資料 3 経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006

第1章 日本経済の現状と今後の課題

1.「新たな挑戦の10年」へ

(明るい展望と新たなチャンスの到来)

 長期停滞のトンネルを抜け出し、筋肉質の経済構造に変貌した日本経済は、ようやく未来への明るい展望を持てる状況となった。今や我々は、「新たな挑戦の10年」の出発点に立っている。

 第一の「挑戦」は、我が国を取り巻くいろいろなチャンスをつかみ取るための挑戦である。日本経済については、人口減少・少子高齢化といった面が悲観的に強調されがちだが、我が国を取り巻く環境を冷静に見れば、新たな成長の芽が数多く存在する。

(1) 世界の成長センターであるアジアの中核国として、国際的な協業ネットワークや文化力に基づいたアジア規模での融合的市場をつくっていくのに最適な位置取りをしている。

(2) 継続的に原油高が予想される中で世界最先端の省エネ構造・技術が競争優位の源泉となり得る。

(3) 長期的視点に立って研究開発・投資を行う「経営の論理」と短期的な収益回収を求める「資本の論理」の間で、「日本型の最適組み合わせ」が生まれつつある。

(4) 高感性・高品質を求める消費市場が競争を通じて新たな商品・サービスを生み出している。

 これらの芽を確実に開花させる挑戦こそが新たな日本を創生する。


(直面する内外の課題)

 もっとも、我が国を取り巻く環境はチャンスばかりではなく、克服しなければならない我が国固有の困難も存在している。第二の「挑戦」は、これらの諸課題を克服していくための勇気ある挑戦である。

 国内には、

(1) 人口減少・少子高齢化の経済負荷が本格化するまでに残された時間は10年程度であり、この期間中に「人口減を克服する新たな成長モデル」を作りあげなければならない。

(2) バブル崩壊の衝撃を緩和するために累次にわたって講じられた経済対策や、社会保障給付の急増下でその財源確保への対応の遅れが、巨額の借金を政府に残し、雪だるま式に増加する借金の返済を後世代に先送りする構造となっている。

(3) 全力を挙げて少子化対策に取り組み、少子化に歯止めをかけなければならない。

 人口減少・少子高齢化の進行する過程の下での財政の問題は、深刻な世代間の不公平を生じさせる。給付を受け取る現世代が自らの責任で、自らの負担によって早急に対応しなければならない問題である。現世代が自らの負うべき借金の返済を「声なき後世代」へ先送りすることは許されない。

 国外にも種々の課題やリスクが存在する。

 世界は、グローバリゼーションの恩恵を主要国が最大限に享受した時期を経て、グローバリゼーションの副作用への目配りを各国が従来以上に強めなければならない時代に突入している。日本は自らの国際的責任を果たしつつ、直面する諸課題を積極的に克服しなければならない。

 具体的には、

(1) 中国、インドなどの急速な経済発展に伴い、個別産業・企業のみならず個人レベルでも競争が激化していく傾向が強まっている。

(2) これら人口大国の急速な成長に伴う資源・エネルギーの需給逼迫によって地政学的リスクが経済リスクに直ちにつながりつつある。

(3) 人材、技術、資金、情報などが世界中を自由に動き回るようになる中で、この世界的な還流サイクルを取り込むための「制度インフラ整備」の競争が各国間で更に強まっている。とりわけ、競争力の源泉である優秀な人材を取り込むための競争が内外ともに激化している。

(4) 世界的な経常収支不均衡が更に拡大しており、その持続可能性に注目が集まっている。また、世界の金融全体が、これまで潤沢に供給されていた流動性を減少させる流れに向かっている中で、市場が金融環境面における変化やリスクに一層敏感になりつつある。


(国内における不均衡問題への対応)

 国民生活に目を転じると、若年層を中心に教育や就業の状況にばらつきが大きくなるおそれ、雇用環境の激変等を背景とする将来に対する不安感の高まり、児童生徒や若者の凶悪犯罪による社会的な不安、都市と地方間での不均衡等の問題が生じている。この新たな不均衡の克服が我が国の第三の「挑戦」として求められる。

 機会の平等や社会的セーフティネットなどの課題に対しては、健全で意欲ある中流層の維持こそが経済のみならず社会や政治の安定の基礎となるとの認識に立って、政府は最大限の努力で丁寧かつ誠実に対応していかなければならない。

 問題の解決は「経済成長の果実」を活用することを基本とし、そのための構造改革を重点的に進めつつ、一方で、その副作用に対しては、真の社会的弱者に絞り込んだ自立支援型のセーフティネットをきめ細かく構築すべきである。経済成長と安全・安心の社会を両立させる21世紀型の「穏やかで豊かな日本社会」を拡大均衡の中で作っていかなければならない。


(構造改革路線の堅持)

 以上の新たな三つの挑戦は、これまでの構造改革路線をしっかりと継続・強化させることによって成し遂げられる。集中的かつ徹底的な改革を世界の動きを上回るスピードで実行していくことこそが挑戦を成功に導く鍵である。

 構造改革が「影」をもたらしたのではないかとの理由から、改革実行を遅らせてはならない。構造改革への挑戦を怠れば、それは知らず知らずのうちに日本経済の地盤沈下をもたらし、世界から押し寄せるリスクに対する抵抗力を弱めることになる。立ち止まることで生じる「影」は、挑戦することの「影」に比べて巨大なものになることを銘記すべきである。


(「新たな挑戦の10年」に向けた社会変革)

 構造改革は政府だけの課題ではない。国民を挙げて、日本全体として取り組むべきテーマである。構造改革の必要性と方向性について、一人でも多くの国民の理解が得られるように、共通認識を形成する旗印が必要である。

 これまでは、デフレ克服と長期低迷からの脱却に向けて、官民それぞれが痛みを伴う改革に努力してきた。今後は、豊かで安心な日本を後世代に引き継ぐための正念場であるとの認識の下で、「新たな挑戦の10年」に向けて更なる改革への取組が不可欠である。

 挑戦の10年に向けて政府が取り組む構造改革は「挑戦」の内容に対応した形で、(1)成長力・競争力強化、(2)財政健全化、(3)安全・安心で柔軟かつ多様な社会の実現という三つの優先課題に絞り込むべきである。


(「挑戦の好循環」のための基本的考え方)

 こうした3つの挑戦は、それぞれ独立に対応していくべきものではない。「健全で活力ある経済」あってこその「財政健全化」であり、「安全・安心かつ柔軟で多様な社会の構築」である。他方、財政健全化は最大の成長政策の一つともなり、また、安全・安心に裏打ちされた活力ある社会なくして成長力強化もない。

 こうした相互の関係を念頭に置き、中長期的に成長力・競争力を極大化するために最大限の努力を払いつつ、常にその時々の経済社会情勢に目を配りながら、歳出・歳入一体改革を着実に推進すること、すなわち、経済と財政を一体的にとらえて改革を進めていくことによって、「成長力強化と財政健全化が相互に響きあい、強めあう好循環」を実現していくことが必要である。

 2.「基本方針2006」の課題

(これまでの改革の成果)

 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(以下、「基本方針」という。)の策定は5年前にスタートした。当時の非常に厳しい経済社会情勢にもかかわらず、政府は、財政出動に安易に頼る従来の経済運営の基本的な考え方を転換し、構造改革の断行に大胆に着手したのである。「改革なくして成長なし」、「官から民へ」、「国から地方へ」といった考えを「基本方針」の中軸に据え、対症療法から脱却し根本的な制度改革にまで踏み込んで政策運営を行ってきた。

 このうち、2001〜04年度を集中調整期間とし、不良債権処理の加速化を中心とした負の遺産の清算に取り組んできた。続く2005〜06年度を重点強化期間とし、新たな成長基盤を重点的に強化していくことを優先課題とした。

 その結果、不良債権問題は2004年度末には正常化し、企業部門の三つの過剰問題(雇用・設備・債務)も解消した。また、2005年度後半には経済全体の需給もほぼ均衡状態に復元した。デフレについては、物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがない状況、すなわちデフレからの脱却が視野に入っている。財政状況については、国と地方の基礎的財政収支赤字は2002年度にはGDP比6%弱にまで悪化したが、2006年度には半減し3%を下回る見込みである。

 構造改革は、マクロ的な経済パフォーマンスの観点から見れば、明らかに大きな成果を生み出したのである。地域経済をみると、構造改革の当初、グローバリゼーション、IT化の進展、高齢化の進展、人口減少等を背景に大きなばらつきが見られた。このばらつきはマクロ経済の回復に伴って改善も見られるが、地域の自助努力を更に後押しすることによって構造改革の成果を全国に波及させなければならない。


(三つの優先課題)

 これまで5年間の改革推進により、日本経済の新たな飛躍に向けた基盤は固められつつある。「基本方針2006」においては、この基盤の上に立って、豊かで安心な日本を後世代に引き継ぐため、「新たな挑戦の10年」における三つの優先課題への取組を提示する。さらに、平成19年度予算は、「新たな挑戦の10年」の初年度であり、また、2010年代初頭における基礎的財政収支の黒字化を確実に達成していくための発射台となることから、今後の経済運営の基本になる予算編成の考え方を明らかにする。

(1) 成長力・競争力強化

 成長力強化はすべての経済政策の基本である。日本が直面する経済、社会、安全保障に関するそれぞれの課題を解決していくためには、持続的かつ安定した経済成長が求められる。日本経済が直面する人口減少と高齢社会到来という課題については、生産性向上・技術革新・アジアの活力活用の三つを梃子にして乗り越える戦略を構想し、言わば新たな日本型成長モデルの構築によって克服していかなければならない。その際、急速に成長する海外の人口大国に比肩するには、人間力を基礎に勤勉さ、挑戦意欲を日本国民が保持することなくして、豊かな日本を維持することは不可能である。

(2) 財政健全化

 財政健全化に向けて、「歳出・歳入一体改革」の策定とその具体化に向けて全力を尽くすことが不可欠である。「一体改革」では、将来の数値目標、選択肢、工程表等を含めその全貌を分かりやすく提示する必要がある。その際、後世代に負担を先送りする構造をなるべく早く是正すること、持続可能な社会保障制度の構築によって国民の安心を確立することなどを改革の基本的立場とする。財政健全化計画は、中長期的視点に立った堅実な経済前提を基礎とし、確実に実行していくものとする。

(3) 安全・安心で柔軟かつ多様な社会の実現

 国民の間で高まる将来への不安感や対外面を含めた安全・安心への強い関心、また、人生の各段階における多様な選択肢と再挑戦の機会提供に対するニーズの高まりなどを踏まえ、成長の果実を有効に活用し、安全・安心で柔軟かつ多様な社会を実現していく。持続可能な社会保障制度の総合的な改革、再チャレンジ支援、総合的な少子化対策、個人や地域の生活におけるリスクへの対処策について取組を進め、さらに、豊かな生活に向けた環境を整備する。


第2章 成長力・競争力を強化する取組

 「新たな挑戦の10年」においては、成長力・競争力を強化する取組によって、豊かで強く魅力ある日本経済を実現し、改革の先に明るい未来があることを示すことが重要である。こうした取組に当たっては、科学技術とIT革新に重点を置き、生産性向上と経済の拡大に結びつけることが不可欠である。成長力・競争力の強化を実効性のあるものとするためには、個々の政策について明確な目標を定め、長期的な視点から一貫性をもって取り組むべきである。施策の推進に当たっては、成果目標、政策手段等を明確に掲げ、PDCAサイクルを着実に実施していく。

1.経済成長戦略大綱の推進による成長力の強化

 以下の施策をはじめとして、政府・与党一体となって策定した「経済成長戦略大綱」及び「工程表」1の基本的考え方と戦略目標を政府全体で広く共有し、一貫性のある取組を推進する。各施策の着実な実現のため、毎年度、「基本方針」の策定過程で定量的にローリングを行い改定する。優先実現項目は、経済財政諮問会議等で集中的に議論する。

1 「経済成長戦略大綱」及び「工程表」(平成18年7月6日財政・経済一体改革会議)

 経済成長戦略大綱を推進することにより成長率押上げ効果が期待される。これによって歳出・歳入一体改革に伴う財政面からのマイナス要因を吸収し、場合によっては、それを上回る効果の実現が視野に入ることが期待される。

(1)国際競争力の強化

(1) 我が国の国際競争力の強化

・「第3期科学技術基本計画」2や「イノベーション創出総合戦略」3を踏まえ、経済成長への貢献に配慮し、戦略的に施策を実施する。イノベーション・スーパーハイウェイ構想を推進する。初期需要創出の環境整備(官民の政策対話の場の設置等)や双方向の連携強化が必要な領域に平成18年度から政策資源を集中投入する。

2 「第3期科学技術基本計画」(平成18年3月28日閣議決定)

3 「イノベーション創出総合戦略」(平成18年6月14日)

・ロボット、新世代自動車向け電池、次世代環境航空機等世界をリードする新産業群創出に向け平成18年度に行動計画を策定する。宇宙の利用・産業化を推進する。

・「総合物流施策大綱」4に基づき、ハード・ソフトの物流インフラの戦略的・重点的な整備、原油価格高騰の影響を受けにくい効率的な物流の実現に取り組む。「国際物流競争力パートナーシップ」を構築し、年内に行動計画を策定する。

4 「総合物流施策大綱(2005−2009)」(平成17年11月15日閣議決定)

・「21世紀新農政2006」5に基づき、担い手への施策の集中化・重点化等により、経営構造の改革など国内農業の体質強化を図るとともに、農林水産物・食品の輸出促進や東アジアを視野に入れた食品産業活性化のための取組支援等の「攻めの農政」の視点に立った国際戦略を推進する。また、「森林・林業基本計画」6及び「水産基本計画」7を見直し、森林の整備・保全と林業・木材産業の再生、国際競争力のある水産業への構造改革を推進する。

5 「21世紀新農政2006」(平成18年4月4日)

6 「森林・林業基本計画」(平成13年10月26日閣議決定)

7 「水産基本計画」(平成14年3月26日閣議決定)

・ビジット・ジャパン・キャンペーンの高度化など観光立国の実現に向けた諸施策を推進し、2010年の外国人旅行者の受入れ目標(1,000万人)を確実に達成する。

・医薬品・医療機器産業の国際競争力の強化のため、治験環境の充実等を推進するとともに、平成18年度中にアクションプログラムを策定する。

・国内需要中心の産業・製品の国際展開・輸出振興に取り組む。

・産業・ビジネスの環境効率性の向上、3R8技術・システムによる資源生産性の向上、バイオマスエネルギーの導入加速化を図る。

8 3R:Reduce, Reuse, Recycle

・「対日直接投資加速プログラム」9に基づき、2010年に対GDP比倍増となる5%程度の対日投資受入れを目指す。

9 「対日直接投資加速プログラム」(平成18年6月20日)


(2) アジア等海外のダイナミズムの取り込み

・「グローバル戦略」10別添の工程表に沿ってアジア諸国を中心としたEPA交渉を進める。その結果、2010年には協定締結国との貿易額が25%以上になっていることが期待される。「東アジアEPA」構想を含め、東アジア共同体の在り方について、我が国がとるべき外交・経済戦略上の観点から、政府内で十分議論し、中長期的には、開かれた東アジア経済圏の構築に向けた経済連携の取組を進める。

10 「グローバル戦略」(平成18年5月18日)

・APECへの取組の強化に加え、東アジアにおいて、新たに、OECDのような、統計整備や貿易、投資・金融市場、産業政策、エネルギー・環境等に関する政策提言・調整機能を持つ国際的体制の構築に向け、アジア太平洋地域にわたる協力も得ながら、取り組む。

・WTO交渉の平成18年末の妥結に向け積極的に取り組む。開発ラウンドの成功に向け、「一村一品」、人づくり等「開発イニシアティブ」を通じた支援を展開する。

・「今後5年間のODA事業量について100億ドルの積み増しを目指す」との国際公約を着実に実施する。このため円借款を積極的に活用する。また、現地の実施体制の抜本的強化を図る。同時に、無償・技術協力を中心に、少なくとも公共事業について行われたような包括的な事業コスト縮減目標(例えば2010年までに15%縮減)を援助の内容等に応じ設定し、コスト削減の工程表を策定する。海外経済協力会議において、「グローバル戦略」を踏まえ新たな基本方針を早急に策定する。

・グローバル化に対応し、公正で活力ある経済社会にふさわしい制度の整備を行う。アジア等との租税条約ネットワークの充実等に取り組む。

・グローバル化に伴う競争の進展に対応し、予見可能性や手続の透明性・迅速性を高めるため、「独占禁止法」11上の問題が生じないと考えられる企業結合の範囲や輸入圧力等の評価に関する基準等につき、企業結合指針を平成18年度中に見直す。

11 「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(平成17年法律第35号)

・平成18年内の生活者としての外国人総合対策策定等、多文化共生社会構築を進める。

・国益の増進に資する世界戦略を展開するため、経済連携の推進、戦略的な援助の実施、資源・エネルギーの確保などの政府の対外的機能を、在外公館等を通じて充実させる。


(3) 「新・国家エネルギー戦略」12等を踏まえた資源・エネルギー政策の戦略的展開

12 「新・国家エネルギー戦略」(平成18年5月31日)

・省エネ対策(2030年までに少なくとも30%の消費効率改善を目指す)、運輸エネルギー次世代化(2030年までに石油依存度を80%程度とする環境を整備する)、「原子力政策大綱」13を踏まえた安全を前提とする原子力の推進(2030年前後も原子力比率30〜40%程度以上とする、高速増殖炉の早期実用化へ円滑に移行する等)、新エネ市場の拡大等、世界最先端のエネルギー需給構造の実現に取り組む。

13 「原子力政策大綱」(平成17年10月14日閣議決定)

・石油、天然ガス、鉱物資源等の総合的資源確保(2030年に石油自主開発比率40%程度を目指す等)、アジア環境・エネルギー協力、石油備蓄の機能強化等を進める。


(2)生産性の向上(ITとサービス産業の革新)

(1) ITによる生産性向上と市場創出

・「IT新改革戦略」14、「重点計画-2006」(仮称)を着実に実施する。とりわけ、5年以内の世界トップクラスの「IT経営」の実現に向け、産学官による「IT生産性向上運動」、「IT経営力指標」の策定・普及、IT人材育成等に取り組む。

14 「IT新改革戦略」(平成18年1月19日)

・「IT経営応援隊」等により、ITを活用した中小企業等の経営革新を促進する。

・10年間で約5兆円のコンテンツ市場の拡大を目指し、東京国際映画祭等の積極的拡大による国際コンテンツカーニバルの開催、IPマルチキャスト放送の著作権法上の取扱いの明確化等に取り組む。

・大量・多様な情報から必要情報を検索する等の次世代IT技術の展開を推進する。


(2) サービス産業の革新

・「日本サービス品質賞」の創設等「サービス産業生産性向上運動」を展開する。サービス6分野15の2015年までの70兆円の市場規模拡大を目指し、地域ヘルスケア提供体制の重点化等質の高い効率的なサービスの実現策等を重点的に講ずる。

15 サービス6分野:健康・福祉、育児支援、観光・集客、コンテンツ、ビジネス支援、流通・物流

・サービス産業全体の生産・雇用等の状況を月次ベースで概括的に把握できる統計を2008年度に創設するなど、サービス統計の抜本的拡充を図る。


(3) 世界最先端の通信・放送に係るインフラ・サービスの実現

・「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」16に基づき、世界の状況を踏まえ、通信・放送分野の改革を推進する。

16 「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」(平成18年6月20日)


(3)地域・中小企業の活性化(地域活性化戦略)

(1) 地域経営の活性化

・地域資源をいかした新技術開発、産業等の観光化、エコツーリズム、文化芸術、スポーツの活用等による観光振興、コミュニティビジネス振興、地産地消等を進める。地域の中核事業の育成等、5年間で地方での1,000の新事業創出等を図る。

・地域性をいかした取組に必要な道路、港湾、地域公共交通等を戦略的に整備する。

・ひとづくり・雇用創出を図る地域再生計画の実現を省庁連携により支援する「地域の雇用再生プログラム(仮称)」を策定する。

・地域活性化に向けた「立ち上がる農山漁村」の取組の推進、都市と農山漁村の共生・対流の推進、食品産業と農業・漁業などの連携強化により、農山漁村を活性化する。

・公的サービスのコストを低減・質的向上させ、地域活性化を図るため、大都市居住者の地方への定住・二地域居住等の促進を国土形成計画に位置付ける。

・5年間で4万件の新事業創出を目指す産業クラスター計画と知的クラスターを連携して推進するとともに、地域資源を活用したイノベーションを促進する。

・経済的社会的まとまりをもつ地域を単位とした総合的支援により活性化を図る。就業率や就業満足度等を総合して「就業達成度」として政策遂行の指標とする。


(2) 中小企業の活性化

・「地域資源活用企業化プログラム」を創設し、地域の中小企業の知恵とやる気をいかし、地域資源を活用した中小企業の新商品・新サービス開発等を促進する。

・「中小ものづくり高度化法」17を中核として、5年間で500のプロジェクトの成果を目指し、研究開発支援、モノ作り教育の充実等により、モノ作り中小企業の技術力の底上げを図る。

17 「中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律」(平成18年法律第33号)

・少子化等の地域経済課題に対応するため、3年間で100のモデル商店街を確立する。「改正中心市街地活性化法」18も踏まえ、中小小売商業に重点支援を講ずる。

18 「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律の一部を改正する等の法律」(平成18年法律第54号)

・中小企業の再生・再起業、女性・高齢者をいかした事業展開等を支援する。


(3) 都市再生・中心市街地活性化

・公園等の緑の創出など良好な都市空間の創造、不動産投資市場の拡大等を通じて、都市の成長力を高めるとともに、様々な担い手の自主性と創意工夫に富んだ全国都市再生を進める。また、都市部における地籍整備を推進する。

・「中心市街地活性化本部」を早急に設置するなど、コンパクトでにぎわいあふれるまちづくりを進める。


(4)改革の断行による新たな需要の創出

 イノベーションによる需要の創出に加え、官業の民間開放や規制改革といった改革努力により新たな需要を創出する。

・「公共サービス改革法」19を着実に運用するとともに、PFIの一層の活用を推進する。

19 「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(平成18年法律第51号)

・構造改革特区制度の見直しの中で、規制改革を一層推進するとともに、地域の創意工夫を高める取組を強化し、次期通常国会に改正法案を提出する。

・民間企業や非営利法人を公的サービスの主体とするための環境整備を行う。


(5)生産性向上型の5つの制度インフラ

(1) ヒト:「人財立国」の実現(世界的「ブレイン・サイクル」の取り込み)

・学習指導要領改訂、全国的な学力調査、習熟度別・少人数指導、能力・実績に見合った教員の処遇等により教育の質の向上を図り、2010年までに国際学力調査における世界トップレベルを目指す。

・「人間力」「社会人基礎力」の養成強化、競争的資金の研究促進のための人件費への活用等による産学双方向の人材流動化、官官・官民の水平移動を進め、競争的資金の拡充、研究・技術人材の育成、健全性を確保した奨学金事業の充実を図る。

・若者、女性、高齢者、障害者を含めた多くの人の意欲と能力をいかした就業参加等を促す。高等教育の教育研究資金の確保、第三者評価に基づく重点投資を図る。

・産学連携による実践的教育・訓練、地元企業技術者等を活用した理科授業やキャリア教育を推進する。産学の協力による「2007年ユニバーサル技能五輪国際大会」を契機として、ものづくりに対する若者等の関心を高める。

・2010年までに世界トップレベルの研究拠点を整備する(30拠点程度)とともに、大学院教育の抜本的強化を図る。

・外国人留学生制度の充実を図るとともに、我が国とアジア等との若者レベルの人材交流を進める(「アジア人財資金(仮称)」構想の具体的事業の検討)。優れた外国人研究者・技術者等の高度人材の受入れ拡大に加え、現在専門的・技術的と評価されていない分野の受入れについて、その問題点にも留意しつつ検討する。研修・技能実習制度の見直し、在留管理の強化を図る。


(2) モノ:生産手段・インフラの革新

・国際競争力の強化等の観点から、生産手段の新陳代謝を加速する。

・国際競争力強化等に資する社会資本について、中長期的に見た我が国経済社会の姿を念頭に、ストックの重要性・必要性も踏まえ、真に次世代に必要な整備を重点的・効率的・戦略的に行うとともに、適切な維持管理・更新を効率的・戦略的に行う。


(3) カネ:金融の革新

・平成18年度中の電子債権の法的枠組みの具体化を目指す。資産評価データベースの整備など在庫や売掛債権の適切な担保評価に向けた環境整備を促すとともに、今後の実務動向を注視しつつ、在庫や売掛債権のより高度で厳正な評価を前提に、適格担保化の可能性について検討する。中小企業向け貸出債権の流動化支援の強化を図る。金融商品取引法制の円滑な施行や適切な運用を行う。

・国際的に最高水準の証券取引所システムを構築するとともに、証券取引等監視委員会等の機能強化・体制整備、市場参加者のモラルと責任ある行動の確保に向けた自主規制機関との連携強化等を通じて市場監視機能を強化する。

・我が国がアジアの資金循環の中核となるよう、国内金融拠点の整備をはじめ、日本型預託証券(JDR)の活用促進等、取組を強化する。高度金融人材の育成推進のため、金融工学に関する教育を行う専門職大学院等の充実の促進、国民一人一人への金融経済教育の充実を図る。


(4) ワザ:技術革新

・イノベーションの連続的な創出を促進するため、産学官協働による革新的研究開発の促進・異分野融合の場の構築、革新的ベンチャーの育成等を行う。

・世界最速の特許審査の実現(2013年:審査待ち期間を11か月に短縮)、「模倣品・海賊版拡散防止条約」(仮称)の早期実現など、知的財産保護を更に強化する。

・国際標準化を世界でリードできる体制を2015年までに整備する。


(5) チエ:経営力の革新

・三角合併、信託制度、公正なM&Aルールなど組織再編等の制度基盤を作る。

2.民の力を引き出す制度とルールの改革

 規制改革等を通じ、民間活力を十分引き出すと同時に、公正で透明な市場を確立し市場活力の維持と向上を図る。


(1)規制改革

・国の法令に関連する規制(通知・通達等を含む)について、各府省において平成18年度中に法律ごとの見直し年度・見直し周期を公表するとともに、見直し基準に基づき、平成19年度以降必要な見直しを行う。

・国と地方を通じた規制の合理化を進めることとし、国民の利便性の向上等の観点から抜本的な見直しを行う。

・教育委員会制度については、十分機能を果たしていない等の指摘を踏まえ、教育の政治的中立性の担保に留意しつつ、当面、市町村の教育委員会の権限(例えば、学校施設の整備・管理権限、文化・スポーツに関する事務の権限など)を首長へ移譲する特区の実験的な取組を進めるとともに、教育行政の仕組み、教育委員会制度について、抜本的な改革を行うこととし、早急に結論を得る。

・今までの規制改革等の成果についてフォローアップを行うとともに、関係する推進組織間の連携を強化する。また、規制改革等全体の推進体制について検討することとし、平成18年度中に成案を得る。


(2)市場活力や信頼の維持と向上

(企業のガバナンス)

・適切な情報開示の確保や市場監視機能の充実といった市場規律を高める観点から、四半期報告制度を円滑に実施するとともに、平成21年に向けた国際的な動向を踏まえ、会計基準の国際的な収斂の推進を図る。

・公認会計士監査の強化に向けた方策について平成18年内を目途に検討を行う。

・「会社法」20、「金融商品取引法」21における内部統制に関する制度の円滑な実施を図るとともに、その実施状況も踏まえ、企業のガバナンス強化に向けた環境整備に取り組む。

20 「会社法」(平成17年法律第86号)

21 「証券取引法等の一部を改正する法律」(平成18年法律第65号)

・ファンドを含む広範な規制対象業者に対し、「金融商品取引法」等の新たなルールの適切な運用のための体制整備を図り、厳格かつ適切な検査・監督を実施する。


(競争政策の一層の厳格化)

・カルテル・入札談合を排除し、経済取引における競争環境を一層向上させるために、改正後の「独占禁止法」に基づき執行の強化を図るとともに、課徴金制度に係る制度の在り方、審査・審判手続の在り方、優越的地位の濫用、不当廉売などの不公正な取引方法に対する措置の在り方等の問題に関する「独占禁止法」上の課題について1年後を目途に結論を得て、法改正の必要性を検討する。


(3)公を支えるシステム改革

(消費者団体訴訟制度)

・消費者団体訴訟制度については、平成19年央からの改正後の「消費者契約法」22の施行状況を踏まえつつ、「独占禁止法」、「景品表示法」23における導入について検討し、平成19年までに一定の結論を得る。また、「特定商取引に関する法律」24等における導入について検討を進める。

22 「消費者契約法」(平成18年法律第56号)

23 「景品表示法」(平成15年法律第45号)

24 「特定商取引に関する法律」(平成16年法律第44号)


(消費者基本計画)

・「消費者基本計画」25については、毎年、PDCAサイクルの考え方を踏まえた検証、評価、監視を着実に行い、基本計画に盛り込まれた施策を強力に推進する。

25 「消費者基本計画」(平成17年4月8日閣議決定)


(公益法人制度改革とNPO等の活動促進)

・公益法人に関する新しい制度が平成20年度から円滑に施行されるように、早期に、内閣府に有識者からなる合議制の委員会を設置する。また、制度の詳細設計については、広く国民の意見を聴取した上で当該委員会の審議を経て策定する。上記制度の詳細設計を踏まえ、法施行までに公益法人に関する所要の税制上の措置を講ずる。

・多様化する社会のニーズや課題にきめ細かく対応し得るNPO活動の将来像を見極めつつ、様々な分野におけるNPOの活動促進を図るための取組を着実に実施する。特定非営利活動法人については、公益法人制度改革も踏まえつつ、制度の見直しについて検討し、平成19年夏目途に結論を得る。


第3章 財政健全化への取組

1.歳出・歳入一体改革に向けた取組

(1)歳出・歳入一体改革の基本的考え方

(1) 国民に対する責任ある対応

・次世代を担う子どもたちに、新たな発展の基盤を引き継ぎ、過度な負担を残さないようにすることは、最重要の課題である。将来にわたり経済社会が活力を維持していくための基盤を確固たるものとすると同時に、財政の健全化に向けて必要な改革をゆるぎなく推進していかなければならない。

・財政健全化は国民全体の課題であり、歳出改革・歳入改革の「全体像」を一体的かつ中長期的視点から分かりやすく示し、国民への説明責任を果たす必要がある。


(2) 小泉内閣における財政健全化努力の維持・強化

・小泉内閣は、「改革なくして成長なし」との考え方の下、構造改革と財政健全化への取組を堅持し、民需主導の景気回復を実現した。同時に基礎的財政収支の大幅改善などの成果を上げた。

・こうした考え方と成果を踏まえ、経済と財政を一体のものと捉える「経済・財政一体改革」の考え方の下、「新たな経済成長戦略」を推進し、財政健全化の努力を今後とも継続していくことが改革の基本である。


(3) 成長力強化と財政健全化の両立

・少子高齢化が進展し、また、国際競争が激化する中にあって、子どもたちが将来に夢を持てる社会、安全・安心な社会、誰でも再チャレンジが可能な社会、活力ある地域社会の再生などを実現していけるかどうかは、今後とも好調な経済を持続できるかどうかにかかっている。そのためには、潜在成長力を高め、それを民間需要中心の持続的な経済成長につなげていくことが何よりも重要である。

・一方、我が国の財政状況を見ると、国・地方を合わせた長期債務残高が先進国中最悪の水準にあるなど極めて厳しい状況にあるのも事実である。これを放置すれば、将来世代への負担の先送りという世代間格差の問題を深刻化させ、また、財政の持続可能性に対する疑念の高まりが経済成長自体を阻害するおそれもある。早急にこの問題の解決に向けた国としての方針を内外に明らかにし、財政再建に向けた具体的な改革を着実に前進させていく必要がある。

・成長力強化と財政健全化の双方を車の両輪とするバランスの良い経済財政運営を、一貫性をもって継続的に行っていく必要がある。


(4) マクロ経済への配慮と柔軟性

・経済の持続的成長と財政健全化を両立させるため、経済が大きく減速する場合には、財政健全化のペースを抑えるなど、柔軟性をもった対応を行う。

・潜在成長力の向上などにより税の自然増収がある場合には、財政規律を堅持しつつ適切に対応する。


(5) 堅実性(プルーデンス)の重視

・成長力強化の取組に当たっては、高めの成長を目指す一方、財政健全化の取組は、国民や市場からの信認を確保すべく、名目成長率3%程度の「堅実な経済前提」に立つ。


(2)財政健全化の時間軸と目標

 小泉内閣の財政健全化(2001〜06年度)を第I期と位置付けた上で、第II期、第III期の時間軸と目標を以下のように設定し、財政健全化に一貫性を持って継続的に取り組んでいく。


財政健全化第II期(2007年度〜2010年代初頭)

(財政健全化の第一歩である基礎的財政収支黒字化を確実に実現)

・第I期と同程度の財政健全化努力を継続し、2011年度には国・地方の基礎的財政収支を確実に黒字化する。

・財政状況の厳しい国の基礎的財政収支についても、できる限り均衡を回復させることを目指し、国・地方間のバランスを確保しつつ、財政再建を進める。

・地方については、国と歩調を合わせた抑制ペースを基本として歳出削減を行いつつ、歳入面では一般財源の所要総額を確保することにより、黒字基調を維持する。


財政健全化第III期(2010年代初頭〜2010年代半ば)

(持続可能な財政とすべく、債務残高GDP比の発散を止め、安定的引下げへ)

・基礎的財政収支の黒字化を達成した後も、国、地方を通じ収支改善努力を継続し、一定の黒字幅を確保する。その際、安定的な経済成長を維持しつつ、債務残高GDP比の発散を止め、安定的に引き下げることを確保する。

・国についても、債務残高GDP比の発散を止め、安定的に引き下げることを目指す。


(3)改革の原則と取組方針

 第II期、第III期を通じ、以下の原則とそれに基づく取組方針に沿って、一貫して財政健全化に取り組み、選択肢を踏まえつつ、歳出・歳入両面における具体策を実行する。

原則1 「徹底した政府のスリム化で国民負担増を最小化する」

・歳出削減、資産売却、特別会計改革等に最大限の取組を行い、必要となる国民負担増をできる限り圧縮する。

原則2 「成長力を強化し、その成果を国民生活の向上と財政健全化に活かす」

・潜在成長力の強化を通じて実質成長力の向上に努め、その成果により、国民生活の向上を図り、将来世代を含む国民負担増を圧縮する。

原則3 「優先度を明確化し、聖域なく歳出削減を行う」

・特別会計、独立行政法人等を含め、聖域なき歳出削減・合理化を実行する。その際、優先度を明示し、一律的な歳出削減方式を排す。

原則4 「国・地方間のバランスのとれた財政再建の実現に向けて協力する」

・国・地方それぞれの財政健全化目標に向け、国と地方の相互理解の下でその実現のために協力する。

原則5 「将来世代に負担を先送りしない社会保障制度を確立する」

・受益と負担の世代間格差を緩和し、持続可能な社会保障制度を確立するため、社会保障給付の更なる重点化・効率化を推進する。

・2010年代半ばに団塊世代が本格的な受給世代となることなど、年金、医療、介護等の社会保障費の中長期的な推移を展望しつつ、基礎年金国庫負担割合の2分の1への引上げに要する財源を含め、社会保障のための安定財源を確保し、将来世代への負担の先送りを止める。その際、国民が広く公平に負担し、かつ、経済動向等に左右されにくい財源とすることに留意する。また、そうした特定の税収を社会保障の財源として明確に位置付けることについて選択肢の一つとして検討する。

原則6 「資産圧縮を大胆に進め、バランスシートを縮小する」

・最大限の資産債務の圧縮を進める。資産売却収入は原則として債務の償還に充当し(ストックはストックへ)、債務残高の縮減に貢献する。また、資産債務を両建てで縮減し、金利変動リスクを軽減する。地方にも同様の改革を要請する。

・適切な公債管理政策を推進する。また、財政健全化をフロー、ストック両面から的確に管理・評価するための公会計制度を計画的に導入・整備する。

原則7 「新たな国民負担は官の肥大化には振り向けず、国民に還元する」

・国・地方を通じて歳出削減を徹底した上で、必要と判断される歳入増については、これを実現するための税制上の措置を講ずる。その際、「新たな国民負担は官の肥大化には振り向けず、国民に還元する」との原則を徹底する。


(4)第II期目標の達成に向けて

(1) 財政健全化に当たっての考え方

・財政健全化を考えるに当たっては、経済の見通しに関し、過度の楽観視も悲観視もすることなく、名目経済成長率3%程度の堅実な前提に基づいて、必要な改革措置を講ずることとする。

・この前提の下で、2011年度に国・地方の基礎的財政収支を黒字化するために必要となる対応額(歳出削減又は歳入増が必要な額)は、16.5兆円程度と試算される。この数字は、現時点における目標達成の目安というべきものである。

・経済社会情勢の変化に適切に対応しながら、基礎的財政収支を黒字化するという目標を達成していくためには、歳出改革の内容についてある程度の幅をもって対応していく必要があるが、上記の数量的な目安の下に、5年間の改革工程を念頭に置きながら、確実に目標達成に必要な措置を実施していくことが重要である。

・歳出削減を行ってなお、要対応額を満たさない部分については、歳出・歳入一体改革を実現すべく、歳入改革による増収措置で対応することを基本とする。これにより、市場の信認を確保する。

・なお、要対応額に応じた歳出削減や歳入改革を行う際に、それが経済成長にマイナスの影響を及ぼし、当初想定した税収が実現できなくなることも懸念される。

・この意味で、財政健全化を着実に推進していくためにも、高めの成長を目指した経済成長戦略は不可欠の政策対応であり、両者を車の両輪として、一体的に進めていくことが肝要である。


(2) 歳出改革

i.歳出改革に向けた基本姿勢

・国・地方の歳出に無駄や非効率を放置したまま、負担増を求めることについて国民の理解を得ることは困難である。

・2011年度に基礎的財政収支の黒字化を達成することを目標にするということは、歳出削減が不徹底ならば、その分だけ国民負担が増加するということに他ならない。過去5年間の改革実績も踏まえながら、ゼロベースから聖域なく歳出を見直すことによって、国民負担の増加をできるだけ小さなものとするために最善の努力を尽くすことを基本方針とする。

・このような考え方の下に、機械的に歳出を一律に削減するという手法ではなく、制度的な見直しにまで立ち入った、徹底した歳出の見直しを行い、国民生活への影響も十分に吟味しつつ、メリハリのある歳出改革を行う。

ii.各分野における歳出改革の具体的内容


   別紙


iii.歳出改革内容の定期的な見直し(ローリング)

・上記iiの歳出改革の内容を2007年度からの5年間に計画的に実施していく必要がある。

・しかしながら、中期的な経済成長率や税収動向を正確に予見することは困難であり、その時々の経済社会情勢に配慮しつつ、基礎的財政収支の黒字化目標の達成に向けた現実的な対応をとるため、2011年度までにとるべき歳出改革の内容について、毎年度、必要な検証・見直しを行っていくこととする。


(5)歳入改革

・今回、2011年度に国・地方合わせた基礎的財政収支の黒字化を達成するために策定した要対応額と歳出削減額との差額については、税本来の役割からして、主に税制改革により対応すべきことは当然である。

・税は国民に負担を求めるものであるため、その時々において、税体系が全体として公正なものと国民に理解され、納得されるものでなければならない。他方、税制は、一定の政策目的の実現に資する役割も求められる。

 今後、中長期的に、我が国税制に求められる主な基本的あるいは政策的課題は、

(1) 歳出では、社会保障給付の顕著な増加が見込まれることから、その財源を安定的に確保すること。特に、2009年度における基礎年金国庫負担割合引上げのための財源を確保すること、

(2) 経済のグローバル化の中で、我が国経済の国際競争力を強化し、その活性化に資すること、

(3) 急速な少子化の進行に対応し、子育て支援策等の充実に資すること、

(4) 地方分権を一層推進するため、地方税源の充実を図ること、

 であると考えられる。

 なお、上記の課題にこたえる税制の構築に当たっては、国民の所得や地域の格差、経済社会活動による環境への影響、税制の頻繁な変更による経済取引の混乱回避に留意する必要がある。

・これらの要請にこたえるには、税体系全般にわたる抜本的・一体的な改革が必要となる。その結果、増収及び減収がともに生じるが、ネットベースで所要の歳入を確保することが必要である。特に、社会保障給付の安定的な財源を確保するために、消費税をその財源としてより明確に位置付けることについては、給付と財源の対応関係の適合性を検討する。

・税制はまさに制度であり、歳出、特に裁量的経費を増減する場合と異なり、税収のために制度の微細な調整を行うことは極めて難しい。また、税収は民間活動に依存しており、あらかじめその額を正確に予測することは困難である。

 他方、今回の歳出・歳入一体改革では、当面2011年度に基礎的財政収支の黒字化が求められているが、それが達成できたとしても、その後、さらに国・地方それぞれの債務残高GDP比を発散させず、安定的に引き下げることが必要とされている。

 これらを考えれば、今後の税制改革では、2011年度単年度における目標が達成されさえすればよいというのではなく、改革後の税制が構造的持続的に上記の中長期的な目標を達成し得る体質を備えなければならない。

・税制改革は税体系の中で、広くかつ多岐にわたるものであり、全体としてできるだけ早期の実施を基本としつつも、経済社会の動向、税収の推移、歳出改革の進捗状況等を的確に判断し、それぞれの改革の実施について最善の時期を選択すべきである。なお、景気動向を注視し、必要があれば、政府・与党の決断により、機動的・弾力的に対応するものとする。

・以上を踏まえた税制改革については、「基本方針2005」において、「重点強化期間26内を目途に結論を得る」とし、また、与党税制改正大綱において、「平成19年度を目途に消費税を含む税体系の抜本的改革を実現する」としており、今後、この考え方に沿って鋭意作業を進めていくこととする。

26 「重点強化期間」とは、「平成17年度及び平成18年度」のことを指す。


(6)第III期における歳出・歳入一体改革

 長期的な目標やあるべき姿を考えつつ、当面の対応を行っていくことは重要である。ただし、その際、一定の幅をもってみることが必要である。


(1) 改革の基本的な方針

・我が国の財政は、基礎的財政収支が黒字化しても、利払い費を含めた財政収支の赤字は依然として大幅なもの(GDP比3〜4%程度)となり、金利変動に対し脆弱な状況が続く。債務残高GDP比の発散経路からの早期脱却は不可避の課題である。

・また、いわゆる団塊の世代が基礎年金受給世代となり、年金はもとより、老人医療、介護等の社会保障費の増加が見込まれることから、社会保障の効率化と持続可能性の確保も大きな課題である。

・(2)で述べた第III期目標の実現に向け、第II期との連続性を確保しつつ、一貫性をもって歳出・歳入一体改革に取り組む必要がある。あわせて、社会保障のための安定財源を確立し、将来世代への負担の先送りから脱却することを目指す必要がある。


(2) 中長期的な「選択肢」について

・第II期における取組との連続性を踏まえつつ、第III期の目標達成に向け、国・地方及び国・地方それぞれの一定の基礎的財政収支の黒字幅を念頭に置いた歳出・歳入両面の改革の組合せが中長期的な歳出・歳入一体改革の「選択肢」となる。

・その際、「国のかたち」を分かりやすく示す観点から、まずは政府の支出規模のGDP比に着目して検討することが考えられる。また、社会保障のための安定財源確保の観点からも検証する必要がある。

・政府の支出規模については、第II期において最大限の歳出削減努力が行われることや行政サービス水準に対する国民意識を踏まえ、様々な選択肢が考えられる。

・歳入面では、歳出面での対応とあわせ目標達成が可能となる収支改善努力を行うことが必要である。その際、両者をあわせた努力の大きさについては、安定的な経済成長を維持しつつ、債務残高GDP比の発散を止め、安定的に引き下げることが確保されるようにする必要がある。


(7)今後の取組

 以上の方針に沿って、歳出・歳入一体改革の具体化を推進する。

2.「簡素で効率的な政府」への取組

(郵政民営化の確実な実施)

・「郵政民営化法」27の基本理念に従い、平成19年10月からの郵政民営化を円滑・確実に実施する。

27 「郵政民営化法」(平成17年法律第97号)


(政策金融改革の推進、独立行政法人の見直し)

・政策金融改革については、「行政改革推進法」等28に基づき、平成20年度の新体制への移行に向けて着実に進める。独立行政法人については、「当面の独立行政法人の見直しの基本的方向について」29を踏まえつつ、業務・組織全般の見直しに取り組む。

28 「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(平成18年法律第47号)及び「政策金融改革に係る制度設計」(平成18年6月27日)

29 「18年度以降当面の独立行政法人の見直しの基本的方向について」(平成18年5月23日)


(不交付団体の拡大等)

・例えば人口20万人以上の市の半分などの目標を定めて、交付税に依存しない不交付団体の増加を目指す。また、地方団体の財政運営に支障が生じないよう必要な措置を講じつつ、簡素な新しい基準による交付税の算定を行うなど見直しを図る。


(資産・債務改革)

・「行政改革推進法」に基づき、平成27年度末に国の資産規模対GDP比の半減を目指し、国の資産を約140兆円規模で圧縮する。

・国有財産については、一般庁舎・宿舎、未利用国有地等の売却・有効活用、民営化法人に対する出資等の売却に努め、今後10年間の売却収入の目安として約12兆円を見込む。さらに、情報提供を徹底し、PFIを積極的に活用するなど、民間の知見を活用した有効活用(フル・オープン化を含む)を推進する。

・さらに、財政融資資金貸付金については、財投改革の継続に加えて、対象事業の一層の重点化・効率化、「行政改革推進法」等に基づく諸改革への適切な対応、政府保証の一段の活用、既往の貸付金・保有有価証券の売却・証券化等によるオフバランス化により、今後10年以内であわせて130兆円超の圧縮を実現する。

・既往の貸付金等の売却・証券化等によるオフバランス化についても民間の専門家の知見を活用して、メリットがコストを上回る場合、積極的に実施する。

・経済財政諮問会議の下にある専門調査会が、資産・債務改革の実現のための具体的方策について、9月を目途に諮問会議に報告し、その後この専門調査会に、中立的な金融の専門家等民間有識者を加え、有識者会議として改組し、資産・債務改革の実施状況について公正中立な立場からチェック、フォローする。


(資産・債務の管理に必要な公会計制度の整備)

・資産・債務の管理に関し、政府においてこれまでに整備されてきた財務書類の一層の活用を図るとともに、国、地方、独立行政法人等の財務情報の整備を一体的に推進する。


(特別会計改革の推進等)

・公会計制度について複式簿記のシステム化の検討を行うなどその整備を促進するとともに、財務書類の公表を迅速化させ分析・活用を図る。地方には、国の財務書類に準拠した公会計モデルの導入に向けて、団体規模に応じ、従来型モデルも活用しつつ、計画的に整備を進めるよう要請する。

・「行政改革推進法」に沿って特別会計改革を平成18年度から5年間を目途に計画的に推進する。統合した場合については、統合メリットを最大限に引き出し、一般会計に吸収又は独立行政法人化した場合については、歳出を実質的に増加させないものとする。

・道路特定財源について、同法に基づき、一般財源化を図ることを前提に、早急に検討を進め、納税者の理解を得つつ、年内に具体案を取りまとめる。


(予算制度改革)

・成果目標(Plan)―予算の効率的執行(Do)―厳格な評価(Check)―予算への反映(Action)を実現する予算制度改革を定着させるため、「成果重視事業」や「政策群」の取組を引き続き進める。

・また、政策ごとに予算と決算を結び付け、予算とその成果を評価できるようにする仕組みについて、引き続き予算書・決算書の見直しを行い、平成20年度予算を目途に実施する。

・さらに、各府省は、連結財務書類や成果目標の達成状況及び所管する特別会計の改革の進捗状況等の財務情報等が一覧できるよう平成18年度から公表する「年次報告書」(仮称)などにより情報公開を推進する。


(「公共サービス改革法」に基づく市場化テストの早期本格的導入)

・統計調査の市場化テストのための法的措置を次期通常国会において講ずる等、国・地方ともに競争の導入による公共サービスの改革を推進する。


(ITの活用による行政の簡素化、効率化)

・「IT新改革戦略」に基づき、政府の取組状況の評価を行いつつ、業務・システムの改革等を進め、国民の利便性向上と行政運営の簡素化・効率化等を図る。


(統計制度改革)

・統計整備の「司令塔」機能の中核を成す組織を内閣府に置くこととし、同組織は、基本計画の調査審議や内閣総理大臣等への建議等を行う統計委員会(仮称)として設置する方向で検討する。統計法制度を抜本的に改革するための法律案を次期通常国会に提出するとともに、「基本方針2005」に基づく統計整備を進める。あわせて、統計の構造改革の推進や市場化テストの導入・民間開放等により、既存の統計部門のスリム化を推進する。


(官民の人事交流の強化・拡大)

・官民の人事交流については、更に環境整備に努め、交流を強化し、幹部級は、業務内容に応じ数値目標を掲げた推進を目指す。


(「道州制特区」の推進)

・道州制特区推進法案の成立を期す。


第4章 安全・安心の確保と柔軟で多様な社会の実現

 経済成長の果実を有効に活用し、21世紀型の「穏やかで豊かな日本社会」を拡大均衡の中で構築していく。そのため、社会保障制度の総合的改革、再チャレンジ支援、政府・与党で取りまとめた総合的な少子化対策、さらには個人や地域の生活におけるリスクへの対処と豊かな生活に向けた環境整備などの施策を推進するとともに、PDCAサイクルを厳格に実施し、安全・安心を一層強固にすると同時に、柔軟で多様な社会を実現するよう取組を進める。

1.社会保障制度の総合的改革

(社会保障の一体的見直し)

・少子高齢化が進展する中で、将来にわたり持続可能な社会保障制度を構築するためには、給付と負担両面から見直しを図るとともに、経済・財政とバランスのとれたものとすることが必要である。このため、「社会保障の在り方に関する懇談会」の取りまとめ30も踏まえ、個々の制度やその一部のみならず、税・財政なども視野に入れて、自助・共助・公助や税・保険料の役割分担、世代間・世代内の公平性等に留意しつつ、社会保障制度全体を捉えた一体的見直しを推進する。

30 「今後の社会保障の在り方について」(平成18年5月26日)

・社会保障の給付については、これまでの制度改革の効果を検証しつつ、中長期的な展望に立って、改革努力を継続し、国民が負担可能な範囲となるよう不断の見直しを行う。また、社会保障のための安定的な財源を確保し、将来世代への負担の先送りをやめる。

・社会保障分野のIT化については、「IT新改革戦略」により設定された目標の達成に向け、PDCAサイクルを着実に実施する。

・社会保障番号の導入など社会保障給付の重複調整という視点からの改革などについても検討を行う。また、社会保障個人会計(仮称)について、個々人に対する給付と負担についての情報提供を通じ、制度を国民にとって分かりやすいものとする観点から、検討を行う。


(医療)

・医療制度改革の着実な実施に努め、小児科・産科等の診療科や地域における医師の確保・偏在への対応、夜間・救急医療体制の整備、看護職員の確保やその養成の在り方の検討等医療提供体制の整備を進める。また、地域医療を担う関係者の協力を得つつ、生活習慣病対策、長期入院の是正等、実効性のある医療費適正化方策を国、都道府県及び保険者が共同して計画的に推進する。

・医療サービスの標準化、レセプト完全オンライン化等総合的なIT化の推進、患者特性に応じた包括化・定額払いの拡大等新たな診療報酬体系の開発、保険者機能の強化、終末期医療の在り方の検討など、医療サービスの質の向上と効率化を推進する。

・「健康フロンティア戦略」やライフサイエンス研究の一層の推進を図る。「がん対策基本法」31に基づき、がん対策推進基本計画を作成し、がんの予防と早期発見、緩和ケアの推進、専門医等の育成、医療の均てん化、研究等を推進する。また、医薬品・医療機器の承認審査の迅速化、市販後安全対策の充実、後発医薬品市場の育成を図る。

31 「がん対策基本法」(平成18年法律第98号)


(年金)

・基礎年金国庫負担割合については、年金制度の長期的な給付と負担の均衡を確保しつつ、「平成16年改正法」32に基づき、所要の安定的な財源を確保する税制の抜本的な改革を行った上で、2009年度までに2分の1に引き上げるものとする。また、被用者年金制度の一元化については、「被用者年金制度の一元化等に関する基本方針」33に基づき、推進する。

32 「国民年金法等の一部を改正する法律」(平成16年法律第104号)

33 「被用者年金制度の一元化等に関する基本方針」(平成18年4月28日閣議決定)


(介護その他)

・介護保険制度改革を円滑に実施する観点から、介護予防の推進、療養病床の転換支援を含む地域ケア体制の整備、総合的な認知症対策の確立等を図る。

・診断・療育手法の確立や地域支援体制の整備など発達障害児・者に対する専門的な支援を推進する。


(社会保険庁改革)

・年金制度等の運営主体や事業実施に対する国民の信頼を確保する観点から、社会保険庁の徹底した改革を断行し、内部統制の強化、制度の適用の厳格化、保険料収納対策の強化など、法令に基づく適切な事業執行体制を確立するとともに、事業運営の一層の効率化を図る。

2.再チャレンジ支援

 国民一人一人がその能力や持ち味を十分発揮し、努力が報われる公正な社会を実現していくため、「勝ち組、負け組」を固定させない、人生の各段階で多様な選択肢が用意されている仕組みを構築すべく、以下をはじめとする、「再チャレンジ可能な仕組みの構築」34に盛り込まれた施策を推進する。あわせて、「人財立国」に向けた取組を進める。

34 「再チャレンジ可能な仕組みの構築(中間取りまとめ)」(平成18年5月30日)


(1)人生の複線化による柔軟で多様な社会の仕組みの構築

(働き方の複線化)

・新卒者以外に広く門戸を拡げる複線型採用の導入や採用年齢の引上げについての法的整備等の取組、30〜40歳程度のフリーター等にも国家公務員への就職機会を提供する仕組みの構築等により、新卒一括採用システムの見直しを進める。

・有期労働契約を巡るルールの明確化、パート労働者への社会保険の適用拡大や均衡処遇の推進等の問題に対処するための法的整備等や均衡ある能力開発等の取組を進め、正規・非正規労働者間の均衡処遇を目指す。


(学び方の複線化)

・大学等における実践的な教育コースの開設等の支援、再就職等に資する学習機会を提供する仕組みの構築等、社会人の学び直しを可能とする取組を進める。


(暮らし方の複線化)

・団塊世代・若者等の農林漁業への就業支援、人材誘致・移住促進等の地域における人材の受入れ体制の整備等、U・Iターンを支援する。

・地域再生・構造改革特区による府省連携の施策群の策定、住民、企業等が行政と協働するための場の設置等、地域の創意・工夫による取組を支援する。


(2)個別の事情に応じた再チャレンジ支援

(努力する意欲はあるが、困難な状況に直面している人の再チャレンジ支援)

・経営者の資質や事業の見込み等に基づく政府系金融機関の融資等の枠組みの創設、政府系金融機関による融資における第三者保証人の非徴求の徹底・拡大等、新設の再チャレンジプランナーの相談・助言等により、事業に失敗した人、リストラ等で退職した人を支援する。

・各府省による障害者の受入実習事業の実施、発達障害者の就労支援、自立支援のためのネットワーク構築等、障害者や病気等になった人を政府一体で支援する。

・貸金業制度等の在り方についての必要な施策実現に向けた対応を行う等、多重債務の防止・救済に取り組む。また、違法な経済取引の被害者救済のため、被害財産の返還による損害回復等の枠組みを検討し、平成19年末を目途に結論を得る。

・刑務所等の施設退所者等の自立更生を促進するため、センター機能を有する就労支援体制を設け、よりマッチング度の高い就労斡旋等を行う。


(新たなチャレンジを目指す若者、女性、高齢者等の支援)

・「年長フリーター」等に対するキャリアコンサルティングの実施、能力や業界の求める条件に即した訓練コースの開発実施等、若者を支援する。

・放課後や週末等における地域の中での学習機会の提供、母子家庭の養育費確保の取組、施設等の子どもの就職時の不利を防ぐ仕組みの整備等、子どもを支援する。

・「女性の再チャレンジ支援プラン」35を推進・強化し、身近な場や家庭での学習支援等、女性を支援する。

35 「女性の再チャレンジ支援プラン」(平成17年12月26日)

・退職教員、研究者、海外勤務経験者等の小学校等への配置・派遣等、介護や育児等の分野の簡易資格制度(サポーター)の創設等、高齢者・団塊世代を支援する。

3.総合的な少子化対策の推進

 昨年、我が国では、総人口が減少に転ずる人口減少社会が到来し、出生数は106万人、合計特殊出生率も1.25と過去最低を記録した。急速な人口減少は、経済産業や社会保障の問題にとどまらず、国や社会の存立基盤にかかわる問題である。出生率の低下傾向の反転に向け、少子化の背景にある社会意識を問い直し、生命を次代に伝えはぐくむことや家族の重要性の再認識を促し、また、若い世代の不安感の原因に総合的に対応するため、「新しい少子化対策について」36に基づき、少子化対策の抜本的な拡充、強化、転換を図ることが必要である。

36 「新しい少子化対策について」(平成18年6月20日)

 具体的には、次の施策を推進する。

(1)次の考え方を踏まえ、「子ども・子育て応援プラン」37の着実な推進にあわせ、妊娠・出産から高校・大学生時まで子どもの成長に応じた総合的な子育て支援策と働き方の改革を推進する。

37 「子ども・子育て応援プラン」(平成16年12月24日)

(1) 子育て家庭を、国、地方公共団体、企業、地域等、社会全体で支援する。

(2) すべての子育て家庭を支援し、在宅育児や放課後対策も含め地域の子育て支援を充実する。

(3) 仕事と子育ての両立支援の推進や男性を含めた働き方の見直しを図る。

(4) 出産前後や乳幼児期において、経済的負担の軽減を含め総合的な対策を講ずる。

(5) 子どもの安全確保や出産・子育て期の医療ニーズに対応する体制の強化、特別な支援を要する子ども及びその家族への支援を拡充する。

(2)社会の意識改革を進めるため、家族・地域の絆を再生する国民運動を展開する。

 少子化対策は国の基本にかかわる最重要政策課題であるとの認識の下、関係府省が連携して諸施策の具体化を図り、推進する。

4.生活におけるリスクへの対処

 我が国は地震等の自然災害が発生しやすい脆弱な国土構造を有しており、近年では台風や集中豪雨の頻発、大雪等により各地で被害が発生しているほか、住宅火災による死者数も増加傾向にある。他方、都市化の進行や高齢化の進展に伴い災害対応力が低下している。また、国民生活に看過しがたい不安を与えている犯罪や痛ましい事件が続発しているとともに、企業における倫理観の欠如や安全管理意識の後退を思わせるような出来事も相次いでいる。

 国民の安全と安心の確保は、政府の最も重要な責務の一つであるとともに、我が国の経済活性化の基盤である。新たな時代展開の下での役割分担と協力関係を官民挙げて構築しつつ、生活における様々なリスクに対処する必要がある。

 このため、国民、地域、企業、NPO、ボランティア等と協力しつつ、災害への備えを実践する国民運動を広く展開しながら、防災・減災対策を戦略的・重点的に進める。その際には、国際的な協調・連携を図る。また、犯罪の国際化に対処しつつ、「世界一安全な国、日本」の復活に向けた治安再生を強力に推進する。加えて、ITの活用、安全に資する科学技術の総合的な推進、高齢者、障害者等に配慮したバリアフリー社会の実現、公共交通の安全対策の徹底及び住まいや食の安全の確保に向けた取組等を進める。さらに、温暖化防止対策など、持続可能な社会の実現に向けて地球環境の保全等に取り組む。


(災害対策)

・大規模地震対策の一環として、地域の防災拠点となる学校をはじめとする公共施設や住宅等の耐震化、密集市街地の整備等を進める。また、従来より取組を進めてきた大規模地震対策の着実な進捗を図るとともに、特に、首都直下地震について、「首都直下地震対策大綱」38及び「首都直下地震の地震防災戦略」39等に基づき、中枢機能の継続性の確保及び定量的な減災目標の着実な達成に向けた取組等を推進する。

38 「首都直下地震対策大綱」(平成17年9月27日)

39 「首都直下地震の地震防災戦略」(平成18年4月21日)

・大規模水害・土砂災害対策、津波・高潮対策、豪雪対策をはじめとした防災対策を推進する。

・衛星による測位・災害監視技術等を活用したハザードマップの作成や防災情報の迅速な伝達体制の整備、高齢者等の災害時要援護者への避難支援、消防等の災害対策の強化を進めるとともに、消防団、水防団の充実強化を図る。また、救出救助、救急医療等に関し、ヘリコプターの活用を含め全国的見地からの体制整備を図る。


(治安対策、犯罪被害者施策等)

・「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」40及び「テロの未然防止に関する行動計画」41等を着実に実施する。

40 「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」(平成15年12月18日)

41 「テロの未然防止に関する行動計画」(平成16年12月10日)

・子どもを取り巻く環境の安全を確保し、また子どもを非行から守るため、「犯罪から子どもを守るための対策」42や「子ども安全・安心加速化プラン」43に基づき、学校や登下校時の安全の確保、通学路等の整備、犯罪を起こしにくい環境の整備、再犯の防止対策等を進めるとともに、官民連携による地域防犯活動や子どもの健全な育成に向けた取組を促進する。

42 「犯罪から子どもを守るための対策」(平成17年12月20日)

43 「子ども安全・安心加速化プラン」(平成18年6月20日)

・テロ、組織犯罪等の資金源を遮断し、その犯罪収益の流通を防止するため、資金洗浄が疑われる取引に関する情報集約等のための組織の整備、情報届出事業者の対象業種の拡大等を目指した法律案の次期通常国会への提出等の取組を進める。

・国民の誰もが犯罪の被害者等となり得る現実を受け、「犯罪被害者等基本計画」44に基づき、被害者等の視点に立った損害回復・経済的支援、精神的・身体的被害の回復・防止、刑事手続への関与拡充、支援等のための体制整備等に向けた取組を進める。

44 「犯罪被害者等基本計画」(平成17年12月27日閣議決定)

・国民に身近で頼りがいのある司法を実現するため、日本司法支援センターを中核とする総合法律支援の実施、裁判員制度の導入、裁判外紛争解決手続の利用の促進等の司法制度改革に引き続き取り組む。


(国際的な取組、テロ対策等)

・グローバル化の進展等に伴い、安全で安心できる国際的に共生した社会の構築に向けた取組がますます重要となる中、テロの未然防止等を図るため、衛星等を活用したインテリジェンス機能の強化を含め、情報収集・分析、重要施設・公共交通機関の警戒警備等を徹底するとともに、国内外における国民保護の体制整備、外国人に対する出入国審査時の生体認証技術の活用等を進める。

・防衛については、我が国の平和と安全及び国際社会の平和と安定を確保するため、引き続き「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」45等に基づき効率的な体制の整備に取り組む。

45 「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」(平成16年12月10日閣議決定)

・「在日米軍の兵力構成見直し等に関する政府の取組について」46を踏まえ、法制面及び経費面を含め、再編関連措置を的確かつ迅速に実施するための措置を講ずる一方、厳しい財政事情の下、政府全体として一層の経費の節減合理化を行う中で、防衛関係費においても、更に思い切った合理化・効率化を行い、効率的な防衛力整備に努める。「中期防衛力整備計画」47については、再編関連措置に要する経費全体の見積もりが明確となり次第、見直すものとする。

46 「在日米軍の兵力構成見直し等に関する政府の取組について」(平成18年5月30日閣議決定)

47 「中期防衛力整備計画(平成17年度〜平成21年度)」(平成16年12月10日閣議決定)


(安全性・信頼の再構築)

・耐震強度の偽装問題について、建築物の安全性に対する国民の期待と信頼にこたえるため、建築確認・検査の厳格化等を着実に実施するとともに、偽装問題の再発を確実に防止できるような制度の在り方を引き続き検討し、建築士制度の見直し等、結論の得られたものから順次所要の措置を講ずる。

・ヒューマンエラー等に起因する事故やトラブルが続発している状況にかんがみ、鉄道・航空等の公共交通の安全性の向上を図るため、事業者の安全管理体制の確立、事業運営における安全意識の徹底等、輸送事故の防止対策を強化する。このような取組を含め、歩道の整備など人優先の交通安全思想に立った「第8次交通安全基本計画」48を推進する。その際、ITS49による安全運転支援等の取組を進める。

48 「第8次交通安全基本計画」(平成18年3月14日)

49 ITS(Intelligent Transport Systems):高度道路交通システム

・国民への食料の安定供給を確保するため、農地・農業用水等の食料供給力の維持・向上を図る。また、環境保全型農業を推進する。

・科学に基づいた食の安全と消費者の信頼の確保に向けて、BSE、鳥インフルエンザへの対策、食品表示基準の見直し等を進める。また、「食育推進基本計画」50に基づき、「日本型食生活」51の実践など、国民運動として食育を推進する。

50 「食育推進基本計画」(平成18年3月31日)

51 「日本型食生活」:日本の気候風土に適した米を中心に農産物、畜産物、水産物等多様な副食から構成され、栄養バランスが優れた食生活

・新型インフルエンザをはじめとする新たな感染症といった国民の生命・健康を脅かす事態に対して迅速かつ適切に対応する。

・個人情報等の流出防止やサイバー攻撃への対応等のため、政府機関の統一的な対策強化や緊急対応能力の強化(GSOC52の稼動)等、官民の情報セキュリティ対策の体制構築・底上げを重点とした「セキュア・ジャパン2006」53の取組を推進する。

52 GSOC(Government Security Operation Coordination team):政府横断的な情報収集機能、攻撃等の分析・解析機能等の事案対策促進機能

53 「セキュア・ジャパン2006」(平成18年6月15日)

・国民が金融商品を安心して利用できるような制度の整備・運用に取り組む。

・耐震安全性の確保など、原子力の安全に関する取組を進める。


(地球環境の保全・循環型社会の構築)

・京都議定書の約束期間開始を2008年に控え、省エネ・新エネ対策、原子力の推進等による温室効果ガスの排出削減、森林の整備・保全等の森林吸収源対策等の取組を加速するとともに、京都メカニズムによるクレジットの取得を進め、また、その適切な管理のための仕組みを平成18年度中に構築する。今後、「京都議定書目標達成計画」54の実現を図るとともに、長期的な温室効果ガス排出削減に向けたリーダーシップを発揮する。不法投棄対策を含む循環型社会の構築、違法伐採対策等に取り組むとともに、「緑の雇用」も活用しつつ、自然環境の保全等により自然との共生を進める。

54 「京都議定書目標達成計画」(平成17年4月28日閣議決定)

・環境と経済の両立を図るため、金融面からの環境配慮を進めるとともに、環境技術の開発、3Rイニシアティブやアジア環境行動パートナーシップ構想による優れた技術・制度の国際的な普及と標準化等に向けた取組を進める。環境教育や、クールビズ、「もったいない」の心をいかした国民運動等を推進する。


(大陸棚調査)

・海洋政策の推進に当たっては、政府一体となった取組が必要である。大陸棚調査については、大陸棚の限界に関する情報の提出期限である2009年に向けて、海域における調査を引き続き着実に推進するとともに、大陸棚の限界に関する委員会に提出する情報の作成等に的確に取り組む。

5.豊かな生活に向けた環境整備

・豊かで活力ある社会の形成に向けた人材育成のため、幼稚園・保育所の教育機能を強化するとともに、幼児教育の将来の無償化について歳入改革にあわせて財源、制度等の問題を総合的に検討しつつ、当面、就学前教育についての保護者負担の軽減策を充実するなど幼児教育の振興を図る。

・他者への思いやりや命を大切にする教育及び長期宿泊体験などの体験活動の充実、学校、家庭、地域の教育力の強化、不登校等や「キレる」言動への対応、発達障害を含む障害のある子どもへの教育的支援等の取組を進める。

・文化芸術について、経済・地域社会の活性化にも資するよう、学校、地域等において文化芸術に親しむ環境整備や人材育成、新しい文化芸術の創造、国際文化交流の推進、文化芸術支援活動の促進、文化財の保存・活用の強化等を図る。

・スポーツについても、地域における住民のスポーツ活動拠点の充実などの生涯スポーツ社会の実現や、ナショナルレベルのトレーニング強化拠点の整備・充実などの国際競技力の向上を図る。また、学校や地域において子どもが体を動かす機会を確保・充実する方策に取り組む。

・ニートと呼ばれる若者の職業的自立を推進するため、地域の相談体制の充実、学び直しの機会の提供等により、各人の状況に応じた包括的な支援の強化を図る。


第5章 平成19年度予算における基本的考え方

1.今後の経済動向と当面の経済財政運営の考え方

・世界経済の着実な回復が続く下、我が国経済は、平成18年度には企業部門、家計部門ともに改善が続き、平成19年度においては、自律的・持続的な経済成長が実現すると考えられる。

・歳出・歳入一体改革で財政健全化の努力を中長期的に維持・強化していくことを改革の基本としたこと、また経済成長戦略大綱で人口減少の下でも持続的、安定的に成長することを目指すとしたことを念頭におき、民間需要・雇用の拡大に力点を置いて構造改革への取組をより本格的かつ総合的に推進する。

・物価安定の下での民間主導の持続的な成長のため、政府・日本銀行は一体となった取組を行う。政府は、構造改革を更に加速・拡大する。日本銀行に対しては、政府の政策取組や経済の展望と整合的なものとなるよう、市場の動向にも配慮し、実効性のある金融政策運営に努め、引き続き金融面から確実に経済を支えることを期待する。

・なお、経済情勢によっては、大胆かつ柔軟な政策運営を行う。

2.平成19年度予算の方向

 第3章で示した今後5年間に実施すべき歳出改革の内容は、機械的に5年間均等に歳出削減を行うことを想定したものではない。それぞれの分野が抱える特殊事情や既に決まっている制度改革時期とも連動させ、また、歳入改革もにらみながら、5年間の間に必要な対応を行うという性格のものである。

 平成19年度予算は、第3章で示した今後5年間の新たな改革に向けた姿勢を問われる重要な出発点である。これまで行ってきた改革を後退させるものであるとの誤解を招くことがあってはならない。

 財政健全化に向けて、責任ある新たな第一歩を踏み出したことの象徴となるよう、概算要求基準についても、従来の改革努力を継続する厳しい基準を設定し、メリハリの効いた歳出見直しを行う。財政再建は、避けて通れない課題ではあるものの、短期的には痛みを伴うものである。「健全で活力ある経済があってこその財政」であるとの考えの下に、将来に向けた明るい展望を切り拓き、活力ある社会の実現を目指して、成長戦略大綱の実現や少子化対策等のために予算面において所要の対応を行っていくことも重要である。

・平成19年度予算は、基礎的財政収支黒字化を確実にする第II期改革の最初となる重要な予算であり、「第3章 財政健全化への取組」で述べられた考え方を着実に実行に移す。

・また、「行政改革推進法」に基づき、事業の仕分け・見直しを行いつつ、行政のスリム化・効率化を一層徹底し、総人件費改革や特別会計改革、資産・債務改革等について、平成19年度予算に適切に反映させる。

・「第2章 成長力・競争力を強化する取組」及び「第4章 安全・安心の確保と柔軟で多様な社会の実現」に述べた取組を推進する。そのため、予算配分の重点化・効率化を行う。

・各府省は予算要求に当たっては、各施策について、成果目標を掲げ、事後評価を十分行い得る基盤を整備するとともに、その必要性、効率性、有効性等を吟味する。また、新規施策の要求に当たっては既存施策の廃止・縮減を行う。

・予算全体について、民間活力の活用による効率化に努めるとともに、公共サービスの合理化・効率化を織り込み、単価を引き下げ、経費を削減する。義務的な経費であっても、経費の大胆な節減に取り組む。また、市場化テストを積極的に活用し、公共サービスの質の維持向上及び経費の削減を図る改革(競争の導入による公共サービスの改革)を進める。

・なお、財政投融資については、民業補完の原則の下、対象事業の重点化・効率化に努める。


むすび

(経済財政に関する政策決定システムの改革)

 2001年の経済財政諮問会議の発足以来、総理が議長を務める経済財政諮問会議を中心に、縦割りではなく、経済財政政策及びそれに関連する政策を、全体として整合性、一貫性のある形で決定するシステムが強化されてきた。また、経済財政諮問会議においては、有識者議員から民間の経営感覚に基づく政策提言(民間的手法による政府の効率化や経済活力の強化など)や、経済分析等の客観的な根拠を基礎にした政策提言が行われ、新たな視点が提供されるとともに、政策決定プロセスが活性化された。経済財政諮問会議の討議内容については、短期間の内に詳細な議事内容が公表されるなど、政策決定の透明性が高められた。


(政策決定プロセスの定着)

 経済財政政策の運営については、改革に向けた政策決定プロセスが定着してきた。まず、重要課題を網羅した「基本方針」(骨太の方針)において、改革の方向性を明確にし、その後、経済財政諮問会議として「予算の全体像」をまとめ、「予算編成の基本方針」を策定することを通じて、優先順位を明確にした翌年度予算の方向付けが行われている。

 同時に、中期の経済財政運営の基本方針として「改革と展望」55を策定し、ローリングすることにより、基礎的財政収支の黒字化やデフレからの脱却といった中期目標を明確にし、これと整合的な形で短期の経済財政政策が運営されてきた。

55 「構造改革と経済財政の中期展望」

 こうしたプロセスを経て、歳出改革、税制改革、社会保障制度改革、郵政改革、金融制度改革、規制改革など各般にわたる構造改革が一貫性をもって推進されている。また、工程表の作成やPDCAサイクルによる管理等の手法が定着しつつある。


(今後の課題)

 今後はこうした成果を維持しつつ、更に改革を強化していく必要がある。

 具体的には、歳出・歳入一体改革や経済成長戦略などを総合し、マクロ経済全般の動向を包含する新たな中期の経済財政運営の基本方針をできるだけ早期に策定する。また、「基本方針」、「予算の全体像」、「予算編成の基本方針」という政策決定プロセスを維持・強化する。その際、経済動向の見通しの年央点検など経済運営と財政運営の整合性を更に強化すること、また、歳出改革と税制改革は一体として議論するなど歳出と歳入の整合性を強化することが必要である。また、経済財政諮問会議が推進する改革に関係の深い諸機関との連携を更に強化する。

<別紙>

社会保障

○ 今後とも高齢化の進展等に伴い、社会保障給付については大幅に増加し、そのための保険料・税負担も大きく増大していくことが見込まれる。

○ こうした中、社会保障制度が国民の安心や安定を支えるセーフティネットとしての役割・機能を将来にわたり果たし続けていくためには、制度自体の持続可能性・安定性を確保していくことが何より重要であり、そのためには、現役世代の負担が過度のものとならないよう社会保障制度全般にわたり不断の見直しを行い、セーフティネットとして求められる水準に配慮しつつ、給付の伸びを抑制することが必要となる。

○ また、政府・与党の公約である2010年代初頭の基礎的財政収支の黒字化を実現するために、政府全体の歳出を聖域なく厳しく見直し、増税額を出来る限り小さくすることを目指す中で、国の一般歳出の4割を超える水準にあり、また高齢化の進展等により今後増加が見込まれる社会保障についても、国民の理解を前提としつつも一定の歳出の抑制努力は避けられない。

○ 社会保障については、これまで各般の改革を行ってきたところであるが、以上のような観点を踏まえれば、今後5年間においても、次に掲げる事項を含め改革努力を継続していく必要がある。

<雇用>

・失業等給付の国庫負担の在り方については、「廃止を含めて検討する」という「行政改革推進法」の趣旨を踏まえ、かつ、昨今の雇用保険財政の状況(積立金2.5兆円)にかんがみ、2007年度において、廃止を含む見直しを行う。

<生活保護>

・以下の内容について、早急に見直しに着手し、可能な限り2007年度に、間に合わないものについても2008年度には確実に実施する。

−生活扶助基準について、低所得世帯の消費実態等を踏まえた見直しを行う。

−母子加算について、就労支援策を講じつつ、廃止を含めた見直しを行う。

−級地の見直しを行う。

−自宅を保有している者について、リバースモーゲージを利用した貸付け等を優先することとする。

・現行の生活保護制度は抜本的改革が迫られており、早急に総合的な検討に着手し、改革を実施する。

<介護>

・介護については、これまで所要の改革を行ってきたが、それでも経済の伸びを上回って給付費が増大することを踏まえるならば、保険料の増大が避けられない状況にある。

・保険料負担が過度のものとならないよう、次期事業計画の開始が2009年度であることを念頭に置きつつ、2011年度までの間においても、公的給付の内容・範囲及び介護報酬の在り方についての見直しなど必要な改革に取り組む。

<医療>

・今回の医療改革により、医療給付費のための保険料・税負担について、足下の期間では相応の抑制が実現した。しかしながら、それでもなお、経済の伸びを上回って給付費が増大することが見込まれており、保険料・税負担も増大していくものと予想される。

・中期的な視野に立って、医療保険制度の持続可能性・安定性を確保し、現役世代の負担が過度のものとならないようにしていくためには、更なる改革が不可避であり、2011年度までの間には、更なる給付の重点化・効率化に取り組むことが必要である。

・具体的には、医療保険制度改革の直後であることも踏まえ、今後5年間の幅の中で、公的給付の内容・範囲及び負担と給付の在り方、並びに救急医療、小児・産科などへの対応を含めた診療報酬の在り方、後発品の使用拡大など薬剤費の在り方について見直しを行う。

○ また、上に述べた分野別の見直しに加えて、社会保障番号の導入など社会保障給付の重複調整という視点からの改革などについても検討を行う。

○ 以上のような取組を通じ、過去5年間の改革(国の一般会計予算ベースで▲1.1兆円(国・地方合わせて▲1.6兆円に相当)の伸びの抑制)を踏まえ、今後5年間においても改革努力を継続することとする。

地方財政

○ 国と地方の信頼関係を維持しつつ、国・地方それぞれの財政健全化を進めるため、地方財政について以下の取組を行う。

○ 地方歳出については、国の取組と歩調を合わせて、国民・住民の視点に立って、その理解と納得が得られるよう削減に取り組む。

(1)地方公務員人件費については、国家公務員の改革を踏まえた取組に加え、地方における民間給与水準への準拠の徹底、民間や国との比較の観点からの様々な批判に対する是正等の更なる削減努力を行い、本年4月末に総務省から公表された速報値を踏まえ、5年間で行政機関の国家公務員の定員純減(▲5.7%)と同程度の定員純減を行うことを含め大幅な人件費の削減を実現する。

(2)地方単独事業については、「選択と集中」の視点に立って、国の取組と歩調を合わせ、過去5年間の改革努力(5年間で▲5兆円超)を基本的に継続することとするが、地域の実情に配慮し、今後5年間については、地方単独事業全体として現在の水準以下に抑制することとし、投資的経費は国の公共事業と同じ改革努力を行い、一般行政経費は2006年度と同程度の水準とする。

 ただし、これまでの歳出削減努力がデフレ状況下で行われてきたことなども踏まえ、地域の経済動向等を十分に注視しながら、柔軟かつ機動的な対応に心がけることとする。

○ 以上の歳出削減努力等を踏まえ、地方交付税等については、以下の制度改革等を行う。

(1)地方交付税の現行法定率は堅持する。

(2)過去3年間、毎年1兆円近く削減してきた地方交付税等(一般会計ベース)について、地方に安心感を持って中期的に予見可能性のある財政運営を行ってもらえるよう、地方交付税の現行水準、地方の財政収支の状況、国の一般会計予算の状況、地方財源不足に係る最近10年間ほどの国による対応等を踏まえ、適切に対処する。

(3)これにより、上記の歳出削減努力等とあわせ、安定的な財政運営に必要となる地方税、地方交付税(地方財政計画ベース)等の一般財源の総額を確保する。

(4)各地方公共団体に対する地方交付税の配分に当たっては、行政改革に積極的に努力している団体や地方税収の伸びがあまり期待できない団体に特段の配慮を行う。

(5)地方分権に向けて、関係法令の一括した見直し等により、国と地方の役割分担の見直しを進めるとともに、国の関与・国庫補助負担金の廃止・縮小等を図る。交付税について、地方団体の財政運営に支障が生じないよう必要な措置を講じつつ、算定の簡素化を図る。地方税について、国・地方の財政状況を踏まえつつ、交付税、補助金の見直しとあわせ、税源移譲を含めた税源配分の見直しを行うなど、一体的な検討を図る。

 以上の点を中心に住民の視点に立った地方公共団体の自発的な取組が促進されるような制度改革を行う。そのため、再建法制等も適切に見直すとともに、情報開示の徹底、市場化テストの促進等について地方行革の新しい指針を策定する。

 また、道州制導入の検討を促進する。

公務員人件費・独立行政法人・公益法人

(I.公務員人件費)

 2011年度に基礎的財政収支を黒字化することを目標に、社会保障を含めた歳出カットや国民負担増の可能性を検討している中にあって、厳しい公務員人件費の見直しは不可欠の課題である。

 今後、経済成長に伴う民間賃金の上昇により増加が見込まれる公務員人件費について、既に決まっている改革だけでなく、更なる改革を断行し、公務員人件費を削減する。(以下の更なる改革全体で▲2.6兆円の削減効果)

 国会についても、「先ず隗より始めよ」として、自ら歳出改革に取り組むことを要請する。具体的には、衆議院、参議院それぞれの検討の場において、国会職員の定員の純減や給与の見直し等を含む改革案が取りまとめられており、これらを速やかに実現していくことを求める。また、議員歳費についても、国家公務員の給与改革の成果を的確に反映することを求める。

○ 国家公務員

 国家公務員人件費について、既に決まっている定員純減と給与構造改革を着実に実行するとともに、定員・給与両面で更なる改革を行う。

<既に決まっている改革>

(1) 国の行政機関で▲5.7%の定員純減等(2010年度まで)を達成する。

(2) 地域の民間賃金の反映等のための給与構造改革を実行する。

<更なる改革>

(1) 定員純減を2011年度まで継続する。

(2) 人事院において比較対象企業規模を見直すことを要請する(100人以上⇒50人以上)。

○ 地方公務員

 地方公務員人件費については、国家公務員の改革を踏まえた取組に加え、地方における民間給与水準への準拠の徹底、民間や国との比較の観点からの様々な批判に対する是正等の更なる削減努力を行い、本年4月末に総務省から公表された速報値を踏まえ、5年間で行政機関の国家公務員の定員純減(▲5.7%)と同程度の定員純減を行うことを含め大幅な人件費の削減を実現する。

<既に決まっている改革>

・国の給与構造改革を踏まえた改革を行う。

<更なる改革>

(1) 本年4月末に総務省から公表された速報値を踏まえ、5年間で行政機関の国家公務員の定員純減(▲5.7%)と同程度の定員純減(2010年度まで)を行う。

(2) 定員純減を2011年度まで継続する。

(3) 比較対象企業規模を見直す必要がある(100人以上⇒50人以上)。

(4) 地域の民間給与の更なる反映を図る。

(5) ボーナスの支給月数の地域格差の反映を図る。

(6) 特殊勤務手当を削減する。

(7) 互助会への補助金を削減する。

(8) 級別職員構成を是正する。

(9) 知事等の高額な退職手当を適正化する。

(10) 教職員等人件費を削減する。

○ 公務員制度改革

 各地域における公務員の給与、処遇の在り方について、民間企業の実態を踏まえ、能力主義や実績評価に基づいたものとなるよう厳しく見直すとともに、公務員の労働基本権や人事院・人事委員会制度の在り方を含む公務員制度全体の改革の検討を早期に開始する。


(II.独立行政法人、公益法人)

○ 独立行政法人等

 独立行政法人、国立大学法人の人件費については、既定の改革を確実に達成するとともに、国家公務員の取組を踏まえて、更に抑制する。また、個々の独立行政法人の業務等については、それぞれの政策分野の改革の中で厳しく見直す。

(1)人件費

(1) 既定の改革の確実な達成

 独立行政法人等について、既定の人件費改革(2010年度まで)を確実に達成し、これにより退職手当及び福利厚生費を含め着実に削減する。非常勤職員手当についても業務経費効率化の取組の中で抑制を図る。

(2) さらに、国家公務員の改革を踏まえ、人件費改革を2011年度まで継続するとともに、官民給与の比較対象企業規模の見直しによる公務員給与改定を反映する。

(2)個々の独法の業務等については、業務内容の必要性・重要性、更なるコスト効率化、財務の自律性の向上等の観点から、各政策分野の改革の中で厳しく見直す。

○ 公益法人

 公益法人について、法人による給与の点検・見直しに関する取組の徹底、補助金等の抑制を図り、地方においても同様の取組を行うことを要請する。また、国と公益法人等との間の随意契約の適正化を図る。

(1)「国と特に密接な関係を持つ公益法人に対する給与水準の点検・見直しの要請」について、法人への指導の強化・徹底と、そのフォローアップを行う。地方においても同様の取組を行うことを要請する。

(2)公益法人向け補助金等について、各政策分野の歳出削減を図る中で、義務的に支払いが必要なものなどやむを得ないものを除き、原則として今後5年間で5%以上の抑制を図る。

 また、地方の第三セクター向け補助金等について、同様の対応を行うことを要請する。


(III.公益法人等との随意契約の適正化)

(1)公益法人等(所管公益法人、独立行政法人、特殊法人、再就職者のいる民間法人等)との間の随意契約については、競争入札が原則との原点に立ち帰り、厳格かつ徹底的に見直しを行った結果、従来の随意契約の約7割(所管公益法人との間の随意契約の9割強)を競争的な手法による契約に移行することとしているところである。

(2)今後、今回の見直しの対象とならなかった公益法人等以外との随意契約についてもすべて、本年中に同様の見直しを行う。

(3)情報公開の一層の充実を図る観点から、以下の措置をとる。

(1) 所管公益法人との間の随意契約の相手方に国の常勤の職員であった者が役員として在籍している場合、その人数を公表する。

(2) 政府調達に関する情報のホームページへの掲載方法を改善する。

(3) 調達に関する問い合わせの総合窓口を各府省に設置する。

公共事業関係費

○ 公共事業関係費については、これまでの削減により、「構造改革と経済財政の中期展望」(平成14年1月25日閣議決定)に示された目安を既に達成した。しかしながら、我が国の社会資本の整備水準が上昇する一方、人口減少社会が到来することにかんがみると、危機的な財政事情の下、歳出・歳入一体改革を進める中で、今後とも改革を継続し、更なる重点化・効率化を図る必要がある。

○ このため、公共事業については、景気対策としてではなく、真に必要な社会資本整備へと転換する必要がある。その中で、今後、廃止・終了する事業や整備水準の上昇も踏まえた事業分野ごとのメリハリ付けを強化するとともに、あらゆる分野で官民格差等を踏まえたコスト縮減や入札改革などを進め、重点化・効率化を徹底することにより、これまでの改革努力(名目対前年度比▲3%)を基本的に継続する。

○ その際、現在実施中のコスト縮減努力(5年間で15%のコスト縮減)の継続や今後は廃止・終了する事業の存在などを織り込んだ対応を行う必要がある。また、今後5年間の幅の中では、これまでのデフレ下の状況とは異なり、資材価格や賃金等のコスト増が生じ得ることを考慮するとともに、改革を継続する中で、国際競争に勝ち抜くためのインフラ整備、また、国民生活の質的向上や安全・安心の確保につながる社会資本整備など我が国の将来を見据えつつ各年度の社会資本整備を判断していく必要もある。このため、経済成長との関係を勘案したこれまでの実質の削減率の実績による対応を視野に入れる必要がある。

農林水産(非公共)

○ 現在農林水産分野全般にわたり進めつつある改革を今後とも緩みなく進めることが、「攻め」に向かう強靭な農林水産業を作り上げるための途である。こうしたことにより、農林水産関係予算については、関係制度全般にわたり、支援対象の重点化・施策の「選択と集中」の強化を図り、また執行状況の反映を徹底し、これまで以上の改革努力を通じた節減合理化を図る。

○ その際、経済成長との関係を勘案したこれまでの実質の削減率の実績による対応を視野に入れる必要がある。

○ なお、農業の生産性向上等のため、非公共施策の推進が柔軟に図られるよう、必要に応じ、公共と非公共の間の彼我融通(シフト)を適切に活用することとする。

文教

○ 文教予算については、子どもの数の減少及び教員の給与構造改革を反映しつつ、以下の削減方策を実施することにより、これまで以上の削減努力を行う。

○ これにより、今後5年間、人件費を除く国(一般会計)の予算について、名目値で対前年度比+0.1%(年率)以下に抑制することを基本とするが、今後、賃金・物価の上昇等によりこうした歳出抑制ペースをそのまま適用することが困難な場合が生じた場合には、経済成長との関係を勘案したこれまでの実質的な歳出削減のペースを維持するなかで、必要な配慮を行うこととする。

(1) 義務教育費国庫負担金について以下の見直しを行う。

ア)教職員の定数については、子どもの数に応じた削減を行うこととし、具体的には、今後5年間で1万人程度の純減を確保する。

イ)地方公務員の給与構造改革や地方における民間給与水準への準拠を徹底させる。

ウ)人材確保法に基づく優遇措置を縮減するとともに、メリハリを付けた教員給与体系を検討する。その結果を退職手当等にも反映させる。

(2) 国立大学運営費交付金について、効率化ルールを徹底し、各年度の予算額を名目値で対前年度比▲1%(年率)とする。

(3) 私学助成予算について以下の見直しを行う。

 定員割れ私学については、助成額の更なる削減など経営効率化を促す仕組みを一層強化するとともに、学生数の減少に応じた削減を行うことにより、施設整備に対する補助を含めた各年度の予算額を名目値で対前年度比▲1%(年率)とすることを基本とする。

(4) 教科書予算について以下の見直しを行う。

 教科書に係る製造・供給コストは一層縮減を図る。特に供給コストについては供給体制の在り方を含め、一層の効率化を行う。

(5) 奨学金予算について以下の見直しを行う。

ア)回収強化につき、債務保証等債権管理の在り方を含め、抜本的な施策を講じ、国民負担を最小化する。

イ)3%の貸付上限金利について、教育政策の観点等から、見直しを検討する。

科学技術予算

○ 科学技術振興費については、ムダの排除やコスト縮減等に取り組み、真に必要な経費を精選するなど、第2期計画における改革姿勢を継続することを基本とするが、科学技術の振興は我が国の将来の発展の鍵を握っていることに配慮し、第3期科学技術基本計画(平成18年3月28日閣議決定)の効率的な推進に努める。

○ その際、第3期科学技術基本計画に基づく予算の伸びは、データベースの運用等科学技術システム改革の着実な実施を図りつつ、経済成長の範囲内とし、さらに、科学技術の振興による成長力・競争力強化に資する取組については、必要に応じて、重点的な取組を行うこととする。

○ 具体的な取組は以下のとおり。

・厳選された「戦略重点科学技術」に資源をシフトし、優先順位の劣るプロジェクトは廃止・抑制する。投資効果を不断に検証する。

・研究費の不正使用問題への厳正な対処を徹底する。研究開発データベースを早急に整備し、不合理な重複を排除する。

・諸外国の情勢、技術革新、官民の連携強化等の視点も踏まえ、大規模事業、新規事業、独法運営等について可能な限りコストを縮減する(宇宙ステーション、スパコン等)。

防衛関係費

○ 防衛力整備については、「在日米軍の兵力構成見直し等に関する政府の取組について」(平成18年5月30日閣議決定)に従い、更に思い切った合理化・効率化を行い、効率的な整備に努めることとし、「中期防衛力整備計画(平成17年度〜平成21年度)」(平成16年12月10日閣議決定)についても、同閣議決定に基づき対処する。

○ こうした取組を踏まえ、防衛関係費については、人件糧食費の増加や米軍再編経費が見込まれる中ではあるが、以下のような項目を中心に従来以上に厳しい削減に取り組み、今後5年間、人件費を含む国(一般会計)の予算について名目伸び率ゼロ以下の水準とする。

・総人件費改革等を通じた自衛官実員の削減

・3自衛隊の装備品、在庫部品等の調達の効率化・合理化

・入札談合再発防止の徹底を通じた予算削減(防衛施設の特性に配慮しつつ、公共事業総合コスト縮減率(5年間で15%)の達成を含む。)

・在日米軍駐留経費負担の所要の見直し

・基地周辺対策の抜本見直し

○ 米軍再編に要する経費については、既存予算の更に思い切った合理化・効率化を行ってもなお、上記削減目標の中では、米軍再編に関する地元の負担軽減に資する措置の的確かつ迅速な実施に支障が生じると見込まれる場合は、各年度の予算編成過程において検討し、必要な措置を講ずるものとする。

○ なお、今後、経済・社会情勢等により、既存の防衛関係費について名目伸び率ゼロ以下の目標により難い場合であっても、上記閣議決定に従い更に思い切った合理化・効率化に努め、少なくとも経済成長率との関係を勘案したこれまでの歳出削減のペースを加速することを基本方針とする。

政府開発援助(ODA)

○ 「今後3年間でアフリカ向けODAを倍増し、引き続きその中心を贈与とする」、「今後5年間のODA事業量について、2004年実績をベースとする額と比較して100億ドルの積み増しを目指す」等の政府の対外公約は、確実にこれを達成する。

○ その際、財政が極めて厳しい状況にある中で、ODAに対する国民の理解を得ていくためには、今後、援助の「質」の向上を実現していく必要があり、コスト面で大胆な効率化を行う一方で開発効果を高めるとともに、供与対象国・分野の更なる戦略的重点化を図る。

○ ODA予算については、コスト縮減や予算の厳選・重点化等を通じ、国内と同様、これまでの改革努力を継続しつつ、ODA事業量は必要量を確保する。

○ ただし、我が国外交の戦略的・効果的な展開のためには、これにより難い場合も考えられる。そうした場合、これまでの改革努力の継続を基本としつつ、我が国経済や国際情勢の変化を勘案しながら、そのペースを半減する範囲内で対応できるよう、予算の効率化・重点化に努めるものとする。

○ このため、今後、以下を重点的に推進していく。

・徹底したコスト削減を前提に費用対効果を最大化

(1) 包括的かつ実効的なコスト削減目標・計画を策定

(2) 国際競争入札の導入拡大

(3) JICAの徹底的な効率化(人件費・事業費等の節減)

(4) 在外公館関連経費等の合理化   等

・供与対象国・分野の更なる戦略的重点化

(1) 外交効果の検証と国民への説明強化

(2) NGO・民間との戦略的連携・活用

(3) 相手国の自立的発展につながる事業を厳選

(4) 資源獲得戦略の一環としての活用   等

エネルギー対策

○ エネルギー対策費については、エネルギーを巡る国際情勢は不透明であり、長期的視点に立った戦略的なエネルギー政策の展開が重要となっているが、施策の精選・効率化を徹底することによって限られた予算で最大の効果を生むための工夫が必要である。

○ 一般会計で行うエネルギー関連事業については、ITER等の歳出増が予定されているが、「選択と集中」の一層の強化等に取り組み、今後5年間、名目伸び率ゼロ以下へ抑制する。

○ 特別会計は、現在、その歳出が特定財源の水準を大幅に上回っていることから、今後厳しく歳出を見直していき、原則として歳出水準を特定財源税収の水準に見合うものとする。

電子政府関係

○ 業務・システム最適化の実施に当たっては、

・各々の最適化計画に示された運用経費の削減(合計1,229億円)及び業務処理時間の削減(合計4,750万時間/年)を最低限の削減目標とし、これら以上の削減効果を目指す。

・内閣官房が総務省の協力を得て、

1)行財政改革への寄与

2)運用経費削減、業務時間削減に関して、効果が確実に見込まれること

3)システム間の連携、接続を考慮した開発スケジュールの調整

4)官民におけるプロジェクト執行・管理体制の確保

を考慮し、システム構築に係る優先順位付けを行い、それを踏まえた予算要求の選択と集中を図る。

・これらを踏まえつつ、厳格な予算査定を行うことを通じ、2007年度の予算額を当初の予定額(998億円)以下(2割以上の削減を目指す。)とする。

○ オンライン利用促進対象手続については、

・現在オンライン利用率50%以下のものは、2010年度までにオンライン利用率50%以上の目標を確実に達成するため、(1)処理時間の短縮、手数料の引下げ等のインセンティブ措置、(2)添付書類の原則省略、(3)電子署名の簡略化等の担当府省の努力がなされるものに限り、予算措置する。

・2010年度までにオンライン利用率50%以上の目標達成が困難であると認められるシステムについては、2007年度予算要求を行うか否かを含め、当該システムの必要性等の再検討を行う。

その他

○ 今回個別の指摘を行わなかった経費についても、徹底した歳出削減を進めるという基本方針の下に、厳しくその内容を見直していくものとする。

○ 具体的には、今後5年間、近年の歳出削減ペースと同様の歳出改革を進めるとともに、他方、経済・社会情勢等によりこれにより難い場合であっても、少なくとも経済成長との関係を勘案したこれまでの実質的な歳出削減のペースを維持することとする。


2011年度までの歳出改革について

○ 今回各分野ごとに取りまとめた今後5年間の改革方針に基づく削減額は、別表のとおりである。

○ 経費によっては、取りまとめに示されているように、削減額について、今後の資材価格や人件費の状況、内外の経済社会情勢等によって、ある程度、幅を持って考える必要がある。ただし、歳出を増加すればその分だけ国民負担が増加することには、留意しなければならない。

○ なお、災害への対応等現時点で見込み難い経費については、適切に対応する必要がある。

○ 今回の取りまとめによって、2011年度までに基礎的財政収支の黒字化を達成するために解消すべき要対応額16.5兆円程度のうち、少なくとも11.4兆円以上は、歳出削減によって対応することとなる。

○ 歳出改革では対応しきれない要対応額(2〜5兆円)については、歳入改革によって対応することとなるが、今後の経済社会情勢及び歳出削減の状況等によっては、この要対応額が変動する可能性がある。


(別表)

今後5年間の歳出改革の概要

  2006年度 2011年度 2011年度 削 減 額 備  考
自然体 改革後の姿
社会保障 31.1兆円 39.9兆円 38.3兆円程度 ▲1.6兆円程度  
人件費 30.1兆円 35.0兆円 32.4兆円程度 ▲2.6兆円程度  
公共投資 18.8兆円 21.7兆円 16.1〜17.8兆円程度 ▲5.6〜▲3.9兆円程度 公共事業関係費▲3%〜▲1%
地方単独事業(投資的経費)▲3%〜▲1%
その他分野 27.3兆円 31.6兆円 27.1〜28.3兆円程度 ▲4.5〜▲3.3兆円程度 科学技術振興費+1.1%〜経済成長の範囲内ODA▲4%〜▲2%
合計 107.3兆円 128.2兆円 113.9〜116.8兆円程度 ▲14.3〜▲11.4兆円程度  
  要対応額:16.5兆円程度        

(注1)上記金額は、特記なき場合国・地方合計(SNAベース)。

(注2)備考欄は、各経費の削減額に相当する国の一般歳出の主な経費の伸び率(対前年度比名目年率)等及び地方単独事業(地財計画ベース)の名目での削減率を示す。