昭和54年版 通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
トップページへ戻る
操作方法


目次の階層をすべて開く 目次の階層をすべて閉じる

1 通信政策及び事業運営をめぐる動向

(1) 米国通信法改正論議

 米国における通信政策をめぐる最近の大きな動きは,通信法改正作業である。
 1978年6月下院通信小委員会へ提出された1978年通信法案は,現行1934年通信法の全面改正をめざす画期的内容を持ったもので通信産業界に大きな反響を呼び起こしその帰すうが注目されていたが,審議未了で廃案となった。しかし,その内容と審議結果を踏まえて,1979年の第96議会には新たに上下院合わせて三つの改正案が提出され審議が開始された。これら3法案及び1978年通信法案と現行法とを主要内容について比較したものが第1-1-21表である。
 改正法案は,いずれも基本的方向として現行法下の各種規制の廃止・緩和,すなわち一層の競争促進政策の追求をめざしており,その一方では競争のみでは必ずしも達成できない公共の利益への補償措置も考慮している。この意味において,これら改正法案が独占か競争かのこれまでの論議の集大成であるといえる。
 電気通信分野において,1960年代末頃からFCCは強力な競争政策を推進してきた。カーターホン裁定,MCI裁定,オープンスカイ政策,専用線の共同使用及び再販売の制限を解除するタリフ(料金表)の改訂命令等がそれである。これに対して,アメリカ電話電信会社(AT&T)をはじめとする既存電話会社は,FCCの競争促進政策が市内電話サービスの料金値上げに結びつき,公共の利益に反することになるとの主張を続け,1976年議会には電気通信分野における競争の制限を目的として「消費者通信改革法案」を提出した。この法案は多くの論議を呼んだが,結局廃案となった。
 これらの背景を踏まえて,新しい3改正法案における通信事業に関する規定を見ると,共通的に,[1]競争的通信事業者に対する規制の緩和をめざしている,[2]独占的通信事業者が通信付随サービス(通信機器の製造・販売,情報処理等)を提供することを条件付ながら認めている,[3]接続料等により市内電話会社の財政の補助をはかろうとしていることが注目される。
 放送に関する規定を見ると,3改正法案は,程度に差はあれ,緩和の方向にあり,[1]ラジオの免許期間を無期限にする,[2]テレビの免許期間の延長をはかっている,[3]周波数の使用者に対価を求めていることに共通性がある。

(2) ユネスコの動き-マスメディア宣言の採択等

 1978年11月28日,第20回ユネスコ総会本会議においてマスメディア宣言が採択された。これは,1972年の総会における作成決議に基づき作業が進められていたものである。マスメディア宣言の正式名称は,「平和及び国際理解の強化,人権の促進並びに人種差別主義,アパルトヘイト及び戦争の扇動への対抗に関するマスメディアの貢献についての基本的原則に関する宣言」である。同宣言は前文と11条の条文からなり,平和及び国際理解の強化等のためのマスメディアの貢献及びこのための必要手段等をうたい,第1条において平和及び国際理解の強化等のためには「報道の自由な流れ及び一層広いかつ一層均衡のとれた情報の伝播が必要である。このためにマスメディアは指導的な貢献を果たす。」と宣言している。
 マスメディア宣言とは別に,コミュニケーション問題研究国際委員会(通称マクプライド委員会)が1978年9月に「現代社会におけるコミュニケーション問題に関する中間報告」を発表した。同委員会は1976年のユネスコ総会の決議に基づき,コミュニケーション分野の現状と諸問題の研究を目的としユネスコ事務局長が設置した国際委員会である。中間報告は,コミュニケーションの現状と問題点に対する総合的,体系的アプローチを行っており注目に値する。中間報告は第20回総会に提出され,各方面から意見が出された。なお,1979年中に最終報告書がまとめられる予定となっている。
 他方,ユネスコは,コミュニケーション政策に関する政府間の地域会議を開催しているが,このアジアオセアニア地域の会議が1979年2月にクアラノレンプールにおいて開催され,コミュニケーション問題について討議が行われた。
 ユネスコはマスコミに関しては,その憲章にもうたわれているとおりユネスコの目的達成のための重要な手段として,従来から強い関心を持ち種々の活動を行ってきているが,ここ10年の間に,広くコミュニケーション一般について幅広い活動を行うようになってきている。
 また,ユネスコの諸会議においては,開発途上国と先進国との間における情報流通のアンバランスの是正等をめざして「新国際情報秩序」を求める主張がみられる。

(3) プライバシー保護立法化の動向

 高度情報処理システムの発達に伴う問題点として,蓄積された個人情報が本来の目的外に使用されたり,第三者に渡るなどにより本人のプライバシーを侵害する可能性等が指摘され,欧米諸国において,相次いでプライバシー保護法あるいはデータ保護法と呼ばれる法制度が確立されつつある。1978年においては,新たにフランス,オーストリア,デンマーク及びノールウェーにおいて保護法が制定された(第1-1-22表参照)。
 これらの法制度の内容をみると,[1]データ保護のための監督機関の設置,[2]個人情報システム設置の規制(許可か届出),[3]データ提供の規制,[4]データの維持管理義務,[5]個人情報システムの存在,内容等の公示,[6]個人のデータ閲覧・訂正請求権等の規定がみられる。
 他方,これら各国の規制の調和を図り,規制の相違によるデータ流通の障害化を防ぐなどの目的のもとに,経済協力開発機構(OECD),欧州評議会,北欧評議会,欧州共同体等国際機関によっても,国際協定の作成等の作業が進められている。
 このうち,OECDにおいては,その科学技術政策委員会の情報・電算機・通信政策作業部会(ICCP)が,各国の国内法制の調和に資するため,越境データ流通,個人データ及びプライバシー保護を規定する基本原則に関するガイドライン作りを行っており,1979年中に作業が終了する予定である。
 欧州評議会においては,そのデータ保護専門家委員会において,国外におけるデータ処理及び越境データ処理に関するプライバシー保護についての協定作りを行っている。順調にいけば1979年中に成立の運びになるといわれている。

(4) 英国郵電公社の分離論議

 英国郵電公社(BPO)の経営形態等についての見直し論は,これまでにも郵電事業利用者全国協議会をはじめ多方面から出ていたが,これに対し議会に郵電公社調査委員会(カーター委員会)を設置し,BPOについての調査,検討,勧告を求めた。カーター委員会は,1977年7月議会へ報告書を提出したが,この中で,BPOの郵便事業と電気通信事業を分離すべきであると勧告した。郵便事業は労働集約的であるのに対し,電気通信事業は資本集約的であって両事業には基本的相違があり,この二つの事業を効率的に管理するためには分離することが必要であるとし,BPOを郵便業務,窓口業務及び振替・為替業務を所管する郵便公社と,放送を除いた電気通信業務(データ処理業務を含む。)を所管する電気通信公社に二分すべきであるとした。
 これに対して産業省は,1978年7月,BPOに関する白書を発表し,BPOの分離問題についての決定を延期した。その理由については,BPOが現在2年間の産業民主主義化の実験を行っている段階であり,その結果が出るまで分離問題について最終決定を行わないと伝えられている。産業民主主義化は1978年1月から,中央に経営側7名,労働組合側7名及び中立代表5名により構成される経営委員会を設置し実施されているものである。
 分離問題は,ひとまず暫定的決定がなされたわけであるが,BPOの労働組合の一部には分離に賛成する動きもあり,今後の成り行きが注目される。

第1-1-21表 米国における通信法改正法案等の主要内容(1)

第1-1-21表 米国における通信法改正法案等の主要内容(2)

第1-1-22表 主要国におけるプライバシー保護立法化の動向

 

第1部第1章第3節 諸外国における情報通信の動向 に戻る 2 新サービスの開発計画とその動向 に進む