中に以下を柱とする取組に着手

・産業の国際競争力強化(地球温暖化対策技術、電子デバイス技術、組込みソフトウェア技術等の育成・開発・産業化)

・健康な社会構築(生活支援ロボット技術、医療工学技術、再生医療技術等の強化)

・日本と世界の安全保障(食料制約を緩和できる技術、希少な資源を代替・回収する技術、環境負荷を減ずる製造プロセス技術、感染症対策技術、国家基幹技術等の発展)

・研究開発のマネジメント(総合科学技術会議によるマネジメントを支援する体制として研究者・技術者のネットワーク(目利き集団)の整備、戦略的な知的財産の創造・保護・活用を図る体制の整備(国際的な基本特許の権利取得及び地域の多様な知的財産活動体制の構築を重点的に支援(40か所))等)

・革新的技術が絶え間なく生み出される環境づくり、特に革新的技術のシーズを生み育てる研究資金供給(挑戦的かつ高い目標設定の基礎研究への投資等)、未知の分野に挑戦する人材の確保(トップクラス人材の流動性確保と育成・獲得等)

(2)環境・エネルギー技術等のトップランナー構想

(ア)「環境エネルギー技術革新計画」(平成20年5月19日)の推進

 平成20年中に着手

 低炭素社会実現に向けた我が国の技術戦略、国際的な温室効果ガス削減への貢献策、革新的環境エネルギー技術開発の推進方策について取りまとめた「環境エネルギー技術革新計画」の推進

(イ)環境エネルギー技術の革新力強化及び普及

平成20年度中に検討・着手

(1) 省エネや低環境負荷の新素材・新技術の開発に対する経済的支援

(2) 事業化に際しての債務保証、知財戦略の策定支援等

(3) 優れた技術の製品化や事業化を需要面から支援する政府調達の活用

(4) 環境・省エネ製品の優先的な調達(環境配慮契約法やグリーン購入法の対象範囲の拡大や、地方公共団体への拡大)

(5) 自然エネルギーについて、利用を抜本的に拡充するための仕組み(需給を安定・拡大する仕組み)

(6) 原子力に関する研究開発・利用の促進、我が国産業の国際展開支援

(ウ)環境エネルギー技術の世界標準化、世界市場への進出

(エ)世界最高水準の研究拠点の整備

 「世界トップレベル研究拠点プログラム」を着実に推進し、我が国が強い分野の研究拠点に対し重点支援を行うことなどにより、世界最高水準の研究拠点を整備

(オ)イノベーションを加速する新たな仕組み等

・企業、業種、大学の壁を越えて、技術・人材を組み合わせる、新たなビジネスモデル創造を支援する「イノベーション創造機構」(仮称)を創設

・引き続きベンチャー企業の創造を推進する。特に、開業・廃業の阻害要因を取り除き、新たな事業への取組を円滑に進めるよう支援

(3)「革新的技術特区」(スーパー特区)

 第一弾として、平成20年度中に「先端医療開発特区」を創設し、最先端の再生医療、医薬品・医療機器について、重点分野を設定した上で、先端医療研究拠点を中核とした他の研究機関や企業との複合体を選定する。その上で、新たに、研究資金の特例や規制を担当する厚生労働省等との並行協議等を試行的に運用するとともに、研究開発費を確保し、開発・実用化の促進を図る。

 (4)国家的プロジェクト緊急予算

 平成20年度中に検討し、平成21年度から創設・実行

 「国家的プロジェクト緊急予算」として、総合科学技術会議の下に、府省横断的に研究開発等の資金枠を創設(「革新的技術推進費」を科学技術振興調整費に新たに措置)。

(5)検証に基づく重点的な予算配分

 研究開発予算の使われ方の評価・検証を徹底する。総合科学技術会議が中心となって、平成20年内に、研究開発マネジメントの在り方を点検し、初期段階からの事業化可能性の評価の導入や費用対効果に着目した評価の強化等を含めPDCAサイクルを改善するとともに、より効果的な評価の実施を行うため、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成17年3月29日)を改定する。その成果については、平成21年度以降の評価に反映。


(別表)

2010年に向けたEPA工程表

国・地域 貿易額
割合
現状 目標
シンガポール 2.2% 協定本体は、2002年11月30日に発効。改正議定書は、2007年9月2日に発効 発効済み
メキシコ 1.0% 協定本体は、2005年4月1日に発効。日墨経済連携協定議定書は2007年4月1日発効 発効済み
マレーシア 2.4% 2006年7月13日に発効 発効済み
チ リ 0.7% 2007 年9月3日に発効 発効済み
タ イ 3.3% 2007年11月1日に発効 発効済み
フィリピン 1.4% 2006年12月に国会で承認 フィリピン上院の承認を得て発効する
ブルネイ 0.2% 2008年5月に国会で承認 可能な限り早期の発効を目指す
インドネシア 2.7% 2008年5月に国会で承認 2008年7月1日に発効予定
ASEAN全体 13.0% 2008年6月に国会で承認 可能な限り早期の発効を目指す
韓 国 6.1% 2008年6月に交渉再開に向けた検討及び環境醸成のための実務協議を開催 早期交渉再開に向け、韓国側と積極的に協議
湾岸諸国(GCC) 9.0% 2006年9月に交渉開始 可能な限り早期に交渉の主要点についての実質的な妥結を目指す
ベトナム 0.9% 2007年1月に交渉開始 可能な限り早期に交渉の主要点についての実質的な妥結を目指す
インド 0.8% 2007年1月に交渉開始 2008年中の交渉の実質的な妥結を目指す
スイス 0.6% 2007年5月に交渉開始 2008年中の交渉の実質的な妥結を目指す
オーストラリア 3.4% 2007年4月に交渉開始 農林水産業の重要性を十分認識し、守るべきものは守るとの方針の下、我が国にとって最大限のメリットを獲得することを目指す

 今後の取組に関する構想についての現状は以下のとおり。

国・地域 貿易額
割合
現状 目標
米国 16.1% 現在、民間において議論 将来の課題として検討を進めていく。また、日米、日EUの経済関係の更なる発展を促すような基盤を整えていく方策は何かについて、民間で行われている議論を踏まえつつ、引き続き真剣に検討を進め、可能なものから、米国、EUとともに、準備を進めていく
EU 12.8% 現在、民間において議論
東アジア自由
貿易圏構想
(EAFTA)
(日中韓ASEAN)
36.9% 現在、第二段階の民間研究中 東アジア及びアジア太平洋地域における経済連携の枠組みの研究や検討において、WTO体制を含め世界経済・貿易に与える影響、関係各国の考え方等を踏まえ、これら各国と協議しつつ、積極的な参加及び貢献を行っていく
東アジア包括的
経済連携構想
(CEPEA)
(日中韓印豪
ニュージーランド
ASEAN)
41.5% 民間研究(我が国が提案)の報告書が2008年夏に取りまとめられる予定
アジア太平洋の
自由貿易圏構想
(FTAAP)
69.7%
(ただし、
APEC参加
国・地域の
割合)
APECの場において選択肢及び展望について検討中

 (注)貿易額割合は、貿易総額に占める各国との貿易額の割合(2007年)