第3部 最近の地方財政の動向と課題

1 地方分権改革の推進

(1) 地方分権改革推進法の成立

 「地方にできることは地方に」という方針の下、推し進められてきた三位一体の改革については、約4.7兆円の国庫補助負担金の改革、約3兆円の税源移譲、約5.1兆円の地方交付税及び臨時財政対策債の改革等を行う結果となったが、地方分権に向けた改革に終わりはなく、これまでの改革の成果を踏まえつつ、さらに地方分権を推進し、国と地方の行財政改革を進める観点から、今後とも、真に地方の自立と責任を確立するための取組を行っていくことが必要である。

 総務大臣の私的懇談会「地方分権21世紀ビジョン懇談会」報告書(平成18年7月)においては、新分権一括法の早期制定が提言され、「基本方針2006」においても、「地方分権に向けて、関係法令の一括した見直し等により、国と地方の役割分担の見直しを進める」こととされている。

 これらを踏まえ、地方分権改革の推進に関する基本理念並びに国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、地方分権改革の推進に関する基本となる事項を定め、並びに必要な体制を整備することにより、地方分権改革を総合的かつ計画的に推進することを目的とする地方分権改革推進法案が第165回国会に提出され、平成18年12月8日に成立したところである(平成18年法律第111号)。

 同法の概要は、以下のとおりである。

ア 基本理念

 地方分権改革の推進は、国及び地方公共団体が共通の目的である国民福祉の増進に向かって相互に協力する関係にあることを踏まえ、それぞれが分担すべき役割を明確にし、地方公共団体の自主性及び自立性を高めることによって、地方公共団体が自らの判断と責任において行政を運営することを促進し、もって個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を図ることを基本として行われるものということを基本理念として掲げている。

イ 国及び地方公共団体の責務等

 国及び地方公共団体の責務等として、以下の事項を規定している。

(ア) 国は、地方分権改革を集中的かつ一体的に実施するための推進体制を整備し、地方分権改革に関する施策を総合的に策定・実施し、地方公共団体は、行政運営の改善・充実に係る施策を推進すること。

(イ) 国及び地方公共団体は、地方分権の推進に伴い、国及び地方公共団体を通じた行政の簡素化及び効率化を推進すること。

(ウ) 国は、地方分権改革の推進に関する施策の推進に当たって、地方公共団体の立場を尊重し、密接に連絡するとともに、地方分権推進に関する国民の関心と理解を深めるよう適切な措置を講ずること。

ウ 地方分権改革の推進に関する基本方針

 地方分権改革の推進に関する基本方針として、以下の事項を規定している。

(ア) 国は、国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、次の措置等を講ずること。

(1) 地方公共団体への権限移譲の推進

(2) 地方公共団体に対する事務の処理又はその義務づけの整理・合理化

(3) 地方公共団体に対する国又は都道府県の関与の整理・合理化

(イ) 地方公共団体が事務及び事業を自主的かつ自立的に執行できるよう、国と地方公共団体の役割分担に応じた地方税財源の充実確保等の観点から、上記の措置に応じ、国庫補助負担金、地方交付税、国と地方公共団体の税源配分等の財政上の措置のあり方について検討を行うこと。

(ウ) 地方公共団体は、行政及び財政の改革を推進するとともに、行政の公正の確保及び透明性の向上並びに住民参加の充実のための措置その他の必要な措置を講ずることにより、地方分権改革の推進に応じた地方公共団体の行政体制の整備及び確立を図ること。

エ 地方分権改革推進計画

 政府は、地方分権改革の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、講ずべき必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を定めた地方分権改革推進計画を作成し、当該計画を国会に報告するとともに、その要旨を公表しなければならないこととしている。

オ 地方分権改革推進委員会

 内閣府に地方分権改革推進委員会を設置することし、同委員会は、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命した委員7人をもって組織し、地方分権改革推進計画の作成のための具体的な指針を内閣総理大臣に勧告するものとしている。

 さらに、「平成19年度予算編成の基本方針」(平成18年12月1日閣議決定)では、「「地方分権改革推進法案」を踏まえて、「新分権一括法案(仮称)」の3年以内の国会提出に向け検討を進める」とされており、国と地方の役割分担の見直しに向けた更なる検討が求められている。

(2) 市町村合併の推進

 地方分権が本格的に進展する中で、住民に身近な総合的な行政主体である市町村の行財政基盤を強化するため、市町村合併により、その規模・能力を充実していくことは必須の課題である。

 このため、政府は「市町村の合併の特例に関する法律」(昭和40年法律第6号)の下で、平成17年3月31日までに合併を行う市町村に対して合併特例債による措置等各種の財政支援措置を講じることとし、市町村合併を積極的に推進してきたところであるが、さらに平成16年5月の同法の一部改正により、平成17年3月31日までに合併の申請を行い、平成18年3月31日までに合併した市町村については、引き続き同法を適用する経過措置が講じられたところである。

 こうした取組を通じて、平成11年3月31日に3,232であった市町村数が、平成18年3月31日には1,821となり、さらに平成19年3月31日には1,804となる見込みであるなど、市町村合併は相当な進展を見たところである。

 一方、市町村合併の進捗状況は地域ごとに差異があり、また、人口1万人未満の市町村も平成19年3月31日時点で495団体残る見込みであることから、引き続き市町村合併を推進し、市町村の規模能力の更なる充実や効率化による行財政基盤の一層の強化が必要となっている。このため、「市町村の合併の特例等に関する法律」(平成16年法律第59号。以下「合併新法」という。)に基づき、自主的な市町村の合併を積極的に推進する必要がある。

 合併新法下においては、第27次地方制度調査会の答申等を踏まえ、合併特例債は廃止されているが、合併に関する障害を除去するための特例措置等については、引き続き講じられている。また、総務大臣が定める基本指針に基づき、都道府県が市町村合併の推進に関する構想を策定し、当該構想に基づいて、合併協議会の設置の勧告、あっせん・調停、合併協議推進勧告等の措置を講じることができることとする等、都道府県が担う役割についても定められている。

 さらに、市町村合併について国民の啓発を進めるとともに、国の施策に関する関係省庁間の連携を図るため、総務大臣を本部長、各省庁の副大臣を本部員として平成13年3月27日に設置された市町村合併支援本部(以下「支援本部」という。)は、平成17年8月31日、合併新法の下で市町村が合併し、新しいまちづくりを行うに当たっての支援策等を取りまとめた新市町村合併支援プランを決定した。

 同プランでは、都道府県による市町村合併の推進に関する構想に位置付けられた構想対象市町村及び合併新法に基づいて合併した市町村を対象に、町村合併の市制要件の緩和(平成22年3月31日までの間、人口5万人以上から人口3万人以上に緩和)する等の行政支援策や、普通交付税の算定の特例、合併直後の臨時的経費に対する財政措置、合併準備経費に対する財政措置等の財政支援策とともに、補助事業の重点支援や優先採択等の関係省庁の連携による支援策等を講じることとしている。

 これらの取組を通じて、市町村合併が一層進展し、市町村の規模・能力の充実、行財政基盤の整備が図られることが期待されるところである。