3 経済対策を通じた地域の活性化

(1)経済危機対策

 世界金融危機と世界同時不況の中で、輸出急減と国内生産水準の大幅低下による「底割れ」のリスクと、過剰信用・過剰消費を前提としてきた構造の崩壊による「構造的な危機」とを克服するため、「経済危機対策」に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議は、平成21年4月10日に「経済危機対策」を決定した。これを受けて、平成21年度補正予算(第1号)が国会で審議され、平成21年5月29日に成立した(14兆6,987億円)。

 経済危機対策を受けた平成21年度補正予算(第1号)においては、「地域活性化・公共投資臨時交付金」が1兆3,790億円(うち、執行停止額900億円)、「地域活性化・経済危機対策臨時交付金」が1兆円、それぞれ盛り込まれた。

 それぞれの交付金の概要は、以下のとおりである。

ア 地域活性化・公共投資臨時交付金

(ア) 交付対象

 実施計画を策定する地方公共団体

(イ) 交付方法

 実施計画に掲載された事業のうち国庫補助事業の地方負担分と地方単独事業の所要経費の合計額に対し、交付限度額を上限として交付金を交付

(ウ) 交付限度額

 各地方公共団体の追加公共事業等(直轄及び補助)の地方負担額等をベースとして算定。ただし、財政力の弱い団体等に配慮し、財政力指数等により調整

(エ) 使途

 実施計画に掲載された以下の事業の地方負担分に充当(建設地方債対象事業に限る。)

 ・地方単独事業

 ・国庫補助事業(法令に国の補助率又は負担率の定めがあるものを除く。)

(オ) 予算計上額

 平成21年度補正予算(第1号)計上額1兆3,790億円(うち、執行停止額900億円)

イ 地域活性化・経済危機対策臨時交付金

(ア) 交付対象

 実施計画を策定する地方公共団体

(イ) 交付方法

 実施計画に掲載された事業のうち国庫補助事業の地方負担分と地方単独事業の所要経費の合計額に対し、交付限度額を上限として交付金を交付

(ウ) 交付限度額

 地方交付税の基準財政需要額の算定方法等に準じて、外形基準に基づき設定。ただし、財政力の弱い団体、離島や過疎等の条件不利地域等に配慮するとともに、財政力が著しく高い団体については一定の制限を実施

(エ) 使途

 実施計画に掲載された以下の事業の地方負担分に充当

 ・地方単独事業

 ・国庫補助事業(法令に国の補助率又は負担率の定めがあるものを除く。)

(オ) 予算計上額

 平成21年度補正予算(第1号)計上額1兆円

 (都道府県4,000億円程度、市町村6,000億円程度)


 平成21年9月に発足した新内閣による9月18日の閣議において、総理から、「平成21年度第1次補正予算の事業に係る執行の見直しについて」発言があり、平成21年度補正予算(第1号)に係る事業のうち、各大臣が所管するすべてについて、地域経済等に与える影響も勘案しつつ、その執行の是非を点検することとされた。

 平成21年度補正予算(第1号)については、平成21年10月16日の閣議決定を経て、各事業の全部又は一部の執行停止等が行われた。

 その結果、平成21年度補正予算(第1号)にかかる執行停止・返納額は、地域活性化・公共投資臨時交付金にかかる900億円を含めて2兆9,259億円となった。

(2)緊急雇用対策

 わが国の経済は、最悪期を脱したものの、経済成長の基盤が脆弱であるなど厳しい状況にある。特に、雇用情勢は非常に厳しく、失業率は平成21年7月に過去最高の5.7%に達し、その後も厳しい状況にある。政府の緊急雇用対策本部は、国民が抱える不安に対応し、「国民一人ひとりが安全と安心、生きがいを実感できる社会」を実現する上で最も重要な基盤となる雇用の確保に取り組むため、平成21年10月23日、「緊急雇用対策」を決定した。

 緊急雇用対策では、(1)情勢に即応して「機動的に」対応する−急がれる対策を早急に実施する、(2)「貧困・困窮者、新卒者への支援」を最優先する−最優先課題として、最も困っている人を全力で支援する、(3)「雇用創造」に本格的に取り組む−未来の成長分野を中心に、政策を総合的に推進、の3つの視点に立って、緊急的な支援措置を講ずるとともに、「緊急雇用創造プログラム」の推進に取り組むこととしている。

ア 緊急的な支援措置

(ア) 緊急支援アクションプラン−「貧困・困窮者、新卒者支援」

<貧困者・困窮者支援>

・平成21年度後半(6月〜12月)に雇用保険受給期間が切れる受給者数の把握

・利用者の視点に立った情報提供・広報の展開

・実効ある「ワンストップ・サービス」など支援態勢の強化

・「きめ細かな支援策」の展開

・その他、求職者の貧困・困窮者が安心して生活が送れるようにするために必要な施策を引き続き検討

<新卒者支援>

・新卒者の就職支援態勢の強化

・求人開拓と「雇用ミスマッチ」の解消

・「4月就職以外の道」の選択の支援

・新卒無業者への第2セーフティネットの活用

(イ) 雇用維持支援の強化

・雇用調整助成金の支給要件緩和等

・企業間の出向活用による雇用維持支援

(ウ) 中小企業の支援

・中小企業で活躍する人材への支援

・中小企業の雇用維持・拡大への支援

(エ) 女性への就労支援等

イ 「緊急雇用創造プログラム」の推進

(ア) 3つの分野におけるプログラムの推進

<介護雇用創造>

・「働きながら資格をとる」介護雇用プログラム

・介護人材確保施策の推進

・介護サービス整備の加速化等

<グリーン(農林・環境・エネルギー、観光)雇用創造>

・「働きながら職業能力を高める」グリーン雇用プログラム

・森林・林業再生の推進

・関連施策の推進

<地域社会雇用創造>

・雇用支援分野での「社会的企業」の活用

(イ) 雇用創造のための既存施策・予算の活用

・「緊急雇用創出事業」等の運用改善と前倒し執行等

「緊急雇用創出事業」及び「ふるさと雇用再生特別基金事業」の要件緩和

・地方公共団体が実施する緊急雇用対策について、特別交付税により支援

(3)明日の安心と成長のための緊急経済対策

 海外経済の持ち直しなどを背景に景気が次第に持ち直していくことが期待されるものの、経済成長の基盤は依然として脆弱であり、雇用不安と所得の減少傾向のために家計消費の成長も持続力が限られている。また、企業収益の低迷に加え実質金利高や円高などから設備投資の回復力は不透明である。このような認識の下、政府は、平成21年12月8日に「明日の安心と成長のための緊急経済対策」(以下「緊急経済対策」という。)を閣議決定した。

 緊急経済対策においては、活用できる財源を最大限に活用し、有効性を十分吟味しながら、次の3つの視点に立って経済財政運営を行うこととしている。

<第一>当面の取組−確実な景気回復・デフレ克服を目指す

○緊急対応−情勢に応じた機動的な対応

○政府・日銀の一体となった対応

<第二>中長期的な取組−成長戦略の推進と財政規律

○成長戦略の推進

○成長力強化と財政規律の両立−中期財政フレームの策定

<第三>今回の経済対策−緊急対応と成長戦略への布石

○対策の柱−「雇用」「環境」「景気」

○具体的な対策−3つの原則

・「緊急性」、「速効性」の高い施策を最優先

・切れ目のない経済財政運営

・知恵を活かして、「国民潜在力」の発揮で景気回復を目指す

○施策執行の進捗管理

 また、これらの視点を踏まえ、「雇用」、「環境」及び「景気」を柱としつつ、くらしの再建と低炭素社会への転換、医療等「生活の安心確保」や、荒廃した地方を守るための「地方支援」などにも強力に取り組むこととされている。

1.雇用−緊急対応策を強化するとともに、雇用戦略を推進する。

2.環境−地球温暖化対策と景気回復の両立を目指す。

3.景気−金融対策によって景気の下支えを行うともに、デフレの進行に伴う実質金利上昇の下で抑制されている住宅投資・設備投資等への支援などにより景気回復を目指す。

4.生活の安心確保−医療等国民生活の安心を確保する。

5.地方支援−本対策の推進等に取り組む地方公共団体を支援する。

6.「国民潜在力」の発揮−「ルールの変更」や社会参加支援を通じて、国民の潜在力の発揮による景気回復を目指す。


 緊急経済対策の決定を受けて、平成21年度補正予算(第2号)が国会で審議され、平成22年1月28日に成立した。緊急経済対策の規模は、7兆2,013億円となり、財源として、補正予算(第1号)における執行停止額のうち2兆6,969億円が充てられた。


 緊急経済対策の「5.地方支援−本対策の推進等に取り組む地方公共団体を支援する。」における具体的施策として、地方公共団体によるきめ細かなインフラ整備等を支援する交付金の創設と国税収入の減少に伴う交付税減少額の補てん等の措置が盛り込まれた。

 これを受け、平成21年度補正予算(第2号)において、「地域活性化・きめ細かな臨時交付金」が5,000億円盛り込まれるとともに、国税収入の減少への対応として、地方交付税総額の確保等の措置がとられることとなった。

 それぞれの施策の概要は、以下のとおりである。

ア 地域活性化・きめ細かな臨時交付金

(ア) 交付対象

 実施計画を策定する地方公共団体

(イ) 交付方法

 実施計画に掲載された地方単独事業の所要経費及び国庫補助事業の地方負担分の合計額に対し、交付金を交付

(ウ) 交付限度額

 地方交付税の基準財政需要額の算定方法等に準じた外形基準に基づいて、総額のうち、4,500億円につき第一次交付限度額を設定。残りの500億円は(イ)の合計額が第一次交付限度額を超える地方公共団体であって、本対策の趣旨に沿った、効果が高いと認められる事業を実施しようとするものに配分

(エ) 使途

 実施計画に掲載された、危険な橋梁の補修、景観保全の必要性の高い地域における電線の地中化や都市部の緑化、森林における路網整備などのような本緊急経済対策の趣旨に沿ったきめ細かなインフラ整備事業(平成22年1月1日以降に地方公共団体の予算に計上され実施される事業に限る。)

・国庫補助事業(公債発行対象経費。法令に国の補助率又は負担率の定めがあるものを除く。)

・地方単独事業(橋梁の補修、電線の地中化、都市部の緑化、森林の路網整備、その他公共施設又は公用施設の建設又は修繕に係る事業)

(オ) 予算計上額

 平成21年度第2次補正予算計上額 5,000億円

イ 国税収入の減少に伴う交付税減少額の補てん等

 地方交付税の原資となる国税5税が減額補正されることに伴い、地方交付税の総額が約2兆9,500億円減少することとなったが、地方公共団体が取り組む様々な事業に財政面で支障が生じないようにするため、減少分と同額を国の一般会計からの加算により全額を補てんすることとされた。その際、臨時財政対策債振替加算額に相当する額(約1兆4,750億円)については、平成28年度から平成42年度までの地方交付税の法定加算額等の範囲内で減額することとされた。