情報通信の安全・安心は
成長力の基盤
岡村 久道
弁護士、国立情報学研究所客員教授
麻倉先生より紹介いただきました、弁護士の岡村です。情報通信の安全・安心をテーマにコラムを書き上げてみましたのでご覧下さい。
1990年代の中盤、米国のビル・クリントン政権(当時)が「情報スーパーハイウエイ構想」を提唱した。
全米のコンピュータを高速通信回線で接続して、全米情報基盤(National Information Infrastructure)を構築しようという壮大な計画であった。
構想の壮大さゆえに、当時は実現が困難であるかのように思われていた。
しかし、今日では、それはインターネット網の発展によって、米国だけでなく、我が国を含めて世界中で実現されつつある。もはや実社会と融合した状態であるということが可能であろう。
この構想が提唱された当時、それまで学術ネットにすぎなかったインターネットが完全民営化された。1995年のことである。
これによって、いわば「閉鎖的な私道」にすぎなかったものが、「オープンな公道」へと姿を変えたことになる。
だが、実社会の公道では、日常的に事故や事件が起こっている。公道には未成年者も通行しているから、それに巻き込まれることもある。
完全民営化から十数年が経過した現在、公道的存在となったインターネットの領域では、その重要性が増加するにつれて、
実社会の公道の場合と同様に、さまざまな事故や事件が発生しており、未成年者の保護も課題となっている。
連日のように報道されるネット上の違法有害情報、一方的に送り付けられてくる大量の迷惑メールやウイルス感染メール、
漏えいや大規模システム障害をはじめとする情報セキュリティ事故が、その代表例である。
今後も情報通信技術が進歩するにつれて、さまざまな利用方法が実現可能となり、やがて音声通話だけでなく、放送コンテンツなどもネット上を流れるはずである。
そこには情報スーパーハイウエイ構想が描いていた未来像を超える可能性を垣間見ることができる。
こうした技術の進歩は、新たな競争力の源泉となる半面、それに伴い新たな問題も発生するものと予想される。
近い将来、どこでも、誰でも、いつでも接続できるというユビキタス社会が到来すれば、ユーザーが享受しうる利便性が飛躍的に増大する一方で、
どこからでも、誰からでも、いつでも不正侵入されるといった事件が発生しても不思議ではない。
かつて実社会で交通戦争といわれた時代、我々の社会は技術、法制度、インフラ整備、教育等を用いた総合的な政策を投入することにより、それを乗り切ってきた。
インターネットの安全・安心という課題も、これと同様に総合的な政策によって対処する必要がある。情報通信技術の恩恵による「光」の部分を活かすためには、
「陰」の部分を迅速かつ適正に抑制することが求められているからである。その意味でも、成長力の社会基盤となる情報通信政策に課された今後の使命は重い。
いかがだったでしょうか。残念ながら、今日はこのあたりで選手交代とさせていただきます。
私がバトンを渡すのは最近ベストマザー賞を受賞された経済評論家であり、公認会計士でもある勝間先生です。それでは勝間先生、宜しくお願いします。
略歴
1958年 |
京都府生まれ 京都大学法学部卒 |
1986年 |
大阪弁護士会に弁護士登録 |
1990年度~ |
近畿大学・産業法律情報研究所講師 |
1992年度,1995年度,1998年度 |
京都教育大学非常勤講師 |
2000年度,2001年度 |
関西大学非常勤講師 |
2001年~2007年度 |
奈良先端科学技術大学院大学非常勤講師 |
2004年2月~ |
大阪弁護士会民事紛争処理センター示談斡旋人・仲裁人 |
2004年度~2007年度 |
近畿大学法科大学院非常勤講師 |
2004年4月~ |
神戸大学法科大学院非常勤講師 |
2004年7月~ |
国立情報学研究所客員教授 |
著書・論文等
○「情報セキュリティの法律」 商事法務(2007.7) |
○「これでわかった 会社の内部統制」 日本経済新聞出版(2007.4) |
○「個人情報保護法」 商事法務 (2004.11) |
○「迷宮のインターネット事件」 日経BP社(2003.10) |
○「個人情報保護法入門」商事法務 (2003.6) |
○「サイバー法判例解説(別冊NBL No.79)」 商事法務(2003.4) |
○「企業活動と情報セキュリティ」 経済産業調査会(2002.11) |
○「インターネットの法律実務(新版)」 新日本法規出版(2001.2) |
○「インターネット訴訟2000」 ソフトバンクパブリッシング(2000.7) |
など多数。 |
その他
○総務省迷惑メールへの対応の在り方に関する研究会委員 |
○総務省インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会委員 |
○総務省通信プラットフォーム研究会委員 |
○総務省ICT成長力懇談会委員 |
○内閣官房情報セキュリティ啓発推進委員会委員 |
○経済産業省産業構造審議会情報セキュリティ部会委員 |
○財団法人インターネット協会評議員 |
○情報ネットワーク法学会理事 |
など多数。 |