4 再建法制の見直し

 現在、地方公共団体の財政再建制度としては、地方財政再建促進特別措置法(以下「再建法」という。)が適用される、主として普通会計を対象とした再建制度と、地方公営企業法が適用される公営企業を対象とした再建制度とが、それぞれ独立して設けられている。再建法は、昭和29年度の赤字団体の財政再建のための手続(本再建)を中心とした特別措置法であり、赤字を生じた団体が自治庁長官への申出により財政再建計画を策定し、その承認を得て、当該計画に基づいて財政再建を図る仕組み(本再建)であったが、昭和30年度以降の赤字団体については、本再建の規定の一部を準用しながら再建を行う仕組み(準用再建)となっている。再建法により、これまで、本再建団体として承認を受けた団体は588団体(都道府県18団体、市町村570団体)、準用再建団体として承認を受けた団体は296団体(都道府県2団体、市町村294団体)となっている。

 また、公営企業については、昭和40年度の赤字企業の財政再建のための手続として制度が整備され、その後の赤字企業については、この規定を準用しながら再建を行う仕組みとなっている。これまで、本再建団体として承認を受けた団体は155団体(都道府県1団体、市町村154団体)、準用再建団体として承認を受けた団体は25団体(都道府県1団体、市町村24団体)となっている。

 しかしながら、このような現行の財政再建制度に対し、地方が自由と責任に基づいて自立することが可能となるような地方分権改革と併せ、十分な情報開示を図りつつ財政危機の深刻化を回避するとともに、財政状況の著しく悪化した地方公共団体については、住民への行政サービスを継続する主体として再生する道筋を明らかにすべきとの指摘がなされている。そこで、地方分権21世紀ビジョン懇談会において「いわゆる“再生型破綻法制”の整備」が指摘され、「基本方針2006」においても「再建法制等も適切に見直す」とされていることを踏まえ、総務省において「新しい地方財政再生制度研究会」が設置され、平成18年12月に報告書がまとめられた。

 これによれば、再建法における再建制度(準用再建)の課題について、以下のように指摘されている。

(1) 各団体において、常日頃から、早期是正・再生という観点を念頭に置いた分かりやすい財政情報の開示がなされていないこと。また、財政指標及びその算定基礎の客観性・正確性等を担保する手段が十分でないこと。

(2) 再建団体の基準しかなく、早期に是正を促していく機能がないこと。このため、本来早期に財政の健全化に取り組むことにより対処すべきものが、事態が深刻化し、結果的に長期間にわたる再建に陥ってしまいかねないこと。また、このことにより、最終的に住民に過大な負担を求めることになりかねないこと。

(3) 実質収支(赤字)比率(フロー指標)のみを再建団体の基準に使っているため、例えば実質公債費比率など他の指標が悪化した団体や、ストックベースの財政状況に課題がある団体が対象にならないこと。また、主として普通会計のみを対象とし、公営企業や、地方公社等との関係が考慮されていないこと。

(4) 再建を促進するための仕組みが限定的であること。

 また、公営企業における再建制度(準用再建)についても、普通会計を中心とする再建制度とは完全に独立した別立ての制度となっている上に、財政情報の開示が不十分であること、事業の経営状況が住民負担に直結しやすい場合が多いこと、早期是正の機能がないこと等の課題を抱えているという点が指摘されている。

 これを踏まえ、地方公共団体の運営においては、何より住民に基礎的な行政サービスの提供を継続することが重要であることから、透明なルールに基づく早期是正スキームを設け、それでも改善しない場合に再生スキームが適用される、2段階の新たな手続の構築が提言され、さらに、現下の各地方公共団体の財政の状況等を念頭におくと、このような地方公共団体の財政規律の向上を図っていく新しい地方財政再生制度を早期に構築すべきであるとされた。総務省ではこの提言を受け、地方公共団体の意見等も把握しつつ、財政指標を整備して情報開示の徹底を図るとともに、財政の早期健全化や再生のための新しい地方公共団体の再生法制の検討を進めており、現行の再建法や地方公営企業法の再建制度に替わる地方公共団体の財政の健全化に関する新しい法律案を第166回国会に提出する方針である(平成19年2月26日現在の状況)。

 なお、報告書では、地方公共団体の債務について金融機関等が減免等を行う債務調整についても整理しており、債務調整の導入は、地方行財政制度の抜本改革が進展した場合における地方財政の規律強化に向けた再生ツールの選択肢として評価できるが、一方でそれを導入する場合には様々な課題があり、今後これらの課題について検討を深めていくことが必要であると指摘されているところである。これを受け、総務省では、これらの課題についてさらなる検討を行い、今後の地方分権改革の議論に資するため、平成19年1月に「債務調整等に関する調査研究会」を設置している。