
今こそICTで地方の活性化を
岸 博幸
慶應義塾大学大学院
メディアデザイン研究科教授
こんにちは。勝間先生より紹介いただきました岸です。今回はICTを用いた地方の活性化に焦点を絞って、コラムを書かせて頂きます。
1990年代以降、ICTが経済や社会を大きく変えると言われ続けたが、そうした変化はまだ徐々にしか浸透していない。
一方で、今や日本は人口減少、少子高齢化、グローバル化、環境保護といった課題に直面し、新たな成長と繁栄のあり方を確立することが急務となっている。
従って、今こそICTの持つポテンシャルがフルに活かされるようにしなければならない。
実際、ICTは様々な課題の解決に役立つ。ここでは、この数年で最も深刻な課題の一つである地方の活性化にどう貢献できるかを考えてみたい。
なぜ地方の活性化がうまく進まないのであろうか。外的要因のせいにすることは簡単であるが、それに加え、地域の側にも問題があるのではないか。
即ち、多くの自治体や政治家が国の予算や大企業の工場を引っ張ってくることばかりに注力し、
地域のプレイヤーもそれに甘えて、本来やるべきことを十分にやってこなかったのではないだろうか。
個人的に幾つかの地方の活性化に関わってきた経験から、特に二つの点が不十分だと感じている。
一つは地元のコミュニティの強化と、それを通じたカネ/モノ/ヒト/情報が循環する仕組み作りであり、もう一つは地域の良さの外部への効果的な発信である。
この二つの目的を達成するために、ICTは最も効果的な手段となり得る。
最初の点について言えば、
そもそもインターネットの恩恵の一つはコミュニティの構築を容易にしたことである。
それは、世界的なSNSの隆盛からも明らかであろう。しかも、日本の携帯サービスは世界一である。
インターネットや携帯をフルに活用すれば、地域のつながりを強化し、限界集落や一人暮らしの高齢者をケアしていくことは十分に可能である。
ちなみに、地方では福祉、介護、保育といったソーシャル・サービスに対するニーズが高いが、多くの場合その担い手は小規模な事業者であり、
自力ではサービスを地域全体に拡大していくのは難しい。
しかし、地域のつながりをICTの力で強化できれば、それを地域のソーシャル・サービスのプラットフォームとして活用し、地域のサービス産業の育成に活用できるはずである。
そして、通信・放送の融合がそうした部分で大きく貢献できるのである。
どこの地域でも、地元のローカル局はメジャーなブランドであり、そうしたブランドの力を活用すれば、コミュニティの再生は容易になる。
放送局だから放送だけ、という時代はもう終わった。どの産業でも産業構造のオープン化が進んでおり、
放送産業も例外ではない。インターネットを取り込むことによって、更にはその延長でリアルのビジネスのプラットフォームとなることによって、
ローカル局による今まで以上の地域貢献が可能になるのである。
更に言えば、ローカル局のレベルでの通信・放送の融合は、第二の点にも大きく貢献する。
地方には素晴らしい文化、伝統、自然があり、また全国に知られていない優れた企業も存在する。
そうした地域の“売り”を魅力的な映像で全国に発信してこそ、地域へのヒトやカネの流れも増える。
そうした役割を最も果たせるのはローカル局なのである。電波の世界で県域放送という制約があるからと言って、インターネットを活用して全国に積極的に情報を発信しない手はない。
私は、ICTこそが地方の活性化に最も大きく貢献できる手段であり、
その延長として、ローカル局こそがこれからの地方の活性化に最も重要な役割を果たせる存在であると確信している。
実際、それを証明するための実証実験を、某ローカル局と私が所属する大学院の共同プロジェクトとして始めつつある。
そこで早く成果を出して、21世紀にふさわしいローカル局のミッションとビジネスモデルを確立したいと考えている。
以上、地方活性化に向けた一つの提言とさせて頂きます。皆さんの地元のローカル局は今後どう変わっていくのでしょうか。
さて、この成長懇イレブン・リレーコラムも中盤にさしかかってきました。
次回、バトンは私のいる東京から九州へとわたります。首を長くしてバトンを待っているのは九州大学大学院教授の篠﨑先生。篠﨑先生お待たせしました、九州から力強い声をお届け下さい!
略歴
1962年 |
東京都生まれ 一橋大学経済学部卒 |
1986年 |
通商産業省(現:経済産業省)入省 |
1992年 |
コロンビア大学ビジネススクール卒(MBA) |
1995年 |
朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)【出向】 |
1998年 |
通商産業省【復職】 |
2000年 |
内閣官房情報通信技術(IT)担当室【出向】 |
2001年 |
経済財政政策担当大臣補佐官 |
2002年 |
金融担当大臣補佐官を兼任 |
2004年 |
経済財政政策担当・郵政民営化担当大臣秘書官 |
2005年 |
総務大臣秘書官 |
2006年 |
経済産業省退官 慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構准教授 |
2008年 |
慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 |
著書・論文等
○「ポップカルチャーと安全保障」 |
○「ブレインの戦術 政界を動かした秘書官のテクニック」 |
その他
○メディアアーティスト協会事務局長(1998年~2000年) |
○通信・放送問題タスクフォース委員(2006年12月~) |
○エイベックス・グループ・ホールディングス取締役(2007年6月〜) |