第2部 平成22年度及び平成23年度の地方財政

1 平成22年度の地方財政

(1)平成22年度の経済見通しと国の予算

ア 経済見通しと経済財政運営の基本的態度

 「平成22年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」は、平成21年12月25日に閣議了解、平成22年1月22日に閣議決定された。この中で、平成21年度の我が国経済は、失業率が高水準で推移するなど厳しい状況にあるとされた。特に、平成21年度の国内総生産の実質成長率は、成長の発射台が極めて低いことなどから、前年度より改善するものの、マイナス2.6%程度にとどまるものと見込まれており、また、国民の景気実感に近い名目成長率は、マイナス4.3%程度と2年連続の急速な減少が見込まれた。

 このような情勢認識から、景気の持ち直しの動きを確かなものとするため、「明日の安心と成長のための緊急経済対策」(平成21年12月8日閣議決定)を着実に実施し、これに伴う平成21年度第2次補正予算と平成22年度予算を一体として切れ目なく執行することとされた。平成22年度予算においては、子育て、雇用、環境、科学・技術に特に重点を置き、国民の付託に応えて主要施策の実施に取り組むとともに、「新成長戦略(基本方針)」(平成21年12月30日閣議決定)の推進を通じて、成長のフロンティアを拡大し、新たな需要と雇用を創造していくこととされた。さらに、経済成長と財政規律を両立させ、経済成長や国民生活の安定、セーフティネットの強化という観点からも、財政の持続可能性を高めていくこととされた。

 以上のような経済財政運営を前提として、平成22年度においては、景気は緩やかに回復していくと期待され、平成22年度の国内総生産の実質成長率は1.4%程度と3年ぶりのプラス成長が見込まれ、また、名目成長率も0.4%程度のプラスに転じると見込まれた。

イ 国の予算

 平成21年12月15日、「平成22年度予算編成の基本方針」が閣議決定された。その中で、平成22年度予算編成にあたっては、以下のような基本的考え方に基づくものとされた。

(ア) 予算編成とは、貴重な国民の税金をどのように用いるか、選択を行う作業に他ならない。現在の国民のみならず、未来の国民に対しても責任を持つ選択を行うのが政治の役割である。未来を創る子ども達のために必要な政策を実行するため、政治が最大限の努力を行わなければならない。以下のような基本理念に立ち、全閣僚、全政務三役が一丸となって、責任ある予算編成に取り組む。

a 「コンクリートから人へ」

b 「新しい公共」

c 「未来への責任」

d 「地域主権」

e 「経済成長と財政規律の両立」

 以上の基本理念のもとで予算を編成した上で、今後の経済運営に当たっては、国民の暮らしに直結する名目の経済指標を重視するとともに、デフレの克服に向けて日本銀行と一体となって強力かつ総合的な取組を行う。また、平成21年度第2次補正予算と平成22年度予算を一体として切れ目なく執行することにより、景気が再び落ち込むことを回避し、着実に回復させるとともに、将来の安定的な成長につながる予算としていく。これにより、民需は底堅く推移し、自律的な成長軌道に向けて、景気は緩やかに回復していくものとみられる。

(イ) 何よりも人のいのちを大切にし、国民の生活を守る政治を行う。国民の暮らしを犠牲にしても経済合理性を追求するという発想をとらず、国民の暮らしの豊かさに力点を置いた経済・社会に転換していく。こうした観点から、平成22年度予算においては、子育て、雇用、環境、科学・技術に特に重点を置く。

(ウ) 国民主権とは、国民自らが国の政策決定に責任を持つことであり、物言えぬ将来の国民にツケを回すような無責任な財政運営を行ってはならない。同時に、「依らしむべし、知らしむべからず」といった独善的な発想で、財政規律の確保に失敗を重ねてきたことを、ほかならぬ政治と行政が深く反省しなければならない。国民・納税者の視点に立ち、国民が自らの税金の使い途を自ら精査し、自ら主体的に決定する、国民中心の予算編成を行い、予算の効率化と財政の健全化を目指す。

 平成22年度予算は、以上のような方針により編成され、平成21年12月25日に政府案の閣議決定が行われた後、平成22年1月22日に第174回国会に提出された。これによると、平成22年度の国の一般会計予算の規模は92兆2,992億円で、前年度当初予算と比べると3兆7,512億円の増加(4.2%増)となっており、うち一般歳出の規模は53兆4,542億円で、前年度当初予算と比べると1兆7,233億円の増加(3.3%増)となった。なお、公債の発行予定額は44兆3,030億円で、前年度当初発行予定額と比べると11兆90億円の増加(33.1%増)となっており、公債依存度は48.0%となった。他方、財政投融資計画の規模は18兆3,569億円で、前年度計画額と比べると2兆4,937億円の増加(15.7%増)となった。

(2)地方財政計画

 平成22年度は、極めて厳しい地方財政の現状及び現下の経済情勢等を踏まえ、「地域のことは、地域で決める」、地域主権の確立に向けた制度改革に取り組むとともに、地域に必要なサービスを確実に提供できるよう、地方財政の所要の財源を確保することで、住民生活の安心と安全を守るとともに地方経済を支え、地域の活力を回復させていくとの基本理念に立ち、歳出面では、経費全般について徹底した節減合理化に努める一方、当面の地方単独事業等の実施に必要な歳出及び地域のニーズに適切に応えるために必要な経費を計上するほか、歳入面では、安定的な財政運営に必要な地方税、地方交付税などの一般財源総額の確保を図ることを基本として、過去最大規模の財源不足に対して、地方財政の運営上支障が生じないよう適切な補填措置を講じることとし、次の方針に基づき平成22年度の歳入歳出総額の見込額が策定された。

(ア) 地方税については、支え合う社会を実現するとともに、経済・社会の構造変化に対応し、国民が信頼できる税制を構築する観点からの税制全般にわたる改革の一環として、個人住民税における扶養控除の見直し、軽油引取税等の現行の10年間の暫定税率を廃止した上で、当分の間、現在の税率水準の維持、地方のたばこ税の税率の引上げ、地方税における税負担軽減措置等の適用状況等に関する報告書を国会に提出する措置の創設を行うとともに、税負担軽減措置等の整理合理化等を行うこととし、所要の措置を講じることとする。

(イ) 地方が自由に使える財源を増やすため、地方財源不足見込額について、地方財政の運営に支障が生じることのないよう、次の措置を講じることとする。

a 平成22年度単年度の措置として、平成21年度までと同様、財源不足のうち建設地方債(財源対策債)の増発等を除いた残余については国と地方が折半して補填することとし、国負担分については、国の一般会計の加算等により、地方負担分については、地方財政法第5条の特例となる地方債(臨時財政対策債)により補填措置を講じる。臨時財政対策債の元利償還金相当額については、その全額を後年度地方交付税の基準財政需要額に算入する。なお、平成5年度の投資的経費に係る国庫補助負担率の見直しに関し一般会計から交付税特別会計に繰り入れることとしていた額等1,761億円については、法律の定めるところにより平成28年度以降の地方交付税の総額に加算する。

b これに基づき、平成22年度の財源不足見込額18兆2,168億円については、次により完全に補填する。

(1)地方交付税は、平成20年度分の精算による6,596億円の減額を繰り延べるほか、国の一般会計加算により7兆6,291億円(うち「地域活性化・雇用等臨時特例費」の創設による別枠の加算額9,850億円、平成21年度において別枠で加算した1兆円のうち平成22年度に協議することとされていた地域雇用創出推進費以外の加算額5,000億円(平成20年12月18日付け総務・財務両大臣覚書第3項)、同法附則第4条の2第3項の加算額866億円、同条第4項の加算額6,695億円、臨時財政対策特例加算額5兆3,880億円)増額する。また、平成22年度に予定されていた交付税特別会計借入金の償還7,812億円を後年度へ繰り延べるとともに、交付税特別会計剰余金3,700億円を活用する。

(2)地方財政法第5条の特例となる地方債(臨時財政対策債)を7兆7,069億円発行する。

(3)建設地方債(財源対策債)を1兆700億円増発する。

c 上記の結果、平成22年度の地方交付税は、16兆8,935億円(前年度に比し1兆733億円、6.8%の増)を確保する。

(ウ) 地方債については、極めて厳しい地方財政の状況の下で、地域に必要なサービスを確実に提供できるよう、地方財源の不足に対処するための措置を講じるとともに、地方公共団体が、必要性の高い分野への重点的な投資を行えるよう、所要の地方債資金を確保する。

(エ) 地域主権の確立に向け、地域経済の振興や雇用創出を図りつつ、個性と活力ある地域社会の構築、住民に身近な社会資本の整備、災害に強い安心安全なまちづくり、総合的な地域福祉施策の充実、農山漁村地域の活性化等を図ることとし、財源の重点的配分を行う。

a 当面の地方単独事業等の実施に必要な歳出を計上し、地域のニーズに適切に応えるために必要な特別枠「地域活性化・雇用等臨時特例費」9,850億円を計上する。

b 投資的経費に係る地方単独事業費については、「コンクリートから人へ」の理念を踏まえた国の公共投資関係費の取扱い等も勘案しつつ、前年度に比し15.0%減額することとする一方で、引き続き、地域の自立や活性化につながる基盤整備を重点的・効率的に推進する。

c 一般行政経費に係る地方単独事業費については、地方公共団体の自助努力を促す観点から既定の行政経費の縮減を図る一方、地域主権の確立に向けて地方が自主的・主体的に取り組む地域活性化施策等に財源の重点的配分を図るとともに、地域において必要な行政課題に対して適切に対処する。

d 消防力の充実、自然災害の防止、震災対策の推進及び治安維持対策等住民生活の安心安全を確保するための施策を推進する。

e 過疎地域の自立促進のための施策等に対し所要の財政措置を講じる。

(オ) 公的資金補償金免除繰上償還については、深刻な地域経済の低迷等の事態を踏まえ、3年間延長することとし、財政健全化計画又は公営企業経営健全化計画を策定し、徹底した行政改革・経営改革を行う地方公共団体を対象に、平成22年度から3年間で、1.1兆円規模の公的資金(旧資金運用部資金、旧簡易生命保険資金及び旧公営企業金融公庫資金)の補償金免除繰上償還を行い、高金利の地方債の公債費負担を軽減する措置を講じる。

(カ) 地方公営企業の経営基盤の強化、上・下水道、交通、病院等住民生活に密接に関連した社会資本の整備の推進、公立病院における医療の提供体制の整備をはじめとする社会経済情勢の変化に対応した新たな事業の展開等を図るため、経費負担区分等に基づき、一般会計から公営企業会計に対し所要の繰出しを行うこととする。

(キ) 地方行財政運営の合理化を図ることとし、引き続き職員数の純減や給与構造改革等に取り組むとともに、事務事業の見直し、民間委託等の推進など行財政運営全般にわたる改革を推進する。

 以上のような方針に基づいて策定した平成22年度の地方財政計画の規模は、82兆1,268億円で、前年度と比べると4,289億円減少(0.5%減)となっている。

 歳入についてみると、地方税は32兆5,096億円で、前年度と比べると3兆6,764億円減少(10.2%減)(道府県税16.2%減、市町村税5.7%減)、地方譲与税は1兆9,171億円で、前年度と比べると4,553億円増加(31.1%増)、地方特例交付金は3,832億円で、前年度と比べると788億円減少(17.1%減。なお、平成21年度には特別交付金を含んでいた。)、地方交付税は16兆8,935億円で、前年度と比べると1兆733億円増加(6.8%増)、国庫支出金は11兆5,663億円で、前年度と比べると1兆2,647億円増加(12.3%増)、地方債(普通会計分)は13兆4,939億円で、前年度と比べると1兆6,610億円増加(14.0%増)となっている。

 一方、歳出についてみると、給与関係経費は21兆6,864億円で、前年度と比べると4,407億円減少(2.0%減)となっている。なお、地方財政計画における職員数については、引き続き定員の純減を進め20,666人の純減(公立保育所保育士人件費を一般行政経費(単独)から移し替えたことにより、給与関係経費としては4,143人の増)としている。一般行政経費は29兆4,331億円で、前年度と比べると2兆1,723億円増加(8.0%増)となり、一般行政経費にかかる地方単独事業費は13兆8,285億円で、前年度と同額となっている。公債費は13兆4,025億円で、前年度と比べると1,070億円増加(0.8%増)、投資的経費のうち、公共事業費中の普通建設事業費は4兆2,806億円で、前年度と比べると6,160億円減少(12.6%減)となっている。なお、投資的経費に係る地方単独事業費は6兆8,683億円で、前年度と比べると1兆2,125億円減少(15.0%減)となっている。

 他方、平成22年度の地方債計画の規模は15兆8,976億円で、前年度当初計画と比べて1兆7,132億円増(12.1%増)となっている。

(3)平成22年度補正予算

ア 平成22年度補正予算(第1号)

 平成22年度補正予算(第1号)は、平成22年10月26日に閣議決定、平成22年10月29日に第176回国会に提出され、11月26日に成立した。

 この補正予算においては、歳出面で、「円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策」(平成22年10月8日閣議決定)を実施するための円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策4兆8,513億円等を追加計上するほか、既定経費の減額1兆4,313億円の修正減少額が計上された。また、歳入面で、税収2兆2,470億円、前年度剰余金受入2兆2,005億円を増額計上する一方で、税外収入183億円が減額計上された。

 この結果、一般会計予算の規模は、歳入歳出とも平成22年度当初予算に対し、4兆4,292億円増加し96兆7,284億円となった。

イ 平成22年度補正予算(第1号)に係る地方財政措置等

 平成22年度補正予算(第1号)の編成により、国税の増収見込み等に伴い地方交付税の増が見込まれるとともに、歳出の追加に伴う地方負担が生じるところであるが、これに関連して次のとおり地方財政措置を講じることとなった。

(ア) 地方交付税の追加等

a 今回の補正予算により増額される平成22年度分の地方交付税の額1兆3,126億円(平成21年度精算分5,758億円、平成22年度国税五税の自然増に伴うもの7,368億円)については、1兆126億円を平成23年度分として交付すべき地方交付税の総額に加算して交付するとともに、3,000億円を平成22年度に交付する措置を講じる。

 以上の措置を講じるため、「地方交付税法等の一部を改正する法律案」を国会に提出する。

b 上記の措置に伴い、平成22年度の普通交付税は2,820億円、特別交付税は180億円を増額交付する。

 これに対応して基準財政需要額の「雇用対策・地域資源活用臨時特例費」を増額する再算定を行うとともに、調整額を復活することとしている。

(イ) 追加の財政需要等に対する財政措置

 国の補正予算により平成22年度に追加される地方負担額(普通会計分5,670億円)については、補正予算にあわせた地方独自の地域活性化施策の実施も想定して、地方交付税を交付(3,000億円)することとしている。

 あわせて、国の補正予算のうち公立学校施設の耐震化事業等投資的経費に係る地方負担額(普通会計分4,613億円)については、原則として、地方負担額の100%まで地方債を充当できることとし、後年度においてその元利償還金の全額を基準財政需要額に算入することとしている。その際、元利償還金の45%(当初における地方負担額に対する算入率が45%を超えるものについては、原則として当初の算入率)については、公債費方式により各団体の地方債発行額に応じて基準財政需要額に算入することを予定し、残余については単位費用により措置することを予定している。

(ウ) その他地方公共団体に係る補正予算

 「円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策」における「地域活性化、社会資本整備、中小企業対策等」として、今回の補正予算において、「きめ細かな交付金」(2,500億円)及び「住民生活に光をそそぐ交付金」(1,000億円)からなる「地域活性化交付金」(3,500億円)を計上している。

(4)地方公共団体の予算

 平成22年度の地方公共団体の普通会計予算(9月補正後)の状況は、第49表のとおりであり、普通会計予算の総額(都道府県及び市区町村の単純合計)は、前年度と比べると2.4%減となった。

 主な内訳をみると、歳入では、地方税が前年度と比べると8.2%減、地方譲与税33.9%増、地方交付税4.9%増、国庫支出金14.7%減、地方債6.6%増となった。一方、歳出では、人件費が前年度と比べると1.7%減、扶助費24.3%増、普通建設事業費20.0%減となった。

 なお、第49表の数値は、前年度からの繰越事業に係るものを含んでいる。

(5)不交付団体の状況

 平成22年度の不交付団体数は、第50表のとおりであり、都道府県は1団体(東京都)、市町村は1,727団体中74団体(うち政令指定都市1団体(川崎市))であり、不交付団体の割合は、団体数では4.3%と平成21年度の8.5%からは減少し、人口割合では12.7%と平成21年度の27.5%からは減少している。

(6)地方公営企業等に関する財政措置

ア 地方公営企業

 地方公営企業については、経営基盤の強化、上・下水道、交通、病院等住民生活に密接に関連した社会資本の整備の推進、公立病院における医療の提供体制の整備をはじめとする社会経済情勢の変化に対応した新たな事業の展開等を図る必要がある。

 このため、平成22年度においては、次のような措置を講じた。

 公営企業会計と一般会計との間における経費負担区分の原則等に基づく公営企業繰出金については、地方財政計画において2兆6,961億円(前年度2兆6,628億円)を計上した。

 地方公営企業の建設改良等に要する地方債については、地方債計画において公営企業会計等分2兆4,037億円(前年度2兆3,515億円)を計上した。

 また、普通会計分と合わせた公債費負担対策として、平成19年度から平成21年度までの措置として5兆円程度の公的資金の補償金免除繰上償還措置を講じたところであるが、深刻な地域経済の低迷等の事態を踏まえ、3年間延長することとし、財政健全化計画又は公営企業経営健全化計画を策定し、徹底した行政改革・経営改革を行う地方公共団体を対象に、平成22年度から3年間で1.1兆円規模の公的資金(旧資金運用部資金、旧簡易生命保険資金、旧公営企業金融公庫資金)の補償金免除繰上償還を行い、高金利の地方債の公債費負担を軽減することとした。平成22年度においては、公営企業債分について、旧資金運用部資金約4,900億円、旧簡易生命保険資金約1,400億円、旧公営企業金融公庫資金約2,700億円の計画を承認した。なお、事業別には、水道(簡易水道含む。)約2,000億円、工業用水道約100億円、地下鉄約900億円、下水道約5,400億円、病院約600億円となっている。

 さらに、各事業における地方財政措置のうち主なものは以下のとおりである。

(ア) 簡易水道事業及び下水道事業(流域下水道、小規模集合排水処理施設及び個別排水処理施設に係るものに限る。)については、前年度に引き続き、事業年度における一般会計からの繰出しに代えて、臨時的に公営企業債(臨時措置分)を措置することとし、当該臨時措置分に係る公営企業債の元利償還金については、その全額(流域下水道のうち地方単独事業に係るものを除く。)を後年度において基準財政需要額に算入することとした。

(イ) 水道事業については、簡易水道事業の統合を推進することにより、水道事業の経営基盤の強化を図る観点から、国庫補助(簡易水道再編推進事業)の対象となった建設改良事業について、新たに地方財政措置を講じることとした。また、上水道安全対策事業のうち、災害対策の観点から行われる送・配水管の相互連絡管等の特定の事業について、引き続き一般会計出資比率の拡充を図るとともに、補助事業についても、引き続き一般会計出資の対象とするよう所要の地方財政措置を講じることとした。

(ウ) 交通事業については、地下鉄事業経営健全化対策について、健全化法が平成21年4月から全面施行されたことに伴い一部制度見直しを行うこととし、同法に基づく経営健全化団体に対しては、当該団体が定める経営健全化計画に基づき、当該計画の期間中に経営基盤の強化を目的として一般会計が行う出資について、所要の地方債措置を講じることとした。

(エ) 病院事業については、感染症指定医療機関における良質かつ適切な医療を提供するための体制を確保するための経費について、新たに地方交付税措置を講じるとともに、周産期母子医療センターにおける満床状態の解消やNICU等に長期入院している児童にとってふさわしい医療提供のための体制を確保するための経費について、地方交付税措置を充実することとした。

(オ) 以上の他、地方公営企業職員に係る子ども手当に要する経費について、所要の地方財政措置を講じることとした。

イ 国民健康保険事業

 国民健康保険事業の厳しい財政状況に配意し、国民健康保険に対して、財政基盤の強化のための支援措置を次のとおり講じることとした。

(ア) 都道府県が、市町村の国保財政安定のために必要な取組等に対し交付する都道府県調整交付金(給付費等の7%)の所要額(5,108億円)について、地方交付税措置を講じることとした。

(イ) 国保被保険者の保険料負担の緩和を図る観点から、市町村(一部事務組合等を除く。)が保険料軽減相当額に応じて、一般会計から国民健康保険特別会計への繰入れを行う際に、当該費用に対し、都道府県が一部を負担することとし、その所要額(3,393億円(都道府県3/4、市町村1/4))について地方交付税措置を講じることとした。

(ウ) 低所得者を多く抱える保険者を支援する観点から、市町村(一部事務組合等を除く。)が低所得者数に応じて、一般会計から国民健康保険特別会計への繰入れを行う際に、当該費用に対し、国及び都道府県が一部を負担することとし、その所要額(766億円(国1/2、都道府県1/4、市町村1/4))について地方交付税措置を講じることとした。

(エ) 高額医療費共同事業については、市町村国保の拠出金に対し、国及び都道府県が一部を負担することとし、その所要額(2,585億円(国1/4、都道府県1/4、市町村国保1/2))について地方交付税措置を講じることとした。また、一件30万円以上の医療費を対象に、市町村国保の拠出金で賄う保険財政共同安定化事業については、都道府県内の市町村国保間の保険料の平準化や国保財政の広域化の観点から、都道府県が事業の対象となる医療費の額や市町村国保からの拠出金の拠出方法の基準を広域化等支援方針で定めることができることとした。

(オ) 国保財政安定化支援事業については、国保財政の健全化に向けた市町村一般会計からの繰出しについて、所要の地方交付税措置(1,000億円)を講じることとした。

(カ) 国民生活の質の維持・向上を確保しつつ、医療費の適正化を図ることを目的として、40歳から74歳までの国民健康保険加入者に対して糖尿病等の予防に着目した健診及び保健指導を行うため、特定健康診査・保健指導事業に対して、国及び都道府県が一部を負担することとし、その所要額(580億円(国1/3、都道府県1/3、市町村国保1/3))について地方交付税措置を講じることとした。

ウ 後期高齢者医療制度

 後期高齢者医療制度については、実施主体である広域連合の財政基盤の強化のための支援措置を次のとおり講じることとした。

(ア) 保険料軽減制度については、低所得者に対する配慮として、後期高齢者の被保険者の保険料負担の緩和を図る(均等割2割・5割・7割軽減)とともに、被用者保険の被扶養者であった被保険者の保険料軽減を行うため、都道府県及び市町村が負担することとし、その所要額(2,232億円(都道府県3/4、市町村1/4))について地方交付税措置を講じることとした。

 なお、「明日の安心と成長のための緊急経済対策」(平成21年12月8日)により、70歳から74歳までの窓口負担軽減措置、低所得者の保険料軽減措置(均等割9割、8.5割、所得割5割軽減)及び被用者保険の被扶養者であった被保険者の保険料軽減措置(均等割9割軽減)については、後期高齢者医療制度を廃止するまでの間、継続されることとされた。このうち、70歳から74歳までの窓口負担軽減措置及び低所得者の保険料軽減措置に伴う平成22年度分の財政措置については、平成21年度第2次補正予算において、全額国費により対応することとした。また、被用者保険の被扶養者であった被保険者の保険料軽減措置に伴う平成22年度分の財政措置については、均等割9割軽減のうち4割分については国費により措置することとして、所要額を平成21年度第2次補正予算に計上するとともに、均等割9割軽減のうち5割分については、引き続き、地方交付税措置を講じることとした。

(イ) 高額医療費負担金については、広域連合の拠出金に対し、国及び都道府県が一部を負担することとし、その所要額(1,106億円(国1/4、都道府県1/4、広域連合1/2))について地方交付税措置を講じることとした。

(ウ) 財政安定化基金については、保険料未納や給付増リスク等による後期高齢者医療広域連合の財政影響に対応するため、都道府県に基金を設置しその拠出金に対して国及び都道府県が一部を負担することとし、その所要額(324億円(国1/3、都道府県1/3、広域連合1/3))について地方交付税措置を講じることとした。

(エ) 不均一保険料助成については、医療給付の実績が低い広域連合内の市町村に対して、平成26年度まで他の市町村とは異なる不均一の保険料を設けることに対して国及び都道府県が負担することとし、その所要額(9億円(国1/2、都道府県1/2))について地方交付税措置を講じることとした。

(オ) 実施主体である広域連合に対する市町村分担金、市町村の事務経費及び都道府県の後期高齢者医療審査会関係経費等について所要の地方交付税措置を講じることとした。

(7)個別団体における財政健全化

 近年の地方公共団体の財政状況は、景気低迷による税収減や少子高齢化に伴う扶助費の増、過去の公共投資等に係る借入金残高の累積等により、平成21年度決算における経常収支比率が前年度(92.8%)と比べると1.0ポイント上昇の93.8%と過去最も高くなる等、より一層厳しさを増している。

 各地方公共団体においては、このような状況を踏まえて、地方税等の徴収対策、使用料・手数料の適正化などの歳入確保や事務事業の見直し、組織・機構の簡素効率化、外郭団体の統廃合等、定員管理・給与の適正化、民間委託等の推進などの自主的な行財政改革に取り組んでいる。

 特に、唯一の財政再生団体である北海道夕張市では、個人市民税・固定資産税・軽自動車税の税率の引上げ等、住民負担の増加による歳入確保と全国の市町村で最も低い給与水準、最も少ない職員数を基本とするなどの徹底した行政のスリム化による大幅な歳出削減により財政指標の改善に向けた最大限の努力を行う一方で、極めて長期にわたる取組を余儀なくされることから、市民生活に直結する諸課題への対応やコンパクトで効率的なまちづくりの推進、高齢者、子育て、教育に一定の配慮を行うこととしている。

 また、平成22年度における財政健全化団体は13団体であるが、これら団体では、税・使用料等の滞納対策、未利用財産の売却等によって歳入の確保を図る一方で、職員数の削減や職員給与の見直し、補助金の廃止・凍結等によって歳出の削減にも努めており、こうした行革努力により生じた財源により赤字解消や地方債の繰上償還を実施することで実質公債費比率、将来負担比率の改善が図られている。

 同様に、平成22年度における資金不足比率が経営健全化基準以上の公営企業は49会計であるが、これら公営企業では定期的な料金改定の実施や、徴収体制の見直しによる未収金の減少等により収入増加を図るとともに、委託契約の見直しや検針メーターの再利用等により積極的な支出の削減を図っているほか、収益の増加や経費の節減等により資金不足額の減少を行うこととしている。

(8)宝くじの改革

 宝くじは、刑法で発売が禁じられている「富くじ」の特例として、地方財政法及び当せん金付証票法に基づき、地方財政資金の調達を目的として、総務大臣の許可を受けて、都道府県及び政令市が発売しているものである。

 平成22年5月21日に開催された行政刷新会議ワーキンググループの事業仕分け(第2弾)において、宝くじ関連の事業が対象となり、とりまとめコメントにおいて、「複雑な交付形態」、「無駄な宣伝広報事業」等の問題が指摘された。これを受け、宝くじの改革を進めるため、地方財政審議会の中に、都道府県、政令指定都市、市、町村の代表の方々からなる宝くじ問題検討会を設け、当せん金率の向上、地方公共団体の収益金の増加、普及宣伝事業のあり方などの宝くじの諸課題について検討を行い、平成23年度宝くじ発売計画策定までに結論をまとめるよう総務大臣が要請し、平成22年7月7日に第1回宝くじ問題検討会が開催され、同年11月9日に報告書が取りまとめられた。

 報告書においては、「ガバナンスの強化」、「わかりやすさ」、「効率化」を宝くじの改革を進める基本的視点とするとともに、「普及宣伝事業」は広報に純化した「社会貢献広報事業(仮称)」として出直すべきであること、事業規模は大胆な縮減を行うべきであること、公益法人助成は現行の半額目途とすべきものとされていること、収益金で行う市町村共同事業は再構築すべきであること、発売諸経費は徹底して効率化を図るべきであること、以上の見直しにより生み出される財源は収益金・当せん金へ還元すべきであること、災害などの緊急政策課題に対応する新しい宝くじの仕組みを検討すべきであること、などについて提言がなされた。

 平成22年11月15日には、行政刷新会議ワーキンググループの再仕分けが行われ、とりまとめコメントにおいて、「当面の改革としては一定の努力がなされているが、より抜本的な改革を中期的に行っていくべく、さらに改善をしていただきたい。」とされた。

 総務省においては、報告書や再仕分け等を踏まえ、平成23年度からの改革の実施に向け、宝くじの発売団体と調整を行ったところであるが、宝くじの発売団体においては、同年12月17日、全国自治宝くじ事務協議会において、平成23年度から以下を主たる内容とする改革を実施することを決定した。

a 普及宣伝事業をゼロベースで見直し、「社会貢献広報事業」として再構築すること(事業費の大幅削減(社会貢献広報費は23年度予算128億円(対21年度決算比139億円減少)、発売団体向け助成は全廃、公益法人向け助成は半減、一般市町村向け助成は総額維持)、全国自治宝くじ事務協議会のコントロールの強化など)

b 当せん金を拡充すること

c 大規模災害をはじめ緊急政策課題対応のための新しい宝くじの仕組みを創設すること

d 発売諸経費を削減すること

 これらは、宝くじの発売団体が策定する平成23年度発売計画等に反映されている。