ICT成長力懇談会では、2011年の完全デジタル元年以降の社会も念頭に置き、デジタル技術を活用して「個」がどのように才能を開花させ、安心・安全かつ便利で豊かな社会を実現し、日本の競争力向上や国際貢献に結実させるべきか、その方策を幅広い見地から戦略的に検討することを目的としている。
このリレーコラムにおいては、懇談会の構成員の方々の専門性を踏まえつつ、ICT成長力強化のための私案やICTの徹底的な活用を進める上での課題を紹介する。
総務大臣の増田寛也です。総務省では本年2月より「ICT成長力懇談会」を開催していますが、この度「成長懇イレブンのリレーコラム」と題して、私と構成員11人がチームになってコラムをお届けすることになりました。その第1回目を私が担当させて頂きます。
まずは、この懇談会の趣旨を簡単に説明します。1月下旬に開催されたダボス会議でも広く議論されましたが、今、世界経済を見ますと、米国のサブプライムローン問題をはじめとした世界的な経済停滞への漠然とした不安があります。一方で、ロシア、中国、インドといった新しい力にも注目することが必要です。こうした世界情勢の中で、わが国の成長の足どりを確実に示していかなければならない。これは誰しもが考えているところだと思います。
私は、日本の成長力を強化していく道筋において、ICT(情報通信技術)の分野がまさにその王道を歩むべきだと考えています。単に経済成長の牽引にとどまらず、国の競争力や国民一人一人をエンパワーしていく素晴らしい力を持っているのが、ICTです。このICTによる成長力を、これからどのように国として位置づけて伸ばしていくのかという話を、各界の専門家の皆さまに議論していただき、大きな仕掛けの話から、それをどのようにどういう場で実現していくのかという実行段階まで、この懇談会でまとめていく予定です。ここでの議論の成果は、経済財政諮問会議の骨太の方針等に反映させていきます。
昨今は地球温暖化への対応が世界的な課題になっています。成長力を強化するだけでなく、環境とバランス良く両立させることが、国として必ず実現しなければいけないテーマですが、その際にICTを活用することが大きな切り札になると確信しています。ICTを導入すると情報機器の使用等により消費電力が増える面もありますが、例えばテレワーク(ICTの活用による時間や場所にとらわれない柔軟な働き方)やITS(高度道路交通システム)を通じて通勤ラッシュや渋滞をなくすなど、この技術を高度に活かしてCO2排出量の削減を効率的に進めることで、トータルでは日本の1990年度のCO2排出量の3%分の削減に貢献できるという試算が出ています。このように、持続可能な社会を実現していく上で、ICTは必要不可欠なツールです。
また、ICTの分野では「融合」という大きな潮流が生じており、総務省としても通信と放送の融合法体系を整備していく予定です。時代の変化を踏まえた融合法制の整備を2010年に向けて検討していくと同時に、ブロードバンドの全国整備と地上波テレビ放送のデジタル化が完了する2011年の「完全デジタル元年」の実現という社会基盤の抜本改革にも取り組んでいるところです。そういった大きな動きの中で、ICTを徹底活用して成長力につなげていくには何が必要なのか、官と民の役割分担をどうすべきか、総務省は何をすべきかということを、この懇談会で大胆かつ活発に提言して頂くことを期待しています。
ICTを活用する具体例の中で国民の皆さまからの要望が強いものに、電子政府の実現があります。電子政府については、国・地方の行政手続におけるオンライン利用率を2010年度までに50%以上に引き上げるという目標を立てていますが、今はまだ15%程度にすぎません。私は、これをスピード感をもって実現していきたいと思っています。電子政府を構築していく上で重要なことは、紙ベースだったものをただ単にオンライン化するのではなく、同時に業務プロセスの改善をしっかりと行うことです。デジタル化に適応して、日頃の業務プロセスをどう見直すかという議論を徹底的に行い、抵抗を乗り越えて大胆な業務改革を実現してこそ、国民利用者の視点に立った真のオンライン化が実現するのだと思います。
このように、ICTによる成長力強化は決して平坦な道のりではなく、本気で改革に取り組み、一生懸命坂道を駆け上がる努力が避けられません。しかし、一人あたりGDPが世界第20位に低迷するなど、日本の国際的な存在感の長期的な低下が懸念される中では、たとえ困難な道であったとしても、成長力強化への道筋を明らかにし、力強い信念をもって突き進むしかありません。「ICT成長力懇談会」の選手イレブンには、ぜひその処方箋を示して頂きたいと思います。
まず、切り込み隊長は、自宅に150インチの巨大シアターと超高性能の音楽・映像機器を設置しているというデジタル・メディア評論家の麻倉怜士さんです。それでは、麻倉さんにバトンを渡します。