2 行政改革の推進

(1) 集中改革プランの取組状況

 厳しい財政や地域経済の状況等を背景に、地方公共団体の行政改革の進捗状況に対する国民の視線は厳しく、地方公共団体においては不断に行政改革に取り組み、その体制を刷新していくことが必要である。

 このため、総務省においては、平成17年3月29日、「今後の行政改革の方針」(平成16年12月24日閣議決定)に基づき、各地方公共団体に対し、地域のさまざまな力を結集し、「新しい公共空間」を形成していくことによって、行政自らの役割を重点化していくことを基本とした「地方公共団体における行政改革の推進のための新たな指針」(以下「新地方行革指針」という。)を示し、積極的な行政改革の推進に努めるよう助言したところである。

 これを受け、各地方公共団体においては、民間委託の推進、定員管理・給与の適正化、事務事業の再編・整理等の取組を住民にわかりやすく明示した「集中改革プラン」の公表をはじめ、各般の行政改革に積極的に取り組んでいるところである。

 集中改革プランについては、平成18年7月31日時点で、都道府県では47団体中45団体(95.7%)、大都市では全ての団体、大都市以外の市町村(平成17年度以降合併団体及び一部事務組合等を除く。)では1,510団体中1,436団体(95.1%)で公表が行われている。

 同プランに基づく主な取組状況を見ると、公表済み団体の定員管理の数値目標の集計は平成22年4月1日までに平成17年4月1日時点と比較して総定員5.9%純減となっており、「行政改革推進法」等において定められた4.6%純減や、「基本方針2006」の5.7%純減を上回っている。なお、平成18年地方公共団体定員管理調査によれば、平成18年4月1日現在で地方公務員数は過去1年間で1.4%減となっているところである。給与の適正化等についても、全ての都道府県・大都市で定年退職時の特別昇給を廃止済みであるほか、不適正な昇給・昇格運用の是正や、特殊勤務手当の適正化(手当の廃止、支給基準の見直し等)にも着実に取り組んでいる。民間委託等の推進についても、指定管理者制度の積極的な活用や、定型的な業務についての委託の拡大に加え、市場化テストの導入検討といった新たな取組も見られる。また、集中改革プランを公表した全都道府県及び大都市で、事務事業の再編・整理等の過程において事務事業の必要性等に関する仕分けを踏まえた検討を行っているところである。

 なお、事務事業の再編・整理等を行う際の行政評価の仕組みの活用についても、集中改革プランを公表した全都道府県及び大都市で行われているところである。ただし、平成18年1月1日現在、大都市以外の市区町村(一部事務組合等を除く。)のうち、行政評価を導入している団体は26.2%に過ぎない。行政評価は、行政の施策、事務事業の成果などを客観的基準に基づいて把握し、不断に見直す仕組みを通じて、継続的に施策、事務事業を改善し、成果達成に有効な施策などに重点的かつ効果的に経営資源(予算・定数)を配分することや、住民に対する説明責任を果たし、透明性の高い行政の実現に資するものであり、引き続きその導入推進やより効率的な活用を図ることが求められる。

 今後とも、新地方行革指針及び各地方公共団体自ら住民に対して公表した集中改革プランに基づき、集中改革プランに明示した数値目標等の実現に向け着実に取り組んでいくことが必要である。

(2) 地方公共団体における行政改革の更なる推進

 新地方行革指針策定後、「行政改革推進法」及び「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律(平成18年法律第51号。以下「公共サービス改革法」という。)が成立・施行され、簡素で効率的な政府の実現に向け、地方公共団体においてもさらに取り組むべき新たな課題が明らかにされるとともに、行政改革の更なる推進のための新たな手法も制度化されたところである。

 このため、「行政改革推進法」及び公共サービス改革法を踏まえるとともに、「基本方針2006」を受け、新地方行革指針に加え、平成18年8月31日に「地方公共団体における行政改革の更なる推進のための指針」が示されたところである。

 同指針は、「総人件費改革」、「公共サービス改革」及び「地方公会計改革(地方の資産・債務管理改革)」の3つの改革を柱として位置づけている。

ア 総人件費改革

 地方公共団体の定員管理については、「基本方針2006」において5年間で行政機関の国家公務員の定員純減(5.7%)と同程度の定員純減を行うとされていること等を踏まえ、各地方公共団体においては、集中改革プランにおける定員管理の数値目標の着実な達成に取り組むとともに、職員数の一層の純減を図ることが求められている。

 地方公務員の給与に関しては、地域民間給与の更なる反映に向け、人事委員会勧告における公民較差のより精確な算定、公民比較対象企業規模の拡大、説明責任の徹底等を推進するとともに、特殊勤務手当等の是正、級別職員構成の計画的是正措置など、一層の給与適正化を推進することとしている。

 また、第三セクターの人件費についても、職員数や給与に関する情報公開等を推進するとともに、地方公共団体からの補助金等の抑制等を図ることとしている。

イ 公共サービス改革

 公共サービス改革については、行政改革推進法第55条第4項において、「その事務及び事業の必要性の有無及び実施主体の在り方について事務及び事業の内容及び性質に応じた分類、整理等の仕分けを踏まえた検討を行う」と規定されたことを踏まえて、住民に対するサービスの提供その他の公共の利益の増進に資する業務(以下「公共サービス」という。)として行う必要のないもの、その実施を民間が担うことができるものについては、廃止、民営化、民間譲渡、民間委託等の措置を講じることとしている。

 また、公共サービスの見直しに際しては、公共サービスの質の維持向上及び経費の削減を図る観点から、地方公社、地方独立行政法人、第三セクターが実施している地方公共団体の公共サービスも含め、市場化テストの積極的な活用に取り組むこととしている。

ウ 地方公会計改革(地方の資産・債務管理改革)

 資産・債務の適正な管理や資産の有効活用等のためには、公会計の整備を推進することが必要である。

 そこで、「行政改革推進法」や「基本方針2006」を踏まえ、指針においては、全地方公共団体に対して、資産・債務管理に資する公会計の整備が要請されたところである。

 具体的には、「新地方公会計制度研究会報告書」(平成18年5月)の内容を踏まえ、原則として国の作成基準に準拠し、貸借対照表、行政コスト計算書、資金収支計算書及び純資産変動計算書の4表を、単体及び連結ベースで、取組が進んでいる団体、都道府県及び人口3万人以上の都市は3年後までに、取組が進んでいない団体、町村及び人口3万人未満の都市は5年後までに作成又は情報の開示に取り組むこととしている。なお、この作成期限については、国会質疑の中で、菅総務大臣から、指針で示された時期はあるものの、少しでも早くすべきとの認識が示されたところである。

 また、資産・債務管理については、各団体において債務圧縮や財源確保を図るため、未利用財産の売却促進等に取り組んでいるところであるが、簡素で効率的な政府を実現し、債務の増大を圧縮する観点から、地方も国と同様に資産・債務改革に一層積極的に取り組むことが必要であり、「行政改革推進法」では、地方公共団体も、その地域の実情に応じ、資産・債務の実態把握や管理体制の状況を確認するとともに、資産・債務改革の方向性と具体的な施策を策定することとされている。

 国においては、国有財産の売却等により国の資産(道路、河川等の公共用財産等を除く。)の圧縮を図るとともに、民間の知見を積極的に活用しつつ、資産・債務の管理の在り方を見直すとされており、改革の具体的内容、手順及び実施時期を平成18年度中に策定、公表することとされている。

 それを踏まえ、各地方公共団体においては、財務書類の作成・活用等を通じて資産・債務に関する情報開示と適正な管理を一層進めるとともに、未利用財産の売却促進や資産の有効活用等を内容とする資産・債務改革の方向性と具体的な施策を3年以内に策定することとしている。

(3) 地方公営企業における民間的経営手法の導入等

ア 地方公営企業

 「簡素で効率的な政府」を実現し、財政の健全化を図り、行政に対する信頼性を確保することが喫緊かつ最重要課題の一つとなる中で、地方公営企業分野においても、民間的経営手法の積極的な導入を含めた不断の経営改革を通じ、住民に対してより良質のサービスを提供していくことが一層求められている状況にある。

 地方公共団体においては、「地方公営企業の経営の総点検について」(平成16年4月13日付け総務省自治財政局公営企業課長通知)、「新地方行革指針」、「地方公共団体における行政改革の更なる推進のための指針」等に基づき、以下のとおり積極的な取組を行う必要がある。

 (1) 現在地方公営企業が供給しているサービス自体の必要性について検討する。また、サービス自体が必要な場合であっても、地方公営企業として実施する必要性について十分検討し、特に公共性の確保等の意義が薄れている場合には、民間への事業譲渡等について検討する。

 (2) 地方公営企業として事業を継続する場合であっても、公の施設の指定管理者制度、地方独立行政法人制度、PFI事業、民間委託等の民間的経営手法の導入を促進する。

 (3) より一層計画性・透明性の高い企業経営を推進するため、中期経営計画の策定、業績評価の実施、積極的な情報開示に取り組む。特に情報開示にあたっては、人件費、料金水準等について類似団体や民間企業の対応するデータを添えるなど、住民が理解、評価しやすいように工夫をこらす。

 平成18年11月1日現在における各地方公共団体の取組状況については、次のとおりとなっている。

(ア) 民営化・民間譲渡

 地方公営企業における過去5年間(平成14年4月1日〜平成18年11月1日)の民営化・民間譲渡の実施事業数は104事業(都道府県・大都市等17事業、市町村等87事業)となっている。そのうち平成16年度以降のものは84事業(都道府県・大都市等12事業、市町村等72事業)と、それ以前に比べ大幅に増加している。なお、譲渡された主な事業は、介護サービス事業(46事業)、ガス事業(16事業)、交通事業、観光施設事業・その他事業(各12事業)であり、上記以外に民営化・民間譲渡の実施を準備している事業が29事業(都道府県・大都市等6事業、市町村等23事業)ある。

(イ) 指定管理者制度

 地方公営企業における公の施設の指定管理者制度の導入状況については、導入済事業が396事業(都道府県・大都市等67事業、市町村等329事業)、導入を検討している事業が282事業(都道府県・大都市等37事業、市町村等245事業)であり、平成17年度の導入済78事業(都道府県・大都市等9事業、市町村等69事業)から大幅に増加している。なお、導入された主な事業は、駐車場事業(105事業)、観光施設事業・その他事業(90事業)、介護サービス事業(83事業)である。

(ウ) アウトソーシング(外部委託)

 地方公営企業におけるアウトソーシング(外部委託)の実施状況については、実施率(何らかのアウトソーシングを実施している団体数の割合)が都道府県・大都市等の各事業でほぼ100%に近く、市町村等においても特に水道事業(末端供給)、簡易水道事業、ガス事業、病院事業、下水道事業についてはいずれも100%に近い割合を示している。

 以上のように、地方公営企業の民営化・民間譲渡をはじめとした民間的経営手法の導入が大幅に進展している。より質の高いサービスを効率的に提供するため、民営化・民間譲渡を含む経営改革の取組を一層進めることが求められている。

イ 国民健康保険事業

 我が国の医療保険の中核として国民健康保険を支える国民健康保険制度については、被保険者の高齢化に伴う医療費の増嵩、保険税(料)負担能力の低い無職者・低所得者の増加、医療費の地域格差から生じる保険者間の不均衡、小規模保険者の増加など、構造的問題を数多く内包している。

 国民健康保険財政の健全化に向けては、これまでにも低所得者を多く抱える保険者を財政的に支援する保険者支援制度の創設や高額医療費共同事業の拡充及び法制度化等の新たな財政的支援を講じてきているところであるが、安定的な保険運営を可能とする上で、国民健康保険制度の抱える構造的な問題の解決が避けて通れないところである。このため、国民健康保険、被用者保険等「医療保険制度を通じた給付の平等、負担の公平を図り、医療保険制度の一元化を目指す」との基本的考え方に立った「医療保険制度体系等に関する基本方針」が平成15年3月28日に閣議決定された。

 これを受け、「安心・信頼の医療の確保と予防の重視、医療費適正化の総合的な推進、超高齢社会を展望した新たな医療保険制度体系の実現」を柱とする「医療制度改革大綱」が平成17年12月1日に決定されたところであり、特に国民健康保険については、保険者支援制度等の国保財政基盤強化策を継続するとともに、保険財政の安定化と保険料平準化を促進する観点から、都道府県内の市町村の拠出により医療費を賄う共同事業の拡充が図られたところである。

ウ 地方公社等

 地方公社等については、その経営の適否が地方公共団体の財政に重大な影響を及ぼす可能性があることから、普通会計のほか公営企業会計及び地方公社等の財政状況を全体として的確に把握し、総合的な行財政運営に努めるとともに、「行政改革の重要方針」(平成17年12月24日閣議決定)の趣旨を踏まえ、その人員や給与に関する情報を国民に分かりやすく開示させ、改革の取組を促すなど、経営改善等について積極的に取り組む必要がある。

 特に、行政改革推進法第57条に基づき、地方独立行政法人、地方住宅供給公社、地方道路公社及び土地開発公社並びに地方公共団体が資本金、基本金その他これらに準ずるものの4分の1以上を出資している法人に対しては、その職員数及び職員の給与に関する情報を公開するよう要請する必要がある。

 また、地方公社等については、「地方公共団体における行政改革の更なる推進のための指針」を踏まえ、人件費抑制等に向け取組を進める必要がある。

 このうち、土地開発公社については、新たな土地の取得にあたり、土地利用計画等を慎重に検討するとともに、現に保有している土地については事業計画の見直し等を含めて処分の促進に努め、土地取得手続の適正化や金利の低減を図るとともに、積極的な情報公開等に努める必要がある。土地開発公社の近年の土地保有総額の推移は、第120図のとおりであり、平成17年度末における土地保有総額は、5兆1,232億円で、前年度と比べると12.6%減となっており、9年連続して減少している。このうち、5年以上保有している土地が占める割合は依然として高いことから、特に、保有期間が長期にわたる土地については、処分を積極的に行う必要がある。

 また、「土地開発公社経営健全化対策について」(平成16年12月27日付け総務事務次官通知)に基づき、公社経営健全化団体が指定され、健全化のための取組みが行われているところであるが、その他の地方公共団体についても、引き続きより一層の土地開発公社の経営の健全化に取り組む必要がある。

 第三セクターに関しては、改定された「第三セクターに関する指針」(平成15年12月12日付け総務省自治財政局長通知)の趣旨を踏まえ、外部の専門家による監査を活用する等監査体制の強化を図り、政策評価の視点も踏まえ、点検評価の充実、強化を図るとともに、積極的かつ分かりやすい情報公開に努める必要がある。また、完全民営化を含めた既存団体の見直しを一層積極的に進めることが必要である。さらに、経営状況が深刻であると判断される場合には、問題を先送りすることなく、経営悪化の原因を検証し、債権者等関係者とも十分協議しつつ、経営改善策の検討を行い、そのうえで、経営の改善が極めて困難と判断されるものについては、法的整理の実施等について検討することが必要である。

(4) 地方行政及び地方公務員に対する信頼の回復について

 昨今、地方公共団体において、資金の不適正な扱い、工事発注を巡る不祥事、休暇の不適正な取得、飲酒運転による交通事故など不祥事件が相次いでおり、国民・住民の地方行政に対する信頼を大きく揺るがしている。

 「地方にできることは地方に」との原則に基づき、国民の理解や信頼の下、地方分権を一層推進していこうとする中にあって、一連の不祥事件は地方公共団体全体の信頼に関わる重大な問題と認識する必要がある。

 職員一人一人が、不祥事の再発防止を期し、全体の奉仕者であることを改めて強く自覚し、国民本位、住民本位の行政の推進に全力を尽くすことにより、公務員倫理の確立や適正な行政執行体制の実現を図り、地方行政及び地方公務員に対する信頼の回復に努めてゆかなければならない。