<熊野三山を目指す参詣道(さんけいみち)「熊野古道(くまのこどう)」>
和歌山県中南部に位置する田辺市は、平成17年に5市町村が合併して誕生したまちです。
日本有数の多雨地帯として知られる紀伊山地など、豊かな自然に恵まれ、
世界遺産に登録されている「熊野古道(くまのこどう)」があることでも知られています。
こうしたまちの特長を広くアピールして交流人口を増やそうと、「熊野古道」の世界遺産登録10周年を期に、
同じく世界遺産の巡礼道を有するスペインの「サンティアゴ・デ・コンポステーラ市」との観光交流協定の締結をはじめとした、新たな事業を開始しました。
深い山々が重なりあう紀伊山地では、自然崇拝に根ざした神道、外来の仏教、その両者を結びつけた修験道など多様な宗教が生まれ、また古来より当地方は「熊野」と呼ばれ、日本人の精神的、文化的側面に大きな影響を与えてきました。世界的博物学者である南方熊楠翁もまた熊野に魅せられ、そして熊野の森を護ってきた一人です。
その「熊野」の入口から聖地へとまたがる私たちの田辺市は、美しい海・山・川の大自然に恵まれ、さらには古の熊野詣の時代から現在に至るまで、全ての人々をおおらかに受け入れてきた風土があり、こうした悠久の自然を背景にした歴史と人々の幾世代にもわたる営みが評価され、世界文化遺産として「紀伊山地の霊場と参詣道」の登録につながりました。
近年は、国内のみならず海外からも当地を訪れる方々が急増しているところですが、先人が築き上げてきたこの営みを継承しつつ、今後さらに国内外の皆さまに当地の魅力を感じていただけるよう、ふるさと田辺応援寄附金(ふるさと納税)を目的に応じて有効に活用させていただいております。
これからもふるさと納税を通じてご支援くださる皆様の想いをしっかりと受け止めながら、当市の魅力を最大限に生かし、そしてその価値を高めてまいりますので、どうか引き続き田辺市を応援くださいますようよろしくお願いいたします。
田辺市では、豊かな自然の中で育まれた歴史や文化を大切にしたまちづくりを進めると同時に、これら歴史や文化を貴重な財産として未来へ継承するための活動にふるさと納税を活用しています。
寄附金は大きく分けて5つの事業に充てられますが、なかでも多くの寄附者に選ばれているのが「蟻の熊野詣(くまのもうで)〜世界遺産『熊野古道』関連事業〜」です。ふるさと納税の申込書のコメント欄にも「ぜひ貴重な世界遺産を守ってください」「いつかは田辺市に行って世界遺産の道を歩きたいです」といった応援メッセージが寄せられています。
市域の大部分を占める紀伊山地は深い山々が重なり合い、古代から多様な文化が育まれてきました。「高野山(こうやさん)」「吉野・大峯(おおみね)」「熊野三山(くまのさんざん)」の霊場があり、この3つの霊場とそこへ至る道が「紀伊山地の霊場と参詣道(さんけいみち)」として、ユネスコ世界遺産の文化遺産に登録されています。なかでも「熊野三山」への参詣道である通称「熊野古道」は「紀伊山地の霊場と参詣道」の多くを占めており、熊野三山へ参詣するために人々が行列を作って歩んだことから「蟻の熊野詣」とも呼ばれました。「熊野古道」にはいくつかのルートがありますが、メインルートは京都・大阪からの紀伊路(きいじ)です。さらにこのルートは、田辺から紀伊山地に分け入る道「中辺路(なかへち)」と、海岸線を南下する道「大辺路(おおへち)」に分かれ、田辺市は中辺路と大辺路の分岐点にあたるうえ、中辺路ルートのほとんどが市域を通っています。
ところが、世界遺産「熊野古道」は認知度が高いものの、田辺市に熊野古道があることはあまり知られていません。そこで田辺市では「世界遺産のまち、田辺」というイメージを醸成し、田辺市の認知度向上と交流人口の増加を目指した取組を始めることにしました。その第一弾として、平成26年度にふるさと納税を活用して、世界遺産登録10周年を記念する事業を行いました。
「熊野古道」のメインルートである紀伊路、なかでも中辺路は、平安時代から上皇(じょうこう)や貴族が参詣を繰り返した道として知られ、険しい山道が続きます。
※「熊野三山」とは、熊野本宮大社(くまのほんぐうたいしゃ)、熊野速玉大社(くまのはやたまたいしゃ)、熊野那智大社(くまのなちたいしゃ)の3社と、青岸渡寺(せいがんとじ)、補陀洛山寺(ふだらくさんじ)の2寺の総称。
寄附金の使い途 | 件数 | 寄附金額 |
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合計 | 7,106件 | 75,325,719円 |
蟻の熊野詣 〜世界遺産「熊野古道」関連事業〜 | 2,073件 | 21,443,101円 |
地球にやさしいふるさと 〜環境保全事業〜 | 889件 | 9,649,902円 |
あがらのまち 〜ふるさとづくり事業〜 (田辺、龍神、中辺路、大塔、本宮の各地域) |
688件 | 7,412,100円 |
元気かい!ふるさとの父、母、友よ 〜安心して、心豊かに暮らせるまちづくり事業〜 | 402件 | 4,349,800円 |
田辺にゆかりのある世界的偉人 南方熊楠翁顕彰事業・植芝盛平翁顕彰事業 | 210件 | 2,143,000円 |
特に指定なし | 2,844件 | 30,327,816円 |
田辺市では平成26年度に実施した「熊野古道」の世界遺産登録10周年の記念事業にふるさと納税を充てました。このうち最も多くの寄附金を活用したのが、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ市との観光交流協定の締結です。世界遺産に登録されている数百キロにも及ぶ巡礼道は、サンティアゴ・デ・コンポステーラ市にあるキリスト教の聖地へと続く「サンディアゴへの巡礼道」と「紀伊山地の霊場と参詣道」の2例しかありません。そこで両市の市長がお互いの市を訪問し、「持続可能な観光地づくり」や「巡礼文化の世界発信」を大きな柱とする観光交流協定を締結。その後、サンティアゴ・デ・コンポステーラ市の副市長を迎えて、田辺市内で観光交流協定に係る覚書の調印式を開催しました。早速、観光交流事業として二つの道の「共通巡礼手帳」の発行と、二つの道の巡礼達成者に記念品を贈呈する取組を始めたところ、熊野古道を訪れるスペイン人観光客が増加するなど、協定の成果が出ています。今後も両市の連携によって、国内外の観光客の増加を目指します。
スペイン国サンティアゴ・デ・コンポステーラ市との観光交流協定の締結調印式を開催。田辺市長とサンティアゴ・デ・コンポステーラ市長が出席。
また、世界遺産登録10周年記念事業として、道の保全と「熊野古道ウォーク」を体験する「熊野古道環境保全ウォーク」も開催しました。「熊野古道」は道幅が狭く、一部石段はありますが、ほとんどが土の道です。人が歩き、雨で土が流されるたびに道がやせてしまうため、土を運び込んで道を修復する道普請(みちぶしん)が欠かせません。
そこで田辺市では、チラシと市の広報誌で参加者を募り、「熊野古道環境保全ウォーク」を開催しました。市民や地元小学生も参加し、世界遺産保全活動を担う和歌山県世界遺産センターのスタッフの指導のもと、道普請活動を行いました。この道普請に必要な土の購入費や現場までのバスのチャーター費用にもふるさと納税を活用しました。参加者からは「道は絶え間なく修復されて維持されていることがわかった」「世界遺産を守る活動に参加できて良かった」という声が上がりました。
保全作業の後は、参加者が熊野古道を歩きながら「語り部ジュニア」の話に耳を傾けました。「語り部ジュニア」の活動は、地元の小学校で地域の歴史を学んでいる子どもたちが自分の言葉でふるさとの歴史を伝える活動で、参加者に大変好評でした。
今後もふるさと納税を活用して「熊野古道」の保全活動を継続すると同時に、道普請にとどまらない熊野の森林全体の保護活動へと広げていきたいと田辺市では考えています。
明治から大正、昭和初期にかけて、在野で植物学や博物学、民俗学などの研究活動を続けた南方熊楠(みなかたくまぐす)。人生後半の37年を田辺で過ごした田辺ゆかりの博物学者で、“知の巨人”と呼ばれています。明治19年に19歳で渡米し、アメリカ各地で植物の実地調査や研究を続け、25歳で渡英。大英博物館で書籍や資料を書き写し、ひたすら研究を続けました。その頃から英国の科学雑誌『ネイチャー』に論文を投稿し、掲載論文は51本にのぼります。エコロギー(現在のエコロジー)という言葉を使って自然保護活動をした日本の先駆者と言われ、田辺市を中心に熊野の森林を研究フィールドにしました。
南方熊楠の研究活動の拠点となった住まいが田辺市に遺贈され、平成18年に遺族の遺志により南方熊楠が生活していた当時の姿に復元・修復されました。現在は「南方熊楠邸」として一般公開されています。そしてその隣に建設され、平成18年に開館したのが「南方熊楠顕彰館(みなかたくまぐすけんしょうかん)」です。南方熊楠が遺した蔵書や書簡など貴重な資料の保管・調査・研究を行い、その成果を発信すると同時に、展示会などの顕彰活動にも取り組んでおり、こうした活動にふるさと納税を充てています。田辺市では、幅広い分野の研究者に同館の資料を検証し情報発信をしてもらうことによって「熊楠のまち、田辺」への注目度を高め、より多くの研究者や熊楠ファンにまちに足を運んでもらいたいと考えています。同館には資料約25,000点が保管されていますが、現在はその約1割しか研究が進んでおらず、今後熊楠研究についての新発見が出てくるのではないかと、同館の活動に注目が集まっています。さらに、現在進められている調査・研究の成果をまとめた『熊楠研究』という刊行物を同館で定期的に発行しており、ここにもふるさと納税を充てています。同館では常設展示のほかに、月例展、企画展、特別企画展の開催や講演会、さらに子どもたちが自然と触れ合い学ぶ、夏休み子ども特別講座なども開催しています。こうした展示活動や教育啓発活動にもふるさと納税を充てており、田辺市では、ふるさとの誇りである南方熊楠を通して、子どもたちが自然への興味・関心を高めてくれることを期待しています。
紀州の木材をふんだんに使って建てられた「南方熊楠顕彰館」。研究者のほか、全国から熊楠ファンが訪れます。
「南方熊楠顕彰館」の交流・閲覧室。
熊楠関連の書籍や標本を見て学習することができます。
平安時代に始まった上皇の熊野御幸(ごこう)によって、「熊野古道」は広く知られるようになり、中世以降は多くの庶民がこの道を歩いたそうです。取材で「熊野古道」を歩きましたが、道の険しさにすぐに息が上がりました。当時の人たちの体力と信仰心の厚さに驚くと同時に、いにしえの人たちの想いを想像する楽しい体験でもありました。「熊野古道」は時間を旅する道かもしれない、とさえ感じました。この道を大切に守り、未来の子どもたちに継承していく取組に、ふるさと納税が活かされています。過去・現在・未来を結ぶ力が、ふるさと納税にはあるのだと静かな感動を覚えました。