昭和62年版 通信白書

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第2節 通信政策及び通信サービス

 1 通信の高度化・多様化に向けて

(1)ニューメディア時代を迎えた通信政策

 我が国の社会経済は,21世紀に向けて大きな変貌を遂げつつある。国民の意識・価値観あるいは生活様式が多様化,成熟化するとともに,情報通信に対するニーズも高度化・多様化している。また,我が国の経済発展により我が国が世界のGNPの1割を占めるようになるとともに,通信及び交通の発達によって我が国の経済活動が地球規模に拡大し,世界構造の一部として位置付けられるようになるなど,国際化が進展している。
 さらに,第3次産業の生産額のシェアは,今日既に過半数となっているが,産業のソフト化・サービス化は,今後も進むことが予想される。このほかにも,高齢化,都市化,情報化等,多くの要因によって社会経済は変化している。
 一方,情報通信技術は,我が国の情報化の進展を支える基盤として,基幹通信メディアからニューメディアに至るまでの開発,提供,普及に大きく貢献してきたが,今後とも引き続き技術開発が行われ,メディアの多様化、融合化が進行するものと予想される。
 このように,情報通信を取り巻く環境が大きく変化する中で,郵政省では,5〜10年程度先の中長期の電気通信,放送等の在り方について,電気通信審議会に諮問したほか,「新産業社会における電気通信の在り方についての懇談会」及び「ニューメディア時代における放送に関する懇談会」を開催し,検討を行ってきたが,62年4〜6月に相次いで答申及び報告書が提出された。

 ア 電気通信高度化ビジョン
 電気通信高度化ビジョンは,今後5年程度先を見通した電気通信各分野の発展動向を,電気通信がどのように活用され,高度化していくのか,また,電気通信の高度化を支える情報通信産業がどのように発展していき,我が国の経済発展にどのような影響をもたらしていくのかなどの観点から具体的,定量的に展望したもので,62年6月,電気通信審議会から答申された。その概要は次のとおりである。
 (社会経済各分野における電気通信の高度化動向)
 情報通信分野における目覚ましい技術革新,あるいは情報通信ニーズの高度化・多様化により,データ通信,ファクシミリ,CATV等様々な情報通信サービスが出現してきている。今後は,企業,家庭,地域社会の各分野で個別に情報通信の活用が「検討・試行」されていた段階から,諸活動分野を有機的に一体化していくために,高度化する電気通信が新たな時代の社会基盤として整備・充実していく時代を迎える。
 電気通信の高度化・多様化は,産業分野を中心に推移してきた。国際化する競争市場の中で,変貌する市場動向に適切に対応していくため,産業分野における情報通信ニーズは今後一層強まり,利用者の側から電気通信全体の高度化を牽引していく。
 また,家庭においては,これまで放送や電話が中心的役割を果たしてきたが,今後,文字放送,パソコン通信,都市型CATV等の出現により,家庭においても電気通信の多様な利用が進み,また,個人生活における余暇時間の増大に伴って,こうしたニューメディアの活用が進むと考えられる。
 さらに,大都市(特に東京)では,中枢管理機能,情報中枢機能の集中に伴い,21世紀に対応できる社会資本の整備が不可欠となっている。この一環として,高度な情報通信システムを活用した都市の開発が活発化する。一方,地域社会においても,情報通信システムの活用を中心とした多様な地域振興施策が展開されていく。
 (電気通信高度化に当たっての諸課題)
 電気通信の高度化に当たっては,[1]高度情報社会構築のための基幹的ニューメディアの普及促進,[2]通信方式の標準化の促進,[3]安全性・信頼性対策の普及促進,[4]データ保護対策の促進,[5]社会ニーズに対応する電気通信技術の開発推進,[6]人材の確保,[7]均衡のとれた新国土形成に向けてのネットワーク化推進,[8]グローバルネットワーク化への対応等,円滑な高度化を図るための様々な課題の克服が必要である。
 (メディアミックス時代の到来)
 情報通信分野における急速な技術進歩により,今や多種多様な情報通信の活用が可能となっており,また,60年の電気通信制度の改革に伴う多数の電気通信事業者の出現により,多彩な情報通信サービスを提供する体制が整いつつある。こうした動向を背景に,今後,電気通信の高度化は着実に進展し,本格的なマルチメディア化が進行していくとともに,多様化していく各メディアそれぞれの特性を生かして,自在に組み合わせて活用するメディアミックスの時代の幕開けを迎える。
 (情報通信による新しい社会経済への構造変革)
 今後5年間は,我が国の産業構造が,社会経済のソフト化,サービス化,情報化,国際化等に対応した変革を遂げながら,国際的にも調和のとれた経済社会を作りあげるとともに,国民が新しいライフスタイルの形成を図るための重要な移行期である。その中でこの移行を円滑に進めるために,産業,家庭,地域社会等の各分野において,情報通信がその特徴を生かしながら工夫され,受容され定着していく時期となる。
 また,情報通信の活用は,従来の枠組みを超えた企業や個人の新たな活動を可能とし,産業構造やライフスタイルを変革していく原動力となっていく。
 (電気通信高度化の経済効果)
 電気通信の高度化を支える情報通信産業は,ニュー・リーディング・インダストリーとして,我が国の経済発展の牽引車的役割を果たしていく。また,情報通信分野への投資は,用地取得・地価問題の制約が少なく,内需拡大の面において即効性と波及効果が大きいことから,21世紀に向けて社会基盤を形成していく現時点において,情報通信を活用した思い切った政策の展開が求められる。

 イ 新産業社会における電気通信の在り方
 我が国の産業社会は,21世紀に向けて大きな変貌を遂げようとしている。このような産業社会の変化が円滑に進むためには,あらゆる観点からの支援が必要であるが,情報通信の果たす役割は大きいと考えられる。こうしたことから,62年6月,郵政省では,21世紀に向けての我が国産業社会の変化の動向及び産業社会の変化を支援するための電気通信の役割について検討を行うために開催した「新産業社会における電気通信の在り方についての懇談会」における意見を取りまとめた。その概要は次のとおりである。
 (新しい産業社会の基本方向)
 産業構造の変化には,次の三つの基本的な方向があり,互いに影響を及ぼし合いつつ,新しい産業社会を形成していくと考えられる。
 第一は,企業の世界化の動きである。経済活動は,元来,市場や最適な経営システムの構築を求めて,国境を越えて発展する傾向があるが,交通や通信の発達に伴い,その傾向が更に強まっていく。
 第二は,産業社会の柔構造化である。世界化の進展や国民生活の多様化,社会変化の加速化に対応するために,様々な産業間及び企業間の交流が行われたり,雇用慣行を含む企業組織が従来の枠にとらわれずに変容するなど,ますます激しくなると予想される環境変化に機能的かつ柔軟に対応できる産業社会が出現する。
 第三は,国土の高機能化である。交通・情報通信ネットワークの充実とあいまって,我が国は,各地域が各々特徴,得意分野を生かして発展し,その上で相互に機能を補完,分担しあうことにより,暮らしやすく,働きやすい国土を形成していく。
 (新産業社会における電気通信の諸課題)
 これらの基本的方向と関連して,新産業社会における電気通信の在り方に対して,次のような課題が提起されている。
[1] 産業社会の世界化に対応して,我が国における国際的な諸機能を地域特性に応じ国内全体で分担していくことが必要となっている。このため,国際通信料金については,国内発信地別の料金の導入の検討が 必要である。
[2] 我が国全体で機能を分担し,均衡ある発展を実現することに資するため,巨大な情報集積都市へのアクセスを容易にすることが必要であり,そのためには,トラヒック状況をベースにした効率的なネットワークを構築し,その成果を反映する料金設定が必要である。とりわけ,高度な情報集積の場であり広大な市場となっている東京アクセス料金の検討が必要である。
[3] 環境変化に柔軟に適応する産業社会の実現のため,通信ネットワークを通じて複数企業が開放的につながりをもつことが必要であり,そのための条件整備を図ることが必要である。
[4] 地方都市が東京の端末化となるのを防止し,全国の均衡ある発展に資するため,情報通信を活用する産業分野を全国的に創出することが望ましい。このため,情報通信コストの低減化を継続的に促進するとともに,これを担う人材の育成が必要である。
[5] 移動体通信に対するニーズの増大,高度化・多様化に伴い,電波の利用がますます増大すると思われる。このため,電波資源の開発と有効利用が必要である。
[6] このほか,ネットワークの利用者の立場に立ってシステムづくりを支援するコンサルタント的業務の強化,関係行政機関の協力体制,個人生活のインテリジェント化の社会実験,情報通信技術者の育成等の必要性が提言されている。

 ウ ニューメディア時代における放送の在り方
 社会環境が変化する中で,メディアの多様化,多数の放送事業者の出現等,放送分野の状況も大きく変化している。さらに,今後もこうした状況変化が続くものと予想されることなどから,郵政省では「ニューメディア時代における放送に関する懇談会」を開催し,今後における放送政策の課題と方向について意見交換を行ってきた。62年4月にその意見が取りまとめられたが,概要は次のとおりである。
 (社会環境の変化と放送の役割)
 放送は,これまで,基幹的情報を経済的・効率的かつ多角的に提供することにより,世論の形成に大きな影響を与えるとともに,人々の生活に潤いと安らぎ,目標と充実感を与え,社会に活力を生じさせてきた。こうした放送が有する優れた社会的文化的影響力・機能は,今後とも発揮されていく必要がある。
 一方,我が国においては,近年,国民の価値観,生活様式の多様化・個性化,技術開発の進展とメディアの多様化・融合化,高度情報化の進展及び社会の構造変化,国際化の進展等,放送を取り巻く環境が大きな変化を遂げつつある。
 このような環境変化の動向の中で,健全な言論報道市場の維持発展への貢献,情報の地域間格差の是正,国民の情報ニーズの高度化・多様化に応じた各種専門情報の提供,新たな文化の創造・普及,国際相互理解や文化交流の実施,活力ある社会の構築等の役割が,今後放送に対して期待されている。
 (放送政策の課題と方向性)
 これらの放送に対する期待にこたえるため、総合的な放送と各種専門的な放送が多元化された形で並行的に充実・発展していくことが期待されている。利用の随時性・選択性・記録性等を兼ね備えた放送や高画質化,高品質化された放送が実現され,エリア内及びエリア相互間での各種番組・情報の提供,享受が可能となり情報の地域間格差の是正が図られる体制の整備が必要である。
 放送に期待されるこれらの役割等を実現するため,当面,次のとおり各メディアの普及を進める必要がある。
[1] テレビジョン放送及びFM放送については,視聴可能放送数の地域間格差をできる限り解消する方向で普及を進める。このため,既に周波数が割り当てられている地域の早期開局を図るとともに,現在,県域を原則としている放送対象地域の要件を緩和するなどの見直し,FM放送の2波目以降の割当ての放送対象地域の広域化を検討することなどが必要である。ただし,この際,マス・メディアの集中やキー局等の巨大化が過度に進まないように十分配慮する必要がある。
[2] テレビジョン放送の辺地難視聴及び都市受信障害並びに中波放送の外国混信については,それぞれに対応した十分な措置を講ずるべきである。
[3] 多重放送を円滑に普及させていくためには,経営基盤の確保等の条件整備を図る必要があり,その利用方法及び事業主体の在り方については,マス・メディアの集中排除の理念が損なわれない範囲で規制緩和を行うなどきめ細かい行政対応が必要である。
[4] 衛星放送については,今後,衛星の信頼性確保のための技術開発,受信設備の低廉化・小型化,魅力ある番組の制作体制確立のための環境整備,ハイビジョン等衛星を利用した新たなサービスの早期実用化,有料方式の円滑な導入のための環境整備等が必要である。
[5] CATVの普及促進を図るには,CATV網の建設,CATV番組の供給の両面において事業者の活力と創意が生かされるとともに,これを支援する政策的措置を積極的に講じる必要がある。
[6] 国際化への対応については,国際化の進展に伴い,国際放送の重要性がますます増大している。そのため,国際放送の一層の充実強化が必要である。

(2)電気通信の研究開発と地域高度化のための環境整備

 ア 62年度税制改正
 62年度の電気通信関係の税制改正の概要は次のとおりである。
[1] 民間事業者の能力の活用により整備される特定施設の特別償却制度について,償却割合が100分の20(現行100分の13)に引き上げられるとともに,適用対象にテレポートが追加された。
[2] 中小企業新技術体化投資促進税制の対象設備に電気通信設備集中管理装置,電気通信専用暗号化装置,移動無線中継回線制御装置及び移動無線局識別装置が追加された。
[3] 特別第二種電気通信事業者が事業の用に供する施設に対する事業所税(新増設に限る。)が免除された。
[4] 工事負担金で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入制度の対象となる事業に有線テレビジョン放送事業が追加された。

 イ 62年度電気通信関連財政投融資
 62年度電気通信関連財政投融資については,新規に民活法関係の電気通信高度化基盤施設(以下「テレコムプラザ」という。),電気通信研究開発促進施設(以下「テレコム・リサーチパーク」という。)及びテレポートの整備事業に対し,それぞれ日本開発銀行等からの出資及び最優遇特利による融資が認められた。
 また,CATV関連で,融資対象にCATV番組供給事業が追加された。なお,通信衛星を利用するCATV番組供給事業については最優遇特利が適用されることとされた。このほか,ビデオテックス事業関連システムについて,ソフトウェアの購入,開発費等の非設備資金についても日本開発銀行等の融資対象に加えられた。

 ウ 地域における社会資本としての情報通信基盤の整備
 「日本電信電話株式会社の株式の売払収入の活用による社会資本の整備の促進に関する特別措置法」が62年8月に成立した。
 それに伴い,郵政省関係ではテレトピア事業及び民活法施設整備事業に対し,日本開発銀行等からの無利子融資が認められることとなった。
 なお,融資対象は地方公共団体の出資又は拠出に係る法人等とされている。

 エ 基盤技術研究促進センターの出融資
 基盤技術研究促進センターは,民間において行われる基盤技術に関する試験研究の促進に関する業務を行うことを目的とする機関であり,民間において行われる基盤技術に係る試験研究に必要な資金の出資及び貸付け等を行っている。
 61年度における基盤技術の試験研究に対する出資は47件125億円で,うち22件25億円が新規の採択案件であった。電気通信関係の新規出資採択案件はテレマティーク・ライブラリ・システム,コンディショナル・アクセス・テクノロジー,静止プラットフォーム型通信・放送衛星技術,ディジタル動画像通信システム用高速処理アーキテクチャの各研究開発のほか,11件のテレトピア推進法人で計15件,出資額は12.5億円と報道発表された(第1-2-1表参照)。また,基盤技術の試験研究を行う企業等に対する融資は,90件57億円で,うち30件12.5億円が新規の採択案件であった。電気通信関係の新規融資案件は計18件で,融資額は6.25億円と報道発表された。

 オ 民活法対象施設の動き
 民活法の郵政省関係対象施設は,当初のテレコム・リサーチパーク及びテレコムプラザに,62年6月の民活法の改正によりテレポートが追加された。
 これら3種類の特定施設の整備状況は以下のとおりである。
 (テレコム・リサーチパーク)
 郵政省は62年7月,(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATRインターナショナル)から申請があった整備計画を,テレコム・リサーチパークの第1号整備計画として認定した。同計画は,関西文化学術研究都市内の京都府相楽郡精華町に,我が国の電気通信に関する基礎的研究の一大拠点施設を整備するものであり,総事業費は約160億円である。
 (テレコムプラザ)
 テレコムプラザについても,62年10月に富山市民プラザ等4プロジェクトの整備計画を第1次の整備計画として認定したところである(第1-2-2表参照)。
 (テレポート)
 テレポートとは,情報化,国際化,都市化等に対応するため,都市又は港湾に通信衛星を利用した高度な機能を有する電気通信基盤を整備する地域開発プロジェクトであり,一定の地域内に衛星通信地球局(パラボラアンテナ等),電気通信中枢センター,大規模光ファイバ網等を集中整備するものである。
 また,このテレポートと一体的に設置されるインテリジェントビルについても民活法の対象施設となっている。
 現在,東京(東京湾13号埋立地),横浜(みなとみらい21地区)、大阪(大阪南港)等において,地元自治体主導のもとにテレポート計画が進行しているところである。

(3)技術開発の推進

 ア 新しい電気通信システム
 (電子メール)
 電子メール通信の方式については,62年5月に,電気通信技術審議会から,「効率的な電気通信を確保するための望ましい通信方式」として,推奨通信方式の答申が行われた。答申の主な内容は,CCITTにおける勧告X.400シリーズに準拠した,電子メール通信網の網間接続プロトコルと,パソコン用電子メール通信プロトコルに関する事項であり,今後の普及が期待される。
 なお,推奨通信方式については,62年9月に告示された。
 (電子会議システム)
 電子会議システム(テレコンファレンスシステム)については,オフィスの効率化,経済化を図る新しい通信形態として,その早期実現が期待されている。このような状況の中で,62年4月,郵政省では,およそ10年後の電子会議の利用イメージや技術開発課題等について検討を行うために開催した「テレコンファレンスに関する調査研究会」における意見を取りまとめた。
 これによれば,電子会議システムの将来形態として,[1]電子会議室(現在の会議室のように複数出席者が利用できるシステム),[2]電子会議ボックス(個人使用を前提としたシステム),[3]会議ステーション(ワークステーションを利用して,各自の机上で会議ができるシステム)の三つのシステムから成る「電子会議場」と呼ばれる新しい概念が提案されている(第1-2-3図参照)。また,今後の技術開発課題として,ネットワーク関連技術,セキュリティ技術,会議支援技術等の開発目標が提言されている。
 (立体映像システム)
 映像システムの発展形態として今後の実用化が期待されている立体映像システムは,様々な分野への応用が考えられる。電気通信分野でも,今後の発展形態やサービス内容に大きなインパクトを与える可能性があることから,62年4月,郵政省では,立体映像システムの実用化に不可欠な各種技術の調査,応用分野,今後の技術課題及び発展方向について検討を行うために開催した「立体映像システムに関する調査研究会」における意見を取りまとめた。
 郵政省では,今後,この研究会における意見を参考に,立体映像システムの研究開発体制を整備し,技術開発を推進していくとともに,国際共同研究を西独をはじめとする欧米各国に働きかけていくこととしている。
 (ホームバスシステム)
 ホームバスシステム(HBS)の標準化に関しては,61年7月,郵政省及び通商産業省の指導により「EIAJ/電波技術協会合同HBS規格委員会」が設置され,統一規格の作成が開始され,62年2月に標準仕様がとりまとめられた。
 この標準仕様は基本規格と応用規格から成り,このうち基本規格については,端末間における機器の種類に依存しない接続条件を規定したものであり,バス構成上の物理的・電気的条件や,端末間における情報チャネル及び制御チャネルの接続条件を定めている。
 情報通信機器別の具体的な利用に関する応用規格については,今後の商品化に伴い追加変更が予定されるため暫定規格とし,今後,通信機械工業会,日本電子機械工業会(EIAJ)等で継続して検討することとなっている。この標準化に伴い,ホームバスの実用化が促進されるものと期待されている。
 また,電力線ホームバスについては,61年7月に「電力線搬送通信調査委員会」から,標準規格案に関する報告書が提出された。郵政省では,この規格案に基づき,62年3月,電波法施行規則の一部を改正した。この改正により,指定を受けた型式の装置については個別の許可手続が不要となり,今後の普及が促進されるものと期待されている。

 イ 新しい放送技術の開発及び実用化
 最近のエレクトロニクス技術の目覚ましい発展により,高度化・多様化する放送に対する国民のニーズにこたえ得る新しい放送ニューメディアの開発が可能になってきている。放送技術の開発及び実用化は,行政当局と放送事業者,メーカ等が積極的に協力しながら推進していくことが重要であり,これらの放送技術開発を効率的かつ円滑に推進することを目的として,60年9月「放送技術開発協議会(BTA)」が設立され,放送に関する技術開発及び実用化の諸課題に取り組んでいる。
 (衛星テレビジョン有料方式)
 65年に打上げ予定のBS-3は,3チャンネルのテレビジョン放送を行うものであり,そのうち1チャンネルは,一般放送事業者の使用が予定されている。この一般放送事業者の放送については,収入源として,広告放送のほかに,有料放送を行うことも検討されている。
 衛星テレビジョン有料方式に関しては,61年4月に,電気通信技術審議会において,映像及び音声のスクランブル方式及び料金情報等の関連情報の仕様に関する暫定規格が定められた。
 現在,この暫定規格に基づいて,BS-2bを用いた伝送実験が実施されており,この実験の結果を踏まえ,同審議会において技術的条件が審議されることとなっている。
 (衛星放送データ伝送)
 我が国の衛星テレビジョン放送の標準方式では,音声に用いられるディジタルチャンネルの容量に余裕があり,音声以外の情報が伝送できる。この余裕部分を他の各種サービスに用いるためには,各サービスに共通的な設計思想による整合のとれた伝送基準を設ける必要があり,61年4月に,電気通信技術審議会において暫定規格が定められた。この暫定規格では,データチャネルを使用する場合の共通データフォーマット等の共通的伝送規格をはじめ,情報伝送の容量,伝送切替等の技術的条件を定めている。現在,この規格に基づき,BS-2bを用いた伝送実験が行われており,この実験の結果を踏まえ,62年度中に同審議会から答申が出される予定である。
 (高品質ディジタル音声放送)
 音響機器の高品質ディジタル化が進んでいる中で,音声放送についても高品質ディジタル化が期待されている。一方,技術的にも,移動通信及び衛星通信の分野で開発が進められているスペクトラム拡散通信技術等のディジタル無線伝送技術を応用することにより,高品質ディジタル地上放送の実現の可能性が生じてきている。このような状況の中で,61年11月から「高品質ディジタル音声放送研究会」において,高品質ディジタル音声放送の開発の可能性について意見交換が行われ,62年4月に,ディジタル音声放送に求められる品質等に関する技術開発の目標が定められた。引き続き,変調方式等の基本的諸元や実用化の技術開発課題と研究開発方策について意見交換が行われている。
 (ファクシミリ放送)
 ファクシミリ放送は,放送電波を利用して文書,図形等を伝送するもので,放送の特質である同報性及び速報性に,記録性及び保存性が加わるものである。ファクシミリ放送の方式については,周波数の有効利用を図る観点から,テレビジョン放送の音声部分に重畳する方式について検討が進められ,61年7月にアナログ伝送方式について方式案がまとめられた。しかし,アナログファクシミリ方式は,音声多重放送との両立性に問題のあるテレビジョン受信機があることも指摘されており,ディジタル伝送方式についても検討が始められている。63年初旬には,ディジタル方式についての取りまとめが行われる予定である。
 (高画質化テレビ)
 高画質化テレビ(EDTV)は,在来の地上テレビジョン放送の受信機と両立性を保ちながら高画質化を図るものであり,その開発が期待されている。現在,放送技術開発協議会では,各方式案の比較検討及び評価が行われており,63年度中を目途にEDTVの方式について取りまとめが行われる予定である。
 (中波ステレオ放送)
 中波ステレオ放送については,米国でその全中波放送局の8%に相当する約400局(61年現在)で実施されているほか,カナダ,メキシコ,ニュー・ジーランド,オーストラリア,南アフリカ等の国で実施されている。我が国でも,中波ステレオ放送の可能性を検討するため,放送技術開発協議会において,[1]ステレオ放送方式,[2]モノラル放送との両立性,[3]ステレオ化によるサービスエリアの変化等の技術的諸問題に関する野外実験等が実施されている。

(4) ネットワーク化の推進

 データ通信に代表される情報通信ネットワークの活用が企業活動に不可欠なものとなっている今日,ネットワーク化の推進が重要な課題となってきている。郵政省では,ネットワーク化の推進に向け,人材の育成,ネットワーク間接続のためのプロトコルの標準化,ネットワークの安全・信頼性対策,ネットワークの発展に伴う番号体系の在り方,ISDNの推進等の様々な課題に対して検討を進めている。
 (ネットワーク化と人材)
 ネットワーク化の急速な進展に伴い,ネットワーク化に携わる人材の不足が問題となっており,また,ネットワークを取り巻く環境やネットワーク化の目的も変化しつつあることから,これらの人材に対するニーズも質的に大きな転換期を迎えている。このような状況の中で,郵政省では,「ネットワーク化推進会議」における意見を取りまとめた。その中で,ネットワーク化と人材の育成に関する内容は,以下のとおりである。
 利用者においては,マネジメントを中心とする総合的な能力をもつ「ネットワーク・マネジャー」の育成が,電気通信事業者においては,高度化・多様化するニーズに対応できる一層専門的な知識・技術を有する「ネットワーク・システム・エンジニア」の育成が求められており,そのためには,多角的な政策の推進が必要であるとしている。
 (ネットワーク間接続)
 ネットワーク間接続に関しては,郵政省は,「ネットワーク化推進会議」における意見を以下のとおり取りまとめた。
 ネットワーク間接続のニーズが強まっているが,現在,標準となるプロトコルがなく,その標準化が求められている。また,各製品が標準プロトコルに確実に適合していることを保証する必要があり,適合性試験の実施がネットワーク間接続の実現には必要不可欠である。さらに,ネットワーク間接続推進のために,利用者に対してプロトコル情報をはじめとするネットワーク技術情報を提供し,利用者のネットワーク構築に対する助言を行うコンサルタント機関が必要である。
 (安全・信頼性対策)
 ネットワークの高度化に伴い,設備障害のネットワーク全体への波及等ネットワークが内包するぜい弱性が問題となっている。また,ネットワークへの不法な進入によるデータの盗用,破壊等の危険性も増している。このような状況の中で,61年6月,電気通信技術審議会より,「電気通信システムの安全・信頼性対策の在り方」について答申が行われた。この答申では,電気通信システムに関する安全・信頼性対策の基本的な指針としてのガイドラインが提示された。
 郵政省では,この答申に基づき,情報通信全般にわたる安全・信頼性の推奨基準として,「情報通信ネットワーク安全・信頼性基準」を,また,この基準のうち一定の対策が実施されている情報通信ネットワークの登録制度を,62年2月に制定した。
 (番号体系の在り方)
 電気通信ネットワークの発展に伴い,番号体系の在り方について長期的な視点から検討を進めていくことが必要となっている。郵政省では,62年7月,電話系番号の在り方,データ通信系番号の在り方及び電話加入者等の利用者のプライバシーの保護と電話番号の公開方法について,「電気通信ネットワークの発展に伴う番号の在り方に関する研究会」における意見を中間的に取りまとめた。
 電話系番号については,地域系事業者(電話網を提供し,端末網及び必要に応じ中継網をもつ事業者)のネットワークに対する一般電話番号は既存体系とは別のものとし,番号容量及びサービスの独自性等が確保できる番号拡張方式が望ましいとされている。
 データ通信系番号については,データ網の円滑な相互接続のために,国際標準に基づいた番号計画の策定が必要であり,データ網識別符号(DNIC:Data Network Identification Code)とそれと続く3けたのプライベート網識別符号(PNIC:Private Network Identification Code)の組合せにより網識別を行う番号構成が適当であるとされている。
 これによれば,利用者のプライバシーの保護と電話番号の公開方法に関して,五十音別電話帳情報は,個人情報の保護の観点から,電話番号を確認するために必要な情報入手に不便を来さない程度の公開にとどめ,職業別電話帳情報は,他の事業者に対しても公開され,同等の条件で提供されることが適当であるとされている。
 郵政省では,引き続き,ISDN番号計画へ向けての課題等について検討を行うため,同研究会を継続することとしている。
 (ISDNの推進)
 国際標準に準拠したISDN導入については,63年を目途に準備が進められている。一方,ISDNとこれを基盤とするディジタル通信サービスの本格的普及を図るためには,その特性を十分に生かした新世代の通信端末の開発やこれらの端末間の円滑な相互通信の確保が必要であり,62年6月,郵政省では,ISDNサービスと端末開発の在り方及びISDN総合推進対策の必要性に関して「ISDN端末開発協議会」における意見を中間的に取りまとめた。
 今後,ISDN端末の普及率や網のディジタル化の目標設定,ISDNの整備・普及方策等を盛り込んだISDN総合推進対策の骨子を固めることとしている。

(5)郵便の新たな展開

 ア 郵トピア構想の展開
 今日,地域社会では,著しい社会経済環境の変化に対応しつつ,その独自性を生かした発展が期待されている。一方,郵便事業においては,利用者ニーズの変化に伴い,時代の要請に即応したサービス展開が求められている。
 こうしたことから郵政省では,活力ある快適な地域社会の形成に寄与しつつ,新しい時代にふさわしい郵便の実現を図っていくため,62年度から「郵トピア構想」を展開している。
 「郵トピア構想」は,全国各地にモデル都市を指定し,当該モデル都市において地域社会の発展に資するサービスや新しい郵便サービスを集中的かつ先行的に提供するものであり,62年4月,20都市が指定された(第1-2-4図参照)。
 郵トピア構想において提供されるサービスの内容は,第1-2-5表のとおりである。各郵トピア構想モデル都市における具体的なサービスは,当該地域の実状を踏まえて,この中から個別に選択されており,順次サービスが開始されている。
 イ 郵便制度の弾力化
 郵便サービスの改善と利用の増大に資するため,62年6月,郵便法等の改正が行われた。
 (ア)第一種郵便物及び第二種郵便物の料金の特例範囲の拡大
 従来から一定の条件を満たす第一種郵便物及び第二種郵便物については,最高10%の料金割引が行われていたが,このほかに,62年10月から,第一種郵便物及び第二種郵便物のうち,商品の広告等のために大量に差し出される広告郵便物については,配達郵便局ごとの区分差出し,後回し処理の承諾等の条件の下に,差出しの都度又は1か月間に差し出されたものをまとめて,最高30%までの料金割引が行われることとされた。
 (イ)郵便に関する料金の口座振替制度の実施
 従来,後納郵便料金は,利用者が郵便局又は日本銀行の歳入代理店等に出向いて現金又は小切手で納付することとされていた。62年7月から,その納付が確実と認められるなど一定の場合には,銀行等の口座振替又は郵便振替を利用して納付できることとされた。
 (ウ)代金引換制度の改善
 従来,代金引換の郵便物は必ず書留(簡易書留を除く。)としなければならないこととされていたが,62年7月からこれを簡易書留とすることも,書留としないこともできるようにされた。
 (エ)くじ引番号付き郵便切手の発行
 現在,郵便葉書についてはくじ引番号付きのものも発行されているが,63年度から年賀封書等に使用する郵便切手についても,くじ引番号を付けて発行できることとされた。

(6)放送政策の新たな展開

 ア 民間テレビジョン放送,FM放送の拡充
 民間テレビジョン放送については,これまで全国各地域における受信機会の平等の実現と地域間情報格差の是正をめざし拡充が続けられている。現在,周波数割当計画上は,全国世帯数の80%以上の世帯において4以上の民間テレビジョン放送が視聴可能となっている。
 郵政省では,今後,全国各地で最低4チャンネルの民間テレビジョン放送を視聴できるよう周波数の割当てを行うこととしている。
 一方,民間FM放送については,県域を原則として周波数の割当てを行い,全国普及を図ってきた。その結果,61年度末現在,41都道府県について周波数の割当てを行っており,62年4月1日に放送を開始した青森地区,同年10月1日に放送を開始した新潟地区を含め,現在,25都道府県で放送が実施されている。
 また,周波数の割当てが行われていない6県について,早期に周波数の割当てが可能となるよう検討を進めている。
 他方,郵政省では,FM放送の普及とともに,放送番組の多様化についての要望が特に大都市において高まっていることから,周波数事情,経営基盤,放送需要及び音声放送の全体的な在り方等を考慮しつつ,差し向き,大都市地域について複数の民間FM放送の受信が可能となるよう周波数割当を進めることとし,60年9月には,東京及び大阪に2チャンネル目の周波数の割当てを行った。
 なお,周波数は割り当てられているが,まだ放送が開始されていない地区についても,早期に放送を開始することができるよう準備が進められている。

 イ ハイビジョンの推進
 カラーテレビに次ぐ次世代のテレビと呼ばれるハイビジョン(高精細度テレビジョン)の研究が,郵政省,NHK等を中心に進められている。
 ハイビジョンは,従来のテレビに比べ,画面の縦横比が3対4から9対16に,走査線数が525本から1,125本に,音声がアナログ方式からコンパクト・ディスク並みのディジタル方式となるなど,広い画面で臨場感あふれる鮮明な映像と音声が得られるものである。このため,放送以外にも映画,印刷・出版,医療等応用分野が広く,視聴者,産業界から早期実用化を望む声が高まっている。
 (技術開発の動向)
 ハイビジョンの技術開発については,CCIRにおいて国際標準化が進められている。我が国においても開発・実用化が積極的に推進されており,61年5月のCCIR総会において,日本,米国,カナダの3国共同で提案したスタジオ規格が,報告書の中の「新勧告の提案」として取り上げられた。
 これらの状況の中で,将来におけるハイビジョン放送の導入を考慮し,その国際標準化に寄与するため,スタジオ規格,伝送方式等の技術的条件を定めることを目的に,電気通信技術審議会において審議が進められている。また,現在,BS-2bを用いた技術開発のための放送実験が行われている。
 今後はBS-2bを利用した伝送実験,地上放送,CATV等による伝送システム技術に関する調査・研究等を実施し,65年に打上げ予定のBS-3やCATVによる実用放送開始に向け,積極的な技術開発が行われる予定である。

 ウ スペース・ケーブルネット構想の推進
 我が国のCATVは着実に成長を遂げているが,なお,CATV施設の大半がテレビジョン放送の再送信を行う難視聴対策施設にとどまっているのが実状である。
 CATVは,各種の情報サービスを提供する新しい地域の情報通信基盤としての役割を果たすことが期待されている。また,近年,大規模,多チャンネルでかつ双方向機能を有する,いわゆる都市型CATVの開局が相次ぐとともに,これに触発されて,CATV向けの番組供給事業が活発化し,既にビデオカセットにより供給を行っている事業者が約20社あるほか,供給手段として通信衛星を利用する事業計画もある。
 このような背景から,郵政省では61年6月,民間通信衛星を利用したスペース・ケーブルネット構想をまとめた。本構想は,通信衛星を介して全国のCATV施設に各種の専門番組ソフトを供給することを目指すものである(第1-2-6図参照)。
 本構想の実現により,全国のCATVに多彩で魅力ある番組ソフトが豊富に供給され,情報に対する国民の多様なニーズにこたえるとともに,地方の活性化・情報化の促進,大都市と地方との文化・情報格差の是正が図られる。また,CATV網の整備の促進,再送信専用CATV施設のグレードアップ等が図られ,地域における情報基盤の整備及び内需拡大に大きく貢献することとなる。
 構想の実現に当たっては,既存の再送信専用CATV施設の多チャンネル化を含めたCATV網整備の促進,番組供給体制の確立,不正視聴への対応,衛星受信システムの低廉化等,今後解決しなければならない課題も多い。このため郵政省では,本構想推進のための具体的方策について検討を行うため,61年11月から「スペース・ケーブルネット推進懇談会」を開催している。
 なお,62年度にCATV番組供給事業に対する財政投融資制度が創設され,同事業の実施に必要な諸設備に対し,設備建設金額の40%を上限とする融資が図られることとなった。これにより,番組供給事業の一層の発展と本構想の円滑な実現が促進されるものと期待される。

 エ CRC(クリーン・レセプション・シティ)構想の推進
 中高層建造物の増加による都市の高層化に伴い,大都市圏においては,いわゆる都市受信障害が多発しており,61年度末の受信障害世帯数は約67万世帯と推定されている。
 都市における受信環境は,受信障害の複合化及び広域化,既存CATV施設の老朽化,都市型CATV出現への対応等新たな状況を迎えている。これらに適切に対応するためにCATV施設の大規模化・高度化等や建築物への対策を総合した受信環境の広域的整備の必要性が高まっている。
 郵政省では,このような新たな状況に適切に対応するため,61年10月から「都市受信改善促進調査研究会」を開催した。同調査研究会において,62年3月,受信環境の広域的整備の在り方としてCRC構想が提起された。
 CRC構想では,[1]多チャンネル需要に対応可能なチャンネル容量を有する高度CATV網の広域的な敷設及び[2]新築される高層建築物に対する反射障害の防止・抑制対策の実施,を基本理念としている。
 同構想では,受信障害地域の中からモデル地域を選定し,そのモデル地域を中心に,受信環境の広域的整備のための方策の導入と,モデル地域における地域CRC推進協議会(仮称)の設置が提言されている。
 同構想は,受信障害解消のための建築主の費用負担の増大を抑制するとともに,住民の多チャンネルニーズにこたえ得るものであり,内需拡大にも資することから,郵政省ではこれを受けて,今後,具体的な検討を進めていくこととしている。

(7)宇宙通信に関する主な動き
 (H-<1>ロケット試験機1号機の打上げ)
 H-<1>ロケットは,60年代前半の大型衛星の打上げに対処するとともに,将来の技術基盤確立のために開発されたロケットであり,重量約550kgの静止衛星を打ち上げる能力を有する3段式ロケットである。
 このH-<1>ロケット(2段式)試験機1号機が,61年8月13日,種子島宇宙センターから打ち上げられた。この打上げにより,H-<1>ロケット(2段式)の飛行性能が確認されるとともに,測地実験衛星及びアマチュア衛星の複数衛星の打上げに関しても計画どおりに実施され,当初の目的は達成された。なお,アマチュア衛星は「ふじ」と命名され,我が国初のアマチュア衛星となっている。
 (技術試験衛星<5>型の打上げ)
 H-<1>ロケット(3段式)試験機の飛行性能を確認するとともに,次期実用衛星開発に必要な自主技術の蓄積及び衛星を用いた移動体通信実験を行うこと等を目的に、技術試験衛星<5>型(ETS-<5>)が,62年8月27日,種子島宇宙センターから打ち上げられた。
 この打上げにより,H-<1>ロケット(3段式)の飛行性能が確認されるとともに,次期実用衛星開発に必要な自主技術め蓄積が得られ,第二世代の実用衛星である通信衛星3号(CS-3)及びBS-3の,静止軌道への打上げが大きく進展することとなった。
 また,技術試験衛星<5>型(ETS-<5>)を用いて,航空機の太平洋域の洋上管制及び船舶の通信・航行援助等の移動体通信実験が予定されている(第1-2-7図参照)。
 なお,技術試験衛星<6>型(ETS-<6>)については,H-<2>ロケットにより67年度に打ち上げることを目標に,開発が行われることとなった。
 (通信衛星及び放送衛星の開発・利用の推進)
 衛星通信は,耐災害性,同報性,広帯域性,多元接続性等の多くの優れた特性を有しており,全国レベルの広い地域とともに,都道府県レベルの比較的狭い地域においても,これらの特性を生かした利用の拡大が期待されている。
 このため,衛星通信利用の促進を図ることを目的として,衛星利用パイロット計画において,CS-2を利用した衛星通信に関する運用実験が進められている。また,都道府県レベルの地域の情報通信システムを対象とした,衛星利用ローカル・ネットワーク・モデルについては,「衛星利用ローカル・ネットワーク研究会」において調査研究が行われ,62年2月に報告書が提出された(第1-2-8図)。
 同報告書では,地域における情報通信システムの高度化や,利便性の向上のために,衛星通信の利用は有効であり,経済性等の課題の解決に努める必要があるとの評価が行われるとともに,衛星利用ローカル・ネットワークの普及促進,データベース構築の推進,衛星通信に関する利用環境の整備等が提言されている。
 郵政省では,同報告書を基に,その具体化に向けて検討を進めている。
 通信衛星については,CS-2の後継衛星として,第二世代の実用衛星であるCS-3を,62年度及び63年度に打ち上げることを目標に,開発が進められているほか,民間においても二社の衛星通信事業者が,米国製の通信衛星を購入してサービスを開始することを目標に準備を進めている。
 一方,放送衛星については,BS-2の後継衛星であるBS-3を,65年度及び66年度に打ち上げることを目標に,開発が進められている。

(8)電波利用の促進と電波環境対策

 ア 電波利用の促進
 (伸びる電波利用)
 現在,電波は,社会生活及び経済活動の様々な分野で多種多様に利用されており,日常生活に必要不可欠なものとなっている。25年の電波法制定当時にはわずか5千局程度であった無線局の数も,61年度末では400万局に達しており,電波利用に対するニーズは,量的のみならず質的にも拡大しつつある。特に自動車電話や無線呼出し,パーソナル無線といった移動通信の分野における電波利用ニーズの伸びが著しい。
 郵政省では,電波利用を促進するため,新規参入電気通信事業者の無線局の免許,自営通信における電波利用の拡大,電波法の外国性排除に関する制限の緩和,無線局の免許手続きの簡素化,新しい電波利用システムの開発・導入,周波数資源の開発等の様々な施策を推進してきている。
 (周波数資源の開発)
 電波の有効利用を図るための周波数資源の開発については,既利用周波数帯の再開発として,準マイクロ波帯(1〜3GHz)における陸上移動通信システム及び周波数高密度利用技術の開発を行っている。また,未利用周波数帯の開発として,ミリ波を利用し計測等を行うためのミリ波センシングシステム及び光領域周波数帯の開発を行っている。
 一方,不法無線局によるテレビ等の放送の受信障害や,警察,航空等の重要無線に対する混信妨害に対処するため,電波監視の機動力の強化など,電波監視機能の整備,拡充を進めている。
 (新しい電波利用システムの導入)
 郵政省では,需要の増加が著しい移動通信分野を中心に,東京湾マリネット計画,新測位システム,テレターミナルシステム,新陸上移動無線電話システム(コンビニエンス・ラジオ・フォン)等の新しいシステムの導入について,制度的,技術的側面からの検討を進めている。
 新測位システムに関しては,航空機の運行,海底資源の探査,完全無人化船の運行等に必要とされる精度及び信頼性の高い新しい測位システムについて検討が進められている。
 テレターミタルシステムは,外動のセールスマン,車両等の移動設備等と各ユーザのオフィスやセンターコンピュータとの間でデータ伝送を簡単,低廉に行うことを目的とする無線通信利用の双方向のデータ通信システムである。現在,実用化のための実証実験が行われている。
 新陸上移動無線電話システムは,自動車等移動体から一般加入電話への通信を,複雑な制御を行わない簡易なシステムとすることにより,安価で簡便に行えるものである。62年3月に「新陸上移動無線電話システム研究会」から報告が出され,この結果に基づき具体化のための検討を進めている。
 (電波法の一部改正)
 電波利用の促進を図るため,62年6月,電波法の一部改正が行われた。改正の主な内容は次の3項目である。
[1] 無線局の免許手続きの簡素合理化を図るため,空中線電力の小さいコードレス電話等の無線局について,技術基準への適合性等が確保されている場合は免許が不要とされた。また,パーソナル無線の免許の有効期間が5年から10年に延長された。
[2] 不法無線局対策を充実するために,指定された空中線電力の範囲を超えるハイパワーの無線局を運用した場合に罰則が課されることとされた。また,不法無線設備の製造事業者及び販売事業者に対し,郵政大臣は,通商産業大臣の同意を得て,その設備の販売中止や回収等の勧告が可能とされた。
[3] 無線局の開設等に必要な照会・相談に応ずる電波有効利用促進センターを指定することが可能とされた。
 この結果,今後,電波利用者の利便の向上と電波の有効利用が一層促進されることが期待される。

 イ 電波環境対策
 近年,各種無線機,電子機器が広範に利用され,これらの機器から発生する不要電波(注6)によって産業用ロボット等の機能に対する障害等が発生し,社会的に大きな問題となっている。また,携帯用電動工具,家庭用電気機器等から発生する妨害電波及び妨害高周波電流による受信障害に対する問題が起きている。さらに,電波利用施設の周辺における電磁波が,人体に影響を与える可能性があることも指摘されている。これらの諸問題について,電波環境対策の立場から各方面で検討が行われている。
 (不要電波対策)
 不要電波問題については,62年5月,「不要電波問題懇談会」における意見を郵政省で,「不要電波問題に関する調査研究報告書」として取りまとめた。同報告書では,不要電波による障害事例の収集及び現状の制度に関する調査結果とその対策に関する提言を行っている。提言の主な内容は,[1]総合的な電磁環境の整備,[2]電磁環境を一元的に取り扱う機関を中心とした体制の整備,[3]基準の整備の必要性及び基準の実施体制としては,法令に基づいて民間を主体とした実施体制が望ましいことなどである。
 郵政省では,本報告書を基に,不要電波による障害防止のための具体的な対策について検討を進めていくこととしている。
 (妨害電波等による受信障害対策)
 妨害電波及び妨害高周波電流による受信障害の問題については,電気通信技術審議会から「情報処理装置及び電子事務用機器から発生する妨害波の許容値及び測定法」等の答申が提出されているが,さらに,61年9月,「妨害電波及び妨害高周波電流による受信障害防止に必要な技術的諸問題」について答申が提出された。この答申の内容は,国際無線障害特別委員会の国際規格に準拠した国内規格を示したものであり,ラジオ及びテレビジョン受信機からの妨害波の許容値及びその測定法の規格,家庭用電気機器,携帯用電動工具及び類似電気器具からの妨害波の許容値及びその測定法の規格が具体的に示されている。なお,対象となる機器の適用範囲についても示されている。
 (電磁波の人体への影響)
 郵政省では,電磁波の人体に及ぼす影響に関して,61年12月から「電波利用施設の周辺における電磁環境に関する研究会」を開催して,電磁波の人体への影響の研究,我が国の電磁環境の現状及び海外における安全基準に関する動向について調査研究を進めた。
 電磁波の照射が人体に与える影響としては,熱効果(体内温度の上昇)と非熱効果(電流による刺激作用等)が知られているが,具体的に個々人に与える影響は,まだ解明されておらず,また,人体に照射されている電磁波の正確な値を測定する方法も未解決となっている。
 電波利用施設の周辺における電磁界の実態については,今回の調査結果より,一般市民が近づき得る場所で,著しく高い値の電磁界は測定されなかった。しかし,電波利用施設は,周波数,電力,運用時間,通信方法等が多種多様であることから,より詳細な実態を把握するために,今後も実態調査を継読することが必要となっている。
 諸外国においては,米国,ソ連,西独,カナダ,オーストラリア,ポーランド等で,独自の安全基準が設けられており,我が国においても安全基準の早期設定が必要となっている。
 今後の課題としては,安全基準の策定に向けての検討とともに,その基準の遵守を図るための体制の整備,総合研究体制の整備,電磁環境の実態調査の継続的実施等が挙げられている。

(9)通信に関する国際分野の動き

 ア 通信に関する国際協議
 (ア)国際衛星通信分野への非インテルサットシステムの参入
 国際通信需要の急速な拡大とその高度化・多様化を求める経済界の声を背景に,インテルサットシステムとは別個の大陸間衛星通信システムを設置しようとする動きが米国にでてきた。
 米国連邦通信委員会は,60年7月から62年1月にかけて大陸間衛星通信システム設置許可申請事業者8社に対して,公衆網にアクセスしないサービスであること及び外国の通信主管庁がシステムの利用を承認し,さらに,締約国である米国とともにインテルサット恒久協定に基づく調整手続を踏むことなどを条件として許可を与えた。
 61年4月に,許可申請事業者の1社であるパンナムサット社がペルー政府の承認を受け,5月に米国とともにインテルサットと調整手続に入った。同年12月の理事会において米国-ペルー間通信用の5個のトランスポンダについてインテルサットシステムと技術的に両立し,かつ,インテルサットシステムに著しい経済的損害を与えないとの判断がなされ,翌年4月の臨時締約国総会において承認された。これが初の非インテルサット系大陸間衛星通信システムである。
 我が国としては,インテルサットシステムが国際社会に果たしている役割を評価し,今後ともこれを支持する。しかし,国際衛星通信サービスのより一層の向上を図るためには,国際衛星通信分野に競争原理を導入することが有効であり,インテルサットシステムに著しい経済的損害を与えない限りにおいて,インテルサットシステム以外の別個のシステムを認め,両者の共栄を図るよう努めるべきであると考えている。
 (イ)二国間定期協議
 二国間定期協議は,情報通信の社会的重要性の増大,社会・経済の国際化の進展に伴って,従来の国際機関の場における多国間調整のみでは十分な成果が望めない問題や,二国間特有の課題が生起してきたことにより,その開催の必要性が相互に認識され,実施されているものである。このような定期協議の場における意見交換,情報交換は,相互の政策立案に資するだけでなく,二国間の相互理解,協力関係の増進にも大きな役割を果たしている。
 郵政省は現在,電気通信関係では米国,英国,西独,カナダの各国の電気通信主管庁との間で,二国間定期政策協議を実施しており,そのほかにフランス及びEC(欧州共同体)との間でも開催.についての合意がなされている。郵便関係では米国及び大韓民国の郵便主管庁との間で二国間定期郵便会議が開催されている。
 (電気通信定期協議)
 61年度に開催された電気通信関係の二国間定期政策協議は,日加電気通信定期協議第2回会合,日米電気通信定期協議第2回会合及び日英電気通信定期協議第4回会合である。
 日加電気通信定期協議第2回会合は,61年6月にバンクーバーで開催され,両国の最近の電気通信の動向,両国の協力体制(HDTV,EDTV,端末機器の基準認証,自動翻訳電話システム,新しい無線サービス及びR&D一般政策)等について協議が行われた。
 日米電気通信定期協議第2回会合は,61年6月にワシントンで開催され,両国の最近の電気通信の動向,両国の協力体制(無線機器の型式検定,新しい電波利用,HDTV,EDTV及び自動翻訳電話システム)等について協議が行われた。
 日英電気通信定期協議第4回会合は,62年3月に東京で開催され,両国の電気通信技術開発政策(新電気通信技術,新無線サービス及び放送ニューメディア),両国の電気通信政策,国際機関(ITU,OECD及びインテルサット)への対応等について協議が行われた。
 (定期郵便会議)
 61年度には,第2回日韓定期郵便会議が12月に東京で開催された。
 同会議では,郵便事業運営上の基本的な問題,郵便交換上の問題点等に関し協議が行われ,特に郵便事業における競争と営業活動について活発な意見交換及び情報交換が行われた。

 イ 国際協力推進体制の整備
 (開発途上国に対する電気通信分野の国際協力)
 郵政省では,62年5月,「開発途上国に対する電気通信分野の国際協力に関する研究会」における意見を取りまとめた。
 その内容は,[1]電気通信分野を国際協力の重要な分野として位置付けて,積極的な取組を行う,[2]協力の推進に当たっては電気通信の特質を踏まえた展開に留意する,[3]政府,民間一体となった国際協力推進体制を整備する,[4]電気通信ミッションの派遣,[5]電気通信コンサルタントの強化,[6]電気通信関係の人材養成施設の設置,等である。
 (国際機関における国際協力)
 電気通信開発センターは,ITUの下に開発途上国に対する電気通信分野の技術協力を提供する仕組みを強化することを目的として設立されたものであるが,61年9月,その活動を開始した。61年度,我が国の民間企業から,各国の中で最大の20万ドルの拠出があった。
 また,61年11月,第10回APT管理委員会がタイのバンコクにおいて開催され,域内における電気通信の開発促進方策等の具体化について討議が行われた。
 (セミナーの開催)
 開発途上国のルーラル地域(農村部)への電気通信の導入に対する関心が高まっている中,61年11月,アジア5か国(ビルマ,インドネシア,パキスタン,スリ・ランカ及びタイ)の電気通信主管庁及び運営体の電気通信網整備の責任者を招き,「開発途上国におけるルーラル電気通信網整備に関するセミナー」が開催された。ここでは,59年3月から2年
間にわたって郵政省が行った「開発途上国向けルーラル電気通信システムに関する研究会」の研究成果を紹介するとともに,参加国のルーラル電気通信ニーズをより一層的確に把握し,我が国のこの分野の協力を計画的かつ効果的に実施するため,経済的側面及び技術的側面について詳細な意見交換及び情報交換が行われた。
 また、61年12月、中南米6か国(メキシコ,パナマ,ホンジュラス,
グァテマラ,ペルー及びエクアドル)の電気通信技術者養成の責任者を招き,「中南米諸国の技術者養成の在り方に関するセミナー」が開催された。ここでは,中南米諸国における電気通信普及のために不可欠な技術者養成の在り方について,意見交換が行われた。
 (中国に対する国際協力)
 中国は,通信分野における国際協力の最重点国の一つと位置付けられてきたが,61年度においては,「北京郵電訓練センター」に対する技術協力が9月から本格的に開始され,10月,開所式が行われた。61年度か
ら5年間にわたり,専門家派遣,研修員受入れ,器材供与等が行われる予定である。
 民間ベースでも,従来よりNTTにおいて使用計画の終了したクロスバ交換機の実費による譲渡が行われていたが,61年度には,さらに,KDDにおいて使用計画の終了したテレックス加入者端末機について同様の譲渡が行われた。また,静止画放送の実験に関して,NHKの協力が行われた。
 (新しい分野での国際協力)
 近年,開発途上国からは,新しい分野の協力の要請が増大する傾向にある。
 開発調査については,開発戦略の策定及び具体的開発プロジェクトの提案を行う長期開発計画の策定に係る要請が増えてきており,我が国の計画作成に対する評価は高い。
 データ通信,ディジタル交換,光通信,ソフトウェア等の高度技術分野については,技術先進国である我が国への期待が大きく,61年度には,中国,シンガポール,マレイシア等にこれらの分野の専門家派遣が行われた。

第1-2-1表 基盤技術研究促進センターから出資を受けた研究開発会社の例(1)

第1-2-1表 基盤技術研究促進センターから出資を受けた研究開発会社の例(2)

第1-2-2表 テレコムプラザ認定施設一覧

第1-2-3図 電子会議場統合システム

第1-2-4図 郵トピア構想モデル都市

第1-2-5表 郵トピア構想モデル都市において提供されるサービスの内容

第1-2-6図 スペース・ケーブルネット構想概念図

第1-2-7図 移動体通信実験システム図

第1-2-8図 衛星利用ローカル・ネットワーク・モデル例

 

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