2 地方の再生

(1) 地方再生戦略

 我が国の地方は人口が減少し、その結果、学校、病院等、暮らしを支える施設の利用が不便になるなど、魅力が薄れ、さらに人口が減るという悪循環に陥っている。この構造を断ち切るには、それぞれの地方の状況に応じ、生活の維持や産業の活性化のためには何が必要かを考え、道筋をつけていかなければならない。

 このため、平成19年10月9日には、内閣に置かれた地域再生などの実施体制を統合し、地方の再生に向けた戦略を立案し実行する体制として、新たに全閣僚からなる地域活性化統合本部会合とその下での地域活性化統合事務局を設け、地域の課題に対する様々な相談等に対し、一元的かつ迅速に対応することとした。

 こうした中で、内閣官房に設置された地域活性化統合事務局を中心に、地方再生のための総合的な戦略として「地方再生戦略」がとりまとめられ、平成19年11月30日には、地域活性化統合本部会合において了承されたところである。

 この戦略により、地方の衰退を食い止めるための道筋を明確に定め、地方再生に向けた取組を長期にわたって継続していくこととしている。

ア 地方再生の基本的な考え方

 地方再生の取組に当たっては、生活者の暮らしの確保、中小企業振興、農林水産業振興、交流人口の拡大等それぞれについて進めていく中で、「地方」と「都市」が、ともに支え合う「共生」の考え方に立つことが重要である。

 地方再生戦略では、地方と都市の「共生」を基本理念とし、これを実現するため、「地方再生五原則」として、補完性、自立、共生、総合性及び透明性の五つの原則を掲げ、関係主体の密接な連携の下、総合的な施策の推進を図ることとしている。

(1) 「補完性」の原則

 地域の実情に最も精通した住民、NPO、企業等が中心となり、地方公共団体との連携の下で立案された実現性の高い効果的な計画に対し、国が集中的に支援する。

(2) 「自立」の原則

 地域の資源や知恵を生かして、経済的に、また、社会的に自立に向けて頑張る計画を集中的に支援する。

(3) 「共生」の原則

 地方と都市とがヒト・モノ・カネの交流・連携を通じて、ともに支え合い、共生を目指す取組を優先的に支援する。

(4) 「総合性」の原則

 国の支援は、各省庁の縦割りを排し、地域の創意に基づく計画を総合的に支援する。

(5) 「透明性」の原則

 支援の対象とする計画の策定、支援の継続及び計画終了時の評価については、第三者の目を入れて客観的な基準に基づき実施する。

イ 地方再生の総合的推進

 地方再生の推進に当たっては、これまでのように国が施策分野ごとにあらかじめ基準を示すやり方ではなく、地域の創意工夫や発想を起点とした自主的な取組を政府として省庁横断的・施策横断的な視点から的確に後押ししていくという大きな発想の転換を図る必要がある。このため、地方再生戦略では、地方再生の総合的推進として、地域の声に応える相談窓口の一元化、政府一体となった総合的な支援の推進に取り組むこととしている。

(1) 地域の声に応える相談窓口の一元化

 地域活性化統合事務局において地域ブロックごとに担当参事官を設けるとともに、地域ブロック別担当参事官と各省庁の地方支分部局との連絡協議を密にするために、地域ブロックごとに地方連絡室を設置する。こうした体制の下で一元的に相談に応じ、地方再生の取組を総合的な支援の実施に至るまで一貫してフォローするなど、これまで以上に地域の声に耳を傾けるため、地域活性化に関する国の相談体制のワンストップ化等を進める。

(2) 政府一体となった総合的な支援の推進

 平成20年度に「地方の元気再生事業」を創設し、地域の住民や民間団体の創意工夫・発想を起点にしたプロジェクトの立ち上がり段階を対象として、これまで支援が必ずしも十分ではなかった専門的な人材の派遣、社会実験などのソフト分野を中心に集中的に支援を行う。

 あわせて、農林水産業、商業、工業が連携し、新商品開発や販路拡大等について、人材や知恵などの経営資源を結集する「農商工連携」の推進や、地方独自のプロジェクトを自ら考え、前向きに取り組む地方公共団体に対し、地方交付税等の財政支援措置や人材支援措置を講ずる「頑張る地方応援プログラム」の展開など、省庁横断・施策横断による支援を行う。

ウ 地方の課題に応じた地方再生の取組

 地方再生については、地方の実情は多岐にわたり、一様ではないことから、生活者や担い手の視点に立って、よりきめの細かい地方再生の取組を具体的に提示する必要がある。

 このため、地方再生戦略においては、地方の課題をコンパクトシティ(集約型都市構造)の推進等による経済活動の活発化が求められる「地方都市」、農林水産業等の持続的な発展等が求められる「農山漁村」、国土保全の最前線の役割を担いながらも高齢化に直面する中で生活機能の維持等が必要な「基礎的条件の厳しい集落」(人口規模・世帯規模が小さく高齢者割合が高い集落をいう。以下同じ。)の3つの類型に分けて捉えることとしている。

 また、地方再生戦略においては、地域における生活者や担い手の営みに着目し、第一に、生活者の暮らしの確保、第二に、地域が持続的に経済・社会活動を営む力の源泉となる産業の振興、第三に、地域内外にわたる交流を通じた地域の発展という3分野を柱に、省庁横断的に一体的な施策展開の考え方をまとめている。その際、雇用、教育、都市機能、地域コミュニティ等の分野についても、地域の実情に応じて一体的に対応できるよう施策展開することとしている。

(1) 地方都市

 地方都市は、地域経済の中心として、地域住民や事業者等による経済活動、社会活動、文化活動が活発に営まれる地域の牽引車の役割を果たすことが期待されている。

 地方都市における豊かで持続的に発展する地域社会の実現を図るため、地域の強みを生かした企業立地の促進、地域資源の活用や地域と大学等の連携による新たな製品開発・市場開拓の促進、地域密着型金融の推進など、企業立地、中小企振興等による地域経済の牽引を進める。

 また、賑わい拠点創出等中心市街地の活性化、地域医療確保、子育て環境の整備・介護サービス確保、安全・安心なまちづくり、地域公共交通の活性化など、生活者にとって暮らしやすいまちづくりに取り組む。

 さらに、持続可能な都市の活性化と成長発展を支える交流の推進や多様な主体によるまちづくりの促進と地域コミュニティの再生等を進める。

(2) 農山漁村

 農山漁村は、引き続き国民の食料の安定供給の確保や様々な多面的機能を果たすことが期待されている。

 農山漁村における豊かで持続的に発展する地域社会の実現を図るため、人材への直接支援による「新たなむらの再生」、「地域の宝」である農林水産物を活用し地産地消の推進を図る直売所等の整備を通じた産地づくり、「農商工連携」を通じた新商品開発・販売への支援など、地域の基盤となる農林水産業等の再生に取り組む。

 また、医療従事者・遠隔医療等地域医療の確保、高齢者介護・育児支援対策、防災・国土保全機能維持など、医療、生活交通等生活者の暮らしの確保に取り組む。

 さらに、グリーン・ツーリズム、エコツーリズム等ニューツーリズムの普及や小学生宿泊体験など、地域の持続可能な発展を支える循環・交流・連携や次世代の人材の育成を担う地域コミュニティの再生に取り組む。

(3) 基礎的条件の厳しい集落

 基礎的条件の厳しい集落については、国土の保全、水源の涵養、貴重な郷土文化の伝承等の様々な多面的機能を有しているなど、国民生活の面から見ても高い価値を有していることを踏まえ、集落の状況や住民の不安・要望について十分な目配りを行いつつ、集落を活性化し、住民の生活の維持を図ることを目指す。

 このため、広域医療・遠隔医療等地域医療確保、高齢者介護・福祉の確保、生活交通遺児確保、防災・国土保全機能維持など、生活者の暮らしの維持確保に取り組む。

 また、建設業等からの参入者や意欲のある地域の担い手が中心となった産業、暮らし、交流全般にわたる総合的なビジネス展開への支援、中山間地域直接支払制度による農業生産活動の継続支援、林業就業意欲のある若者を育てる「緑の雇用」など、担い手による地域の産業の再生に取り組む。

 さらに、域外との交流の維持・促進や離島航路・航空の維持確保など離島地域の再生等を進める。

(2) 地域間の財政力格差の縮小

 平成20年度の税制改正に当たっては、地方税制について、与党の税制改正大綱(平成19年12月)や平成20年度税制改正の要綱(平成20年1月11日閣議決定)において示されているが、更なる地方分権の推進とその基盤となる地方税財源の充実を図る中で、地方消費税の充実を図るとともに、併せて地方法人課税のあり方を抜本的に見直すなどにより、偏在性が小さく税収が安定的な地方税体系を構築することを基本に改革を進め、この基本方向に沿って、消費税を含む税体系の抜本的改革において、地方消費税の充実と地方法人課税のあり方の見直しを含む地方税改革の実現に取り組むこととしている。

 地域間の税源偏在の是正に早急に対応するため、消費税を含む税体系の抜本的改革が行われるまでの間の暫定措置として、法人事業税の一部(概ね2.6兆円)を分離し、地方法人特別税を創設するとともに、その収入額を人口及び従業者数を基準として都道府県に譲与する地方法人特別譲与税を創設することにより、偏在性の小さい地方税体系の構築を進めることとしている。

(ア) 法人事業税の改正

a 法人事業税(所得割及び収入割)の標準税率の引下げ

b 平成20年10月1日以降に開始する事業年度から適用

(イ) 地方法人特別税の創設

a 法人事業税の上記税率引下げ分相当に対応して、地方法人特別税(国税)を創設

b 課税標準は法人事業税(所得割及び収入割)の税額(標準税率分)

c 都道府県が法人事業税と併せて賦課徴収し、国に払込み

d 平成20年10月1日以後に開始する事業年度から適用

(ウ) 地方法人特別譲与税の創設

a 地方法人特別税の収入額を、使途を限定しない一般財源として都道府県へ譲与する地方法人特別譲与税を創設

b 譲与基準は、人口(1/2)及び従業者数(1/2)

 ただし、今回の改正による減収額が、財源超過額の1/2を超える場合、減収額の1/2を限度として、当該超える額を譲与額に加算(bの基準は当該加算額を除いた額について適用)

c 平成21年度から譲与

 上記の措置を講ずるため、「地方法人特別税等に関する暫定措置法案」を第169回国会に提出したところである。

(3) 地方再生対策費の創設

 法人事業税の一部を分離し、地方法人特別税及び地方法人特別譲与税を創設することにより、地方交付税における不交付団体全体における税収が減少する一方、交付団体全体における税収が増加するという地方税の偏在是正の効果が生じる。これは地方交付税の減少をもたらすこととなるが、「地方と都市の共生」の考え方に基づき、地方交付税が減少しないよう、当該偏在是正により生じた財源を地方財政計画の特別枠として活用し、地方が自主的・主体的に取り組む活性化施策に必要な歳出に充てることを可能とするため、次により「地方再生対策費」を創設することとしている。

ア 「地方再生対策費」は、今般の地域間の税収偏在の是正策による効果額を勘案して、4,000億円を計上する。ただし、偏在是正の効果が発現するまでの間は、つなぎ措置として、その財源のうち3,700億円(交付団体の需要増加相当額)の全部又は一部を臨時財政対策債の発行により確保する。平成20年度においては、偏在是正の効果が発現しないため、その全額を臨時財政対策債の発行により措置する。なお、「地域再生対策費」に係る臨時財政対策債の発行額は、道府県分の既往の臨時財政対策債の発行額に加算する。

イ 「地方再生対策費」は、地方交付税の算定を通じて、市町村、特に財政状況の厳しい地域に重点的に配分することとし、道府県分の算定額を1,500億円程度、市町村分の算定額を2,500億円程度とするとともに、算定に当たっては、人口規模のコスト差を反映(段階補正)するほか、第一次産業就業者比率や高齢者人口比率等を反映する。また、合併市町村については、旧市町村単位で算定した額を合算することにより合併後のまちづくり等の財源を確保する。

 上記の措置を講ずるため、「地方交付税法等の一部を改正する法律案」を第169回国会に提出したところである。

(4) 頑張る地方応援プログラム

 やる気のある地方が自由に独自の施策を展開することにより、「魅力ある地方」に生まれ変わるよう、地方独自のプロジェクトを自ら考え、前向きに取り組む地方公共団体を支援することを目的として、平成19年度に「頑張る地方応援プログラム」を創設したところである。

 平成20年度においては、平成19年度に引き続き、地方交付税等(年間3,000億円程度)による財政支援、地方懇談会や全国規模のシンポジウム開催、優良事例の表彰などを実施するとともに、新たに「地域人材力活性化事業」を行うこととしている。

 「地域人材力活性化事業」は、地方公共団体の多様なニーズに応じた人材力活性化メニューを提供することにより、地方公共団体における人材育成やそのノウハウの蓄積などを支援するものであり、具体的には、市町村のニーズに応じた総務省職員の派遣、先進市町村で活躍している職員や民間専門家を他市町村に地域人材ネット(仮称)に登録して紹介、新たに地域活性化に取り組む市町村に対して地域人材ネット(仮称)上の人材を「地域力創造アドバイザー」(仮称)として派遣などの実施を予定している。

 これらの実施により、全国各地において「魅力ある地方」の創出が期待されるところである。