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勝間和代

ICTの利活用に対する処方箋

勝間 和代
経済評論家・公認会計士








 岡村先生に続いてコラムを担当させていただく、勝間です。今回はインフラ整備が進んでいるにもかかわらず、なぜ日本のICT利活用は進まないのかについて話をさせて頂きます。 なぜここまでICTのインフラが日本は整っているのにもかかわらず、利活用が進んでいないのか。その理由は下記の3つであると私は考えます。

1. ICTを利活用するインセンティブが弱い
2. ICTの利活用をするためのちょっとした知識が足りない
3. 1,2の結果、利活用に至るまで達していない分野が多い

 まずはインセンティブから考えてみましょう。
日本では、ICTを導入して省力化を進めても、解雇要件が厳しく制限されているため、人材の省力化、合理化が容易ではなく、コストダウンの方向での導入は働きにくいのです。 一方、ICT投資は売上増や利用率アップにつながるかどうかは実際に導入してみないと結果が見えにくいこと、売上増を目指したICTの利用分野もコストダウンに比較すると範囲が限られるため、 売上増を狙ったICTの導入もやはり、進みにくくなります。 結果、企業や組織にとって、コストがかかり、リスクの高いICTを導入するよりは、優秀な(?) 従業員に長時間労働で柔軟に体制を組み、補ってもらった方が、 有利になってしまうケースも少なくありません。
 次に、ちょっとした知識のところを考えてみましょう。
正直、やはり、致命的なのは、ICTの中心となっているパソコンに対する「キーボード入力」に対する日本語の文化と効率性の相性です。 もともと日本語をキーボードで打ち込むのは遅く、あまり向いていません。そして、学校教育でもキーボード入力はほとんど訓練されません。 学生も携帯電話の入力は得意ですが、パソコンは一家庭に一台はあっても、 一人に一台はほどは普及していないため、実務上でパソコンで電子メールを打つ暇があったら携帯で電話をする方が早い、 オンラインで申し込むぐらいなら、手書きでファックスを送信した方が早い、ということになってしまいます。 結果、わざわざ慣れない検索エンジンやオンラインサービスの新機能を細かく追求しようという気にはならないのです。 そして、パソコンがあっても、せいぜいウェブサーフィン、電子メール、そして年賀状くらいしか使われなくなります。 その一方で、もちろん、携帯電話の利用率は頻度・時間ともとても高く、さまざまな新サービスが生まれています。 ただ残念ながら、CPUと画面のスペックがパソコンに劣ることから、新機軸を生むまでのパワーはありません。

 1と2の理由が合わせられると何が起きるのでしょうか。 それは、ほとんどのサービスが、「キャズム」といわれる、ICTサービスを積極的に使うアーリー・アダプターから、 アーリー・マジョリティに移るところの境を越えられなくなるのです。せっかく、政府側が電子申告を準備しても、ほとんどの人は利用しません。 企業各社がさまざまなICTサービスを用意しても、コストに見合う成果が生まれにくくなります。

 では、どうすればいいのでしょうか。キャズム越えをするためには、わかりやすいプロダクトを作り、ICTを気軽に利用する環境を整えるしか方法しかないでしょう。 例えば、電子メールをもっと活用してはどうでしょう。e-Taxもメールでフォーマットを用意して、申告書をローカルのパソコンで作ってメールで申告ができるようにしたら、 ずいぶん結果が変わったかもしれません。学校の連絡網、連絡票も電子メールに置き換えてしまうことも可能です。 経済的な理由でICT環境をもてない家庭がある場合には、公共的な補助手段を用いることも考えるべきだと思います。 最近はセキュリティの問題から社外にデータを持ち出せない企業が増えていますが、セキュリティが強化された電子メールやファイル転送の仕組みを用意するだけで、 自宅でも仕事ができるようにすれば、リモートワークの範囲も広がります。

 とにかく、難しいところから始める必要はありません。本当に身近なところから、一つ一つICTの利用頻度を上げ、一人でも多くの国民が電話と同じ気軽さで、 メールなどの簡単なICTができることを一つ一つ増やしていくことを考える必要があります。 これ以上、高度な技術は必要ありません。むしろ、ICTの普及を促すちいさな積み重ねの教育と、利用率に対する測定をおこない、 国民インターネット利用率95%など、明確な数値目標を作り、利活用推進こそを最優先施策として掲げてはどうでしょうか。無理に高度なアプリケーションは必要ありません。 現在ある技術を使ったアプリケーションの利活用を推進し、ICT利用に対する格差解消こそ優先すべき課題ではないでしょうか。

 以上、私が考えるICTの利活用に対する処方箋です。いかがでしたでしょうか。
もう少しお話させていただきたいところですが、次の走者が見えてきました。私がバトンをつなぐ5人目の走者は慶應義塾大学の岸先生です。岸先生、宜しくお願い致します。






略歴
1968年生 早稲田大学ファイナンスMBA、慶應義塾大学商学部卒
19歳で会計士補の資格を取得、アーサー・アンダーセン、マッキンゼー、JPモルガン証券を経て、2007年に独立。
2005年 ウォール・ストリート・ジャーナル「世界の最も注目すべき女性50人」に選ばれる
2006年 エイボン女性大賞を歴代最年少で受賞
著書・論文等
○『勝間式 利益の方程式 商売は粉もの屋に学べ』東洋経済新報社 
○『効率が10倍アップする新・知的生産術 自分をグーグル化する方法』ダイヤモンド社 
○『お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践』光文社 
○『決算書の暗号を解け! ダメ株を見破る投資のルール』ランダムハウス講談社 
○『無理なく続けられる年収10倍アップ勉強法 』ディスカヴァー21

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