2 地域主権改革

 政府では、国と地方公共団体の関係を、対等の立場で対話のできる新たな関係へと転換するとともに、地域のことは地域に住む住民が責任を持って決められるよう、地域主権改革の推進に取り組んでいる。具体的には、内閣総理大臣を議長とする「地域主権戦略会議」を中心に、義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大、基礎自治体への権限移譲、国の出先機関の原則廃止、「ひも付き補助金」の一括交付金化等の実現に向けた議論が行われている。

 また、平成23年4月28日に「国と地方の協議の場」が法定化され、社会保障・税一体改革や子どものための手当など地方自治に影響を及ぼす国の政策について、平成23年中に計8回の協議を行った。

(1)義務付け・枠付けの見直し

 地方公共団体の自治事務について国が法令で事務の実施やその方法を縛っている義務付け・枠付けが多数存在する。地域主権改革を進めるためには、義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大を進め、地域の住民を代表する議会の審議を通じ、地方公共団体自らの判断と責任において行政を実施する仕組みに改めていく必要がある。

 義務付け・枠付けの見直しについては、これまで地方分権改革推進委員会第2次勧告(平成20年12月)で見直す必要があるとされた4,076条項について、重点分野を定め、分野ごとに義務付け・枠付けの存置が許容される類型に該当しない事項の見直しが進められてきた。

 「地方分権改革推進計画」(平成21年12月15日閣議決定。第1次見直し)及び「地域主権戦略大綱」(平成22年6月22日閣議決定。第2次見直し)に基づくこれまでの見直しでは、「施設・公物設置管理の基準」、「協議、同意、許可・認可・承認」及び「計画等の策定及びその手続」の3分野等に係る1,216条項のうち、同第3次勧告(平成21年10月)において許容類型に該当せず見直すべきとされた889条項のうち636条項、その他の事項9条項の見直しが行われた。これにより、従来国の基準が全国一律に適用されていた保育所等の児童福祉施設の設備運営基準、公営住宅の整備基準及び収入基準、道路の構造の技術的基準等が条例委任され、地域の実情を踏まえた基準の制定が可能となる。また、市町村立幼稚園の設置廃止等に係る都道府県教育委員会の認可を届出とするなど、国等の関与の縮減を図ることとされ、山村振興計画の策定義務の廃止等の義務付けの見直しが行われた。

 また、同第2次勧告で示された条項以外でも、地方債協議制度や地方から国等への寄附禁止規定の見直しを含む21条項の見直しが行われた。

 これらの見直しについては、「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(平成23年法律第37号。第1次一括法)、「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(平成23年法律第105号。第2次一括法)等の成立により、所要の法律の整備が行われた。

 第3次見直しにおいては、「地方からの提言等に係る事項」、「通知・届出・報告、公示・公告等」及び「職員等の資格・定数等」の3分野に係る1,212条項を対象に許容類型を設定し、それに該当しない事項等の見直しが行われている。

 第1次見直しから第3次見直しまでの取組により、4,076条項のうち2,428条項が検討の対象となり、また、地方公共団体から提言等のあった事項については全て検討の対象とし、一定の見直しが行われることとなった。残された1,648条項の義務付け・枠付けについても、その見直しに向けて引き続き取り組んでいくこととなった。なお、見直しの手法としては、各条項の内容は多岐にわたるものであることから、これまでのように、重点分野を定めて見直しを行う方式ではなく、地方からの地域の実情に即した具体的な提案を受けて、個別の義務付け・枠付けの見直しを検討することにより進めることとなった。また、その際、これまで検討したものの見直しに至らなかった事項や、更には4,076条項以外の義務付け・枠付けについても検討の対象とし、見直しを進めることとなった。

(2)基礎自治体への権限移譲

 地域主権改革においては、住民に最も身近な基礎自治体に事務事業を優先的に配分し、地域における行政の自主的・総合的な実施の役割を担えるようにすることが必要不可欠である。また、いわゆる「平成の合併」等により、市町村の行政規模・能力の拡充等も進んでいる。

 これらを踏まえ、「地域主権戦略大綱」では、都道府県と市町村の間の事務配分を「補完性の原則」に基づいて見直しを行い、可能な限り多くの行政事務を住民に最も身近な基礎自治体が広く担うこととし、具体的には地方分権改革推進委員会第1次勧告(平成20年5月)に掲げられた事務について検討を行って、権限移譲等を行う事務について結論を得た(68項目、251条項)。このうち法改正により措置すべき事務については、第2次一括法が制定され、原則として平成24年4月1日から、基礎自治体への権限移譲(47法律)が行われることとなった。これにより、例えば、家庭用品販売業者への立入検査、騒音・振動・悪臭に係る規制地域の指定が市に移譲され、区域区分(線引き)に係る都市計画決定を指定都市が行うこととなる。

 今後は、まずは大綱で決定した事務の移譲に万全を期すとともに、残る項目の移譲の実現に向けた検討を行うなど、継続的に権限移譲を行っていくこととしている。

(3)地域自主戦略交付金

 地域のことは地域が決める地域主権を確立するため、国から地方への「ひも付き補助金」を段階的に廃止し、基本的に地方が自由に使える一括交付金にするとの方針の下、平成23年度に「地域自主戦略交付金」及び「沖縄振興自主戦略交付金」が創設された(計5,120億円)。同交付金は、対象事業の中から各府省の枠にとらわれず、地方自治体が自主的に選択した事業に交付金を交付するものであり、箇所付け等の国の事前関与を廃止したほか、継続事業に配慮しつつ、客観的指標を導入している。

 平成24年度の地域自主戦略交付金においては、新たに政令指定都市に一括交付金を導入するほか、23年度に一括交付金化を実施した都道府県分について、対象事業を拡大・増額することとしており、対象事業は9事業から18事業に拡大する(都道府県分5,515億円程度、政令指定都市分1,239億円程度、計6,754億円)。また、本交付金と、沖縄振興のための新たな一括交付金として創設される「沖縄振興一括交付金(仮称)」(1,575億円)を合わせると8,329億円となる。

 平成24年度の地域自主戦略交付金における主な対象事業は以下のとおりとなっている。

 なお、政令指定都市以外の市町村分については、年度間の変動や地域間の偏在が大きいといった課題等を踏まえつつ、地方の意見を聞きながら、引き続き検討を進めることとしている。また、経常関係については、地方の自由裁量の拡大に寄与する観点からの一括交付金化について、地方の意見を聞きながら、引き続き検討を進めることとしている。

(4)国の出先機関の原則廃止

 国のかたちを変えて、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体に委ね、地域における行政を地方公共団体が自主的かつより総合的に実施できるよう国の出先機関の改革を進めることとしている。

 平成22年12月28日に「アクション・プラン〜出先機関の原則廃止に向けて〜」が閣議決定された。この中で、出先機関の事務・権限をブロック単位で移譲することを推進するための広域的実施体制の枠組み作りのため、所要の法整備を行うこととされた。

 「アクション・プラン」では、「出先機関の事務・権限のブロック単位での移譲を受けようとする具体的意思を有する地域との間で、十分な協議・調整を行う」とされており、関西、九州両地域から、当面の移譲希望機関として、経済産業局、地方整備局、地方環境事務所の3機関の提示があったことを踏まえ、地域主権戦略会議及びその下に設けられた「アクション・プラン」推進委員会において、広域的実施体制の枠組み作りや個別の事務・権限の移譲の在り方に係る所要の検討が進められているところである。

 また、出先機関の事務・権限のブロック単位での移譲のほか、地方自治体が特に移譲を要望している「直轄道路」「直轄河川」及び「公共職業安定所(ハローワーク)」等についても、「アクション・プラン」推進委員会の下に、直轄道路・直轄河川チーム、公共職業安定所(ハローワーク)チーム及び共通課題チームの3つのチームがそれぞれ設置され、検討が進められているところである。

(5)地方税財源の充実確保

ア 地方税の充実

 「平成24年度税制改正大綱」(平成23年12月10日閣議決定)では、地方税は、住民自治を支える根幹であり、地域主権改革を進めていく観点から、地方税を充実することが重要であるとされ、地域主権改革の推進及び国と地方を通じた社会保障制度の安定財源の確保の観点から、地方消費税を充実するとともに、地方法人課税のあり方を見直すことなどにより、税源の偏在性が小さく、税収が安定的な地方税体系を構築することが示された。

イ 住民自治の確立に向けた地方税制度改革

 「平成24年度税制改正大綱」では、税制を通じて住民自治を確立し、地域主権改革を推進するため、現行の地方税制度を「自主的な判断」と「執行の責任」を拡大する方向で抜本的に改革していくこと、その際、「自主的な判断」の拡大の観点に立って、地方税法等で定められている過剰な制約を取り除き、地方公共団体が自主的に判断し、条例で決定できるように改革を進めることとされた。

 また、「執行の責任」の拡大の観点に立って、地方公共団体が課税に当たって納税者である住民と直接向き合う機会を増やすように改革を進めることとされた。

 具体的取組みとして、

(ア)地域決定型地方税制特例措置(通称:わがまち特例)の導入

 地方税法で定める特例措置を可能な限り廃止し、地方税制について国が定める範囲を縮小していくとともに、特例措置について、国が一律に定めていた内容を地方公共団体が自主的に判断し、条例で決定できるようにする仕組み(「地域決定型地方税制特例措置(通称:わがまち特例)」)を導入し、地方公共団体の自主性・自立性を一層高めるとともに、税制を通じて、これまで以上に地方公共団体が地域の実情に対応した政策を展開できるようにする。平成24年度税制改正においては、固定資産税の課税標準の特例措置2件について、地方公共団体が課税標準の軽減の程度を条例で決定できるようにする。

(イ)消費税・地方消費税の賦課徴収に係る地方公共団体の役割の拡大

 地方公共団体の「執行の責任の拡大」や「住民の利便性の向上」等の観点から、消費税・地方消費税の賦課徴収に係る地方公共団体の役割の拡大を進めることが必要である。当面は、現行制度の下でも可能な「納税相談を伴う収受」等の取組みを進め、その上で、地方公共団体の体制整備の状況等を見極めながら、消費税を含む税制の抜本改革を実施する時期を目途に、地方公共団体に対する申告書提出の制度化等について、実務上の論点を十分整理して、改めて判断する。

(ウ)税負担軽減措置等の見直し

 地方税については、平成22年度税制改正大綱に掲げた「地方税における税負担軽減措置等の見直しに関する基本方針」に沿い、さらには地域主権改革の視点を踏まえ、国が地方の税収を一方的に減収せしめる税負担軽減措置等は、可能な限り行わないような方向で引き続き見直しを行う。

ことが示された。

(6)地方自治制度の見直し

 地域の住民が自ら考え、主体的に行動し、その行動と選択に責任を負うにふさわしいものとしていくという観点から、地方公共団体の運営に当たって地域住民の意思がこれまで以上に反映されるよう、地方自治制度についての見直しを行うこととしている。

 地方自治制度の見直しについては、平成23年1月26日に取りまとめられた「地方自治法抜本改正についての考え方(平成22年)」を踏まえ、地方議会の会期や臨時会の招集権などの地方議会制度、再議制度、専決処分、条例公布についての議会と長との関係、直接請求制度(解散・解職の請求に必要な署名数要件や条例の制定・改廃の請求対象など)、大規模な公の施設の設置に係る住民投票制度、国等による違法確認訴訟制度、一部事務組合等からの脱退手続きの簡素化などに関して検討が行われ、さらに、慎重な審議を尽くす観点から、第30次地方制度調査会(「地方制度調査会設置法」(昭和27年法律第310号)第2条の規定に基づき内閣府に設置される内閣総理大臣の諮問機関(平成23年8月24日設置))での審議も経ることとされた。

 同調査会においては、地方団体の代表者も交え議論が行われ、同年12月にこれまでの議論が「地方自治法改正案に関する意見」としてとりまとめられ、内閣総理大臣に提出された。

 地方議会制度、議会と長との関係、一部事務組合等からの脱退手続きの簡素化については制度化を図るべきとの意見が出された一方、地方税等を条例の制定・改廃の請求対象とすることについては制度化を図るべきであるが、その制度化の時期については検討すべきとされた。また、大規模な公の施設の設置に係る住民投票制度の創設については、引き続き検討すべきとされた。

 上記意見を踏まえ、地方自治法改正案を国会へ提出していくこととしている。

 同調査会においては、「議会のあり方を始めとする住民自治のあり方」、「我が国の社会経済、地域社会などの変容に対応した大都市制度のあり方」及び「東日本大震災を踏まえた基礎自治体の担うべき役割や行政体制のあり方」について諮問されており、平成24年1月の総会において、今後の審議の進め方等について議論が行われ、同調査会の諮問事項のうち大都市のあり方及び基礎自治体のあり方について、先行して審議が行われることとされている。